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遅い夕食をとった後、はカーフェイに任務完了の連絡のメッセージを送り、詳細は明日午前に尋ねて報告することにした。

ゴーレムは明日訪れるまで護衛代わりに出しておくが、治安に問題がなさそうなら直接帰るよう言ってかまわない。
そう追加のメッセージを送ると、は苦情が来る前に携帯の電源を切る。

さて、今日は疲れたしゆっくり眠ろうと寝室の扉を開けると、クローゼットから毛布を取り出しているセフィロスと目があった。

春先でも厳しい北国の寒さに降参したのが自分だけではないと分かって、は思わず笑みを零した。


Illusion sand ある未来の物語 129話


アイシクルエリアの家には、酒と保存食は沢山あるが、普段口にしている主食や新鮮な食材はない。
明日の朝は軽く保存食をとった後、ミディールの家でちゃんと食べてからルーファウスの家に行こう。

ベッドに入ったものの、少し物足りなさを感じる胃袋にそう決めると、は温まりきらない毛布の感触に、自然とセフィロスへ身を寄せる。
部屋の照明をつけたまま携帯を眺めていた彼は、肩に頬を寄せてきた彼女にちらりと目をやると、無言で画面を差し出して見せる。

表示されているニュースサイトの見出しは、ミッドガル冲での召喚獣による襲撃と、その後の破壊活動と、各地の被害状況の見出しが並び、その下にはWROの派遣状況がリアルタイムで流れるようになっている。
夜中だというのに、よくこれだけ情報収集と拡散作業を進められるものだと感心しながら、は画面をセフィロスに向けて返した。



「最近人類は気が緩んでいるようでしたから、いい刺激になってくれたようで、何よりです」
「……やりすぎているとは思ったが、そうする必要があるという事か?」

「ええ。本当は、あまり手を出すべきではないと思うのですが、色々と予想外が重なってしまって。」
「詳しく話せ。そういえば、施設を壊しているとき、後で説明すると言っていたな」


騒音が酷くて会話がままならず保留していたが、いい加減の気持ちも落ち着いただろうと、セフィロスは水を向ける。
施設で見つけた研究内容が不快だったにしても、やりすぎと思っていたのだ。
他に理由があると分かり納得はしていたが、あれだけやるのだから流石にちゃんと理由を聞いておきたかった。

あの大破壊を見せられた後だ。
何を言われても動じない覚悟はできてしまった。
その点は、少しだけを狡いと思ったセフィロスだったが、今回は許すことにした。

携帯をナイトボードに置くと、彼は仰向けから横向きになってと向き合う。
彼女の頬にかかる髪をそっと耳にかけ、そのまま指先で髪を梳いて怒る気はないと示すと、彼女は気を使いすぎだと言いたげに小さく苦笑いを返した。


「昔……ああ、蘇って少ししてからですよ?いつか再びこの星に災厄がやってくると話したのを、覚えていらっしゃいますか?」
「忘れるはずがない。おかげで、地獄のしごきをうけた」

「え?あれは貴方が自主的に……いえ、今、その話はいいです。それで、その災厄が来るのが、思っていたより早くなりそうだったんです。こちらで対処可能な範囲ではあるのですが、そうなると星が期待する結果にならないようで、責任をもって後始末なんて理由でズルズルとこの世界につなぎ留められそうだったんですよ」
「なるほど……この星を消せば万事解決だな」

「ルーファウスがいる間は駄目ですよ。それに、災厄はルーファウスが存命中に来るでしょう。こちらが敵対しようとすれば、星は彼を生き永らえさせて時間を稼ぐくらいしそうです」
「数年以内か……」

「……そうですね。ですが、そんなに先ではないでしょう。?ルーファウスのお年を考えてください。最近では杖までついていますし、眠っている時間も増えてきたじゃないですか」
「……今日会った時に体の様子を見たが、あと3年は平気そうだった」

「確かに年のわりに健康ですが、私たちの体と並べて考えてはいけませんよ。老人が弱るのはあっという間です」
「…………そうか」


たしかに、いくらルーファウスでも、風邪の一つでもひいてしまえば、あっというまに体力が尽きて亡くなりそうだ。
何も考えず3年は平気なんて言ってしまったが、次に会ったら訂正すべきだろうか。それとも言わない方がいいだろうかと脳裏で考えながら、セフィロスは再び意識を会話に戻す。

