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命があれば、そこには魔力が内包される。 が生まれた世界も、セフィロスが生まれたこの世界もそれは同じく、これまで例外を見たことはなかった。 たとえ数字で表した時に0だとしても、1に届かない微々たる魔力は存在する。 だから、暗闇の向こうへ魔力を巡らせ、幾重にも閉ざされた扉の向こうに弱った生物の魔力を見つけたは、たまらず大きなため息をついた。 Illusion sand ある未来の物語 126話 「セフィロス、大分先になりますが、隠し扉の奥に何かいます」 「……俺には何も感じないが、魔物か?」 「…………どうでしょうか。ただ、魔力は微弱ですから、辛うじて生きている程度でしょう」 「そうか……。神羅の施設だから、あり得るだろうな」 何が出ようと、始末することに変わりはないと言って、セフィロスはそのまま足を進める。 探知した魔力の質に思うところがあったも、確かにその通りだと納得し、魔力と風を流し続けた。 港から緩やかに上り坂だった道は、5分程進んだところで平らになり、更に500mほど進むと下り坂になった。 壁は所々コンクリートと鉄板が剥がれ落ち、露わになった岩肌から滲み出した水が道路端の細い用水路を流れている。 こんな廃墟に留まっているのだ。トンネルのずっと先にいる死にかけ生物は、やはりロクでもないモノなのだろうと、は密かに溜め息をついた。 緩やかな下り坂を進んで10分。 何もない通路を歩き続けた2人は、カーブの先にぼんやりとした灯りを見つけると、顔を見合わせ肩を竦める。 未だに生きた電源がある事を賞賛すべきか、呆れるべきか……。 暫く進んだ先にあったのは、この通路の入り口にもあった大きなゲートで、2人が近づくと端にある電源パネルが自動で光った。 「セフィロス、機械が反応しましたが、どうします?」 「どうせ壊すことになるが、念のため確認しておく」 そう言うと、セフィロスはパネルへ近づき、出発の際に預かっていた旧式の端末を繋ぎ、カードキーを通す。 若い頃のルーファウスをはじめ、2人が知らない人間の写真がついた社員証を通しているが、反応はもちろんすべてエラーだった。 一方のは、早くも扉のどこに穴を開けるか選び始めている。 扉ごと吹き飛ばしても良いが80年近く放置されていたトンネルでは崩落の危険があるし、その先の調査もまだ済んでいない。 とりあえず、穴を開けるのはパネルから遠い所にしようと決めると、彼女は天井付近にある監視カメラを破壊した。 カメラまで作動しているとは思えないが、扉の電源が生きているので、念のためだ。 映された映像が、どこかに飛ばされているとしても、今日のとセフィロスは顔を隠しているので問題はないが。 一通り試したセフィロスが首を横に振ったので、は剣を抜いて炎と魔力を纏わせる。 大きく分厚い扉はの剣によって豆腐のように切られ、セフィロスが余裕で入れるほどの穴を開けられた。 電源パネルが警告の電子音と音声メッセージを発しているが、その音はひび割れて途切れ途切れだ。 扉の向こうの道では、点々と警告灯が回っているが、殆ど光っていないか数回の点滅で沈黙した。 「さすがに、防衛設備も故障だらけですね」 「何十年も放置された施設だ。形を保っているだけマシな方だろう」 侵入者を知らせるのか、警備強化を知らせているのか。 天井にあるスピーカーからは、セキュリティーがどうこうという音声が流れているが、扉のパネルと同じく途切れ途切れで内容が聞き取れない。 昔なら、即座に警備兵とロボットが出てきたのだが、ガタつきながら開いた警備員通路からは誰も出てこない。 金属が擦れる音に天井を見上げると、半開きで固まっている投入口があり、警備ロボットが中から出ようともがいていた。 警備員の通路にはが炎を放ち、警備ロボットにはセフィロスが雷を放つ。 電撃が当たると同時に天井の投入口が勢いよく開き、7体の警備ロボットが火花を散らしながらボタボタ落ちてきた。 