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最近そばにいる人が減って寂しい。

そんな、弱音なのか、企みなのかわからない言葉を漏らしたルーファウスに呼ばれ、とセフィロスはミディールにいる彼を訪ねた。
土産に、先日作ったベヒーモスのベーコンと秋ナス、新玉葱、それと6年もの果実酒を3種類ほど。

さて、ルーファウスが寂しがるとはどんな状況かと、厄介事の可能性も念頭に置いて家に向かえば、家主のルーファウスと出迎えたレノ以外がいない広くガランとしたお家が待っていた。

「全員が出払っているにしては、少しおかしいですね」
「前より荷物が減ったな」
「ツォンさんとルードが引退したからだぞ、と。今は社長の傍にいられる人手が足りない。頼む、手伝ってくれよ、と」

確かに、あの二人は年だからな……と思いながら、2人は同じくあと数年以内に年齢で引退する事になるレノを見る。
中途半端に10年若返らせず、ルーファウスと同年代に若返らせればよかっただろうかと一瞬思っただが、そうしたら間違いなく彼は怒髪天になっていたし、達とルーファウスとのパイプにはなってくれなかっただろう。

いつも通り、こっそりとレノの体の不調……今回は膝の関節を癒やしてやりながら、はセフィロスとリビングに通された。



Illusion sand ある未来の物語 82 9年目 秋



元々大人数でなかったとはいえ、当たり前のようにいたツォンとルードがいなくなったルーファウスの家は、やはりどこか寂しげだった。
ジュノンが魔物に襲われ、ルーファウスがミディールに戻ってきた時点で、ツォンの家族もミディールに移住したので、今も近所には住んでいるらしい。
ルードも歩いて行ける距離には住んでいるが、週の3日はデイサービスに通ってゆっくりとした老後を過ごしているそうだ。
寡黙だが、年をとっても体を鍛え、背筋も伸びているルードは、郊外にある施設を襲ってきた魔物を倒してから、同じ施設の未亡人や介護士さんにモテモテらしい。
何処か影がある雰囲気がなお良いそうだ。楽しそうでなによりである。


「今は、私の息子も忙しい。引退した二人の人員を補充することすら、難しい状況だ」
「それで、俺達にタークスの代わりをしろというわけか」
「今回のお仕事は、どのようなものですか?」

「今の私にお前たち以上に信頼できる者は思いつかない。心配するな、荒事はない。軽い情報収集と、デスクワーク程度だ」
「……魔物の討伐が休業中で暫く暇だ。その程度なら手を貸してやる」
「私もかまいませんよ」


ルーファウスの『心配ない』もいまいち信用できないのだが、たまには雪が降らない土地で冬を過ごしてみようかと話していたところだ。
まだ冬ごもりの買い出しはしていなかったので、セフィロスとはとりあえず春までという契約を交わし、翌日家に戻った。
あとひと月もすれば、またの命日が来てセフィロスが調子を崩すので、その間だけ休む事も了承してもらっている。


1週間の準備期間を貰ったので、2人は急いで生活道具をまとめると、冷蔵庫の中を整理する。
畑の野菜を急いで収穫したり、家の窓が積もった雪で割れないよう、外から板で塞いだり。
時間が足りず手が付けられなかったところは、非番の日に帰ってきて手をつける事にすると、2人は約束通りルーファウスの家に向かった。

一応近くに2人の住居となる小さな平屋を借りてくれたが、基本的に生活の場はルーファウスの家になる。
ルーファウスの家では、ツォンとルードが使っていた部屋を割り当ててもらった。
荷物を片付けて着替えたらルーファウスの所へ行くよう指示すると、レノは料亭の方を見てくると言って慌ただしく出て行ってしまう。
その様子に、少し驚いた二人だったが、それだけ忙しいから呼ばれたのだろうと納得する事にした。

久しぶりに寝室が別な状況に少し懐かしくなったは、荷物を片付けると黒いスーツに袖を通し、とりあえずナイフや飛び道具を隠せるだけ服の中に隠す。
頑丈だが柔らかい素材は、意外なくらいに動きやすい。
流石神羅のタークス用だと思いながら廊下に出ると、同じく黒いスーツに着替えたセフィロスが出てきたところだった。


「喪……セフィロス、そのお姿も、とても素敵です」
「ああ。お前も、よく似合っている」


銀髪のせいか喪服みたいだと思ってしまっただったが、咄嗟に言葉を止めるとセフィロスに笑顔を向ける。
2人を迎えたルーファウスは、完全に白と黒で統一された見た目の二人に一瞬何かを言いかけ、しかしすぐに口を閉ざすと、改めて申し訳なさそうな顔を作った。

「2人とも、来てくれて助かった。早速で申し訳ないが、状況が変わってしまった」
「…………」
「ルーファウス、貴方……」


出勤5秒で嵌めたと白状したルーファウスに、2人は物言いたげな視線を向ける。
レノが2人を置いて早々にいなくなった時点で、何となくおかしな気はしていたが、ルーファウスを一人置き去りにするわけにもいかないので引き受けるしかない。
落ち着いたら高い酒をむしり取ってやると思いながら、大きくため息をつくセフィロスの隣では、が仕方ないと言いたげな苦笑いで話を聞く姿勢になっていた。
その様子に、ルーファウスが、少なくともだけは断らないと知っていたと分かって、セフィロスは色々どうでもよくなる。


「心配するな。簡単な救援活動だ」
「貴方の『心配するな』は……」
「信用できん。だが、今は話を続けろ」

「……、ミッドガル地下にある巨大空間へ行き、2人のタークスを助けてきてもらいたい。お前たちもよく知る、私の元にいた若い二人だ。その間、セフィロスは、私の警護をしながら、レノが残していった情報の精査を」
「あの子達ですか……」
「どうして俺が警護と書類整理になる?」

