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「最近、あの白い鳥の討伐が減りましたね」
「言われてみればそうだな。バハムートが勝手に食う事も多かったが……とうとういなくなったか?」

ダイニングテーブルで、討伐の日程を組んでいたは、依頼されている内容を見てふと言葉を漏らした。
同じテーブルに向かい、地図を見てルートを決めていたセフィロスも、彼女の言葉に手を止めて考え、窓から見える山の方へ目をやる。

白い鳥が現れた当初、バハムートは山に住み処を作って近づく白い鳥を餌食にしていたのだが、この冬くらいから近所に白い鳥が出なくなったので、バハムートも待ち伏せはやめたようだ。
今、主に討伐依頼が出ているのは、ニブル山鉱山を根城にしたドラゴンの変種や、コスタとジュノンの間にいる巨大クラゲ、砂漠に現れた4m大の蠍と、同じ砂漠に出る家のような大きさをした巨大ワームの群れ。
他の地域からも色々な魔物の討伐が依頼されているが、最近はWROをはじめとした人類も強力な魔物との戦闘に慣れてきたようで、町や村が陥落したというニュースはない。
それは、白い鳥による空からの急襲が減った事も大きいのだろう。

「あの肉は美味しかったので、それだけ少し残念です」
「そうだな。だが、おかげで緊急性が高い依頼は減った。他の魔物も、じき、今の人間達で対処できるようになるだろう」

「その調子で、この地域も、早く封鎖解除してくれれば良いのですが……」
「それは時間がかかりそうだな」



Illusion sand ある未来の物語 81 7年目 春


「……ちょっと食べ過ぎたかもしれんな」


飛空艇の補給基地として改修中の旧ゴールドソーサーを見上げたは、弁当の空を片付けると、ゆっくり体を伸ばす。
以前セフィロスと砂漠へ来た時は、夜だったので観光客も車通りもあったのだが、昼間の今はどれだけ見回しても人っ子一人見えない。
代わりに、砂漠では視線を巡らせるまでもなく、あちらこちらを闊歩する巨大な魔物の姿があった。

到着と同時に襲い掛かってきた蠍は両手で数える程度。
普通の敵なら剣で一閃するところだが、関節部ですら銃弾が通らず、剣も効きにくいと知っていたので、手っ取り早く内側を凍らせて始末した。
剣で切れはするが、効率を考えると魔法で処理するのが一番手っ取り早かっただけである。

殻は加工して使えるらしいので、出来るだけ道路に近い場所で仕留めてほしいと言われている。
とはいえ、1体が身の丈を優に超える大きさの蠍だ。
律儀に全て集める事は期待されていないので、午前中は魔物を挑発して呼び寄せては仕留めるという倒し方をしていた。
だが、そうなると、道路際が魔物の死骸で埋まる度に移動して挑発する事になり、無駄に疲れる上に余計な時間までかかってしまう。
人に見られると嫌なので、昔の装備で顔は隠しているが、暑さは魔法で調節しているので問題ない。
遠目なら身長も判別できないし、多分オーディンに似た召喚獣だと思われるだろう。

今回討伐するのは、数年前に発生し、その巨大さと凶悪さから手が出せないまま数が増えすぎた新種の魔物だ。
白い鳥は食料に含めたので別としたが、基本的に達は新種には手を出さないという条件で討伐を引き受けてきた。
だが、この砂漠の魔物に関しては、あまりに増えすぎて砂漠の外へも生息域を広げているため、特別に1度だけという条件で討伐を引き受けた。

料金は普段の3倍。依頼元はWROと付近の街が共同で、いつも通りルーファウス経由の依頼だ。
結果次第で追加報酬も貰えるという条件だから引き受けたのだが、達は追加の金銭よりも住宅設備の修理や整備が出来る人間を求めた。
ボイラーは何とか冬を超えてくれたものの最近は音や調子がおかしいし、浄化槽はそろそろ点検整備の時期だ。
未だ封鎖された地域で業者を呼ぶのは難しいので、金銭よりもその手の人材を求めたら、ルーファウスは笑って了承してくれた。


依頼の際に話には聞いていたが、思ったより数がいる砂漠の魔物に、は予定のズレをセフィロスに連絡する。
といっても、彼は彼で、今はウータイ山中にいる魔物の群れを相手にしている最中なはずなので、確認は夕方になるかもしれない。


