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Illusion sand ある未来の物語 133話 予想以上に埃に塗れた体をシャワーで洗い流しながら、は一つ大きく息をつく。 暖炉の煙突をブリザドで補強し、昼間からずっと火をいれていたので家の中は暖かい。 けれど、やはり北国の冬から寒さは切り離せず、知らず知らずのうちに体の芯が冷えていたようだ。 暖かなお湯を頭の上からかぶりながら、横着せず浴槽に湯を張ればよかったかと少し後悔する。 けれど、既に体は十分温まっているので、それは明日にしよう。 そう考えてシャワーの温かさに頬を緩めた瞬間、突如冷水を吐き出しはじめたシャワーに、は一瞬固まり何故か掌でシャワーヘッドを抑えた。 「んぬぐぅ!!?な、何だ!?何故だ!?」 油断していた所に食らった突然の冷水に、はあたふたとシャワーの向きを変えて蛇口を止める。 お湯の温度を変えた覚えはなく、蛇口横のつまみも40℃のままだ。 どういうことかともう一度蛇口を開けるが、温度設定部分をどれだけいじっても、シャワーからは冷水しか出てこない。 壁にある給湯器のパネルを見ると、それは何故か電源が切れていて、何度スイッチを入れても反応してくれなかった。 「このタイミングで壊れるだと……?」 給水ポンプが壊れていないだけマシだろうか。 そんな慰めにもならないことを考えながら、は諦めてシャワーから冷水を出し、魔法で温度を上げてから冷えた体を温めなおす。 セフィロスが先にシャワーを済ませてくれていたのが、せめてもの幸いだろうか。 だが明日の風呂は、今のように魔法で湯を作りながらのものになるだろう。 「大した労力じゃないが……ちょっと面倒だな」 そんな事を呟きながら、帰り道はどこかの温泉に寄りたいな……と、はのんびり考えた。 「、給湯器が壊れた。お前の方は大丈夫だったか?」 「ええ。シャワーの途中で冷水になったので、驚きました。魔法で温めましたが、油断したところに冷水は、少々辛かったですね。貴方は、台所の片付けを?」 「ああ。途中で水になって、パネルも反応しなくなったからな。下で確認してみたが、電源が全く入らん」 「古い機械ですし、ここを出てから保守点検もしていませんでしたからね。むしろよく持った方かもしれません」 「せめてあと3日もってほしかったがな」 「同感です」 着替えを終えて脱衣所から出ると、丁度セフィロスが地下室の階段がある物置部屋から出てきたところだった。 地下のヒヤリとした空気を纏ったままの彼に、はその周りの空気を暖めて指先に触れる。 やはり、セフィロスの手は冷えてしまっていた。 その指先を、湯上がりで温かな手で温めようとしただったが、地下から戻った彼の手は少し埃で汚れていて、握る前に逃げられてしまった。 「気持ちはありがたいが、汚れている。せめて手を洗ってから温めてくれ」 「おや寂しいことをおっしゃる。ですが、それなら、私の手ではなく暖炉で温めた方が温かいでしょうね」 「……お前が言っている事の方が寂しい気がするが?」 「でしたらこのまま私に温められましょう?ほら、湯上がりですから、温かいですよ」 リビングの扉を開けて暖かな空気に包まれたのに、それを無視して手を取ったに、セフィロスは苦笑いしてその手を握り返す。 地下にいた自分の手よりは温かいが、言うほど温度が高くないの手に内心首を傾げたが、彼女は満足そうな顔なのですぐ気にならなくなった。 彼女に手を引かれ、まっすぐ向かった暖炉の中には、小さく爆ぜる音を立てながら薪が燃えている。 けれど、その薪の下に見慣れない銀色を見つけて、セフィロスは首を傾げた。 「、薪の中に何か入れたのか?」 「ええ。せっかくなので、芋を」 「……さっき夕食を食べたばかりの気がするが」 「もちろん、おつまみ用ですよ。アルミホイルの中に、芋とベーコンを入れて胡椒を振ってあります」 「……ならいい」 「芋が焼けるまで、もう少しかかるでしょうから、その間に台所の片づけを終わらせましょう」 今日も飲むのか……。 というセフィロスの視線に気づかぬまま、は彼が途中にしていた台所の片付けを再開しに行く。 少し遅れてついてきたセフィロスは、布巾を手に取ったものの、が洗った皿の水気を熱で飛ばしていることに気づくと、布巾を置いて晩酌の準備を始めた。 