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履きなれたブーツと動きやすいパンツ。 キングベヒーモスの皮の中でも、特に柔らかい腹の部分を使った黒いコートの中は、に散々言われて仕方なく着た紺のインナー。 昔のような肩を守る防具はないが、代わりのように、左手の薬指には少し大きな白銀の指輪がある。 ルーファウスから渡された銀時計を胸の内ポケットにしまい、念のためとから渡されたオーディンのマテリアを装備すると、軽く髪をまとめて準備は完了した。 待たせすぎただろうかと、リビングへ行くと、ダイニングテーブルについて項垂れている、準備万端ならの背中が見えた。 怒らせたかもしれないと近づいたセフィロスだったが、振り向きもしない彼女に顔を覗き込んでみると、彼女はランチボックスを枕に鼻提灯を膨らませていた。 起こさないよう、静かに携帯を構えたセフィロスは、プクリと膨らんだ鼻提灯に標準を合わせて写真をとる。 シャッター音がしても目覚めないに、セフィロスは小さく笑うと携帯を仕舞い、彼女の頬を軽く突いて起こした。 Illusion sand ある未来の物語 121 「曇りや雨の日は、すぐ眠くなっていけませんね」 「日差しが少ないからな。仕方がない」 変な写真を撮られていたなんて全く気付いていないに、セフィロスはいつも通りの表情を崩さずに答える。 目覚めに珈琲を1杯飲んだ2人は、予定していた通り、次元の狭間で見慣れた水晶の大地を歩いていた。 月のない星空は時や季節で変わることなく広がり、けれどそれらが絶えず注ぐ小さな光は、水晶の中を何度も反射して辺りをほんのりと明るく照らしている。 いつも手合わせをしている場所を通り過ぎ、普段あまり来ない場所まで来ると、は足元に浮かぶワープ装置の模様の前で足を止めた。 セフィロスが、いつもから、その先に行ってはならないと止められていた場所だ。 「ここから先は、全く違う景色になります。これまで来ていた場所より次元が不安定ですから、私の手を離さないようにしてくださいね」 「わかった」 先に進むと聞いてから、耳にタコができるほどされている注意だったが、セフィロスは嫌な顔を見せず頷き、の手をとる。 いつもよりしっかりと手を繋ぎ、彼の顔に油断がない事を確認したは、小さく息を吐くとワープ装置の上に足を踏み入れた。 その瞬間、周りの景色が砂嵐のように歪み、星空は雲の無い青空に変わる。 眩暈も、足元の揺らめきもなく変化した視界に、セフィロスは微かに目を見開いて辺りを見ていた。 足元はクリーム色の石畳が隙間なく敷き詰められ、灰色の石を積んで築かれた壁と見張り塔に囲まれている。 水晶の大地より文明的な景色だが、ここにも生物の気配は無く、瞬く星がないせいで時が止まっている錯覚さえした。 「セフィロス、行けますか?」 「……ああ。大丈夫だ」 声をかけると、セフィロスは静かに頷き、に手を引かれて歩き出す。 進もうとしている場所のすぐ横に、地面に腰を下ろしてぼうっと宙を見上げているの幻が現れたが、見て見ぬふりをする事に慣れている彼は、僅かに視線を揺らすだけの反応に留まった。 既に無視することに慣れているは、幻の口から洩れている呟きすら気に留めずその横を通り過ぎる。 セフィロスも、よほどおかしな内容でないかぎりは気にしなくなったし、不意に目の前を刃物が通り過ぎるのでなれば、何の反応も見せないくらいには幻に慣れてしまった。 見張り塔から伸びる壁が、唯一途切れている南側。 この空間に方位があるとは思えないが、体内磁石ではそうと判断した方向に足を進めると、宙に浮かぶように伸びた長い階段があった。 その階段を下りた先には、セフィロスも古い写真でしか見たことがないような城がある。 ゆっくりと踏みしめて降りる石造りの階段は綺麗だが、皹や欠けどころか、汚れ一つ見つからない不自然さがある。 考えると思考の坩堝にはまりそうな気がして、セフィロスはへと視線をやった。 懐かしさも嫌悪感もない目で前を見るは、セフィロスの僅かな動揺に気づいていたが、足を止めることはない。 初めてここに足を踏み入れた時の自分も、今の彼のように驚いていたのだろうかと、は少しだけ記憶を辿ってみた。 だが、さすがに昔すぎて、すぐには思い出せなかった。 セフィロスは水晶の大地こそ見慣れてしまったが、次元の狭間にいるのなら景色や空間への違和感や驚きなど、この先何度も感じるだろう。 