後編裏小説目次27話28話表小説目次 


Illusion sand ある未来の物語 27.5 前編



夕食後、入浴を済ませてリビングに戻ってきたは、殆ど口がつけられていないセフィロスのグラスに首を傾げる。
いつもなら、が風呂から上がる頃に2杯目を飲んでいるのに珍しい。
ソファで頬杖をつく彼の視線の先には、窓を濡らす雨粒にまみれて反射した室内の風景があるだけで、他に気にかかるものはない。


「今日のお酒はあまり進んでいませんね。お口に合いませんでしたか?」
「……いや、少し考え事をしていただけだ。気にするな」

「それなら良いんですが……。お風呂は温めなおしてありますから、酔っていないのでしたら、入ってきてくださいな」
「わかった」

の声にゆっくりと振り返ったセフィロスは、一瞬だけ視線を逸らして考えると頭を振った。
少し気にかかる反応だったが、問いただす程ではないと判断して、は台所へ自分のグラスを取りに行く。


グラスに残ったワインを半分ほど飲んだセフィロスは、小さく息を吐くと立ち上がった。
丁度リビングへ歩いてきたの肩に触れ、その足を止めさせたセフィロスは、顔を上げた彼女の頬に軽く口付ける。
それをいつものように受け入れたは、同じようにセフィロスの頬に唇を寄せて返すと、立ち位置を変えて彼に道を譲った。
だが、今日の彼は頬だけでは足りなかったようで、彼女を追って1歩距離を詰めると、頬を掴んで上を向かせる。

近づく彼の顔に目を閉じれば、頬に触れた時と同じ優しさで、唇と唇が重ねられた。
自然と体の力を抜きながら、慣れたタイミングで顔を離そうとしただったが、頬に触れた彼の手は離れない。
訝しみ瞼を開ければ薄く目を開けた彼と視線が交わり、同時に彼の舌に唇をなぞられた。
その感触に、ぞくりと背筋が震え、咄嗟にグラスを持つ手に力を入れなおす。

これまでの触れ合いで教えられた通り、の唇は自然と開き、セフィロスの侵入を受け入れて甘え合うように舌を摺り合わせた。
移されるワインの味と香りを感じながら、自然と吐息を零すと、彼に引きずり出された舌を柔く噛まれる。
その感触に、たまらず逃れようと身を引くと、彼は引き留めることなくそれを許した。

いつもなら逃さず続けるセフィロスの予想外な反応に、は乱れかけた息もそのままに彼を見上げる。
けれど、彼はそれを待っていたかのように再び彼女の頬に触れると、濡れた唇を親指でなぞった。

数ヶ月前まではくすぐったいと手を払っていたのに、この仕草に慣らされたの体は、考えるより先に唇を開き舌先で彼の指を招く。
すっかりと自分に飼い慣らされてくれた彼女の『女』の面に、セフィロスは愉快そうに目を細めた。
その笑みに、ハッと我に返ったは、薄く染まっていた頬を真っ赤にすると、舌でセフィロスの指を口から追い出しながら彼を睨む。


「すぐに戻る。グラスを片付けておいてくれ」
「今日はもう飲まれないんですか?」

「ああ。お前も今日はやめておけ。俺が戻るまでに寝室を暖めておけるか?」
「随分お早いお休みですね……。わかりました。ですが、もうそれほど寒くはないでしょう?薄手の毛布を出しましょうか?」

「……毛布はいい。雨の冷えが気になるだけだ」
「ああ、明日の朝も冷えるようですからね。わかりました。温めておきます」

「頼んだ」


何故か少し苦笑いしたセフィロスに首を傾げながら、は自分のグラスを棚に戻した。
夕食後の予定など、酒と会話を楽しむか風呂、たまに二人で映画を見るくらいしかないので、もセフィロスと一緒に休もうと考えてテーブルを片付ける。

肩から落ちそうになるガウンを羽織り直したものの、シンクに置いた彼のグラスを洗おうとした拍子に袖のレースが水で濡れてしまった。
すぐに魔法で乾かしたが、白い絹の布地にワインの色がついては困るので、彼女はガウンを脱いで台所の端に置く。
肩が露わなネグリジェになると、露出した肌に寒さを感じる。
先程までは、風呂上がりだから、少し温度の感覚が鈍っていたのだろう。
なるほど、確かに部屋を暖めた方がよさそうだと考えると、は手早くグラスを洗い、水差しを持って寝室に向かった。


