次話前話小説目次 



集落でWROの兵士に遭遇した翌日、早速セフィロスの電話に残留居住者の調査担当から電話が来た。
若い夫婦二人だけで不自由なく生活していた事について、かなり根掘り葉掘り聞かれているようで、電話を終える頃にはセフィロスは少し疲れた顔になっている。
朝食の片づけを終えたは、2人分の紅茶をいれると、ソファに背を預けて天井を眺めているセフィロスの隣に静かに腰を下ろした。

「セフィロス、お疲れさまでした。随分長く話していましたが、何か問題が?」
「問題はなかった。ただ、魔物専門の討伐屋をしている事と、付近の魔物を狩って肉を調達していたと言ったせいで、しつこく勧誘されただけだ」

「この辺りの魔物は、他の地域より強いらしいですからね」
「奴らにとっては、大空洞の魔物も脅威だ。常駐できる見張りをスカウトできると思ったらしいが……」

「のんびり生活できなくなりそうですからね」
「……そうだな」

多分この星で一番の脅威が目の前にいる……とは口に出さず、セフィロスは紅茶に手を伸ばす。
自分がいれたものとは色も香りも別物な紅茶に、何が違うのだろうと今日も首をひねりながら、雪解けを促す春の雨を眺めた。


Illusion sand ある未来の物語 97



そんな電話を受けて2週間後、再び同じ番号から電話がかかってきた。
フキの板ずりをしていてが塞がっていたセフィロスに代わり電話に出たは、数日後に集落で残留居住者への復興説明会を兼ねた顔合わせがあると言われ、面倒だと思いつつ出席の返事をする。
集落の住民は綺麗に東西南北へ離れて暮らしているため、場所は集落の中央にWROがコンテナの集会場を作ってくれるらしい。
集会後に支援物資も配布されるらしいが、内容は新鮮な食料と消耗雑貨だというので、十分間に合っているからと断った。

元々いた動物や魔物が数と行動範囲を増やしているため、気をつけるようにとの言葉を受け取って電話を切ると、は台所にいるセフィロスのところへ戻る。
沸騰した大鍋にフキを入れたセフィロスは、手に残る塩を軽く洗い流すと、集会の話を聞いてあからさまに面倒くさそうな顔をした。

「仕方がないが、人数が少ないと、関わりが深くなりそうで気が引ける……」
「これまで干渉せず過ごしていますから、適度な距離感は持ってくださると思いますよ。立ち入りは禁止されていましたが、脱出は可能でしたからね。それでも8年この地を離れなかったのですから、うちと同じ、訳アリばかりでしょう」

「……だといいが、おかしな奴がいない事を祈るばかりだ」
「そうですね。普通の人だといいですね」

他の住人がマトモな人間でいてほしいと思っているのはどこも同じだろう。
しかし、こんな土地に残っている時点で全員普通ではない。
まるで自分が普通の一般人かのように言ってため息をつくセフィロスに、は小さく笑いながら塩漬け用の瓶を洗う。

今週は春の山菜採取と保存に費やす予定だったが、集会の予定とその後の彼の疲れ具合を見て、予定を組みなおさなければ。
そう考えながら彼の横顔を見たは、自分の過保護さに気づき、彼に知られないよう苦笑いした。




予定された集会の日。
朝早くに家を出たとセフィロスは、昼食片手に1時間かけて集落へ歩いていくと、指定された集会場を目指して街道を北に進む。
集落の中央は山道の入り口より北に位置しており、WROの小型飛空艇と、話に聞いていたコンテナの建物があったのですぐに分かった。
辺りの民家が潰れて廃墟になっているので、より分かりやすい。
街道へ続く道を綺麗にしてから一月も経っていないのに、ひび割れたアスファルトの間からは早くも新芽が顔を出していた。

石橋を超え、集落の中央を目指して街道を北に歩いていくと、建物の中にいた兵士が気づいて手を振り出てくる。
中にはすでに住民が数人いて、建物の中から珍しそうにこちらを見ていた。


「御足労いただいてありがとうございます。東の別荘地のさんですね。西と南東の家の方々は既にいらしてますよ」
「わかった。……来るのが遅かったか?」

「いえ、まだ開始30分前です。皆さんここからご自宅までは距離があるので、早めにいらしたそうです」
「そうか。それを聞いて安心した」

「ただ……先に来ているご方々なんですが、久しぶりに人と関わるせいで会話が続かないようなんです。何とか、話しかけてあげていただけませんか?」
「……いい年した大人だろう?放っておけ」

