次話前話小説目次 



Illusion sand ある未来の物語 06




その気になれば、いつでも地上に精神体を送り出せるというのに、セフィロスはの髪を握りしめたまま動こうとしない。
一見落ち着いているようにみえるが、単に思考を巡らせることに疲れただけだろう。
静かに目の前を見つめながら、しかし眠りに落ちる事もしない彼を、は少し離れた場所から見ていた。

セフィロスに無理矢理行動させる事も、勢いで押し流して復活させる事もできるが、それでは必ず後からしわ寄せが来る。
全ては無理でも、ある程度の納得をした上で蘇ってもらわなくては、いつか何かの切っ掛けでまた彼が壊れるような気がして、は彼が決断に時間をかける事を自然なものとして受け入れていた。

セフィロスの目が、疲れ切って放心したものに変わってきたのを見て、は彼の傍による。
わざと魔力で風を起こし、自分が戻ってきた空気を知らせると、セフィロスは少しだけ目に気力を戻してくれた。


「今、戻りました。何か変わったことはありませんでしたか?」
「……変わっていないことが何か、わからんが……特には……」

「ああ、そうですね。それは失礼しました」
「…………」

言葉にこそ出そうとしないが、考えすぎて疲労困憊している様子のセフィロスに、は小さく苦笑いを零し彼の手を取る。
触れた手を振り払われなかった事に、密かに安堵しながら、彼が握っているものを、預けた髪から自分の手に変えた。
の手を何度か握り直して感触を確かめたセフィロスは、自然と肩の力を抜いたが、それに本人が気づいているかはわからない。


「少し、落ち着いたようですが、お疲れでしょう?お休みになりますか?」
「……いなくなるな」

「当たり前です。もう、いなくなったりしませんよ。大丈夫、心配しなくても、ちゃんと傍にいます」
「…………」

「留守にするのがお嫌でしたら、貴方が望まない限り、傍を離れません。ずっと、こうして手を繋いでいましょう。それでも不安ですか?」
「どうしてお前が見えない?」

が言葉を差し出す度に、追い立てられるように感情を波立たせる彼は、口をついて出る言葉を抑えながら答える。
けれど、握られた手の力と、押し殺したような声が、昔のままを心がける彼女の言葉への苛立ちと拭えない不安を教えてくれた。
怒鳴りつけて、当たり散らしてくれてもかまいやしないのに、こんな時でさえを傷つけないようにと落ち着こうとしてくれている。
昔と何も変わらないセフィロスの優しさに、思い出の中の部屋の匂いさえ蘇るようで、は熱くなった瞼を伏せると、彼の胸に頬を寄せて身を預けた。
その感触に、セフィロスは一瞬身じろぎしたが、繋がれていない手での頭、肩、背中と触れて確かめると、微かに震える息を吐いて彼女の体を引き寄せた。


「どうして見えないのか、私にもわかりません。貴方が私を感知できない理由は、もう解決したと思っていたので」
「……復活と……お前が言ったのは、そのためか?」

話の脈絡が前後し始めた彼に、は顔を上げて小さく笑みを零す。
だが、余裕がない彼は、彼女が顔を上げたのは分かっても、そこにどんな表情があるかは想像出来ていないようだった。

「また混乱してきてますね?考えすぎて、顔が疲れ切っていますよ」
「それは、お前が……」

「ええ、全部私のせいです。ですから、ちゃんと貴方が納得出来るまで、こうして貴方に捕まえられています」
「…………」

「少し眠りましょう。今は考えるより休んだ方が良い。貴方も、そう思っているのでしょう?」
「お前が見えない……」

「ええ。では、起きたら、どうやったら私が見えるようになるか、一緒に考えましょう。楽しみですね」


放っておいたらずっと頭を働かせていそうなセフィロスに、は仕方なくスリプルをかける。
魔力操作を感知する間もなく一瞬で眠りに落とされたセフィロスだったが、眠りに落ちてもを抱く手の力は緩まない。
その事に、は笑みを零して大きく息をつくと、空いた手を彼の背に回した。
力が抜けたセフィロスの体は、ライフストリームの流れを受け、静かな水の中のように揺蕩う。

