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小学校跡で学生たちに武器の持ち方から教えているセフィロスを遠目に眺めつつ、はアーサーとゆっくり丘を下っていく。
少しすると、近所の家から留守番の老人たちが小学校跡に出てきて、セフィロスが見きれなかった学生達に指導を始めているのが見えた。

この村は、他の土地に比べて老人の生存率が高いが、子供の姿は全く見られない。
それもそのはず。
村の子供たちは平日の間は街で生活し、週末や長期休暇の間だけ村に帰ってくるらしい。
はまだ顔をあわせた事がないが、暫く世話になる村の子供からは、怯えられたり泣かれたりしたくない。
この村の子供らしく強者ぞろいであればいいと、少しズレた事を願っていた。




Illusion sand ある未来の物語 112




学生と老人に完全に捕まったセフィロスは、やるなんて言っていないのに指導担当の中心にされてしまった。
通りかかったに、彼は助けを求めて名を呼んだが、は笑顔で手を振ってとぼける。
無情な妻はそのまま村長宅に戻って知らんぷりする気だったが、一緒にいたアーサーはズブの素人に指導している様子が気になったらしい。
そのため、付き添いのも自動的に小学校跡へ足を踏み入れる事となった。


、代わってくれ。お前の方が戦闘の教育経験があるだろう?」
「おや、私が教えたことがあるのは、ある程度素地が出来た者たちばかりでしたから、素人となると、加減がわかりませんね」
「2人の指導では、厳しすぎて素人は難しいでしょう。ここは私が……」

「「老体で無理をするな」」
「そうですか?では、その役目は若いお二人に譲りましょう」

「「…………」」
「この村の住人では、基礎以上となると、この付近の魔物との戦い方しか教えられません。その点、さんとセフィロスさんは様々な土地の魔物を相手にしてきました。今後様々な土地で働く学生さんたちへの指導は、経験豊富なお二人がなさるのが適当でしょう」


たった一言、二言で、指導役を2人に引き受けざるを得ない状況にしたアーサーに、とセフィロスは一瞬もの言いたげな顔になる。
だが、彼が言う事も間違いではないので、すぐに諦めて顔を見合わせた。


「セフィロス、他の学生はどちらに?」
「…………何人かは宿舎で休んでいる」

「ん?何か気がかりな事でも?」
「いや。奴らの事は気にするな。関わらなくていい。とりあえず、ここにいる中で継続して訓練したい奴だけを鍛える。それでいいか?」

「ええ。一先ず、無理せず逃げられるようにして、戦い方はそれからの方が良さそうですね」
「そのつもりだが……それではやる気がなくなる奴もいるだろう」


基本や体力も大事だが、初めて習うのなら、やはり武器を振る時間を持てた方が、モチベーションは上がる。
もちろん、が言う『逃げる』という行動を完遂できることが最優先だが、『戦う』という行動に少しでも触れさせる方が、気持ちも向いていくというものだ。

周りで二人の話を聞いていた学生達も、どちらがいいかと悩んでいたようだが、待つのに飽きた老人達が鈍器の振り方を教えてやるといって少し離れた場所に連れて行った。
残ったのはとセフィロス、アーサー、そして多分レベル60くらいありそうな爺さんが2人だ。名前は知らない。

老人に杖で突かれながら棒を構える学生たちはへっぴり腰で、戦うどころか逃げる前に腰を抜かしそうな気さえしてくる。
戦闘技能も必要だが、胆力も鍛えてやらねばと考えただったが、それより半端に戦い方を知った人間が過信して無謀な真似をする懸念の方が大きかった。


「一度、逃げられなかった時の恐怖を教えれば、やる気などにかまけず死に物狂いに……」
「駄目だ。ショックで学校をやめたらどうるす」
「そうですね。さんは加減をしらない。ではどうでしょうか、この近辺にいる弱い魔物を捕まえてきて、学生と共に柵の中に閉じ込めた状態で逃げきらせるというのは?」

「悪くないな」
「悪いに決まっている。が言っている事と何も変わらない。弱い魔物なら良いというわけじゃないだろう」
「おや、ですがこの辺りでは、伝統的な成人の儀式ですよ?過去には、12才くらいでやった子もいたとか」

