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To dear friends - 8






「買いすぎだろ・・・」
「一日じゃ終らないと思うよ・・・」


夜も更けた午後9時。
アーサー、ロベルト、アレン、ジョヴァンニ、カーフェイ、ガイ、の7人は、約束の花火の為、公園へと集まっていた。
円になるメンバーの真ん中には、ギュウギュウに花火が詰まった大きなビニール袋が1,2,3・・・5袋ある。
呆れるアーサーとロベルトに、ジョヴァンニは3袋は大きな打ち上げ花火が数本入っているだけだと胸を張るが、それでも多い事に変わりは無い。

早く始めたいとソワソワするガイに促され、皆まずは手持ち花火を袋から出す事から始めたが、袋を破れば破るほど、終わりが見えない気がするのだ。


「カーフェイ、何か、昨日会った時より増えてる気がするんだけど・・・?」
「・・・ん?・・・・うん」

「買い足したのか!?あれだけでは飽き足らず買い足したのかお前!!」
「いやー、ホラ。メンバー増えるってなると、やっぱ沢山必要かなーって・・・」

「そんな気遣いしなくていいよ!どれだけ金使ったのアンタ!?」
「うん・・・ちょっと・・・軽く宝くじで・・・3万ギルぐらい」

「・・・全部使ったとか言わないよね?」
「当たり前だろ!?俺だってちゃんと考えて新しい本とかDVDとか買ったっつの」

「それ考えてるって言えるの・・・ってか、その本とDVDってもしかして・・・」
「さー花火花火」


エロ本だ。コイツ絶対エロ本とエロDVD買いやがった。

そんなや他の皆の視線を無視しながら、カーフェイはバリバリ袋を破いていく。
半分は残しておけというアーサーの言葉に、確かに全部やるには無理があると感じていたメンバーは黙って従った。

袋を破り始めて数分。
そろそろ始めたいというアレンの言葉に、ロベルトが蝋燭に火をつける。
片手に何十本も持ちながら、最初の1本をジョヴァンニが灯すと、他のメンバーも貰い火をしながら花火を始めた。


夜の闇の中、様々な色の炎が灯り、かと思えばジョヴァンニが待ちきれずに打ち上げ花火を上げ始める。
噴水のような火花に皆目を奪われ、その花火の後ろで両手に数本の花火を持ちながら妙な踊りを踊るガイに目を奪われ。
かと思えば、アレンが放った大量のネズミ花火が、呆けていたメンバーの足元を凄まじい勢いで走った。
悲鳴を上げて逃げ惑うメンバーに、ジョヴァンニは皆楽しんでいるなと笑いながら、一人せっせと打ち上げ花火を並べる。
何故か一人だけネズミ花火の被害を受けていないガイは、その打ち上げ花火にせっせと火を灯し、逃げるメンバーを照らして笑っていた。
そんなガイの足元に、アレンは試しにネズミ花火を放り投げてみるが、ガイはそれをグシャリと踏み潰すと、手持ち花火を続ける。
ムキになったアレンが、ガイに的を絞って次々にネズミ花火を放つが、対する彼は近づいてくる花火を悉く踏み潰す。

楽しいはずの青春花火は、笑い声と悲鳴が響き、色んな意味で楽しい阿鼻叫喚地獄へと変貌を遂げていた。

数分後、アレンはロベルトに「人に向かって花火を投げるものじゃない」怒られ、騒動はようやく収まった。
再び7人は大人しく花火を始めたものの、先の騒ぎが尾を引いてか、メンバーの目には危険な色が見え隠れする。
互いに牽制し合って入るものの、またいつ誰が妙な事を起すかわからない雰囲気が、ピリピリとした緊張感を生んだ。


「また打ち上げやっていいか?」


様子を覗うように提案したジョヴァンニに、皆二の句も無く頷く。
ニカッと笑った彼は、数個の打ち上げ花火を持つと、少し離れた場所にそれを並べ、順々に火をつけはじめた。

手を止めて、それを眺める事にしたメンバーは、吹き上げて弾ける花火を眺めて感嘆の声を出す。
が、やはりこのまま何事も起きないはずなどなく、また両手に花火を持ったガイが打ち上げ花火の裏に走って行った。


「またアイツあの妙な動きすんのか?」


呆れてぼやいたアーサーの声に、はそこで始めて自分が彼の隣にいることに気がついた。
何となく、他のメンバーが二人から少し離れている気がしたが、きっとただの偶然だろう。
考えたら急に意識しそうになり、慌てて考えを逸らそうとはガイへ目を向けた。


「げ、芸術なんじゃない?」
「・・・マジかよ」

「面白くていいんじゃないかな?」
「俺には怪しくしか見えねぇけど・・・」


何とか!何とか普通に話せてるぞ私!!

