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Illusion sand − 108








背中から壁に叩き付けられ、肺から押し出された空気が唾液とともに口から吐き出される。
衝撃を受け止めた腹部に鈍い痛みを覚えるも、それを気にする余裕などなく、慌てて構えた剣に振り下ろされた刃がぶつかた。
力が抜けそうになる体を奮い立たせ、痛みに歪む顔で睨みつけるザックスの瞳には、青緑へと色を変えたの瞳が映る。

腹に力を入れたザックスは、振り払うように彼女の剣を弾くと、彼女は反動で数歩下がった。
体制を整え、反撃に出ようとしたザックスだったが、彼が刃を振り上げるより先に彼女の剣が振り下ろされる。
咄嗟に横に転がると、彼が背にしていた壁が耳障りな音と小さな火花を立てて歪んだ。

慌てて立ち上がり、再び剣を構えたザックスは、すぐに剣を構えなおしたと向き合う。
神経質なほど手入れされていた彼女の剣は、既に刃零れだらけになり、今の攻撃で先が少し歪んでいた。


「何なんだよ、もう……。おい!しっかりしろって!」
「…………」


数度目の呼びかけをしてみるが、彼女は相変わらず反応しない。
濃縮路の傍で倒れる彼女に声をかけてから、かれこれ十数分、ザックスはずっとこの調子で、ひたすらの攻撃から逃げていた。


「一体どうしちまったんだよ!?何があっ…って……?」

これまでずっと追いかけては剣を振るってきた彼女が、その場に留まり、こちらを見つめている事に気付き、ザックスはようやく希望を見つけた気がした。
自然と肩の強張りがほぐれた彼を見つめたまま、は剣を持たない方の手を掲げると、空中に三つの火の玉を出現させる。


「…うおぉおおい嘘だろ!?」


攻撃の手を緩めない事は少しだけ予想していたが、よもや魔法を使い出すとは思わず、ザックスは慌てて逃げ出した。
剣での攻撃は何度かされていたが、魔法を使い出したのは今回が初めてだったので、その威力が予想できない彼は通路を死に物狂いで走る。

背後から迫る轟音に、滑り込むように伏せると、自分がいた場所の斜め上を炎の球が通過していく。
黙っていては丸焼けだ、と、すぐに起き上がろうとするが、近づいてくる音に慌てて頭を伏せると、彼の真上30センチの場所を火の玉が飛んでいった。

濃縮路に向かっていった火の玉は、ぶつかる手前で横に逸れると、制御を失ったロケットのようにグニャグニャ曲がりながら魔晄炉上空へと消えていく。
炎の行く先を眺めていたザックスは、再び近づいてきた轟音にハッとして振り向くが、向かってきた彼女の魔法はまた彼がいる場所を逸れて空へ上がっていった。

にしては有り得ないコントロールの悪さに、ザックスは怪訝に思いながら立ち上がると、注意深く彼女の様子を伺う。
確かめるように掌を握っては開く動作を繰り返していた彼女は、再び剣を構えなおすと、その刃に手をかざした。
嫌な予感に顔を引きつらせるザックスの前で、彼女は掌から霧のような冷気を出し、刃に纏わせる。
振り上げられた剣の軌跡をなぞるように生まれた小さな輝きに見惚れる間もなく、振り下ろされた刃から生まれた氷の塊がザックスに襲い掛かった。


「っ……!」

濃縮路へ続く1本道の上に逃げ場は無く、ザックスは向かってくる氷の刃に渾身の魔力をもってファイラを放つ。
炎と氷はぶつかると同時に大量の水蒸気を生み、付近の温度と湿度を一気に上げた。
だが、視界を覆う水蒸気の中、炎の中を切り込んでくる氷の刃が見えて、ザックスは剣を振り上げて魔法を止めた。

炎に解放された氷は、二周りほど小さくなっていたが、今ザックスがいる場所で避けられる大きさではない。
多少勢いを殺されるも、炎の中を潜り抜けてきた氷は十分な速さをもって標的に向かってくる。


