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Illusion sand ある未来の物語 50 「この度は、うちの親達が本当にご迷惑をおかけしました」 「こちら、気持ちばかりですが、どうぞお召し上がりください」 「お気遣いいただいて、どうもありがとうございます」 「こちらも良い退屈しのぎになった。気にしなくて良い」 「そう言っていただけると助かります。救出していただいた上に保護までしていただき、大変ありがとうございました。ですが、まさか結婚間もないご家庭にお世話になっているとは知らず、迎えにも時間がかかってしまいまして、そちらの件につきましても、大変申し訳なく思っております」 「こちら、私の携帯番号になります。先代達の前では言いづらい事もおありでしたでしょうから、苦情がございましたら、遠慮せずにお電話ください」 「お考えになっているほど、迷惑はうけておりませんから、安心してください」 「念のため、番号は受け取っておくが、心配するほどの事は起きていない」 待ち合わせになっているミッドガル付近の山で、とセフィロスは、ルーファウスの息子と彼付きのタークスであるツォンの息子から、お詫びの包みと共に頭を下げられた。 どちらも母親似な上に、表情にも仕草にも父親達とは違う性格がにじみ出ている。 父親達は息子たちに対し、達との関係をたまに仕事を依頼する、年が離れた友人と伝えているらしい。 何処か慣れた謝罪の雰囲気に、セフィロスはちょっとだけ、彼らのこれまでの苦労が見える気がして、自然と父親たちへ視線を向けてしまった。 少し気まずいそうだが心外だと言いたげなツォンはまだ良い。 だが、軽く笑って面白がっているだけのルーファウスは…………いや、何も言うまい。 何かあったらまた連絡する事、異変を感じてから4日経っても連絡がとれなかったら様子を見に行く事をルーファウスと再度確認して、達は皆を見送る。 6人が乗ったヘリが見えなくなると、2人はフェニックスを召喚し、北東のゴブリンアイランドを目指した。 天然素材、ゴム不使用の水着を探すのは難しすぎる上に、あったとしてもコスタ・デル・ソルに取扱店があるか、あってもこのご時世の中で営業しているかわからない。 結局、今回は2人ともTシャツと短パンで泳ぐ事を決め、まっすぐ目的地へ行くことにしたのだ。 多分、そのうちルーファウスから今回の礼として、条件を満たした水着が届くか、製作可能な店にオーダーしに行くよう連絡が来るだろう。 「おや、包みの中身は串を打ってある肉と野菜ですね」 「俺たちがキャンプする事を、ルーファウスから聞いたんだろう」 「金属の串なのは嬉しいですね。貴方は、今回も釣りをなさるんでしょう? これに釣った魚を刺して焼けますね」 「そうだな。だが、その前に魔物の掃除だ」 フェニックスの背の上で、貰った包みを確認したは、その中身を嬉しそうにセフィロスに見せる。 家の台所に串がなかった二人は、現地で適当に作ろうと考えていたので、繰り返し使える金属の串は普通に嬉しかった。 の隠れ家があると言っても、素人が作ったものだし、場所は魔物の楽園である孤島で、しかもこの1年近く全く様子を見にいっていない。 魔物に占拠されるくらいは想定しつつ、テントでの野営を視野に入れて準備していた2人は、それほど期待をせずに水平線の向こうに見えてきた島を眺めた。 やがて近づいてきたゴブリンアイランドだが、浜を、平地を、森を闊歩するゴブリンの姿に、上空から見下ろしていたとセフィロスは顔を見合わせる。 ここの魔物も、溢れて大陸へ渡ってこないよう定期的に間引きがされていたはずだが、陸から離れた島は、戦力と人材不足のしわ寄せが大きく出ているらしい。 以前が来たときは少し多い程度だったが、繁殖力の強さと天敵がいないために、よけいに増えたのだろう。 駆除するのは問題ないが、せっかくの旅先で血の匂いに包まれながら寝食するのは嫌だ。 「この様子では、隠れ家は壊されて無くなっているでしょうね。平地と砂浜があれば楽しめるでしょうから、北の島の方にも行ってみますか? あちらの方が、砂浜が広くて波も穏やかです」 「かまわん。だが、このゴブリンを放置するのか? そのうち、駆除の依頼でまた来ることになりそうだが……」 「そうですね……では、セフィロス、貴方はレノに島の様子を送っておいてください。ここから撮影したものでかまいません。私は、カトブレパスを召喚して片っ端からゴブリンを石化してもらいます。必要なら、家に帰る前に正式な駆除依頼がくるでしょう。」 