| 次話 ・ 前話 ・ 小説目次 | ||
|
Illusion sand ある未来の物語 120 自然に眠りから目覚めたは、暗い室内にベッドサイドの時計へ目をやる。 夜明けの気配は遠いが、時間の感覚を忘れて数日過ごしていたせいか、真夜中だというのにそれ以上の眠気はなかった。 頬が引きつる感覚に、枕にしているセフィロスの腕から軽く頭を浮かせると、ベタつく肌が互いに吸い付くように引っ張られた。 寝息を立てて目覚める様子がないセフィロスを数秒見つめると、はそっと彼の腕から抜け出してベッドから降りる。 体の中から流れ落ちる残滓の感触に、押さえる物を探した彼女は、ベッドの下に脱ぎ捨てられている寝間着を見つけた。 それを脱いだのはいつだったか……。 同じ汚れがついているのに既に乾いている寝間着を見下ろして、は少しだけ考えてみたが思い出せない。 時間どころか日付の感覚すら曖昧だが、反省も驚きもなく現実を受け入れると、は寝間着で股を押さえて静かに寝室を出た。 疲労で重だるい体に、回復魔法をかけるかどうか迷いながら暗い廊下を歩いていた彼女は、ふとリビングから見えたキッチンに目をとめる。 食材は沢山買ってきたのに、寝室に籠もっていた数日は料理らしい料理はせず、当然食事も適当だった。 思い出したら、急に空腹を感じて、は休暇の初日にセフィロスと話していたトマトスープが食べたくなってきた。 真夜中だが、シャワーを浴びたら食事にしようと考えて、は再び暗い廊下を歩く。 洗面所に着いてようやく灯りをつけたは、鏡に映る自分の体を確認する事もなく、脱衣所へ入った。 僅かな時間でベッタリと汚れた寝間着を洗濯かごに入れ、尚も流れ出てゆっくりと脚を伝う残滓に、追い立てられるようにシャワールームへ入る。 冷たい水を数秒浴びて緩む意識を引き締め、すぐに暖かく変わったお湯に小さく息を吐いた彼女は、やはり湯船は必用だったとぼんやり考えた。 不意に漂ってきた食欲をそそる香りに、セフィロスはぼんやりと目を開ける。 視線をさ迷わせ、がいない事を理解した彼は、睡魔に従って再び目を閉じる。 だが、一度感じた美味しそうな匂いが空腹を思い出させて、目を閉じたまま悩んだ。 最後に食事したのはいつだろうか。 半日以上前に酒と果物を少し口にした記憶はあるが、食事らしい食事はとんと記憶にない。 ならば起きた方が良さそうだと考え、ベッドから出た彼は、乾いた汚れで腰周りに張り付いていたシーツを気だるげに引き剥がす。 腕や胸も汚れでベタついていて、今度はシャワーと食事、どちらを優先するか悩みながら、セフィロスはの鏡台に引っ掛かっていたガウンを着た。 寸足らずなそれがのだったと気づいたものの、自分のガウンを探すのは面倒だった。 あまり汚れていないが、どうせ洗濯するし良いだろうと考えると、彼はそのまま寝室を出る。 強くなったトマトスープの香りと、廊下から見えたキッチンで鍋を混ぜるの後ろ姿に、セフィロスは食欲を優先する事に決める。 バスローブのまま台所に立っていたは、のっそりとした動きで起きてきたセフィロスに気づいたが、その眠そうな顔につられたのか欠伸がでてしまった。 「セフィロス、起こしてしまいましたか?」 「匂いにつられた。すぐに食べられるか?」 「今、ベーコンを入れたばかりでなんです。入れ忘れていて。それでもよろしければ出せますよ」 「なら頼む。腹が減った」 椅子に腰を下ろし、肘をついて頼む彼の瞼は重そうだ。 食事をとったら、セフィロスはまた寝るかもしれないと思いながら、は深めの皿にトマトスープを入れ、パンの代わりにクラッカーを出した。 礼を言って食べ始めたセフィロスに、も自分のスープをよそい、 テーブルにつく。 シャワーを浴びて身も心もサッパリしていただったが、眠気眼なセフィロスを見て気が緩んだのか、体が疲労を思い出してきた。 何となく、時計を確認するのが面倒で、そのまま気にせず料理までしていたが、今はいったい何時なのだろうか。 