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「……やはり、ひと月以上留守にすると、庭が荒れますね」
「そうだな。俺は先に中に入って窓を開けてくる。、草の処理を頼む」

約2カ月ぶりに帰ってきた自宅の荒れように、とセフィロスは予想通りと溜め息をついて手入れを始める。
ジュノンは実地学習前の2月初めに数日雪が降っていたが、その後は暖かかったらしく、自宅の庭は雑草が伸び放題になっていた。

自分より背が高い雑草も、それに追いつこうと背を伸ばす雑草も、は足首以上の高さの草は全て魔法で切り刻む。
途中、逃げ遅れた小型のモンスターも巻き込んでしまったようだが、切り刻んだ後では分別するのが難しいので、まとめて燃やした。

開けられた窓からはみ出したレースのカーテンが風に揺れ、セフィロスが掃除機をかけている音が聞こえる。
車の周りに生えた草も刈り終え、すっきりとした庭を見回しただったが、軒下に張られた蜘蛛の巣を見つけて、今度はそれを風で飛ばしに歩いた。



Illusion sand ある未来の物語 119



今年は、ミディールで過ごした年以来の、暖かな春だった。
とはいえ、2人の基準は3月でも当たり前に雪が降るアイシクルエリアなので、元々ジュノン近郊に住んでいる人にとっては例年通りの暖かさだ。


当初はアイシクルエリアの家も掃除しに行くつもりで予定を立てていたが、とセフィロスはつい先日、魔物討伐の際に行方不明になった扱いになったばかりらしい。
集落の住人にとっては、引っ越して1年も経たずの行方不明なので、暫くは気にするだろう。

引っ越し後は親戚が家の持ち主になると言っているし、管理のために人の出入りがあると伝えているので、家の周りや道路が整備されていても違和感はもたれないはずだ。
しかし、行方不明のはずの達を見られればこちらの計画が崩れかねない。
そのため、ルーファウスからの提案で、家の清掃は業者に依頼することになった。
月3回の掃除と空気の入れ替えで2年契約したほか、たちが自ら荷物の出し入れする時は、念のためタークスの制服を着用するよう頼まれた。

当初は季節ごとに衣類を北の家から持ってくる予定でいたが、ジュノンは2人が思っていた以上に暖かかった。
こちらの地域は冬ごもりがないため、保存食を求めて北の家に行く必要もない。

一番気をかけるべき掃除が委託できたので、休暇の予定は想定外に余裕が出来た。
それならそれで……と、2人はのんびりとした休暇を過ごすつもりでいた。
食材を買うために、街の大型スーパーに着くまでは。


「休暇時期だけあって、随分人が多いな」
「それにしても、皆買い込みすぎな気がしませんか?大型のカートを2つも使っている人もいますよ?」

大型店舗の外にまで商品を積んでいる様子と、大量の買い込みをしている客たちに、とセフィロスは揃って首を傾げる。
何度も来たことがあるスーパーだが、いくら休暇時期前の日曜だからといって、ここまで大量に商品を並べる理由も、それを買い込む客にも疑問が生まれた。

因みに、アイシクルエリアではこの時期まだ普通に雪が降るし、春を感じるのはもうひと月先になるので、春を喜ぶ祭りはあっても時期がずれる。
ミッドガルは神羅が作った新しい都市だったのでそういった習慣はなく、その近くにあるカームも2週間の休暇習慣はなかった。
ジュノンも、昔は春期休暇はなかったようだが、数十年前から徐々に浸透して30年ほど前からは当たり前になったようだ。
元々保養地のミディールは、むしろ体を休めに来る客が増えるので、春の祭りはあっても休暇は浸透していない。

新種騒ぎの前のアイシクルロッジでも、冬ごもり時期前のスーパーは混んでいたが、今のジュノンは春である。
にも拘わらず、殆どの客が普段カート置き場の隅に置かれていた大型カートを押し、そこに山のように食材を入れながら、あれもこれもとその山を大きくしているのだ。

とりあえず、見ているだけでは分からないので、は屋外で商品を出している店員に話を聞きに行った。
その間に、セフィロスは店の入り口に積んであったチラシを手に取り、邪魔にならない場所へ移動して目を通す。
チラシには、魚介のパイの写真が大きく写されていて、端には使用した食材とレシピサイトのアドレスが載っていた。
他にも、冬野菜と春のハーブが混じる煮込みや、こんがりと焼かれた地鳥の香草焼き、木の実やドライフルーツが入ったパウンドケーキなど、この地方の料理が載っていた。
裏面を見ると、安売りや目玉商品が目録のようにびっしりと書かれていて、少しだけ驚かされる。
家で見るならまだしも、店頭で立ち読みするには向かないチラシだ。