「12……できるだろうが、子供にそれは、流石にちょっとどうかと思う……」
「過疎化が進むわけだ……」
「いえいえ、こんな田舎に住んでいれば、子供時代に魔物に追われる事の一度や二度ありますから、皆慣れていますよ」

「それはそうだろうが……。では、セフィロスが言う通り、暫くは基礎体力と少々の模擬戦でいきましょうか」
「……そうだな。そうする」
「老人たちが興味を持って色々言うかもしれませんが、許してあげてくださいね」


そこはもう好きにしたらいい。
むしろ、実地で学びに来たのに、学生への戦闘指導なんて業務外もいいところだ。
一応他の学生は、実地をする前に護身講習があったらしいが、建築学校なので戦闘技能は管轄外。
そこは生徒の自主性に任せる所にしたのだろう。
10代の何も知らない若者向けな、手取り足取り補助してくれる学校ではないので、仕方がない事だが。

学生たちの動きは、講習内容が気になるくらい酷いものだが、それに口出しをして直してやっている老人たちは楽しそうだ。
方向性は定めつつ、殆どは村人に頼んでしまって良いかもしれない。
というか、面倒だからそうしたい。
話し合いに参加している時点で、アーサーもその気になっているのだろうし、老人たちが無理をしないよう目を光らせてさえおけば、あまり手をかけなくても良さそうだ。
今ここにいる学生たちは、今後必要な事だと理解しているからいるわけで、あれこれ言う老人たちへも素直に従っている。


、学生たちは大工であって戦闘要員じゃない。そこまで鍛えなくても大丈夫だ」
「……言われてみれば、そうでしたね」


今思い出したという顔のと、笑みを浮かべつつ残念そうな顔のアーサーに、セフィロスはほんのり痛み出した頭を慌てて振る。
当然のように学生の鍛錬にを協力させようとしたが、そもそもそれが間違いだったかもしれない。
というか、てっきりヤバそうなら止めてくれると思っていたアーサーが、むしろノリ気で一緒に地獄を作ろうとするなるなんて想像していなかった。
他所から預かった学生を閉じ込めて魔物に追わせようだなんて、やはりの教え子はどこかおかしい。
どうしても、という時以外、とアーサーには学生の指導に関わらせない方が良さそうだ。

この会話を止める様子もなく聞いている二人の老人もちょっとどうかと思うのだが、何を考えているかはわからないので、彼らのことは判断できなかった。
まあ、成人の儀で魔物と追いかけっこさせるような村の老人なので、あまり期待していないが……。
いや、そんな村の人間に、素人ばかりの学生を任せて、本当に大丈夫なのか?

不安に思ってついセフィロスが視線を向けると、件の老人二人と視線がぶつかる。
とりあえず意見を聞いておくべきだろうかと考えたが、老人二人は下がった瞼の隙間からまじまじとセフィロスの瞳を見つめ、何やら顔を見合わせて小さく頷きあっていた。
セフィロスは老人の年齢なんてよくわからないし、この村の老人は皆、腰も曲がらず歩く姿勢も良い上に筋肉質なので、更に年がわかりにくい。
対面する老人二人の顔を見つめ、その皺から何となくアーサーと同じくらいの年だろうかと考えていると、片方の老人がにっこり笑いかけてきた。


「セフィロスさん、心配しなくても、学生さんたちはちゃんと見ているから、無理はさせんよ」
「村のジジババにとっちゃぁ、良い暇つぶしになる。アンタも今は学生だぁ。余計な事は背負わず自分の事に集中したらいい」
「それは有り難い申し出だ……です……が……」

「クハハハハ!慣れん敬語なんぞ使わんでも気にせんよ。昔みたいに、楽に喋ってくれ」
「なぁーに。同じ元ソルジャーのよしみだぁ。学生は、ワシらでちゃあんと、死なないレベルまで育てておくよぅ」
「…………」


