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Illusion sand  番外編もしもシリーズ
 Family Fanyasy 4




皆さんこんにちは。です。
何だかこうして皆さんの前に出るのも慣れてきてしまいました。
初めは我が家の日常をお見せするだけだったのに、この間は研修旅行での私の失態までお見せしてしまって・・・お恥ずかしい限りです。

はい、あの後、レポートはちゃんと出来上がりました!
ルーファウスさんがメモ帳を届けてくれたお陰ですけど・・・いいえ、でもレポートは私が書き上げたんですから、私の努力の結果です!
決してルーファウスさんのお陰じゃありません!私の力!

だって・・・聞いてくださいよ皆さん!
あの人、私のメモ帳の中身読んでたんですよ!?
研修の内容しか書いてなくても、思春期の女子高生のメモ帳ですよ!?
信じられない!!

しかも、私が家に帰ってきた次の日いきなり電話してきて、私が疑問に思ってメモしてた所の答え言ってきたんです!!
スッゴイ馬鹿にしたような言い方して・・・何か言えば「大人気ない」って・・・・ああんもう!!
思い出しただけでも腹が立つ!!

その上お父さんにまでその内容の書類持たせて・・・あの時のお父さん、スッゴイ恐い顔して「ルーファウスとはどういう関係なんだ」って。
本気で恐かったんだから!!
お母さんは笑って助けてくれないし、弟達はお父さんに怯えて隠れちゃうし、あの日は家の中滅茶苦茶だった!!
全部ルーファウスさんのせいです!

それにレポートだって、身内の権力使って書いても、フェアじゃないじゃない。
教えてくれたのは嬉しいけど、その答えは無視してレポートは上げました。
メモ帳と晩御飯には感謝してるけど、その他にはぜぇーったい、意地でも感謝しません!

はぁ・・・。
何だか取り乱してしまって御免なさい。
でも、こういうお話が出来る友達・・・いないんです。
最近出来た友達は、武器とか戦いの話ばっかりで・・・その・・・贅沢ですけど、あんまり合わないかなぁ・・・って。


ですが、こうしてまた皆さんにお会い出来るという事は、今日も何かあるのでしょうか?
まさか、またルーファウスさん絡みなんじゃ・・・いやいや、そんな事ありませんよね!だって社長さん忙しいし!
きっと、ザックスお兄ちゃんとかが遊びに来てくれるに違いありませんよね!

楽しいのは大好きだけど、せっかくの日曜日だし、出来ればお昼まで寝ていたいなぁ・・・。







「姉さーん!行ってきまーす!!」
「お土産買ってくるねー」
「姉さん、すぐ帰ってくるからね」
「うーん・・・いってらっしゃぁ〜い・・・」


寝惚け顔に、弟達からお出かけの挨拶とキスを受け取り、は夢の世界から引きずり出される。
もう少し静かに挨拶してほしいと思っても、元気な3人はバタバタと足音を立てて廊下を走って行く。
のそりと起き上がり、開けっ放しにされている部屋のドアをボーっと眺めていると、弟達と父を見送る母の声が聞こえた。

どうやら弟達は、今日は父と出かけるらしい。
一人で3人を見るなんて、珍しい事もあるものだと考えながらベットから起きると、母が部屋の前を横切った。


「お母さん、おはよー」
「おはよう。、今日はお客さんが来るから、家にいてくれないか?」

「私も関係あるの?」
「いいや、私の友人だ。でも、男の人だからね。流石に二人だけでというのは、セフィロスに悪い」

「んー、わかったー。お父さん達は?」
「父親参観。ミッドガル平原へピクニック・・・だそうだよ」

「そっかー」
「顔を洗ってきなさい。ご飯の準備をしておくから」

「はーい」


別に男を家に上げようが、この母に限って間違いなんて起こりはしないだろうに。
それでも父を気遣う母に、朝っぱらから熱いなーと思いながら、は洗面所に向かう。
母の友人は父とも友人なので、恐らくが知っている人だろう。

父がいない時でも来る人と考えると、タークスか、元教え子のお兄さん達だった。
前者であれば、母に頼み事。後者であれば、相談事か世間話。
どちらであっても、にとっては小さい頃からの顔なじみなので、そう気を使う事もないだろう。