じっくり見るのは家に帰ってからにしようと、セフィロスがチラシを畳んでいると、店員から話を聞き終えたが人混みの中をぬいながら戻ってきた。


、店員は何か言っていたか?」
「ええ。この混雑は、この地域では春休暇の前半、どこの店も休むことが理由だそうです」

「……つまり、俺達も今日か明日、まとめて買い込まなければまずいという事か」
「ええ。明日は閉店時間も早まるそうですから、今日のうちに買い物を済ませた方がよいかと。その次に店が開くのは、来週の月曜日だそうですから」

「なるほど……だが、明日の昼以降の献立は考えていない。どうするか……」
「とりあえず、そのチラシに載っている、郷土料理の材料は買いましょう。あとは、必要そうなものを多めに買えば良いのではないでしょうか。今日から8日分となると、20食以上です。すぐに献立は思いつきませんよ」

「確かに、お前が言う通りだ。足りなければ、別の地方に買い出しに行くか……」
「ええ。私は、貴方と二人で家に閉じこもるのも良いですが……」

「8日もか?」
「5日目あたりで、貴方は釣りに行かれるでしょうから」

「ああ。天気がよければ……だが」
「後で天気予報も見ておきましょうね」


家から海までは500mほどなので、気が向いた時に釣りに行ける。
今の時期は何が釣れるのだろうとセフィロスが考えている間に、は大型カートを持ってきて、中にポンポン野菜を入れ始めた。


「南瓜が安いですね。久しぶりにポタージュを作りましょうか」
「それなら、パンを焼……暖炉が無いな。、どうする?」

「食べたいのでしたら、私が魔法で焼いて差し上げますから、大丈夫ですよ。ああ、セフィロス、私、茶碗蒸しが食べたいです」
「南瓜のポタージュに茶碗蒸しを合わせるのか?」

「いくら私でもその組み合わせは希望しませんよ。この休みの間でいいので、作ってください」
「わかった。、そこの椎茸と舞茸の大袋を入れてく……横着して他の茸まで入れるな。……いや、やっぱりいい。鍋にして使う」


今、家の冷蔵庫の中が空というのもあるだろうが、野菜だけでカートを埋めそうな勢いのに、セフィロスはちゃんと考えているのか心配になってくる。
だが、芽キャベツや生姜の芽といった、滅多に使わない食材は避けているので、一応少しは考えているのだろう。
サラダ用の野菜を3袋もまとめてカートに入れた彼女に一瞬驚いたセフィロスだったが、日数を考えると妥当な数なので制止はしない。
だが、食材の他にも、食用油や調味料も買い足すので、帰る時は車のトランクも後部座席もいっぱいになりそうだ。


、今日は帰りにコートを買いたいと言っていただろう?それはどうする?」
「……今日は、諦めましょう。生鮮食品を車に乗せたまま、ゆっくり買い物はしたくありませんから……」

擦り切れかけた袖を見て問う彼に、は手を止めて数秒考えたが、溢れる買い物客を眺めると苦笑いを浮かべてそう答える。
仕方ないと納得したセフィロスだったが、そのまま擦り切れかけたコートで次の秋から冬まで過ごすが容易に想像できたので、店が開いたら真っ先に彼女のコートを買いに行こうと決める。
短い宿舎生活の間に、セフィロスの靴下も無くなったり片方だけになったりしているので、そちらも買い足しておきたい。
無くなった靴下のうち1足は、魔法で乾かそうとしたら、失敗して燃えカスにしてしまったのだが……。


経験が違うとはいえ、髪の乾燥ですら3割の確率で失敗するセフィロスは、そのたびにの魔力操作の技量を思い知らされる。
戦闘での魔法は追いついてきたとも言ってくれるが、緻密な操作に目を向ける度、との間にある壁の高さを感じていた。
長い時間はかかっても、いつか越えられる壁だとは思っているが……。

魔法への理解とその使い方、繊細な操作を瞬時に行える処理能力を持っているのに、本人の気質は脳筋寄り。
素質と実像のちぐはぐさは、彼女の育ち方のせいだと分かっていても、改めて考える度に変な奴だとセフィロスは思っていた。
とはいえ、もしこれでが魔法の使い方も脳筋タイプだったら、『魔法(物理)』みたいな、今より訳がわからない戦闘ゴリラ女になっていそうなので、これでよかったのだと思っている。

「……どうしたんですかセフィロス?何か、お話が?」
「いや、相変わらず美しいと思って見ていただけだ」

「そうですか。ありがとうございます」
「ああ」

セフィロスが、氷塊に押しつぶされるブリザドや、火球に殴り飛ばされて地面に叩きつけられるファイアをぶっ放つ自分を想像しているとも知らず、は小首をかしげながら微笑んで納得する。
素直な女で良かったと思いながら小さく頷いたセフィロスは、放っておけばどんどんおかしな想像を続ける思考を止め、カートに入った食材から献立を考える事にした。



凡そ8日分の食材と酒を買うと、2人が半ば予想していた通り、車のトランクと後部座席は荷物でいっぱいになった。
郷土料理の材料の他には何をつくろうかと、買い物しながら話し合った2人だが、出てくるメニューは作り置きできるものばかりだった。
せっかくの休暇という気持ちが大きいせいだろう。