二人の言葉を理解し、目を見開いて固まったセフィロスに、2人はしてやったりといった顔をして、下がった瞼を指で持ち上げる。
そこにあった自分と同じ青緑色の瞳に、驚きから止まりかけた思考を慌てて働かせたセフィロスだったが、最善の対応を出すより先に老人たちが破顔した。


「ほぉ!見ろヘンリー。あの英雄セフィロスをビックリさせたぞ」
「こらぁ。あんまりそんな風に言ったら、気を悪くするからやめぇ」
「………………」
「ああ、すみませんセフィロスさん、言い忘れていました。その二人は、元ソルジャーのコリンさんとヘンリーさんです。さんとセフィロスさんの事情もご存じですよ」
「アーサー、それは言い忘れないでほしかった。セフィロス、大丈夫ですか?」

「わかるぞー。アーサーはたまにやらかすからの」
「しっかりしてるのに天然だからのぉ。ワシらも慣れるまで大変だったわぁ」
「…………」
「すみませんね。年のせいで、最近少しわすれっぽいんです」
「次から気をつけるんだぞ?」


本当に忘れていたらしく、申し訳なさそうな顔で頭を下げるアーサーに、セフィロスは何も言えなくなって手で目を覆いながら天を仰ぐ。
口から出た大きなため息を止められず、数秒思考を放棄した彼は、起きた事は仕方がないと割り切ると視線を戻す。


「コリンとヘンリーといったな。クラスは何だった?」
「2人とも2ndの下っ端よ」
「下っ端はお前だけだぁ。ワシは真ん中くらいだったわぁ」

「そうか……」
「何が真ん中か。お前、ワシの勘のおかげで一緒に逃げれたんだから、ワシと同じか1個下ぐらいだろうよ」
「勘と実力は違うわぁ。しかもワシ、お前が逃げたの追っかけたせいで、一緒に逃げた事になったんだからなぁ」

「……」
「それで命拾いしたんだから、やっぱりワシのおかげだろ。ならワシの方が上じゃわ」
「馬鹿言えぇ。その後ワシがウータイ兵の靴舐めたから、2人とも殺されずに済んだんじゃろぉ?ワシのおかげだわぁ」


老人たちの口から語られる過去に、ソルジャーの誇りなど微塵もない。
ソルジャーと言ってもそれなりに人数がいたし、当然全員がプライドを持ってやっていたわけではないが、これはアンジールが聞いたらマジギレしそうなくらい酷い。
逃亡している時点でコリン爺さんは論外だが、敵であるウータイ兵の靴を舐めて命乞いするヘンリー爺さんも大概だ。
どちらが上ではなく、どちらも最低である。

唯一褒められるとすれば、必要ならプライドを捨てられる、生への執着心だろうか。
捨てるほどのプライドを持っていたかは不明だが。


呆れとショックで脱力しそうなセフィロスは、労わりの眼差しを向けるに、つい甘えたくなってくる。
だが、こんな狭い村の屋外で人目を憚らずイチャつくような、分別の無い真似は出来ないので、セフィロスは再びため息をついて諸々を飲み込んだ。
が、口からでた溜め息は思ったよりも大きく、見かねたアーサーがコリン爺さんとヘンリー爺さんを諫めるために連れていった。

アーサーがお互いの言い分を聞きながら仲裁してくれていても、元ソルジャーの爺さん2人はまだ言い合っていて、あまり聞きたくないエピソードが耳に入ってくる。
ウータイ人に、ソルジャーの装備を高値で売りつけたのは自分だとか、反神羅組織に紛れ込んでタダ飯食らって逃げたのは自分のアイデアとか、聞くに堪えない話ばかりだ。
この爺さんたち、本当に、生への執着が強いことぐらいしか、ソルジャーとして褒める要素が無い。
それでも彼らとセフィロスは、一応同じ『元ソルジャー』なのだ。


思わず表情が虚無になって雲を眺めてしまったセフィロスに、はそっと彼の手を取る。
ちらりと視線向けた彼に、彼女は優しい笑みを浮かべながら小さく頷き、大きな背中を優しく撫でた。







とでもねぇ元ソルジャーの爺さんたちができあがってしまった……。

2024.05.30 Rika
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