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「見つけたぞ魔女め!」 「馬鹿、いきなり何失礼な事いってんだ!」 「魔女って……いや、でもこいつが言う事だから嘘では……」 「相手は一般人だぞ!穏便に話すって言っただろ」 「そうだ!話が違うぞ!」 買い出しから帰ってきたら、家の前に屯していて騒ぎ出した連中に、は冷めた視線を、彼女と一緒にいた家政婦は怯えた視線を向ける。 先頭でこちらを指さし魔女呼ばわりしてきた顔に、『ああ、こいつか』と納得したは、とりあえず家政婦の肩を抱いて門の中へ入れると、そのまま玄関へ走らせる。 暫く遭遇する事が無かった今代の英雄が現れたのは、ミッドガルの魔物を討伐し、暇になったからだろうか。 もう10年近くセフィロスを追いかけている男の執念に、は本当にそろそろ始末したいと思いながら、玄関のドアが閉まると同時に不審者達を威圧で跪かせた。 Illusion sand ある未来の物語 94 ルーファウスの家の玄関を開け、門の前でこちらに背を向けて立つを見つけたセフィロスは、次いで彼女の脚元に土下座する集団を見つけて一瞬足を止める。 やはりもう解決したのかと思いながら近づいていくと、先頭で頭を下げていた男がゆっくり顔を上げた。 目があい、その瞬間浮かんだ満面の笑みと、思い出したくなかったいつぞやの眼差しに、セフィロスは反射的に顔を顰める。 ずっとが密かに追い払ってくれていたから、お互い正面から向き合うのは最初以来。勿論、セフィロスは全く嬉しくない。 正気が疑わしい今代の英雄をどう諦めさせるか、そもそも話が通じるのかと考えていると、目の前の男はセフィロスを見つめたまま起き上がり、次の瞬間、再びに威圧されてその顔を土気色に変えると地面に口付けていた。 巻き添えを食らったか、その一番近くで跪いている2人も泡を吹いて気を失ったが、静かになったなら良しと判断してセフィロスはの隣に行く。 「、手間をかけた。後は俺がやる」 「おや、もう始末して良いのですか?」 「俺が話をつけるという意味だ」 「通じると良いですが……」 無理では?と視線で言いながら、は不審者達を自由にさせる。 何人か泣いている人間がいたが、件の英雄は顔色が悪いながらもなんとか顔を上げ、再びセフィロスを見ると、その体へ舐めるような視線を向けた。 至近距離で目を見開きながら向けられるその視線に、 セフィロスの鳥肌が止まらない。 英雄の顔面を蹴り上げたいのを堪えているセフィロスを横目に見ながら、はいつでも2人の間に入れるよう立ち位置を直し、見守る姿勢をとる。 体の自由を取り戻した英雄の仲間達が、必死に彼の服を引っ張って止めているが、そうでなければセフィロスに詰め寄っていてもおかしくない雰囲気だった。 「やはり……素晴らしい肉体だ」 「お前が、俺を探しているという奴だな」 「私のアポロン……私は、ずっと貴方を探していた。貴方を初めて見たその日から……」 「アポ……?迷惑だ。今後は俺につきまとうな。それと、人の妻を魔女呼ばわりするな」 「その美しい体を……一度でいい、揉み解させてほしい」 「断る。二度と俺の前に現れるな」 「貴方の美しさを保つ手伝いをさせてほしい。これは世界への貢献そのものだ」 「……帰れ。断る。俺に触れるな。見るな。考えるな。お前たち、こいつを俺に近づけさせるな。出来なければ全員始末する。星ごとだ。分かったら今すぐ連れて帰れ。二度とここには来るな。次に目の前に現れたら皆殺しにしてやる」 短いやり取りで、相手が正気じゃない事と言葉が通じない事を十分理解出来たセフィロスは、自分が若干混乱しているのを自覚しながら、お仲間に英雄を回収させる。 嫌悪感と動揺で、魔力も殺気もダダ漏れてしまったが、今回ばかりは不可抗力だ。 