駐車場どころか、駐車スペースから出ることすら時間がかかる混雑は、諦め以外湧かない。
しかし、帰宅を急がない2人は、食材と一緒に買ってきた珈琲を車内で飲みながら、渋滞する道路の様子を呑気な顔で眺めた。

「日暮れまでに家に着くといいですね」
「心配するな。混んでいるのは町中だけだ。流石に、30分もあれば帰れる。だが……夕食は、簡単なものに変えるべきだな」

「トマト缶を買いましたから、適当に煮込みを作りましょう。どうせ明日の朝は遅いでしょうから、暖めるだけの料理の方が良さそうですし」
「どうして寝坊する事が前提になっている?」

「…………経験と、勘ですよ」
「……飲むなら付き合うが、家にいるからと言って、無茶な飲み方はするな」

「……ええ。わかってますよ」
「ならいい」

この人、分かってないな……というの視線に、運転席で前を見ているセフィロスは気づかなかった。
とはいえ、セフィロスがこの様子なら、寝坊する程の事は今夜はしないのだろうかと、落胆を顔に出さないようにしながらは視線を外へ向ける。

癖になってしまった気配や魔力の抑制をやめ、誰にも邪魔されずセフィロスと過ごせるのなら、この休暇が怠惰だろうが、爛れていようが、はかまわない。
長年アイシクルエリアで過ごして、ようやくセフィロスの傍なら完全に気を抜いて無防備状態で眠れるようになっただったが、ほんの1カ月半セフィロスの寝息を感じない生活をしただけで、元に戻ってしまいそうだった。

家に帰ってきたことで、セフィロスも表面的には肩の力が抜けているが、その気配や威圧はアーサーの村にいた時のままだ。
抑えたところで、が彼を見失う事などないのだが、それでも気配を潜め隠されていると、ライフストリームにいた頃を思い出す。
目の前にいて……もちろん遠くにいても分かるのだが、確かに彼の存在を感じているのに壁一枚隔てられたような感覚は、にかなりのストレスを与えていた。

休暇中の自分が、昔の彼のようなひっつき虫状態になりそうな予感をひしひしと抱いて、は顔に出さないまま頭を悩ませる。
初めて住む地方で、その土地の料理を楽しむ事への期待と同じくらい、それらを後回しにしてセフィロスに甘えた生活をしたいと思っている。

家事を後回しにしても……という、いつもの自分とは違う思考に、は少し危うさを感じて、彼が視界に入らないよう助手席の窓から外を見る。
今なら、彼の指先を見るだけで妙な気分になりそうで、少し落ち着く必要を感じた。
原因は、昨夜の温泉で湯あたりしたをセフィロスが気遣い、一晩ゆっくりと休ませてくれたためだ。
回復したとはいえ、ほんの数時間前に具合を悪くした女には手を出さないという、当たり前の配慮だ。
けれど、本当に、全く、下心も手も出さなかったセフィロスに、甘えるか甘やかすかと期待しながらその日を待っていたは、彼の優しさを喜びながらも落胆した

自分がやらかしたせいなのは、十分理解している。
が一人で勝手に期待していただけなのだが、それでも日々積み重なる欲までは否定できない。
ようやく休暇に入り、2人だけになれたのに、なぜ、健全な距離を保たねばならないのか。

「……連れ去りたい」
、何を言っている?……大丈夫か?」


何か考え込んでいると思ったら、窓の外でヨロヨロとカートを押す老人を見て誘拐を仄めかした妻に、セフィロスは驚いて彼女の顔を見る。
けれど、ようやく車が駐車場から道路へ出るところだったので、セフィロスはすぐに視線を前に戻さなければならなかった。
かなり本気な声と表情のに、理解ができず変な汗をかきそうなセフィロスだったが、の視線が遠ざかる老人ではなく別の遠い場所へ向いていると気づくと、一先ず運転を優先した。

、急に驚かせるような事を言うな」
「……そうですね。運転中にすみませんでした」

「考え事は結構だが、お前は変に思い詰めるところがある。いつものように、俺に相談しろ」
「…………ええ」

「運転していても、話ぐらいはできる。お前がそうやって分かりやすく悩んでいるときは、あまり心配がいらない内容の時だ。言ってみろ」
「…………」


セフィロスにそう言われて、確かに、本当に深刻な問題ほど自分は表に出さないとは納得する。
酷い言い草だが、経験に基づいた事実である。
だが、これは果たしてセフィロスに相談するべき事か、しても良い事なのか。
確かに大問題ではないのだが、口にするのは淑女としてどうなのだろうと考えて、は眉間にしわを寄せる。
今の自分が少し頭の螺子が飛んでいると自覚しているは、感情は脇に置いておくことにして、努めて冷静に考える。
流石に恥じらうところだと簡単に結論が出るのだが、黙ったところでセフィロスに呆れられて、口にすることになるのは想像できる。
ならば、無暗に彼へ心配をかけたり、苛つかせたりしない方がいい。
その方がいいのだが……