余裕そうなの様子に、既に行動計画は立てているのだろうと理解し、同時に相変わらず相談をしない女だと溜め息をつきたくなった。

「今回の騒ぎでWROは血眼になって犯人を探すでしょう。あれだけ小さな星を落としましたから、空に注目して備えるようになってくれたら助かります。古い兵器や設備も吹き飛んだでしょうから遠慮なく最新の装備を調達できるでしょう。資金も兵士の数も、危機感から勝手に集まるはずです。在野の武装勢力の吸収も進んでほしいものですが、こればかりは運次第ですね。
エッジは多分壊滅してしまいましたが、最近はスラム化が進んで問題になっていましたから、近隣の町や村は治安や雇用の面で喜ぶかもしれませんね。本当は、別件として事を起こす気でしたが、今回の依頼は、頭にくる研究もありましたし、丁度良かったです」
「ルーファウス達が頭を抱えていそうだが、いいのか?またカーフェイとガイに怒られるぞ」

「ルーファウスからの苦言は承知の上です。それに、WROの緩みも、エッジの治安低下も、元々あの子達から相談を受けていた事ですから。頼まれてはいませんし、解決が手荒にはなりましたがね。それに、災厄が来た時は、あの子たちは当事者になりそうですから、彼らにも少し気を引き締めてもらいたくて」


確かに、タークスなのに主な仕事がルーファウスの世話になっているガイとカーフェイは、レノ達がいた頃に比べてかなり色々と緩んでいた。
だが、今回のの活入れは活が強すぎて、気を引き締めるどころか引き千切れているのではないかと思う。

あの2人が当事者とはどういう事かと考えたセフィロスは、少しだけ眠そうなの顔を見て、あの2人に共通する事を思い出す。


「お前が昔持っていたクリスタルの力、今はまだ、あの二人の体に宿っているままだったな。狙われるのはそれか?」
「ええ。私と貴方が強くなりましたから、思考する生物ならまず手を出そうとしないでしょう。となれば、私たちに似た力でありながら、手を出しやすい強さの存在に標的を変えるでしょうね」

「WROが抱えている新生ソルジャーとやらでは駄目なのか?」
「災厄に立ち向かえる程度には強そうですが、ガイとカーフェイは私の力も少し取り込んでいますから……あの子たちの方が強いですね」


なるほど、あの2人がいつまでもに対する行き場のない苛立ちを消しきれないわけだ。
それを知っていて彼らと適度な距離をとっているが、表に出さないが彼らを可愛く思っているとセフィロスは知っている。
あの2人が狙われるとなれば、一緒にいるルーファウスも狙われるだろう。
ならばが呑気をやめて腰を上げるのも納得できる。

「あの2人……いや、ルーファウスを入れると3人か。奴らを守りながら、WROを初めとする人間達に、災厄の対処をさせ、星の目的を完遂させる……星の目的は何だ?」
「私も長年、それが知りたかったのですが、よくわからないんですよねぇ……」

当初は次の災厄への対処を求められているのかと思っていたが、星は達が対処する事を避けるように人間達に力を与え、災厄に立ち向かう道を示した。
その時点で、星が求めているのが災厄への対処ではなくその結果もたらされる何かだと推測できるが、それを問うたところで昔のような耳鳴りと頭痛しか返さないのだ。
ぶっ壊してやろうかこの星……とは何度か思った。


「とはいえ、こちらへ迂闊に手を出せば火傷では済まない事は、星もわかっています。無謀な真似はしないでしょう」
「楽観的だな……いや、余裕か。……お前が大丈夫と言うなら、俺はそれを信じよう。そろそろ寝るぞ」


の言葉から、今日の大破壊には星への警告も含まれていたと理解して、セフィロスはやれやれと内心ため息をつく。
安穏と暮らしてはいるが、本当の意味での平穏は思ったより遠かったらしい。
それでも、この世界との離別という、いつでも選べる逃げ道があるおかげで、昔のような、崩れ行く道を進む悲壮感と圧迫感はない。
ただ、再び世界を相手に戦う事もあり得るのに、明日の献立の方が気になる自分達の呑気さに、呆れるべきかと迷っただけだ。