彼の動きに身を任せながら、は自分も少しだけ眠ろうかと目を閉じた。
だが、近くに現れたシヴァの魔力に、眠気を遠ざけてしぶしぶ目を開ける。


「楽しんでおるところすまぬな」
「何かあったのか?」

「他の者共がいては、話しにくい事もあろう?女同士でなければならぬ話など……な」
「ああ……」


とセフィロスを微笑ましそうに見ながら、シヴァはその場に氷の椅子を作って腰掛ける。
何か話す事があっただろうかと考えるだったが、わざわざシヴァが訪れてきてまでする女同士の話というのが想像出来ない。
考えている間に、シヴァは分厚い本を出し、何かを探してパラパラとページを捲っていた。


「その男と話は出来たか?」
「いや、混乱していて、あまり」

「だから魔法で眠らせたと申すか?容赦のない女じゃな」
「疲れているのに無理に考えすぎて、壊れられてもな……」

「目覚めたばかりならば、仕方ないのう。しかし、あまり甘やかすと、男というのは図に乗るものぞ」
「いいんだ。暫くは、嫌というほど甘やかすと決めているから」

「暫くは……か。そなた、やはり鬼よのう」
「彼は自分の足で立つことを知ってる。ここまで甘やかせるのは、もう一度立てるようになるまでの間だだけだ」

「では、その日もまた楽しみよな」
「ああ。ところで、さっきから何してるんだ?」


手にしている本のページを確認しては所々破り捨てているシヴァに、は首をかしげながら問う。
と話しながらも、視線はずっと本に向いているのだから、気になってしまうのは仕方がなかった。


「これは、そなたにくれてやる魔道書よ。だが、何分特殊な魔道書でな。禁忌に当たる箇所を破っておる」
「そんな物騒な物もらいたくないんだが……」

「恐れず貰っておけ。これからのそなたに必要になるものじゃ」
「……そういう事なら、受け取るが……何についての魔道書だ?」

「我らのような存在が、人の器を作りそれを己の肉体として使うための方法が書いてある」
「そんなものあるのか?」

「そなたがこの世界に来たばかりの頃、我らがあの塔…新羅ビルと言うたか?そこに行ったことがあっただろう?その時に使った物だ」
「そんな便利なものがあるなら、もっと早く教えてほしかったんだが……」

「怒るな。我はてっきり、そなたがラムウかオーディンから教えて貰ったとばかり思っておってな。よもや、いくら体が砂だからといって、自力で体を作るとは普通は思うまいよ」
「他に方法があるなんて知らないんだから、自分で何とかやるだろ」

「普通はそんな細かな魔力の制御などできぬ。オーディンであればわからぬが、出来たとしてもやろうとせぬわ。そなた、昔から思っておったが、本当に魔力操作に関しては化け物離れしておるからな?」
「化け物離れって……」

「まあよいわ」
「よくないわ」

「我が良いと言ったら良いのだ。そら、魔道書だ。受け取るが良い」
「手が塞がってる」

「ならば頭に直接入れてやろう。術式を入れねばならぬゆえ、少し待つがいい」
「アレか……懐かしいな」

生まれ育った世界での魔法の習得方法に、魔法屋で買った魔道書の中身を、頭の中に刻みつける方法がある。
一見、マテリアのように簡単に魔法がつかえるようだが、魔道書の内容を理解出来ていないと魔法が発動しないものだった。
基礎的な魔道の理論が分からなければ、本の中身は暗号にしか見えず、魔道士の種類によって読み方や術式の組み立て方も違う。
例えば、白魔道士の場合、職業として白魔道士を選ぶ事で初めて、白魔法の魔道書の読み方がわかるようになる。
その後、経験を積んで職業のレベルを上げることで、更に高度な魔道書が理解できるようになり、強い魔法が使えていくという寸法だった。
今シヴァがしているのは、その魔道書の内容を頭に入れるための術式を魔道書に追加で書き込む作業だった。

