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Illusion sand ある未来の物語 66



カームにあるバーで、いい感じに酔っぱらったは、疲れのせいで酔いつぶれてしまったセフィロスを背負いながら宿へ歩く。
レビテトを使っているので重さは感じないが、同じバーで飲んでいた人々は大男を軽々背負ってご機嫌な顔をしているを、とんでもない怪力女だと慄いてみていた。
が、家では飲んだ事のない色々な酒を楽しんで上機嫌なには、その呟きは聞こえず、賑やだな〜と思いながら店を出た。

「見てくださいセフィロス、この村……?町?も、星と月が綺麗ですよ」

家々の間から見える月と星空を見上げて声をかけただったが、熟睡しているセフィロスから返ってくるのは静かな寝息だけだ。
無理もないと考えながら、頬をくすぐる彼の髪と、酒で熱くなった額に一度頬をすり寄せたは、春の気配に満ちた夜風を吸い込んで目を閉じる。

今日の出来事を振り返り、次いで以前、セフィロスと遠出した時の事を思い出して、は確かに呪われているかもしれないと苦笑いを零す。
エッジを訪れたセフィロスを見て驚いたのは、クラウド達だけではない。
ミッドガルから移り住んだ人々が作った街だから、セフィロスを記憶している人は多く、彼を見て驚く年配の通行人は少なくなかった。
中にはセフィロスを様付けで呼んで騒ぎ始める人までいて、一緒にいた若い連れの人達が大変そうだった。

「すみませんね。この世界、貴方が自由に生きるには、まだ時代が早すぎたみたいです」

せめてあと10年か20年は待った方が良かったのかもしれないが、今更だ。
アイシクルエリアの家は静かだが、この魔物の騒ぎで人が住みにくい土地になった。
そのまま住み続けるのは、自ら悪目立ちするのと変わらない。
今の生活は気に入っているが、遠くないうちに、一度この世界から離れることを考えた方が良いかもしれない。


「ねえセフィロス、今回の件が片付いたら、私が生まれた世界に行ってみませんか?今のこの世界よりは、生きやすいと思うんです。それに、貴方が見たことがないものばかりで、楽しいと思います」


今日だけで散々騒がれ疲れているのだから、きっとセフィロスも強く反対はしないだろう。
念のため召喚獣に、他にも良さそうな世界があるか聞いておこうと考えながら、は宿屋の扉を開けた。
大男を背負って笑顔な酔っ払いのに、宿の主は驚愕していたが、はヘラヘラ笑って手を振ると、鍵を受け取って借りている部屋に戻る。

レビテトで彼を浮かせながら、彼の靴や衣類を脱がせると、ベッドに寝かせて布団をかけた。
心地良い寝相を探してモゾついていた彼は、すぐに丁度良い姿勢を見つけて、再び静かに眠りはじめた。
その寝顔を、目を細めて眺めたは、少しだけ幼さが見える寝顔に小さく笑みを零すと、少しだけ背中に皺が出来た自分の上着を脱いだ。


「私も、普段からそれくらい安心した姿を見せられたら、貴方に余計な気苦労をかけずに済むのでしょうね……」


とはいえ、焦らず地道に変わっていくしかないと心の中で言い訳すると、は少しだけ酔いが醒めた脚でシャワールームへ向かう。
軽く汚れを落とし、時刻が10時を回っているのを確認すると、は窓に腰掛けてもう一度月を眺める。
雲一つないせいか、空がやたらと近く感じて気分が良くなった彼女は、何気なく下ろした視線の先に広場を歩いてくる赤マントを見つけた。

気づいていないふりをするか、話をつけにいくか。
少し迷って、セフィロスが眠るベッドをちらりと見たは、即決で気づかないふりを選んだ。
勝手に行動すれば心労をかけるし、起こしてもまだ酔いが醒めておらず会話はできないだろう。
地上など目に入っていませんと言わんばかりに空を見つめていたは、広場の真ん中で見上げてくるヴィンセントを3分ほど無視すると、眠くなったふりをして窓を閉めた。