パジャマのままリビングに行き、母が用意してくれた朝食の前に座る。
休日だというのに、時刻は8時を少し過ぎたぐらいで、は休日に起きる時間じゃないと溜息をついた。

テレビの中の男女は、赤の他人には全く関係の無い、どうでも良いニュースを教える。
昨日の夜ジュノンの繁華街で酔っ払いの乱闘騒ぎがあったとか、流行の歌手が俳優とツーショットを撮られたとか、本当に他人にはどうでもいい。

もっと面白い事は無いのだろうかと考えながら、は食べ終えた食器をキッチンにもって行く。
洗い物をする母の隣に立ち、シンクの上に食器を置くと、布巾を取って洗い終えた食器を拭き始めた。


「お母さん、今日誰が来るの?」
「ルーファウスだ。も知っているだろう?」

「・・・・・・・・・」


今、母上様は何と仰った?


「お、おおおおお母さん?今何て・・・」
「?ルーファウスが来ると言ったんだが?」

「えぇぇえええ?!」
「どうした?そんなに驚いて」

「どうしたじゃないよ!そんな・・・そんな・・・早く言ってよーー!!」


泣きそうな声で叫ぶと、は自室へ走って行ってしまう。
思いもよらない反応に、首を傾げて廊下を覗くに気づかず、彼女はすぐに部屋から出てくるとバスルームへと駆け込んだ。


「・・・何だ?」


閉じ篭るでも、出かけるでもない。
よくわからない娘の行動に、は疑問をもちつつ、しかしさして気には留めずに台所へと戻った。



「お母さん!私のシャンプー何処ー!?」
「棚の中に詰め替えがある」

「お母さん、私の黒くてレースがついたスカート何処ー!?」
「上から2番目の箪笥に入ってる」

「靴下が無いーー!!」
「いつもの場所にあるだろう。無いなら私のを使いなさい」


バタバタと家の中を走り回るに、は半ば呆れながらソファの上で武器雑誌を広げる。
慌てて身奇麗にするのは、何処かに出かけて逃げる気なのか、相手が新神羅の社長だからか。
これをセフィロスが見たらどんな顔をするか・・・想像して、彼が留守でよかったと考えただったが、その意識はすぐに『名匠の新作特集』に集中してしまった。


壁にかけた時計が正午の鐘をならし、は雑誌から顔を上げる。
朝から部屋とリビングを行ったり来たりするは、とうの昔にの意識外になっていたが、台所に入った彼女に気付くとも腰を上げた。


、何が食べたい?」
「朝ご飯の残り食べるからいいよ。それよりお母さん、ルーファウスさんて何時に来るの・・・?」

「確か1時半頃と言っていたが?」
「・・・ご、午後だったんだ。・・・そっか・・・」


ぶつぶつと言いながら、冷蔵庫を開けるを横目に見て、は少し考える。
何処かに出かける時の様に、可愛らしい服を着て、髪もきちんとセットし、唇にはジェネシスに貰ったお気に入りのグロスまでつけている姿は、母の目から見なくても不自然だろう。
お洒落をしたい年頃なのは知っているが、どういう風の吹き回しだろうかと、彼女は暫く娘の姿を目で追った。


、随分落ち着きが無いな」
「だ、だって、ルーファウスさんが来るんだよ!?気合入れて・・・ナメられないようにしなきゃ!」

「・・・舐・・・いや、ナメるか。しかし・・・何故そうまでする?」


必死さが伺える分、逆に余裕を与えるのではないかと、は言葉にしないまま聞く。
すると、は頬を膨らませると唇をムッと突き出し、眉を寄せて振り向いた。


「だってあの人、私の事からかって遊ぶんだもん!すぐ子ども扱いするし!」
「・・・子供だろう」

「お母さんはそう思うだろうけど、何かヤなの!あの人に子ども扱いされるのだけは絶ーーー対イヤ!」
「ルーファウスは、もう30を過ぎ・・いや、まだか?どちらにしろ、お前の人生の倍は生きているのだから、そうなっても仕方が無い」

「それでもイヤ!」
「・・・・・・・・・・そうか。なら、頑張りなさい」


今此処でムキになっている時点で、勝ち目は全く無いだろうに。
それが分からないのも、幼さ故だと考えると、は娘の好きにさせる事にした。

負けず嫌いと意地っ張りは、昔の自分に似ていると思うが、それを表に出すか出さないかが、二人の決定的な違いだろう。
とはいえ、育った環境が違うせいか、の方が幾分か真っ直ぐに進むタイプのようだ。
あれこれ算段をして、他人の手を使わず陥れ、最後に自分の権力でトドメを刺していた自分に比べれば、当然かもしれないが。

昼食が終ると、はすぐに片づけをして、また身だしなみを整えに部屋へ戻る。
その背中を見ながら、本当に対抗心だけだろうかと考えたは、ふと浮かんだ別の考えにお茶の準備をする手を止めた。



「服、よし。爪、よし。髪、よし。顔、よし!」


今の私に死角は無い!