何時どころか、そもそも今は休暇が始まってから何日だろうと考えながら壁のカレンダーを見たが、当然それでは分からなかった。 ひと匙、ふた匙と口に運んでいくにしたがって、セフィロスの目がしっかりしていく。 気が抜けた寝ぼけ顔も可愛らしかったのに……と、少し残念に思いながら、も無言で食事を進めた。 ベーコンが後入れになったことで、味がいつもと変わってしまったが、今のセフィロスは気にしていないらしい。 皿の中を空にした彼は、無言で立ち上がるとお代わりをとりに行き、ついでにグラスに水を入れて戻ってきた。 「セフィロス、私はシーツを変えてきますね。シャワーは入りますか?」 「……まだ眠い。シャワーは明日……いや、これを食べたら入る。汚れているからな。シーツは頼んだ。食器は俺が洗っておく」 「ありがとうございます。手を借りたくなったら呼んでください」 「わかった」 スープ皿にクラッカーを割り入れる彼に告げると、は廊下の灯りをつけて寝室へ向かう。 ドアを開けた瞬間に感じた事後の濃い匂いに、は微かに眉を上げると、窓を開けてエアロで空気を入れ替えた。 寝具のカバーを外し、グシャグシャになって外れかけているシーツをとると、足の辺りからから汚れて丸まった吸汗防水シートが出てくる。 マットレスに出来ている染みを一瞥し、小さくため息をついたは、床に落ちている衣類を拾うと足早に脱衣所へ向かった。 夜中だが、誰に迷惑をかけるわけでもないので、全て洗濯機に放り込んで『念入り洗い』コースでスイッチを入れる。 足早に寝室に戻りながら、ちらりとダイニングを見ると、セフィロスはまたお代わりしているようだ。 かなりお腹が空いていたらしい。 シャワーを浴びたらまた寝そうな雰囲気の彼に、は彼の着替えを準備し、自分もバスローブから薄手のワンピースに着替える。 タイツや靴下は、自分で選ぶと後でセフィロスから別の物を渡されるので、裸足のままだった。 カバーが外された寝具を確認すると、予想通り汚れているし、枕の真ん中にはできたばかりの涎の跡もある。 それらを魔法で浮かせて掃き出し窓から出したは、アイシクルエリアでもやっていたように、魔法でジャブジャブ洗い一気に乾かした。 清潔さは保てるが、マットレスはやりすぎると中のスプリングが痛んでしまう。 アイシクルエリア規格の大きさのマットレスは、売っている店が少なく、値段も普通のマットレスより高いのだ。 今のマットレスはジュノンに引っ越した時に買ったのだが、その時も探すのに少し苦労した。 他の世界に行ったら、そこでも寝具探しするのかもな……と考えながら、はすっかり綺麗になって乾いた寝具をベッドに戻した。 代わりのシーツやカバーを出してベッドを整えていると、何処かのドアが開閉した音に気付く。 セフィロスがシャワーに行ったか、戻ってきたのだろうと、は特に気にせずシーツの折り目を整えた。 ずっと空気を入れ替えていたおかげで、部屋の中は窓を閉めても外の匂いがする。 鏡台の引き出しを開けたは、少しだけ迷った後に鈴蘭の香りのアロマキャンドルを取り出し、火を付けた。 ロウが燃える香りが数秒。 その後広がり始めた清涼な香りに、はつい深く息を吸い込む。 けれど、吸い込んだ空気には、鈴蘭と外の匂いに交じって、まだ男女の匂いがする。 仕方ないとは思いつつ、朝になってセフィロスが動けるようなら、カーテンを外してもらって洗濯しようとは考えた。 もう一度鈴蘭の香りを吸い、満足げに息を吐いたは、そこでようやくベッドサイドの時計を見る。 夜中の2時45分をさす針に、随分変な時間に目を覚ましたものだと思いながら、日付を確認しようと携帯を探す。 だが、一体何処に置いたか思い出せないし、最後にいつ触ったのかも覚えていない。 ベッドにも鏡台にもないのなら、ずっとリビングに置きっぱなしだったのだろうと考えると、はキャンドルの周りを綺麗に片付けてから部屋を出た。 