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温かな珈琲で唇を濡らしながらが告げる昨日の顛末に、時折セフィロスが補足を挟み、ルーファウスの小さなため息が混じる。
険しい顔で聞くカーフェイの隣では、ガイが遠い目で何かを考え込み始めたが、一通りの報告が終わるといつもの表情に戻った。



Illusion sand ある未来の物語 130話



「……報告は以上です。では、続けて今後の話をしますね。不確定要素があるので、分かっている事だけ簡潔に言いますが、おそらく1年以内に、セフィロスが落としたくらいのメテオと、それにへばりついた新たな災厄が降ってきます。目的は、二転三転した結果、カーフェイとガイに宿ったクリスタルの力になるでしょう。……ん?ガイ、カーフェイ、大丈夫か?顔が青いぞ?」
「青くもなるよ!」
「やっぱりアンタ疫病神だー!!」

「そう取り乱すな。私とセフィロスが傍にいて、ルーファウスごと守る。危険はない。それで、ルーファウス、災厄の相手は人類に対処させますが、最近また星の動きが怪しいので、人類の戦力が3割削られた時点で召喚獣を向かわせ、様子を見ます。とはいえ、人類が超えるべき試練ですから、こちらに直接攻撃をしかけてこないうちは、何もしません。……時間の問題かもしれませんがね」


やっぱりあの時助けてもらうんじゃなかった!と叫ぶガイ達をそっとしておいて、はルーファウスと目をあわせる。
年甲斐もなく取り乱す部下を一瞥するも、からの報告に動揺を見せなかった彼は、達観と諦観を僅かに滲ませる目で彼女を見つめ返した。

まだ先があるのかと言外に問うてみせる彼に、は小さく苦笑いを零し、隣にいるセフィロスの顔を伺いみる。
怪訝な顔をして僅かに首を傾げた彼に、何も気づいていないと理解した彼女は、全員を守る事になるやもと考えながら穏やかな笑みを作った。


「新たな災厄の接近に比例してか、星の動きが不穏であることは申し上げた通りです。けれど、もう一つ。星の動きと同じくして、この世界の次元が揺らぎを見せています。どれも、自然現象で済ませられるほどに小さなものばかりですが、この数年でずいぶんと活発になってきました。主な場所は北の大空洞と、ミッドガル跡。そして、星の内部であるライフストリームも。ルーファウス、セフィロス、貴方達は、この現象について、何かご存じですか?」
「次元の揺らぎとなると私が持つ知識の中にはない。セフィロス、お前はどうだ?」
「次元の亀裂や一時的に異なる場所へ行ける現象は、昔も稀に観測されていたが……、お前が今改めて言うということは、それらとは別物なのだろうな……」


「ええ。似て異なるもの……いえ、この世界の者にとっては、さしたる違いは感じないのかもしれませんが……私はその揺らぎに、星の力を感じました」


かつて生まれ育った世界の景色が無の力に呑まれた時のような、自然現象とは違う歪みを感じたものの、それはにとっても漠然としか言葉にできないものだった。
把握のできないものを説明するのは難しく、この世界で生まれ育った二人に手がかりを求めたが、やはり良い答えは得られない。
だが、専門家や科学者でもない二人に、自分が感じた微々たる違和感に気づけと言う方が無謀だとも理解している。


「正直、星の動きは気にかかります。こちらがいつでも星を破壊できる以上、馬鹿な真似はしないでしょうけれど……だからこそ、狙いが読めません」


そう言いながら思案し、けれど不信はあっても危機感はないの様子に、ルーファウスとセフィロスは視線を交える。
一瞬の視線の交差で意思疎通した二人は、頷き合うでもなくへ視線を戻した。


、一つ、聞きいても良いだろうか?」
「何ですか、ルーファウス?」

「お前が懸念しているその問題は、お前が考えるべきことか?」
「いいえ。これはおそらくこの世界の人類が気づき、考え、解決するべきものでしょう。いえ、もしかすると、気づくことすら必要がないかもしれません。ですが、ルーファウス、この星に一度煮え湯を飲まされた身では、どうしても疑り深くなってしまうんです」

「なるほど。もっともな話だ。だが、その様子では、お前と仲が良い召喚獣たちからも、悪い情報は得られていないのだろう?」
「ええ。この世界の運命は、星の意思に委ねれば良いと……」

「それがお前の不安か」
「……この星は、私に関しては碌なことをしてきませんし、召喚獣は基本的に世界の理や流れを優先します。警戒はしておくべきでしょう」


普段から積み重ねられている地味な嫌がらせもあり、今更警戒を解くのは不可能だ。
の隣で話を聞いているセフィロスもそれは同じで、何か仕掛けられずとも影響はあると踏んでいる。
とはいえ、わざわざ進んで表舞台に出る気はないので、人類が戦闘不可能になるまでは動く気はなかった。


