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「……よし。行ったな……?」 アイシクルエリアの家を文字通り消し炭にし、ミディールに戻ってから数日後。 セフィロスに生活消耗品の購入を頼んだは、彼の車が見えなくなると、持ち出し荷物の箱を開ける。 綺麗に畳まれた衣類を数枚めくると、北の家の処分の際、彼がの目を盗んで入れた下着が出てくる。 それらを全て引っ張り出したは、蓋を元通りに閉じて仕舞うと、家の前の畑へ向かう。 枯れ葉だらけの土を軽く掘って穴を開けると、そこに下着を放り込み、彼がのスカーフへそうしたように、容赦なく火をつけて灰にした。 Illusion sand ある未来の物語 134話 出来心と下心をに知られ灰にされている事にも気づかず、セフィロスは暢気に旅支度を進めた。 もまた、その件は、密かに持ち出そうとしていた品をセフィロスに処分された事と相殺する事にしたので、あえて口にすることはなかった。 変種モンスターの大氾濫を殲滅した後、旧ゴールドソーサーエリアの砂漠は急速に緑化が進んだが、未だ流砂は消えない。 それどころか、その地域は線を引いたように砂漠と草地とで別れ、不自然な景観になっていた。 アイシクルエリアの家を処分してから2週間後。 砂漠で増えていた大型トラックサイズのワーム型モンスターを駆除し終えたとの知らせがカーフェイ達から届いた。 そのままゴンガガを経由してアーサーの村へ行くという連絡に、とセフィロスは荷物の最終確認を始める。 過ごしたのは数年だが、一から自分たちで作り上げた思い入れがある家を灰にすると、2人は最後にミディールの温泉を堪能し、合流予定地であるゴンガガへ向かう。 現地へ着くと、街は砂漠の魔物を倒した3人組の話で持ちきりだった。 予約していたホテルの部屋に入ったとセフィロスは、地元のローカルテレビに取り上げられている3人の姿に今夜の合流をためらう。 街中で売られている新聞も、カーフェイ達3人の活躍が1面で取り上げられていた。 今も、画面の中では砂漠の魔物の群れを相手に戦っている3人の姿が繰り返し流されていて、顔もばっちり映っていた。 「、この状況であの3人と合流するのか?」 「その予定でしたが、五月蠅くなりそうなので、少し話し合います。決まるまでは、何日かホテルに滞在しましょう」 「そうだな。その方がいい」 「では、あの子たちにもそう連絡しておきますね」 「なら俺は、フロントに連泊できるか聞いておこう」 「おねがいします」 冥途の土産に大騒ぎするのは構わないのだが、合流して騒ぎに巻き込まれるのは普通に面倒くさい。 アーサーは合流したら元の年齢に戻してから村へ送るのだが、ついでにガイ達もカムフラージュで爺にしてしまおうか。それとも、ミニマムをかけて村の近くまで運ぶか。 後者の方が手間がなさそうだが、まず合流する場所とタイミングが問題だと考えながら、はガイに連絡を入れる。 まだ昼時を過ぎたばかりだが、夕方までには返事をくれるだろう。 フロントとの電話を終えたセフィロスの袖を引いて、は今日の夕飯の店を一緒に探す。 久々にこの地方の料理が食べたくて専門店を探していると、気になる店のメニューを開いたところでガイから返信がきた。 「おっと、タイミングが悪いですね」 「泣き顔の絵文字ばかりだな……」 「派手に動きすぎて注目されるようになってしまいましたから、ストレスが溜まるそうですよ」 「……なるほど。自業自得だな」 よくわからない集団についてこられていて、人目につかず合流するのが難しい。 そんな泣き言と共に助けを求めるメッセージに、は少し考え、とりあえず集団は無視して旅の疲れを癒やすよう返事を送る。 闇討ちのように拉致するか、どこかの飲食店で合流して人目につかない個室でミニマムを使うか。 合流方法はあちらの希望を聞いてから決めてあげようと考えると、は画面を戻して飲食店のメニューを眺めた。 ついてくる集団と言っても、どこかの軍関係者か記者だろう。 そう楽観的に考えたとセフィロスは、彼らの悲鳴を一旦放置して、ホテルから少し離れた地元料理の店へ足を運んだ。 昼時の店内は地元の人間と観光客が入り混じって、程々に混んでいる。 油田開発で工業化が進むゴンガガだが、中心街から少し離れると元の長閑な田舎らしい風景が見られる。 訪れた店は、丁度元の町と開発が進んだ区域の境目にあり、そのため客層も様々なのだろう。 運よく待たずに席へ案内された2人は、通りが見える窓際の席へ腰を下ろす。 差し出されたメニューには、事前に調べていたメニューの他、数量限定で大きな川海老を香草で蒸し焼きにした料理が付箋で書かれている。 