甘い空気の欠片もありはしないが、とりあえず普通に会話できている事に、は一安心しながら小さくガッツポーズする。
花火を見るとガイの動きに目と思考を奪われるが、彼を視界から除外すれば何とかアーサーと話が出来そうな気がした。
と、そう考えていると、いきなりカーフェイが「あー!」と叫び、頭を抱え始めた。
何だろうと目を向けると、カーフェイは達をちらりと見て大きく溜息をつき、手持ち花火に火をつけはじめる。


「何だ?」
「わかんない」


首を傾げて見ている二人と、ニヤニヤするアレン、呆れて顔を引き攣らせるロベルト。
花火から火が出始めると、カーフェイは「カーフェイ、出撃ー!」と叫び、ガイの元へ走った。
まさか・・・と思ってしまったが、予想通り。カーフェイはガイの傍まで行くと、同じように踊り出す。

ガイの動きよりは様になっているが、怪しい事に変わりは無く、流石のも顔を引き攣らせずにはいられなかった。

ジョヴァンニが灯していく花火がライトのように二人を照らし、いつしか二人の踊りは息が揃った動きに変わっていく。
整った顔をした二人だ。パッと見はアイドルグループのように見えなくも無い。
とはいえ、その動きが奇怪である事に変わりは無く、3秒も見ればアイドルからただの変質者に格下げされるのだが。


「何で踊るんだろう・・・」
「さぁな・・・」


既に引くと事まで引いてしまっているアーサーとは、友人の醜態を何の感情もなくボーっと眺める。
そのうち「Hey!Hey!」という掛け声まで聞こえてきて、まさか幻聴かと思ったら、上半身裸のジョヴァンニがガイとカーフェイの間でポーズをとりはじめていた。


「あぁ・・・もう・・・!」

そのあんまりな光景に、耐え切れず顔を覆ったロベルトを、もアーサーも「へー」と眺める。
アレンはアレンで、親友の晴れ姿(?)だと言うのに、既に眼中に無いようにネズミ花火を持ち出していた。


「・・・・・」
「・・・・・」

「俺達が見なきゃ、可哀想だな・・・」
「そうだね。私達だけでも見てあげなくちゃね・・・」

「あんまり見たくないけどな・・・」
「うん。あんまり見たくないけどね・・・」

「・・・・・」
「・・・・・」


同情からくる労わり。

頑張っている3人を、二人は同じ表情で眺める。
こんな形で彼と心を一つにしたくないな・・・と考えながら、アーサーの隣にいれる少しの幸せに、は救われた。
二人で花火を見るなんて、かなり良いシチュエーションのはずのに、その花火の後ろの3人によって全てブチ壊しである。

ようやく火をつけた打ち上げ花火が終ると、ジョヴァンニは服を着始め、カーフェイも両手で顔を覆って戻ってきた。
ガイはその場で、大人しく手持ち花火を続けている。

さぁもう一度と張り切り始めたアレンがネズミ花火に火をつけ、ロベルトは一人隅で線香花火を始めていた。


「アーサー・・・」
「ん?」

「この状況・・・何だろう・・・?」
「ああ。なんだろうな・・・・」


何とも言えない空気とは、きっとこういう状況の事を言うのだろう。
普段こんな風に集まったりしないメンバーだから、どんな風になるのかと楽しみだった気持ちはある。
だが、よもや蓋を開けたらこんな展開になるなどと、誰が想像しただろうか。

何かを失ってしまったような顔のカーフェイは、ロベルトの隣に行き、静かに線香花火を始める。
数秒も経たず落ちてしまった火の儚さに、まるで今の彼のようだと考えていると、持っていた花火が尽きたらしいガイが走って戻ってきた。