それに逐一足を止めて話を聞いていては時間が足りなくなってしまうので、は少しだけ申し訳ないと思いながら、進むことを優先した。 階段が終わり、樹木に囲まれた城の屋上庭園に降りる。 綺麗に整えられた芝を踏みしめ、庭園の中心にある階段を下りて、2人は城内に入った。 城内は窓が多く、差し込む光で明るいが、光源の太陽はこの空間に存在しない。 土色の床石にはほんのりと窓枠の影があるが、その影は1歩近づくたびに角度を変えて惑わせてきた。 「、お前が育った世界では、こういった城が普通に利用されていたのか?」 「そうですねぇ……私から見ると、この城は伝統的ですが異文化的。そして少し古風にも感じます。この城は、私が生まれ育った時代より随分と古い時代に作られたようです。私がここに来るよりずっと昔に、次元の狭間に飲まれたのでしょう。この城の先にも、そういった場所は多いですよ」 「そうか……」 「貴方にとっては、珍しく感じるでしょうね。ああ、それと、こういった城が利用されているかについてですね。王政でしたし、使っていましたよ。この城のような古い時代のものも、いくつかは残存し、修繕を繰り返しながら利用されていました。殆どが、辺境で魔物からの防衛のための施設でしたがね」 「魔物の防衛となれば、相当に手を加える必要がないか?歴史的価値や、文化的価値が下がる気がするが」 「そういった話は、古代図書館の学者くらいしか言いませんでしたね。その点は、二つの世界でかなり価値観が違います。私が生まれた世界では、そういった価値は書物や芸術品に求められるものですから。どれほど歴史がある建物でも、魔物に蹂躙されれば瓦礫の山になるのですから、魔物1匹倒しもしない学者が何を言ったところで、無視されるだけです。辺境は特に、実利が優先されますから」 文化的成熟度の違いと、生活への余裕の差が分かるの回答に、セフィロスはなるほどと頷きながら広間にポツリと取り残されたような玉座を見る。 長い背もたれの上に掘られた鷲の彫刻も、深海を思わせる青に染められ金糸で刺繍された絨毯も、無骨な石積みの壁の端々に掘られた彫刻にも、この城が栄えていた時代の豊かな文化と栄華が見えた。 けれど、余程繁栄した巨大国家でないかぎり、それが叶えられるのは国の中央だけというのは、セフィロスにも理解できた。 ただ生きる事すら容易くない土地は、セフィロスが生まれた世界にもある。 そこを守り、生きる人間達が、先人の置き土産を利用し、身を守るのは責められる事ではない。 玉座の間の絨毯が途切れると、土色の床石に二人の足音が響く。 玉座正面にある階段を降り、大きな木製扉を開けると、その下には広いホールがあった。 大人3人ほどでようやく囲めるほどの太さの柱が並び、その上には高い天井がある。 窓から入る陽で視界は明るいのに、天井に目をやると何故か薄暗くてよく見えなかった。 その薄暗い天井を確認しようとしているのか、柱をよじ登ていたり、氷の足場を作って上に昇ろうとしているの幻が見えたので、セフィロスはすぐに視線を下ろす。 「あの扉を越えたらすぐに、次の場所へ飛びます。この城は今来た道の1本道ですから、迷うことはないでしょう」 「他にも扉や階段があるようだが、そこは行かない方がいいのか?」 「行けますが、今日は時間が限られているので、省略しました。行ったところで、牢や武器庫ぐらしかありません。ただ、城ですから、迷いやすい作りになっています。慣れないうちは、決して一人で行こうとはしないでくださいね。下手にはぐれると、私がいる次元と貴方がいる次元がずれて、見つけられなくなる可能性があります」 「その時は、下手に動かず、30分待っても会えなかったら召喚獣を呼んで帰宅……だな?」 「ええ。くれぐれも……」 「慌てて探そうと、見知らぬ場所へ行かない」 「よろしくおねがいしますね」 「わかっている」 セフィロスはやれやれと肩を竦めたが、は不安が拭えず苦笑を返すに留まる。 今は手を繋いでいるから平気だが、これを離してしまった時が恐ろしいのだ。 ここを含めた幾つかのフィールドでは、エクスデス討伐以降、著しく次元が不安定になった。 戦っていた魔物と次元がずれて、敵が目の前から突然消えるなんて事は何度もあった。 同じく、敵が何の前触れもなく目と鼻の先に現れ、お互い慌てて距離をとるなんて事も。 たまに、いつ倒したかも覚えていない死骸が現れる事さえあったので、魔物同士の争いでも次元のずれは起きていたのだろう。 