もらえるのなら、ありがたく魔道書を貰う気のだったが、既に砂で体を作れるようになった今は不要な気がしてくる。
いや、むしろもっと早くこの魔道を教えてくれていたなら、こんなに長い時間をかけてチマチマ砂を集める苦労はいらなかったのではないか?
魔力を回収するという意味では、砂を集める作業は後々十分に意味を持つだろうが、『集めなければ自分が復活できない』というプレッシャーはなかったはずだ。

人が何年頑張ったと思っているのか……。そう文句を言いたくなったが、人間と召喚獣では時間の感覚が違う。
まして、死ぬ前から化け物に片足どころか半身突っ込んでいたようなだ。
おそらく、召喚獣達は同類感覚でを見ていて、この数十年も1年やそこらの感覚だったのだろう。


「あまり肩を落とすでない。その体の砂全てに魔力を繋げる技術は無駄にはならぬわ。出来ずとも肉体は使えるが、使い心地は木偶人形と元の肉体ほどの差があろうよ」
「つまり、いずれ必要になる技術だったという事か?」

「正確には、いずれ習得する技術じゃな。暫くは忙しいじゃろうが、どうせ何百年かすれば暇を持て余すのは目に見えておる。その頃に教えれば良いかと思っておったが、よもや自力とはのう……」
「無駄じゃないならそれでいい。あと、自力自力うるさいぞ。そんなに言うなら、始めたときに言ってくれてもよかったじゃないか」

「ぬかせ。よもや死して数十年程度の小娘が、肉体の構築までするなど、誰も思わぬわ。その男のように化け物が唆したならまだしも、自力で蘇ろうなど考えても実行できぬのだからな。出会ったときから思っておったが、そなた、頭も行動も相当がおかしいぞ?」
「馬鹿を言うな。初めて会ったときは普通だったはずだ」

「腕ごと剣を凍らせても斬りかかってくる者が普通なものか」
「死に物狂いだったんだから、あり得る事だろ」

「……思い出したぞ。そなた、その時黒魔道士であったのに、右手で剣を振り回して左手のロッドで魔法を放ってきたな。我は見た瞬間に危ない奴が来たと思ったぞ」
「あの頃は、そうでもしなければ、お前に勝てそうになかったじゃないか」

「違う、そういう問題ではない。魔道士が剣を持っているのがそもそもおかしい」
「だから、死に物狂いになれば人間は何でもするものだろ?それに、やったら出来たんだから、おかしくはない」

「……もうよい。そなた自身に理解させようとした我が無謀であった」
「何だか納得できないが……そうだな。昔のことだし」


疲れた顔でこめかみを押さえて見せるシヴァに、内心イラッとしただったが、それ以上話しても昔の話を引っ張り出してくるだけなので黙ることにした。
とりあえず、便利な魔法を教えてもらえるなら、有り難く受け取る事にした。
今の砂と魔力で肉体を構築しても日常生活は送れるが、戦闘でも意識して体を維持しながら戦わなければならない。
セフィロスと喧嘩する程度なら、殺し合いにならない限り大丈夫そうだが、それ以上の敵が現れた場合は敗北も考えられた。


「そなたがこの魔法を理解できておれば、いずれはその男に教えることもできよう。共に生きるのであれば、必要になるだろうよ」
「ああ、まあ……確かに」


セフィロスもセフィロスで人間離れしてしまっているし、リユニオンで得た肉体がどれだけ持つのかは知らない。
宇宙に飛びだそうとしていたくらいなので、すぐに体がダメになる事はなさそうだが、試していない以上保険はもっておきたかった。
肉体構築の魔法を習得するなら、が生まれた世界の魔法の仕組みと、魔道の基礎理論も理解してもらわなければならない。
セフィロスの頭であれば十分理解出来そうだが、問題は本人がやる気になるかどうかだ。
暇を持て余したときか、その気を出した時か。必要に迫られる前に教えれば良いだろうと考えた。