その後ろに見えた、何処かスッキリした顔のジョヴァンニに、は密やかに「太陽の君」と名付ける。
またいくつもの花火に火をつけ始めたガイは、二人の所にやってくると、火がついている1本をアーサーに。火がついていない数本をに手渡した。

黙って受け取った二人にニッコリ笑うと、ガイは同じように、火がついた花火とついていない花火を他のメンバーに渡しに歩く。
線香花火で傷心を癒していた二人も、ネズミ花火で遊んでいたアレンも、手持ち無沙汰になっていたジョヴァンニも、ガイから花火を受け取ると、達の下へ寄ってきた。


「やっと普通の花火らしくなってきたな・・・」
「長い道のりだったね・・・」

「何で長かったんだろうな・・・」
「わかんない・・・」



何はともあれ、これでようやく普通の花火らしくなってきた。
そう思っているのは、恐らく線香花火コンビとドン引きコンビだけだろうが、7人は普通の花火を楽しみはじめる。
火種を分け合ったり、花火を分け合ったり、暫くそんな普通の花火をしていると、はふと誰か一人足りない事に気がついた。


「・・・あれ?ガイは?」
「便所だってよ。そろそろ戻ってくんじゃねぇか?あ、アレン、火くれ」
「はい・・・って、ジョヴァンニ、それ終わったやつだよ」


ダハハハハ!と笑うジョヴァンニに釣られ、皆もクスリと笑みを零す。
便所という事は、公園の入り口にある公衆トイレだろうかと目を向けたは、ジョヴァンニがいう通り戻ってきたガイに軽く手を振った。


「おまたせ〜!」
「おかえり、ガイ・・・って、カラコン入れたの?」


走って戻ってきた彼を、は笑顔で出迎えると、火がついていない花火を手渡す。
彼女の言葉に一瞬だけハッとしたガイは、少しだけ目を伏せるが、すぐに笑みを作ってそれを受け取る。


「うん。ケース壊しちゃって、無くしそうだからね」
「へぇー・・・いっつも持ち歩いてるんだ」

「うん。元の色だと、睨んだろって絡まれやすいから」
「大変だね、ガイも」



小さく頷くガイに火を分けながら、尽きそうな火種には新しい花火を手に取る。
予想通り消えてしまった花火を捨て、ガイから火を貰うと、彼女はまた足りない人数に周りを見回した。
見れば、またジョヴァンニが飽きもせず、打ち上げ花火を並べ始めいる。


「またやんのかよ・・・」
「みたいだね・・・」


呆れた声で言うアーサーに、がポツリと答えると、ジョヴァンニが付けた花火から早速火花が弾けていく。
生まれては消えていくそれに、少し目を奪われたガイだったが、次々に増えていくそれに、悪戯したくてウズウズしてきた。

思い立ったが吉日か。
彼はガッと花火を掴むと、綺麗に咲く打ち上げ花火に・・・否、打ち上げ花火を持つジョヴァンニの元へ走った。

また踊り出すのかと思っていた達は、予想外の方向へ行ったガイに目を丸くする。
ジョヴァンニと何か話していた彼は、打ち上げ花火のうちの一つを受け取ると、少しはなれた場所でしゃがみ込んだ。


「ガイの奴、何してんだ?」
「・・・火薬混ぜてるっぽくない?」

「・・・それ危険なんじゃないか?」
「今にアフロヘアーになって帰ってくるよ」


アーサーもも、既に呆れきっていて、ガイの行動に怒る気は無い。
せっかくなのだから好きにさせて良いだろうと考えながら、ふと視線を映すと、ロベルトがまた線香花火に手を出そうとしていた。


「ロベルト、大丈夫だよ」
「ガイはもう踊らないみたいだぞ」
「え、本当?」

「その代わり花火の火薬いじってるけどね」
「一回痛い思いして学習したほうがいいだろうな・・・」
「・・・やっぱり、線香花火するよ」


切なくて仕方ないのだろうか。
少し寂しげに笑ったロベルトに、とアーサーは顔を見合わせると、一緒に線香花火に手を伸ばす。
カーフェイはアレンと一緒にジョヴァンニ達を眺め、準備が出来たのを確認すると、輪になって黄昏る達に声をかけた。