一番前にいてそれらをまともに食らった英雄は白目を剥いて気を失っていたが、何とか無事だったお仲間は死に物狂の顔で彼を担ぐと、他の気を失っているお仲間も背負って逃げ帰っていった。 根が温厚なが事あるごとに始末したがっていた理由が理解できてしまって、彼らの姿が見えなくなると同時にセフィロスは両手で顔を覆う。 追い返すことはできたが、本当にこれで手を引いてくれるとは思えず、下手をすればあの英雄単体でまたやってくるのではという考えまで浮かんだ。 「まあ、少なくとも、1年くらいは周りが抑えてくれるでしょうね」 「たった1年か……?」 ほんの数分に満たないやりとりなのに、ドッと疲れたセフィロスは、の口から出た言葉に驚いて顔を上げる。 彼の背を優しく撫でながら、申し訳なさそうに頷いた彼女は、彼の手を引いて家の敷地内に入る。 「あれは、都合が良い記憶能力を持っていて、嫌な記憶は残さない性質のようなのです」 「なら、今のも……」 「……ええ、恐らく。ですが、お仲間は貴方の『皆殺し』という言葉を本気として受け取って恐れているようでしたからね。振り切られないよう。期待しましょう」 「…………不安だ」 「ええ。それでも、自分で解決しようと出てきてくださったのでしょう?頑張りましたね、セフィロス」 「いつまでも、お前に守られているわけにはいかない。……そもそも、お前の背に隠れて逃げていた今までが、どうかしていた。探されていると知った時点で、俺がどうにかするべき問題だったはずだ」 「……では、どうぞ、貴方が、思うように……。私は、どこまででも、お供しましょう」 「ああ。これまで、お前に背負わせすぎた。、守ってくれていて、感謝する」 自分から出てきただけで進歩と思っていたはずが、思っていた以上に背筋を伸ばして顔を上げた彼の姿に、は少しだけ目を丸くし、次いでその顔に笑みを浮かべる。 今年の命日は今までで3本の指に入るくらい面倒だったが、あれ以来、セフィロスは少し変わったようだ。 いや、昔の、顔を上げ、目の前にあるものから目を逸らさずに進んでいた頃の姿を、取り戻しつつあるのか。 過去へ戻ったように記憶を失い、言えなかった言葉を吐き出したおかげだろうか。 そうだったのなら、あの疲労感も報われる。 多分来年も、再来年も命日前には彼は体調を崩すだろうし、今年のような記憶喪失はまたやるのだろうけれど、それが大きく進む1歩のためと思えば、家を臭くされない限りは広い心で許せる。 玄関を開けると、丁度買い物袋を手に台所へ入ろうとしていたルーファウスと家政婦が、2人に気づいて振り返る。 安堵の表情を浮かべて駆け寄ってくる家政婦をに任せると、セフィロスは微かに口の端を上げて荷物を置いたルーファウスと共にリビングへ移動した。 「首輪をつけるよう言って、追い返した。もしまた来るようなら、俺があちらの組織の頭と直接話をする」 「セフィロス、私は、ドアの向こうから物騒な言葉を聞いた気がしたが……それは聞き違いか?」 「一度は機会をくれてやる。それでも駄目なら、あちらの自業自得だ」 「……一度道を違えたお前にしては、慈悲深いと思うべきなのかもしれないが……多少の時勢は考慮してもらいたい。私から言えるのは、それだけだ」 「いいだろう。奴がまた来るとすれば、恐らくここだ。迷惑料にしておいてやる」 「厄介な事だ……。隠居先の変更を考えたくなってしまった……」 「外見年齢を戻すなら、その方が都合が良い気がするがな」 「この街に来た時も、息子以外の親族に接触しないよう、慎重に選んだ。簡単なようで、難しい事だ」 「……助けが必要になったら言え」 「その言葉、覚えておこう」 変態英雄の騒ぎに巻き込んだ後ろめたさか、それとも、が作った微温湯の生活のせいで思考が寝ぼけきっているのだろうか。 甘々な約束をするセフィロスに、ルーファウスは苦笑いを零しつつ話を終わらせる。 丁度リビングに来たが、今の二人のやり取りを耳にしてセフィロスに生暖かい視線を向けているが、ルーファウス相手なら酷い事にならないと判断して口出しはしなかった。 