魔物を狩りつくしてからは、そういった事は起きなくなったので、そう長い時間のずれはないと思う。 だが、その範囲が数分なのか、数年なのかは、当時も今もは分からない。 だからできれば、この不安定なフィールドでは、セフィロスには手を離さないでほしい。 彼の手をしっかり握っている事をもう一度確かめて、は王城正面の大扉を開く。 その大きさに反して扉はスムーズに開き、2人が外へ出るとゆっくり閉まる。 いつ見ても綺麗に狩り揃えられている芝生の道を進むと、セフィロスに軽く手を引かれては立ち止まった。 振り向けば、彼は少し気まずそうな顔をしていて、は彼の後ろにある城の2階屋上に見える幻を視界の端にいれながら首を傾げた。 「セフィロス、どうしました」 「……城に、少し興味がある。今度、もう少しゆっくり見に行く事はできるか?」 「……私が同伴してという条件はつきますが、いいですよ」 「そうか」 危ない場所だと分かっていても探求心を抑えられなかった彼に、はつい呆れた顔になったが、彼の気持ちも少しだけ分かる。 苦笑いして了承すると、セフィロスはその目を少しだけ輝かせながら小さく頷き、城の方へ振り返った。 あ……、とが思うと同時に、セフィロスも正面ドアの上にある幻を見つけたらしく、不意に目に飛び込んできたそれに驚いて少しだけ肩を揺らした。 視線の先では、刀を持った2体の魔物を相手に、逃げながら戦っているの幻がいる。 降り降ろされた刀の軌道を剣の腹に滑らせる事で流した彼女は、その間に横に回り込んできた魔物の突きを、後ろに数歩跳んで逃げる。 更にナイフを投げて牽制して必要な距離を取ったは、赤黒い煙が出ている謎の袋を1体の魔物に投げつけた。 袋を顔面に食らった魔物は赤黒い煙にまかれてもがき、もう一体の魔物は驚いたのか一瞬だけ動きをとめる。 けれど魔物はすぐに気を取り直したようにに向かった。 する彼女は向かってくる魔物の刀を裂けつつ、すれ違いざまに腿を深く切りつける。 そのまま走る速度を緩めず、2階屋上の端へ向かったは、躊躇うことなく1階の正面玄関外……つまりセフィロスとがいる方向に跳んだ。 だが、怪我で血を流し息が上がっている彼女はそう遠くまで跳ぶことはできず、それどころか、殆ど落ちるように入り口近くの大きな樹に突っ込んでいった。 「セフィロス、行きますよ?」 「、あれは、大丈夫なのか?」 「大丈夫だから私がここにいるでしょう?」 「……確かに、その通りだ」 体にまとわりつく赤黒い煙にもがき膝をつく魔物と、血を流した脚を引きずりながらが消えた木を睨む魔物。 が木から下りたら、その瞬間を狙われるのは間違いなく、その時を狙うように魔物はじりじりと樹との距離を詰めた。 だが、次の瞬間魔物の眉間に、木の葉の間から放たれた1本の矢が刺さる。 ぐらりと傾いた魔物に対し、次々と矢が放たれて魔物は仰向けに倒れ、未だ身動きがとれずもがいていた魔物もすぐに矢の針山になった。 駄目押しのように人の頭ほどの火球が放たれて、既に息絶えている魔物死骸を燃やし始める。 すると、炎の煙は徐々に透明に変わり、いつも狭間で幻が消える時と同じように、何も残さず消え去った。 「終わりましたし、行きましょう」 「……ああ」 奇行状態の幻じゃなくてよかったと密かに安堵しながら、はセフィロスの手を引いて今度こそ次元城を後にする。 物言いたげな彼の視線には気づいていたが、構っていては新たな幻が出て再びの足止めを食らいそうなので、は無視して次のフィールドに入った。 広がる青空と、石造りの低い壁に、綺麗に詰められた暗い色の床石。 一瞬城と同じフィールドかと思ったセフィロスだったが、青空の中に浮かぶ雲に違う場所だと理解した。 また、さきほどのように長い階段を下りるのだろうかと辺りを見回すと、壁の向こうに何か構造物が見える。 少し遠い位置にあるそれを横目に、に手を引かれるまま進んだ彼は、途切れた壁の先に広がる青空に、足をとめた彼女を見た。 「、どうした?」 「セフィロス、この先の道は見えますか?」 「……道?」 「肉眼では見えませんが、シーフのアビリティがあれば、通路があるのが見えるはずなんですが……」 困惑した顔で見つめ返すセフィロスに、は顎に手をやりながら、自分には白く霞がかかったように見える、見えない床へ目をやる。 もし、見えていなくても、が手を引いている以上、彼が道を外れる事はないだろうし、通路自体、戦闘をできる程度の幅がある。 