「私も……恥じらいはあるので、言おうか言うまいか迷っています」

「……安心しろ。、お前がそういう考え方を出来る時は、深刻な問題にならない」
「…………では言いますが……この場から貴方を連れ去って、ベッドに引きずり込みたいんです」

「………………ん?」
「……今日、家に帰って気が付いたのですが……私たち……気配や魔力を抑える癖がついてしまっているでしょう?村にいた時は、仕方ないと思い我慢していましたが……家で2人だけなのに、貴方にその状態でいられるのは……ライフストリームにいた頃のように、傍にいる貴方を遠く感じて嫌なんです。透明な壁一枚置かれている感覚が、嫌でも色々思い出させて、もっと貴方の近くに行きたくなりますし、貴方にも傍に来てほしくなる……正確には、直に触れてほしいという感じでしょうか」

「………………」
「……この休暇を、大切に過ごしたいとは思うんです。……貴方と2人だけの時間を……誤解がないように言うと、爛れた生活をしたくなる。……村で我慢していた分、貴方に甘やかされたくてたまらないんです」

淡々とした口調で、とんでもない事を言って追いつめてくるに、セフィロスは口から魂が漏れ出そうになるのを抑える。
いつもよりゆっくりとした喋り方をしているのは、彼女が言葉を選びながら話しているからだろうが、上手に言葉を選べていない時点で余裕の無さが分かる。
言葉を選んでその台詞になるなら、多分実際は気配を抑えたままな事には相当苛ついているのだろう。

普通の女性のように、寂しいと言って泣いたり、どうして気づいてくれないのかと怒らないのがらしい。
だが、ある程度の感情は見せながらも、理性的過ぎる彼女からは、不自然に凪いだ雰囲気を感じる。
『家に着くと同時に、身ぐるみ剥がしたい』ぐらいは思っていそうだ。

いつもとは逆だな……と呑気に現実逃避しかけたセフィロスだったが、放っておくと何を言いだすか分からないをそのままにするのは危険だ。
とりあえず、ここで自分が混乱すると絶対に良くない結果に……何某かの悲惨な結果になるのは分かるので、セフィロスはが取り繕うような虚構ではない、本当の冷静さを心掛ける。


、気配は、本当に癖になっていて気づかなかった。寂しい思いをさせて悪かった。家に着いたら抑えるのをやめるが、それまでもう少しの間我慢してくれ」
「いえ、私の方こそ、我が儘を言うようですみませんでした……」


ひとまず何でもいいから非を認めて謝るという、『妻との荒事回避手段その1』を終えたセフィロス。
いつものように、穏やかな微笑みを浮かべながら首を横に振ったに、彼は内心の安堵を悟られないようにしながら、柔らかく目を細めて彼女と視線を合わせる。

少しは鎮まってくれたと油断したセフィロスだったが、同時に視線を前に戻した彼女が、渋滞を温度のない目で見ている事に気づいてしまった。
表面的には穏やかにしているだが、これは足元に転がる障害物をどう処理するか考えているときの目だ。
道を塞いでいるのが善良な一般人の車だから何もしないだけ。
ほんの一瞬、そのままに一般人を蹴散らさせたら、どれぐらい破壊活動をしたところで止まるのだろうと期待しそうになったが、不毛だったので考えるのをやめた。

さて、落ち着いているようで落ち着いていないを、どう抑えるか。
今のところ、彼女は感情を持て余して希望を口にしているだけなので、セフィロスは驚き戸惑いこそすれ困ってはいない。
剣を持って暴れられたらお手上げになるので、それに比べれば可愛いものだ。

こんな時、どうやって対処すれば難を逃れられるか。
顔を合わせる度に、聞いてもないのに勝手に色々教えてきたコリンとヘンリーの話が役に立つとは……と思いながら、セフィロスは彼らが教えてくれた言葉を思い出す。
理解を示し、宥めるなり希望を叶えるなりしてある程度満足させたら、適度な所でからかって気を紛らわせる……だっただろうか。
元々穏やかな気性のが相手なので、そう難しくはない事だ。
からかう内容さえ間違わなければ、通常の精神状態に戻ってくれるだろう。


、あまり焦るな。休みの間、俺はずっとお前の傍にいるつもりだ」
「ありがとうございます。ですが、貴方にばかり気を遣わせるのも申し訳なくなりますので、どうか貴方に無理がない範囲でお願いしますね」


先ほどよりずっと落ち着いた様子で返事をしたに、セフィロスは真っ直ぐな女でよかったと思いながら、つられるように頬を緩める。
それでも、気持ちを落ち着けるように小さく溜め息をつく彼女の横顔は何処か悩まし気だ。
運転中でなければ手ぐらい握ってやれるのだが、一度動き出した車の列は不意に滞る事がある。
それでなくとも、元々あった大きな建物を避けて作られた幹線道路はカーブや信号が多く、カップホルダーの珈琲に手を伸ばす暇もない。
けれど、街の外へと向かう車線だからか、と会話しながら数回信号を越えると車の流れは随分とスムーズになった。