翌朝、たっぷりの睡眠をとり、二日酔いもなく爽やかに目を覚ましたセフィロスは、前日が嘘のように顔色が良い。
まるで、夏の、畑や釣りに時間を費やしていた時ぐらい、彼の顔はすっきりとしていた。
理由が簡単に想像できたは、今後は様子を見て外へ飲みに誘おうと決めると、シャワーから戻ってきた彼に昨夜ヴィンセントがいた事を告げる。
その瞬間、嘘のように表情が暗くなった彼に、は小さく笑いながらその体を抱きしめてヨシヨシと慰め、下ろしている髪をゆるく編んでまとめておいた。

赤マントは今日のうちに接触してきそうだが、出来るだけ遭遇しないようにしようと決めると、2人は宿を出て隣のパン屋で朝食を買う。
そのまま真っすぐ駐車場へ向かい、中央広場を経由して街の出口へ向かうと、ハイウェイに続く道の途中に赤マントが立っているのが小さく見えた。
が、残念ながら、本日セフィロス達が向かうのは、ハイウェイではなく街の東にある川沿いの集落である。
気づかず待っている赤マントに、さらばと心の中で手を振って、2人は今日の目的である陶芸に向かった。


初めての陶芸は、おかしなハプニングもなく楽しく終えられた。
最初コップを作ると意気込んだの作品が皿になり、セフィロスがろくろからの切り離しに失敗して一度作り直したくらいだ。
乾燥と焼成を経て、出来上がりは2か月後ぐらいと言われた二人は、その頃にまた来る事を決めて街を後にする。

朝、遠目に見た赤マントの事などすっかり忘れて、2人は借りていた車を返すとタクシーで海に向かい、シルドラを呼んでジュノンまで移動した。
初めてシルドラの口の中に入って移動したセフィロスは、到着する頃にはまた表情が暗くなっていた。

ツォンと同じ反応だな〜と呑気に考えながら、近くの小さな町で宿をとったは、無言になっているセフィロスをバスルームに押し込む。
出てきた彼と入れ違いに身ぎれいにしたは、ベッドにかけて待っていたセフィロスに無言で床を指さされ、嫌そうな顔をしながらそこに正座した。


、俺が言いたいことがわかるか?」
「わかりませんよ。今回は何ですか?」


流石に人の心を読むような能力はないと首を振ったに、セフィロスは深いため息をつくと窓から見える海を見る。
もしや泳ぎたかったのだろうか、ならば言ってくれれば良いのにと思っただったが、視線を戻した彼の悲しそうな顔に、多分違うな……と理解した。

「移動に召喚獣を使うのは良い。リヴァイアサンが休暇中で来なかったのも、仕方ない。それでシルドラを呼ぶのもな。だが……どうして背中に乗せるのではなく、口の中に入って移動する?」
「……ん?シルドラは、そういうものですよ?」

「は?」
「ですから、シルドラは船を背に乗せることはありましたが、人間のような小ささのものを生きたまま運ぶときは、口に入れて運ぶんです。その方が、落としませんしね」

「……そういう生き物ということか?」
「少なくとも、私の認識では。昔助けてもらった時も、そうやって海底から陸地まで運んでくれました」

「…………そういう生き物なのか……」
「シルドラ自身も、普通に口を開けてきましたから、そうだと思っています。まあ、そもそも簡単に移動手段にされてくれるような生き物ではありませんし」


なら、もうシルドラを移動手段にはしたくない……。
召喚獣だからか、野生動物らしい口臭はなかったものの、ねっちょりした口内で唾液まみれになりながらの移動は普通に嫌だ。
もし次があるのなら、は自分で何とかしてもらって、自分はどうにか背中に乗せてもらえないか交渉しようと、セフィロスは決めた。

諦めてため息をつくセフィロスに、はふと、大昔ファリスがシルドラの頭や背中に乗っていた姿を思い出したが、あれはファリスだからできたのだと考えて口にしない事にする。

そもそもシルドラは、多くの海を荒らし回っていた恐怖の海竜で、根本的な気性は多分バハムートよりも荒い。
正規の海軍や、海を良く知る漁師ではなく、荒くればかりの海賊に仲間入りしているくらいだ。
あの白い竜が、ファリスの船を背負いながら商船に突撃し、または海賊船に注目させて反対から船にぶつかって転覆させていた姿を見たのは1度や2度ではない。