「いえ、2人とも成人はしていますが若いんですよ。それぞれ、ご家族と住んでいたそうなんですが、この8年で家族が亡くなられたり、今日は高齢のため留守番されたりしています。家族以外とはずっと会話した事がないまま子ども時代を過ごしてしまったらしくて……」
「残念だが、俺は心を病んで療養している身だ。期待するな」
「ンブフッ!」

「え、奥さん、今の笑うところ?!」
……」
「いえ、失礼。自覚があったのかという驚きと、的を射た言葉に、つい……」


確かに復活直後の面倒くささは、心が病んでいたと言えるのだが、まさかそれをセフィロス自ら口にするとは思ってもみなかった。
今もの命日には不安定になるので、病んでいると言えば病んでいるのだが、兵士に向かって堂々言い放つ姿には心の翳りなど皆無だ。
本当なのに、思いっきり嘘をついているようにも見えて、は声を上げて笑いこそしないが、おかしくて仕方が無かった。


「すみませんね。彼は普段こそ大丈夫ですが、特定の条件になると不安定になるので、期待しすぎないでください」
「その時は、彼女は俺を支える事で手がいっぱいになる。期待には応えられない」
「そうですか……いえ、住人の方同士の交流や人間関係に、我々が口出しをするのもおかしな話でしたから、忘れてください」


夫婦で魔物がいた山奥に住んでいたという点で訳アリと予想していたのだろう。
2人の言葉に、兵士は納得した顔になると、深く追求することなく中へ案内する。
兵士の彼が言っていた通り、待っていたのは20歳ほどの男女だが、不安と気まずさが混じるその顔は、年齢よりも随分と幼く見えた。
しかも、座る位置は向かい合うでもなく、横並びで、間に椅子3つ分という微妙な距離だ。
人付き合いの苦手さを行動で示しているとしか思えない。

無意識だろうが、入ってきたとセフィロスをじっと見つめる姿は、見知らぬ大人を見た子供の態度だ。
笑顔で挨拶をすれば、ぎこちない笑顔を作って返してくれるが、次の言葉が続かないようで口を動かし、すぐに黙ってしまう。

これは他の人間がどうこうするより、専門の相談員を付けた方が良さそうだと考えると、は荷物を置いて窓際に立つ兵士の傍へいった。
2人の住人について小声で問えば、2人とも家族と過ごした家から離れるのを拒んでおり、カウンセラーと面談する予定も立てているという。
ただ、こういう状態の子どもや若者は各地におり、人員が足りない状態らしかった。
一度専門の施設に集めてから対処する計画があったが、当人たちのストレスが大きすぎるので断念したらしい。

残るもう1軒が普通の人間だったらいいな……と淡く期待しながら、は席に戻ると、腕を組んで目を閉じながら待っていたセフィロスに詫びる。
目の前にいる二人に、優しく話しかけることはできるのだが、その後彼らを背負えるかと問われれば否だ。
自分の背中はセフィロス専用と割り切っているは、近く専門家がつく2人を一先ず思考の外へ置くことにした。

今回住人と交流を持つ事になったのは不可抗力。
できれば顔も名前もよく知られていない方が定住できたのだが、こうなってしまっては数年後に住み処を変えなくてはならない。

ルーファウスに作ってもらった戸籍上、今のセフィロスとは30代半ばという事になっている。
外見的には問題ないが、あと10年もすれば外見と戸籍の年齢の差に違和感が出てくるだろう。
引っ越すなら、その頃になるだろうか。

ミディールでルーファウスの仕事を手伝った時、セフィロスとは今後のために専門知識を学ぶ時間をとろうかと話をしていた。
10〜20年先とのんびり考えていたが、良い機会だ。
数年後に勉学のため移住する事を考えても良いかもしれない。

セフィロスが学んでおきたいと言ったのは、建築と、調香と、あとは何だっただろう……。
そんなふうに記憶を探っていると、外が騒がしくなり、案内の兵士が慌てたように出ていく。


聞こえてくる声は賑やかだ。
最後に来た北の1軒は大家族らしいと考えていると、勢いよく扉が開けられて彼らが中に入ってきた。
先頭に家長らしい50代くらいの男、その妻と思しき女性が入ってきたと思ったら、2人に似た顔の男女含む大人が8人、さらに小さい少年少女が6人。
かと思ったら、若い男女はそれぞ背中に幼児や赤ん坊を背負っていて、パッと見では何人か把握できない。
どうりで椅子が多かったわけだと納得したは、目を丸くしているセフィロスの腕を引き、同じく呆けている向かいの席2人も立たせた。