「わかった」 フェニックスに高度を落としてもらい、セフィロスにゴブリンの様子を撮影してもらいながら、島の上をぐるりと回る。 一通り撮影し終えると、は地上にカトブレパスを召喚して、現れるゴブリン達を石像に変えさせた。 ルーファウス達が放置でよしと判断すれば、そのまま石化を解除させ、駆除を求められるなら他の召喚獣に任せて石像を割ってもらうもりだった。 連絡のメールを打つセフィロスを横目に、はフェニックスに北の島へ向かうよう頼む。 更に北東へ進路を取ろうとしたフェニックスに、慌てて北西だと訂正すると、フェニックスは詫びるように小さく鳴いて、既にうっすらと見えている島へ向かう。 そこもまた、先ほどの島と同じくゴブリンで溢れていたが、今度は様子をみるまでもなくはシルドラを召喚し、雷と風のブレスでゴブリン達を遠い沖へと吹き飛ばさせた。 少しだけ砂と埃が舞って波が荒れたが、フェニックスがゆっくりと平地に降りる頃にはそれも収まる。 遠くまで運んでくれたフェニックスに礼を言い、荷物を持って地上に降りると、2人は揃って大きく伸びをした。 「思っていたより、ずっと暖かいですね」 「この服装だと少し暑い。すぐにテントを張って、着替えるぞ」 コスタ・デル・ソルに匹敵するほど広い砂浜と、そこよりも過ごしやすい気温、丁度良い湿気に、2人は頬を緩めて顔を見合わせる。 山も森もないこの島は、広い砂浜と草原の丘と崖だけで、だからこそ、魔物を一掃しやすかった。 丘の上は崖から吹き上げる突風が来るので、2人は風が少ない砂浜と草原の間にテントを張ることにする。 はさておき、セフィロスの身長でゆっくりくつろげるテントは、どうしても大型になった。 家にキャンプ用品などなかったが、テントはが昔購入した未使用アイテムがある。 時間が経ちすぎて生地がボロボロなんじゃないかと、セフィロスは昔飲まされそうになった変な匂いのエリクサーを思い出しながら考えた。 だが、ためしに家で出してもらったテントは、染色されていない布製でかなり質素だが、使用には問題なさそうだった。 気になる匂いは、ミントに似た爽やかな匂いに交じり、昔から感じた草原のような匂いがして、セフィロスは少し懐かしい気持ちになった。 久しぶりなせいで、時折間違えながらテントを張るの横では、セフィロスが焚き火の準備をする。 大人5人が使っても大丈夫だったとの言葉通り、のテントはセフィロスが使うにも十分な広さがあり、生成り色の布が島の雰囲気によく馴染んでいた。 だが、海風にそよぐテントの入り口に、セフィロスは作業の手を止めるとテントの生地を掴み、その薄さにへ視線をやった。 「、このテント、ずいぶんと薄い布を使っているようだが……」 「ええ。消耗品ですから、そういうものです。今は効果が無くなっていますが、元々は魔物除けの薬品が染み込んであったんです。まだ、少し匂いが残っているでしょう? 野営だと、交代で見張りをしていても、魔物の襲撃を受けてしまうので、基本使い切り。稀に運よくもっても2晩くらいでしたね。なので、安くて持ち運びやすい、薄い布が使われているんです。それに、この薄さなら、中から外の様子が透けて様子を見られるでしょう? あちらの世界は、ここのように交通手段が発達していませんでしたから、野営を前提に移動する人が多かったんです」 「そうか。だが、これでは、中で灯りを付けたら、逆に外から中が見えるな」 「ええ。ですから気にする人は、たしか、中に更に毛布をかけていた気がします。あとは、コテージもありますが、私の生まれた時の世界ではテントの方が一般的でしたね」 「俺が知るコテージは建物だが、お前が言っているのは違うものか?」 「いえ、おそらく同じですよ。以前『かとんのじゅつ』や『すいとんのじゅつ』を見せたでしょう? あんな風に、休みたい時にアイテムとして使うんです。頑丈な作りですが、こちらも使用できるのは一晩だけですね」 「意味がわからんん」 「おそらく、召喚魔法の応用だとは思うんですが……。では、明日か明後日、使ってみましょうか」 「そうか。頼む」 「ええ。では、私は中で着替えてきますね」 着替えを手にテントへ入ったに頷いて返してから、セフィロスは知られぬようにため息をつく。 前から思っていたが、彼女が言い出す事は定期的にセフィロスの想像を超えてくる。 以前は、そのうちのそういう言動にも驚かなくなる日が来るだろうと思っていたのだが、最近はそんな日は永遠に来ないんじゃないかと思えてきた。 今回は、というより、の世界の物に驚かされたのだが、建物が使い捨てアイテム扱いとはどういう事か。 