「ルーファウス、お騒がせしてすみませんでした」 「加害者はあちらだ。私の方からも、これまでの事を含め、向こうの組織に直接抗議しておこう」 「ありがとうございます。そうしていただけると、こちらも助かります」 「セフィロスがいると知られた以上、もう老化させる必用はなさそうだが……神羅へは、老いた姿で紹介している。今後も、あちらへ出向くときはセフィロスを老化させてもらえるだろうか?」 「ええ。私も、あの姿のセフィロスも一味違って好きですから、何の問題もありませんよ」 「本人は体が動きにくそうだが……。セフィロス、構わないか?」 「今更聞くな」 おまけのように聞かれて憮然としたセフィロスは、深いため気をついてソファの上で頬杖をつく。 最近は、体が冷えやすいと言って仕事終わりに近所の温泉に行く事が多かったし、頻度は減っても老化の必要があるのは普通に嫌なのだろう。 「そうそう、市場で聞きましたが、今年は年が明けると同時に、花火を上げるそうですよ。戦勝記念も兼ねて……との事です」 「年が明けるという事は……夜中か?」 「花火を上げるのは、観光地区だろう。こちらの居住区や療養施設がある区画ではそう大きな騒ぎはないはずだ」 「だと良いのですが、既に浮かれている人間も見かけましたから、もしかすると、こちらも騒がしくなるかもしれません」 「さっきの奴らより騒がしい奴は来ない。心配も手出しもいらん」 「……セフィロスが言う通りだ。、お前は何も気にせず、この休暇を過ごすと良い」 騒がしくなったら安眠のためと言って治安維持をしてきそうなに、セフィロスとルーファウスは今のうちに釘を刺しておく。 2人がかりで止められたは、あっさりと納得すると自分の紅茶に口をつけ、物言いたげな顔で空のカップを差し出してきた二人に目を細めた。 平和な、しかし例年より華やかだというミディールでの年越しを終えると、再び仕事に忙殺される日々が始まる。 あからさまに老化を嫌がるようになったセフィロスは、契約のために出かけるルーファウスを見送って留守番する事が多かった。 大きな仕事が一段落しても、デスクの上の書類は減らず、が諜報のために留守がちになるのも相変わらずだ。 アイシクルエリアは未だ雪吹きすさぶ季節だが、温暖なミディールの山々からは雪が消え、地熱のおかげもあって平地では既に新芽すら見られる。 同時に、各地では封鎖が解除され始め、街中に馴染めなかった元住人たちが故郷へ帰る姿が見られるようになった。 事情は違えど、達のように封鎖後も元の家に住み続けた者は意外と多かったらしい。 ゴンガガエリアの西端にある村では村人と生徒を強力な戦士に鍛え上げたレベル89の小学校校長がいたらしく、ガイとカーフェイが新聞を見ながら大笑いしていた。 どうやら古い友人らしいが、仕事中だったのでは詳しく聞いていない。 封鎖を無視、または避難ができず住み続けた住人の殆どはそのように自身を鍛える事で生き延びた者ばかりだったが、当然それが叶わず亡骸となって発見される者も少なくない。 そういった者の慰霊も、春に行われる戦没者の慰霊祭と合同で行われることが急遽決まったらしく、封鎖区域の調査の規模が大きくなった。 留守中、調査隊に家探しされてはたまらないと、アイシクルエリアの家に帰り、玄関に春まで不在にすると貼り紙してきたのは数日前の事だ。 当初は休みを合わせて家に帰ってくるつもりだったが、少数精鋭なルーファウスの側近業務では、の命日以外でそれは叶わなかった。 結局、用事がある時だけどちらか一人が家に戻ってきて、必用な仕事を終えたらミディールで貸し与えられた家に戻るという生活だ。 けれど、平和が戻り、元の流通が復活しつつある空路を見ると、下手に出歩いて召喚獣に乗っている姿を見られなかったので、かえって良かったと思う。 