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後頭部をサワリと撫でながらうなじを針で刺されるような感覚に、は閉じていた瞼をゆっくりと開く。 うなじをそっと撫で、小さく息を吐いた視線の先には、冬の雨が窓の景色を滲ませていた。 人々が新生古代種を祭り上げ、星が白マテリアを使うことを良しとしているのは理解できる。 だが同時に、空にあるメテオと星の間には、それと真逆の色をした力の繋がりを感じる。 何を考えているのやら……と、ぼんやり思案するが、そもそもの根本が違う星の考えを、元が人間であるが完全によむのは難しい。 一体どこからどこまでが星の意思なのか。 相変わらずよく分からんと思いながら、は数日ぶりになった携帯を手に取った。 Illusion sand ある未来の物語 132話 画面には、今日倒した獲物を囲んで笑顔の元生徒3人が写った写真が表示されている。 各地を巡りながら魔物を狩る凄腕の3人組がいると噂されていることを、本人たちは気づいているのか、いないのか。 新たな英雄扱いされて祭り上げられないうちに、迎えに行った方が良いかもしれないと考えている間に、年が明けてしまった。 カーフェイ達の旅が進むと同時に、達も荷物の殆どを整理し、ミディールの家は最低限の家具と食器があるだけになった。 暖かな冬に心惹かれつつも、とセフィロスはようやく重い腰を上げ、アイシクルエリアの家を片付けに行くことにした。 本来なら、雪が降る前に向かうべきだったが、北の寒さを避けてズルズルと先延ばしにした結果だ。 片付けに向かったまま冬ごもりを始めそうな気がしながら、とセフィロスは白昼堂々バハムートに乗ると、南の海からアイシクルエリアを目指した。 異変を察知したWROの飛空艇が出てきたが、もはやルーファウスに迷惑をかけることもないので、2人は隠れもせずに、悠々と追っ手を振り切る。 アイシクルエリアの家に着くなり、いつかのように家の周りを雪と暴風の壁で覆った。 「やはり人がいないと、雪が酷いですね」 「1階の窓が見えているだけ、まだ良い方だろう」 「サッシが辛うじて見えているだけですけれどね……」 「この地方なら、十分にマシだ」 以前住んでいた時とは違い、家の壁には吹き付けた雪が張り付き、屋根にはの身の丈を超えるほどの雪が積もっている。 畑にあった物置小屋は雪に埋もれ、辛うじて屋根が見える程度。 家の前にある車庫に至っては、雪の重さで屋根が崩れていた。 「ひとまず、外と中で手分けしましょうか。セフィロス、どちらが良いですか?」 「そうだな……それなら、俺が一通り外を片付ける。、お前は中を温めておいてくれ。ただし、暖炉に火を入れるのは、煙突を掃除した後だ。頼めるか?」 「ええ。ついでと言ってはなんですが、台所の竈の煙突も、軽くブラシを通してきていただけますか?」 「外れていなければ……な」 暖炉と違い、簡易な合金の筒を繋いだだけの竈の煙突は、ここで生活していた時も、何度か風雨で外れたことがある。 その時のように煙突が外れていたとしたら、外れた煙突は雪山の中だ。流石にそれを見つけてこいとは、も言わない。 雪国に住んでいた頃より、ずっと厚着をしているセフィロスが魔法で玄関前の雪を飛ばすと、は鍵穴にこびりつく氷を溶かして錠を差し込んだ。 幸い錠の中までは凍っておらず、鍵はあっさりと回って開錠の音を鳴らす。 玄関を開けても、中の温度は外とほとんど変わらない。 ドアを開けたまま家の中に魔法で風を送り、床や家具に積もった埃を外へ出すと、中の空気を暖めながらドアを閉める。 冬なのに、電気をつける必要がないほど家が明るいのは、窓の外から雪の白が反射しているからだろう。 いつもの冬とは違い、今年は家を処分する気でいたため、窓を板で覆っていないのだ。 