術式を書き加え終わったシヴァは、魔道書に魔力を通してそれをの額に当てる。
シヴァのヒヤリとした魔力が体の砂の隙間を埋めていく感覚と共に、馬鹿みたいに長くて複雑な魔法の知識が入り込んでくる。
細かく理解するのは後回しにして、脳裏を流れていく術式をざっと読んだは、その完成度の高さに感心した。
自分がやっていた、砂を魔力で繋げていく作業は、確かに受け取った魔法に役立つ。むしろ、より完成度を高めるためには必須かもしれない。

が数百年単位で後回しにするつもりだった臓器等の人体の仕組みも、受け取った術式には含まれている。
この術があれば、今の張りぼての肉体ではなく、本当に昔のような生身の肉体の状態で生活できるだろう。
は今、味一つ感じるにも口内を意識しなければならないが、教えられた魔法を使えばその必要なく味を感じられる。
しかも、肉体を使用中に致命傷を受けたとしても、少し魔力が削れるだけで今の砂の体に戻るだけという便利さだ。

シヴァは禁忌に当たる所を削除してくれたらしいが、受け取った術式だけで十分禁忌である。
召喚獣や、それにセフィロスといった、元々の肉体が無くなっても大きな力を行使できる存在でなければ使えない魔法だ。
けれど、知識と理解力があるなら十分応用して悪用できそうだった。

「どこの誰が作った魔法だ……?オーディンが手直しした形跡はわかるが……」
「わかるぞ。あやつ、直した箇所全てに名前をいれておるからな……。我はラムウから教えられたが、制作者は知らぬわ。かような恐ろしい魔術を作る者の事など、知らぬ方がよかろうよ」

「確かに、その通りだな。でも……見事な術式だが、その分使うのが少し恐いな」
「それで良い。だが、安全性は、我らが証明しておる。弱点も多い。余計な心配はいらぬ」

「ああ。何かあればお前かオーディンを呼ぶよ」
「我は魔法の細かい事はあまり役に立てぬ。代わりにラムウに頼むがよかろう」


ラムウを呼んでも『ホッホッホ』と笑って様子見されるイメージしかなかったが、オーディンよりは会話が成立しやすいので、は素直に頷いた。
の時間感覚では少し長かったが、召喚獣の感覚ではが死んですぐというタイミングで、肉体を得る魔法を教えてくれたことには感謝している。
今度呼び出すときは、彼らにとってエネルギーであり嗜好品でもある魔力を、少し多めに渡しておこうとは決める。
彼女が呼ぶ前に、適当な理由をつけて現れそうではあるが……。

そんな事を考えていると、用は済んだという顔で帰ろうとしているシヴァが目に入った。
雑談するつもりではなったのかと不思議な顔をするに、シヴァは同じ表情になって小首を傾げた。


、どうしたのだ?何かまだ用があるのか?」
「いや。ただ、女同士の話と言っていたのに、何も話さずに帰るのかと思って…」

「何と……よ、そなた、男に抱き合いながら我と猥談すると申すか?てっきり初心かと思っておったが、意外と振り切れた趣味があるのう」
「そんな趣味あるか。女同士の話と言ったのはお前だろうが。何で猥談になる」


シヴァの口から出たオーディン並みの謎返答に、は慌てて不名誉な認識を否定した。
同時に、シヴァにとって女同士の話とは猥談なのだろうかと、それとも何かの聞き違いだろうかと、彼女の返答に注意した。
に否定されて怪訝な顔になったシヴァは、その場に腰を下ろしなおすと数秒考え、しかし答えが出なかったのか首を傾げてを見た。


「そなたにやった魔法で、十分であろう?生きていた頃と同じく肉体で蘇る事ができるのだ。それで通じぬか?」
「何が通じるんだ?魔法については分かったが、それと女同士の話がどう結びつく?」

「……そなた、その男とまぐわわぬのか?互いに肉体を得るならば出来るであろう?」
「ま……?何だって?」

「乳繰り合わぬのかと言うておる」
「…………」

「まさか、本当にせぬのか?それは流石にその男が哀れだと思うがの……」
「ちょ、違う、そうじゃない!そうじゃなくて、お前……まず、もう少し言い方があるだろ!?」

「落ち着かぬか。そなたが分からぬから言い換えてやったというのに……。で、まぐわうのだろう?」
「知るか!何でいきなりそんな話になる!」

「そなたにやった魔法があれば出来るからに決まっておろう。あのまま砂の体でいては、出来るものも出来まいて」
「ちがう、そうじゃない。私が言いたいのはそういう事じゃない」

