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険しい山々の向こうに見えたのは、山中にぽつりで出来た小さな平野と、その中にある100軒程度の家がある村。
そしてその所々から空へ昇る黒煙だった。
村を囲む堀の外へ視線を移すと、上空のバハムートに気づき警戒して見上げている魔物の群れがいる。

遥か上空のバハムートには届かないと理解できないまま、白い糸を吐き出す黒い霞のような芋虫。
そしてその中にいる、蜘蛛の下半身と人の上半身を持つ魔物は、1体だけではなかった。

これは加勢して上げた方が良いだろうか。
そうが考えたのと同時に、村の中から飛んできた無数の石が、黒い芋虫を数体同時に吹き飛ばし、辺りに毒と謎のバッドステータスをまき散らした。

ですら見たことがない謎のバットステータスは、付近の魔物の体をドロドロに溶かし、青とも紫とも言えない煙を上げている。


「……何だあれは……?」
「ああ、あれは、うちの村の名物です。魔物の新種騒ぎの時に作ったんですよ」

が思わず零した言葉に応えたのは、落ち着いたアーサーの声だ。
いっそのんびりとすらしているその声色に、は勿論、黙って地上を見ていたセフィロスも彼へと視線を向ける。

「私ですら見たことがないバッドステータスが出ているが……?」
「そうですか……。色々な魔物の毒を混ぜて作ったので、作った私たちも、正直よくわかっていないんです。ただ、どんな魔物にもよく効くので、今も昔も重宝していますよ」
「…………」


生きながら体を溶かされ、あるいは腐りながらのたうち回る魔物の悲鳴が風に乗ってバハムートの上まで届いてくる。
その間にも追撃の手は緩まず、魔物の群れには『名物』が雨のように襲い掛かっていた。

村の中から上がる黒煙も、目を凝らしてよく見れば、何かしらの魔物を磔にして焼いているものから出ているではないか。


やっぱりこの村おかしいな……。
そう改めて思う、そして他の3人の視線に、アーサーは苦笑いを
返していた。



Illusion sand ある未来の物語 136話



ヤバそうな名物があるとはいえ、村と外をつなぐ橋は落とされていた。
付近の川はもちろん、堀の外にある墓地からも村へ入ることは不可能なため、一行はやむを得ず小学校跡へバハムートを下ろす。
村の上空へ来た時点で、とセフィロスが魔力や気配をある程度抑えなくなったため、村人から攻撃されることはなかった。


「ああ、やっぱり村に帰ってくると、落ち着きますね」
「え、マジ?この状況で?」
「襲撃受けてる村で落ち着くとか、アーサー、ボケてきたんじゃないの?」

凶悪そうな武器を持って広場の前に待機していた村人を前に、アーサーはホッコリした顔で手を振る。
その姿にカーフェイたちはもちろん、とセフィロスも信じられないという目を向けたが、当のご老人は懐かしそうに殺気だった村を見回していた。


「おい、あれアーサーさんじゃないか!」
「皆ー!敵じゃない、アーサーさんだぞ!」
「派手なご帰還だな!バハムート乗り回すたぁ、驚いた!」
「何だ随分強そうな味方……おお、アンタらは!……名前何だったかな?」
「あれだ!昔、建築の勉強しに来てた夫婦の!」
「そうそう!あの化け物に両足突っ込んでた夫婦!」


酷い言われように、は遠い目になり、セフィロスは呆れた視線を村人に向ける。
ガイとカーフェイは腹を抱えて笑っているし、アーサーは村を見回すのに夢中で全く聞いていなかった。
バハムートが帰ると、村人はワラワラと広場にやってくるが、和やかな雰囲気に反して投石器のようなもので放たれた『名物』が空を飛んでいるし、村の外からは魔物の断末魔が聞こえてくる。