鼻息荒く鏡の前で意気込んだは、前髪を少しだけ直すと部屋を出る。
何の勝負をするつもりなのか、今日はきっと勝ってやると戦意を漲らせた彼女だったが、廊下にいた母の姿に目を丸くする。


、すまないが、少し出てくる」
「え?だってもうすぐ・・・」

「茶菓子が切れていた。すぐに戻る。ルーファウスが来たら、相手をしてやっていてくれ」
「相手って・・・わ、私が行くよ!」

「ダメだ。ルーファウスが来るとなれば、彼を狙う者も付近をうろついているかもしれない。危ないから外には出るな。では、頼んだぞ」
「えぇ〜!?ちょ、お母さん!!」


の言葉など聞く耳持たず、は家から出て行ってしまった。
いきなり一人にされたは、暫く廊下で玄関のドアを眺め、ハッとして時計を見た。

約束の時間まで、あと10分ほどあるが、突然の孤立に彼女は意味も無くリビングを歩き回る。
母がいるから、集中攻撃はされないだろうと強気でいたが、いきなり1対1になるとは予想外だった。


「お母さん間に合うかな。間に合わなかったらどうしよう、どうすればいいの・・・何の作戦も無いし・・・このままじゃ勝てないー!!」


ぎゃーと叫びを上げると、はソファの上に倒れこむ。
だが、すぐに顔を上げると乱れた髪を整え直し、台所へと向かった。
ガス台の上にはヤカンが置かれ、その傍には紅茶とティーセットが置きっ放しになっている。

茶葉は先日ジェネシスが新商品だと言って持ってきた『バノーラ・アップルティー』。通称『馬鹿紅茶』である。
しかし、馬鹿がつくからと言って侮るなかれ。
この紅茶は一般家庭用から高級レストラン用まで、いくつものランクがあり、彼が差し入れてくれたのはその中でも最高級のランクのものだ。
タダで貰ったものなので、家族は気にせず飲んでいるが、このランクは1杯1000ギルほどするらしい。
たかがお茶1杯が、何故そんなに高いのだとも最初は思ったが、1度飲んでからはそれにも納得した。
高いものが良いものだとは思わないが、良い物は高いのだという事は学習できた。

来る客が昔からの友人で、しかも新神羅の社長なのだから、この茶葉を出すのは当然かもしれない。
ルーファウスなら、普段からこの倍はしそうなものを飲んでいそうだと思いながら、は自分用のジュースを探しに冷蔵庫を開ける。

だが、扉を開けた瞬間彼女の目に飛び込んできたのは、自分用のジュースや弟達のお菓子ではなく、3番街にある美味しいと評判のケーキ屋の箱だった。
そんなものが冷蔵庫に入っているとは知らなかったは、数秒その箱を凝視すると、恐る恐る箱を取り出す。

高級ではないが、ルーファウスへの茶菓子なら、これで十分。
それでも出かけたという事は、もしや母はボケでも始まったのかと、は不安になる。
が、妙に軽い箱に、首を捻って中を開いてみると・・・


「唾・・・つけたって事か・・・」


中にあるケーキには、明らかに一度手で取り出してして舐めた跡があった。
チョコクリームに舌の跡がついているのは、恐らくカダージュ。
イチゴが消えたショートケーキは、きっとヤズー。
しっかりと歯型がついているイチゴタルトは、間違いなくロッズ。
半分だけ残ったモンブランは、飾りのプレートの裏に「残りは食べていい」と書かれているので、父が食べたのだろう。

大方ケーキを見つけたカダージュ達にせがまれ、仕方なく唾だけつけさせたのかもしれない。
だが、父なりの気遣いである言葉も、本来出すはずだった客と箱の中身を考えると、見当違いの言葉にしかならない。
その他のケーキも、逆さまになって他のケーキを潰していたり、小さな手形がついていたりと、到底御客様に出せるようなものではなかった。