、休みは長いが、何か暇つぶしは考えているのか?」
「……貴方と離れたくない」

「……昔の……お前の命日前の俺を見ているようだな」
「確かに、そうですね。今になってあの頃の貴方と似た気持ちになるとは、思いませんでした」

「家に閉じこもって、お前以外を目に映さないでほしい……か?」
「そうしてもらえたら、きっと幸せですね。ただ、どちらかというと、この気配や魔力を抑えられているのが、本当に嫌です。目の前にいるはずなのに、それをちゃんと感じられないのが……何処かへ貴方を探しに行きたくなる」

「そうか。この車の流れなら、速くてあと10分くらいで家に着く。それまでの辛抱だ」
「ええ。思ったより、渋滞が酷くなくて、よかった」


冷静に会話をする余裕を見せているが、結構やせ我慢していると理解して、セフィロスは車列の先へ目をやる。
思い返せば、は次元の狭間で剣を合わせる時、殺気や威圧を向けると何故か目が生き生きとしていた。
戦闘狂の気があるのだろうと思っていたが、あれはセフィロスの存在をより明確に感じられたから出る反応だったのかもしれない。

殺気を向けられて喜ぶ女はどうなのだろうと一瞬思ったが、多分自分のそれはにとって笑って受け流せる程度のものなのかもしれない。
それもそれでどうか……とは思うが、はセフィロスが追いついたと思った瞬間に、笑顔で隠していた高い壁を差し出してくるところがあるので、考えても今更だった。


、そんなに俺と離れたくないのなら、暫くは風呂も一緒に入るか?」
「……ふ…………風呂?」

「片時でも俺と離れたくないのだろう?お前の望み通り、常に俺の傍にいれば、俺を見失う不安も無くなる」
「風呂……待ってくださいセフィロス。それは……考えますから、待ってください」

「……家に着くまでに考えればいい」
「風呂……いや…………だが……うぐ……ぐぬぅ……」


いつもならスッと冷静な顔になって断ってくるが真剣な顔で悩みだし、セフィロスは驚きが表情に出ないように堪える。
からかい方を失敗したと理解するが既に遅い。

以前は、彼女の同情を引く状況を作るか、判断力が鈍る状態にしてから甘えるように頼んでも、7割は即断で拒否されていた。
まさか、鍛錬の疲労でまともに動けないわけでも、抱き潰してもいない状態で検討してくれるとは思わなかった。

少しだけ期待しそうになったセフィロスだが、相手はだ。
多分あと20秒もすれば、先ほどまでの様子が嘘のように冷静になって、丁寧だがハッキリと断ってくるだろう。
もしくは、腹を括ったように重々しい雰囲気で断ってくる。

昨日の温泉では、湯あたりしたを助けるために、セフィロスは彼女が入浴中の浴室に入り、薄い手拭いで申し訳程度に隠しただけの体を見て、触れた。
介抱しただけだが、そういう状況でもなければ、は絶対にセフィロスを浴室に呼んだりしない。
それでも、入浴中の姿を見られた事には変わりないので、これから1年間はどんな理由があっても一緒に入浴してくれないだろうと思っていた。


「……す……すみません、セフィロス……」
「……うん?、どうした?」


悩んでいる間の唸り声から、今日は生真面目な顔で断ってくるだろうと思っていたセフィロスは、予想外に弱弱しく震えている声が聞こえて、ちらりとへ目をやる。
だが、丁度前の車のブレーキランプがついたため、ちゃんと様子を確認する間もなく視線を前に戻さなければいけなくなった。


「私も……貴方と、片時も離れがたいのですが……その……」


の顔が赤らんでいるのはぼんやり見えたが、停車するギリギリでゆっくり進む前方車両に、セフィロスは彼女を見てやれない。
だがすぐに、車列の先に赤信号が見えたので、前の車両を気にせず車を停めたセフィロスは、まさか悩ませすぎて泣かせてしまったかと思いながら助手席の彼女を見た。


「……セフィロス、私……」
「…………」


幸い、の頬に、涙は無かった。
だが、その目はじわりと潤んでいて、頬や耳はさきほど見えた通りに紅潮している。
黒い瞳は所在なさげに彷徨い、何度も伏せられる瞼と長い睫毛は彼女が押しとどめようとする羞恥の大きさを語るようだった。
言葉を探しながら震える声を出す唇は、少しだけ紅が落ちているがしっとりと濡れていて、もしここが外でなければその口内ごと指や舌で弄んでいただろう。