契約終了になる春が近づいてくると、ルーファウスはもちろん、レノがゆったりとしている姿を見ることが増えてきて、の仕事も落ち着き始める。 件の英雄は仲間にしっかり監視されながら、各地に残る魔物の討伐に忙殺されているらしい。 年末の騒ぎの後、向こうの組織へは神羅から強く抗議が行ったようで、以来セフィロスが外へ出て身に危険を感じることはなかった。 組織の出資元を辿ると神羅に行き着くことに気づいたからかもしれないが、あちらから二度と近づけさせないと確約を貰っただけでも気は楽になる。 かの英雄は、若干正気が疑わしそうでもあったので、そのまま飼い殺して使い潰されるのかもしれない。 後始末までしっかりしてほしいものだと思いながら、セフィロスは貸し与えられた家のリビングで炬燵に入りながら蒸したての肉まんをほおばった。 久しぶりの2連休を貰った彼は、せっかくだからと台所に立った結果、椎茸と肉汁たっぷりな自分好みの肉まんを作る事に成功した。 は今日の午後からの半休だったが、帰ってきてからすぐにセフィロスと台所に立ち、今は使った道具を洗ってくれているところだった。 の好みに合わせるなら、肉より玉ねぎを多めにして、生姜とニンニクをもっと増やした方が良いだろう。 次に作る時は、そちらのレシピに寄せて作ってやろうと考えていると、お茶を持ったがリビングにやってきて、セフィロスと同じように炬燵の中に入ってきた。 差し出されたお茶はウータイ産の茎を炒った香ばしいお茶で、セフィロスが作った肉まんともよく合う。 一口飲んで、ホッと大きく息を吐いたセフィロスは、テーブルの上にあったチラシを真剣な目で見るへ目をやった。 月に数回、無料の地域情報誌と近隣の店のチラシが入る。 が見ているのはその一つで、ミディールにある老舗靴屋のものだ。 既製品からフルオーダーまで受け付けている店で、レノのお気に入りだと勧められた事がある。 は農作業や戦闘用の靴はよく買っているが、街歩き用のお洒落な靴は殆ど持っていなかった気がする。 いや、蘇った直後には何足かあったが、変種騒ぎから頻繁に街に出る事は少なくなったので、1足また1足と履き潰していったのだ。 次に休みが合うときか、アイシクルエリアに帰る時に靴屋へ連れて行こうかと考えていると、彼女が何やら深刻そうな顔をして見つめてきた。 また何を言い出すんだろうと考えながら待っていると、彼女は持っていたチラシを差し出し、改まったように姿勢を正す。 「どうした、」 「セフィロス、他の世界へ行く際の物資で、大事なものを買い忘れていた事に気づきました」 「その靴か?」 「はい。この世界の靴はかなり履き心地が良いのですが、他の世界はそうではありません。素材が違いますし、動きやすさがまるで違います。買いだめしておかなくてはいけません」 「……お前の昔の装備を見て、何となく動きにくそうな気はしていたが……普通の靴でもそうなのか?」 「底部分のゴム素材が存在しない世界もあります。私が生まれた世界で使っていたのは、魔物の革を何枚も張り合わせた靴でした。裏は鋲を打ってますが表面はツルツルなので滑りやすいんですよ。ふんばりの効きも、こちらの世界の靴に比べるといまいちですし。あとは、既製品は裏がペラペラで、こちらの室内スリッパ並みです。革の靴を作れる職人がいない土地だと、木靴を使っているところもありますから。この世界の靴になれていると、あちらで替えが無くなった時、辛いと思います。早めに買いだめしておきましょう」 「……わかった。……靴下はどうだ?」 「……買っておいた方が良いかと。多分履き心地や吸汗性は、こちらの方が……」 「わかった。下着類はどうだ?」 「そちらは、手持ちの絹や綿で作れますから、余程こだわりがなければ……。女性用の下着は、ちょっと必用そうですが……こちらと同じように、着けない人も少なくなかったかと」 「なら、一応買っておけ。他にあったら、メモしておけばいい。この仕事が終わって一息ついたら、買いに行くぞ」 「はい。