半分ほど片付けたリビングを見回すと、壁には飾っていた写真や絵の跡がくっきりと残っている。 ぼやけた跡はカレンダーをかけていたところだろう。 明日は2階を片付ける予定だが、昔の荷物は以前から片づけをしていたので、そう時間はとられないはずだ。 早ければ明日の夕方、遅くても明後日にはこの家の片づけを全て終えられるだろう。 夕食に使った小鍋を最後に洗い、水切り籠に乗せたは、手の水気を拭うとポケットから携帯を出す。 アーサー達は昨日に引き続き元ゴールドソーサーエリアの砂漠で魔物の討伐をしているらしい。 彼らとは近いうちにゴンガガで合流し、そこでアーサーの若返りを解くことになっているが、その後どうするかは聞いていない。 行き当たりばったりの旅を楽しんでいるようなので、詳しい合流日時はもちろん、合流後の事ものんびり考えているのかもしれない。 『さて、後は酒を飲んで寝るだけだ』と、は洗い残しの食器がないことを確認する。 暖炉で焼いていた芋は、が台所を片付けている間にセフィロスが回収してくれた。 ソファの前にあるテーブルに、晩酌の準備ができている事を横目に確認しただったが、しかしリビングに彼の姿がない。 トイレだろうと思いながら、一足先にソファに腰かけたは、ワインの栓を開けると二つのグラスに注ぐ。 丁度良くリビングのドアが開く音に振り向くと同時に、フッと室内の明かりが落ちた。 けれど完全な暗闇になはらず、室内は柔らかな暖炉の火と、窓から入り込む月と雪の青に照らされている。 冬ごもりの時は、時折暖炉の火だけにして2人で飲んでいたので、今日もそうするのだろう。 そう考えて、はそのままセフィロスを待っていたのだが、彼はなぜかドアの前に立ったまま動かず、辺りをゆっくりと見回している。 「セフィロス、いらっしゃらないんですか?」 「、今、何もしていないのに電気が消えなかったか?」 「……ん?貴方が消したんじゃないんですか?」 「俺は何もしていない。ドアを開けて中に入ったら、電気が消えた」 「………壊れてしまったのでしょうか……?」 「廊下の電気も消えている。ブレーカーか、地下の発電機だろうな」 「立て続けですね」 「給湯器が壊れた原因は、劣化だけでなく、発電機のせいでもあるかもしれんな」 「見てきましょうか?」 「いや、俺が行く。お前は先に飲んで待っていろ。電源だけ落として、すぐに戻る」 今日はもう酒を飲む以外に予定はなく、明日は陽の光があれば片づけができる。 発電機が駄目となると、給水ポンプも使えないが、水は塩や布と同じく旅に必要な分を持っているので問題はなかった。 明日の食事は竈か暖炉で調理しようと考えている間に、セフィロスはリビングを出て行った。 皿の上に乗った芋が冷め始めているのに気づいたは、ファイアでじりじり表面を炙りながら、消えた照明の近くにホーリーで代わりの照明を作る。 ベーコンが焼ける匂いに頬を緩めていると、地下を見に行ったセフィロスが戻ってきて隣に腰を下ろした。 「おかえりなさい。どうでした?」 「原因まではわからんが、とりあえず電源は切ってきた。寝ている間に火が出ることはないだろう」 「そうですか。ありがとうございます。ですが、少し行っただけなのに、服が冷たくなってますね。暖炉の前に移動しますか?」 「いや、この部屋は暖かい。そこまでするほどじゃないだろう」 「わかりました。では、グラスをどうぞ。飲んでいれば、体もすぐに温まるでしょうし」 「ああ」 から差し出されたグラスの中身を一口飲んだセフィロスだったが、その視線は皿の上の芋に向かっている。 良い香りを漂わせながら湯気を立てているのだし、仕方がないだろうと小さく苦笑いした彼女は、箸と皿を彼の方へ寄せると自分のグラスに手を伸ばした。 発電機が使えないとなると、給水ポンプも動かず、トイレの水が出てこない。 とはいえ、それは魔法でどうにかするか、外から雪を持ってきて溶かしたものを置いておけば良いので、あまり深刻な問題ではなかった。 排水の浄化槽は電源式ではなく、にはよくわからない、微生物だの、自然の力だのを利用した構造なので、停電状態でも支障がない。 明日の夜も泊まることになっても問題ないことを改めて確認すると、は自分の芋に箸を伸ばした。 