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夜中に起こした召喚獣の喧嘩について、普通にルーファウスから叱られたは、召喚獣が2体以上集まったら解散すると約束する事になった。
確かにがいたから召喚獣達が集まって騒ぎになったのだが、勝手に集合されて勝手に派手な喧嘩をされたのに、自分だけ叱られるのがは少し納得がいかない。
けれど、ここで他の召喚獣を呼び出してルーファウスの説教を受けさせるのもおかしな話だ。彼らが怒りだすか喧嘩し出してルーファウスの家を破壊する未来しか見えない。

仕方が無いので、ルーファウスが生きている間はシヴァとラムウ以外の召喚獣とは、あまり関わらないようにしてやろうと決めた。
そんなの考えを見透かすルーファウスは、厄介な人間に失うものが無くなると本当にたちが悪いと思いながら、自分が死ぬまでにセフィロスが元のマトモな苦労人に戻ってくれることを願った。





Illusion sand ある未来の物語 04




「ルーファウス!ルーファウス!!どうです!?とうとう体が完璧に復活しましたよ!髪の毛もホラ!ホラ!元の長さに戻りましたし、引っ張っても砂になって頭皮ごと取れたりしないんですよ!凄いでしょう!?」


嬉しそうに自分の髪の毛を引っ張って見せにきたに、若返り後の対応で疲れていたルーファウスは、短い説教をして追い返した。
召喚獣の騒動について説教してから一週間後の事である。




「ルーファウス、この肉、やっと言うことを聞くようになりましたよ。これで彼の復活の後について、具体的な準備が始められそうです」

『タスケテ……タスケテ……』とすすり泣きが聞こえる不気味な小箱を抱えて現れたに、ルーファウスはそれがジェノバの細胞が入った箱と気づくまで少しかかった。
このまま永遠にに服従してくれていれば有り難いと思いながら、一仕事終えてすっきりした顔のと今後について話し合う。
人里離れた静かな場所にあるルーファウスの別荘を一つ譲り、セフィロスが落ち着くまではそこで過ごすという事で大まかな予定を立てた。
もし話し合いが決裂して別荘を破壊した場合に備え、野宿道具一式も揃えて欲しいと行ったに、ルーファウスは少し不安になる。
にジェノバの細胞を渡してから三週間後の事だった。







『さて、セフィロス。準備はだいたい整いました。貴方を抑えていた枷を外しますから、思い切って復活してみてください』


今日も今日とて復活のために精を出すセフィロスを前に、は彼を抑え続けていた魔力を解く。
数十年ぶりの自由となった力に、彼の体は反動で少し揺れ、その表情が不可解そうなものにかわる。
目の前で、その顔をのぞき込むだったが、肉体を完璧に作れていても、セフィロスが精神体なせいか彼女が見えている様子は無い。

今はもうジェノバが邪魔している様子はないので、見えていてもおかしくないのだが、他の干渉があるのだろうか。
考えて、星の気配を探っただったが、そちらも何かしている様子が無い。
肉体を持つから精神体のセフィロスが見えないなら分かるが、その逆となると彼女にはすぐには分からなかった。
ラムウかオーディン辺りに聞けば分かるかもしれないが、ライフストリームの中で呼び出した事は無いので、今呼ぶ気にはなれない。

頭を傾げるの前で、セフィロスは不審げに辺りを見回し、掌をとじたり開いたりしていた。
は出来れば復活前に説明や話し合いをして、地上にあまり被害が出ないようにしたかったが、早くも予定が変わってしまいそうだ。


『おかしいですねぇ。今なら見えてもおかしくないはずなんですが……』
『!?』

『魔力の質の違いか?どうせ身ぐるみ剥がしても私だとは分かってくれないだろうし……参ったな』
『…………』

『流石にまた体に魔力を入れて体を爆散させるわけにもいかない……。叩けば直ればいいのに……いや、そんなセフィロスは嫌だな』
『…………』

『このまま復活となると……山奥でもご近所に迷惑が……。せっかく用意した新居を壊されても困るし、せめて説明くらいはしておきたかったのに……』
『…………』


の独り言に、セフィロスの目が見開かれ、その顔に困惑や驚愕が浮かぶが、彼女は気づかず足下を見てぶつぶつ言っている。
うんうん唸りながら何気なく目に入ったセフィロスの手に、は何を考えるでもなく自分の手を重ねたが、瞬間、彼の体が驚いたように跳ねた。