「大丈夫かな・・・」
「さぁな・・・デカイ爆発はしないだろ」
「ガイ、パワフルだね・・・」


そろそろ疲れて始めても良いだろうに、まだまだ元気が有り余っているらしいガイに、ロベルトは呆れとも感嘆ともつかない溜息をつく。
相変わらずアレンはネズミ花火を付けては投げ付けては投げしているが、既に皆慣れたものだった。

打ち上げ花火の中に入れた、手持ち花火の火薬に、ガイは満足そうに微笑む。
ジョヴァンニが大丈夫かと聞いてくるが、それは火をつけなければわからないと思いつつ、大丈夫だと返事を返した。
1本だけ残した点火用の手持ち花火に火をつけ、ジョヴァンニを下がらせると、彼は遠くでこちらを見る5人に手を振る。


「みんなー!いっく・・・」


シュゴァァァァァシュパパパーンゴォォォォ!!!



『行くよ』と言い切らないうちに、ガイの耳は、まるで炎の中にいるような轟音に支配される。
何が起きたかわからず、目を丸くする彼の目には、激しい炎に照らされたように、赤く照らされる皆の姿。
『ガイ!』と呼ばれると同時に、グンッとジョヴァンニに腕を引っ張られ、ガイの体は地面に転がった。
同時に、すぐ傍で聞こえていたはずの轟音が少しだけ遠ざかり、彼は呆然と自分がいた方を見る。

そこには、花火から吹き上げた扇形の炎と、その中心から上る真っ赤な炎の柱があった。

数十秒か、一瞬か。
呆然とする7人に見つめられながら、炎は小さくなり、花火の空を燃やす炎だけになる。



「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」



シーンと静まり返ったその場は、遠くを走る車の音が聞こえるほど静まり返り、燃え尽きた花火の空がカタリと音を立てて倒れた。


「ハ・・・ハハ・・・ハハハハハ」

「ハハハハ・・・」
「・・ハハ・・・・ハハハハハハ」
「フッ・・フフッ・・・アハハ・・アハハハハハハ」


呆然としながら笑い始めたガイに、全員の視線は集中し、だが、釣られるように皆笑みを作り始める。
ガイの笑い声が大きくなると、皆が皆同じような笑い声で、声を上げて笑い始めた。
所謂、恐怖や驚きの後に来るアレだろう。

段々と笑い声は大きくなり、全員が全員その場で腹を抱えてゲラゲラ笑い出す。
もう何がなんだか分らないが、そう思いながらも笑いは止らなかった。


「スッゲェ威力だし!スゲェぞガイ!ダハハハハハ!!」
「びっくりだよー!アハハ!新兵器開発ー!!」
「危険すぎだって!何アレ!アハハハ!!本当、ガイって・・・・・・え?」


笑いながら彼に歩み寄っただったが、ふと彼の異常に気付いて言葉を止める。
いきなり笑いを止めた彼女に、メンバーがどうしたと目を向けると、彼女は呆然としながら彼の背中を見つめていた。


「ガ・・・ガイ・・・」
「なぁに?」

「か・・・髪の毛・・・チリチリになってるよ!?」
「え・・・!?」


結っていた髪を慌てて手繰り寄せたガイは、綺麗だった金髪の変わり果てた姿に目を見開く。
が言うとおり、その髪は先の5cm程が、焦げてチリチリになっていた。


「何コレーー!?」
「ンブァハハハハハハ!!!」
「スゲー!マジでチリチリだー!!」
「アフロだ!部分アフロだー!ダハハハハハ!」
「ガ、ガイ、大丈夫なのか?ブフッ」
「プッ・・・せ、背中とか・・・火傷してないかい?」



悲鳴のような叫び声を上げた彼に、アレン、カーフェイ、ジョヴァンニは再び声を上げて笑い始める。
アーサーとロベルトは、笑いを堪えながらも心配し、は・・・腹を抱えたまま地面に転がってピクピクいっていた。











その後、部分的に髪の毛がチリチリになってしまった彼は、ロベルトにナイフを借り、その場で髪を肩辺りから切ってしまった。
明日美容院に行くと行った彼の台詞にすら、笑い出さずにはいられない6人は、既に普通に花火が出来る状態ではない。
結局、その後花火を再開しようとする者は無く、夜も更けていた事から、7人は後始末をして終わりにする事にした。






2007.11.14 Rika
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