投入口の先は傾斜になっていたようで、少し遅れて8体目の警備ロボットが滑り落ちてくる。 だが、過剰な電気を受けて壊れた投入口が、何度も高速で開閉を繰り返したため、8体目の警備ロボットは扉に挟まれてそのままそこに嵌まった。 セフィロスがちょっと哀れな警備ロボットを見ている間に、が落ちてきた警備ロボットを剣で真っ二つにし、十数メートル先の天井にある別の投入口に雷を放つ。 スムーズに開いた投入口からは、8体の警備ロボットが滑り落ちてきたが、浮遊型のそれは半分がそのまま地面に激突し、部品を撒き散らしていた。 残る半分もフラついたり、斜めになって浮いていたりと、ジャンク品のような状態になっている。 警備ロボットのこの状態は、経年劣化もあるが、先ほどから打っている雷撃の余波だろうと考えると、は斬撃を飛ばして警備ロボットを壊しておいた。 そのまま30分ほど扉や警備ロボットを破壊して進むと、通路は瓦礫に塞がれ行きどまりになっていた。 魔力とエアロで探り、更に水も送り込んでみたが、その先に空洞はなく、完全につぶれていた。 「ここは既に、ミッドガルの手前だ。深さから推測すると、道の先はディープグラウンドだな」 「では、瓦礫の先の調査は不要ですね。次は隠し部屋の調査に行きましょうか」 丁度良い瓦礫に腰を下ろした2人は、カーフェイから預かった端末に表示される現在地を見ながら、小休憩する。 トンネルは岸壁からミッドガルの方へ一直線に掘られていたので、到着は2人の予想よりずっと早かった。 「この位置であれば、何かしらの施設があっても当然ですね」 「すこし休んだら、調査をする。、場所はわかるな?」 「ええ。まずは、そこの壁の中の通路から調べてみましょう」 「わかった。奥まで行ったら、厄介そうな設備だけ破壊し、次の部屋に行く。それでいいな?」 「はい。まあ、そこの通路の先は、物置のようなので、すぐ終わりそうですけれどね」 「神羅の物置というだけで、十分物騒に感じるがな」 そこは本当に、掃除用具があるだけですよと笑いながら、はセフィロスの後を追う。 壁に上手く隠れるように作られた通路の先は、確かに掃除用具が置かれた部屋と休憩室、それにトイレぐらいしかなかった。 何故わざわざこんな部屋の扉を隠すのか。 分かりやすい不審さに、セフィロスが室内を見回している間に、がトイレの傍にある細い扉を開けて中に入る。 追って中を覗き込むと、そこは書類の保存倉庫のようで、棚の中にいくつもの段ボールが詰め込まれていた。 「かなりの量だが……殆どが警備と清掃の日報だな」 「神羅だと端末で処理しそうですが……隠しているからこそ、情報として機械に入れられなかったという事でしょうか」 「さてな……。だがこの手の隠し部屋が多いなら、トンネルには火と雷を通すぐらいはした方が良さそうだ。調べ終わった部屋は、目印に扉を開けておく。、次へ行くぞ」 「はい」 がそうしているように、エアロで更なる隠し通路の有無を確認したセフィロスは、トンネルへ戻ると次の隠し部屋を探す。 だが、彼がエアロと魔力で探知する前に、がさっさと歩き始めてしまったため、彼は魔法を中断して後を追った。 「こちらの車線は、あと5か所ほど隠し扉があります。ご自分で探しますか?それとも、印をつけた方が良いでしょうか?」 「……自力で探す。お前は反対車線の部屋を探すのか?」 「ええ。妙な気配はこちら側ですし」 「わかった。何かあったら、魔力で知らせろ」 ここ数年、互いの声が届かない所にいる時は、相手に軽く魔力をぶつけて呼び合うようになった。 大体は、何かをやらかしたがセフィロスに助けを求める時で、それ以外は畑にいるセフィロスが手伝いを求める時くらいだが……。 さっさと反対車線の壁に向かったを見送り、セフィロスは再び魔力とエアロを使う。 が言った通り、隠された扉は数十メートル先に見つけた 開いて動かなくなったゲートの近くにあるそれは、壁の継ぎ目に沿って作られていて、一見まったくわからない。 ドアノブはもちろん、指を引っかける隙間もないが、エアロも魔力も確かに薄いドアの向こうに入っていく。 