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Illusion sand  番外編もしもシリーズ
 Family Fantasy 2



みなさん今日は。です。
ええ、お気持ちはお察しします。
私も、また皆さんにお会いできるなんて、夢にも思っていませんでした。
続きが出るなんて、本当に予想外です。

さて、前回は私の家族を紹介しましたが、今回は私の一日を皆様に御一緒していただきます。
と言っても、今日は普通の学校生活ではなくて、社会科見学なのですけれど・・・。
という事で、私は今ジュノンにある新神羅本社に来ております!!


「此処が、第一動力開発実験室です。今は機械の試運転等に使われていますが、神羅戦争の時は新神羅派の人達が鍛錬場として使っていました」


そうですか。それで、この説明は何の役に立つのでしょうか?
実験室と言いながら、今日は何の機械も動いていない空間を見渡し、は適当にメモをとる。
神羅戦争と言った瞬間、一緒に見学しているクラスの数人から視線を向けられたが、そんなものは今更だ。

自分が英雄セフィロスの娘である事など、入学してからすぐに知っただろうに、事あるごとに好機の視線を向けられるのはうんざりする。
わざわざそこで自分がセフィロスの娘である事を言う訳でもあるまいし、一体どんなリアクションを期待しているのか。
毎度毎度、彼らもよく飽きないものである。

良く言えば無邪気。普通に言えば子供。悪く言えば幼稚。

そんな事を考えていると、案の定生徒の誰かが、がセフィロスの娘だと案内員に言う。
英雄の娘を見て、驚いて微笑を向ける係員に、はいつも通りの会釈をする。
の容姿とセフィロスの容姿で結び付くのは、瞳の色ぐらいしかないのだが、それは魔光を浴びた人間なら誰でも持つ色。
母親似の容姿のため、黙っていればバレずに済むのに、また余計な一言を言ってくれたものだ。
余計な興味と、少しの疑いを隠した笑みは、いつ見ても胸がムカムカする。

英雄だろうと鬼神だろうと、新神羅派だった人間も、その子供も大勢いた。
現に、クラスメートの親は、3分の1が新神羅派だったらしいし、担任の先生だって新神羅派として戦っていたのだ。

どんな渾名があったにしろ、どれだけ強かったにしろ、新神羅派として括ってしまえば誰も同じ。
そう考えているには、父の子である事の何が珍しいのか、全く理解できなかった。
時には、父に娘が居ることが珍しいのかと思う事もある。

しかし、何にしろ、親は親、子は子、である。
人それぞれ考え方はあるので、それはそれで仕方ないと、何時ものように考える事にした。

似ていないと言われる前に、母親似だと言えば、案内員は納得したように施設の説明を再開する。
それでも、親から結び付く自分への興味が消えた様子は見えないが・・・。


今、神羅は魔法の力と科学の力を融合させた動力に注目しているらしい。
他にも水力や風力、太陽光等へも力を注いでいるようだが、それらをより効率よく、また少しの力を増幅させるためだそうだ。
確かに、掌に乗る大きさのマテリアには、その小ささからは想像出来ない魔法の力が込められている。
マテリアの仕組みを解明する研究を進めれば、その仕組みを利用した機械もつくれるのではないかという話だ。
昔、魔光の力を使っていた分、その道の科学技術に神羅は長けている。
ただ消費するだけの魔光と違い、マテリアはレベルを上げれば分裂して増えるし、必要なくなれば大地に返せる。


自慢気に言う案内員の話を聞きながら、生徒達は関心したようにメモをとり、も同じようにメモをとった。
が、どうもその計画に小さな穴があるように思えるのは、気のせいだろうか。
質問したところで、此処に居るのは技術者ではなく案内員。
マトモな返事は帰ってこないだろうと考えると、は浮かんだ疑問をメモ帳の後ろに書きとめた。