アーサーの村の森へ釣りに行った際、が暇つぶしに捕まえていた海老だが、想像以上に高級食材だったらしい。 道理で持ち帰ると村長たちが喜んでいたわけだと納得しながら、は目当てのメニューを探す。 だがその時、ふと、窓の外を歩く人々が急に様変わりしたことに気が付いた。 通りには、普通の通行人に混じり、真っ赤な装束の人間たちがいる。 ホテルへ着く前は見かけなかったそれらは、赤い布を全身に巻き付けたような姿をしていた。 昔も似た格好をして各地を歩いている学者たちがいたが、今町にいる彼らの腰や背には武器がある。 無論、下げているだけで柄に触れもいないが、それでも武装した集団が急激に増えた光景は、街に緊張感を与えた。 幸いなのは、彼らが皆穏やかな表情で、和やかに会話していることだろうか。 だが、だからと言って関わりたいとは思わない光景だ。 少し考えたものの、とりあえず腹を満たそうと決めたは、窓からメニューへ視線を戻す。 セフィロスも、同じく数秒窓の外を見ていたが、興味は湧かなかったようでと同じようにメニューへ視線を戻していた。 この店でメインに扱っているゴンガガの料理は、炭火で焼いた豚肉に同じく焼いた芋を添え、少し辛みがあるソースをかけたものだ。 コスタ・デル・ソルの料理にも少し似ているが、あちらは海の魚が多く、この辺りの地域は肉と川魚が多い。 「セフィロス、まだ昼間ですが、お酒を頼んでも良いでしょうか?」 「かまわんが、気になるものがあったのか?」 「ええ。アーサーの家に世話になっていた時、よく飲んでいた地酒が置いてあるので、久しぶりに飲みたくなりました」 「そうか。なら、俺もこの地ビールを頼もう」 もしかすると、店を出るころにはほろ酔いになっているかもしれない。 そう思いながら、2人は昼間だというのに料理と一緒に酒を注文する。 すぐに運ばれてきた酒に口をつける頃には、他の客も外の様子に気づいたようで、少し店内がそわそわとし始めた。 店から出るのをためらう他の客へ一瞥する事もなく、2人は酒と料理をのんびりと楽しむ。 久々に口にした地酒は、アーサーの家で飲んでいたものより度数が高く甘さも控えめだったが、そちらの方がの好みだったのでつい2杯、3杯と頼んでしまった。 向かい合って一緒に飲んでいるセフィロスも、料理より酒の方が進んでいた。 流石街中の飲食店だけあり、村の商店で買っていた缶ビールより味は良いらしい。 外の集団などすっかり忘れて、2人はほろ酔いになりながら店を出る。 ホテルを出る前は、昼食の後で武器屋を見に行こうと話していたが、このご時世、酒を飲んでいると武器屋には入れない。 ランチタイムはもう終わる時間なので、今から飲める店を探すのも難しいだろう。 「時間が余りましたね。セフィロス、どうします?」 「適当に酒と夕食を買って、ホテルに戻るしかない」 「そうですねぇ。ですが、見るからに酔っ払い2人ですから、店によっては入店を拒否されるかもしれませんね」 「この地域はその辺が厳しいからな。……面倒だ。ホテルのルームサービスで済ませる」 「それが無難そうですね。ああ、あの子たちに連絡しないと……」 「タクシーを拾う。移動中に連絡してやれ」 「ああ……それがいいですね。今の私たちだと、スリや犯罪の良いカモにしか見えないでしょう」 「捕まえる時、手加減を失敗するかもしれないからな」 「そうですね。それと、もうちょっと飲みたいので、あの子たちとの合流は明日以降にします」 「明日の昼以降だな。だが、念のため使っているホテルは教えてやれ」 タクシーの運転手に聞けば、今からでも飲める店や、酒を売ってくれそうな店を教えてくれるのでは?と一瞬思ったセフィロスだったが、なんだか面倒に思えてすぐその考えを思考の外に追いやる。 車通りの多い道なおかげで、すぐに通りかかりのタクシーを拾えた。 赤い装束がさらに増えた街中は異様で、タクシーの運転手も落ち着かない様子だったが、良い感じに酔っぱらった二人はあまり気にしない。 ホテルに戻り、鍵を受け取ると同時に追加の酒と軽食を頼んだ2人は、早速部屋のテーブルを片付けて酒盛りの準備を始める。 ルームサービスで酒が届くと同時に、ガイから同じホテルに部屋をとったというメッセージが来たが、『これから飲むから明日の昼に合流する』という返信をして携帯の電源を切った。 ホテルで出された酒は、店で飲んだ地酒と同じくらいのランクだが、味は少しだけ違った。 華やかな香りは好みだったが、その分甘みも強く、少しだけの好みとは外れる。 