『うわっ!びっくりした!』
『……お前……は……』

『ん?』


暫くぶりに聞いた気がする声に、一瞬ルーファウスあたりが呼んだのかと魔力で探っただったが、あちらは夜中らしく熟睡していたのが分かる。
なら、とうとう幻聴が聞こえ始めたのかと、は笑いながらセフィロスに教えようと口を開いた。
が、その目に映ったのは、困惑した顔でに握られた手と辺りに視線を彷徨わせるセフィロスの姿だった。


『もしかして、手の感触は分かるのか……?』
『そこに……いるのか?』

『あー居ますよ居ますよ−。死んでからずっとそばにいますよー。……うーん、精神体対肉体で触覚だけが働くというのも変な話だな。でも話し合うのに触覚だけだと時間がかかりすぎるし……。やっぱり一度地上に出てオーディンに聞いた方がいいか……。いや、やはりいっそ先に復活してもらって、それから説明の方が早いか……?』
『…………』


どうせ聞こえちゃいないだろうと、ぞんざいに返事をすると、は再び独り言を始める。
セフィロスの顔が更に困惑したものに変わっているが、彼女は繋いた手の指をいじくるばかりで、全くそちらを見ていなかった。

長い間復活を阻んでいた見えない力が消えたかと思ったら、急にの声が聞こえだし、掌に触れる感触まで現れる。
行くところまで狂ったかと思っていたが、まだ先があったのか。セフィロスがそう思ったのは一瞬で、怒濤のように語りかける……否、勝手に話しているの言葉に、理解が追いつかず、置いてきぼり状態だった。
声を掛ければ、答えるのは分かったが、の中では勝手に話が進んでいるし、語られた言葉の中には、何やら聞き捨てならないものがいくつかあった気がする。
特に、体を爆散だとか、身ぐるみ剥がすだとか、どこか夢現な記憶にあるような気がしてならない。
姿は見えないが、に再び会えた事や、ずっと傍に居たという言葉への、驚きや喜び、複雑な怒りやそこに潜む絶望感。彼女の声と感触が本物だと認める事、それが幻であったらという恐れなどが、大事なことなのに気を抜いたら吹っ飛びそうである。


『聞こえている。本当に……お前なのか?』
『ん?……え?セフィロス、私の声が聞こえてるんですか?』

『ああ』
『…………』


明確に語りかけてきたセフィロスに、は数秒固まり、そっと彼の手を離すと、数歩離れる。
急にやんだ彼女の声と、掌から消えた手の感触に、はやりただの夢だったかとセフィロスの中へ絶望が広がりかけた瞬間、少し離れた所からのものと思われる雄叫びが上がった。
何やら聞こえてくる『遂に本懐を遂げた』だの『如何なる困難も私を止められはしない』だのという言葉だけで、が天に向かって剣を掲げている様が容易に想像できる。
この想像の範疇から逸脱した行動は、間違いなく本物のだと確信できたセフィロスだったが、何故だろう、全く嬉しくないし、安心もできない。
否、当然喜びはあるし、夢幻ではという絶望感は払拭できたが、何かが違う気がしてしかたない。
仕舞いには、何だか懐かしい頭痛までしてきた気がする。
ただ一つ言えることは、ずっと昔に願っていた再会は、考えることをやめたはずの再会は、絶対にこんな形では無かったという事だ。

『失礼しました。つい喜びが爆発してしまいました』
『ああ。聞いていればわかる』


再び手を取った彼女の手を握ったセフィロスは、その感触を確かめる。
空にしか見えない掌に載る小さな感触と、指を絡めて弄ぶ感触が瞬きの間に消える気がして、無意識に強く握った。

『痛たたたたた指が折れます!セフィロス、指が折れます!』
『!すまない』

『別にそんなに握り込まなくても、いなくなりませんよ』
『だが……俺にはお前が見えない』

『ああ、それは私にも分かりませんが、どうにかなる手段はありますよ』
『……本当か?』

『ええ。ですからセフィロス、すぐに復活して下さい。準備は既に出来ていますから』
『…………』


先ほども、復活がどうとか言っていたなと思いながら、セフィロスは冷静になった頭で考える。
否、無理に平静を装っているだけで、頭も心も最初からずっと混乱しっぱなしだ。
これで落ち着いて話など出来ようはずも無いのに、立ち止まる事でこれが夢として覚めることを恐れる自分が、戸惑う背中を無理矢理押してくる。
掌にあるの手の感触は消えない。けれど、セフィロスの復活を望む言葉が、その意味を理解しているからこそ、目の前に居る彼女に疑念を生じさせる。
行動から、で間違いないとは思うのに、世界の破滅を意味する望みを何でも無いことのように語る彼女が、本当に本物だろうかと思うのだ。
いや、そんな事を平然と言えるのはくらいだと思うのだが、同時にだからこそ軽々しく口にしないだろうとも思う。