「……まさか、その男、できぬのか?」
「違う!だから、違う!違う!」

「そなた落ち着きがなさ過ぎるぞ。何をそんなに慌てておるのだ?」
「お前が変な事を言うからだろうが!」


何やら必死に声を張り上げるに、シヴァは不思議そうな顔でセフィロスを見る。
シヴァにとっては、二人の肉体での関わりは自然に考える問題であって、おかしな事を言っているつもりは全く無い。
むしろ、そういう対象の相手と抱き合って眠りこけようとしながら、口にされただけで慌てるの方が意味不明だった。


「話がつけば、また同じ家に住む腹づもりなのだろう?ならば遅かれ早かれまぐわう事になるではないか」
「話がつけばだろうが。それに……セフィロス次第でどうなるかは分からないし……というか、リユニオンで蘇った体にそういう機能あるのか?いや、別に無くても私はかまわないけど」

「そなたが構わなくともその男は構うだろうて。まだ分からぬだろうが、その男だけでなくそなたにとっても大事だというのに……」
「む……セフィロスが構うなら、気にした方がいい…のか…?」

「気にしてやるがよい。だが、それも考えて、そなたに肉体を作る魔法を教えたのだ。もしその男の新たな肉体が無理であれば、そなたが魔法を教えてやればよかろう」
「そこまで考えて……いや、でも、彼はそんな、にすぐそんな気にはならないだろ。それでなくても、今、複雑な心境でいるのに。どういう関係に落ち着くかも未知数なところが……」


何だかんだと言って、結局考えることから逃げているに、シヴァは呆れてため息をつく。
予想はしていたが、この件に関してはは全く使い物にならない。セフィロスが頑張るしかないと考えながら目をやるが、そちらもやはり、目を開ける様子はなかった。


よ、そなた、さすが生娘のような朴念仁……違うな。朴念仁のような生娘と呼ばれるだけあるのう」
「おい、誰だそんな事言った奴。いや、いい。ガラフだな。あとファリスか」

「犯人などどうでも良いわ。そなたに男女のいろはで期待出来ぬ事に変わりはなかろう。我は今のやりとりで、これ以上無いほどに確信したわ」
「それは、否定できない……」

「世話の焼ける小娘じゃ。この件については、その男に全て任せて従うがよかろう。床の上では、余計な事を考えず、逃げも隠れもせず、その男の言われるままにしておけ。そうでなければ、問題しか起きぬぞ」
「ぬ……ぬぅぅ……」

「納得せぬか。余計な事はするな。黙って従っておけ。良いな。しかと覚えておくのだぞ」
「ぬぅ……わかった」

「それと、そなた、その男が心身共に健康にならねば、我が言う話など先の話と思って油断しているようだが、それは思い違いだと覚えておくがよい」
「は?」

「一概に言う事はできぬが、時にそれはそれ、これはこれという事もある。そなたの性格では分からぬであろうが、男の心というものは、単純明快ではない。時に理解しえぬものだと覚えておくがよい」
「…………」


一応意味はわかったのだろう。鳩が豆鉄砲を食らったような顔で固まるに、シヴァは安堵と疲労が混じる大きな息を吐いた。
これ以上は、もいい年をした女なのだから、自分で何とかできるだろう。できなくても、してもらうしかない。


よ、我はそろそろ帰らせてもらう。その男との話、上手く行く事を願っておるぞ」


固まったままのにそう挨拶すると、シヴァは足下から延びた氷の蔓薔薇の中に消える。
砕けて散ったそれが輝く中、思考と魂を飛ばしていると、彼女の声で眠りから覚めていながら、会話の内容のせいで目を開けられずにいたセフィロスが残された。









あれ……?
セフィロスとイチャつきたかったのに、なんでシヴァと漫才してるんだろう……?


2021.10.06 Rika
次話前話小説目次