は注意しなかったので、これもただの物置か何かだろうと扉を斬ったセフィロスは、先が見えない廊下と数メートルおきに並ぶ扉に、思わず顔を顰めた。 真っ暗な隠し通路に消えて行ったセフィロスを横目で見ると、も彼と同じように隠し扉を破る。 漂う生臭さと饐えた匂い、そして鼻につく薬品の匂いに、彼女はエアロで風を押し込み、匂いを奥へ追いやった。 魔法で照らした通路は、こちらもまた長く伸びているが、壁に扉はなく、代わりに奥に大きな扉が見える。 躊躇うことなくその扉を切り捨てたは、その先にあった分かれ道で足を止めた。 だがそれは迷ったからではなく、向かって左側が崩落し瓦礫の間から水が染み出ていたからだ。 念のためエアロと魔力で隙間を探し、奥の空間を探してみたが、道は完全に埋もれているようで、途中から魔力が土中をすりぬけるだけになったので探知をやめた。 念のため、瓦礫の前を氷の壁で塞ぐと、は残る右側の道へ向かう。 扉を破ったことで、再び警告音が鳴りだしたが、その音は遠く、もっと深い場所から聞こえてくる。 辛うじて足元の非常灯がつくだけの廊下は、トンネルのように警備ロボットが出てくることもない。 警備員が出てくるだろう扉は開いたが、中から現れる者はおらず、ただ暗闇が顔を出すだけだ。 その出入口もまた氷で塞ぎ、は奥にいる魔力を目指し、真っ直ぐに廊下を進んでいく。 壁にいくつかあった扉を氷で塞ぎ、廊下に転がって動かない警備ロボットを両断しながら進むと、3重のセキュリティーゲートの先にエレベーターを見つけた。 操作パネルに雷を流し、更に剣を突き刺して完全に黙らせると、扉を破って暗闇の中にあるワイヤーも断つ。 一瞬だけ金属が擦れる音がなると、すぐに箱が下にぶつかった音がして、その後、絶たれたワイヤーが暴れながら壁を叩いて落ちていく音が響いた。 エアロで下階の位置を確認し、レビテトとエアロを使いながら縦長の空間を降りると、5mほど下にあった扉を破って進入する。 鳴り響く警告音はやかましく、赤く照らす警告灯も健在だし、上階同様3つ並んだセキュリティーゲートには、それぞれの間に元気な警備ロボットが待ち構えていた。 ロボットも警戒音もサンダー一発で黙らせると、は砕けた強化ガラスを踏みつけながら更に奥を目指す。 奥から感じる微量な魔力と、よく知るその質に、やはりセフィロスを来させなくて正解だったと思いながら一番奥の扉まで着いたは、そこではなく、その右手にある小さな扉を破った。 「フガッ!?な、何だ!?」 「……奥の物について、念のため聞かせろ」 雑に物を奥に押し込んだ部屋の真ん中で、診察台の上でシーツにくるまって寝ていた男は、突然の侵入者に驚いて床に転がり落ちた。 雑巾のような白衣とスーツを着ている男は一見研究者が浮浪者になったようにも見えるが、右の眼球が赤黒く肥大し、灰色の瞳の中には横長な白い瞳孔がある。 手の甲には青紫の血管が浮いているし、蟹股の足の間からは、リザードマンのような尻尾まで見えた。 遠くから関知していた死にかけ生物は、一応人の形をしていたが、魔物なのか人間なのか一瞬判断に迷う。 言葉を話すので人間寄りとは思っただったが、腐りかけた尻尾の先と、薄すぎる生の気配に、喋る魔物扱いする事にした。 「え?誰?どうやって……あ、そっか、夢か」 「そこの大扉の中身は、お前が関係しているな?」 「んー、変な恰好だけど、中身は人間の女の人かな?実験体に丁度いいかなぁ……。でも夢の中って研究結果ちゃんと出るっけ?まあいいや、せっかくだしやってみるか。じゃあ、研究室に行くよ。ついておいで~」 「…………」 勝手に夢だと思い込んで、笑顔で横を通り過ぎた雑巾白衣男に、は冷たい一瞥を向けながら口元を覆う布を押さえなおす。 斬った後で剣が匂わなければいいが……と思いながら、は男の後を追った。 持っていたカードキーで廊下の大きな扉を開いた男が中に入ると、はパネルに剣を突き刺して破壊する。 「えぇ!?何で壊してんの!?凶暴すぎでしょ……こわっ!」 