普通の海賊ならば、船は沈めず積み荷の一部をもらうか、儲けが少なければ乗務員を海にすて船ごといただく。
だが、大海賊となり大勢の子分や船を持つファリスにとっては、小さな商船一つ増えたところであまり意味はなかったらしい。
とりあえず船を沈め、取り締まりの海軍が追いつく前に逃げて、後でシルドラが海底から積み荷を引き上げるという、取り締まる側としては糞のような戦法を一時期使っていた。
しかも、襲うのは決まって禁輸品を隠していた船や、後ろ暗い積み荷を抱えていた船ばかりで、持ち主が強く被害を訴えられないというおまけつきだ。
暫くするとその戦法は使わなくなったが、時期を同じくしてファリスの海賊団の規模が急激に大きくなったので、沈めた船には敵対している海賊の船もあったのだろう。

そんな海賊の頭領と兄弟のように仲良くし、一緒に襲撃をしていたのがシルドラなのだ。
口の中だとしても、運んでもらえるだけいい方だろう。

としては、シルドラの口の中に入ってしまえば、海の中を潜って移動してくれるので人目につかず丁度良いと思っている。
リヴァイアサンはデカいわ派手だわ荒っぽいわ、そしてとにかく我が儘で、バハムートよりよっぽど移動に向いていない。
あと、あの口を見ると砂を吐いて返された時を思い出して嫌な気分になる。
しかし、セフィロスが嫌だと言うのなら、また別の方法を考えようと決めると、2人や宿を出てまた車を借りに向かった。



ヴィンセントが言っていた、コンドルフォート近くの村々を軽く見て回り、緑あふれる長閑な風景に、確かに移住先としては良いと話しあう。
田舎らしく、魔物の脅威が日常の一部ではあるが、ジュノンという大都市も近く、温暖な気候は生活するにはとても良さそうだった。


「北国に飽きたら、また改めて来てみましょうか」
「今の家も、十分気にいっているが……覚えておこう」

ちらりと海を眺めて言ったセフィロスに、海での釣りも出来そうですしねぇ……と心の中で付け加えると、は携帯で船の手配をする。
2時間ほどかけて村々をまわり、やや急ぎ足でジュノンへ向かった2人は、夜8時出航の便で数十年ぶりに船の上の人となった。

翌朝9時に到着予定の船は、ゆっくりと港から離れて海を渡る。
昔乗った神羅の運搬船ほど無骨ではないが、あくまで移動手段でしかない船内はシンプルな作りで、案内された客室も一応ベッドが二つ並んでいるが質素なものだ。


「思ったより狭いですね。昔のザックスの家みたいです」
「つまり、独房か」


本人がいたらすかさず抗議しそうな事を呟きながら、はコンパクトな室内を見回す。
の中では『狭い部屋=ザックスの家』になっているのだろうと思いながら、セフィロスは狭いベッドに腰を下ろす。
円い窓の下にある、申し訳程度の折り畳み式カウンターと、その下にある壁の窪みに固定された折り畳みの椅子。
入り口近くにあるトイレには、一応小さな洗面台もついていたが、シャワーは共同でコイン式だった。


「昔乗った神羅の船では、もう少し広い部屋だった気がするんですが……」
「あれは一応軍の運搬船だったからな。それに、俺の部屋の近くにするなら、それなりの部屋になる」

「そうでしたか。ところでセフィロス、そのベッド、貴方には少し小さい気がするんですが、脚はおさまりますか?」
「間違いなくはみ出るだろうな」

「ですよねぇ……今から部屋を変えられるか、聞いてきましょうか?」
「……いや、この船なら、どの部屋のベッドも同じくらいだろう。リゾート向けの客船ではないからな。一番上のランクの部屋であればベッドも大きそうだが、1泊程度なら金の無駄だ」

