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予定より早い時間、棟梁と大工と一緒に帰ってきたを見て、村長夫妻は不思議そうな顔をしながら出迎える。 何をやったのかと視線で問うてくるアーサーに物言いたくなるのを抑えながら、は昨日と同じソファにかけた。 大工と棟梁、そしてから魔物の状況を聞くと、村長もアーサーも表情を険しくし、すぐに腰を上げる。 村の手練れ数人に明日の朝一番で偵察を頼むと席を立った村長に続き、棟梁と大工も調査が終わるまで山に入らないよう村人へ伝えるべく立ち上がる。 同じくスッと立ち上がったアーサーは、しかしすぐに老体で無茶するなと止められて椅子に戻された。 Illusion sand ある未来の物語 109 慌ただしく出て行く村長たちを見送ると、は着替えて婦人の手伝いをするために立ち上がる。 最初に疑いの眼差しを向けたため、少し気まずそうな顔をするアーサーには、小さく笑みを向けて許した。 今日魔物の相手をしたのはだったが、彼女の目から見ても村人は十分戦える。 昔各地に出たような新種や変異種でもいないかぎり……いや、この村はその危機すら凌いでいたらしいので、どちらにしろ手伝う必要はないだろう。 与えられた部屋に戻り、室内着に着替えたは、エプロンをかけると台所へ向かう。 婦人は、魔物についての報告が聞こえていても、全く普段通りな様子で夕食の支度をしていた。 婦人と共に根菜と茸の煮込みを作っていると、玄関のドアベルが鳴らされる。 村長や棟梁が帰ってくるには早く、婦人とは顔を見合わせて首を傾げたが、すぐにドアの向こうから、木工職人と木こりだという名乗りが聞こえた。 応対した婦人に促されて入ってきたのは、大工の棟梁と同じような作業着姿の男性二人と、見慣れたの夫セフィロス。 おや?と首を傾げたに、セフィロスは小さく頷いて通り過ぎようとしたが、その脚は先に立ち止まった男性二人によって止められた。 「おお!?誰だこの美人!奥さん、紹介して!」 「村長のとこに学生さんが一人お世話になってるって聞いたが、アンタかい?あれ?ならセフィロス君の……?」 「俺の妻だ……です」 「……と申します。夫がお世話になっております」 セフィロスが君付けされている事に注目すべきか、珍しく敬語を頑張っている事に注目すべきか。 ここで問うわけにはいかないが、つい気になってしまって、は笑みを浮かべながらセフィロスに視線をやる。 この人が敬語なんて、出会った頃ですら使った姿を見たことがなかったが、流石に必用な状況ではちゃんとするらしい。 セフィロスと、彼の科が世話になっている職人達という組み合わせに、は既視感を覚えて婦人に目をやる。 が、婦人はとセフィロスを見比べると、あらあらまあまあと言って、目を輝かせていた。 「まぁ~!これがさんのご主人なのね。ミアちゃん達が言ってた通りカッコイイわねー」 「何だよ、うちのおっ母、昨日セフィロス君見てキャーキャーいってたと思ったら、もう噂にしてんのか」 「ハァ!?オラんとこ何にも聞かされてないんだけど。村八分か!?嫁さんがいないと情報が得られない女社会の村か!?」 「村長は今留守にしていますので、アーサー……さんに対応をお願いしますね。どうぞこちらへ」 どうでも良い話を始めた村人を早々にスルーして、は客人たちをリビングに通す。 台所での会話が聞こえていたアーサーは呆れた顔で客人を出迎え、その中にいたセフィロスを見てまた少し遠い目になっていた。 話に聞いて覚悟していても、実際に死んだはずの人間がまた一人目の前に来ると、脳が一瞬現実逃避してしまうらしい。 早々に台所に戻ったは、来客のお茶を婦人に任せ、夕食の準備を再開する。 リビングから聞こえてきた話は、やはり山にいる魔物の数についてだった。 今日セフィロス達が木こりと共に木を選びに行った際、多くの魔物が現れ、あちらもセフィロスが対応したらしい。 既に大工からも連絡が来ており、村中に連絡をしている最中だと聞くと、職人たちは納得し、後の対応を待つ事に決める。 