人の家の装置をいきなり壊すなんて非常識だと文句を言いながら歩いていく男に、は知ったことではないといった顔で後を追いながら室内を見回す。 扉を超えるとよりはっきりと感じられた魔力に、随分好き勝手やってくれたものだと思いながら進んでいくと、男は大きな机の前で機械を操作し始めた。 「うーん、まず君のデータからとらなきゃね。生体反応から……あれ?君、=?オリジナル?ワォ!夢みたいだ!…………夢だったね」 「…………」 「せっかくのオリジナルだし、色々やってみたいな。サンプルの残りを気にせず実験できるなんて最高じゃないか!ん?でも夢の中じゃ参考データにならないなぁ……。お話でもしてみる?」 「他の場所にも、この試験管の中身はあるのか?」 「お?自分から話す感じ?いやいや……この部屋にあるのは、希少なサンプルから作ったものだからね、他の所にはないよ。というか、できるわけないじゃないか!君からサンプルをとったのは、90年近く前だし、しかも試験管1本分くらいの血だけだよ?もっと色々あれば色々捗ったけどさぁ……特に予算とか予算とか人員とか予算とか。ねぇ?」 「何故未だにここで研究している?神羅の科学部は、とうの昔に解体されただろう?」 「ん~……やっぱ浪漫?道への探求心?あとは敬愛してた上司への供養?それにほら、僕、君の血液サンプルとるとき、セフィロスとか当時の副社長に睨まれちゃって、表に出られなくなっちゃったでしょ?だから、隠れラボから出られなくなっちゃったし、君の血の研究しかやらせてもらえなくなっちゃってさ。まあ、未だに飽きないくらい面白いからいいんだけどね」 「…………」 夢だと思い込んでいるのか、とうに正気がないのか、ペラペラと喋る雑巾白衣男に、は小さくため息をつくと壁に並べられた試験管に足を向ける。 コードに繋がれた大小さまざまな大きさのそれは、魔晄とは違う青い光に照らされていた。 「=。オリジナルが目の前にいるのは嬉しいけど、夢じゃあ意味ないんだよなぁ。質問して答えてもらっても、真偽を確かめる時間が無駄だし。あ、それ気になる?君の血液を培養して復元した君の指だよ。渾身の出来なんだ。君から見て、どうかな?」 「…………」 試験管の中を見ていたに、後を追ってきた男は楽しそうに紹介するが、彼が示す指とやらは足がない芋虫にしか見えない。 だが哀しいかな、確かにそこにはライラの魔力が微々たる量だが宿っていた。 やはり正気ではなさそうだと思いながら、は男を押しのけて隣の試験管を見る。 そちらはライラの魔力が宿っておらず、よくわからない肉塊のようなものが浮いているだけだった。 「あ、それ、僕のとっておきのお肉だから、食べちゃダメだよ?北の大空洞でとれた、キングベヒーモスの頬肉さ。昔、お給料をはたいて買ったんだけど、勿体なくて食べられなくてさ。その状態ならずっと腐らないから、君の完全復元体を作れた日の記念のためにとっておいてるんだ!」 「…………」 青い光に照らされているから分かりにくいが、言われてみれば、確かにビーカーの中身はベヒーモスの頬肉っぽかった。 本当に正気じゃないな、と今更の確信をしながら、は凄くどうでも良い情報を脳内から消去する。 同時に、雑巾白衣が言った『完全復元体』という言葉と、トンネルに入ってから感じていた自分の魔力が繋がり、は納得して剣を抜く。 「おや?剣を抜くのかい?でもできれば魔法を見せてほしいなぁ。君が持ってるその力。魔晄にもライフストリームにも似て異なる力はさ、君のその独特の魔力を介さなきゃちゃんと働いてくれないじゃないか。でも魔力は使うと減っちゃうから、限られた希少なサンプルじゃそんな実験できないんだよ。データが欲しいのに、叶わない。苦しいったらないね。だから、できれば物理攻撃じゃなく魔法使……ああ!そうだ!夢ならデータとっても意味ないんだ!ダメじゃないか!」 一人で喋っている雑巾白衣を無視して、は試験管が並ぶ部屋の奥へ向かう。 コードや機材で散らかる床を注意しながら、一番魔力を感じる大扉の前に着いた。 「ちょっと置いてかないでよ!夢の中とはいえ、外の人と話すのは久しぶりなんだ!