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Illusion sand  番外編もしもシリーズ
 Family Fantasy 3





「・・・無い」


自由時間を終え、ホテルに戻ったは、鞄の中を漁って顔を青くした。
財布やペンケースをベッドの上に広げ、一つ一つを確かめてみるが、やはり目当てのものは何処にもない。
一体何処にやってしまったのだと頭を抱えながら、深い溜息をついた彼女は、散らかしたものを鞄に戻しながら大きく溜息をついた。


見学を終え、自由行動となったは、レポートでも仕上げて時間を潰そうと考えていた。
グループになって散り始める同級生を横目に、一人で行動し始めた彼女だったが、そんな彼女に女子の数名が声をかける。
面倒事だろうかと一瞬考えたものの、呼び止める声には敵意も含みもなく、彼女は普通に振り向いた。
そこにいたのは・・・


ちゃん、さっきのスチール缶だったよね!』
『凄い握力!ねぇ、ちょっと私と比べてみない!?』
『これから一人で行動するの?よかったら一緒に歩こう?』


という、嬉しいのかそうでないのか微妙な事を言ってくれる、武術系の運動部に属するガタイの良い女子生徒だった。
キラキラと目を輝かせて身を乗り出す彼女達に、一歩引いてしまっただが、恐れより喜びの方が上だった。
何せ、ここ数年、女子のグループから一緒に行動しようなどと言われた事が無かったのだ。
理由はどうあれ、嬉しくないはずが無い。

二の句も無く了承したは、彼女達と一緒に、年相応の女子のようにキャピキャピ言いながら自由時間を過ごした。
いつも一人で歩く道は、誰かが一緒なだけで宙に浮きそうなほど楽しくなる。
武器屋を巡り、雑貨屋であれこれと目移りし、服屋の前で一緒に溜息をつき、道具屋でアイテムを買い、マテリア屋に寄った後、見つけた可愛い喫茶店で甘い物を食べる。

半分は普通の女子らしからぬ場所だったが、それでもは楽しくて仕方がなかった。
武器屋等は、偶に両親やその友人と行くことがあるので、さほど抵抗は無い。
一緒に歩く彼女達も、普段からそれらの店には出入りしているらしく、飾ってあるバスターソードを楽しそうに眺めていた。
そんな女子高生の集団を、少し引き気味に見ていた店員や他の客の視線など、彼女達は全く気付いていなかった。

楽しい時間はあっという間に過ぎ、集合時間になって宿に着くと、皆それぞれの部屋に戻って行った。
部屋割りの時、何処でも良いと言ったは、幸か不幸か、あぶれた一人部屋になっている。
同室の人に気を使わなくて良いという利点はあったが、大事な物をなくした事に気づいた今、それは大問題となっていた。


「何で・・・何処かに落としたかな・・・あぁ、いっぱい歩いたから何処かわかんない!!」


叫んで頭を抱えたは、棚の上に出したレポート用紙とパンフレットを掴むと、投げやりに鞄の中に突っ込んだ。
物に八つ当たりしても仕方ない事は分っているが、そうでもしなければやってられない。
提出は4日後だが、元になる資料が無くては、きちんとしたものは書けないだろう。

彼女が無くした物。
それは、今回の見学旅行で受けた説明を書きとめた、メモ帳だったのである。

見学したのは新神羅本社だ。
内容によっては、両親やその友人達に聞けば何とかなるだろうが、そうもいかない部分もあるだろう。
何せ彼らは皆神羅戦争の真っ只中。中枢にいたメンバーだ。
ウッカリ漏らした裏事情を、レポートに書いてしまっては、大変な事になる。
何より、せっかく書いたものを無くしてしまったという事がショックだ。

レポートを白紙で出してしまおうかと、投げやりに考えながら、はベッドに寝転がった。
部屋に入りはしたものの、就寝時間までは3時間程の時間がある。
しかも、夕食は自由時間のうちに各自取る予定だったらしく、その事を失念していたは空腹状態だった。

道理で自由時間一緒にいた女子達が、最後の喫茶店でモリモリ食べていたわけだ。
ただのオヤツだと思っていたは、小さいチョコパフェしか食べておらず、消化を終えたお腹が切なく鳴いている。
残念ながら、ホテルから出る事は許されていないので、買いに行く事は出来ない。
結構上のランクのホテルらしく、売店だってありはしない。
レストランはあったが、何だか学生一人では入る場所ではなかったし、多分値段も相応のものだろう。