席はコの字に並べられているので、大家族の夫と妻に声をかけると、自分達はその反対側に回る。
端から順に、最初に来たという西の別荘地に住む男、二番目に来た南東の川沿いの家に住む女、その隣にセフィロスとの順で腰掛けた。
反対側から詰めて腰をかけた20人近い家族は、小さい子を抱いてはいるものの席2つ残して椅子をすべて使ってしまう。
2つ空いた椅子の向こうでは、珍しそうにこちらを見る子どもが席を詰めたいと言って、上の兄弟から静かにしなさいと怒られている。

すると、疲れた、眠い、お水が飲みたいという声も聞こえてきて、何やら腕がぶつかった、ぶつかっていないの言い合いまで聞こえ始めた。
庶民の子どもが集まってこれなら、むしろ静かな方だろうと思って気にしないだったが、特殊な環境で育ったセフィロスと、子どものころから8年間外と交流がなかった男女は目を丸くして子どもたちの様子を見ている。

母親や年上の兄弟が注意しているが、興奮している小さな子どもたちには聞こえておらず、奥にいた男の子二人が叩き合いの喧嘩を始めた。
すると、その興奮した声に眠いと言っていた子供が泣きだし、どこからか『おしっこしたい!』の叫びが上がる。
赤ん坊を背負っていた女性の一人が慌てて端にいた子供を連れ出し、別の若い男性2人が喧嘩している子どもを叱り、眠いと泣いていた子どもが椅子から降りて年配の女性の膝によじのぼる。

庶民の子どもが集まるとこんな風になるのかとが物珍しさに眺めていると、家長の男の一喝で子どもたちは静まり返り、その息子らしい青年の指示で席替えが始まった。
最初は好きな順に座ったせいで子ども同士が固まり騒ぎになったようだが、今度は家族単位で座る事になったようだ。
家長とその妻、その隣にいる男女の位置は変わらないが、それ以降はかなり順番が変わり、喧嘩していた子どもも強制的に離されて静かになった。
騒がしさを詫びる家長の男に、ようやくセフィロスも驚きから脱して応えたが、その隣の男女は未だ呆けた様子で頷くのが精一杯のようだ。

トイレに出た母子が戻ってくると、予定時間には少し早いが全員揃ったという事で、兵士が説明を始める。
今後の軍からの支援と、道路の復旧予定、転居の際の支援。
その他諸々が説明書類と共に説明される。
最低限の日用品は支援してくれるが、それ以外にも月に1回だけ買い物の代行もしてくれるらしく、購入依頼できるウェブサイトのバーコードアドレスが印刷されていた。
買い物と聞いて、大家族の女性たちが一瞬だけ喜びの声を上げるが、家長の男は難しい顔だ。
だが、各家庭で作った野菜や加工した肉等があれば軍が買い取ると聞いて表情を柔らかくしたので、恐らく金銭的な懸念があっただけだろう。

医療支援についての説明では、南東に住んでいる女性が真剣な顔で聞き入っていたが、医師の派遣ではなく患者をアイシクルロッジまで飛空艇で連れて行き診察すると聞いて肩を落としている。
大家族の家長の男も、その説明に難しい顔をしたが、すぐに割り切ったようだった。
代わりに、必用な薬品は支給されるし、応急処置の講習も受けられると兵士は言ったが、南東の女の反応は芳しくない。

そのほかにも住宅の補修や学習への支援など、今いる住人が必要な支援について説明がされると、他は都度ウェブサイトで確認するよう言われる。
今後も特に助けが必用なさそうだったとセフィロスは、少しだけ暇で眠くなったが、真剣に話を聞いている他の住人の手前真面目な顔を保っておいた。

支援についての説明が終わると、治安のために住人の顔と名前を記憶した方がよいという話が兵士からされ、それぞれ自己紹介するよう求められる。
大家族はワクワクした顔をしているが、達含む3家族は目の前の10人以上いる人間を一気に覚えられるのかと微妙な顔だ。
兵士もそれを理解しているようで、紙に粘着テープをつけた簡単な名札を慌てて用意していた。

「すみません、ゲイリーさんご一家は沢山いますから、名札をつけてください」
「待って待って、それガムテープでしょ」
「そんなの着けたら剥がすときに服が破れちゃうわ。このオシャレ服9年ものなんだから」
「セロハンテープないの?ないなら手に持ってるからそのままちょうだい」

遠慮の無い女性たちの言葉に、兵士は慌ててガムテープがついた紙を捨てると、適当な大きさの紙とペン、それとセロハンテープをテーブルの上にまわす。
1家族だけ名札をつけるのは……と、達にも名札用の紙が渡されたので、2人はそれぞれ名前を書いて左胸に張り付ける。
子どもたちは自分の名前を書ける子、書けない子とばらばらで、手がまわっていない親に代わって兵士が手伝ってあげていた。


