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話が終わった途端に墓参りの準備を始めたアーサーを止めたは、渋る彼に午後から行くからと言って大人しくさせた。 昼食は朝の残りを食べてほしいと婦人から言われていたので、余った時間は掃除でもしようとしたら、アーサーも一緒に掃除を始めようとしたので、また止めるはめになった。 客人を働かせるのは心苦しいと言うが、こちらは老人を働かせるほうが心苦しい。 アーサーに、とにかくゆっくりしていろと命令したは、彼に許可を得て庭の雑草の刈り取りをした。 魔法で一気に草を刈るに、アーサーは遠い目をしながらも手を叩いて頷いてくれた。 Illusion sand ある未来の物語 111 昼食を終えると即座に出かけようとする元気老人を少し休ませてから、は彼に案内されて村はずれの丘へ登った。 作業現場とは村を挟んで反対側にあるそこは見晴らしがよく、長閑な風景を一望できる。 付近の魔物が増加しているなんて、普通の村なら緊張感でいっぱいになりそうなものだが、この村の空気は面白ぐらい平和だった。 ロベルトと、一応アーサーの妻の墓に花を供えると、は一番見晴らしが良い場所にあるベンチにアーサーと共に腰を下ろす。 暦の上ではまだ冬だというのに、温暖な地域にあるこの村の風は暖かで、春と錯覚してしまいそうだった。 気温がアイシクルエリアの春と同じくらいなので、そう思ってしまうのかもしれないが。 このまま時間が過ぎていくのを、ゆっくり眺めているのも悪くないかもしれない。 そう考えると同時に、ロベルトがこの地に移り住み、骨を埋めた気持ちを少しだけ理解できた気がした。 暫くそうして風景を眺めていると、視界の端でアーサーの頭がコクリコクリと揺れ始める。 そっと風魔法で頭を支えてやれば、彼は目を閉じたままそれに身を預けた。 暖かいとはいえ、この地域では一応まだ冬である。 風邪をひかないよう、周りの空気を少しだけ暖めてやると、彼はすぐに穏やかな顔で寝息を立て始めた。 あんまりにも穏やかな顔すぎで、一瞬死んだかと思ったが、ちゃんと息をしているし、魔力も消えていない。 安堵して彼から村へと視線を移したは、固まりになって村の中を歩いている学生たちを見つける。 何をしているのだろうと眺めていると、セフィロス達がいる宿舎からも学生たちが出てきて先ほどの集団に合流した。 遠目ではあるが、その中にセフィロスの姿は見つけられない。 よく見れば、集団にいるのは学生の半分ほどの人数で、手に棒のようなものを持って小学校跡の方へ向かっていた。 上級生による戦闘訓練か、はたまた吊し上げか。 後者ではなさそうだが、万が一揉め事だった場合は魔法で妨害しておこう。 そう呑気に考えながら眺めていると、学生たちは小学校跡で体を動かし始めた。 本当に素人だとわかる動きの人間から、戦闘経験がありそうな者と様々だが、はやりどれもこの村の外にいる魔物を相手にするのも危なそうなレベルだ。 つまり弱い。 これなら、村長の奥さんの方が強そうだと思ったが、むしろそちらの方がおかしいと気づいてはハッとする。 この村に長くいては、ちょっと感覚が狂いそうだ。 それは、が、関わる人間達に一度は与えている戸惑いなのだが、そうとも知らずに彼女は村人たちを鍛えたアーサーをちらりと見る。 年若い人たちはそうでもないが、朝の鍛錬に来る世代の村人たちは低くてもレベル40は確実にある。 そうしなければ生き残れないほど過酷な状況だったのだと理解できるが、よくこんな規格外な村を作ったものだ。 方向性は違うが、アーサーのちょっと普通の人とは違う発想と行動をするところは、父親似だったのかもしれない。 けれど、それだけで上手くいけるほど、簡単な状況ではなかったのは想像するだけでもわかる。 何より、この丘からは、時が流れても癒えない当時の爪後がよく見えた。 