村が壊滅しかけていたのなら、アーサーへの義理で手助けする気だった。
だが、村人たちは自力で故郷を守る気概に溢れているし、戦況も問題なさそうだ。

村が落ち着いてガイとカーフェイの墓穴が準備できたら、呼んでもらおう。

そう考えて立ち去ろうとしたが、村人たちから少し距離をとろうとすると、目ざとく見つけたガイとカーフェイに『行くな』と視線で訴えられる。

そんな2人はアーサーと一緒になって、完全に村人に囲まれていた。
巻き込むつもりだろう2人に、は柔らかな笑みを向け、セフィロスの腕を掴むと一気に後方へ跳ぶ。
彼女の動きに合わせ、同時に跳んだセフィロスに、気にしないで良いという意味で笑みを向けた彼女は、ガイ達が何かを叫ぶ前にフェニックスを呼び出し、その背に飛び乗る。


「人の世は、人の力で守るといい。私たちに頼らずとも、この村ならそれも出来るだろう?」
「え!?ちょ、俺たちは!?」
「この村人の中に取り残すの!?」

まさかの突き放しに戸惑うガイとカーフェイだったが、村人たちは『勿論だ!』だの『1匹残らず倒してやる』だのと盛り上がっている。
そんな血気盛んな村人たちに、アーサーは心配する様子もなく笑っている。

問題ないことを確認したは、とりあえず高みの見物を決めると、フェニックスに高度を上げさせる。
昼でも辛うじて見えるが、投石器やサンダー系の魔法の発動に問題ない高度に到着すると、フェニックスはそのままの高度を維持するよう頼んだ。
眼下では、広場にいた村人達が解散し、村の外にいる魔物たちへの攻撃が激しさを増す。
名物の投擲に加え、魔法も派手に使い、村の外は大惨事が継続中だ。
魔物がやってきた方角だろう北の山の方など、既に木々が消失し、焼け焦げた跡やドブ色の煙を上げる謎の沼が出来ている。
今も村の外へ躊躇いなく名物を落としている様子を見るに、破壊された森の再生方法はあるのだろう。


……」
「はい、何でしょうか?」
「……学校を卒業した後、この村の誘いに乗って移住しなかったのは、正解だった」
「……そうですね。私も、そう思います」


漏れなくバーサーカー属性がある村人の戦いを見下ろすセフィロスの呟きに、もしみじみと頷いて返した。

攻撃の雨をくぐり、堀までたどり着いた魔物が、水面に浮かぶ同族の死骸を足場に侵入を試みる。
しかし、それを待ち構えていたかのように、堀の端や物見櫓にいた村人は名物を括り付けた槍を魔物へ集中的に投げつける。
幾本もの槍を身に受け、同時に名物を食らって瞬時に肉体を溶かされ始めた魔物は、槍の勢いで堀野外へ押し返されて倒れると動かなくなった。
その勝利に、村人は歓声と雄叫びを上げながら、次の攻撃の準備を怠らない。
村の中央広場では、戦闘に向かない老人や子供と思しき小さな人々が、せっせと名物を量産しているようだ。

置いてきたガイとカーフェイも、アーサーに連れられて堀の防衛に連れていかれているのが見える。


「以前森にいた魔物より、少しレベルが低いようですし、村は放っておいても大丈夫でしょうね」」
「そうだな……」

あの名物、使わなかった在庫はどう処分するんだろ……。そう考えながら、はフェニックスの背に腰を下ろし、飲み物を出す。
元々は、村に着いたらガイ達はすぐ丘の墓地で人生に終止符を打つはずだったのだが、村への襲撃が終わるまではそれは叶わないだろう。
あの2人の希望は、普通に葬式をして、棺桶に入れての土葬だ。
墓もちゃんと欲しいそうで、既に村の墓地には2人分の墓石が用意してあるらしい。

不老不死のタークスなんて特殊な人生を歩んだ彼らだ。
それぐらいの希望は叶えてやりたかった。

村に置き去りにしたのは、一緒に留まれば最後のお願いと言って魔物の片づけを頼まれそうだし、2人を連れてくればアーサーを助けるためと魔物の片付けを頼まれそうだったからだ。