「皆さんそろそろお腹がすいてくる頃ですね。社員食堂の方へご案内しましょう。そちらで、昼食となります」


案内員に連れられ、生徒達はゾロゾロと実験室を後にする。
昼食が終れば、見学は終了。そのままジュノン市内で自由行動となって、夕方にホテルへ集合だ。


年のわりに冷めた所がある性格のせいか、には親友と呼べる友人はいない。
話をする程度の友人ならば少なくないが、それでも彼女達には相棒のような人がいる。
正直な所、女子の一部には嫌われており、彼女自身それを知っていた。
恐らく、入学した頃男子の告白に呼び出されまくったのが一番の原因なのだが、しかしそれは別にのせいではない。
男を取替え引替えなどした事も無いし、むしろ全て断っているのだが、それはそれでまた妬みの原因になっていた。
一体どうしてほしいのか。女の思考とは全く持って理解できないものである。

しかも、歩き始めた頃から勉強を教え始めた父や母、そしてその友人達のおかげで、は3学年程飛び級しているのだ。
父も小さい頃から頭脳明晰だったらしく、頭脳はそちらの遺伝なのだろう。
そして、母は母で、子供に何を教えたら良いのかよくわからなかったので、手始めに勉強を教えた。
それに悪乗りしたのが、レノやジェネシス達という、両親の友人達。
子供らしい遊びをした記憶はわずかで、それも両親が家を空けなければならないからと、母の教え子のアーサーに預けられた時ぐらいだ。

あの日々は楽しかった。
毎日子供らしく遊べて、本当に楽しかった。


入学当初に頃に比べれば、友と呼べる人は増えたものの、やはり多くの友人というものがにはいない。
そのため、午後から一緒に行動する友人もおらず、予定は空白のままだ。

ジュノンは両親と共に何度か来た事がある町なので、適当に歩けば時間をつぶせるのだろうけれど・・・。



スーツや制服を着た社員がいる食堂は、やはり学食とは雰囲気が違い、何より数倍の広さがあった。
体育館二つ分はありそうな広さの食堂は、カウンターだけでも結構な数があり、席の数は数える気も起きないほどだ。
流石、新神羅本社と言うべきか・・・。
そわそわする生徒達に、社員は微笑ましい視線を向け、時折話しかけたりしている。


「君も社会科見学?」
「・・・はい。神羅学園高等部普通科2年です」

いきなり横にいたスーツの男に話しかけられ、は少し驚きながら答える。
見れば同じようなスーツ姿の男性社員が数名おり、笑顔でを囲んでいた。
その姿は、入学した頃廊下で待ち伏せしていた男子の群れに被る。


母の教え6の1
 集団で話しかけてくる初対面の男には気をつけろ。
父の教え7の2
 馴れ馴れしい人間の笑顔は裏を読め。


お父さん、お母さん・・・・この人たち、少し危険だわ。

しかし、相手は社員であり、無下にする事は出来ない。
早く話を切り上げるべきだろうと考えつつ、は礼儀正しく頭を下げ、少し前に詰めた。


「君、名前は?」
「・・・・と申します」

あれ?ついてくる?

「おお、礼儀正しい。っつーか・・・何か落ち着いてるねー」
「今時の子って皆そうなの?」
「俺達の頃もっと騒いでたけどなぁ」
「いえ、それほどでも・・・」

・・・意外と普通?


ちゃん何か大人っぽいね。幾つ?」
「お前何きいてんだよ」
「高等部の2年だったら、16か17だよね」
「・・・飛び級してるので、14です」

・・・微妙だわ。

「飛び級って、凄くね!?」
「14って若けぇなー」
「じゃぁ彼氏とかいるの?」
「いえ、今のところ・・・」

何なのこの人たち・・・ただの興味?

「うそ!可愛いのに勿体ないねー」
「じゃぁ俺立候補しようかなぁ」
「馬鹿、14だったら犯罪だろ。でも、携帯の番号は欲しいかも」
「・・・・・・・・・・」

「ねぇねぇ、俺達のも教えるから、メアドだけでも教えてよ」
「何処に住んでるの?」
「お姉さんとかいる?」


お父さん、お母さん、やっぱりこの人達、怪しかった!
っていうか、女子の視線が痛い!!女性社員の視線も痛い!!

早く生徒の中に紛れて逃げようと、は列を振り返る。
が、いつの間にか自分の前にいた生徒は列の先の方におり、その後ろを間を仲が良くない女子が並んでいた。

冗談じゃないと思うものの、列には社員が既に並び、前と左右は変な男性社員がふさいでいる。


母の教え4の3
 戦う時は必ず退路を確保しておけ


お母さん、退路絶たれた!!