風呂に連れ込んでもいないのに恥じらう乙女状態になっているに、セフィロスの視線は縫い付けられた。
彼の視線を感じて、の顔が更に赤くなり、視線も顔も俯いていく。

冷静になって断られるか、冷たくあしらわれるか、悪ければ先ほどの苛立ちが蘇って睨まれると予想していたセフィロスは、彼女のまさかの反応に思考が鈍る。
ちらちらと信号や前の車両へと目をやるセフィロスだったが、意識の大半はに持って行かれていているのが分かった。
だが、呆けていられる状況ではないのは分かっているので、彼は努めて優しい声色を心掛けながら、の顔を覗き込んだ。


、大丈夫だ。俺はお前に無理強いはしない」
「セフィロス……」


過去、幾度となく目の前の女を抱き潰し、無理と言ってからが本番などと宣った事さえある男とは思えない台詞を吐きながら、セフィロスは眉を八の字にして顔を上げたに柔らかく目を細める。

彼女の瞳に浮かぶ安堵と、僅かに見える釈然としない色に、何故良心が痛むのか……。
考える気が無いセフィロスは、前方車両が動き出すと同時に視線を前に戻し、ゆっくりとアクセルを踏んだ。


「ありがとうございます、セフィロス。……私の我が儘に、寄り添おうとしてくださる貴方のお気持ちは、本当に嬉しいんです。私も、出来るなら、貴方の望む事は、どんな事でも受け入れて応えたい……そう、思ってはいるのですが……」
「ああ」


それなら一先ずその唇を指で触らせてくれ。
そう言いたくなりながら、セフィロスは前方車両がつけたウィンカーに合わせてスピードを緩める。
に引きずられて思考がおかしくなっているのを感じた彼は、一度静かに深呼吸して落ち着くよう心掛けた。

道を行く車は減り、景色が良く見えるようになったが、丁度良く気を紛らわせるものがあるわけない。
再びちらりとへ視線をやったセフィロスは、頬を染めて恥じらいながらも、柔らかく微笑み返す彼女と視線を交えた。
釣られるように緩んだ己の頬をそのままに、もう少し彼女を見ていたいと思い、更に運転から逸れていく注意力に、見るんじゃなかったと思う。
黒髪から覗く彼女の真っ赤な耳を可愛く思いながら、セフィロスは何とか思考を逸らそうと頭を働かせた。

『泣かせたかと焦ったが、が頬を染めているだけで良かった。……考えながら唸っていたからな。唸り……呻き……苦悩する武将みたいな厳めし気な表情をされていたら…………ならあり得る。そうじゃなくてよかった。……よし、もう大丈夫だ』


想像して、スッと平常心を取り戻したセフィロスは、草原の真ん中に見えた自宅に少しだけ安堵する。
後ろに車がいない事を確認し、ゆっくりとスピードを緩めた彼は、まだ隣で恥ずかしそうにしているが視界に入っても、先ほどのように視線を持って行かれることはなかった。


「私は……セフィロス、私は……貴方になら……全て暴かれても……良いんです。ですが……やはり入浴だけは……一緒に入るのは、どうしようもなく…………恥ずかしくて……」
「…………」


平常心を取り戻したと油断した途端、元の場所に引き戻さないでほしい。
そもそも何故車の中でそんな話をして、人の支配欲と加虐心と独占欲と性欲を刺激してくるのか。
内心でを責めたセフィロスだったが、一緒に風呂と言い出したのは自分だったので、自業自得だった。

羞恥から、とうとう両手で顔を覆ってしまったを横目で確認しながら、セフィロスは広い道路から家へ繋がる道へとハンドルを切る。
全て暴いていいのなら、今その顔を覆う手を捕らえて、恥じらいに耐えられなかった顔を露わにしてもいいだろうか。
なら多分許してくれるだろうと思いながら、セフィロスは若干思考を放棄して何もない道をゆっくり進む。


「……考えるだけで、貴方の顔も見られないくらい、恥ずかしい……。セフィロス……お願いです、どうか許してください……入浴をご一緒するのだけは……」
「…………」


羞恥に打ちのめされて震えるから、弱弱しい声で許しを乞われたセフィロスは、車を家の前に停めると、きつく目を閉じて深呼吸する。

正直、今すぐ彼女を浴室に連れ込んで、鳴かせて泣かせて啼かせてやりたい。
だが、それをすれば2人の間には今までにないほど大きな亀裂が入るし、確実にに家出をされる。
は色々ぶっ飛んだ思考をする事もあるが、基本は馬鹿がつくほど正直で真っ直ぐなので、戦闘以外で誘い受けなんてしないのである。
何でも受け入れてくれるだが、自尊心を無視した行動や非紳士的な行いを嫌悪しているのは、セフィロスも長い付き合いで知っていた。

彼女が取り繕いもせず弱さを見せるのは、セフィロスへの信頼があってこそ。
それを蔑ろにするほどセフィロスは愚かではないので、彼は自分が一周回って冷静になるのを待ち、しかし時間がかかりそうだと判断すると、浴室は無理だが寝室なら大丈夫だと自分に言い聞かせて落ち着いた。
本当に落ち着いているかと問われると目を逸らすところだが、平静を装って会話することは可能そうなので良しとした。