村の外れには家があった跡が多く残り、未だ半壊状態で放置されているものもある。 平野は多いのに村人が住んでいるのは不自然なほど中央に集中していて、山に近い畑の端には魔物の骨が山になったまま放置されていた。 地面には大きく抉られた跡だろう窪みがいくつもあり、村の中には川だったと思しき低地に水もないのにかかっている橋。 そしてそれに代わるように、掘りのように村の周りを囲む豊かな水が流れる川。 堀の周りに建つ見張り台はまだ現役らしく、今日は櫓の上に魔物の間引きの様子を見ている村人の姿がある。 アーサー同様に留守番をしている高齢の老人たちは、庭に出てその様子を懐かしそうに眺めていた。 関わらないと決めて北の地で静かに過ごしていた達とは違い、普通の人間達にはあの騒ぎはメテオと同じくらい……否、絶えず危険に晒される時期が数年も続いたのだから、メテオを超える困難だっただろう。 かつてがアーサーにしてやった事など、剣の変な癖を叩きなおして、レベルを20くらい上げてやった程度だ。 教える期間が短かったので、それくらいしかしてやれなかったが、授業の度に目が死んだ魚のそれになるまでしごいていたので、それで精一杯だった。 それが無意味だったとは思わないが、個人で技量を上げる事と、集団をまとめて守る事は、必用な知識も胆力も違ってくる。 この結果は、アーサーが己の力で勝ち取ったものだ。 「よく守り切ったな。大したものだ、アーサー」 まあ、私に褒められたところで、嬉しくも何ともないだろうが……。 そう苦笑いしたは、しかしふとアーサーが先ほどから動いていない事に気づく。 まさか、今死ぬのかとが彼の顔を見つめていると、「ンじゅんッ!」という不思議な声を出してアーサーがくしゃみをし、その鼻から小さなテントウ虫が1匹飛んでいった。 そして再び、アーサーは安らかな顔で寝息を立て始める。 「…………」 この子、色々と紛らわしいから、実地学習が終わるまで若返らせておこうかな……。 少なくとも、自分が面倒を任された時間だけは、居眠りしていても安心できる若い姿でいてほしい。 いや、ガイとカーフェイが聞いたら激怒しそうなので、やらないが……。 とりあえずアーサーが生きてたことに一安心したは、温かな風にさわさわと揺れる彼の髪を見る。 軍人生活のストレスで禿げたくらいだ。彼は何も言わないが、村が封鎖されている間、彼の頭部もストレスで危機に晒されていたのかもしれない。 だが、今風に揺られる彼の白髪は、90を越えているとは思えないほどフッサフサだ。 たとえ当時危機が訪れていたとしても、頭皮にとっては既に遠い過去の事なのだろう。 「頑丈な毛根でよかったな、アーサー」 良い財産を持ったじゃないかと思いながら、は背もたれに身を預けて空を見上げる。 森の奥では村人たちが魔物と戦っている音や魔法を使った時の魔力の動きが感じられるが、村の中は平和そのものだ。 青い空の上をゆっくりと流れていく雲を眺めた彼女は、瞼を閉じて柔らかな陽の光を感じていた。 「行かないでよセフィロス君~。君がいない時に魔物が襲ってきたら、俺達どうすればいいんだよぉ~」 「戦え。駄目なら逃げろ」 「無理だよー。出会った瞬間パクリか、背中向けた瞬間パクリだよぉ~。置いていかないで~」 「だったら勝手についてくればいい。俺は行く」 「ぃよーし皆聞いたか!言質とったぞ!皆でセフィロス君にくっついて行って、噂の美人妻に姉妹とか友だちを紹介してもらうぞー!」 「…………」 情ない顔で縋っていた先輩の豹変に、セフィロスはゴミを見る目を向けるが、当の先輩と居残りを希望した学生たちは知ったこっちゃないとばかりにはしゃぎ始める。 髪を整えたり、鏡で服をチェックしたりと、浮かれながら身だしなみを整える同居人たちに、セフィロスは気配と存在感を消すと静かに宿舎を出た。 