明日の朝まで、この空腹と仲良くしなければならない事に、は少し泣きたくなってきた。
どうしようもない事なのだとは分っているが、せめてもっと予定を確認しておくべきだった。
切ないお腹と心に、早々に寝てしまおうと考えただったが、チョコボDEサンバを鳴らし始めた携帯に手を伸ばした。
ディスプレイを見れば、が知らない番号で、彼女は首をかしげながら通話ボタンを押す。

前にも何度かこういう事があったが、それは大体間違い電話か、知らない男子からの電話だ。
今回は後者の確率が大きいだろうと考えただったが、電話の向こうから聞こえてきたのは全く予想外の人物の声だった。


「もしもし」
か?私だ。ルーファウスだ』

「・・・・・・えぇ?!」
『そんなに驚くな。今平気か?』

「あ、はい。どうかしたんですか?」
『実は、少し時間が出来てな。今はまだ自由時間だろう。下まで来れるか?』

「え!?いいですけど・・・下ってロビーって事ですよね?」
『ああ。待っている』


ちょっと待って、何でいるの!?

そう言おうとしたの言葉を遮るように、電話はブツリと切れてしまう。
数秒の間、呆然と携帯を見ていただったが、ハッと我に返ると慌てて財布と部屋の鍵を手に取る。
バタバタとドアの前に行くものの、壁にあった鏡に映った、ボサボサ髪の自分に、彼女は驚いてベッドへ戻った。
鞄の中から櫛を出して、髪を梳きながら服に汚れが無いか確かめる。
ポーチから出てきたリップクリームで唇をなぞり、手鏡でおかしな部分が無いか確かめると、今度こそ彼女は部屋を出た。

「わっ」
「あ、ごめん!」

「あ、ちゃん、どっか行くの!?」
「ちょっと下まで!」

「あ、じゃぁ、俺も一緒に・・・」
「悪いけど大事な人に会うから、ゴメン!急いでるの。じゃぁね!」


扉の前にいた男子生徒に、は早口で答えると、足早にエレベーターに向かう。
『大事な人』という言葉に、言われた生徒は勿論、廊下にいた生徒も呆然とし、驚きの表情へ変わった。

そんな事など全く気付いていないは、丁度良く降りてきたエレベーターに乗り込む。
1階に着くと、見回りをしている教員や、面会をしている生徒達がいた。
その中を抜け、ルーファウスの姿を探したは、すぐにソファに腰掛けた彼を見つける。
人払いでもしたかのように、その周りには誰もいなかったが、彼の立場と知名度を考えれば当然だろう。


「ルーファウスさん」
・・・思ったより早かったな」

「急いで来ましたから」
「・・・そんなに私に会いたかったか?」

「んな!?違います!待たせたら悪いと思ったから、それだけです!」
「冗談だ。・・・そうムキになるな」


声を上げたに、周りの視線が集まり、彼女は慌てて口を押さえる。
恥かしさに頬を赤くするに、ルーファウス少し目を丸くすると、クスクスと笑い出した。
じとりと見上げる彼女がおかしくて、彼は声を上げて笑いそうになったが、咳払いをしてそれを抑える。
スーツのポケットに手を入れた彼は、そこからオレンジ色の水玉模様が表紙の小さなメモ帳を出す。


「あ・・・」
「今日、君がいなくなった後、床に落ちていた」

「ありがとうございます!よかった、どうしようと思っ・・・」



グ〜キュルキュルキュルグゴゴゴゴゴゴゴキュルッキュ〜・・・・


「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」
「・・・せっかくの再会だ。、よければ夕食に招待させてくれないか?」

「・・・ご一緒させていただきます」


盛大に鳴り響いた腹の音に、は顔を真っ赤にしながら石のように固まる。
一瞬何の音か理解出来なかったルーファウスだったが、彼女の様子にすぐその正体がわかった。
耳まで赤くなって涙目になった彼女に、笑っていいのか呆れてよいのか迷うものの、相手は思春期の女の子。
ルーファウスはやんわりと紳士的な笑みを浮かべると、俯くを連れて最上階のレストランへ向かった。