人恋しいんだよ~……って、その機材はあんまりさわらないで!昔いた研究員と頑張って作った、君の卵巣復元の材料が入ってるんだよ。それがなきゃ、君の復元体が永遠に作れなくなっちゃ……あ、待って、いくら夢でも、そんなヘドロを見る目を向けられるの久々すぎて、ちょっと心が痛い」 「…………私を復元して、何がしたかった?」 「そりゃぁ、最初は未知の種族として研究してたさ。でも、君は死んじゃっただろう?その後の英雄セフィロスは、僕みたいな研究者から見ても痛々しくてね。宝条博士も心を痛めていたほどさ。だから、僕ら科学部の力で、君を蘇らせて、セフィロスにプレゼントしてあげようって思ったんだ。セフィロスは君を取り戻せる。僕らはデータをとりながら、いずれ生まれる君とセフィロスの掛け合わせの子供を手に入れられる。皆が幸せになれる最高の案だよ!でも、肝心のセフィロスが、死んじゃっただろう?精子採取していない上に、体はライフストリームに落ちちゃって回収不可能で、当時は研究者皆で泣いたもんさ。君の復元体も、その異星人みたいな力と生物として異常な魔力のせいで、失敗続きだし。おかげでメテオが落ちてくる頃には、ディープグラウンドからも追い出されてさ、こんな通路の端に取って付けたような研究室に追いやられちゃったよ。やりたい研究を好きなだけ続けられるけど、それでもちょっと悲しくなるね」 「お前が知る中で、今も生きている研究施設はあるか?」 「昔はあったけど、今はないなぁ。3~40年くらい前に、君と同じ魔力を内包する砂がジュノンで研究されていたけど、タークスが根こそぎ持って行って、研究資料も消しちゃったらしいからね。僕もその砂、一粒でいいからほしかったよ」 「……やはり星の半分ぐらい消した方が手っ取り早そうだな……。ここの外に、この研究について知る奴はいるのか?」 「いるわけないじゃないか!もしかして、僕って若く見えるのかな?こう見えて、121歳だからね。皆死んじゃったさ。僕はさ、宝条博士と一緒で、自分の体をいじってデータをとる事に抵抗がなかったからさ。この体なら、食事はいらないし、長く研究もできるからと思って。若いうちから色々改造していた甲斐があったよ。一緒にここで研究していた仲間は、ついていけないって言って別の研究を始めちゃったけどね。ジェノバプロジェクト方式って言ってたけど、どうなったんだろう。あれ?そういえば、彼ら、暫く見ないなぁ。もう死んじゃったかもね。今の僕は警備ロボットたちだけが、唯一のお友達だよ。あれ?でも彼らも最近みないなあ?」 「そうか。なら、お前もそろそろ眠ると良い」 やはりセフィロスをこちらに来させなくて正解だったと思いながら、は雑巾白衣男を縦に両断すると、一瞬で燃やし灰にする。 普通の動物より燃えにくく感じたので、念のため灰をホーリーで消毒し、氷の箱に閉じ込めると更にサンダラで消毒した。 床を伝った電撃で、並び立つ機材が火花を散らす。 それらを無視して、貴重な機材とやらの扉を切り捨てたは、その中で厳重に保管されていた血液入りの試験管に剣を突き刺した。 次いで、長年の研究の成果とやらに目をやる。 様々な色をした人差し指程の大きさの試験管が、中央にある大きな試験管を囲むように設置されており、こちらも金属や硝子板の中に保管されていた。 中央の試験管は透明な液体以外何も入っていないが、水を砂糖に解かしたような揺らぎが、青い照明の中でゆっくりと渦を巻いている。 けれどそこには確かに自分の魔力が宿っていて、生きても死んでいもない状態のように漂っていた。 周りの試験管は透明な中に小さな固形物があったり、液体そのものが真っ黒だったり、紫色をした粘性の液体が生き物のようにどろどろ動いていりする。 中には試験管自体が金属で覆われ、中が見えないものもあったが、一番謎なのはそれらの試験管の前に置かれている焼きちくわの袋だ。 印刷されている賞味期限は何十年も前だし、透明な部分から見える中身は干からびて灰色になっている。 単なる置き忘れなのか、狂った行動の一環なのか。 