翌日の片づけは、2階の客間にあるクローゼットの中身を片付けたが、既に粗方の品を持ち出していたので、残った物を見て雑談する余裕さえあった。 残っていた電子機器や記憶媒体は、古いパソコンに繋ぐこともできず、中に何が入っているのかももう分からない。 久しぶりに時代の流れを感じながら、取りこぼしがないことを確認した2人は、ほかの部屋を軽く確認すると寝室へ向かった。 残していた衣類のうち、必要なものは朝着替えた時に確保した。 クローゼットに残っているのは、着古したものや、長く留守にしている間に虫に食われてしまったもの。 そして、がセフィロスの知らぬ間に入手していた、尖りすぎたセンスの小物たちだ。 「たしかに時代遅れにはなりましたが、物は良いですし、捨てるのは少し後ろ髪が引かれますね」 「流行り以前にセンスの問題だ」 「……貴方がそう仰るなら、そうなのでしょうけど……おや?棚の奥に何か……面白い色のスカーフが……」 「待て。駄目だ。取るな。残しているのは捨てるものだろう?」 緑とも紫とも言えない不思議な色合いの斑柄スカーフを見て、ちょっと嬉しそうに手を伸ばしたを、セフィロスは全力で止めた。 「ですが、使った記憶も見覚えもありませんし、もしかしたら確認し忘れたのかも……」 「だとしてもこの色柄はない。スカーフが欲しいなら帰りに選んで買ってやる。だからコレだけはやめろ」 「別にスカーフが欲しいわけではないので結構ですよ。それに……貴方がそこまで仰るならあきらめますが……そんなにおかしいデザインですか……?」 「…………」 「無言で肯定しないでください」 「このスカーフは、もう燃やすぞ」 ミディールに帰ったら、が持ち出す服をもう一度チェックしよう。 そう記憶に刻んだセフィロスは、変な色柄のスカーフの何が悪いかわからず首をかしげるから視線を外し、リビングへ向かう。 納得しても腑に落ちない顔でついて来た彼女の目も無視して、暖炉の前に来た彼は、手に持っていた変なスカーフを暖炉の火にくべた。 燃える薪の上に乗ったスカーフは、一瞬辺りの火を弱めたが、端から徐々に燃え始める。 えも言えぬ色合いのスカーフだが、炎の中にあるとちょっとだけ綺麗に見えた気がしてなぜか腹立たしい。 立ち上がったセフィロスは、スカーフが燃え尽きるのを見届けないまま寝室へ戻り、も残念そうに一つため息をつくと後を追った。 「思ったよりも片付けが順調ですね。午後には終わってしまいそうです」 「そうだな。日が暮れる前に終わるなら、どこかに泊まってから帰っても良いかもしれん」 クローゼットの前に戻り、改めて片づけを始めた二人は、一度も袖を通すことなく終わったフォーマルゥエアを廃棄の箱に入れながら相談を始める。 家の焼却は魔法で一瞬だし、移動はバハムートに乗るので、ジュノンとウータイ以外なら夕方には着ける。 「では旧ロケット村エリアにしませんか?裁縫用の針と、調味料を少し買い足しておきたいので」 「わかった。……そうだな。俺も、靴と靴下を買い足しておきたい」 「では中心街のホテルを予約しておきますね。いつもの装備屋に行かれるのでしょう?」 「そのつもりだ。浴槽があって風呂が広いホテルがいい」 「わかりました。では、予約している間片づけをお願いしますね」 「ああ」 以前利用したホテルの中に、セフィロスの希望に合う場所があったのを思い出し、は携帯を取り出しながらベッドに腰を下ろす。 最後に利用したのは数年前なので、まだ営業していれば良いが……。 そう思いながら探してみると、そのホテルは名前を変えて営業していた。 客室写真で浴室を確認し、すぐに予約を入れたは、顔を上げたさきにあった鏡越しに、持ち出しの箱から何か取り出しているセフィロスに気が付く。 首をかしげながら見ていると、どうやら彼はが持ち出しと判断した衣類を確認しているようだった。 がセフィロスの目を盗んで入れた手袋やマフラーが、次々と発見されては、こっそり廃棄の箱に移動されていく。 どれもこれも、セフィロスがいつの間に買ったのだと問うてきた物だが、は良い色合いだと思ったものばかりだ。 先に目を盗んだのは自分だが、人のものを勝手に廃棄に回すのは、流石に酷いのではないか? ちょっと納得できない気持ちになっただが、コソコソと作業しているセフィロスの姿が面白く思えて、あまり腹が立たない。 