が生まれた世界だからそんな風なのか、そんな世界だからがああなったのか。 にとってはマテリアやライフストリームの方がワケがわからないらしいので、多分どっちもどっちなのだろう。 今日の夕方か明日あたり、また意味不明なアイテムを見せられそうで、セフィロスはテントの中から聞こえる衣擦れの主をじとりと睨む。 布が透けて、綺麗なお尻が見えていた。 何故だ、とテントの布を眺めたセフィロスは、その向こうに出来ている影に、後方の太陽を見る。 雲一つない空に、遮るものが無い平地、強く照りつける日差しのせいで、薄い布は蚊帳程度の目隠しにしかならなかったらしい。 何も気づかずパンツのひもを結びなおしているに、水着の代わりは暗い色の下着でもよかったかもしれなかったと気づきながら、セフィロスは小さくため息をつくと手に持っていた自分のコートをテントの南側にかける。 の考え方なら、着替えを見られるのは普通に恥ずかしいだろう。 それに、彼女の後で、中で着替えるのはセフィロスだ。 お尻が透けた着替え姿をに見られるのは、セフィロスだって何だか嫌だった。 大きなテントにコート1枚では気休めにしかならないが、ないよりはマシだろう。 「セフィロス、何をしているんですか?」 「日差しが強すぎて、中が透けそうになっていた。念のためだ」 「……一つ伺いたいのですが」 「心配しなくても、影ぐらいしか見えていない。念のためだと言っただろう?」 「そうでしたか。ありがとうございますセフィロス」 「ああ」 疑う様子がない彼女に内心で胸を撫でおろすと、セフィロスはテントに背を向けて今夜の食材を確認する。 が抱えて持てるくらいのサイズの木箱には、底と側面に藁・布・雪が順に敷かれ、更にが作った氷が置かれて、中の食材を冷やしている。 ルーファウスの息子に貰った串と、家から持ってきた米と手鍋、水の容器と今夜の酒と、つまみに持ってきたチーズと生ハムのブロック。 夕食はそれで良いと考えたセフィロスは、昼食のお弁当があるのを確認すると、夏に農作業用にしていた折り畳みテーブルを出した。 軽い木材で出来ているテーブルは天板が野菜の汁で汚れいたが、クロスをかけてしまえば十分様になる。 水の入れ物とコップを出し、後は何があるだろうと考えていたところで、着替え終わったがテントから出てきた。 久しぶりに腕と足が見える服装の彼女を見つめ、セフィロスは変なブローチや靴下が追加されていない事を確認して安堵する。 何故か腿にベルトをして短剣を装備しているが、外にいるので武器の一つくらいは許す事にした。 普段、彼女は髪を結っても緩く三つ編みにするだけだが、今日は珍しくポニーテールにしている。 以前、髪の毛ビンタで自爆するので、頭の上で結ぶのは好きじゃないと言っていたが、この暑さで髪を上げる気になったらしい。 普段見られない姿を見られるのも、休暇らしくて良い。 そう一人でうんうん頷いているセフィロスに、は暫く首を傾げていたが、彼が何も言わないので大したことじゃないだろうと考えた。 「セフィロス、コート、どうもありがとうございました。どうぞ、着替えてきてください。上着を脱いでも、その服装では暑いでしょう?」 「ああ。水の容器を出しておいた。中身を入れておいてくれ」 テーブルの上の容器を指さすと、セフィロスはテントの入り口にかけてあるコートを羽織り、中へ入る。 入り口にかけるだけでも十分目隠しにはなるが、もし歩き回るが中が透けている状態を目にしたら、多分、羞恥で海から出てこなくなるだろう。 セフィロスも見られるのは普通に嫌なので、下はコートを羽織って隠しながら着替え、上はそのまま普通に脱ぐ事にした。 雪国用のコートは、羽織るだけでもすぐ肌が汗ばんでくる。 匂いがつくのはゴメンだと、手早く着替えたセフィロスは、払い落すようにコートを脱ぐと上半身に来ている服を一気にまとめて脱ぎ捨てた。 暑い。 そう思った次の瞬間、海から吹いた風がテントに当たり、ふわりと捲れた入り口から涼しい風がテントの中に入り込んでくる。 薄い生地の間からも風が入り込み、一瞬ふわりと膨れたテントは、下の隙間から風を逃がすと、静かに元の布の張に戻った。 夏に、この薄さなら良いかもしれない。 そんな風に思って、微かに頬を緩めたセフィロスは、脱いだ服を隅に寄せて軽く整えるとテントを出た。 |
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2023.05.22 Rika |
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