これは確かに買いに行くだろうと思いながら、は潰れたケーキのクリームを指で取って舐める。
思ったより甘くないそれに、自分の好みではないと考えていると、玄関のチャイムが鳴った。


「お母さん・・・走ったのかな?」


滅多に見せる事は無いが、父にも劣らない素早さを持つ母が本気を出せば、それぐらいで買い物はしてこれるだろう。
だとすれば、買ったものの中身は滅茶苦茶になっていそうだと思いながら、は玄関へ行く。

母ならばチャイムを鳴らさず入ってくると気づき、ドアの向こうに居る人物を想像するが、すでに歩き始めてしまった足は止まらない。
約束をしているのを知っていて、居留守を使えるわけがなく、はドアの前に立つと恐る恐る覗き穴を見た。


以前会った時のようなスーツではなく、前髪も下ろしているが、それが誰かなど考えるまでもない。
屋内なのにサングラスをしているのは、不審人物のようでもあるが、彼の立場を考えていると仕方が無いだろう。
一度小さく息を吸い、は鍵を開けてドアを開いた。


「いらっしゃい、ルーファウスさん」
「2週間ぶりだな、



口元に笑みを浮かべたルーファウスは、中に入ると、すぐにサングラスを取る。
まじまじと自分の顔を見て目を細める彼に、は少しの恥かしさと居心地の悪さを感じて目を逸らした。
それでも向けられる視線は、一体どんな理由なのか。

出会い頭にからかわれるのも覚悟で構えていた彼女は、肩透かしを食らったような気分になる。
同時に、予想とは真逆に近い態度のルーファウスに、少しだけ頭が混乱した。


「あっ・・と・・・お母さん、今留守ですけど、すぐに帰ってきますから。どうぞ、上がってください」
「ああ。これは土産だ。皆で食べるといい」

「ご丁寧に、どうもありがとうございます」


何だか調子が狂うと思いながら、はルーファウスから土産の箱を受け取ると、彼をリビングに通す。
彼とは親しいわけではないが、大人しく敬語で話す自分を、は妙に他人行儀だと感じた。
最初から、よそよそしさが無かったから、今違和感をもっているのだろうか。

母が用意していた紅茶を淹れながら、は少しだけ物足りなさを感じている自分に気づいた。
だが、それではまるでからかってほしいようではないかと、思い浮かんだ考えを慌てて振り払う。

家族が不在の今、孤立無援のは格好の餌食でしかない。
母が帰ってくるまで、きっとルーファウスに散々からかわれるに違いないと、は一人で気合を入れた。

油断大敵と心の中で叫び、彼女は紅茶を持ってリビングに戻る。
台所から目の前に来るまで、ずっと自分を笑顔で見つめる彼に、は再び混乱しながら、彼の前に座った。


「粗茶ですが、どうぞ」
「・・・・・・・・・・」


何の返事も返さないルーファウスに、はもしやこれでも安い茶だと言うのではと考える。
人様の家のお茶にケチをつけるほど礼儀知らずな人なのか、それとも偉い人はそういうものなのか。
彼の事をまだよく知らないは、不安な心を押し込めながら、恐る恐るルーファウスを盗み見た。


「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

「・・・ル・・・ルーファウスさん?」
「何だ?」

「何で・・・その・・・見てくるんですか?」


怒っているのだろうかとビクビクしながら見た先には、出迎えた時のように満面の笑みを浮かべるルーファウス。
その視線は、芳しい香りを漂わせる紅茶ではなく、まっすぐにへと向けられていた。

あまりの視線に、は戸惑い、同時に何故か頬が熱くなっていく。
どうしてか、心臓まで徐々に音を大きくしていって、ルーファウスから視線を逸らしたいのに、そうしたくないと思う自分がいた。


「今日は、随分可愛らしいると思ってな・・・」


か、からかわれてる?
子ども扱いされてる?
か、可愛・・・可愛らしいって・・・可愛らしいって・・・かわ・・・


「な、何言い出すんですかいきなり!!」
「・・・本当の事だが・・・どうした?」


どうしたもこうしたも、自身何故自分が大声を出しているのかわからなかった。
彼女にとって、その類の言葉を言われるのは、珍しい事ではない。
学校でそう噂されているのを聞く事もあるし、面と向かって言われた事だってある。
ザックスやジェネシス、アンジール達も言うし、他の両親の知り合いにだって、同じ言葉を言われたりする。