「せ、制服で入っていいんですか此処・・・」
「気にしなくて良い」


エレベーターが最上階に着いた瞬間、は空腹と羞恥に負けて食事をOKした事を後悔した。
35階のレストランは、大きな窓にジュノンの夜景が広がり、静かで落ち着いた雰囲気に満ちている。
席に着く人も綺麗な服装、綺麗な化粧、綺麗な仕草で食事をして、大凡一般人・・・そして中高生が入る場所とは思えない。

金持ちの大人が食事を楽しむ場所。という感じだ。
引き返したくなるのは山々だが、せっかくルーファウスが気を使ってくれたのだから、そんな事は出来ない。

ビビって引け越しになっているに、ルーファウスは噴出しそうになるのを堪えると、少し後ろを歩く彼女の手を引く。
足がもつれたの腰を掴み、ぐっと自分の方に引き寄せたルーファウスは、悲鳴を押し殺した彼女に意地の悪い笑みを向けた。


「堂々としていろ。ビクビクしていると、逆に浮いてしまうぞ」
「・・・わかりましたよ」


こんな所で騒ぐ事など出来ず、は悔しさに口を尖らせて小さな抵抗をする。
少しむくれる彼女に、ルーファウスはニヤリと笑うと、その腰に手を回して席に座らせた。


「初めてとジュノンへ来た時も、此処で食事をした」


デザートのアイスが運ばれてきた頃、ルーファウスは懐かしむように言葉を漏らした。
ワイングラスに映る夜景を眺めていた彼は、不思議そうな顔をするに小さく笑みを浮かべると、彼女のグラスにオレンジジュースを注ぐ。


「その時は、私の父も一緒だった。
 勿論、セフィロスもな。彼女が保護されてから、1月も経たない頃だった」
「お母さんは、砂漠で遭難したんですよね?」

「そうだ。セフィロスとザックスが見つけ、私とはコスタ・デル・ソルで初めて会った」
「いきなりナンパしてきたって言ってました」

「初めて会った日の彼女も、今と変わらず美しかった。だから、傍に置いても暫くは飽きないだろうと考えていた。だがは、私の予想を遥かに越える女性だった。」
「・・・ルーファウスさん、もしかして・・・・本当はまだお母さんの事・・・好き?」


穏やかな笑みを浮かべて言うルーファウスに、は両親の顔を思い浮かべながら、恐る恐る聞いてみる。
不安そうに言う彼女に、彼は目を丸くし、次の瞬間クスクスと笑い出した。


「好きか嫌いかで言うなら、私は間違いなく彼女を好いているだろう」
「だ、ダメ!」

「わかっている。私の好きは、君が思っている好きとは違う。
 確かに最初は女とし欲しいと思ったが、すぐに、部下としてのそれに変わったよ。
 そして、いつからか友として彼女を欲するようになり・・・・私は、彼女を恐れるようになった」
「・・・どうして?」

「彼女は・・・人を変える」


不安そうな顔をしたり、不思議そうな顔をしたり、怒ったような顔をしたり。
ころころと忙しく表情を変えるに、ルーファウスは笑みを浮かべたままグラスの中のワインを飲み干した。
彼女の皿の中のアイスが大分溶けているのだが、本人は気付いていないようだ。
意地が悪いとは思いつつも、昔のような軽い悪戯心で、ルーファウスは黙っておく事にした。


「正直に言おうか。
 昔の私は、今のように万人の為の政治を考える人間ではなかった。
 人の心にある恐怖。それを使った統治。それをする事しか考えていなかった。
 だから、と共にいる事で、そんな自分が変わってしまう事を恐れた」
「・・・・・・・」

「結局それも無駄に終わり、今の通りだ。だが今は、それも悪くないと思っている」
「そうなんですか・・・」

「ああ。その結果が、今のこの世界だ。多くの犠牲の上にある、まだ仮初の平和だが、昔よりは大分良い。私はそれを、後悔してはいない」
「上に立つ者だから、後悔しちゃいけない・・・?」