翌朝、軽い朝食をとってアイシクルエリアの家を出た二人は、激しく崩れた海岸や興奮状態で争いあう魔物の様子を眼下に収めながら、ミディールの家へ戻った。
当初はルーファウスの家の近くで外食するつもりだったが、昨日の今日で朝から開いている店はなさそうで、探すのが面倒になったのだ。
昨夜も軽くしか食べておらず、移動しただけとはいえ空腹を感じていた二人は、自宅でしっかりとした食事を作って胃に収めると、ルーファウスの家に向かう。
途中、風で倒れた木が道を塞いでいたが、慌てる事無く灰にすると、いつもと違って落ち着きがない街の中を進んだ。

目だった被害があったのは街の外側ばかりで、中心部は既に日常を取り戻している。
高さがある建物のガラスが割れている所があり、それを修理する業者で道が混んでいる程度だ。
海岸と街の間には森があるので大波は届かず、爆風の被害しかなかったのだろう。
けれど、海岸の村の被害は帰ってくるときに空から見ている。
船の被害もあったので、暫く市場は混乱しそうだ。

とはいえ、達は再び半自給自足の生活を始めたし、他の土地への買い出しも簡単に行けるので、何とかなるだろう。
そう考えている間に、車はルーファウスの家に到着した。

家の前の街路樹は枝が数本折れていたが、ルーファウスの家自体はゴーレムがしっかり守っていたので無傷だ。
流石は守りに特化した召喚獣だ、とゴーレムの評価をグッとあげながら、とセフィロスはルーファウスの家のインターホンを鳴らした。

「はーい、いらっしゃ~い」
「ガイ、騒がせてすまなかった。ルーファウスに報告と相談がある」
「北の家にあったチーズが丁度良くなっていた。食べると良い」

「本当~?セフィロスさんのチーズ、美味しいから嬉しいな~。ありがとうございま~す。あ、こっちからも色々と話があるんで、二人とも中へどうぞ~」

いつも通りに薄く笑って出迎えたガイに促され、とセフィロスは中へはいる。
セフィロスから渡された手土産に、ガイは素直に喜んで礼を言うと、二人を置いて台所へ入っていった。

入れ替わりに、青白い顔のカーフェイが台所から出てきて、恨めし気な目を向けてきたが、もセフィロスも示し合わせたように目を合わせなかった。


「任務完了お疲れ様ッス。顔色いいッスね」
「お前はガイと違って顔色が悪いな。カーフェイ、分かっていると思うが、どんな状況でも、食事と休息は疎かにするな。その図体で木偶の坊でいられては、流石に守り切れない可能性がある」

「誰のせいだと思…………待って。ねえ、俺、今すっげー嫌なこと聞いた気がする。ん?幻聴?疲れてるから、聞き間違えたかな?」
「お前とガイにも関わる事だ。諦めてルーファウスと一緒に話を聞きなさい」

盛大に顔を顰めたカーフェイは、首を絞められたような声で『逃げたい』と零したが、もセフィロスも慰めることなくリビングへ向かった。

大破壊が起きた翌日だというのに、二人を迎えるルーファウスはゆったりとした空気を崩さず、視線で向かいのソファを勧める。
しかし、出迎えの言葉は無かったので、機嫌が良くないのは間違いない。


「おはようございます、ルーファウス。大丈夫とは思っていましたが、ご無事で何よりです」
「お前が呼んでくれたゴーレムのおかげだ。久しぶりに、賑やかな夜だった」

「そうですか。お騒がせしてすみませんね」
「お前たちから、面白い話が聞けると思い、期待して待っていた。、昨日は随分と楽しんでいたようだが、お前たちがどう過ごしたのか、是非聞かせてもらいたい」


もしかするとルーファウスは、昨夜はあまり寝られなかったのかもしれない。
そう思いながら、はセフィロスと、どちらが報告をするか目で相談する。
だが、ルーファウスの後ろへ控えたガイとカーフェイ2人による視線の圧力もあり、が口を開くことになった。








2025.01.03. Rika
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