心の中で悲鳴を上げても、現状が変わるはずもなく、はどうしたら良いかわからず、引き攣った愛想笑いを返す。
誰か一人ぐらい助けに来てくれても良いだろうに、この状態が分っていない社員も生徒も、微笑ましく見ているだけだ。
引率の先生達は数人のため、この広い食堂で生徒達一人一人まで目が行き届くはずがない上、軽く見回しても姿が見えない。
いたとしても、スーツ姿の社員が多い此処では、には見つけられないだろう。

こんな時こそ、誰かがをセフィロスの娘だと言ってくれれば状況は改善するのに。
虫除けスプレーのように、余計な羽虫を撃退してくれる父の名は、こんな時だけの中で偉大になる。

早く食事をしなければ、昼食を食べ損ねる上に集合時間に間に合わなくなる。
生徒は混雑を避ける為に、社員より数十分早く食堂に入ったので、目の前の彼ら程暢気にしていられないのだ。
それを知らない彼らは、黙ってしまったに「どうしたの?」と顔を覗き込んでくるが、悪気は無いだろう彼らに「どうしたじゃねぇよ」とは言えない。

食堂からまばらに出て行く生徒達に、流石のもヤバイと思い、時計を見た。
まだ予定より大分時間はあるが、出て行く生徒と同じ数だけ入ってくる社員を見ると、席の空きを見つける苦労が目に浮かぶ。
此処で時間が無いのでと言って断っても、列に並び直せばまた話しかけられる時間が出来る。
場合によっては一緒に食事する事になるかもしれないと、は人込の中に知っている人を探した。

ある程度話す友人ならば、多少不思議がっても傍にいさせてくれるだろう。
この際、女子の反感覚悟で男子の元だって良い。

正午に近づくにつれ、人が増えてきた食堂。
その入り口近くに、見た事がある赤いコートの男を見つけ、は人の目も忘れて彼を呼んだ。


「ジェネシスお兄ちゃん!!」


叫んだ瞬間、目の前に居た彼らも、それまで騒がしかった食堂も、水を打ったように静まり返った。
呼ばれたジェネシスは、一瞬目を丸くして辺りに視線を向けると、男性社員に囲まれて涙目になっているをすぐに見つける。
こちらに走ってくる彼に、は男性社員へ失礼しますと言い、すぐにジェネシスの元へ走る。
食事をする場所で走るものではないと頭の隅で考えるものの、窮地に追いやられていた彼女は、感動の再会のようにジェネシスの胸に飛び込んだ。
周りの驚く顔など、は勿論、ジェネシスだって眼中に無い。


!」
「会いたかった!!」


ぎゅっと抱きつくに、ジェネシスも彼女の小さな体を優しく抱きしめる。
さらさらの黒髪を指先に絡め、撫でるように優しく梳けば、彼の背中を包みきれない手がギュッとコートを掴んだ。
から香る石鹸の香りに、ジェネシスは目を細めながら、艶やかな髪にそっと口付ける。
まるで長い間離れ離れになっていた恋人の再会のように、二人は暫く互いの感触を確かめ合っていた。

が、の記憶が正しければ、彼はつい昨日の夕方、家に遊びに来たので会っている。
の反応はさておき、ジェネシスのこの反応は、大概いつもの事だった。
別にジェネシスはを溺愛している訳でも、恋愛感情を抱いているわけでもない。
単にロマンチストで、軽くナルシストで、こういう劇的な場面に酔いやすいだけだ。

昨日家で会った時も、こんな抱擁など一切無く、ごく普通に挨拶をしていた。


「お前ら・・・何してるんだ・・・?」
「これセフィロスに報告した方がいいのか・・・?」
「アンジールお兄さん、ザックスお兄ちゃんも・・・」
「二人とも、せっかくの再会を邪魔しないでくれないか?」


呆れた声に顔を上げたは、少し離れた場所にいるアンジールとザックスに目を丸くした。
同時に、の視界にようやく周りの人たちが入り、集められる視線に彼女は固まる。
当然の事ながら、皆驚いた顔で熱い抱擁をする自分達を見ており、その視線だけで彼らが自分とジェネシスをどんな風に見ているのか、簡単に想像がついた。