セフィロスから頼まれた通り部屋の中を温めてベッドを整えると、は彼の下着とパジャマを準備した。
風呂上がりの彼は気分によって、バスローブやガウンで家の中をフラフラするが、今日はもう休むと言っていたので、パジャマで大丈夫だろう。

彼の着替えを置いたら、自分も寝てしまおうと考えると、は脱衣所へ向かった。
いつもなら、シャワーの音がしている頃合いだが、今日は随分と静かだ。
眠くてもう湯船に入っているのだろうかと考えて脱衣所の扉を開けたは、しかしそこにいたバスローブ姿のセフィロスに目を丸くした。
長い髪をタオルで拭いていた彼は、に気づいて振り返ると、彼女の手にある着替えに納得した顔になる。


「随分早いですね。そんなに眠……そうには見えませんね……」
「ああ。着替えはそこに置いておいてくれ。先に髪を頼む」

「わかりました。ちょっと失礼しますね」

頷いて背を向けたセフィロスの髪に指を差し入れたは、その温かさにちゃんと体も温めたのだろうかと内心首を傾げる。
だが、風呂に入り直させるほどの寒さではないので、そんな日もあるかと思いながら魔法で彼の髪を乾かした。

洗面台の引きだしからブラシを出して、毛先から丁寧に髪を整える。
最後にもう一度丁寧に櫛を通すと、柔らかくまっすぐな銀の髪がさらさらと揺れて、ブラシや櫛を仕舞おうと伸ばした腕を撫でた。

この髪で肌を撫でられると、は妙な声を出しそうになる。
それを喜んだセフィロスに散々弄ばれた事を思い出し、は思考を振り払って生真面目な顔を作った。
最近セフィロスから口付け以上をされなくなったせいで、人肌が恋しく思うようになったから、僅かな触れ合いで思考があらぬ方へ飛んでしまうのだろう。
少し熱くなった頬を無視して、は櫛を棚に戻そうとしたが、その腕はセフィロスに掴まれて動きを止めた。

自分を見下ろす青緑色の瞳に、何か気になる事でもあるのかと首を傾げようとしたところで、彼のもう片方の手が彼女の肩を撫でた。
ゆっくりと肌の感触を確かめてくる指動きは、触れ合うときのそれだ。
そこでようやく、彼が早く休むと言った理由が分かったは、髪が触れた一瞬の思考を読まれたような気がして、一気に耳まで赤くなった。
見る間に赤面した彼女に、セフィロスは微かに目を細めると、羞恥を煽るようにゆっくりと顔を近づける。



「っ……!」


耳にこびりつくような声色で囁かれた自分の名に、は心臓と臍の下を掴み上げられたような感覚がして足の力が抜けそうになる。
風呂上がりでいつもより温かいセフィロスの手に掴まり、壁に背を着くことで姿勢を保っただったが、動揺を落ち着ける前に唇を奪われた。
唇同士を摺り合わせる感触に、たまらず息を漏らすと彼が小さく笑みを零し、様子を問うように下唇を甘く噛んでくる。
薄く開いたの目を了承と受け取り、再び唇を重ね合わせたセフィロスは、その唇を味わいながら彼女のネグリジェの肩紐を弄ぶ。

触れ合う彼女の舌が、慣れないながらも自分が教えた通りに答える感触が心地良い。
腕を掴んでいた手が腰から脇腹へと徐々に位置を変えているのに、身を任せすぎて気づいていないが可愛かった。

支えを求めてバスローブを掴むの手に、セフィロスは彼女の足の間へ膝を入れて支える。
舌を絡めるほど体の力が抜けていく彼女は、セフィロスの腿の上に跨がるような姿勢に慌てて腰を浮かせようとしたが、彼の膝でネグリジェを壁に押さえつけられていて逃れられなかった。

流石にネグリジェと下着を着けている状態では、腿に触れた感触だけでの体の状態はわからない。
もうここで脱がせてしまおうかと考えたところで、我に返りかけたの様子を察したセフィロスは、気を散らした彼女の唇に噛み付いて咎めた。
けれど、それでどうにかならないのがだ。
どうせ、寝室以外で肌を触れ合わせる事に抵抗するのだろうと考えると、セフィロスは困り顔で口付けを受けている彼女から唇を離す。


「セ、セフィ……」


「!?……っず、狡いですよ……」
、拒むな」

「……ここで名前を呼ぶなんて……」
「だが、お前は俺に名を呼ばれるのが好きだろう?