「ならばセフィロス、にタークスの書類を扱えると思うか?」
「嫌ですし、無理ですね」
「…………仕方がない」


ちょっと情報収集が多いだけの実業家を手伝う気でやってきたのに、即行で不穏な仕事を振られるとは……と、2人は半ばあきれつつ、友人の頼みとして引き受ける。
近年、ルーファウスは料亭だけではなく小さな旅館も経営しており、荒事に関わっている気配はセフィロス達へ回す魔物の討伐くらいしか見えなかった。
それすら、去年の春に行った砂漠とウータイでの殲滅戦以降、極力依頼を少なめにしてもらっていて、今年の夏はジュノン沖のクラゲを1回間引いただけだった。

息子が忙しいと言っていたし、状況が変わったという事は神羅で何かあったのだろう。
ミッドガルの地下空間はかなり前に封鎖されたはずだが、今更タークスに調べさせていると聞くと、嫌な予感しかしない。
隠し事はするなよ、と無言で圧力をかける2人に、ルーファウスは余裕の笑みを崩さないまま肩を竦めて首を振って見せる。

荒事といっても救助なので、まあ良いかと考えていると、ルーファウスはの前にタブレットを差し出す。
画面には、廃墟となったミッドガルに集まる変種の魔物たちと、それらが融合してできた大変気色が悪い巨大な肉塊。
そしていつの間にやら5つぐらいに割れている、あの青いメテオだった。

「あれ?このメテオ、いつ割れたんですか?」
、気にするところはそこじゃない。ルーファウス、まさか、これが今のミッドガルの状況か?」
「予想はしていたが……、セフィロス、お前たちは、もう少し世間の動きを知った方が良い。第一次メテオ破壊作戦が成功したのは4日前だ」

「失礼。家の整理で忙しかったもので……」
「…………」
「この10年で新たに発見された変種のモンスター。それらがミッドガルに集まり始めたのが冬だ。奴らは封鎖されていたミッドガルの地下へ侵入し、WROが討伐作戦を行っていたが、メテオが割られると同時に地表へ溢れ出た。その後、モンスターは融合し、おぞましい化け物として成長し続けている。討伐のサポートのため息子に貸した私の部下は、そのまま地下に取り残されてしまった」


思ったより大事件が起きていたが、は気にした様子がない。
険しい顔でタブレットを見つめるセフィロスは、ちらりとの様子を見ると、睨むようにルーファウスへ目をやった。

「それで、調査に入っていたあの子たちが取り残されたので、助けてほしいというわけですか」
「地下空間の入り口は今もモンスターで塞がれている。辿り着くには、それらを排除するか、特別な場所から侵入しなければならない。どちらにせよ、普通の人間には到底不可能だろう」
「ルーファウス、ここにを向かわせる事は反対だ。排除すれば良いなら、俺が行く。、お前はルーファウスとここで待て」

「え?ですが……」
「過保護は変わらず……か」
「何とでも言え。昔も、こんな風に簡単に仕事を引き受けてに死なれたからな」

セフィロスにそれを言われると反論が出来なくて、は視線をさ迷わせてルーファウスを見る。
過去の失敗の一つを引っ張り出され、余裕だった表情を少し険しくしたルーファウスは、暫くセフィロスと睨みあうと諦めたように溜め息をついた。


「承諾しなければ、この話自体断るつもりか……。いいだろう。セフィロス、私の部下を、助けにいってもらえるか?」
「3日で帰る。これは借りていくぞ」


3日か……とが考えている間に、セフィロスはタブレットを手に取ると家を出て行ってしまう。
本当に良いのだろうかと思いながらルーファウスへ目をやると、彼は微かに笑みを浮かべてを見つめていた。


「本当によろしかったんですか?私は書類仕事では役に立ちませんから、護衛以外できませんよ?」
「セフィロスが行ってしまった以上、仕方がない」

「すみませんね、どうも彼は、蘇ってから心配性なところが悪化しているようで、たまに話を最後まで聞いてくれないんです」
「気にすることはない。予想していた事だ。……お前が死んだ時期も近い」


そうルーファウスが言ったタイミングで、外からバハムートが降り立つ音と声が聞こえる。
セフィロスも、随分召喚獣に乗るのに慣れたものだと感慨深く思いながら、は風圧で窓ガラスがやられないように家の周りを氷の壁で覆った。
壁を経たおかげで、バハムートが飛び立つ羽音は抑えられ、そしてすぐに聞こえなくなる。
沈黙が戻った室内に、ルーファウスがソファの背もたれに背中を預ける軋みが聞こえて、はそちらへ目をやった。

、もしお前が2人を助けに行くとしたら、どれだけの時間がかかる?」
「ライフストリームを通って、2人を捕獲して戻ってくるだけですから……早ければ5時間くらいですね」

「思っていたより時間がかかるな」
「行きはすぐですが、帰りは生身の二人を保護しながらの移動です。魔晄中毒になっては大変ですし、それくらいはかかりますよ」

「なるほど。では、早速で悪いが、紅茶をいれてくれ。少し2人で一息つこう」
「ルーファウス、貴方もお忙しいでしょう?お仕事なさらなくてよろしいんですか?」

「生憎、仕事道具をセフィロスに持って行かれてしまった」
「うちの人がすみません……」


恥ずかしそうに頭を下げるに、ルーファウスは小さく声を漏らして笑うとシャツのボタンを緩める。
予定より数日遭難生活が長引く部下に少しだけ同情するが、彼らは傷の治りがソルジャー並みに早いので、あまり心配はしていない。
それより、セフィロスをからかうネタが一つ増えた事を喜ぶと、彼はが入れてくれる紅茶をのんびり待つ事にした。






2023.10.01 Rika

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