けれど、人のものを勝手に捨てようとするのはやはりいけないので、ここは良識的観点から注意しよう。 そう口を開きかけただったが、今度は廃棄の箱から確保へ物を移し始めたセフィロスに、話しかけるのをやめる。 流石にの服を抜いて自分の服を入れる人ではないが、一体何を移動しているのかと、は注意深く見つめた。 最初に確認できたのは、黒と赤の色と、小さなものという情報だ。 ハンカチほどの大きさだが、そんな色のハンカチあっただろうか。そう首を傾げた彼女の目に次いで映ったのは、買ったは良いが少し露出が気になって箪笥の肥やしにしていた水着だった。 『うん?』 水着なら、既に何着か確保していたが、セフィロスは忘れているのだろうか? 内心首をかしげる彼女に気づかず、セフィロスは水着を箱に入れ、再び廃棄の箱を漁り始める。 次いで彼が手にしたのは、数回しか使っていないが似たものが他にあるからと廃棄にした、赤い総レースのショーツだった。 クロッチ部分までレースで出来ている変わった品だが、通気性は良くとも布のクロッチの方が履き心地が良いので、履かなくなった1枚である。 あれば使うが、間違えているのか、単に勿体ないと思っての行動か。 よくわからず見つめ続けていたは、セットのブラジャーとガーターベルトまで持ち出しの箱に移しているセフィロスに全てを理解し、静かに項垂れた。 答えが分かると、先ほど見た黒と赤の布もハンカチではなくランジェリーだったと理解できる。 健全な男の欲だと寛大に受け入れるべきか、馬鹿な事をしていると恥じるべきか、こっそり入れ替えてる姿を憐れんで許すべきか。 迷ったところで、こんな問題の答えなんぞわかるはずがなかった。 「……………」 どのタイミングでどう声をかけたら良いものか……。 家電や住宅設備が壊れるのは想定していたが、夫まで壊れるなんて予想外である。 悩むがちらりと視線を上げた先の鏡には、持ち出しの箱からの密かなイチオシアイテム『超スタイリッシュなサングラス(内緒で通販した)』を見つけて、痛々しいような憐れむような目をしながら廃棄の箱にそっと入れているセフィロスの姿があった。 同じ目で見つめかえしてやろうか。 ルーファウスが生きていたら愚痴れたのにと内心下唇を噛むに気づかず、セフィロスはまた廃棄の箱からの下着を取り出し、持ち出しの箱に移動している。 『それは貴方が汚したがるから廃棄にしたのに……』 誰が洗濯をしていると思っているのか。 刺繍とレース、何より着心地が良くてお気に入りだったのに、手洗いの手間もあって止む無くお蔵入り、そして廃棄と決めた品を、勝手に戻すのはやめていただきたい。 彼の美的センスから問題と判断して破棄された品々は良いが、勝手に持ち出しに戻された下着類は、後でこっそり燃やしておこう。 セフィロスの独断専横に腹が立ってきたは、密かにそう決意すると、わざと携帯を手から滑り落とす。 一瞬ビクついた彼の背中を鏡越しに見て、少しだけ溜飲が下がったは、腰かけたベッドを軋ませ、前かがみになって携帯を拾うと、ゆっくりとした動作で立ち上がり振り向いた。 いつも通りの顔で振り向いて見せたセフィロスは、まったく後ろめたさのない顔で廃棄の箱の蓋に手を伸ばしている。 大した面の皮の厚さだと思いながら、はホテルの予約完了画面を開きなおし、セフィロスに差し出した。 「セフィロス、宿がとれましたよ」 「ああ。荷物の仕分けは終わった。持ち出しの箱に封をしてもいいか?」 「…………どうぞ」 「?……、どうかしたか?」 「いいえ?何でもありませんよ?」 「……そうか。ならいい」 怪訝な顔をする彼に、口元だけの笑みを返すと、は携帯に視線を戻す。 夕食の店を探し始めた彼女に、セフィロスはそれ以上問うのをやめると、持ち出しの荷物を運び出し始めた。 その背中に向けられる妻からの生暖かい視線に、彼が気づくことはなかった。 |
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何でセフィロスがアホになってしまったのか…… 2025.04.04 Rika |
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