唇で弧を描きながら問うてくるセフィロスに、は図星を突かれた羞恥から反抗しようとしたが、ネグリジェ越しに胸の先を指で撫でられる刺激に抵抗を諦めた。
咄嗟に下唇を噛んで声を抑えたものの、下着は既に湿った感触がしているし、名を呼ばれただけで居場所を教えた胸先を弄ぶ彼の指は止まらない。
体がこれだけ反応しているのに、これ以上否定するのは無理だった。


「……好きです」
「っ……」


羞恥から僅かに瞼を伏せて答えるに、今度はセフィロスが自分の下唇を噛む番だった。
その言葉が、名を呼ばれる事に対してだと分かっていても、セフィロスの事を好きだと言われたように思えてしまう。
落ち着けと内心で己に言い聞かせたが、ふと、どちらだろうと好かれている事に変わりないと気づいた彼は、ただ素直に喜ぶ事にした。
そのまま事を進めてしまいたくなるが、これ以上はちゃんとベッドで触れてやりたいと思い、彼はの額に軽く口付けるとその体を抱き上げる。

大人しくセフィロスの首に手を回して身を寄せる彼女に小さく笑みを零すと、彼は脱衣所から寝室へ移った。
頼んでいた通り寝室を暖めてくれていた彼女に小さく礼を言うと、赤くなっている耳に軽く口付け、ベッドの上に下ろす。

さて、上と下、どちらからネグリジェを脱がせようかと考えたセフィロスは、一瞬過ぎった脱がせないという選択肢を今後の予定に押しやる。
が着ているのが、彼女のお気に入りの一つだと思い出すと、普通に下から脱がせる事にした。
事を進めながら脱がせていくのも良いが、間違って縫い目やレースに傷が出来たら可哀想だ。


指先で、彼女のつま先から肌を撫でながら、レースの裾をたくし上げる。
細い糸で編まれたその手触りの良さに、乱暴に扱わなくて良かったとセフィロスが内心で安堵していると、膝立ちになったが彼のバスローブの紐に手を伸ばした。

大丈夫だろうかと少しだけ心配になりながら、セフィロスは彼女のネグリジェを腰までたくしあげる。
同じタイミングで解いた紐を手放したは自分の肩紐から腕を抜こうと考え、しかし、はだけたバスローブの間から見えたこれまでと違う状態の彼の体に固まる。

散々肌を触れ合わせてきたが、セフィロスが反応した状態をが目にするのは初めてだった。
その上、男性のこうした状態を目の当たりにした事がなかったため、彼女は混乱と納得を繰り返す脳内にプルプル震えながら涙目になり、助けを求めてセフィロスを見上げる。


「落ち着け。これが普通の反応だ。長く待たせて悪かった」
「ぅ……いえ、おかまい……なく……?」


首を傾げながら、セフィロスの顔と下半身を交互に見るに、彼は苦笑いを浮かべながら少しだけ頬を染める。
いくら驚いているとしても、顔とそこを見比べられるのは、普通に誰だって恥ずかしい。
せっかく今日だと決めてベッドへ連れてきたのに、まかり間違ってまた反応しなくなっては嫌なので、セフィロスはたくし上げている服を軽く引いて彼女の気を逸らした。


「さすがに、そう顔と見比べられるのは恥ずかしい」
「ふぉあ!す、すみませんでした!!」

「……いや、まあいい。この先、嫌というほど見ることになる。さあ、汚す前に脱ぐぞ」
「…………」


『嫌というほど』という言葉に、は何をするつもりなのかと表情を固める。
これまでも散々恥ずかしいことを教えられたというのに、更にまだ何か教え込むつもりなのか。
普通だ普通だと教え込まれた事の先にある、彼の更なる知識とそこにある深みを想像して、は戦々恐々とする。