なのに何故、ルーファウスに言われただけで自分は取り乱しているのか。
他の人に言われるより、妙に嬉しく感じるのは、それを素直に出せないのは何故か。

一気に熱くなった頬をどうしたらよいのかも分からず、微かに目を丸くしたルーファウスを前に、は言葉を見つけられずにいる。
沈黙が妙に長く感じ、時計の針より早く動く心臓は、体の外に出てしまいそうな気さえした。


「ただいま」


帰宅を知らせる母の声に、は勢いよく上げた。
再びルーファウスが驚いた事にも気づかず、廊下の先にある玄関で、買い物袋を持っている母と目が合う。


、ルーファウスは?」
「こ、ここにいる!」


大きな声で答える娘に、も目を丸くした。
首を傾げつつも、すぐに平常の顔に戻った彼女は、まっすぐリビングへと向かって来る。


「邪魔をしている」
「ええ・・・せっかく来てくださったのに、留守ですみません」

「気にするな。が楽しませてくれた」
「そう言ってもらえると、助かります。ところで・・・」


楽しい?

ルーファウスの言葉に、はよく意味がわからず首をかしげる。
言葉を途切れさせた母の視線は、彼女の顔にじっと注がれ、どうしたのかと考えているとルーファウスが肩を震わせ始めた。


「・・・ルーファウスさん?」
「ククク・・・すまない、本当に・・・可愛らしくてな・・・」
・・・」

「お母さん、何なの?」
「・・・口に、クリームがついている」


母の言葉に、は真っ白になった頭で、恐る恐る自分の唇に触れる。
少しベタつくグロスの上を、指でゆっくりとなぞると、下唇の右から白い塊りが取れた。

それは、先程つまみ食いしたケーキのクリーム。
指先についた白い生クリームを、呆然と眺めるに、はティッシュを差し出す。
受け取らない彼女に、は指についたクリームを丁寧に拭った。


「残念だ。本当に可愛らしかったのに・・・」
「ルーファウス・・・」
「ルーファウスさん、気づいてたんですか・・・?」

「当然だ。出来れば、私が取ってやりたかったのだが・・・」


困ったように、そして楽しそうに笑っているルーファウスに、は大きく溜息をついて台所に向かう。
涙目になっているに、彼は一度を見ると、こちらを見ていない事を確認して立ち上がる。

腰を屈め、手を伸ばした彼は、の唇に触れると、端に残ったクリームを拭う。
その間も、どんどん眉を寄せて鼻を鳴らすは、その瞳から一筋の雫を零すと同時に、ルーファウスの手を払った。


「何で言ってくれなかったんですか」
「君があまりに可愛らしかったからだ」

「マヌケなだけじゃないですか!全然可愛くない!!」
「そんな事は無い。、君は、君が思っている以上に魅力的だ」

「嬉しくないもん!もう大っ嫌い!ルーファウスさんの馬鹿!!性格破綻者ーーーー!!」


うわぁあああんと泣き声を上げながら、は自分の部屋に走っていってしまった。
娘の声に顔を出したは、乱暴に閉められた扉を眺め、リビングで肩を竦めたルーファウスを呆れた顔で見る。


「ルーファウス・・・」
「わかっている。私がやりすぎた」

「セフィロスには、黙っておいて上げますよ。私はね」
「・・・嫌われてしまったな」


心底残念そうな顔でソファに腰を下ろしたルーファウスに、はちらりとの部屋の方を見る。


「本当にそうでしょうかね・・・」


いつも大人しいがあれだけ感情を出すのだ。
ルーファウスが言う『嫌われた』というのとは、どうも違う気がすると、母の勘が言っていた。
とはいえ、こんな平和な問題に、親だからといって首を突っ込む気は更々無い。
なるようになるだろうと考えながら、は買って来たケーキを手にリビングへ向かい、同時にツマミ食いした男衆へのお仕置きを考えていた。










気がつけば、ルーファウス夢(笑)
いえ、最初からその予定でしたけどね、うん。
まぁ、先が続くかどうか、常にわからんシリーズなので・・・先は期待しないでおくれやす(笑)
2008.07.10 Rika
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