「セフィロス、どうやって時間を潰しましょう?」
「森の奥は、兵器の被害がなさそうだ。行ってみて、問題なければ釣りをしたい」

「わかりました。久しぶりに沢蟹が食べたいです」
「そうか……なら、魚の後で捕まえよう」


時計を見て、キャンプ地が決まったらすぐ昼食準備をしなければと考えながら、はフェニックスへ山の方へ向かうよう頼む。
戦闘で汚れた堀の水が流れ込む村の南側の川を避けると、行く先は自然と魔物の生息地がある北の森になった。
地獄絵図な村周辺を越え、森の上を飛んでいると、時折木々の間から白や黒い糸が飛んでくる。
だが、それらの殆どは上空のフェニックスに届かず、届いた数少ない糸も炎に焼かれてこちらを捕らえることはできない。
魔物は村の周囲に集中しているらしく、少しするとそんな無駄な襲撃も受けなくなった。

森の中にできた道ではなく、川に沿ってゆっくりと飛んでいく。
20分も飛んでいると、村に滞在中セフィロスがよく釣りしていた川辺へ着いた。
村からは、歩いて2時間ほどの場所だ。


「ここまでくると、静かですね。生き物も、異常はなさそうです」
「ああ。魚も、問題なく釣れそうだ」


村から随分と離れている川辺は、以前来ていた様子とそう変わりなく、平穏そのものだ。
耳を傾けずとも、川のせせらぎとともに、緩やかな風に揺れる木の葉の音、虫や鳥の鳴き声が聞こえる。

深い緑の香りに、は自然と肩の力を抜いた。


「セフィロス、先に釣りを始めていていただけますか?私は、テントと昼食の準備をしています」
「ああ、頼んだ。場所は、前と同じ、川の傍でいい」

「ええ。村の様子を見に行くのは、3日後くらいにしましょうか」
「……そうだな。勝つか負けるか……その頃には、結果は出ているだろう」


そう言いつつ、あの村が魔物に屈する様が想像できなかったセフィロスは、思わず村の方角を遠い目で見つめてしまう。
昔相手にしたウータイの兵とは種類が違うヤバイ集団。つい思考を持っていかれそうになり、慌てて頭を振った彼は、気を取り直して釣り道具を出した。

近くの岩に腰を下ろし、川釣り用の竿を出すと、慣れた手つきで糸とリールをセットする。
今時期はどの魚が釣れるだろうと考えながら、釣り針と餌を選んだ。



アーサー達を村へ送る事を、セフィロスは了承してくれていたが、それでも退屈しているのはも気づいていた。
本当は、ゴンガガで合流する前に行きたい店があったし、ガイとカーフェイの事が片付いたらコスタ・デル・ソルで少し遊ぶ予定だった。
彼らがいる手前、そういう話はしづらかったが、どうセフィロスへ埋め合わせしようかとは少し悩んでいたのだ。

好きなだけ釣りをしていられる時間を得て、楽しそうに準備するセフィロスに、は内心で胸をなでおろす。
同時に、置き去りにしたガイ達の事が気になったが、変な集団を引き寄せて余計な手間をかけさせてくれた分で相殺することにした。

携帯の電波が入るところに行けば、ガイとカーフェイから何度も電話がかかってくるだろう。
昨今珍しくなった『圏外』を表示する携帯を荷物の奥底に仕舞ったは、広い川辺の森に近い場所へ移動し、魔法で地面を軽く均す。

が持っている年季が入ったスケスケの使い捨てテントではなく、この世界で買った頑丈で繰り返し使えるテントを張った。
そのまま火をおこし、テーブルに珈琲と今夜の酒を準備する。
正午までもう時間はないが、セフィロスの釣りは始まったばかりだ。本格的な食事より、片手でつまめる物を作った方が良いだろう。

サンドイッチにするか、冷凍している肉の串焼きにするか。

少し考え、面倒だから両方作ることに決めたは、ひとまず珈琲を入れて一息つくことにした。







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キリが良いところで1話を終わらせてるんで、話の長さがマチマチなんですよね。
すみません。

2025.08.10. Rika
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