「ご、ごめんね!」
「気にしなくていいさ」


我に返り、真っ赤になって離れたに、ジェネシスはクスリと笑みを零す。
俯く彼女の肩を抱き、ポケットから携帯を出した彼は、彼女の顔にぐっと自分の顔を近づけてシャッターボタンを押した。
その瞬間、食堂内に鼓膜が破れそうな、女性社員の悲鳴が轟く。


「ジェネシスお兄ちゃん・・・それ・・・」
「大丈夫。セフィロスには送らないよ」


ニッコリ笑ったジェネシスは、今取った写真を待ち受けに設定すると、先程までを囲んでいた男性社員達に目を向ける。
鳩が豆鉄砲を食らったと言うには、余りにも間が抜けた顔をする彼らに、ジェネシスは噴出しそうになるのを堪えて穏やかな笑みを浮かべた。


「・・・君達は?」
「え!?あ、いや・・・」
「俺達は・・・ちょっと世間話をしただけで・・・」
「何でもないんで、お気になさらず!」

「そう」


涙目になっていたの様子を考えると、本当にただの世間話だけだったのかと思ったが、こんな場所で騒動を起す気も無い。
自分で聞いておきながら、素っ気無く返したジェネシスは、彼女の肩を抱いたまま彼らに背を向けた。
彼らをじっと見ていたアンジールは、自分の方を見たに頬を緩めつつ、ジェネシスの手をどかせる。


、昼はまだなのか?」
「うん。並んでたんだけど・・・いつの間にか外れちゃって」

「わかった。ザックス、と席をとっておけ。お前らの分は、俺達がもって行く」
「そんな、悪いよ」
、こういうときは甘えていいんだよ。行くぞ」


苦笑いするザックスに手を引かれ、はアンジール達と別れた。
旧神羅において無類の人気を誇っていたソルジャー1st。神羅戦争では5大英雄と呼ばれた彼らと懇意なに、社員達の視線は否応無しに集まる。
 因みに、5大英雄とは勿論セフィロス、アンジール、ジェネシス、ザックス、そして新神羅を掲げて彼らの頭となったルーファウスである。
近くに空いた席を見つけたザックスは、すぐにイスを引いてを座らせ、自分も隣に腰掛ける。

先程ジェネシスに抱きついてしまったせいか、ジェネシスファンクラブに入っている女子からの視線が痛い。
それに加え、ザックスファンクラブの会員の子の視線。アンジールファンクラブの子の、控え目な視線。
社員達の好機の眼差し。

もうすぐ2人目の子供が生まれると嬉しそうに語るザックスの話を聞きながら、はいつか睨み殺される日が来るかもしれないと考えていた。


「あの・・・」
「はい?」


話しかけられ、が顔をあげると、そこには先程の男性社員の一人がいた。
ザックスの方をチラチラと見て、怯えるとまでは行かないが、挙動不審気味の彼は、少し身をかがめるとに視線を合わせる。
まだ何かあるのだろうか?と警戒しつつも、傍にザックスがいる分、少し気持ちが楽になったは、首を傾げて彼の言葉を待った。


ちゃんは・・・ザックスさんとか、ジェネシスさん達とどういう関係なのかなって・・・」


ああ、なるほどね。
彼の言葉に納得しつつも、何故わざわざ他人に自分の人間関係を言わなければならないのだろうと、は内心溜息をつく。
好奇心旺盛なのは分からなくも無いが、それを知って一体どうするというのか。


「私の父が・・・」
はセフィロスの最愛の娘だよ」


父が彼らと友人だ、という程度に留め、それ以上の好奇の視線を避けようとしただったが、その魂胆は二人分の食事を持ってきたジェネシスによって打ち砕かれた。
セフィロスの名を出した上、「最愛」という余計な一言まで付けてくれたおかげで、食堂は一瞬静まり、次の瞬間ワッと騒がしくなる。