「一度くらい、窓を覆わずに冬を過ごしても、よかったかもしれないな……」 雪と氷柱によるガラスの破損を避けるため、冬は1階の窓を覆って過ごしていたが、いくら2階は覆っていないとしても閉塞感で気が滅入りやすかった。 ガラスだけだと、外の冷気が容赦なく伝わってくるが、空気の温度調節などにとって苦にはならない。 少し惜しいことをしたと思うが、ならばこの冬をこの家でゆっくり過ごすかと問われれば、迷わず『寒いから嫌だ』と答えるだろう。 最初は目新しく楽しんでいた北国の冬だが、20年近く過ごした後で温暖な冬を知った後だ。 数日の旅行でなければ、普通に遠慮したかった。 「まずは……台所だな」 セフィロスが竈の煙突を掃除してくれるのは大分先だろうけれど、今日の食事の準備ができるように整えなくてはならない。 水道の元栓を開け、蛇口から出てきた水に異常がないことを確認すると、は視界の端に動いた白に窓へ目をやる。 舞い上がる雪が景色を覆い隠す様に、セフィロスが家の周りの雪を飛ばしているのだと理解するのはすぐだった。 舞い上がる雪が落ち着いたら、リビングの窓を開けてもう一度換気をしよう。 そう考えながら日に焼けて色が変わったラグを畳もうと手を伸ばしたところで、家の外からバキバキという大きな音が響いてきた。 納屋や燻製小屋を潰したにしては近い場所から聞こえた音に、はリビングの窓から外を見る。 家の南側が見える窓の方へ行くと、飛ばした雪の中で立つセフィロスと目が合った。 そのまま、彼の視線で促されて窓の外へ視線を戻すと、塵とともに舞う雪の下に、折れた木材の山が混じった雪山がある。 「……ウッドデッキが……壊れたのか……?」 それとも、経年劣化と雪の重さで、既に崩れていたのだろうか。 彼の反応を見るに、元々形は保っていたが、雪を飛ばそうとしたら一緒に崩れたような気がする。 セフィロスに聞かねば詳細は知れないが、よく昼寝や昼食をとっていた場所が瓦礫と化しているのは間違いない。 近年では夏や秋に来ると、雑草が茂るどころか壁の一部が蔦に飲まれている事もあったので、ウッドデッキどころか家の壁も相当に傷んでいることだろう。 畑だった場所も、使わなくなると、あっという間に森との距離が縮んで、今ではど真ん中に若木が生えている。 囲っていた柵は建築学校に入って3年目には腐りはじめ、付近に戻ってきた魔物や野生動物の襲撃もあって、今は無くなってしまっていた。 最後に家を燃やすまで、数日は寝泊まりするつもりで来たが、それまでこの家はもってくれるだろうか。 少しだけ不安になっただったが、本当に危険な状態なら、屋根に雪が積もる前にどうにかなっているだろうと考え直す。 窓の外にいたセフィロスは既に気持ちを切り替え、ウッドデッキの破片ごと雪をまとめている。 達が住むと同時に増築した竈がある土間が、除雪の風の影響で少し屋根をきしませていたが、は無理やり気にしないことにした。 もし除雪途中で家が破損したら、そこはブリザドで固めて応急処置すればいい。 気持ちを新たに食器棚を開け、処分する食器と持っていく食器を選ぶ。 残せる数に限りはあるが、シヴァがある程度の生活道具なら預かると言ってくれたので、想定より手放す物は少ない。 今後の路銀にする布や岩塩、ナイフ等で荷物7割が埋まっているので、かなりありがたい申し出だった。 代わりに良い酒を数本と、ちょっと高めのティーカップを求められたが、預かり代とすれば安いくらいだ。 棚の中身を殆ど廃棄の箱に移し、別の棚にしまっている調理器具をえらぶ。 使い慣れているものはジュノンに移住するとき持ち出したので、残っているのは殆ど使わなかったものや、大きな鍋ばかり。 だが、その分痛みが少なく、少々捨てるにはためらうものだ。 