、この2人が狙われているのなら、ここも襲撃を受けるのだろうか?」
「目標にはされますが、私とセフィロスがいますから、手を伸ばすことも許しませんよ。貴方たちは、普段通りに生活していてくださって、大丈夫です。事が起こるまでは、今まで通り週に一度顔を見せますね」

「期待しておこう」
「ええ。……セフィロスからは、何かありますか?」


今必要そうな事は話し終えたは、何か抜けはあっただろうかと隣を見たが、彼は首を横に振って返した。
ガイとカーフェイは不満顔だが、文句を言っても無意味と分かっている上、手出しさせないと約束されたので、苦虫を?み潰した顔をするにとどまる。

ただでさえ皺だらけの顔のルーファウスは、報告のせいでさらに老け込んだ様子で、疲れた表情を隠す余裕もなさそうだった。
次に会うときは、ベッドの上で対応されることになるかも……と思いながら、とセフィロスはカップの中身を空にし、早々にお暇する事にした。


ルーファウスの家から出ると、町の反対側は魔物襲撃を知らせる警報と戦闘音で騒がしい。
念のため、辺りに漂わせている自分の魔力を濃くしたは、野生動物の気配すらない事を確認した。
魔力による魔物と獣除けがされたルーファウスの家近辺は、他の地区の喧騒が嘘のように静かだ。
さすがのも、ルーファウスには心労をかけている分、これぐらいの平穏は守ってやらねばと思っているのだ。


、済んだなら、帰るぞ」
「ええ、今行きます」


さっさと車に乗ってしまったセフィロスを追って、も助手席に乗り込む。
道路には、まだ所々に木の枝や飛来物が残っているが、それらを回収する業者の車も見えた。


「あ、セフィロス、卵がなくなりそうなので、どこかへ寄っていただけますか?」

「わかった。いつものスーパーでいいな?」
「……いえ、そこは来る時は閉まっていたので、別の店が良いかと」

「中央通り辺りで探す」
「おねがいします」


晩御飯はセフィロスが作った茶碗蒸しが食べたいな……とが考えている間に、車は道路に出て少し汚れた道を進んでいく。
ルーファウスの家には1時間も滞在しなかったので、町の状況は来る時とそう変わりはないものだった。

いつもルーファウスの家に顔を出した後は、適当な温泉施設に寄って寛いでから帰るのだが、今日は控えたほうがよさそうだ。
家の風呂も温泉を引いているのだが、やはり大きな風呂は気分が違う。

お気に入りの風呂屋の前を通り過ぎ、よく寄る料理屋が閉まっているのを横目に眺めていると、いくつものヘリが北へ飛んでいくのが見えた。
ミディールの外れにある、駐屯地から出てきたヘリだろう。


開いているスーパーを探して少し回り道したものの、何事もなく買い物を済ませて帰宅した二人は、着替えを済ませると普段通りに畑仕事を始める。

赤々とした苺を収穫するから少し離れたところで、セフィロスは種をまくための畝を作っていた。
時折、上をWROのヘリが通過するが、それ以外はいたっていつも通り平和な時間だ。

サラダ用の葉野菜も収穫し終えたは、セフィロスに断りを入れると、まだ手を付けていなかった畑の土を魔法で耕した。
同時に、雑草を燃やしながら土を柔らかく解し、けれど土の中に魔力を残すことはない。
それにセフィロスは呆れた視線を向けるが、特に何も口にはしなかった。

今日は蕪と人参の種を撒いたら、川に釣りに行く予定だったが、柔らかく耕された畑を前にして、何もしないのは落ち着かない。
明日の天気予報も晴天だった事を思い出すと、セフィロスは釣りを後回しにして、野菜の畝作りを始めた。




温暖なミディールの春は、ジュノン近郊よりも過ごしやすい。
少し山中に足をのばせば温泉が湧き出ている土地なため、少しだけ湿気は多いが、コスタ・デル・ソル近辺のような熱帯ほど酷くはない。
アイシクルエリアでは夏に着ていた衣類も、この土地では春物だ。

畑仕事を終えて汗を流した後は、薄手のワンピースにショールを羽織り、ペンを手に魔導書と向き合うのが最近のの習慣になっていた。

ラムウやオーディンがどこからか持ってきた魔法に関する書籍をひたすら解読し、危険度をつけながら紙にまとめていく。
長く保存できる紙とインクを探した結果、ウータイの伝統的な紙と墨に行き着いた。
アイシクルエリアで避難地域指定される前から買っているので、もう20年以上になる。
虫除けの薬を混ぜて作ってもらった紙は、それなりの金額がするのだが、は毎日使っているので消費が激しい。
書き終わった紙は穴を開けてファイリングした後、オーディンに預けているのだが、手元に置いていないせいで逆に消費量が分かりにくかった。

「……ん?紙がそろそろ無くなってきたか……」


オーディンがどこかの世界から持ってきた、土を操る魔法の魔術書を写していたは、机の引き出しにある残り5枚になった紙を見て呟く。
買い付けは、ウータイにある工房まで直接足を運んでいたのだが、今回の騒ぎであちらも忙しいだろう。