またこのパターンか・・・と、頭を抱えたくなったの気持ちなど知らず、ジェネシスは彼女の前に日替わり定食Aを置いた。
その笑顔の輝かしい事・・・。


「話はそれだけか?そろそろ食事を始めたいんだが・・・」
「あ、はい!すみませんでした!」


顔を引き攣らせるに気付いたアンジールが、さっさと行けと言わんばかりに男性社員を追い払う。
改善するどころか悪化した視線に、食べる前から食欲が無くなりそうなは、3人に一応の礼を言うと箸を持った。


、今日は社会科見学か何かか?」
「うん、神羅が開発してる新技術をよく学ぶ為って。でも、機械全然動いてなかった」
「科学部は今日は休みだからね。でも実験中は危険がある。その方が安全だからさ」
「でもさぁ、それはそれで、ちょっと物足りなくないか?」

「この後はどうするんだ?」
「街で自由行動。夕方ホテルに集合なんだけど・・・」
「何か悩み事かい?」
「そういやぁ、何ではさっき一人だったんだ?友達は?」


午後からの事を考えて憂鬱になったに、3人は首をかしげる。
心配するアンジールとジェネシスに、相談しようと口を開きかけただったが、思い出したように言ったザックスの一言で顔を伏せた。
食事中だというのに、つい溜息が漏れ、大当たりしてしまったザックスは勿論、ジェネシスとアンジールも驚いて箸を止める。

深刻な問題ではないにしろ、心配させてしまったとは顔を上げるが、丁度良い機会だと思い3人に相談する事にした。




「女の子ってデリケートだからなぁ・・・」
「その年頃は特にな・・・」
「嫉妬か・・・あまり美しくないね。でも、それはに魅力があるからこその悩みなんじゃないかな。人が空を自由に飛ぶ鳥に憧れるように、欲がある生き物はかならず無いもの強請りを・・・」

「でもさ、別には性格が悪いとかじゃないんだし、無理に自分を変えたりする事なんか無いんじゃないか?」
「ああ。そんなもので出来る友情など、薄っぺらなものだ。心配しなくても、お前を分ってくれる友が、いつか必ず現れる」
「・・・その思いが募り募ってやがて嫉妬や妬みへ変わっていく。そう、それは人に心というものがある以上仕方が無い事なのかもしれない。欲とは人が生きる上で必ず生まれ、そして必要だ。その欲も、見方を変えれば・・・・」

「アンジールの言うとおり。のままでいればいいんだよ。な?」
「自分らしく、堂々していればいい」
「・・・それは美学だ。つまり人の欲もまた美しさ。わかるかい?」

「うん、3人とも、どうもありがとう。・・・すごく為になったよ」


ニッコリ笑う3人に、は半分引き攣った笑みを返しながら礼を言う。
その自分らしく堂々していて妬まれているのに、解決策にならないじゃないかという思いは、胸の中に仕舞っておいた。
彼らにとっては、この14歳という年齢はまだまだ先があると思えるのかもしれない。
だが、現段階で14歳のにとっては、この友達がいないという状況は大問題なのだ。
今すぐ解決したいぐらいの問題なのである。
ジェネシスは、何だかよくわからない言葉を並べて自分に酔っていたので、放っておいた。

とりあえず、彼らに相談してわかった事は、ジェネシスお兄さんは相談相手にはならないという事だけだった。


食事を終えたは、3人と別れて集合場所の玄関前に行く。
ジェネシスが堂々言ってくれたおかげで、黙っていれば通り過ぎていたはずの社員も、英雄セフィロスの娘を好奇の視線で見てくる。

これが溜息をつかずにいられるだろうか。
先程のように、電話番号を聞かれたり、話しかけられて足止めされる事は無いのだが、ヒソヒソと話す声は嫌でも聞こえるのだ。

まるで父が犯罪者のようではないか。

少し早足で廊下を行くと、玄関ホールにある重役用のエレベータが開いた。
中から出てきたのは、白いスーツを着た金髪の男性。

新神羅社長のルーファウスだった。


「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」


彼を見たのは昨日、家でテレビに映っていた顔。
会ったのは、小さい頃、両親に連れられて新神羅の創立記念だか、平和祈念式典で会って以来だ。

自分の顔など覚えていないだろうと思っただったが、ルーファウスは彼女を見てじっと固まっている。
母と間違えられているのだろうかと一瞬考えたが、制服を着ているのでそんな事はないだろう。