どうやらセフィロスはシャワーを浴びているらしく、廊下に出るとそちらから音がしてくる。 彼に用意した着替えが交換されないか少し心配だったが、下着と上下セットのパジャマだったので、問題なかったのだろう。 台所に行くと灯りがついたままで、シンクに置いてあった食器は洗ってあるし、炊飯器には米とタイマーがセットされている。 シャワーの後でも良かったのに……と思いながら携帯を探してそちらへ向かったは、ふと鍋を見て、中身が半分以下になっている事に気が付いた。 「……何杯食べたんだ……?」 空の胃に、そんなに一気に物を入れては、吐いてしまうのではないかと、は少し心配になる。 スープは大きめの鍋に作っていて、最初の1杯目でもまだ4分の3は残っていたのだ。 パンやご飯がなくてクラッカーにしたせいだろうかと反省すると、は炬燵テーブルの上に置きっぱなしの携帯を見つけて手に取った。 だが、電源を入れようとしたが、充電が切れているようで画面は真っ暗なまま。 一体いつから充電が切れていたのだろうと考えながら、は隣に置いてあったセフィロスの携帯を見たが、そちらもと同じく充電が切れていた。 他に日付を確認するものはあっただろうかと考えながら、は二つの携帯を充電に繋ぎ、辺りを見回す。 さすがに、春期休暇がまだ1週間以上残っているのは間違いないので、焦りはしない。 誰かからの緊急連絡さえなければ問題はないし、そんなものはそうそう来ないだろう。 一先ず日付の確認は諦めて、は寝室に戻る。 ドアを開けると、鈴蘭の清涼な香りを感じたが、まだ外の匂いを感じるので、もう少しの間キャンドルの火をつけている事にした。 おかしな時間に目を覚まして色々済ませてしまったが、体は疲れていても、眠気もやる事もない。 洗濯物の乾燥は1時間近く先になるだろうし、この時間から掃除をするのもどうかと思う。 適当に本でも読んで過ごそうかと考えていると、シャワーを終えたセフィロスが寝室に戻ってきた。 「おかえりなさい。髪を乾かして櫛づけますから、座ってください」 「ああ」 が自分が座っていた鏡台の椅子を勧めると、セフィロスは短く返事をして腰を下ろす。 タオルドライしただけの彼の髪をそっと持ち上げて魔法で乾かすと、いつもより絡まっている髪は重そうに指先から流れ落ちた。 目が粗い櫛を彼の銀髪に当てながら、は引っ張らないように優しく絡まりを解していく。 大きな絡まりは解れたが、毛先にはまだ小さな絡まりがある。 きっと、洗う時に解すのを諦めて、そのまま濡らしたのだろう。 この絡まり方をするようになったら、彼の髪の切り時が近い証拠だ。 宿舎生活だと入浴時間が限られていて手入れが行き届かないと言っていたので、今回はいつもより短めに切ってしまうかもしれない。 北で牧場の手伝いに行っていた時も、髪に匂いや汚れが付くといって、腰辺りで切った事があったので、今回切るとしてもそのくらいだろう。 バッサリ短くしなければそれでいいと思いながら、は鏡越しにセフィロスの顔色を確認する。 シャワーを浴びてさっぱりしたようだが、彼の目はいつもより眠そうで、表情にもまだ疲れが見える。 それを見ている自分の顔にも、眠気こそないが疲労の色が見えた。 まあそうだろうな……と、眠る前までのあれこれを思い出したは、目が細かい櫛で解れた彼の髪を整えた。 植物油を染み込ませた木製の櫛を通すと、彼の髪は一気に艶を増し、絡まって癖がついていた毛先もまっすぐ整えられる。 「終わりましたよセフィロス。もう一度寝ますか?」 「そのつもりだ。お前は起きているのか?」 「迷っている所です。洗濯物を乾かしたら、やる事がありませんので」 「ああ……乾燥は明日にして、一緒に寝たらどうだ?7時に目覚ましを鳴らせばいい。来い」 「……寝間着に着替えるので、先にベッドに行ってください」 「わかった……俺も、その前に、歯を磨いてくる」 シャワーで温まった体温が落ち着いてきたのか、徐々に眠そうな顔になる彼は、のそりと立ち上がると洗面所に向かう。 