「あの補給基地がなければ、手っ取り早いんだがな……」

砂漠のど真ん中にあるせいで、邪魔なことこの上ない作りかけの飛空艇補給基地(旧ゴールドソーサー)を見て、は小さくため息をつく。
あの基地を作る工事を進めたいという理由もあって、砂漠の魔物を討伐するよう依頼されたのだが、邪魔なものは邪魔だ。
とはいえ、ただ邪魔だと悪態をついているだけでは終わらないので、は不満を溜め息と共に吐き出して捨てる。
砂漠の中を我が物顔で歩き回る魔物の群れを、炎の壁で囲い込み、こちらに気づいて向かってくる魔物を氷の刃で両断しながら腰に下げた剣を抜く。
風魔法に絡めて放つ聖属性魔法が、砂の中から顔をだした巨大な魔物を次々と切り裂き、それらの攻撃を避けて近づこうとする魔物も、砂の中から突き出した氷の杭に貫かれた。

素早い動きの蠍も、巨体のせいか動きが鈍い巨大ワームも、10分とかからず肉塊へ変わり、最初の戦闘は剣を振るまでもなく終わった。
依頼元が求める蠍の殻は既に確保できているので、地上に留まる必要はないと考えると、はフェニックスを呼び出し、その背に乗って砂漠の奥へ向かう。
無防備に空を飛ぶ獲物に、流砂をものともせず進んでいたワームが口を開けて体を伸ばしてきたが、開いた口にフェニックスの炎を叩き込まれて一瞬で炭になるだけだった。

は見通しが良い上空から、再び広範囲を炎の壁で囲み、先ほどと同じように魔物を始末していく。
広大な砂漠を掃除するには、何度も同じ手順が必要になるが、補給基地予定施設から遠い場所は上空への被害を考えずに済むので、逆に楽かもしれない。

基地の下にある巨大支柱と、その周りにある建設用の臨時エアポート、資材の仮置き場として利用されている廃墟群。
依頼の条件通り、それらに被害を出さないよう気をつけながら、は異常を察知して集まり始めた魔物の討伐を続けた。


今回の依頼は、巣くっていた魔物の凶悪さと頭数から、元々生息していた魔物と区別せず、とにかく狩って安全を確保してほしいとの事だった。
砂漠の中央にある補給基地建設現場付近を掃除し終え、数時間かけて南下しながら魔物を狩ったは、少しだけ休憩をすると今度は北上を始める。
象牙の色に波立っていた流砂は魔物の臓物と体液で染まり、元の姿を知らなければヘドロの大河だと思うだろう。

「……臭いな」

気温が高い土地なせいもあり、上空にいるというのに、臓物の臭いを感じてはつい顔を顰める。
殲滅は求められていないので、成長途中らしい中型の魔物は何匹か生きているようだが、大型のものは問題なく始末出来ていた。
目視と、魔力の流れで漏れが無いか確認しながら進むと、西日に染まる工事中の補給基地から、手を振っている集団が見える。


「何だあの集団は?手を振って、呼んでいるのか?……無視でいいか」


助けを求めているのかもしれないが、救助は依頼に含まれていないので無視して通り過ぎようとすると、集団は手を叩いたり口笛を吹いたりして騒ぎ出す。
魔物の群れが倒される様子を見て興奮し、応援しているのだと理解しただったが、しかし愛想をふりまく理由もないので、やはり無視する事に変わりはなかった。

傾いた太陽に時計を確認すると、はセフィロスからの連絡を確認する。
2人のうち、早く討伐が終わった方が今日の夕飯を作る予定だったが、の帰りは夜中か明日になるかもしれない。
地上から響く轟音と断末魔を聞き流しながら、は再びセフィロスにメッセージを送ろうと携帯を開いた。

昼食後に送ったメッセージには、了承する返事が来ていたが、それから数時間後、彼の方も討伐が長引いているとメッセージが入っている。
あちらは、魔物が逃げるので山の中を追い回すのに手間がかかっているらしい。
同様、帰りが夜中か明日になるという内容だった。

どちらも割増料金の案件になってしまったので、一応レノに動画を添えて中間連絡をすると、はそのまま上空で返事を待つ。
そのまま水分の補給をしながら軽食をとっていると、砂漠の魔物は十分すぎる数を討伐しているので、撤退するようレノからのメッセージが届いた。