おずおずと頭を下げたに、ルーファウスは会釈を返す事もなく、じっと見つめ続ける。
意味がわからず、早く建物から出たほうが良いだろうかと考えていると、ルーファウスがつかつかと近づいてきた。


「・・・か?」
「はい」

「随分大きくなったな」
「・・・はい。ルーファウスさんも、お変わりないようで・・・」

「・・・もう、ルー兄たん・・・とは、呼んでくれないのか?」
「そ、それは小さい頃の話じゃないですか!」


まだ幼く、呂律が回っていなかった頃の呼び方を出され、は真っ赤になって声を上げる。
いきなり大声を出した彼女に、ルーファウスは勿論、周りにいた社員や生徒も目を丸くした。
ハッとして口を押さえたは、恥かしさに俯くが、頭上から聞こえたクスクスという笑い声に、じろりとルーファウスを見上げる。


「ルーファウスさん・・・」
「すまない。つい、な・・・」

「ついじゃありませんよ。恥かしい・・・」
「元気が良いのは悪い事ではない。気にするな」

「私は気にします!」
「ああ。悪かった」


口を尖らせるに頬を緩めるルーファウスは、彼女の頭をポンポンと叩く。
自分を子ども扱いするのは、彼だけではなくザックス達も同じなのだが、何故か妙な意地が生まれてはその手を掴んだ。


「子ども扱いしないで下さい。私もう14歳なんですよ」
「・・・14・・・まだそのぐらいだったのか?いや、しかしもう14歳か・・・子供の成長は早いというが、本当だな」

「だから、子供じゃありませんってば!」
「そうムキになるな。・・・大人気ないぞ、?」

「ぐっ・・・・」


言葉を詰まらせた彼女に、ルーファウスはまたクスクス笑い始め、は悔しさに顔を顰める。
数年ぶりの再会でありながら、まったくそんな空気が無い事を少し不思議に思うものの、今の彼女はルーファウスへの悔しさと対抗心でいっぱいだった。


「そろそろ集合時間だろう。行きなさい。ご両親に、よろしく伝えておいてくれ。近々顔を見に行くとな」
「はーい。ルーファウスさんも、お元気で!」

「ああ。また会おう」


不機嫌さを隠さず、ズンズンと足音が立ちそうな勢いで玄関へ向かう
その姿に、ルーファウスは口元を押さえて笑いを堪えながら、彼女が建物の外に出るのを見送った。
同じ制服姿の生徒達に紛れる彼女に、本当に、随分大きくなったものだと、ルーファウスは最後に会った彼女を思い出す。

ライラとセフィロスに手を引かれ、ピンクのワンピースを着て髪に赤いリボンをつけた小さな女の子。
それがつい数分前までの、ルーファウスの中のだった。
母親によく似た顔で、父親と同じ色の瞳をしていた小さな女の子は、それはそれはしっかりした顔つきだった。
礼儀が行き届いているのは、親があの二人なので納得するにしても、言う事や考えている事まで似ているときた。
この子は将来どんな大人になるのだろうと、期待を通り越して不安を覚えたのだが、どうやらその心配は不要だったようだ。




普通の子に育ってよかった。





心底安心したルーファウスの気など知らず、は生徒達に紛れて集合時間までの時間を潰す。
自販機の前に立つと、何処からともなく出てきた男子が、彼女の手に缶コーヒーを押し付けてきた。
相手は違うが、月に何度かある事なので、はすんなりそれを受け取って礼を言う。

記憶を探り、目の前の男子が先週彼女をフッたばかりだと思い出すと、はポケットの飴玉を彼に押し付けてその場を後にした。
コーヒーを受け取るだけでも危険なのだが、それだけでは貢がせる女。貰うのが当然と思っている高飛車な女と陰口を叩かれるのだ。
その為に、は飴玉を押し付け、話しかけられる前に立ち去る。
素っ気無さ過ぎるのは分っているが、そうでもしなければ、一緒に会話し、午後の予定まで取り付けられる可能性がある。