ああ、そうだ。今度、武器職人の小屋へ行って、私達の武器も手入れを頼みましょう。私の手持ちの武器も、そろそろ本職に手入れしてもらいたいものがいくつかありますから」 「あそこは事前に予約が必要だったな。……それも、後でどの武器を頼むか決めてリストを作っておいてくれ。物によっては、来年に持ち越しになる可能性もある」 「ええ。他の武器屋で頼めるものは、そちらに頼みます。最悪、私と貴方の剣だけ、以前の工房へおねがいしましょう」 「それがいい」 確かに、戦闘でも日常生活でも、足元の環境は大切だ。 今のうちに気づいてくれて良かったと思いながら、セフィロスはいつかにパンツを縫われる日がくるのかと、何ともいえない気持ちになる。 資金調達用に買ってあるのは染色していない白系の布だ。 それで下着を作られたくはないので、下着や肌着用の生地を多めに準備してもらわなくては。 もちろん既製品を買いだめしておくつもりだが、いつかそれを使い切る日が来るのは間違いない。 それにしても、の手持ち武器を全て整備に出すとなると、結構な期間がかかるだろう。 変種騒ぎで大分貯蓄が増えたので、費用の心配はしていないが、それなりに金が飛んでいくのは簡単に想像できた。 強力な魔物の討伐依頼は、ルーファウスから彼の息子へ引き継がれて継続してくれるらしいので、暫くは、あまり収入の心配はしていないが……。 変種の発生のような騒ぎは今後も起きるそうだが、人類の戦闘能力の上昇や、蘇った古代種の成長を予想すると、今回ほど切羽詰まった戦況にはならないと思う。 それでも、本番の危機とやらが来るまで小規模な騒ぎは何度も起こるらしいので、食うに困るほど仕事が途切れることはないだろう。 そもそも、野菜も肉も、何なら魚も、自分達で調達できるのだ。 など、肉体ではなく砂で体を作るなら、食事はいらないと言っていた。 飢える事の方が難しいかもしれない。 来年は、長期保存できる保存食に挑戦してみようと思いながら、セフィロスは炬燵の中で体を斜めにして寝転がる。 それでも足がはみ出てしまい、仕方なく上半身を炬燵布団から出すと、が苦笑いしながらブランケットをかけてくれた 「武器の整備が終わったら、また次元の狭間に行って、もう少し鍛えましょうか」 「……前に行ってから随分経つが、まだやるのか?」 「今の力に、大分体が馴染んできたようですから、そろそろまた壁を越えられるだろうと、オーディンとラムウが……」 「……まだ先があるのか」 「私は安全策を徹底したいので、そのつもりですが……気が進まないのでしたら、付き合わなくても大丈夫ですよ」 「いや……いや、少し考える。この世界にいる間に、学んでおきたいものもある」 「おや、そうなのですか?」 「ああ。特に、家の建て方だとか、配管の設置の仕方だとか……だな」 「ボイラーの整備や修繕は……」 「何年かかると思ってる?……時間があったらな」 「そうですね。……魔法でお湯を作れるようになる方が、早そうですし」 「……そうだな」 自分達で家を建てるなんて、そうそう無さそうだが、が一体どんな世界に連れて行くか想像がつかない。 得られる知識は、貪欲に求めて損にならないはずだ。 内心力強く頷いているのに、横になった体は大きな欠伸を一つして、柔く目を細めて頬を撫でる彼女の指を受け入れる。 嗅覚が感じたか、記憶が起こす錯覚か、懐かしい草原の匂いを仄かに感じたセフィロスは、ゆるゆると瞼を閉じた。 もしも暇を持て余したら、調香を学んでみようかと、再現できるかわからない若草と風の匂いに思いを馳せながら、意識はするりと眠りの中に落ちていった。 |
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2023.12.01 |
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