ほどうまく気配は消せないが、セフィロスだってそれぐらいの技能は覚えている。蘇ってからは、にも鍛えられた。 素人な学生達相手なので、そこまで徹底してはいないが、レベルが40くらいあれば気づく程度に抑えれば彼らには気づかれなかった。 足音を消しながら宿舎になっている家の敷地を出て、とりあえず村の中心に向かう。 村長の家に行ってを訪ねても良いが、もしかしたら村の女性達と一緒に炊事をしているかもしれないので、村長宅より近い集会場を先に訪ねる事にした。 携帯でどこにいるか聞けば早いのは分かっているが、特に用があるわけではないのだ。 何となく村の中を歩きながら、ゆっくりとを探したい気分だったので、セフィロスはのんびりと舗装されていない村の道を歩いた。 もし彼女が忙しいか、村長宅にいないなら、他の学生に交じって学校跡で少し体を動かそうか。 そんな事を考えながら、宿舎から3軒隣まで来たセフィロスは、急に道に出てきた老人と、その手に握られた大きな鉈に足を止める。 「おや……アンタたしか学生さんだったか。気配を抑えて歩いてるから、てっきり魔物かと思ったよ。驚かせてスマンかったねぇ」 「……いや、俺も紛らわしい真似をして、悪かった……です」 「かまわんよ。だが、村の中心に行くなら、それはもうやめておいたほうがいい。ワシみたいに勘違いして出てくるジジババが沢山いるからなぁ。ところで、何で気配を消しとったんだい?」 「他の学生に付きまとわれて、それをまく為に気配を消しただけです。もう余計に気配は抑えません」 「そうかそうか。なら、それがええ。いつも通り、アンタの奥さんぐらいに気配に抑えててくれれば、ワシらも安心だ」 「…………」 「集会場には村の女衆がおるからな。姦しくてかなわんから、気を付けた方がええぞ」 「ああ……」 強者ぞろいのこの村で、今の気配を察知されるのは予想できていた。 だが、いつも気配を抑えている事まで見抜かれていたと知って、セフィロスはつい驚いて言葉を失ってしまう。 ニコニコ笑顔で家に戻っていく老人は、手にある鉈さえなければ単なる散歩帰りの爺さんだが、ただ者でないのは間違いなかった。 の教え子だった元校長がレベル89なのは知っていたが、もしや他の村人もそれに近いレベルなのではないか? ここは思っていた以上に、特殊な村だったようだと思いながら、セフィロスは気を取り直して集会場へ向かう。 気配の抑え方をいつも通りのものに戻し、賑やかな声がする方へ歩いていくと、道は集会場の裏手へ着いてしまった。 表に行けば誰かいるだろうと建物を回り込もうとしたら、丁度良く裏口が開き、桶を持ったエプロン姿の女性が出てくる。 おそらく食事の準備に呼ばれた女性だろう。 彼女にがいるか聞けば早いので、セフィロスはそちらへ足を向けた。 自分の体格や容姿が人に威圧感を与えるのは知っているので、多少愛想よく振る舞わなければならないが、それは牧場仕事で大分慣れた。 を初めとする他の人から見れば『愛想よく……?それで?』と首を傾げるレベルなのだが、セフィロスはニコニコ笑って明るく話しかけるタイプではないので、ゆっくり丁寧に喋るくらいが限界だった。 「失礼。建築学校の学生だが、ここに村長の家に世話になっている学生は……」 「まあ!あなたが噂の旦那さんね!」 ……噂? 何の事だ。まさかもうは何かやらかしたのか。まだ村に来てから3日くらいしか経っていないというのに。 たった3日。 しかしなら、3日あれば十分何かをやらかせる。 何を言われるのかと、一瞬だけ緊張したセフィロスを置き去りにして、女性はニコニコ笑顔で興奮しながら建物内に駆けこんでいった。 放置を食らって一瞬呆然としたセフィロスだったが、女性の様子に、やはりはここにいたのかと少し安堵し、何をやらかしたのか問い詰めなければと考える。 