「次の納品まで、まだ10日はあるな……」


買い付けの時に次回分を発注しているが、手作業で作る紙なのでいきなり行っても十分な在庫があるかはわからない。
電話して、今ある在庫だけでも買えないか聞いてみようと考えながら、は机の上を片付けると、携帯をとりにリビングへ向かった。

……と言っても、今の家はベッドがある寝室と、小さな台所とリビング
の二部屋しかないこぢんまりとしたものだ。
もちろん、風呂もトイレもちゃんとあるがこれまで住んでいた家の中では一番小さい。

扉1枚開けただけで着いたリビングでは、セフィロスがソファに身を預けながらうとうとしていた。
が来たことに気づいて目を覚ました彼は、ゆっくりと座りなおしてが座れるスペースを作ってくれたが、今にも瞼が落ちそうだ。


「電話を取りに来ただけですから、そのままお休みになっていてください」
「ああ……魔法の勉強は、いいのか?」

「ええ。紙が足りなくなったので、切り上げました。買いに行くまでは休みます」
「……ん……?紙……何と言った?」

「セフィロス、眠いなら無理しないでください。大した話ではありませんから」
「……ああ」


春の陽気には逆らえなかったか、会話する間にもセフィロスの意識が時折落ちている。
テーブルの上ですっかり冷たくなっている彼のカップを端に寄せたは、彼をベッドまで運ぼうと手を伸ばした。
だが、セフィロスが座る場所に丁度差し込んでいる陽の暖かさと、気持ちよさそうな寝顔に、考えを変える。
力が抜けていく彼の長い手足をそっと支えたが、予想通り重さにはすぐ魔法で彼の体を浮かせ、ソファの上に横たえる。
小さな家なのに、ソファはセフィロスが横になれる大きさだ。
当然リビングのスペースは圧迫されていて、狭い室内が余計に狭くなっている。
クッションをセフィロスの頭の下に差し入れ、ゆっくりとレビテトを解けば、彼は少しだけ心地いい姿勢を探して身じろぎし、そのまま寝息を立て始める。

その寝顔を見つめながら少し考えたは、羽織っていたショールを脱いで、彼のお腹の上にかけておいた。

テーブルの上のカップを小さな台所に片付けると、改めて自分の携帯電話を探す。
いつも置いているテーブルの上はセフィロスのカップしかなかったので、おそらくどこかに置き忘れているのだろう。
物音で彼を起こさないよう気を付けながら、は狭いリビングの中を探し、棚の荷物の隙間にも目をやる。
引っ越すにあたって、かなり荷物を減らしたが、それでも生活に必要なもので壁につけた棚はいっぱいだ。
特に台所は収納が間に合わず、漬物樽や塩漬けの瓶を置く小屋を作る羽目になった。
今日はそちらの小屋には行っていないので、リビングか寝室のどちらかにあるはずだ。
魔導書の写しは、内容次第では途中で手を止める事ができないので、作業机がある寝室に携帯を持ち込むことはない。

いったいどこに置いただろうかと、テーブルの下やソファの下まで覗き込んだだったが、いくら探しても電話は見つからない。

後はセフィロスの体の下ぐらいしか探す場所がないが、気持ちよさそうに寝ている彼を起こすのは可哀そうだった。


「緊急でもないし……後にするか」


呟くと、は自分のカップを出して珈琲を入れ、棚の缶からクッキーを出す。
ソファがセフィロスに占領されているので、シンクに寄りかかりながらの休息だ。
窓辺に置いてあるラジオを小さな音量でつけると、いつものご当地番組ではなく災害緊急報道が流れてくる。
内容は主にエッジ周辺と近辺の沿岸部の被害状況。

自分でやった事ではあるが、騒がしい内容に小さくため息をついたは、そのまま熱いコーヒーに息を吹きかける。
WRO創設時からある基地が被害を受けたため、対応が遅れているという話を聞き流していると、また家の上を飛んでいくヘリの音が聞こえてきた。

いつもより低空で飛んでいるために音が大きく、はセフィロスが起きてしまうだろうかと心配しながら目をやる。

心配していた通り、ヘリの音で目を覚ました彼は、ゆっくりと窓の外へ目をやったが、ヘリの音が遠ざかっていくと再び眠り始めた。


「……3回目ぐらいで完全に起きるかもな……」


午前中もヘリはたくさん飛んでいたし、1時間に1回はかなりの低空で大型ヘリが飛んでいた。

夜、寝る時間は静かだと良いが……と心配しながら、はクッキーを口の中に放り込む。
この後、不機嫌に昼寝を切り上げるだろうセフィロスの機嫌をとるにはどうするべきか。
指先についた欠片を捨てながら考えたは、棚の籠に入っているレモンを手に取ると、パウンドケーキを作る準備を始めた。









2024.11.31 Rika
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