「それもあるな」
「・・・でも、神羅の社長としてはダメでも、一人の人としてなら、ちょっとぐらいは許されるんじゃないんですか?
 全部が全部納得できる過去なんて無いんじゃないかと・・・・あの・・・14の小娘の戯言です・・・」


の言葉に、ルーファウスはいつの間にか呆けた顔になっていた。
そんな彼に、彼女は失言だったかと慌てて口を閉ざす。
だが、不機嫌になってしまうかと恐れる彼女とは裏腹に、ルーファウスは再びその顔に笑みを浮かべた。

「やはり君は、の娘だな」
「・・・?そう・・・ですねぇ」

「その天然さも、自覚が無い所も、にそっくりだ」
「それ、お父さんにも言われますけど、私そんなに天然じゃありませんよ」

「そんな事は無い」
「あります!少なくとも、お母さんよりは常識人だと思ってます!」

「・・・どうだろうな・・・」
「んな!?失礼ですよそれ!」

「そうか?ところで、先ほどからアイスが溶けているが、良いのか?」
「え?あぁ!」


ルーファウスにしてみれば、も、どっちもどっちだった。
実の娘にまで変わっていると思われるが、哀れというか、流石と言うか・・・。

半分程液状になってしまったアイスに、は慌ててスプーンを入れる。
残念そうな顔で食べる彼女を、ルーファウスは楽しそうに、しかし少し意地の悪い笑顔で見つめていた。



















「ごちそうさまでした」


部屋の前で、ペコリと頭を下げたに、ルーファウスは目を細めながら手を伸ばす。
が、その頭を撫でようとした手は、昼間言われた『子ども扱いしないで』という言葉を思い出して少し彷徨った。
結局、彼の手は無難なところで彼女の肩へ下りる。

母親とは違う、筋肉が殆どついていないの肩は、握れば簡単に折れてしまいそうだった。
その事に、僅かに戸惑ったルーファウスだが、それを表に出す事無く、彼は数度彼女の肩を軽く叩いて手を離す。


「またジュノンに来る事があったら、連絡するといい。時間を空けよう」
「そんな、悪いですよ」

「私がそうしたい。君が嫌なら、やめておくが・・・」
「そんな事ありません!あ、うーんと・・・じゃぁ、ルーファウスさんさえよければ、またお願いします」

「ああ。楽しみにしている」
「ところで・・・何か、ルーファウスさん、台詞が口説いてるみたいですよ」


本当に、よくぞ普通の子に育った。
そんな妙な嬉しさに、ルーファウスはつい頬を緩めながら、にメールアドレスを書いたメモを渡す。
それを大事そうに受け取った彼女は、ルーファウスの顔をじっと見つめると、意地悪された仕返しのように、悪戯っぽく言ってみせた。
口説く、という言葉に、彼は一瞬固まって自分の言葉を思い出し、納得したように彼女の頭に手を乗せる。


「・・・・そうだな。そうかもしれない。だが、14歳は流石に犯罪だろう。心配しなくとも、下心はない」
「わかってますよー。それじゃぁ、おやすみなさい」

「ああ。おやすみ」


暗に、お前は子供だと言うルーファウスに、は納得と安心をする。
この事ばかりは、子ども扱いされていて当然なので、機嫌を損ねはしなかった。


ルーファウスと別れ、部屋に入ると、はベッドに倒れこむ。
ポケットから落ちた携帯を、思い出したように開いてみると、父と母からメールが1件づつ。
そして自宅からも1件の不在着信が入っていた。


差出人:お母さん
件 名:無題
本 文:ルーフアウス カラ ワスレモノ レンラク アリ。
 ノ バンゴウ オシエタ。
チヤント オレイ イウヨウニ。シツレイ ナイ ヨウニ。
ヨク ヤスメ。


暗号か。

母が携帯のメールを不得意としているのは、も慣れているのだが、せめて「ァ」とか「ャ」ぐらい打てればよいのにと思う。
しかも、何故今日は全てカタカナなのだろうか。
妙なボタンでも押したのかもしれないが・・・何故父に打ってもらおうとしなかったのか。

何時になったら漢字変換を覚えるのだろうと思いながら、は父からのメールを開いた。





差出人:お父さん
件 名:不在着信について
本 文:ヤズーが、お前と電話しなければ寝ないと言って聞かない。
遅くならないうちに、一度家に電話するように。
だだし、8時を過ぎるようなら、無理矢理寝かせる。