転ばないだろうかと心配しながら彼を見送ったは、キャンドルの火を吹き消すと、手早くパジャマに着替えた。 洗面所で歯を磨く彼の後ろを通り、脱衣所へ顔を出したは、洗濯機の残り45分という表示に、これは待てないと諦める。 セフィロスと入れ替わりで歯を磨いて寝室に戻ると、彼は既にベッドに横になっていた。 リビングで充電していた2人の携帯を持ってきたらしく、それらは寝室の壁にあるコンセントに繋がれている。 充電ケーブルがついたままの携帯を眺めていた彼は、が戻ってくると視線を向け、自分の隣を視線で示した。 「携帯、どちらも充電が切れていましたよ。何処かから連絡はありましたか?」 「一昨日と昨日、学校関係で何通かきていた。休み明けの集合についてだ」 「緊急性はなさそうですね。ところで……何日ぐらい経っていましたか?」 「……驚け。5日だ」 「……は?」 「正確には4日半くらいだがな。途中、ダラダラしていた日もある。そんなものだろう……」 「ああ……覚えているような……いないような……」 「その日は、お互い勝手に食事と風呂を済ませて、殆ど寝ていたからな」 もしかしたら、自分は寝ながら食事等を済ませたのかもしれない……と思いながら、はもぞもぞと布団に入る。 普段の彼なら、せっかく夜中に目が覚めて眠れないなら……と、すぐそこの海に夜釣りに行っていたが、流石に今日はその元気はないようだ。 歯を磨いたせいか、さきほどより眠気が薄れてたセフィロスの顔に、は苦笑いを零して手を伸ばす。 シャワーで髭を剃ったらしい彼の頬はすべすべだ。 多分5時間くらい前だが、それまで髭がチクチクした状態で散々肌に頬を寄せられていたは、つい彼の頬を軽くつねってしまった。 が、すぐ親指の付け根に甘噛みで反撃された。 「えー……?無理です。もう食べないでください」 「散々俺を食っていた口で、よく言う……」 「それはそれ、これはこれですよ。さあセフィロス、まだお疲れでしょう?ゆっくり休んでくださいね」 「明日の朝も襲った方がいいのか?」 「いえ、流石にもう、暫くはいいです」 「そうか。それは残念……いや、俺も同感だな。、お前も休め」 この疲労はちゃんと食事をしなかったせいもあるだろうと言うと、セフィロスは目を閉じてすぐに寝息を立て始める。 彼の頬を撫でながらそれを見守ったは、暫く彼の寝顔を眺めると、灯りを消して静かに彼に身を寄せて目を閉じた。 6時間後、強い空腹感で目を覚ましたは、いつの間にか止められていた目覚まし時計を見なかったことにして、セフィロスを揺り起こす。 「セフィロス、朝ですよ。もう9時を過ぎてますけれど」 「ああ……………もう少し……」 グキュ~キュルルルルル……クゴォォォ……ゴゴッ……ギュゥ…… 「……………」 「………目が覚めた。朝食だな?」 不思議な音で起こしてくるの腹に、セフィロスは一瞬で眠気が醒めて起き上がる。 羞恥と動揺を、目を閉じてやり過ごそうとしてだったが、彼に手を引かれてベッドから出された。 鳴って聞かれたものは仕方がない、と早々に諦めたは、セフィロスに渡された服に着替え、朝の支度を調える。 やはりまだベッドにいようと言われ着替え途中で服を脱がされた新しめの記憶があるが、今日はもうそんな気はないようでは無事着替えを終える。 もう一度洗濯機を回してこなければと考えている間にセフィロスも着替えを終え、2人は揃って洗面所へ向かった。 歯を磨くセフィロスの後ろで、は彼の髪を軽くブラッシングしてゴムでまとめる。 彼が顔を洗っている間に、が止まっている洗濯機に洗剤を入れてもう一度まわしていると、その間にセフィロスは朝食を準備しに行った。 何も考えず身支度を調えていたは、軽く髪をまとめていたら耳に赤い色を見つけて手を止める。 不思議に思い髪を避けてみると、鏡に映る右耳にはくっきりと歯型がついていた。 