しかし、そんな事を言っていてはいつまで経っても片付かないので、はそれらも容赦なく廃棄の箱に突っ込んだ。 調理器具に関しては、セフィロスの意見を聞いた方が良さそうではあるが、彼に荷造りや片づけをさせると途中で別の事をしだすのだ。 過去数度の引っ越しで毎回同じことをされたは、今回は彼を台所の片付けにかかわらせないと決めた。 どうせお気に入りの鍋や包丁は、ミディールに持ってきているか、こっそり隠し持っているだろう。 この数日使うだけの調理器具を残して箱に入れると、土間は箱で埋まってしまった。 竈の周りだけ荷物を除け、そのまま窓の外を覗いてみると、家を半分埋めるようだった雪はすっかり綺麗になっていた。 玄関の方へ向かうセフィロスの後ろ姿を確認して、は壁にかけてある大きなザルや鍋を下ろす。 野菜の収穫にも使っていた竹製のザルは、ここで過ごした最初の年にウータイで買ったものだ。 長く使わず壁に引っ掛けていたせいか、乾燥しすぎて端が割れてしまっている。 「む……仕方ない、薪にするか」 後で暖炉にでも突っ込んでおこうと決めて、は割れたザルを手に暖炉横の薪入れに向かう。 玄関が開く音が聞こえたので、少しだけ室内の温度を上げて待っていると、鼻を赤くして頭にうっすら雪を積もらせたセフィロスがリビングに入ってきた。 「おや、寒そうですね。大丈夫ですか?」 「寒すぎて、自分の周りの温度調整がうまくいかん。ところで、これから煙突の掃除をする。暖炉の煙突穴に袋をかけて、暖炉の口を塞ぐぞ」 「袋は薪のところにありますが、ゴミ受けの袋をかけるフックは以前掃除した時に壊れて外れてしまったはずですよ?どうするんですか?」 「……そうだったな。とりあえず、見てみよう。駄目ならブリザドでフックを作るか、諦めて暖炉の口だけ閉じて掃除する。、軍手はあるか?」 「すぐ出せるのは、そこにある薪用だけですが、よろしいですか?」 「十分だ」 暖炉の横で壁に沿って積まれている薪の上から、少し汚れた軍手を取って差し出すと、セフィロスは気にせず受け取って暖炉の前に膝をつく。 暖炉の中に灰はなく、積もっていた埃もすでにが綺麗にしていたので、彼は身を屈めると体を半分暖炉の中に潜り込ませて煙突の口を確認し始めた。 近くにいても邪魔になるので、はその場を彼に任せて台所の片付けに戻る。 最終的には廃棄予定の荷物も家ごと高温で燃やして塵にするので、普通の引っ越しほど手間はない。 セフィロスに見つかって口出しされる前に……と、珍しいが滅多に使わない調理器具を廃棄の箱に突っ込んでいると、彼が魔法を使った気配がした。 身の回りの温度調節も上手くできなかったようだが、ちゃんとできたのだろうかと覗いてみると、彼が二度、三度と魔法を使う魔力の揺らぎが伝わってくる。 代わってあげるべきだろうか。 そう考えて声をかけようとしたところで、セフィロスの舌打ちが聞こえ、暖炉の煙突穴を覆うように氷の箱が作られたのが見えた。 まあ、細かいフックを何度も作り直すより、直接氷のゴミ箱をくっつけた方が確実ではある。 一瞬物言いたくなっただったが、それで掃除ができるなら良いかと考え直した。 このままでは廃棄の箱で台所の床が塞がれそうだったので、は勝手口を開けて荷物を外に出していく。 その間にセフィロスも外に出て屋根に上ったようで、床が綺麗になる頃には屋根からギシギシという足音が聞こえてきた。 昔屋根の上で作業していた時は、そんな音はしていなかったが、やはり建物自体が相当傷んでいるようだ。 達が住む時には内装と竈を置く土間に手を入れただけで、建物自体にはほとんど手を加えていない。 ルーファウスがこの建物を購入する際、いくらか修繕したそうだが、それも今から50年近く前の事だ。 傷んで当然だろう。 「……ん?来る時、煙突の上の雨よけ、あったか……?」 