、大丈夫だ。さっきも言ったが、俺はそこまで嫌がっているお前に、無理強いはしない」
「はい。……ありがとうございますセフィロス。私も、貴方はそういう方だと分かっているんです……ただ……」

「お前にとって、考えるだけで恥ずかしくなる事を聞いた俺が悪かった。だからもう謝るな。荷物を下ろして、家に入るぞ」
「……はい」


まだ頬や耳の熱さは引かないものの、はセフィロスに促されて顔を上げる。
眉尻は下がったままで、視線や表情にも恥ずかしさが消えないが、先に車を降りた彼を追っても荷物を運び始めた。

一軒家に引っ越してすぐ、食材を入れるには不足だと気づいて買い足した大型の冷蔵庫は、あっというまにいっぱいになる。
役目を終えたかに思われた小型の冷蔵庫は酒と漬物用になっていて、セフィロスが買ってきたワインや果実酒を入れていた。

どのタイミングで、気配を抑えるのをやめてくれるのだろう……と、彼の様子を窺いながら、は片づけを続ける。
車の中で自分が何を言っていたのかは自覚しているので、今また催促するのもどうかと、は声をかけるのを躊躇っていた。
だが、呑気に片づけをしている彼を見ていると、シャツをグイグイ引っ張って早く気配を戻せと言いたくなる。

いっそ、甘えるだとかベッドに引きずり込むとかは無くていいので、遠回しに距離を置かれているようなこの状態をやめてほしかった。
大丈夫だとは分かっているのに、片づけを終えて振り向く彼に、また自分の姿を認識してもらえず、声も届かなくなるのでは……と、不安になってくる。

指先が震える感覚に、がちらりと目をやると、掌の半ばから先の輪郭が朧になっていて、中指の先から象牙色の砂が落ちている。
ハッとして手を元に戻した彼女は、少し落ち着かなければと視線をさ迷わせたが、そもそもセフィロスが気配を抑えるのをやめてくれれば済む話だ。

片づけ中に言うのは少し申し訳ないが、やはり催促しようと思い、は彼の隣にそっと膝をついた。

「あの、セ……」

トシャッ……サラサラサラサラ………

セフィロス……と呼ぼうとしたの声を遮るように、彼女の黒髪が半ばから砂となって床の上に落ちる。
ハッとして変化を止めようとするが、間に合わなかった髪の先が乾いた音を立てながら象牙色の粒へと変わり床の上に流れ落ちて行った。

やってしまったと思いながらセフィロスに目をやれば、彼は突然のの肉体崩壊を前に、真っ青になって目を見開いている。
だが、この数年で、彼女が長距離移動のために体を砂に変える姿を何度か見ている彼は、取り乱す事は堪えられたようだ。


「…………?」
「驚かせてすみません」

「どういう事だ?」
「貴方の気配が遠い不安とストレスで魔力が乱れて、体が維持しにくくなってきました。そろそろ気配を抑えるのをやめていただけませんか?」

「体が崩れる前に言え!だからいつも、何でも我慢しすぎだと言っているだろう!」
「ひぇっ!……すみません」


家に帰ったら気配を戻すと言ってそうしなかったのは貴方じゃないか……。と思っただったが、セフィロスから叱責されて反射的に正座になる。
怒りながらも抑えていた諸々を元に戻してくれた彼に、ようやく不安が消えたは、ふぅ……と息を吐いて体の力を抜いた。
気が抜けた弾みで不安定だった右手が砂になって床に落ちたが、彼女は慌てず半分消えた手を小さな砂山に突っ込む。
数度手首を揺らして引き抜けば、砂になっていた手は元の白魚のようなそれに戻っていた。
砂になっていなかった場所は少し日焼けしていたが、実地学習中は手袋をして作業しているので、再構築した部分との色の違いは注意して見れば分かる程度だ。


セフィロスが静かに冷蔵庫を閉め、と対面するように向きを変えて正座する。
気配に関するお願いを忘れて片づけを優先した事を詫びる……なんて事は、怒りから無表情になっている今の彼に期待できない。
ちゃんと車の中で頼んでいたのに……と、内心で零しただったが、言ったところでセフィロスから『問題はそこじゃない』と怒られて火に油を注ぐだけだ。
経験から知っている。
なのでは、嵐が治まるまで大人しく口を閉ざす事にした。


……」
「はい」

「……まず、その髪を戻せ。……戻せるんだろうな?」
「はい。少々お待ちください」

肩の上までになってしまった髪は、元の毛量が多いせいもあり、少しだけ広がっている。
普通の人間と同じように伸びる髪は確かに体の一部だが、手足のように元に戻せるのか。それを少しだけ不安そうに言ったセフィロスだったが、は床の上の砂を両手で掬うと髪の先を包むように当てる。
象牙色の砂が、彼女の掌の中でどのような変化をしているのかは分からないが、彼女が手を開くとそこには元の長さに戻った彼女の黒髪があった。
左右と後ろに何度か同じ動作を繰り返すと、の髪はすっかり元の長さに戻った。