了承の旨を連絡してフェニックスを西に向かわせたは、フェニックスにゆっくり飛ぶよう指示するとセフィロスに電話をかけた。
5コール目で出た電話は、彼の声より先に魔物の断末魔をの耳に届ける。
忙しいなら出なくても良いのにと思いながら数秒待つと、聞きなれた落ち着いた声が名を呼んでくれた。


「何かあったか?」
「こちらの討伐が終わったので、お手伝いが必用か聞きたくてお電話しました」

「……今は、討伐の手伝いより、野営の手伝いをしてくれると助かる」
「わかりました。フェニックスで向かっていますから、1時間ほどしたら、派手に動いてください。それを目印に向かいます」

「わかった。……そうだ、近くにある廃村に、温泉が湧いていた。建物はどれも廃墟で使えないが、キャンプするのはそこにしたい」
「いいですね。こちらにいた魔物は大型な上に体液が臭くて、酷い匂いだったんですよ。すっかり体にも染みついてしまっていて……。海で体を洗ってからそちらへ行くつもりでしたが、温泉があるなら助かります」

「予定の時間になったら廃村の近くへ移動する。、気を付けて来い」
「はい。貴方も、どうぞ無理はなさらずに。では、後ほど」


長時間臓物流れる流砂の上にいたので、自覚しているよりひどい匂いだろうと思いながらは電話を切る。
フェニックスに速度を上げてくれるよう頼み、夕暮れを追うように西へ向かっていると、予定より早くセフィロスがいる辺りに着いてしまった。
廃村を探して地上を見下ろしたが、生い茂る木々で視界は悪い。
川の近くに見えた数件の瓦屋根に、これかと思って近づいてみたが、まだ人が住んでいる場所らしく畑を歩く人影が見えた。

セフィロスは、思ったより山の中にいるのだろうか。
やはり合図があるまで待とうと決めて、近くにある山の上に移動したは、谷底に見えた川と細い滝、そのほとりに転がるいくつもの魔物の死骸を見つけた。
近くでは、死骸を食い荒らした獣の群れが、ゆったりと寛いだり、川で水浴びをしたりしている。

人も獣も、腹が満たされてやる事は同じかと思いながら眺めていたは、ふと、鎧についている魔物の体液に気づき、顔を顰めてそれを拭った。
砂漠を抜けても匂うと思っていたが、気づかないうちに少し汚れを被っていたらしい。
魔物の大きさと量を思い出し、それも致し方なしと考えただったが、何となく嫌な予感がして腕の匂いを嗅ぐと、思わず口を押さえ、手甲についていた匂いを吸い込んで悲鳴を上げた。


「ぅぐう!!こ……これは……!」


温泉があるとしても、やはり海で一度洗ってくるべきだった。
そう後悔したは、こんな酷い匂いでセフィロスの元にはいけないと考えるや否や、獣たちがいる水場に急降下する。
驚き飛び上がった獣たちが逃げ出し、あるいは威嚇しているのもお構いなしに、は装備をすべて外すと飛沫を上げて川の中に入る。
から放たれる異臭に、獣が悲鳴を上げて怯むと、フェニックスが威嚇の炎を吐き出し、立ち向かおうとしていた獣は慌てて森の奥へ逃げて行った。


「臭い……これは臭い……」


鎧どころか中に着ていた服にまで染みついた匂いに、は顔を顰めて着ていた衣類を脱ぎ捨てる。
砂や砂利が入り込むのも気にせず、川の水で頭を洗ったがまだ匂いが取れなくて、彼女はまさかと顔を顰めて下着に鼻を近づけた。


「……嘘だろう……」

肌着も、その下の下着にも、ほんのり香る魔物の体液の匂いに、は頭を抱えると全裸になり、匂いの元をフェニックスに焼いてもらう。
野営用に持ち歩いている、川に流しても問題ない石鹸で全身を洗うと、ようやく匂いがなくなってくれた。
多分まだ臭いは少し残っていそうだが、今はこれで限界だろうと川から上がると、山二つほど向こうの辺りから、派手な爆発音が聞こえてくる。
慌てて体を乾かし、先ほどまで使っていたのとは別の昔の装備を身につけると、はフェニックスに乗って音の発生源へ向かった。