見えていなくても、腹を括ってついてきてもらう気のは、とりあえず床の存在を理解させるため、魔法で作った無数の氷の欠片を通路の上にばらまいた。 「すみませんセフィロス。どうやら、シーフのアビリティを覚えさせるのを忘れていたようですね」 「……いや、よく覚えていないが、内容が警戒やダッシュなら不要だと、俺が断っていた気がする」 「そうでしたか。では『かくしつうろ』だけでも、後で覚えておきましょう。行けそうですか?」 「……ああ。案内は頼んだ」 床は見えなくとも、ばらまかれた氷のおかげでその存在を理解したセフィロスは、一瞬だけ躊躇った後、と共に青空の奈落にしか見えない透明な床の上に踏み出す。 踏みつけた氷が砕ける感触と、足の裏に感じる固い床の感触に、彼は興味深そうな顔を足元に向けながら足を進めた。 それまで立っていた、城の一部を切り取ったような足場は宙にういていたり、どこまで伸びているか分からない長い柱に支えられらいしている。 同じ足場は行き先にいくつもあり、そこには既に幻が動いているようだった。 氷の欠片をばらまきながら歩くに手を引かれながら、セフィロスは無表情で魔物を切り刻んでいるの幻の隣を通り過ぎる。 やっぱり昔のの方が肩回りが筋肉質だな……と、口にしたら筋トレに励まれそうな言葉をセフィロスは飲み込んだ。 キラリと視界に入った小さな光に、反射的に視線をやると、戦闘が終わったが返り血のついたダイアの腕輪を磨いているのが目に入った。 入った時に確認したが、ここにも、光の大元となる太陽は見当たらない。 見えない床に、宙に浮いた足場、そして動かないように見えて瞬きの間に形や位置が変わっている雲。 なるほど、確かに水晶と星空の大地より、大分次元が歪んでいると感じられる場所だ。 が氷を撒いて示してくれる透明の通路から、床石が敷き詰められた足場に着くたび、セフィロスは内心で安堵の息を吐く。 セフィロスは空中戦の経験があるし、高い場所から飛び降りる事もできるが、この環境はその経験とは異質すぎて、想像以上にストレスがあった。 ちらりと足場の端へ目をやると、魔物の死骸で出来た小山の前で、剣を杖のようにして体を支え、肩で息をしている血と傷に塗れたの幻がいる。 視線を移すたびに現れる幻の量は、初めて水晶と星空の大地に来た頃を思い出させた。 これでも大分召喚獣が処理してマシになったはずなのだが、ならば以前はどんな状態だったのだろう。 想像するだけで気分が落ち込みそうで、そんな自分に、セフィロスはがここへ連れて来たがらなかった理由を理解する。 「セフィロス、この先の足場についたら、このフィールドは終わりです。もう少し頑張れますか?」 「ああ。俺は大丈夫だ。、お前の方は平気か?」 「おや、私の何を心配しているのですか?」 「……ならいいが」 初めの頃は、幻が現れる度に意図して無視をしているのが分かるくらいには、表情にでていただが、今では本当に見えているのか怪しいくらい反応しなくなった。 その変化が、あまり褒められるものではないとはセフィロスも分かっているが、ならば何ができるのかと自分に問うても答えは出ない。 『暇すぎる!暇すぎる!魔物出て来い!魔物こーい!!コイコイコォォォ……ハァ!!』 「…………」 「、平気か?」 良くない変化だが、ちょっとアレな幻が出ても、最初のように涙目で逃げ帰ろうとしなくなったのは、良かったのかもしれない。 ……良いのだろうか? 暇だ暇だ叫びながら前転を繰り返し、力を溜めたかと思ったら武器を投げ出して地面の上で大の字になっているの幻。 実物のは一瞬で目が死んだが、セフィロスが声をかけるといつも通りの目になり、まだ透明な通路の上に氷の欠片を撒いた。 フッと体の力を抜いたかと思うと、身を丸く縮こまらせ、小さな声で仲間の名を呼ぶ幻の横を、セフィロスはに手を引かれながら通り過ぎる。 最後の足場には大きな扉があり、そこによくわからない落書きをしているの幻がいたが、実物のが扉に手をかけると幻はかき消えた。 「セフィロス、この先は……これまでより、ちょっとアクが強い幻が出るかもしれません」 「……覚悟しておこう」 ここでそれを言うなんて、お前はどんな奇行をしてきたんだ。 内心問うたセフィロスだったが、顔には出さず静かに彼女へ頷く。 話している間にも、後ろから現れたの幻が敵の攻撃を受け、セフィロスと実体のの体をすり抜けてドアがあった場所に体を叩きつけられていた。 