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今日も死んだように眠っているセフィロスに、は彼の心臓に手を当てて生存を確かめる。
疲れが抜けていない寝顔を見つめた。
昨日、恐る恐る数日の休息を告げた事で、2人はようやくお互いの勘違いを理解した。
どおりで無謀な時間配分をしたわけだと安堵しただったが、事実を知ったセフィロスの表情といったらなかった。

食事をとった後も顔色が優れないセフィロスをベッドに寝かせ、体を揉み解してあげている間にまた彼は寝てしまった。
日の出を少し過ぎてから目を覚ましたが腕の中で動いても、彼は全く起きる気配がない。
休息は2〜3日の予定だったが、1週間は休ませた方がよさそうだと考えると、は彼の顔にかかる髪をそっと払い、その腕から抜け出した。


Illusion sand ある未来の物語 61


朝食の匂いがしても、家中に掃除機をかけても、ルーファウスからの物資を届けるヘリが来ても、セフィロスはベッドから出てこなかった。
ちゃんと生きているのか心配になって、は何度も様子を見にいったのだが、そのたびに目にするのはスヤスヤと寝息を立てる彼の寝顔だ。

自分が一人で勝手をしていたように、セフィロスも良くない意地を張り始めているのを感じて、は人の事を言えない身で諭さねばならないのかと溜め息をつく。
枕の上でぐしゃぐしゃになった銀の髪を見かねて、首の横でゆるくまとめていたのだが、寝返りをうつ間にまた髪が乱れてしまっていた。
あまり触れては、せっかくの眠りを妨げてしまうと思い、は何度目かの確認の後、彼の暴れる髪については諦める。
彼の髪の真ん中あたりに引っ掛かっているゴムをそっと抜き取り、乱れた布団を直すと、は物音を立てないようにベッドから離れた。

そっとクローゼットを開け、セフィロス用の箪笥の中を整理すると、廊下に置いてある段ボールから戦闘用の衣類を出す。
今日の昼頃、神羅のヘリで届けられた荷物は、その半分以上がセフィロスの戦闘用の服だった。
連絡をした際、1日1着ダメになると悲鳴を上げたからか、ルーファウスはジュノンにあるメーカーから旧モデルも含めて在庫を出してもらったらしい。

はセフィロスがいなくては生きていけないが、ルーファウスがいなくても生活できないとつくづく思う。
荷物の中には、戦闘用以外のセフィロスの衣類に加え、回復アイテムも多く入っていた。
使うかどうかは分からないが、ありがたい気遣いだと思う。

サイズはセフィロスに合うものの、色柄がバラバラな衣類を箪笥に仕舞うと、は気配と物音を消して寝室を出た。
今日は真冬とは思えないほど暖かく、屋根の上の雪が溶けて雨の日のように雫を落としている。
すでに掃除も片付けも終わったリビングを見回し、とりあえず飲み物を用意したは、暖炉に薪をくべるとソファに腰を下ろした。




うたた寝をしていたと気づいたのは、この家では聞きなれないガチャガチャと食器の鳴る音を聞いたからだ。
ハッとして目を開けると、体にかけられていたブランケットが床に落ちる。
見知らぬ気配がない事を確認したは、ブランケットを手繰り寄せ、少しだけ肩の力を抜いて音がした台所へ振り返った。

見えたのは、予想通り食器棚を開いているセフィロスだ。
まだ寝起きらしく、髪はベッドにいたときのままボサボサで、服だってパジャマのままだ。
顔を洗っているのかすら怪しい状態の彼が、身なりを整えずに台所にいるのは、きっと空腹で目覚めてしまったからだろう。
にも拘わらず、自分の胃を満たすより先に、ソファで寝ている自分にブランケットをかけてくれる彼に、の頬は緩む。


「セフィロス、おはようございます。お食事でしたら、私が準備しますから、貴方は椅子でまっていてください」
「……、起こしたか。悪かった。頼む」

「ええ。さあ、こちらへどうぞ。お食事の内容はどうしますか?普通のお食事か、胃に負担がかからないものか……」
「普通の食事で頼む」


大きな体をフラフラと揺らしてダイニングへ向かおうとする彼に、は駆け寄ってその体を支える。
彼女に肩を借りて、しかし身長差で半ば背負われるように歩いたセフィロスは、緩慢な動きでダイニングテーブルについた。
丸一日近く眠ったので、流石にもう眠気はないのだが、たまった疲労が一気にきて体が重だるい。
自分の体を支えるにも難儀して、テーブルの上に両肘をついて待っていると、食事を持ってきたが当たり前のように隣に椅子をもってきた。