そんなの様子に、セフィロスは何を考えているのか予想しつつも、大した問題では無いと判断して彼女の体からネグリジェを抜き取った。

軽く畳んだネグリジェを鏡台の椅子に放った彼に、は目を閉じて気持ちを落ち着ける。
セフィロスの胸元に手を伸ばし、肌を撫でながら羽織った状態のバスローブを脱がせると、見慣れない状態になった彼の体が余計に目に入ってきて、の顔がまた赤くなる。
何処に視線を向けたら良いか分からなくなり、逃げるようにセフィロスの腕の中に収まったが、身を寄せた下腹部に今まではなかった固いもの当たった。
頬を寄せている彼の胸から、少し息を詰まらせたのが聞こえて顔を上げると、頬を緩める彼に体を引き寄せられ唇を重ねる。

背を撫でるセフィロスの掌の感触と温かさが心地良くて、は自然と力が抜けた体を彼に擦り寄せ、彼の下唇を舐めた。
答えて開いた彼の唇に入れた舌が、挨拶代わりに柔く噛まれると、体の芯がぞくりと反応して吐息が漏れる。
背中にあった彼の手が、そっと爪を立てながら腰へ降りて、下着の紐に指がかかった。

彼の一挙一動で簡単に湿らされた下着を見られるのは、何度肌で触れ合っても慣れることが無く、その時がくるとつい腰が逃げそうになる。
その動きに、セフィロスはいつも一瞬動きを止め、重ねていた唇を離してもの様子を確かめた。
嫌ではない。恐いのでもないのだ。ただ、その後与えられる快楽を喜んで受け入れるまでには、羞恥が邪魔して時間がかかる。
様子を窺い、より緩やかになったセフィロスの動きに、はどんな言葉をかけるのが正解かわからない。
今更怖じ気づいていないと口にしても嘘くさいだけで、きっと彼に余計な気を遣わせると分かっているから、は彼の指がかかっていない方の下着の紐を解いた。

少しだけ驚いた顔をするセフィロスと見つめ合ったまま、彼の指に手を添えてもう片方の紐を解く。
自然と下がった彼の視線と、熱くなる頬に耐えながら彼の指から紐を手放させると、押さえがなくなった下着がシーツの上に落ちた。
濡れた肌が空気に触れてひやりとしたが、それを補うように、彼の手が腰から足の付け根を撫でて温めてくれる。
性感とは違う心地良さについ体の力を抜いたは、セフィロスの胸に頬を寄せて甘えてしまったが、彼は気にするでもなく彼女の髪を指で梳いた。

彼女の頭と枕の位置を確認したセフィロスは、ふとシーツの上にあるバスローブに気づき、適当にベッド下へ放る。
次いで、の下着に手を伸ばした彼は、いつもより濡れてぬるついているそれに、天井を見上げて深呼吸することで平常心を呼び戻そうとした。


「セフィロス、どうしたんですか?」
「……大丈夫だ。……そうだな、お前にかかる負担が少し減りそうで、安心した」

「……ちょっと意味が……?」
「大丈夫だ。ゆっくり分かっていってくれ。続けるぞ」


を相手に……しかも既に肌を知り合っているとはいえ、処女を相手に雑な抱き方など絶対にしない。
そんな事をして、これ以上格好の悪い男になってたまるかと、セフィロスは己に強く言い聞かせるとをベッドに横たえた。
少し不思議そうな顔をしていただったが、再び彼から唇を重ねられると、すぐに頬を緩めてそれを受け入れる。

頬から首筋、細い肩と撫でていく彼の掌の温かさに、彼女は心地よさそうに目を細めると、頬にかかってきた銀の髪をそっと払い、彼の額に口付けた。
その感触に、首筋に歯を立てようとしていたセフィロスは動きを止め、代わりにの顎下から耳に向かって舌でなぞる。
ぶるりと身を震わせたに、彼は微かに口の端を上げると、その先を予想して視線を彷徨わせる彼女を見た。