昔、冬の暴風で吹き飛び、セフィロスが牧場主に教えてもらいながら作り直した煙突上部の雨除け。 以降、毎年冬になる前に留め具や溶接に不具合がないか、確認していたが、今年はそれをしていなかった。 今日バハムートで来た時、それがちゃんとついていたか確認しなかった事を思い出して、はギシギシと鳴る天井を見上げる。 たとえ雨よけがなくなっていても、使うのはこの数日だけなので、それも気にしなくて良いだろうか。 そう考えていると、煙突内部をブラシが擦っていく音がして、暖炉の中のゴミ受けに煤がパラパラと落ちてくる。 「随分少ないな。暫く使っていないし、もう少し小枝などが詰まっていても良さそうだが……」 意外だ……。 そう思いながら暖炉の上に伸びる煙突を眺めていると、ブラシの音がゴツゴツと何かを突く音に変わる。 どうやら大きなゴミが詰まっていて、下へ突き落とそうとしているらしい。 1年近く使わない暖炉の煙突なら、鳥が巣を作る事だってあるだろう。 詰まったゴミは手ごわいのか、何度も音が響いていたが、やがて側面にくっついている場所から取る事にしたようで、壁を突くような音になる。 煉瓦の周りにコンクリートを塗った丈夫な煙突だが、セフィロスの力で突かれて壊れないだろうか。 そんな心配をしている間に、暖炉内のゴミ受けには鳥の巣の残骸らしき小枝の塊がバラバラと落ちてきた。 けれど、それは煙突を塞ぐには足りない量で、まだセフィロスは煙突を貫通させようと頑張っている。 詰まっているのが木の枝なら、魔法で燃やしながら上に風で吹き飛ばせば良い気がするが、セフィロスがそうしないという事は屋根の上にある煙突はかなり傷んでいるのかもしれない。 しかし、再び隠居生活状態になったせいか、最近のセフィロスは力加減が少し下手になっている。 故郷の世界に行ったら、少し人と交流する生活をした方が良いかもしれない。 そんな事をがのんびり考えていると、ボコォ!という音と共に煙突の一部が割れ、へし折れた煙突ブラシの先が煤やゴミと一緒にリビングに降ってきた。 セフィロスは、うまくゴミが取れなくて、苛々したのかもしれない。 降り注ぐ煤やゴミが家具につく前に、はエアロでそれらを巻き取り、穴が開いた煙突をブリザドで塞ぐ。 煙突内部は蔦植物が茂っていたようで、空いた穴から黄緑色の葉をつけた蔦が飛び出てきた。 氷の壁からはみでた蔦は、風の刃で切ってゴミと一緒にした。 詰まっていたゴミは全て煙突からはぎ取れたようで、暖炉の中のゴミ受けには大きな鳥の巣の残骸が落ちてくる。 蔦もいくらか混ざっているが、そちらはまだ煙突内部に張り付いているのか落ちていなかった。 がした対処も、セフィロスは魔力の動きで分かっているだろう。 説明と話し合いは後回しにして、はウッドデッキに繋がっていた扉を開くと、積みあがる雪と瓦礫の上に煙突破壊で出た残骸を置く。 ついでに煙突内のゴミも回収してそこに置いておいた。 煙突がここまで脆くなっているのは、蔦植物のせいもあるだろう。 セフィロスの馬鹿力……筋力のせいだけではないはずだ。 残っている蔦は、暖炉の中に垂れ下がっている枝を引っ張れば取り除けそうだったので、そこはセフィロスに任せることにした。 リビング内に煤が落ちていないことを確認すると、はテレビボードの引き出しを開けて再び整理を始める。 煙突掃除を中断したセフィロスが、屋根の端から飛び降りると同時に木が割れる音がして、屋根の一部が降ってきたのを見たは、やはり彼の力加減のせいかもしれないとちょっとだけ考えた。 |
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2025.04.02 Rika |
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