思い出してみると、強く噛まれはしなかったが、何度も同じところを噛まれていた記憶はある。 痛くは無いのでまあ良いか……と思いながら、鏡も暫く見ていていなかったと気づいたは、確認するより先に鼻毛切り鋏を探した。 襟元から見える胸にも噛まれたり吸われたりした跡があるが、過ごした時間の濃さに比べれば少ないくらいだ。 こちらから積極的になって跡を付けにいけば、セフィロスが付けてくる跡も少なくなるらしい。 役に立つのか微妙な発見をしながら鏡を確認したは、ギリギリセーフだった毛の長さに安堵しながら鋏を入れる。 他のムダ毛は騎士になる前……生え始めた頃に、家の者に言われるまま生えなくなる薬を何度か塗って処理がいらなくなったが、それは鼻には使えないものだった。 気化した成分が視力に悪影響するため、首から上には使えず、体に使う時も念のため目に布をあてて保護する必要があった。 時期を置いて数回塗る必要がある薬で、旅に出てからファリスとクルルに頼まれて入手し、塗ってやったから覚えている。 おかげでの脇は昔からツルツルだが、下の毛もツルツルだったので、保護した後体を洗ったセフィロスは驚いたらしい。 それはいやらしい驚きではなく、毛も生えていない子供の可能性と、人間だと思って保護したが人型の魔物だった可能性に、だ。 成長が終わっている骨格と骨の太さで子供ではないと分かったし、洗う過程で股の間を見たり触れたりする必要があったので、人間で大人の女だと分かったそうだが……。 保護して洗った時、草むらにある血だまりで遊んだ野良犬を更に血だまりで洗ったような臭いがしたと告白されたのは、の家出でセフィロスが汚いオッサン化してから、少し経ってからである。 鋏を片付け、顔を洗ったは、ついでに軽く化粧をすると洗面所を出る。 廊下には既にトマトスープの匂いがしていて、リビングに顔を覗かせるとセフィロスが台所でご飯をよそっていた。 「、悪いが、寝室から携帯をもってきてくれ」 「わかりました」 夜中にかなり食べていたはずなのに、また食べるのかと思いながら、は彼に頼まれた通り寝室へ向かう。 充電が終わっている二つの携帯を手に戻ると、セフィロスは既にダイニングテーブルに腰を下ろして待っていた。 今日は寝室に籠もっていた間の掃除と洗濯をして、ゆっくり過ごそうと話し合うと、2人は時間をかけて食事を終え、手分けして作業を始める。 セフィロスが家中のカーテンを外す後ろで、は窓を開けながら掃除機をかけてまわった。 一通りの掃除や洗濯が済む頃には正午を超えていて、遅い昼食でトマトスープの鍋を空にする。 雲が出てきた空に天気予報を見ると、午後から三日後まで雨のマークになっていて、セフィロスは釣りができないと知るや肩を落としていた。 雨雲の厚さに比例して気温が下がってきたので、2人は炬燵に入ると座椅子をぴったりとくっつけて身を寄せ合う。 だが、色艶めいた空気はなく、それぞれが持ってきた本を読み、時折うとうとしてくると少しだけ相手の肩を借りながらぽつぽつと降り出した雨を眺めていた。 休息を求める体に従い、夕食は簡単なリゾットで済ませると、それぞれシャワーを浴びて早めにベッドに入る。 1日休んで疲労感は殆ど抜けたが、布団に入れば自然と体は眠くなった。 夕方から徐々に雨脚は強まり、灯りを消した室内が時折雷光で照らされる。 海が近いこの家は、風向き次第で荒れる波音も聞こえてくるが、風がない今日は雨音に隠されてその音は届かない。 明日は今日より雨が強くなる予報なので、散歩も儘ならないだろう。 「セフィロス、明日はどうしますか?」 「そうだな……少し、体を動かしたい。次元の狭間に行けるか?」 「ええ、大丈夫ですよ。では、お弁当を作って持って行きましょうか」 「ピクニック気分か。まあいいが……あの水晶と星空のフロアの先は、まだ行けないのか?」 