それと、がジュノンクッキーが食べたいようなので、帰りに買ってきなさい。プレーン味だ。


無理矢理という事は、スリプルで強制睡眠か・・・。
というか、最後の文章が何と言うか・・・・・・仲がよろしい事で・・・。

自分だってよくジュノンに出張しているのだから、買ってくればよいだろう。
そうぶつぶつ文句を言っているは、セフィロスがジュノンに来る度土産のクッキーを買って帰っている事を知らない。


既に8時半を指している時計に、は電話は不要だと考えながら、父にメールを打つ。
面倒なので、母への返信であるルーファウスとの事も書き添えると、はベッドから起きて風呂に入る準備を始めた。












ミッドガル7番街セフィロス宅。
台所で洗物の手伝いをしていたセフィロスは、携帯に届いた娘からのメールに、数秒固まる。
隣で皿を拭いているは、それをちらりと見つつも、仕事用の着信音でなかったため気にせず手を動かしていた。


「・・・
「はい」

「ルーファウスに、の番号を教えたのか?」
「ええ。落し物をしたそうですよ。急いで必要なものらしかったので」

「・・・・・・・」
「セフィロス?」


敏感になる自分が親馬鹿なのだろうか。
そうだ。間違いない。

相手は妻の親友であり、立場とするならザックスやアンジール達と同じだ。
自分だって知っている相手。共に神羅戦争を超えた仲。問題などあるはずがないのだ。


「どうかなさいましたか?お体の調子でも・・・?」
「いや、何でもない。気のせいだ」


様子がおかしいセフィロスに、は手を止めて顔を覗き込む。
その顔に瓜二つの娘を思い浮かべ、心配で落ち着かなくなる自分を隠すように、彼はの言葉をはぐらかした。

多少性格に問題があるとはいえ、ルーファウスは立場ある人間だ。過去の権力者達と違い、良識も常識もちゃんと持っている。
友人の娘相手に、馬鹿な気を起すなど、万に一つも無いだろう。
そう分っていても、安心できない自分は、過保護すぎるのだろうか。


悶々としながら、再び洗い物を始めたセフィロスに、は気にしないフリをして手を動かす。
落ち着きが無い雰囲気の彼と、直前の会話で、彼女も何となくだが理由が想像出来る。

『大方ルーファウスがに何かしないか心配なのでしょうね・・・』

30を過ぎた彼が、自分の年の半分も生きていない娘に手を出す事など、あるはずがないだろうに。
が嫁に行くようになったら、一体どうなるのか。

遠い未来に思いを馳せ、出来上がった想像に、は半ば呆れつつ、密かに笑みを浮かべた。



、何を笑っている?」
「・・・の成長が、楽しみだと思いまして」

「・・・・・」
「そろそろ恋人の一人ぐらい、出来てもいい年でしょう?」

「まだ14だ。早いだろう」
「そんな事は無いでしょう。私が生まれた国・・・貴族であれば、あの子の年の頃には、結婚している者もいましたし」

「・・・14歳でか?」
「家柄というやつです。大概18までには結婚するものでした。14〜5ならば、婚約者選びをする頃です」

「・・・この世界は・・・結婚は16歳以上だ」
「そうですね。・・・どうしましょうか、16歳になった途端、嫁に行くなんて言われたら・・・」

「・・・・・・」
「相手がいれば・・・の話ですけれどね」

「ああ」
「・・・はどんな人に会うのでしょうね」

「・・・まだ早い」
「・・・そうですね」


喋るごとに声が沈んで行くセフィロスに、は噴出したくなるのを抑えて、穏やかな笑みを返す。
これは本当に、が嫁入りする時は大変な事になりそうだ。

この夫に加え、三つ子の弟達。特にヤズーが、一体どれだけぐずる事やら。
楽しそうではあるが、その分手間がかかりそうだ。

出来るなら、暫くは彼氏も結婚相手も見つけないでくれ。
そんな、思春期真っ只中の娘に対して、あんまりなお願いを心の中で呟きつつ、は少し落ち込んでいる過保護な夫を、どうやって元気付けようか考え始めた。









2008.03.07 Rika
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