ひとまず、施設を破壊する事には変わりないので、はそこにある機材にも容赦なく剣を突き刺し、漏れ出た試験管の中身をバイオで毒塗れにしておいた。 魔力とエアロを再び室内に巡らせ、隠された扉や蓋がない事を確認すると、は研究室から出て中にホーリーとフレアを放つ。 部屋と機材は轟々と燃え、火花を散らしながら溶けていくが、黒煙が上がった事ではハッとしてアクアブレスを放った。 水と粘性がある泡が室内を飲み込み、炎と黒煙がおさまる。 電気系統からは更に火花が上がり、室内の照明も激しく点滅して消えたが、再び火が広がることはなかった。 自分が思っていたより苛立っていたと自覚して、は小さくため息をつく セフィロスと合流する前に、少し時間をおいた方が良いかもしれないと考えると、彼女は研究室を後にした 行くときは無視していた扉を確認しながら、は少し時間をかけてトンネルへ戻る。 雑巾白衣にかまっている間に、セフィロスはずいぶん先に進んでいたようだ。 あまりのんびりしていては怒らせそうだと思いながら、は次の扉を開ける。 干上がって久しく臭いすらしないトイレの中を確認し、すぐに次の扉へ向かった。 そこは元警備兵の詰め所らしく黒い滲みの上で白骨化した兵士が倒れていたが、それ以外に異常はない。 その後も2つ3つと扉を開けたが、特別対応が必要な物は無かった。 徐々に港に近づくにつれ、召喚獣たちが未だ暴れて売る音がするが、おそらくWROは既に全滅しているだろう。 トンネルの出口を崩落させないなら、好きなだけ暴れれば良いと思いながら、は最後の扉を確認し終えて出てきたセフィロスに手を振る。 「セフィロス、お疲れ様です。そちらは終わったようですね。どうでしたか?」 「ああ。白骨死体がいくつかあったが、それだけだ。お前の方は、まだ残っているようだな」 「ええ、あと2か所残っています。片方は中に3部屋ある程度ですのですぐ終わりますよ。ですが、トンネル入り口側にある大きな扉の方は、少し広くて深さもあります。そちらは一緒に行っていただこうと思っていました」 「わかった。それなら、広い方は俺が先に見ておく。そっちの部屋を確認し終えたら、お前も来い」 「わかりました」 「それと……さっき、随分と深い所で魔法を使ったようだが、何があった?」 「雑巾のような白衣を着た研究者が生きていたので、設備ごと始末してきました。ちゃんと灰にしてきましたから、心配なさらないでください」 「……そうか。なんの研究をしていたか、確認はしたのか?」 「……メモ紙一枚残すなという指令でしたからね。他の研究施設の有無と、ここの情報を知る者が他にいないかは聞きましたよ。どちらも無いと言っていたので、その場で始末したんですよ」 「……そうか。さっき、少し焦げ臭かったのは……?」 「研究室を魔法で燃やしたら、黒煙が出たので、そのせいです。一応消火してきましたから、それも心配はいりませんよ」 「そうか……。なら、先に最後の扉の方にいってくる」 いつものセフィロスなら、一息入れてとの合流を待つのだが、トンネルの壁から染み出てくる薬品の匂いと乾燥系アンデッドのような匂いの中でお茶をする気にはなれないようだ。 自分も早く仕事を終わらせてお風呂に入りたいと思いながら、は彼の背を見送って手前の扉に入る。 扉を開けた瞬間増した古い死体の匂いに僅かに眉を顰めた彼女は、生物の気配と魔力がない事を改めて確認すると、手前の扉にてをかけた。 扉の裏に何かあるらしく、開くのに少しだけ力がいる。 布を引きずる音と共に、固く軽いものが転がる音が聞こえ、は不審げに扉の裏を覗き込んだ。 見えたのはボロボロになった神羅兵の遺体だ。 既に朽ちて肉も残っていないそれからすぐに目を離すと、は室内を照らしてぐるりと見回す。 ロッカールームらしいそこには、長椅子の上で毛布をかぶったままの白骨の他、白衣や兵の服を着た白骨が壁際に並べられていた。 壁には銃撃痕や血痕が残っており、備え付けのロッカーも一部扉が外れていたり、開けっ放しで中身が散乱していた。 ここで何か起きたのは間違いないが、それを調べるのは仕事ではないので、は白骨を避けて、奥の扉を開く。 