出されたお茶を飲み干した彼らは、夕食時の訪問を詫びると、すぐにリビングから出てくる。 調理の手を止めたは、婦人と共に見送ろうとしたが、職人と木こりは再び台所で足を止めるとをまじまじと見た。 「……ハァ~……いいなぁ。うちのおっ母も、こんぐらい美人だったらなぁ……」 「嫁さんがいるだけでも有り難く思えよ。……ハァ……人妻かぁ……見るだけなら減らねぇかなぁ……」 「見るなら、彼女の負担にならない程度にし……てください」 「セフィロス君さ、顔が良くて背も高くて強くて金も持ってて料理も上手で、仕事だって好きな事やってるのに、嫁さんまで美人とか、どうなってんだよ。色々羨ましすぎてなんか腹立つなぁ……」 「色々持ちすぎだよな。髪の毛だけでも分けてほしい!この、オデコのV字のラインだけとか!」 「…………夕食の準備中にお騒がせしました。妻をよろしくお願いします。、あまり迷惑をかけないようにしろ」 職人の相手が面倒になったセフィロスは、早々に彼らを無視することに決めると、婦人に頭を下げてさっさと出て行った。 立場は師になるはずなのに、置いてきぼりをくらった2人は慌ててセフィロスの後を追い、婦人に頭を下げて出ていく。 賑やかだが、セフィロスが思いのほか楽しそうで良かったと頬を緩めたは、夕飯の準備に戻る。 が、ニコニコ笑顔の婦人が、料理をしつつ、の隣にぴったりとくっついてきた。 「さん、旦那さんとは、どこで知り合ったの?」 「……出会いは、昔、ゴルードソーサー跡の下にある砂漠で……」 キラキラと目を輝かせつつ笑顔で圧をかけてくる婦人に、これは全て吐かされるな……と覚悟しながら、は一通りの馴れ初めを吐かされる。 年は下でも自分より遥かに女としての年輪を重ね磨いているだろう婦人に、騎士として以外は割とポンコツながロクに抵抗できるはずもなかった。 明日の夕方には、村の御婦人ネットワークに情報が共有されているかもしれない。 ガイとカーフェイからの助言を踏まえて修正された経歴を交えつつ、洗いざらい……それこそ、好きになったのはいつかや、プロポーズの言葉まで引き出された頃、ようやく村長が帰ってきた。 幸い、プロポーズの思い出が吐瀉物と血の匂いがセットになっている事や、無知な女に色々と教え込んでやりたい放題してくれていた事などは伏せたが、油断すると全て吐かされそうで気が抜けない。 この婦人、もしや何処かの諜報部員だったのではないかと疑うほど、彼女の話術は巧みで僅かな隙さえ許されなかった。 夕食の配膳を始めながら、『続きはまた聞かせてね』と笑顔で言った婦人に、は笑顔で頷きつつ恐ろしさを感じる。 夕食を運んでいくと、一連の会話が聞こえていたらしいアーサーが申し訳なさそうな、同情するような目を向けてきたが、途中で止めに来なかったという事は、家庭内では彼より婦人の方が立場が上なのだろう。 自分の分の洗濯と部屋の掃除以外、家事の一切を婦人に任せているそうなので、自然とそうなってしまうのかもしれないが……。 すぐに始まった夕食では、村長がアーサーへの報告と共に、今後の方針を説明した。 明日以降の仕事は通常通りだが、偵察が終わるまで、村から出るのは控えてほしいらしい。 散歩は自由にして良いが、それも村の中だけに限定された。 「それでな、さん、魔物の間引きが必要だったら、それは村人でやる。だが、もしこの辺りで見られないような魔物がいた場合は、貴方とご主人に、元魔物狩りとして意見を求めるかもしれない。いいだろうか?」 「もちろんです。どうぞ、遠慮なく聞いてください」 「ありがとう。今のところ、その必要はなさそうだが、もしもの時はお願いするよ」 「ええ」 かなり山の奥……それこそ歩いて5日以上の場所には、ちょっと珍しい魔力の気配があるが、付近の山に特筆するような魔物の気配はない。 この村なら、十分対応可能だが、万が一の時は元教え子のためにタダ働きしてやるのも良いだろうと、は笑顔で答えながら考えていた。 すると、少しだけ気がそぞろだったことを察知したか、婦人が笑顔での方を見る。 「さんは、ご主人と出会う前から魔物狩りのお仕事をなさっていたのでしょう?プロの方から見て、この村の人の強さってどうなのかしら?」 