2人で体を動かすとなると、当たり前になるくらい次元の狭間へ行っているが、セフィロスは未だ最初に訪れたフィールドから先に行ったことが無い。 相変わらずの幻は出るが、最近では頻度が減ってきているし、セフィロスも随分と慣れてきた。 の嫌な記憶を引きずり出したいわけではないが、初めて訪れてから随分経つのだし、もう足を踏み入れても良いのではないかとセフィロスは思っていた。 「……あそこより先ですか」 「俺は未だに、お前が寝泊まりしていたという場所すら見ていない。、お前は、この世界を離れる日は、そう遠くないと思っているのだろう?それなら、そろそろ俺を連れて行ってもいいと思わないか?」 「そうですね……もちろん、気持ちでは、良いと思っています。しかし、あの水晶の大地の先にある場所は、一番次元が不安定で、足場も悪いので……それが心配ですが……」 「前に、狭間はどこも庭のようなものだったと言っていなかったか?いざ違う世界に行くとなった時、歩き方を知らない方が問題だ。駄目なら駄目で、事前に対策を考える機会になる」 「……そうですね。ではいっそ、手合わせではなく狭間の散策にしましょうか。キャンプ道具と、食料を持って」 「いいだろう。どうせ家にいても、雨で何もできない」 「決まりですね。期間はこちらの世界で3日です。シヴァに頼んで、3日後に知らせてもらいましょう。狭間で時間が狂うと、休暇中に帰って来られなくなる可能性がありますから」 「わかった。なら、明日の午前は弁当作りだな」 予想外に決まった未知なる場所への探索に、眠気眼だったセフィロスの目の奥が輝く。 気持ちは分かるが、実際の場所を知るは苦笑いを浮かべる事しかできず、布団の中にある彼の手を握る。 「大丈夫だとは思いますが、もし、私とはぐれるような事があって、一人で戻る事もできなくなったら、誰でもいいので、召喚獣を呼んでください。それと…………何を見ても、過去だという事を、忘れないでください」 「……もちろんだ。覚えておこう」 ゆっくりと言い聞かせるように言ったに、セフィロスはまた尻叩きスキップダイブみたいなのが出てくるのかと思いながら、神妙に頷く。 の幻は、ただ歩いているだけのものから、血まみれで目を背けたくなるようなものまで色々目にしているので、改めて言われると一番アレなアレを思い出してしまう。 多分が言っているのと、自分が想像しているのは違うのは分かっているが、忘れようとしていた幻は一度思い出すと鮮明に脳裏によみがえってくる。 僅かに不安を滲ませながら肩に頬を寄せてくる彼女と、蘇った記憶との落差で情緒が混乱しそうなセフィロスは、そっと瞼を伏せると昨夜までの記憶を辿る。 あられもなく乱れ、何度も嬌声を上げて背を反らせても、引き寄せた手に逃れるどころか捕まえてほしいと腕を広げていたの姿を思い出す。 何でこれを思い出して落ち着こうとしているのか。 そう冷静に考えながら、セフィロスは彼女の艶姿を脳裏で繰り返し思い出すが、何故かアレな幻の記憶も同時に脳内再生されて更に感情が混乱するだけだった。 明日、これ以上のアレな幻を見る事になったらどうするか。 過ぎった予感が現実味を帯びているのはなぜだろう。 答えは簡単。 相手がだからだ。 同時に、この混乱を放置すれば、との艶事の記憶とアレな幻の記憶が、自分の中でセットになる強い予感もしている。 「まずいな……」 「セフィロス、どうしましたか?」 天井を見上げて目を閉じ、大きく息を吐いたかと思ったらそう呟いた彼に、は閉じかけていた瞼を開ける。 ちらりと横目で見るセフィロスの視線に、何故か物言いたげな雰囲気を感じては内心首を傾げた。 その間に、彼はまた目を閉じて数秒考えると、意を決したように目を開けてゆっくり起き上がると、そのままの上に覆いかぶさった。 「……ぬ?セフィロス、どうしたんですか?」 「予定変更だ。次元の狭間は明後日にいく」 「……何故でしょう?……あの、この姿勢も…………え?嘘ですよね?」 