となると、待っているのは間違いなく面倒事。
たとえ自分が悪くなくとも、こんなパターンで男を取られたと噂された事は何度かあった。
まだ話しかけようとする男子の気配を感じつつ、は気付かないフリをして近くのベンチに腰掛ける。

結局午後の予定は白紙のままだが、ならば何処か適当な喫茶店で今日のレポートを仕上げてしまおうと決めた。
が、自分に向けられる視線が、妙に多い気がして、はふと顔を上げる。

何だろうと周りを見回してみるが、仲良しグループで固まる生徒達に、変わったところは無い。
気のせいだろうかと思いつつ、鞄から今日もらった資料を取り出すだったが、やはり多くの視線を感じる。

今さっき見たグループの面子や、こちらに向けられる視線、話す気配を手繰ると、自分を見ているのはどうやら女子。
それも、ジェネシス、アンジール、ザックスのファンの子達だ。


面倒な事になってきたぞー・・・。


女の妬みは恐ろしい。
それを分っていたはずなのに、人の目がある所で彼らと仲良くしてしまった。
不可抗力だったのだから仕方が無いのだが、そんなものが通じるなら今頃にも沢山の友達が出来ていたことだろう。

別に誰が誰と仲良くしようが、そんなものは本人の勝手なのだが、そんな理屈が通じない事を、はこれまでの人生でよく知っている。
彼女達も、が利用されたり、利用させてくれるような人間で無い事もわかっているのだ。

だから、羨望ではなく妬みになる。



・・・・・・・・・学校やめたいかも。



これからの学校生活を考えると、の中には暗雲が立ちこめる。
たかが友達。されど友達。

学生だろうと社会人だろうと、そこに居続けるには人間関係が第一となるのだ。

此処で負けずに立ち向かえれば、それはそれでカッコイイのかもしれないが・・・自分より3つも年上の人間達が、自分より子供のような事をしている現実は、闘争心も萎える。


・・・これで学校やめるのも馬鹿馬鹿しいかな。


その、闘争心を削がれている事に気付く度、の中にある思いは逃避から呆れに変わった。
どうせあと1年半。飛び級する気で勉強すれば、それより早く卒業できるかもしれない。
卒業すれば、進学や就職でこの面子ともおさらばだ。
睨もうと陰口を叩こうと、結局自身には手を出して来ない事を、彼女はこれまでの学校生活で知っている。


放置、決定。


いつもと同じ結論を出しながら、だから環境が変わらないのではないかと思ったりするが、正直相手にするのも馬鹿馬鹿しい。
あちらはあちらで勝手に盛り上がるなら、こっちはこっちで勝手にやれば良いだけの事。
手を出されたら締め上げる。それだけだ。

両親譲りの面倒くさがりと、環境により培った突飛さで腹を決めると、教師が集合をかける。
念のための見せしめと警告に、は暫く荷物の片付けに時間をかけ、教師に呼ばれるのを待った。

皆の視線が集まる中、名指しで呼ばれたは、荷物を手にゆっくり教員の傍のゴミ箱へ行く。
早く並べと言う教師に、わかりましたと返事をすると、彼女は持っていた缶コーヒーをその場で飲み干し、スチール製のそれを片手で握りつぶした。

呆然とする視線など気付かないフリをして、は缶をグシャグシャと、まるで紙のようにそれを小さくしていく。

父親譲りの馬鹿力。母親譲りの肝っ玉。

それをこんな時に使ってしまうのは、少し両親に申し訳ない気がしたが、コレで男子も女子も暫くは大人しくしてくれるだろう。
少しスッキリして、決められた場所に並んだの表情は、周りで怯える生徒とは対象に、心なしか晴れやかだ。


しかし、彼女は知らなかった。
普通の生活、普通の日常の為にと見せたこの力のせいで、この後自分が破壊神という渾名をつけられる事を・・・。









パラレル娘夢、続編です(笑)
本編70話を書いた後、つい書きたくなって書き始めたのですが、思いのほかサクサク進んでしまいました。
続編が出るかどうかは謎です。気分次第です。
だからこれで終る可能性も多いにある(笑)
ようやくルーファウスを出せたので、まぁ満足でございますよ。
2008.01.13 Rika
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