不意に体の中を魔力がすり抜け、セフィロスはついピクリと肩を揺らしたが、実物の方のは反応してしまった彼を視線だけで確認するにとどまる。 意識朦朧といった顔で自身に回復魔法をかけ、再び2人の体をすり抜けて立ち向かっていく幻に、今度はセフィロスも反応しなかったが、にも弱い時期があったのかと今更な事を思った。 とはいえ、比較対象は出会った頃のであり、幻のも普通の人々の中に放り込めば十分化け物扱いされる強さだった。 開かれた扉の向こうには、倒れた本棚と本で散らかる小さな部屋があった。 真ん中にある大きな机は脚が折れて傾き、壁際にあるベッドは真っ二つに割られていた。 読書に丁度良い明るさのその部屋にも、光源はないのだろう。 そう思って軽く中を覗き込もうとしたセフィロスだったが、それはこれまでの道中とは打って変わり、立ち止まって動かなくなったによって止められた。 その目は鋭く細められ、注意深く室内を見回している。 が何を警戒しているか分からないセフィロスは、同じく室内をみてみたが、元の状態を知らないので判断などできなかった。 「、どうした?」 「異常です。この部屋が、こんなに荒れているはずがない」 「……部屋がまるごと幻か?」 「わかりません。ですが、今日はもう帰りましょう」 の声は落ち着いているが、手を握る力が少しつよくなり、そしてその手には微かに汗が滲んできている。 けれど、幻か否かわからないのなら、もう少し様子を見て見てもよいのではないか。 幻はあれど、見知らぬフィールドをここまで進んできた楽しさと、募る探求心から、セフィロスはそんなことを思ってしまう。 けれど、長くこの場所にいたの判断を否定する気もなく、気持ちはすぐに諦めに至った。 また召喚獣に調査を頼み、問題なしと判断されれば訪れられる場所だ。 急いで先を進む理由もないので、セフィロスは警戒を続けるが落ち着くよう、その腰を引き寄せる。 「お前がそう言うのなら、今日はここまでにしよう」 「ええ。念のため、水晶と星空のフィールドに戻ってから、家に帰りたいのですが、よろしいでしょうか?」 「ああ。わかった」 「ありがとうございます。では、行きましょうか」 何事もなければ、次元の狭間の中でも、セフィロスがまだ行ったことが無い場所を数日かけて探索するつもりだったのだが、その予定は流れてしまった。 さて、では残る数日の休暇はどうしようかと考えながら、セフィロスは振り返るために一瞬だけと手を離した。 そのくらいは、も許容したのか抵抗なく手を離したのだが、振り向いた瞬間眼前に飛ばされてきた見慣れない魔物につい体が反応してしまった。 いつもなら、一瞬回避しようと動いても、幻は体をすり抜けるだけと思い出してセフィロスはすぐに踏みとどまる。 今回も彼は同じ反応をしかけたが、ピシャリと頬にかかった魔物の血に目を見開くと同時に、体が反射的に後方へ跳んでしまった。 しまった、と思った時には、彼の体は本が散らばる小部屋の中にいて、扉の向こうに驚き振り返ると、剣を振り下ろしたまま不審そうな顔をしているの幻が見える。 本の山の上に降りるしかなかったセフィロスの足は、着地と同時に本で滑り、すぐに姿勢を戻したが足の下の本が崩れて部屋の中が更に荒れた。 小さく舌打ちしながら、すぐにの隣に戻ろうとしたが、瞬きする間に開いていたはずの扉は閉じていて、一緒に部屋に入った魔物の幻は何故かセフィロスの方を見て固まっていた。 「……?」 まるでこちらが見えているような魔物の反応が少し気にかかったが、幻は無視が常套なので、セフィロスは気にせず閉じた扉に戻る。 彼が1歩踏み出すと魔物はビクリと震え、2歩目で身を抱くように縮こまって、3歩目で扉の前に着くと視界の端でガタガタ震えだす。 嫌な予感を受け入れたくなくて、ばりに幻を無視したセフィロスは、1分1秒の影響を拒否するように扉を開けた。 「……嘘だろう……?」 目に映る青空とは程遠い洞窟と、無音だった次元の狭間で初めて聞こえる水が流れる音。 何より、扉の向こうに無かったの姿に、セフィロスは思わず呟きを漏らした。 |
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セフィロス、やっちまったでござるの巻 2024.09.24 Rika |
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