山を一つ越えたところで、夕暮れの山間に小さな道の跡が見える。
曲がりくねった道を辿るのは難しそうで、視線を音がする方へ戻したは、なだらかな山を一つ越えたところで木々の間から伸びる炎の柱を見つけた。
山の陰と生い茂る木々のせいでセフィロスの姿は見えないが、炎に照らされた廃屋の屋根を見つけたは、廃村の中心へゆっくりと降りていく。
ランタンの灯りをつけ、丸1日付き合ってくれたフェニックスを労って送り返すと、森の中から歩いてくる銀の髪を見つけた。


「セフィロス、お疲れ様です」
…………随分派手にやったようだな。先に温泉へ案内する」

「途中の川で体を洗ってきたんですが、まだ臭うんですね……」
「……厄介な敵だっただけだろう。あまり気にするな」


そう言いながら、2mくらい間を開けるセフィロスに、は仕方ないと思いながらついていく。
彼も彼で、汗と血肉や臓物の匂いがしているのだが、それでも自分の匂いよりは臭くなさそうなので何も言えない。
案内されるまま半壊した廃屋の裏に回ると、小さな川と、恐らく事前にセフィロスに焼き払われた雑草の燃えカス、そして川の傍に石で囲まれた温泉が現れる。
入浴の前に掃除が必用そうだったので、とりあえず周りの燃えカスをエアロで吹き飛ばすと、は微かな湯気を出す温泉に手を入れた。


「温めですね」
「俺はそのままで入るつもりだったが、お前なら、魔法で温められるだろう?」

「ええ。ただ、貴方も、魔力操作が随分とお上手になりましたから、もう、そういう事は出来ると思いますよ?」
「機会があれば試してみよう」

「そうですか。嫌なら無理にとは言いません。魔法を使わない方法となると、焼いた石を入れても温度は上がりますが……それは時間がある時にしましょうか」
「ああ。俺は食事と寝床の準備をしてくる。ゆっくり入っておけ」


明言しないだけで、臭いをしっかり落としてこいと言われたは、苦笑いをして頷くと、広場へ戻っていくセフィロスを見送る。
膝程までの深さしかない温泉を見て少し考えると、はタイタンを呼び出し、底を少し掬って深さを出してもらう。
川底の泥で少しお湯が濁ったが、管理されていない温泉などそんなものなので、はタイタンを送り返すとお湯の温度を上げ、服を脱いで石鹸を泡立てた。

3回くらい石鹸で全身を洗ったところで、やっと匂いがとれたは、肩まで湯につかりながら星空を見上げる。
最近は討伐のために各地を回っていたが、出先でのんびりする事は無かったと思い出した。

来週、ミディール付近の森へ行く予定があるので、その時に少しゆっくりしようか。
ついでに、ルーファウスの顔も見てこようと考えると、漂ってきた焚き火と食事の匂いに、はお湯から上がった。

セフィロスの匂いチェックに無事合格し、作りかけのスープを引き継ぐと、は入れ替わりに温泉へ向かう彼を見送る。
鍋の中にある大きな乱切りの根菜に、外の焚き火で作るスープじゃないだろうと苦笑いした彼女は、大きな具材を一つ一つ取り出しては、火が通りやすい一口サイズに切りなおした。
同じようにぶつ切りにされた肉に、少しだけ迷った彼女だったが、そこだけは譲ってあげようと決めると、鍋の中に多めの塩を入れ、彼が作りかけにしていたすいとんも入れた。
胡椒と、隠し味に醤油を少しだけ加えて味見すると、運動後には丁度良い少し塩気が強めのスープになる。

夕飯の出来上がりに満足したは、寝床はどうするつもりだろうと見回し、焚き火の反対側に出したまま手つかずのテントを見つけた。
が使っていたものではない、この世界の簡易テントだが、山間部の春は風を通さない素材のテントでも冷える。
試練のような旅をしているわけではないのだし、今日は良いだろうと考えると、はテントを仕舞い、代わりにコテージを出した。

温泉から戻ってきたセフィロスは、既に数回コテージを使った事があるのに、不思議そうな顔で今日の寝床を見ている。


「セフィロス、夕食、出来上がっていますよ」
「ああ。テントは仕舞ったのか」

「ええ。山の中ですからね。春とはいえ、朝は冷えるでしょう?さあ、早くこちらへどうぞ。湯冷めする前に、髪を乾かしてしまいましょう」
「頼む」

セフィロスの後ろに回ったが濡れた髪を持ち上げると、彼は静かに腰を下ろす。
髪は一瞬で乾いたが、そのまま手を離せば毛先が地面について汚れてしまうので、は彼の髪を首の横で緩くまとめた。