そこにあったシャワールームは更に荒れていて、白骨死体に交じって体の一部が魔物のように変形したミイラ状態の白衣遺体が転がっている。 他に目立ったものはないので、はすぐに扉を閉めると、ロッカールームを出てもう一つの扉を開いた。 そこにあった休憩室も、ロッカールーム同様荒れていたが、白骨死体はなかった。 これだけ死体があっても、鼠一匹残っていないのは、白衣の遺体から今なお漂うおかしな匂いのせいだろうか。 トンネルに戻ると、臭い空気なのに新鮮に感じる。 終わったら海で水浴びしてから帰ったほうがいいだろうか。 そんな事を考えながら、は開けっ放しになっている隣の大扉から中に入った。 これまで入ったどの空間より大きなそこは、トンネル側は照明が割れてついていないが、奥は煌々と灯りがついている。 駐車場だったらしく、中には軍用の大型車両と普通車が10台ほどあったが、その半数は入り口近くで横転していたり、黒焦げになったりしていた。 壁は所々煤焦げていて、転がっている車の傍には兵士姿の白骨がある。 けれど、床の上に警備ロボットの残骸らしいものは、一つもない。 トンネルはほぼ無傷なのに、一部の室内にだけ戦闘痕がある状態に、は違和感をもったが、当時の状況など知る由もないのですぐに考えるのはやめた。 駐車場の奥でこちらを見るセフィロスに気づき、は手を振ってそちらへ向かう。 地面に転がる骨の破片の間を通り、綺麗に並んでいる車両の間を抜けると、高い壁の上にあるいくつかの窓に気が付いた。 「セフィロス、お待たせしました。何か変わったことはありましたか?」 「他と同じだ。今、上へ行ける扉を破ろうとしていた」 「では、警備ロボットが出てくるでしょうか……?」 「どうだろうな。こういう広い場所は、天井に格納された大型の警備ロボットが投下されていたが、そのハッチが開くかわからん」 そう言って天井を見たセフィロスにつられて、も入り口付近の天井を見上げる。 確かに、彼が言う通り、天井には大きなハッチが見えた。 だが、その周りは特に黒く煤けていて照明が完全に破壊された状態だ。 その状態だと、このトンネルが昔の機能を維持していたとしても、電気系統がやられていて開かないかもしれない。 「煩いのは嫌ですから、何も出てこないなら、その方が嬉しいですね」 「ここは、特に静かだからな。ドア一つ破るだけでも、耳が痛くなる気さえする。……さて、、そろそろ行くぞ。早く終わらせて、匂いを落としたい」 どうせ警備ロボットが投下されても、トンネルの時と同様、ハッチが上手く開かず挟まるだけだろう。 セフィロスと共に天井から視線を外したは、彼の少し後ろに立ち位置をなおす。 セフィロスが壁にあるドアを斬り倒すと、警備ロボットが騒ぐのと大差ない騒音が出た。 広い駐車場にいるせいで、壁が倒れる音まで大きく響き、とセフィロスは揃って顔を顰める。 けれどすぐに表情を戻し、奥にあった廊下に足を踏み入れた二人は、それぞれそこにあった扉を開いて中を確認した。 が開いたのは機械室のようで、暗い室内にはよくわからない機械や管がひしめいている。 ここでも魔法で何かいないか探ってみたが、部屋の隅に鼠が数匹いるくらいで、異常はなかった。 セフィロスが確認したのは備品倉庫だったようで、彼もすぐに確認を終えると廊下に戻ってくる。 首を振って問題ないと告げたに、彼は小さく頷き返した。 誰もおらず、何もないのは、二人とも魔力関知で理解しているので、今更会話らしい会話は必要なかった。 上にも何もないとわかりつつも、2人は奥にある階段を上り、駐車場から見えていた小窓がある部屋へ向かった。 |
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今のさんには、昔と違ってしがらみがないので、変なのが出たら容赦なく始末します。 2024.10.28 Rika |
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