「記憶の上書きが必要だ。悪いが今夜も受け入れてくれ」 瞳に熱を映すでもなく、生真面目な顔でそう宣ったセフィロスに、は唖然とする。 彼が急に求めてきた理由がサッパリ分からず、前後の会話を思い出している間に、布団がベッドの下に落とされてパジャマのウエストから出ていたショーツの紐も解かれた。 昨日までとは打って変わり、雰囲気も糞もなく始めようとする彼に、は力ずくて止めようかと拳を握る。 いや、しかしそれは流石に可哀想だろうか? 何か理由がありそうなのだし、まずは優しく理由を聞いてあげるべきかもしれない。 そう考えた一瞬の隙に、一番の弱点である耳をセフィロスに食まれたは、水音を立てながら外耳を這う彼の舌に10秒もたず陥落した。 翌朝、目覚ましより早く目を覚ましたセフィロスは、下から感じた視線に胸の上を見る。 見れば、昨夜上に跨がったまま気を失うように眠りに落ちたが、無表情でセフィロスを見ていた。 怒りや呆けからではなく、完全な虚無の無表情に、セフィロスは対処法が分からず、彼女と視線を合わせる以外できない。 「おはようございますセフィロス」 「ああ……おはよう」 「ケアルかけてください。腰に」 「わかった」 感情のない静かな口調での要求に、セフィロスは一瞬『お前はマジックポットか』と言いたくなったが、それを堪え、心を無にして従う。 そっと彼女の腰に手を伸ばすと、一瞬彼女の体がピクリと反応したが、回復魔法をかけると静かに力を抜いていった。 同時に吐かれた彼女の長い息が胸元を擽り、今度はセフィロスの体が反応する。 ふと気になって腰を動かして確かめたが、流石に繋がったまま寝ていたなんてことはなかった。 だが、動いた拍子に彼女の中から昨夜の名残が流れ出てきて、早朝の静かな寝室に意図せず水音が響く。 この状況はどう転ぶのか、転がせばいいのかと考えるセフィロスだったが、は気にした様子もなく、眠りにつくようにそのまま目を閉じる。 「、まだ眠るのか?」 「……」 無言でこくりと頷いたは、一度大きく息を吸ったかと思うと、本当にそのまま眠ってしまった。 せめて股ぐらい拭いたらどうか。 重力に従ってゆっくりと返品されてくる残滓に臍の下を汚されたセフィロスは、そっと彼女を横に移動すると、自分の体にも回復魔法をかけて後始末を始める。 ふと、昨夜の記憶を思い起こし、異物が紛れない事を確認したセフィロスは、一昨日やその前の記憶も辿ってみる。 思い出すのは、昨夜の記憶同様、おかしな点など一つもない情事だけで、狭間のアレな幻の記憶がついてこない事に、セフィロスは心の底から安堵した。 二度寝したからは、起きたら事の運び方が唐突で強引だと苦情を言われるかもしれない。 しかし、昨夜はセフィロスもとは別の理由で必死だったので、少しだけは理解してほしい。 が、必死だった理由を言えば、は羞恥で切腹とか言い出しかねないので、苦情は大人しく受け取るしかない。 1時間後、目覚ましの音で目を覚ましたは、セフィロスの予想を裏切り、何の苦情も口にしなかった。 彼女は少し手荒い方が悦ぶので、逆に良かったのかもしれないと、セフィロスはいつも通りの彼女を見て思う。 腰が痛くなるくらいには激しかったのに、それで満足とは、やはりちょっと変態だな……と思ったが、言えばまた揉めるので、セフィロスは口を噤むことにした。 |
||
今回の話は、艶事について書いてる所が多かったので、番外編にするかちょっと迷いました。 でも真っ最中を書いてるわけでもないですし、今更番外にする必要を感じなかったので、普通に120話にしましたよ。 番外編だったら119.5話っていう扱いだったんですけどね。 開き直って艶事の話を書くか、一瞬迷ったんですが、別に今書かなくてもいいかな~と思ったのでやめときました。 次は久々に次元の狭間に行ってる話になります。 2024.09.18 |
||
| 次話 ・ 前話 ・ 小説目次 | ||