お湯の温度変化と同じく、髪を乾かす魔法も、今のセフィロスなら出来そうなのだが、彼は一度失敗してから頑なに自分でやろうとはしない。
その時は、右半分は熱で毛先がチリチリになり、左半分は風の制御が失敗して見事な縦ロールになっていた。
むしろその失敗の仕方の方が難しいのではないかと思っただったが、クルンクルンになった自身の髪を凄い顔で見ていた彼に、余計な事を言うのはやめておいた。
乾燥で失敗したり、畑仕事で土に引きずって痛めたり、竈の火で焦がしたりと、彼は髪がダメージを受ける度に毛先を切っている。
の髪は胸元から腰まで伸びているのに、セフィロスの髪は何度も切っているせいで以前と長さがそう変わっていない。
どうせなら、座って地面につかない長さまで切ってしまえば良いのにと密かに思いながら、は元の位置に座りなおし、食事を始めた。


「今日は魔物が寄ってこないようにしますから、ゆっくり休んで、明日は、朝早くから討伐を始めましょう」
「そうだな。敵が山間部に分散していて、探すのに時間がかかっている。何か良い方法はあるか?」

「では、私が召喚獣と一緒に追い立ててこの付近に集めましょうか?」
「あまり山を荒らすと報酬が減るが……大丈夫か?」

「シヴァの騎士達を借りて、数の力で追い込みます」
「わかった。それで頼む」


討伐の目途がついた気がして、セフィロスは少しだけホッとしながら夕食を終わらせると、と共に手早く後始末を終えてコテージに入る。
予想外に寝心地が良いベッドで寝たお陰で、良く体を休められた彼は、翌朝朝食を終えると同時に山へ消えたを見送った。

だが数時間後、予定通り魔物を追い立てる達によって、セフィロスは見渡す限り魔物だらけという状況に立たされる事になる。
向かってくる魔物を切るのは容易いが、四方八方から追い立てられた魔物の群れはパニック状態で、押し合いどころか同士討ちまであちこちで起きていた。
どこから魔物の爪が飛んでくるか分からない状態など、普段であれば苦でもないのだが、数が多すぎて倒した傍から踏みつけなければ死骸に埋もれてしまいそうだ。

気づけば敵の攻撃が減り、辺りが見通し良くなったが、それは足場にしている魔物の山が高くなっただけのこと。
廃屋の屋根より高い位置から見下ろすと、魔物たちは相も変わらず同士討ちしていて、少し視線を遠くに向ければ、魔物を外周から攻撃している氷の騎士達が見える。
その更に向こう。昨日まで魔物の気配がひしめいていた山々は、不気味なほど静まり返っていて生き物の気配すらあるのか怪しい。

明らかにやりすぎだが、人目につかない山の中なら、そこまで問題にはならないかもしれない。
とりあえず、早く魔物を始末して死骸を焼いてしまおうと考えると、セフィロスは蠢く魔物の群れに向かって氷魔法を放った。




数日後、家でゆっくり夏野菜の種を植えていた二人は、疲れ切った声のレノから電話をもらう。
討伐後の確認用動画を送った時も悲鳴を上げられたが、事後処理で更に追いつめられているのか年なのか、レノの声からはいつもの余裕が全く感じられない。


『アンタら夫婦は加減ってもんを知らないのか、と』
「あれだけ大量発生していると、近隣住民の安全のためには最低限でもあれくらい必用かと……」
「砂漠を汚したのは詫びるが、不可抗力だ」

『依頼元から、死骸の始末に金がかかりすぎて、予定金額以上は払えないって泣きが入った。特別報酬は出るが、期待してる額にはならないぞ、と』
「ああ、それは期待してませんでしたので、かまいませんよ」
「ボイラーと浄化槽の点検整備さえしてもらえるなら、今回は基本料金でいい」

『そいつぁ有り難い。けど……アンタらもっと欲張れよ、と』
「では、修理が必要だったら、その費用をお願いします」
「それと、夏に1週間ほどゆっくりできる温泉旅館を手配してくれ。そちらの金でな」

『…………わかったぞ、と』


やっぱり成果と報酬が見合っていないのに気にしていない2人に、レノは小さく溜め息をつくと電話を切った。
復活した時10歳くらい若返ったといっても、あれから7年だ。
レノもういい年だろうと話すと、とセフィロスは農作業を再開した。






2023.09.27 Rika
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