「……あの、すみません、文字を確認してもらえませんか?」
「え、え?!あの……はい。えっと……あれ?……すみません、わからないかも……あの、代わりにお願いしていいですか?」


西と南東の男女が話し合っていると思ったら急に話しかけられて、セフィロスはちらりと視線を向ける。
座っているとはいえ、背が高い彼のそれは見下ろしているも同じで、男女は睨まれたと思ったか分かりやすくビクリと震えて固まってしまった。

「セフィロス、私が相手ではないのですから、せめて顔を向けて振り向いてあげてください」
「……ああ、悪かった」
「い、いえ……」
「ごめんなさい……」

「……謝罪はしなくて大丈夫ですよ。文字の確認ですね。セフィロス、見てあげてください」
「……クルズーが名前か?」
「いえ、クリスです。僕、出身がウータイで、あっちの文字なら大丈夫なんですが……」
「クリスなら、私、書けます。前に飼ってた鶏が同じ名前だったから。私はリリアンっていいます」

二年前に死んだので食べてしまったが鶏のクリスとは仲良しだったと笑顔で言う女、野生動物以外の肉は5年くらい食べていないと羨ましがる男。
よくわからない盛り上がり方をしている2人の会話はそのままに、とりあえず、リリアヌスになっているリリアンの名札もなおしてやると、セフィロスは念のため自分との名前も確認する。

大家族の赤ん坊以外、全員が名札をつけた事を確認した兵士により、西に住む男クリスから順に自己紹介される事になった。
大勢の視線を一斉に向けられ、青い顔でドモりながら自己紹介をしようとする男は、名前を言うだけで精いっぱいになり、結局兵士に手伝ってもらっていた。
南東に住む女も似たようなもので、家には祖父が同居しているが老齢で体の調子も悪いため今日は欠席していると兵士が言う。
どちらも封鎖直前にこの土地に引っ越してきたらしく、同年代がいる大家族との面識はない。

緊張で真っ赤になっている女が自己紹介を終えて腰を下ろすと、順番が来たセフィロスが立ち上がる。
同時に、大家族の子供達から「でっけえ!」「髪の毛おひめさまみたーい」「すっげー脚なげー!!」という声が上がり、次いで親たちの叱る声が響く。
お姫様みたいと言われ、一瞬自分の髪をちらりと見たセフィロスだったが、苦笑いしていると一瞬目を合わせると、すぐに気を取り直して名乗る。

東の山奥に妻と二人で住んでいる事、仕事は強力な魔物専門の討伐屋をしている事。
仕事を聞いて、男の子たち……どころか、その父親たちまで興奮した顔になったが、セフィロスは気づかないフリをして椅子に腰を下ろす。
次いで自己紹介したも同じ内容で、仕事はセフィロスと同じだというと、今度は女性たちが目を丸くして視線を向けてきた。
の体型は健康的ではあるが、一見して戦いを生業にしている人間のものではないので、その反応は当然だろう。
引っ越してきたのは10年ほど前、引き受ける仕事の内容によっては長期家を空けることもあると付け加えると、も静かに椅子にかけなおした。

次に自己紹介したのは、大家族の家長の男。
集落の北の端で畜産を営んでおり、本来なら彼の父母と祖母も出席するはずだったが、朝に牛が産気づいたので欠席したらしい。
今日の顔合わせに来たのは彼の妻、長男夫婦と子ども4人、次男夫婦と子ども4人、長女夫婦と子ども2人、3男、次女の20人だった。
幼児と赤子を含めているとはいえ、その人数の多さには改めて圧倒される。
家族ではあるが、結婚している子供たちは敷地内に家を建てて別居しているらしい。
それでも、祖母・父母・家長夫婦・3男・次女の7人が一緒に住んでいるのだから大所帯に変わりはない。
名札をつけてもらってはいるが、家長とその妻以外はすぐに覚えるのは無理そうだった。
小さい子供が、他にも家族がいると言って飼っている牛や羊の名前を言い始めたおかげで、さらに混乱したせいもある。
同じように家畜につけた名前、更には持っている縫いぐるみの名前まで教えはじめた子どもたちに、親たちの雷がおちてようやく静かになった。


「子どもたちが元気なのは良い事ですね。えー、本来でしたらここで、住人の皆さんで交流をしてもらうつもりだったんですが、そうすると大変な事になりそうですからね。お家の代表の方だけで、お話していただきましょうか。何か、それぞれ、ご質問などありますか?生活の些細な事でも何でも……」