だが、彼の予想に反し、次にドアを開けて出てきたのはではなく、工房への行き帰りですれ違い挨拶をしたことがある村の女性たちと、全くの初対面の女性達だった。 「あらぁ!」 「やだ本当にカッコイイ!!」 「どうしたの?お腹空いたならまだご飯あるから食べていきなさい!」 「いっぱいあるよ。ほらおいで!」 「おっきいわねぇ。ジャンさんのお孫さんより大きいんじゃない?」 「やだ、うちの子、横には大きいけど縦にはこんなに大きくないわよ」 探し方を間違えた。 最初の頃の牧場の女性達のような反応に、セフィロスはとっとと電話なり魔力なりでを探せばよかったと後悔する。 即行で逃げ出したいが、そうすれば今後の関係も微妙に気を遣わなくてはいけなくなるので、グッと奥歯を噛んで堪えた。 捕まったら食事を御馳走になるまで帰してくれないのは経験で知っているので、女性達の手が届かない位置まで近づき、の姿が無いか軽く建物の中を窺う。 「妻を探しているんだが、ここに、村長の家に世話になっている学生は来ていますか?」 「あら、奥さんを探してたの?」 「残念だけど、ここには来てないわねぇ」 「奥さんなら、アーサーさんのお世話をお願いしたってリンちゃん言ってたわね」 「誰かリンちゃん呼んであげて~」 「いや、いな……」 「リンちゃーん!ちょっと来てちょうだーい!」 「いい男が呼んでるわよー!」 いや、いないと分かったらそれでいい。 そう言おうとしたセフィロスの声をかき消して、女性達は奥からリンと呼ばれる女性を呼ぶ。 おそらく村長婦人だろうという予想通り、中からは村長宅で顔を合わせた女性が顔を出した。 どうして興奮した人間は人の話を聞かないのだろう……。 そんな事を考えながらの居場所を問えば、おそらくアーサーと共に家にいるだろうとの返答が得られた。 礼を言うと、村長婦人リンは騒いだ事を詫び、セフィロスは女性達に見送られながら集会場を後にする。 疲れた顔で集会場の裏から来たセフィロスに、表で見張りをしていた男性が不思議そうな顔をしていたが、セフィロスは軽い会釈だけしてさっさと集会場から逃げた。 「あの人……何やってるんだ?」 村を一望できる丘の上。 丁度集会場の裏が見えるそこで様子を眺めていたは、やたら疲れた様子で建物の陰(集会場の表側)に消えて行ったセフィロスに、首を傾げる。 宿舎から出てきた時から不審だったが、そのまま村の女性達を騒がせて立ち去った行動理由がわからない。 ゆっくりとした足取りで小学校跡へ向かっていく様子に、もしかして道に迷ったのだろうかと考えたは、アーサーが身じろぎするのを感じて、そちらへ注意を移した。 「起きたか?」 「さん……すみません、眠ってしまいましたか」 「気にするな。私も、ここで陽にあたっているのは気持ち良かった」 「良い所でしょう?さて、お待たせしてしまいましたし、家に帰りましょうか」 「寝起きですぐ動こうとするな。転んで怪我をする。それに、もう少しここで風に当たらせてくれ」 「ありがとうございます。では、お言葉に甘えましょうか」 放っておけばまた眠りそうなアーサーの雰囲気に、は彼の周りの温度調節をやめると、大きく体を伸ばす。 何気なく視線を村へ戻せば、セフィロスは小学校跡の前に着いたが、運動している学生たちに軽く手を上げて挨拶するだけで、村長宅へ向かう。 もしや彼は、自分を探していたのだろうか。 だったら魔力を探すなり電話をかけるなりすれば良いだろうに。 急ぎの用事ではないのだろうかと内心首を傾げると、はセフィロスが小学校跡で他の学生たちに合流したところまで見守り、ベンチから立ち上がった。 |
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やっとセフィロス書けた 2024.05.24 Rika |
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