「っ……あ、あの、いえ、その……」
「逃げるな」

「ふぁっ!んぁ……あぅ……やっ、ぁ、あぁ……」


肌を撫でていた手での肩を押さえると、セフィロスは彼女の耳朶を食む。
小さな悲鳴を聞きながら、プルプル震えているの耳に舌を這わせると、彼女はすぐに耐えられなくなって口から声を漏らした。
柔い舌が水音を立てて動く度、彼女は何処を触るよりも可愛い声で鳴く。
ほんの少し耳を愛撫しただけで、声と目を蕩けさせて息を乱す様は、普段の彼女からは想像できないものだった。

耳朶に軽く歯を立てると、脱力していた彼女の体が僅かに跳ねる。
目にじわりと涙を滲ませるものの、耳を犯されているために視線を向ける余裕もないに、セフィロスは早急に手を動かしたくなるのを堪えた。
どうしてこの期にに及んで自制心を心がけているのだろうかと脳裏で考えたが、彼女がまだ処女だからだと答えを叩き付ける。
ほんの1ヶ月前まで、散々彼女の体を快楽で責め立てて鳴かせていたせいで、その時のようにを乱したいという欲もあった。
それは駄目だと理性で自制はしているが、自分の手でどれだけ彼女が変わるのか知っているせいで、多少の焦りも問題ないと分かっているから困る。

彼女の肩を押さえていた手で胸の膨らみを包み、先端を指の腹で撫でながら、セフィロスは脳内会議を続けた。
集中力は散漫なのに、耳を犯す彼の舌は無意識に動き、指の動きと共に彼女を追い詰めていく。
いつも落ち着いた声とは違う、仔猫のような彼女の嬌声に、無意識につられてしまったのだろう。

嬌声に泣き声が混じり始め、我に返ったセフィロスが慌てての耳を解放するが、彼女は唇を震わせながら息を乱していた。
視線を向ける余裕もない彼女に、セフィロスはやってしまったと反省しながら、『いやここからが本番だろう』と呟く数か月前の自分を脳裏の隅に追いやる。
ここで調子に乗りすぎるとHPが8割削られるビンタを食らうと経験で知っているセフィロスは、余計な思考を捨てて彼女の頬に口づけた。
涙目のままゆるゆると視線を向けたの目じりにも優しく口づけるが、彼女は力のない目でも睨みつけてくる。
ちょっとだけ、今日はこのまま失敗かもしれないと思いながら、彼女の頬を撫でながら髪を払ったセフィロスは、彼女の額にも慰めるように口づける。


「悪かった。お前の声が可愛いすぎて、ついやりすぎた」
「…………気を付けてください」

「善処する。……もしや、耳でイったのか?」
「……そこまでは。ちょっと……上手く息ができなくなっただけです。もう、大丈夫……」


前にもそう言って好き放題していたじゃないかという心の声を飲み込んで、は整い始めた息を大きく吐き出す。
セフィロスの「可愛すぎてやりすぎた」は、の中でいまいち信用できない言葉になっているのだが、彼は気付いていなかった。

呼吸が落ち着き始めたところで、セフィロスの指に唇をなぞられ、はくすぐったさについそれを食む。
彼が小さく笑った息遣いに、彼女は少しだけ彼を睨みながら口を開き、唇を弄ぼうとする指を舌で押しやった。
名残惜し気に離れた指は、そのまま彼女の顎から喉、鎖骨を辿って胸の頂で遊び始める。

先ほどまでとは違って緩く与えられる感覚に、の口から微かな声が漏れると、その唇に2度3度と口づけた彼の唇が、ゆっくりと指の跡を辿っていく。
首筋に感じる暖かな感触に、がくすぐったさを感じて唾を飲み込むと、熱い舌が喉を這った。
喉笛を覆うように食んで楽しむ彼の唇の感触に、ああまたかと考えていると、柔い唇の感触に代わり硬い歯が肌に当たる。
唾液が首を伝うほど執拗に肌を撫でる舌に吐息を漏らせば、立てられた歯へ徐々に力が入っていった。
強く噛み始めた彼の歯の感覚と、じっとりと押し付けられた舌の感触に息と体を震わせると、それに合わせるように胸の頂を指で強く弄ばれる。

たまらず漏れた声は、けれど口から洩れる前に喉笛にかみついた歯で殺され、自然とのけ反ったの体は強請るように彼の手に胸を押し付けた。
その反応に、セフィロスは小さく笑い、ゆっくりと身を起こすと自由になった喉から声を漏らすを見下ろす。
口元を腕で拭って見下ろす彼の目に映るのは、首に噛み跡をつけ、胸を愛撫されて頬を染めながら声を漏らすの姿だった。