「その御様子では、まだお一人での食事は大変でしょう?」
「ああ。助かる」


親から餌をもらう雛鳥のように、セフィロスはの方へ顔を向けると、口を開けて差し出された食事をだべる。
テーブルに片肘をついた行儀の悪い姿勢だが、そうしなければ彼は途中で力尽きてテーブルに突っ伏してしまうので、は何も言わなかった。
セフィロスは次に食べたいものを視線で示してくれるので、はその希望通り一口大に箸で割った料理をひたすら彼の口へ運ぶ。
つい先日までは、食事の途中で寝てしまったり、時間になったと言って食事を切り上げたりしてしまっていた。
だが、長い休息を得られた事と、誤解が解けて急かされることがないと理解したからか、今日のセフィロスの食事は殊更ゆっくりだ。

時折休憩を挟みながら、並べられた食事の殆どを平らげたセフィロスは、少しだけ元気が出たようだった。
彼が食後のお茶で一息つくと、また彼に肩を貸して洗面所に連れて行き、彼が身だしなみを整えている間に脱いだパジャマを洗濯する。

入浴は後で良いという下着姿の彼を寝室に連れて行き、着替えの補助を終える頃には、も少し疲れてしまっていた。
意識がなければレビテトで浮かせて運べるが、意識があって足元が覚束ない彼に浮遊魔法をかければ、逆に転倒させる可能性がある。
自分の体を少しだけ魔力で補助する程度だったは、着替えたばかりなのにベッドに横になりそうなセフィロスを支えてリビングに戻った。


「私は台所を片付けてきますが、セフィロス、貴方はどうなさいますか?」
「……このまま少し休む。何から何まで、任せて悪いな」

「いえ、お気になさらないでください。私も片づけが終わったら、こちらで休憩しますから」
「わかった」


ソファに深く深く腰掛ける彼を残して、は台所に戻る。
手早く片づけを終えたところで、ハッとしてシンクの下を開けたは、セフィロスのぬか床を出して中を混ぜる。
24時間戦闘が終わった最初の休息時間では、満身創痍でベッドに入ったにも関わらず、彼は糠床の事を思い出して起きようとした。
確かにセフィロスが作った糠漬けは美味しいのだが、そこまで気にするほどだろうか。
何が彼をそこまで気に入らせたのか、にはサッパリ分からないのだが、とりあえず彼がそこまで大事にするならと、気を付けている。

台所の仕事を一通り終え、最後に軽く手の匂いを嗅いでもう一度石鹸で洗うと、は2人分の珈琲をいれてソファへ行く。
ぼうっと窓の外を眺めていた彼は、と、その手にある珈琲に目をやったが、腕を上げるのが億劫だったようでカップに手を伸ばそうとはしなかった。

が隣に腰掛けると、セフィロスは緩慢な動きで腕を上げ、彼女の肩を引き寄せながらその体にもたれかかる。
ちょっと腰の角度が辛くて、彼が上げた腕1本分の距離を詰めたは、人の頭を枕のようにしてくる彼を小さな苦笑いだけで許した。

「こんな時、庭のハンモックが使えれば良かったですね。春や夏だったら、そこでぼうっとしているだけでも、気持ちよかったでしょうけれど」
「その前に、畑の方が気になって休めなさそうだ」

「貴方が疲れているのですから、私がやりますよ」
「それもそうだな……。、お前も俺につきあて、疲れているだろう?着替えの手伝いまでさせて、悪いな」

「こういう事は、お互い様ですよ。私が今の貴方のようになったときは、よろしくお願いしますね」
「わかった。だが、お前は俺に風呂の手伝いをされて大丈夫なのか?」

「…………」
「……っくく……その時は、今の俺のように安心して任せろ」


あれだけ甲斐甲斐しく世話をしておきながら、風呂の事を忘れていたのか、は目と口を開いて固まる。
すぐそばにあるポカーンとしたの顔に、セフィロスは肩を震わせながらその額に口づけた。
その唇を受け入れながら、数秒考えていたは、ふと気を取り直したように表情を直すと、少し遠くを眺める。

「初めて会った時、貴方には私の体を洗っていてますから、きっと大丈夫」
「意識があるか無いかで、大分違う気がするがな……それに、あの頃よりは、お前は色々と恥じらうようになった」