そんな考えが顔に出ていたのだろう。
彼女は小さく笑うと、彼に少し1人で考える時間を与える事にした。
離れる事を嫌がる彼の気配に、ならば呼べばすぐに来ると言って、自身の髪を一房預ける。
魔力を繋げているので、辿ればどこにいるかも分かると言うと、の気配は遠ざかっていった。


混乱したまま振り回され、置き去りにされたセフィロスは、渡された髪を握ったまま、暫く呆けていた。
魔力を辿れば居場所がわかると言われても、彼はそんな事はした経験がない。
ただ、渡された髪にの濃密な魔力が込められているのは感じられたので、手探りで髪から伸びる魔力の先を辿ってみた。
それは、確かにライフストリームの中を突き進み、地上の方へ伸びている。
だが、分かるのはそこまでだ。それ以上を探るためには、セフィロスには圧倒的に魔力操作の経験が足りない。
否、がやっている事が規格外すぎるだけで、この短時間で地上にいると分かっただけ、セフィロスは十分魔力の操作に長けているだろう。

そういえば、彼女は自分がとんでもない事をしている自覚があるようでなかったな、と。何とも言えない懐かしさを感じて、セフィロスはため息をつく。

今更、全てが手遅れになって終わった後で、どうして現れるのだろうと頭を抱えたくなる。
もっと早く、名を呼ぶことをやめる前に帰ってきてくれていたなら、手放しで喜ぶことも出来たはずだ。
いや、かなりぞんざいな言い方だったが、はずっとそばにいたと言っていた。なら、その事で彼女を責めることは出来ないだろう。そう、責める謂われなどないのだ。
けれど、あまりに何も無かったように、嬉しそうに接してくる彼女に、セフィロスはどうしようもない怒りと苛立ちを感じてしまっていた。

狂気に微睡むことで平静を保っていた心を、とっくの昔に置いてきた正気をいきなり引っ張り出してきて、激しく揺り動かされたのだ。
自分でも一番弱いと思っている場所を、一番弱くする人間に一突きにされて、痛みを感じる間もなく混乱する心を引っ張り上げられて抵抗などできようか。
思い返すだけで冷えた掌を温めるような居心地の良さは、心地良いからこそ心の中を嬲ってくるから、遠い過去だ、届かない思い出だと背を向けたのに。

こんな、もう忘れて少し楽になれたかと思った頃に、嬉しそうな声で普通に話しかけてくる彼女へ、どんな顔を向けて良いのかセフィロスは知らない。
何事も無かったような、昔そのままのの態度に、これまでの苦痛が踏みにじられた感覚がする自分をどうしたら良いのかも、知らなかった。
ともすれば彼女に刃を向けたくなるようなこの感情の波が、思い出と繋がる心地良さに流されようとする自分に、過去のように戻ることなどできないと突きつけてくる。
だだ、脳裏で傍観する冷静な自分が、たとえに刃を向けても、あっというまに返り討ちになって終わるだけだと呆れて言う声も聞こえる。
この、渡された髪に残る魔力の濃さや、昔より磨きがかかったような魔力操作から考えるだけでも、相手になるかすら疑問だった。
そう考える冷静さで、少し心は落ち着いてくれるが、感情までは静まらなかった。


『復活など……お前の口が言わないでくれ』


お前は俺がどれだけ望んでも帰ってこなかったじゃないか。と、続く言葉を飲み込んで、セフィロスは彼女が残した髪を強く握る。
この目に姿を映せなくても、声だけでも良いと願った再会が果たせたのに、心は晴れるばかりか暗く沈んでいく。
もう一度狂気に眠ってしまえば楽になれるだろうかと考えて、けれどまた、に無理矢理引き上げられる自分が想像できた。
そして、それを内心喜んで受け入れ、同時に得る痛みと苛立ちに苦しむ自分も予想できるのだ。

考えれば考えるほど、過去に夢見た再会と今が違いすぎて、セフィロスは途方に暮れたくなる。
彼女が最後に願った、見つけて欲しいという言葉に背を向け続けていた罰だろうか。
そう考えて、それなら少しは悪くないと考えている自分に、また心が暗く沈んでいった。







やっとセフィロス出せたーー!
今回はちょっと短め?そうでもないかな?
とりあえず、切りがよいところで。


2021.09.26 Rika
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