「っだぁああああ!」


見様見真似、付け焼刃の技術で、剣に炎系魔法を込めると、ザックスは眼前に迫る氷に剣を振り下ろす。
再び生まれた水蒸気と共に、刃が氷にするりと飲み込まれていくのを感じた彼は、そのまま氷の刃を真っ二つに裂いた。
濡れた刀身に沿って滑った氷は、彼の肩幅すれすれの所を過ぎり、重力に従って魔晄炉の底へ落ちていく。
ザックスが次の攻撃に備えると、予想通り彼女は攻撃を再開するためにザックスへ向かってきた。

無理な使い方によってボロボロになった彼女の剣と、ザックスの剣が再び火花を散らす。
呆気ないほど競り負けた彼女だったが、その隙を最小限に抑える身の動きで、何度も刃をぶつけてきた。

純粋な力の勝負ならば、決してザックスがに負ける事は無いだろう。
だが、技術や速度という面で、彼が彼女に遥かに及ばないのは覆しようのない事実だった。
幸いなのは、彼女の剣が力の勝負を避けようとせず、無謀さを理解していないように力で対抗してくるところだ。
それに加え、その力の差を埋めるための魔法使用すらしていない。

何度も剣を合わせながら、今の彼女の異常さを確認したザックスは、いかにして彼女の意識を失わせるかという事に目的を変えつつあった。
魔法を放つ際、わざわざ溜めの時間を作る事と、そのわりに彼女の魔法にしては威力が弱い事が、その考えを確信へと変えていた。

もし彼女が本気で魔法を放っていたなら、いつぞや炎の壁を作った時の様な魔法が出てくるはずだ。
身の丈ほどの火の玉は、彼女の力としてはあまりにも小さすぎる。


「さぁて……どうすっかな……」


どうにか隙を作れないものかと考えながら、ザックスは彼女が動き出すのを待つ。
脳裏で騒ぐ魔晄の干渉に、残された時間が少ない事を感じながら、あれやこれやと手立てを考えてみるが名案と言えるものは出てこなかった。

魔晄炉の異常発生から経過した時間を考えると、もうすぐ応援が来る頃だ。
出来れば、増援が来る前に彼女の動きを完全に封じておきたい。
それが不可能でも、自分が出来る限り彼女の体力を削り、残りは応援のソルジャーに任せれば、何かしらの活路は見えてくるだろう。


「頼むから、殺さないでくれよ?」


聞き入れてはくれないだろうと思いながら、ザックスは笑みを浮かべると、彼女へ向かって走り出す。
再び手を掲げたは、彼に向かって二つの氷の塊を放つが、それらは彼の体を掠りもしないまま魔晄炉上空へ向かっていった。
すぐさま防御体制に入るが、間合いに入り込んだザックスの剣によって、彼女の剣は二つに折れた。
胸元ががら空きになったに、ザックスは鳩尾へ拳を叩き込み、彼女が姿勢を崩した一瞬のうちにその腕を捕らえる。
反射的に抵抗する彼女の腕を強く掴み、振り払おうとした逆の腕も捕らえると、彼はそのまま彼女を床に押し倒した。
軽く咳き込みながら、身を捩って逃れようとする彼女の下腹部を跨ぎ、ザックスは体重をかけて押さえつける。

予想外にも、簡単に彼女を押さえつけられた事に感心したザックスは、改めて彼女の様子を見る。
戦っている時もそうだが、先ほど鳩尾を殴った時も、こうして押し倒した今ですら、彼女には生理的に生まれる表情が無い。
いや、それ以前に、普通なら気を失っている場所を思いっきり殴られているのに、眩暈すら起こした様子さえ無かった。

意識を失わせる事が出来れば何とかなると思っていたが、今の彼女に対してでは、かなり難しい事なのかもしれない。
それに、押さえつけられたのは良しとしても、これはお互い手も足も出せない状況になっただけではなかろうか?