兵士がそう言った瞬間、西と南東の男女が緊張した顔で押し黙る。
大家族の家長は妻や子供たちと小声で話し合っていたので、もセフィロスと顔を寄せ合って相談する事にした。

「セフィロス、何かありますか?」
「俺はない」

「わかりました。私も特にありません」
「初対面なら、そんなものだろうな」

集められて顔を合わせた以上、今後関わる事はあるだろうが、特に興味が無い相手だ。
今いそいで聞く事はないので、様子を見ていた兵に首を振って何もないと伝えると、大家族の家長が静かに手を上げた。

内容は、西の別荘地で一人暮らししている男へ不便がないのかという確認と、南東の川沿いに住んでいる女に同居しているという祖父の名を問うもの。
また、その体調と生活が大丈夫かという質問だった。
女が一緒に住んでいる祖父は、大家族も知る古くからの住人だったらしく、後で見舞いに行かせてほしいとか何とか会話をしていた。
大家族の家の近くには、まだ住める状態の家があるので、そちらへ引っ越す提案なんかも出ている。
家に帰って相談してほしいとは言っているが、環境を考えるなら多分引っ越すことになるだろうと考えていると、質問がこちらに移ってきた。

長くこの地から出られなかった他の家に比べ、明らかに身ぎれいなセフィロス達へは、心配するような言葉はかけられない。
代わりに、時折山に来ていたヘリがセフィロスの家に来たものかという確認と、これまで仕事でどんな魔物を倒してきたのか聞かれた。

「どんな、と聞かれても、色々だ。低レベルでも特殊個体や異常繁殖になれば強さは段違いになる」
「東の別荘地の奥に住んでるってことは、かなり山の中だろう?その辺りの魔物は問題なく倒せるって考えていいんだよな?封鎖される前に出てきた新種はどうだった?」

「死骸と体液の後始末が面倒だったが、それだけだ」
「……うちは、あの新種に牛3頭と豚2匹、鶏は5羽やられたが、ある時期からぱったり奴らが現れなくなった。山の中でたまに見る事はあったが、奴ら人間を見ると慌てて逃げるようになったんだ。もしかして、それはアンタらが何かやってくれたのか?」

「……家の近くに来た個体を始末していたくらいだが……、何かしたか?」


新種が出たのはいつ頃の季節だっただろうと思い出していたは、セフィロスに問われて記憶を探る。
だが、特に目立った事をした記憶はなく、彼が言うように家の敷地や釣りをする川の近くに出た新種を始末していただけだったので、首を横に振った。


「7〜8年前ですから、記憶は曖昧ですが……見つけ次第始末はしていましたが、家の周りで派手な事はしていないはずですよ」
「……だそうだ。悪いが、こちらに心当たりはない」
「いや、それ十分心当たりになってるだろ……」

野菜についた虫を潰したぐらいの感覚で言うセフィロス達に、大家族どころかWROの兵も呆れた目を向ける。
どう考えてもこの夫婦の行動のおかげで、近隣に生息する新種が人間を脅威と見做したとしか思えない。
相当な変わり者として見てくる一同に、セフィロスは少し考えてから納得したものの、否定も誤魔化しもする事はなかった。


「お宅には大した事じゃなかったかもしれないが、おかげで奴らが人間を恐がって集落に寄り付かなくなってくれたのは、間違いないと思う。うちの家族や動物が無事に生き残れたのは、アンタらのおかげだ。礼を言う。ありがとう」
「あ、ぼ、僕も、あの新種、1回遭遇したんですが、殺されるかと思ったら、逃げられました。そういう事だったんなら、僕からも、ありがとうございました!」
「私、新種は見た事ないんですが、会わなかったのは、そちらのおかげだとおもいます。ありがとうございました」
「……たまたまそうなっただけだ。気にするな」

他に生活している人間がいると思っていなかったセフィロス達には、この状況は全く意図していなかったものだ。
むしろ住人がいたと知っていても、そのような狙いは持たなかったのが想像できるので、セフィロスは特に気にするでもなく感謝の言葉を受け流す。

だがそんなセフィロスの姿は、傍から見ると、かっこよくて、強くて、クール。更に美人な妻までいる完璧ぶり。
目の前に現れた絵にかいたようなヒーローに、大家族の男たちと、西に住む男の目がキラキラと輝く。
羨望と憧れを隠そうともしないその視線に、セフィロスがさりげなく目を合わせないようにしているのに気づいて、は笑いそうになるのをそっと堪えていた。





どこへ行っても目を引く男

2023.12.13
次話前話小説目次