一方のセフィロスが頼んだ酒は、店で飲んでいたビールやが飲んでいる地酒ではなく、ニブルヘイム近くで生産されている白ワインだ。 よく胃の中で混ざって気持ち悪くならないものだと思いながら、は炭火焼きされた肉と酒をちびちびと楽しむ。 何気なくテレビをつけると、昔アイシクルエリアで活躍していた名物料理研究家が、新たな土地で活躍をしていた。 大きな川海老を地酒で溺れさせ、半殺しのまま串刺しにし、炭火とガスバーナーで焼く姿は、とても楽しそうである。 高級食材になされる蛮行に司会は悲鳴を上げているが、見ている達は懐かしい料理姿に頬を緩めていた。 出来上がった料理は、蛮行が想像できないほど綺麗で美味しそうである。 その後よくわからない地元キャラクターと催し物の特集が始まったが、料理が終わった時点で番組への興味がなくなった二人は、どちらが言うでもなくテレビの電源を切った。 「セフィロス、あの海老料理、食べてみたいと思いますか?」 「……食うのは良いが、作る気にはならんな。酒が勿体ない」 「そうですか。ではやめておきましょう」 「作る気だったのか?」 「貴方が気になっていたようなので、試してみてもよいかと、少しだけ思いました」 「確かに気にはなったが、試さなくてもいい。そこまでしてもらうほどの興味はない」 「確かに、海老に飲ませるくらいなら、自分であの酒を飲みたいですね」 「そうだな……。、まだ飲むのか?俺は少し休みたくなってきたが」 「いえ、もう十分ですね。このグラスに入っている分で、酒も終わりですし。貴方の方はどうですか?」 「俺のはもう少し残っている。飲むか?」 「貴方が残したくないだけでしょう?ですが、いいですよ。引き受けますから、先に休んでください。まだ夕方ですから、おかしな時間に目が覚めそうですが……」 「構わん。なら、酒は任せた」 グラス1杯分ほどが残ったボトルを差し出すと、セフィロスは足をフラつかせながら洗面所へ向かう。 歩きながらシャツのボタンをはずしている姿に、かなり限界だったのではと思いながら、はワインの度数を確認した。 アルコール度数18%と、割と強めのワインだが、普段家で飲んでいた酒も同じくらいのものはある。 昼に飲んだビールと胃の中で混ざったせいだろうか。 そうが考えながら自分のグラスを空にしている間に、セフィロスは洗面所から戻ってきて、そのままベッドの上に倒れ込むように眠ってしまった。 「せめて端に寄ってくれませんかね……」 大きなベッドのど真ん中で寝始めた夫に、は少し呆れた視線を向け、次いで仕方なさげに苦笑いを零す。 ゆっくりと椅子から立ち上がり、魔法で彼の体を浮かせると、とりあえず彼の靴下を脱がせ、布団の中に寝かしなおした。 ボタンを外しただけで脱げていないシャツも気になったが、それは自分が休む時でいいだろう。 とりあえず、彼が風邪をひかないように布団を整えると、は椅子に戻り彼が残したワインをグラスに入れる。 甘めの酒を飲んでいたか、白ワインがやけに酸っぱく感じたが、口直しには丁度良い。 自分も胃の中で酒が混ざってしまうのだろうと考えると、は味わうでもなくすぐにグラスとボトルを空にして、寝支度を始めた。 口の中を清め、化粧も落としたが、回る酒気に入浴は明日へ持ち越すことに決める。 ホテルの寝間着を探しながら下着姿になるが、目当てのものはベッドにもその下にも見つからない。 まさかと思って布団を捲ると、目当てのものは寝返りを打った夫の腰と背中の下にあった。 「……仕方ないですねぇ」 彼の脱ぎかけのシャツも干してあげないと皺になる。 小さく一つため息をつくと、はもう一度セフィロスの体を魔法で浮かせ、寝間着を回収する。 そのまま彼のシャツをとり、ズボンも脱がせて寝間着を着せようとした。 だが、浮かせているとはいえ、横を向いた状態の人間に服を着せるのは手間がかかる。 せめて着替えてから寝てくれれば良いのにと思いながら着替えさせ終えた頃には、の眠気はすっかり覚めて、けれど酔いで色々と面倒な気分になってくる。 「……いい。もう、寝よう」 自分の着替えをする気も無くなったは、暢気に寝ているセフィロスの隣に下着姿のまま寝転がる。 半日も酒を飲んでいた彼の体は汗ばみ、触れた肌が少しベタついていたが、それは自分も同じこと。 蘇ってすぐの頃なら、面倒と思いつつ彼の体を濡れたタオルで拭いてあげるくらいは献身的だったが、そんな過保護さと甘やかしは遠い過去。 怪我や病気ではなく、酒を飲んだ末の事なので、は彼の体の状態もそのままに眠りについた。 | ||
2025.04.29 Rika |
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