「……仕方ないか。……なあ、、俺の声聞こえてるか?」
「…………」

「……本当……どうしちまったんだよ……なあ?」
「…………」


語りかけながら、雑音のように思考を遮り始めた魔晄の干渉に、ザックスは顔を顰める。
彼女の意識を失う前に、自分の意識が無くなってしまうかも知れない。
そんな最悪の予想に思わず苦笑いを零しながら、ザックスは捕らえていた彼女の手を頭の上でまとめ、片手で彼女を押さえた。
再び拘束を振りほどこうとする彼女を、腕に跡がつくような強さで押さえながら、ザックスは道具袋を漁る。


「なあ、、これ何かわかるか?」
「…………」


取り出した水晶の欠片を目の前に出し、彼女の反応を伺ってみる。
だが、彼女はちらりとそれに目をやっただけで、すぐにザックスの顔に視線を戻し、拘束を解こうと抵抗を再開した。


「…………分からない……か?」
「…………」

「……どうしよう……な……」
「…………」


もう駄目なのかもしれない。
あれほど大切にしていた剣が折れても、クリスタルを見せても、は反応してくれない。
他に考えうる手筈など、ザックスは何も持っていなかった。

セフィロスにどう説明したら良いのだろうか。
いや、説明できるだろうか。このまま時間が過ぎれば、自分の精神は魔晄の干渉によって蝕まれる。


「そんな姿セフィロスが見たら……泣いちまうぞ、?」
「……   ……」

「!??」


強くなっていく魔晄の干渉の中、ここにいない彼の名を告げたザックスの声に、の口元が微かに反応した。
驚き、目を見開いたザックスは、その変化を確かめるように彼女の顔を覗き込む。
もう一度、セフィロスの名を口にすれば、また彼女は反応をしてくれるだろうかと、ザックスは再び口を開く。
だが、その唇から声が出されようとした瞬間、ザックスの体は横から襲ってきた衝撃に吹き飛ばされた。

小さなうめき声が漏れると同時に、脇腹に生まれた異物感から冷たさと熱さが伝わってくる。
一瞬遅れてやってきた激痛に、体中から汗が噴出し、混乱する視界がぐらりと揺れた。
咄嗟に我に返りながら、脇腹にやった手にある固い感触に目をやると、突き刺さった血肉の色を反射させる氷の杭が見える。

痛みを吐き出すような吐息と同時に、身を起こした彼女に目をやったザックスだったが、立ち上がる体力は残っていなかった。
出血ではなく、傷口から伝わる冷気で体温が奪われていくのがわかった。
噛み合わずガチガチと音を立てる歯を食いしばり、生理的な震えを押さえつけながら、引きずるように上体を起こす。
ゆっくりと立ち上がったは、数秒ザックスを見下ろすと、その首目掛けて手を振り下ろした。

























非常電源で薄暗い制御室の中は、作業着と白衣の人間が入り混じり、騒々しく声や書類が飛んでいる。
モニターに映されたノイズ交じりの映像は、魔晄の光の強さで殆ど視界がきかず、時折人らしき影が動くのが見えるだけだ。
警報や非常用放送も遮断されたか、職員はずっと濃縮路の停止装置を作動させるようマイクに叫んでいるが、一向にそれが動いた様子は無い。

今回の事故は、以前から頻発する魔晄濃度の異常によるもの。
管轄は魔晄炉の建設・運転に携わる発電課であり、数多くある科学部の内部部署の一つだ。
事故発生から間もなく、本社にいた科学部の大半がこの魔晄炉に移り、事態の収拾に当たっており、おかげで司令室の中は職員と研究員でごった返している。
にも関わらず、事態は一向に好転する様子を見せないのだから、ここにいる人間達の焦りは募るばかり。
最悪の事態には、まず自分達の命が消え、それにより解決の道も大きく遠ざかるのだから、気が立つのは当然だろう。
それでなくとも、今日の昼前に研究員数人が犠牲になる事故を起こしているのだから、嫌でも空気は張り詰める。


「この事態、どう収拾をつけるつもりだ……宝条?」


傍らの、一際大きな機械の前で指を動かしている男に、ルーファウスは片口を上げながら問う。
キーを押す指を止め、ちらりと目だけで振り向いた宝条は、悠然と見下ろす青年を数秒見つめると、愉快そうに顔を歪めて視線を戻した。