「歩き方や視線の向け方などの所作を拝見する限り、手練れと呼べるレベルの方が多くいると感じました。WROなどの軍にとっては、喉から手が出るような人材ばかりでしょう」 「まあ本当!?嬉しいわ。良かったわねあなた、お義父さん!」 きゃっきゃと可愛らしく喜ぶ婦人に村長は目尻を下げ、アーサーは頬を緩めつつ安堵した様子でへ目をやる。 世辞ではないぞ、という意味を込めて小さく頷き返してやると、村人たちを必死に鍛えた本人は少しだけ目を嬉しそうに細めた。 翌日、村長が言っていた通り、村の外に出ないようにという連絡が現場でもされ、偵察を任された村人が何人も山に入っていった。 学生たちは、主に上級生が慣れた様子で気を引き締めていたが、1学年のうち数人は魔物との戦闘経験が無いらしく、大分不安そうにしている。 「なあ、さん、魔物が出たら、どうしたらいいんだ?」 「私が始末するので、何もしなくて結構ですよ。余裕があるなら、地面に伏せて身を守ってみてはどうでしょうか」 「でもそれで魔物が襲ってきたら?伏せてたら、すぐに逃げるの難しいんじゃないか!?」 「不安でしたら、仲間と一緒に固まっているか、一緒に逃げてください。一人で逃げると狙われますから、集団で逃げるようにしてくださいね。大声を上げながら逃げると、魔物が驚いて追わないこともありますよ」 「そ、そっか。仲間と一緒に、大声を上げて逃げるんだな?それなら、できるかもしれない」 「ただ、この仕事をしていくのなら、魔物への対処は必須になってきますので、この村にいるうちに、朝の鍛錬で村人に鍛えてもらうのがよろしいかと」 酷く怯えている同級生に、『この子は来年にはいないかもしれないな……』と思いながら、は今日の採取場所である村はずれの崖に露出した石灰の地層にスコップを入れる。 怯えていた同級生も上級生に急かされて作業を再開したが、その顔は悲壮感でいっぱいだった。 その日は、急遽村人の会合が行われることになり、大工達が出席するために午後の休憩時間までで現場が終わった。 帰ってみると、村長夫妻は集会場で準備をするため留守にしており、アーサーが一人寂しそうにリビングでお茶を飲んでいる。 「今帰ったが……アーサー、お前は行かなくて良かったのか?」 「ええ。もう年なのだから、家で大人しくしていろと、息子に言われました」 「そうか。まあ……確かに、そうだろうな」 「着替えたら、戻ってきてください。せっかくですから、少しお話しましょう」 「……説教してくるんじゃないだろうな?」 「怒られるような事をしたのですか?」 「……いや、していないはずだ。待っていろ、すぐに戻る」 「慌てなくて結構ですよ」 雰囲気から気配から、村で最も腕が立つのはアーサーで間違いないのだが、これだけ高齢となれば体力がついていかないだろう。 昔、彼らを見ていた時も、アーサーとカーフェイは突出した素質を持っていたので、老齢となった今、達人の気配を纏っていても違和感はない。 どうせなら、あの時代から彼を鍛えてみたかった。 もしかすると、神羅の力を借りずにソルジャーを越える戦士を育てられたかもしれないと想像して、しかし同時に『鬼!』と泣いて罵る若いアーサーとカーフェイの姿が思い浮かんでしまった。 想像すると楽しそうだが、何だかんだでこの平穏な生活を満足しているアーサーに、これが彼にとっての最善だったのだろうと考えては想像を打ち切る。 すぐに着替えて戻ってきたは、カーフェイがアーサーにの事をどう説明したのか確認し、事実を丸ごと教えていた事に少なからず驚く。 おかげで余計な配慮をせずに昔話を楽しむ事が出来たが、がこことは違う世界から来た事を『むしろ納得した』と言われたことだけは、ちょっと納得できなかった。 |
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仕方ないとはいえ、とセフィロスとの絡みが少ない……。 2024.05.20 Rika |
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