「ぅいっ!?」

何にも動じないと言いたげな、薄っぺらいやせ我慢を顔に張り付けるに、セフィロスは頬を緩めながら悪戯心が湧いた。
腕を動かす元気ははないが、口を動かすく体力は回復している彼は、真面目くさった顔をして窓の外を見る彼女の耳を軽く歯を立てながら食んだ。
瞬間、キリリとしていた彼女の顔が驚愕に変わると同時に、喉から変わった悲鳴が上がった。
反射的に逃れようと身を引いただったが、セフィロスの腕に阻まれ失敗した上、もたれかかる彼の重さでそのままソファに倒れる。
起き上がろうとするが、一緒に倒れたセフィロスの重さで身動きがとれず、けれど楽しそうに笑っている彼が彼女の上からどいてくれる様子はない。
それどころか、抱きこまれて下敷きになったが動けないのを良い事に、セフィロスはまた彼女の耳を弄び始めた。


「やっ、やめてください!昼間ですしリビングですし全快じゃないぁぅぅ……この助兵衛小僧が!破廉恥でございますぞ!」
「ああ、疲れた。、俺はもう少しお前に甘えていたい。だからこのまま逃げるな」

「だったら人の耳を食べるのをやめ……やっ…………ぬぉぉぉおおおおおお!やめろと申しておるのです!デブチョコボのおしゃぶりにしてやろうかー!?」
「落ち着け。俺が悪かった。それと、チョコボが相手なら、俺がいてもお前の方が食われる気がするが?」


頬を真っ赤にしながらふんぬふんぬ言っていた彼女から、とうとう気合いが入った叫び声が上がり、セフィロスは苦笑いして悪戯をやめる。
デブチョコボのおしゃぶりがどんなものかは知らないが、チョコボと聞いて思い出すのは、先日見た昔の写真でみつけた、頭をチョコボにパックリ食べられているの写真だ。
確か、学校行事か何かでチョコボファームに行った時だと思う。
タークスにいる若いのが、当時のの教え子なので、あの写真は彼らからの提供だろう。

耳を弄ぶのはやめたものの、体の上からどこうとしないセフィロスに、は苦しそうな顔をしながら溜め息をついて諦める。
このままうたた寝の続きをしてしまおうかと考えたが、流石に2m近い筋肉男を布団にして寝る苦行は嫌だった。


「セフィロス、どいてください。重いです」
「ああ。だが、もう少しこのまま休ませてくれ」

「重いから嫌です。レビテトをかけてもいいですか?」
「好きにしろ」

了承した途端、セフィロスの体がふわりと浮き、はすっきりした表情で体を起こす。
セフィロスも一緒に体を起こしたものの、その体はソファからも浮いてしまうから寛ぎにくくて、すぐに自分でディスペルでレビテトを解いた。
少しぬるくなった珈琲に手を伸ばし、まだ重く感じるカップに自分の疲労具合を思い知る。
一口、二口珈琲を飲み、膝の上にカップを置いてを見ると、気づいた彼女がセフィロスの手からカップをとってテーブルに戻してくれた。


「次からは、もう少し小さいカップにしますね」
「頼んだ。それと、もう少しお前で休みたい」

「……重いのは嫌ですからね」
「悪戯も、だな」


もう押しつぶさないでほしいと、その表情からも分かりやすく伝えてくるに、セフィロスはまた頬を緩める。
もう一度彼女の肩に腕を回し、その髪に口づけながら体を預けると、彼女が諦めて肩を落としたのを感じた。

散々悪戯されていながら、また同じ姿勢でいる事を許す彼女に、セフィロスは知られぬように笑みを零す。
久しぶりに聞いた気がする彼女の雄々しい叫びに、もう少しじゃれつきたくなったが、回復しきれていない今は無理だった。
前に耳で遊んだときは、もっと色気がある声を出してくれたのに、今日の叫びは完全に別人のようだ。


、お前は……本当に、その気がある時と無い時の反応がわかりやすい」
「何の事ですか?」

「……気にするな」
「…………?」


雄叫びの方が耳に馴染んでいる気がするのは何故だろうか。しかしそれは考えてはいけないのだろうと思いながら、セフィロスは窓の外へ目をやる。
屋根から滴る雪解け水が、地面の雪に落ちるペシャペシャという音を聞きながら、相変わらず早い日没に備え始めた空を眺めた。





イチャイチャしてるだけ……。

2023.07.03 Rika
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