「……全ては掌の上…か。恐ろしい男だね、君は」
「褒め言葉として受け取っておこう」

「少しだけ興味が沸いたよ。君にとって、価値があるものとは何だろうか。……私は、君がセフィロス同様、彼女に価値を持っているのだと思っていたが……随分大きな思い違いをしていたようだ」
「君は、私と社長を同じ尺度で考えるほど愚かだったか……」

「これは手厳しい。しかし、これは少々やりすぎたのではないかね?市民の安全すら捨て駒にするとは……いや、我々を釣るために彼女を餌にする君なら、不思議は無いか……。しかし、勿体無いことだ。彼女は本当に素晴らしい研究対象になっただろうに、こんな時何のデータもとれないとは……。君は彼女の価値を本当にわかっているのかね?」
「…………」

「副社長、君が執心できるものは無いのかね?いや、違うか。君は、一体何に執心し、突き進んでいるのかね?」
「この程度の事態を乗り越えられない者など、私の傍に不要。それだけだ」

「……若さか、それとも……」
「長々と下らん話ができるほど、余裕があるのか。ならば早く事態を収拾してみたまえ。私は、君達がそれを出来ないほど無能だとは思っていない」



冷たく言い放って会話を切ったルーファウスに、宝条は笑みをかみ殺すと、再び指を動かす。
黙って話を聞いていたレノが、物言いたげにルーファウスへ視線をやるが、彼は一瞥を返しただけで、何も映さない監視モニターへ視線を戻した。


ドン…と、重い破壊音が遠くから聞こえ、制御室の数人が動きを止める。
司令室の扉よりずっと遠い場所から響いた音に、何人かが騒ぎ出すが、科学部の人間達は魔晄炉の爆発ならここも無事ではないと言って落着くよう促す。
慌ててデータを見直す一同に追い討ちをかけるちょうに、今度はもうすこし近づいたところから、破壊音と悲鳴が聞こえた。


「何なんだ今の音は!?」
「制御装置が動いたんじゃないのか?!」
「魔晄炉のデータに変化は無いぞ!?」
「じゃあ何が起きたんだ!」


騒ぎ出した職員達を横目に、科学部の研究員達は黙々と作業を続け、モニター上に施設内の監視カメラの映像を出す。
いくつもある映像の中、施設正面入り口は扉が外れ、その先にある防火用の鉄製扉が切り裂かれたように破壊されていた。
不信人物はどこにもいない。しかし、そんな事は無いはずだとモニターを見つめていると、制御室の扉が勢い良く開かれ、青い顔をした警備員が倒れこむように入ってきた。


「セ、セフィロスがぁぁぁぁぁ!!」


まるで化け物でも来たかのように叫んだ警備員に、制御室の面々は怪訝な顔をする。
が、次の瞬間、警備員の後ろから現れた鬼の形相をしているセフィロスに、一同は顔を引きつらせ、警備員の気持ちを理解した。


「思ったより早かったな、セフィロス。その様子では、詳しい説明はされていない…か」


今にも人を殺しそうな顔をしている英雄を前にしても、ルーファウスは気にした様子も無く声をかける。
睨むように彼を見たセフィロスは、口を開きかけたところで、ルーファウスの奥にいる宝条に気付き、その表情を怪訝なものに変えた。


「……ルーファウス……」
「今科学部が濃縮路の機能を停止させる作業をしている。効果は……察している通りだ。お前は直接濃縮路の装置を止めに行け」

「……………」
「前に向かったソルジャーは、駄目だったらしい」


魔晄の光の中、時折影が動くだけのモニターに目をやるルーファウスに、セフィロスもモニターへ目をやる。
一瞬だけ、炎のような光がカメラの前を過ぎったが、その後は変わらず画面は白いままだ。


「レノ」
「はい」

「セフィロスを案内しろ。詳しい状況は、その間にしてやれ」
「…………了解、と」


命令と共に、いくつもの意味を含ませた視線を向けたルーファウスに、レノは頷くと制御室を出る。
ルーファウスを睨みつけていたセフィロスも、数秒遅れてその後に続き、元来た廊下を戻っていった。