髪を治している間にセフィロスの機嫌が戻ってくれないだろうかと、少しだけ期待していただったが、窺い見た彼の視線に無駄な希望は捨てた。


、もういいな?」
「はい」

「我慢強い所は、お前の長所だ。だが、我慢と抑圧は違う。わかるな?」
「はい」

「今回は、俺にも非がある。だが、お前は昔から…………」
「…………」


原因の半分が自分だとセフィロスが分かっているなら、今日はそんなに長い説教にはならないな……と、は大人しく頷きながら考えていた。
のストレスの原因は解消されたので、説教を受けていても気持ちにはかなり余裕がある。
お前が認識している限界は普通の限界の向こうにあるものだ、とか、不調をきたすまで耐えるのは美徳じゃなくて欠点だ、とか、耳に痛い彼の言葉もちゃんと聞いている。
だが同時に、台所の床で正座説教はちょっとやだな……とか、2人とも、まだコートすら脱いでいなかったな……なんて事を脳裏で考える余裕もあった。

しおらしく説教を聞く事数分。
短めの説教を終えたセフィロスに手を借りて、はゆっくり立ち上がる。
もはや車中で話した爛れた時間への欲や、共に入浴を断った時の恥じらう気持ちは微塵もなくなっていたし、彼に甘えたいと思っていた気持ちも説教されている間に何処かへいった。

彼の気配も存在感も元通りで、説教ではあったがとしっかり視線を合わせて話してくれていたので、ことセフィロスに関して単純なは、既に心が満たされていた。

そうなると、色恋への鈍感さが表に出るのがである。
心の根柢にあるセフィロスに対する全幅の信頼と安心感があるゆえだが、彼女の勘は途端に鈍っていた。

だから、は失念している。
彼女の中で勝手に終わったことになっている車中での会話によって、鋼の自制心をもって紳士的に対応したセフィロスに、怒りという余計な燃料を投下している事を。

抱え込んでいた不安が消え、見てわかるほどにの肩からは力が抜けている。
自然と柔く細められた目は穏やかで、ただ目の間にいる彼の瞳に自分が映っているだけで、幸福に満たされ暖かく輝いていた。

それは、全て暴かれても良いのだ、という彼女の言葉に偽りない事を物語っているようだ。
自分に向けられる、の愚直なほどのまっすぐな思いに、セフィロスは改めて喜ぶものの、同時に少しだけ呆れる。
けれど、その僅かな呆れを顔に出したところで、は首を傾げて見せるだけで許すだろうし、事実として今、彼の瞳からそれを察してなお、彼女の表情は曇っていなかった。


緩む頬に彼の指先が触れ、その温かさとくすぐったさに、は首を竦める。
目元を掠めた掌に頬を摺り寄せ、手首に唇を寄せると、指先で耳を擽られた。
反射的に出そうになった声を喉で押し止めるも、微かに身震いした体は止められず、の頬に朱が走る。

このまま、セフィロスの手が頬に触れてくれているだけでも十分だっただが、それだけで満足するのは自分だけなのは分かっている。
説教で少しだけ空気が逸れても、今日、自分が散々やらかしている自覚がある彼女は、この後の時間にある事も、自分から彼に望み、招いただけと理解していた。

見つめ返した彼の瞳にある熱は見慣れていて、説教しても収まりきらない苛立ちも申し訳ないがちょっとだけ慣れている。
彼の掌から伝わる温もりは望んだもので、唇を撫でて弄びながら耳を擽る指が伝える欲からも、今更逃れようとは思わない。
それでも、セフィロスが浮かべる壮麗な微笑みに、のうなじには冷や汗が滲んだ。

この笑い方を最後に見たのは、どれくらい前だっただろうか。
遠い記憶に思いを馳せたくなるも、今彼から意識を逸らすのが悪手なくらいは理解している彼女は、下唇を押して口内に割り入ってくる彼の親指を、唾液に塗れた舌で迎え入れた。





この話を書いた直後、107話辺りから季節や時期がおかしくなってる事に気づき、修正しました。
実地学習で村に来たのが、2月の上旬のはずなのに、小説内では何故か11月~12月頃来た状態になっていて、既に終えたはずの正月休みがもう1回みたいな……。
というわけで、春祭り休暇という風習を勝手に作って辻褄合わせしました。

実地学習が始まったのが2月の第3週半ばくらい。
虫を見つけたのが3月の第2週。
長期休暇が始まった118話が3月の第4週の週末。
ここから2週間の長期休暇をしたらまた村に戻ります。

本当は、まだ直すところがありそうなんですが、肩はバキバキだし、頭も疲れて混乱してきたので、とりあえず、今はここまで修正してUPします。
118話も119話も書いてて楽しかったんですが、季節の修正で体力持って行かれました。

2024.09.14 Rika
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