「そうですか」

毎日のように破いていた戦闘服は金の無駄ではないのだろうか……。
彼が駄目にした服の合計金額は、大きなベッドの部屋の料金と多分変わらないだろうと思いながら、はふくらはぎの途中から宙に浮いた状態で寝転がっているセフィロスに何とも言えない苦笑いを向ける。
壁にある小さな扉を開くと、中には船内の案内図やドライヤー、アメニティなどが全て納められていた。
位置的に、ベッドから飛び出たセフィロスの脚を超えていかなければならないのが、少しだけ難点だ。

船内の案内図を手に、は自分のベッドに腰を下ろすと、同階にある女性用シャワールームの場所を確認する。
同時に食堂も確認してみたのだが、どうやらそちらは乗船前日までに予約が必用だったらしく、その代わりにパン屋と売店が入っているのを見つけた。


「セフィロス、私は今日の夕食と明日の朝食を買ってきますが、なにかご希望はありますか?」
「……一人で大丈夫か?」

「……子供ではないのですが」


どちらかというと狂犬……否、猛獣扱いなのだが、セフィロスは無言で視線を逸らすことで誤魔化した。
大きめのボトルで水を1本だけ頼み、食事内容は任せるというセフィロスに、は財布と鍵だけを持って部屋を出る。

狭い通路には人がまばらにいる程度で、は足早にロビースペースにある売店へ着くと、セフィロスに頼まれた買い物を済ませた。
隣にあるパン屋からは良い匂いが漂ってきて、見ればジュノンでも人気のパン屋が焼きたてを運んで売っているらしい。
船内だというのに、一般店舗のような品揃えに少し驚きながら2食分を購入したは、視界の端にふと見慣れた赤色を見つけ、首を傾げて振り返った。


「おや……?」
「あ……」


目が合った男は、予想外の遭遇にポカーンとした顔になり、次いで片割れを探して辺りを見回す。
ついつられて辺りを見回したは、しかし彼が誰を探しているのかわからなかったので、また首をかしげつつ、荷物を抱えて歩み寄った。


「奇遇ですね、レノ。その恰好ですから、お仕事ですか?」
「ああ。アンタは一人か?珍しいな、と」

「セフィロスは部屋で休んでいます。私は、夕食と明日の朝食の買い出しに」
「そっか。でも、何で船に?前みたいに、召喚獣で飛ばないのか、と」

「ちょっと色々ありましてね。それに、今彼らは休養日なので」
「ふーん。後で、アンタらの長年のオトモダチから、連絡があるかもしれないぞ、と。じゃ、俺は仕事に戻るぞ、と」

「わかりました。では、お仕事頑張ってくださいね」

赤は赤でも、レノに遭遇するとは予想外だったと思いながら、は彼と別れて部屋へ向かう。
レノの返答と、ルーファウスの名を出さなかった事から、同行しているか否かすら伏せたいのが分かった。

もしかして、また命を狙われているのだろうか。
つくづく平穏とは遠い人だとルーファウスに同情しながら、後で連絡して気分転換になってあげようと考えて、は部屋の扉を開いた。


「帰ってきたか、
「久しぶりだな。このような所で会えるとは、思ってもみなかった」
「……お久しぶりです」


何故ルーファウスが既に部屋にいるのだろうと思いながら、は端に立つツォンを避けて荷物を下ろす。
セフィロスと向かい合って座るルーファウスは、のベッドに腰掛けていて、その硬さを気にした風でもなく寛いでいた。

レノは知っているのか。
それとも、レノから連絡を受けて即座にこの部屋に来たのか。
どちらにしても、賑やかさより狭苦しさの方が勝る室内に、はひっそりと溜め息をつきながらセフィロスの隣に腰を下ろした。






一般的な移動船の船室は、部屋無し大きな休憩スペース、個室、家族グループ向け部屋、めちゃ広い、の4ランクかな〜と勝手に想像。
とセフィロスは個室、ルーファウスはめちゃ広い部屋、タークスは家族グループ向け部屋かなぁ。
あと、船だから椅子とか全部紐で壁に繋がってるイメージ。

2023.07.19 Rika
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