廊下を行ってすぐ、セフィロスが破壊したと思しき防火扉を見つけ、レノは苦笑いを零す。
からかってやろうかと振り向くと、セフィロスの険悪な表情と視線がぶつかり、彼は何も言わず視線を戻した。

重い空気をひしひしと感じながら、炉内への道と、緊急停止装置について簡単に説明する。
この状況に至る経緯を説明する間、特に先に行ったソルジャーがザックスだと告げた時、セフィロスから殺気のようなものをバシバシと向けられたが、レノは為す術も無くそれを受けるしかなかった。


「ここの先が入り口だぞ、と」


何も無い廊下の真ん中で立ち止まると、レノは壁に見える隠し扉を押し開く。
点々と非常灯があるだけの薄暗い通路を見せると、彼はセフィロスについてくるよう言い、中に足を踏み入れた。
細くなったり広くなったりする通路を歩いていくと、やがて道がゆるやかに曲がった場所に出る。
防音加工などしていない隠し通路は、機械の作動音が煩く響き、時に顔を顰めるほどだった。


「……魔晄炉はこの先だ。とザックスは、その先だぞ、と」


数メートル先の扉を前に立ち止まったレノは、振り返って言うと扉を軽く顎で差す。
歩みを止めないままレノを一瞥したセフィロスは、すぐに扉へ視線を戻したが、すれ違う瞬間腕をつかまれて立ち止まった。


「どうにかしてを外に連れ出せ」
「…?」

「そのまま、誰も知らない場所に隠して、絶対に動かないように言っておけ。は魔晄炉に落ちて死んだ事にしておく」
「……………」

「発見したときには既に魔晄中毒になってた。錯乱状態で、自ら魔晄炉の中に落ちた。そう説明しろ」
「……ルーファウスか」


僅かに空気を和らげたセフィロスに、レノは手を離し、彼と向き合う。
未だ納得しきれていないセフィロスに、レノは小さく息を吐くと、魔晄の光が漏れる扉に目をやった。


「あの世に行っちまえば、流石の科学部も手は出せない。魔晄炉の中なら、遺体回収も出来ないぞ、と」
「……ルーファウスは押さえに失敗した……という事か」

「副社長つっても、限界があるんだぞ、と。それに、科学部の動きが思ったより早かった。奴ら、の血と、士官学校の何とか旅行の時のモンスターを使った研究をしてたらしい。」
「…………」

「今朝、その実験体が逃げて騒ぎになった。研究員2人と、これは伏せられてるが、捕獲に出た兵にも死人が出てる。上にこの件の詳しい報告がいけば、は今のままじゃいられない」
「…………そうか」


「副社長が動くにしても、条件も悪すぎる。傍から見りゃ、他人の女に入れ込んで馬鹿になったボンボンだろ。……まぁ、殆どその通りだけどな」
「……も知っているのか?」

「まさか。ただ……」
「…………」

「副社長の様子がおかしいことは、勘付いてはいたんじゃないか?じゃなきゃ、傍にいようとはしないだろ。突っぱねる時は容赦しない奴だ」


その上、情にも弱いからな…と、セフィロスは密かに溜息をつく。
だが、幾分か落ち着きを取り戻したところで、先にあったイフリートの幻が、彼の気を逸らせていることに変わりは無い。


「どこまでだ?」
「は?」

「どこまでが、ルーファウスが考えた事だ?」
「……殆ど即興だぞ、と。魔晄炉の異常反応まで予測出来るわけ無いだろ。でも、この状況をこれだけ利用できれば、上出来だと思うぞ、と」

「……そうか」


それは、あくまで彼女が無事であった場合だろう。
そう考えた自分に、セフィロスは一瞬顔を顰め、自身を落着けるように深く息を吐き出した。

ここで待っているというレノの言葉を背に受けながら、セフィロスは扉の前に立つ。
じわりと熱くなったマテリアの欠片をそっと押さえ、薄い鉄の板で出来た扉を押し開くと、視界は青緑の光に覆われた。









2011.09.11 Rika
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