初めて触れた時より格段に敏感になった彼女の体は、胸の先を指の腹で擦り捏ねるだけで悦び、自ずと先を期待して腿を擦り合わせる。
今日はそれに粘ついた水音も加わったが、それに気づいていたのはセフィロスだけだった。

再び覆いかぶさってきた彼の表情に、欲情のほかに安堵が見えた気がして、はその顔を覗き込む。
けれど、彼は目元を緩めて彼女の唇に軽く口づけて返すだけで、気を取り直すように彼女の胸元に唇を落とした。
片手で胸への愛撫を続けていた彼は、空いた手でもう片方の胸を包み、鎖骨を舌でなぞっては時折思い出したように歯を立ててくる。

「セフィロス……貴方、本当にっ……噛むのがお好きっ……ですね……っん……」
「そうだな。これでも大分抑えてる方だが……お前も、気に入っているだろう?」

骨に歯を立てられる感触につい苦笑いを零して言えば、ちらりと顔を上げた彼が口の端を上げて笑って見せる。
彼が言う通り、舌を這わされ、歯を立てられると、彼に食らい尽くされるような感覚がして、それが彼にすべて奪われるようで、心地が良かった。
朝に跡を消すときは、冷静になっていて少しいたたまれない気持ちになるが、肌を触れ合わせるなら一度は噛んでもらわなければ物足りないくらいくらいには、も癖になっている。

漏れる声に息を詰まらせながら、肌をくすぐる彼の髪に指を差し入れれば、一度強く鎖骨を噛まれた。
その痛みにすら唇を震わせてしまう自分が、倒錯しているように感じるが、セフィロスは気にしなくて良いと言う。
元々知識に乏しいにとって、セフィロスから与えられる知識がほぼ全てで、過去の世界とこの世界での常識が違うのも知っている。
本当に彼の教えることが正しいのか、時折立ち止まって疑問に思ってしまう事もあるが、肌を合わせ始めるとその疑問は些細なものになった。

胸の先を口に含まれ、その暖かさに心地よさを覚えながら、舌で転がされる感触に声が漏れる。
もう片方の胸の先を指先で強く摘ままれ、その刺激に背中と腰が跳ねると、空いていた彼の手が脇腹から腰を擽った。
指で強弱をつけて胸を刺激されながら、もう片方の胸を、唾液を纏わせて吸われ、時に歯を立てられる。
口から洩れ出される声に息切れさえして、彼の髪に触れていた手をその頬に移すと、気づいた彼が顔を上げて手を止めてくれた。

少しだけ、ほっとして息を整えたに、セフィロスは柔く目を細めると指の動きを再開し、肌の上に吸い跡と噛み跡をつけ始めた。
体の真ん中をなぞる様に唇で跡をつけていた彼は、彼女の鳩尾に口づけたところで、いつもより早い鼓動に気が付き、伺うようにの顔へ目をやる。
答えたのは、心地よい愛撫が止まり、物足りなさそうな、少し不安そうな目をした彼女だった。
そこに、強い緊張は見えない。

ならばこの鼓動は期待かと、内心苦笑いした彼は、のその目が快楽と情欲に溶ける瞬間を思い出して、止めていた愛撫を再開した。
彼女の心臓の上を強く吸い、そこに出来た赤い跡に物足りなさを感じて、更に歯を立てて跡をつけると、痛いはずなのに彼女の口から吐息交じりの声が漏れる。
今日はまだの泥濘に触れていない事を理解しながら、再び胸の先を口に含んで弄ぶと、焦れた彼女の体が無意識に腿を揺らし、そこから聞こえる水音で彼を呼んでいるようだった。
が快感に身じろぎする度、彼女の揺れる腿とセフィロスの中心が触れて、ゆるく不規則な刺激が彼に与えられる。
擦りつけてそのまま入りたくなる欲求に苦笑いしながら、セフィロスは彼女の胸の先に強く息を吹きかけると、最近少しずつ肉がついてきた脇腹に歯を立てた。





2022.11〜2023.05.08 Rika
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