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Illusion sand ある未来の物語 49


外から聞こえる物音を無視しながら、は静かにペンを走らせる。
向かいに座ってパソコンを操作しているレノも、同じく自分の仕事に集中していたが、一際大きく響いた轟音には流石に顔をあげた。
ルーファウスとセフィロスもそれぞれ読書をやめ、2階からルードと若いタークス達が顔を出す。
続くように何度も風雪の壁にぶつけられる攻撃音に、流石のもため息をついてペンを置くとセフィロスを見た。


「流石に近所迷惑ですね。ちょっと黙らせましょうか」
「どうするつもりだ?」

「セフィロス、『とらえる』は覚えていましたよね。バハムートを出すので、北の大空洞でダークドラゴンを捕まえてきていただけますか?バーサクをかけて、壁の外に放っておきましょう」
「……ダークドラゴンか。試してみよう。もし見つからなければ、キングベヒーモスを連れてくる」

「ええ、それでおねがいします」
「……バハムートを呼んでくれ。すぐに出る」

北の大空洞の魔物をアイシクルエリアに連れてくるなと言いたげな周りの目を無視して、二人はさっさと話を決めるとそれぞれ準備する。
野生のモンスターがやるなら事故だといわんばかりの姿勢だ。
分厚いコートを着込んだセフィロスが家を出ると、少しして空から雷鳴のようなバハムートの雄叫びが聞こえ、しかし次の瞬間ギャンッという犬のような悲鳴が響く。
既にテーブルでペンを動かしているに変わった様子は見られないが、陽が一瞬陰ったかと思うと、頭に大きなたんこぶを作ったバハムートが、見たことないくらい静かに庭に降りてきた。
ぺたりと地面に伏せられた翼を足場に、セフィロスが背中に乗り込むと、バハムートはまた静かに上空へ飛んでいく。
外の襲撃者にも、バハムートにも容赦がないに、室内にいる全員の視線が向かうが、彼女は顔を上げることなく自分の作業に集中していた。



バハムートの雄叫びで襲撃者達は一度静かになったが、1時間もするとまた騒ぎを再開した。
魔物を捕まえてくるより、カトブレパスを召喚して石化させた方が早いのだが、はセフィロスに外で息抜きをさせたかったので、選択は間違っていないと思いたい。
だが、あまりに外の音が煩くて集中できなくなってきたので、は仕方なく風雪の壁の内側にもう1枚、氷の壁をつくって騒音を軽減させた。
いくらかましになった音に安心していると、またそれぞれが好きに時間を使いだす。


セフィロスが出かけてから約2時間。
シャワーを済ませたルーファウスの髪を乾かしてあげていると、凄まじい悲鳴が家の中まで聞こえてきた。
それは人間ではなく魔物の悲鳴で、驚いたタークス達がルーファウスをに任せて慌てて窓の外を確認する。
影が差した室内と、悲鳴と共に聞こえた羽音にバハムートの帰還を察したは、ルーファウスに櫛を渡すとウッドデッキから外へ出た。

上空から雪山の上へ、バハムートに乗ったセフィロスがゆっくりと降りてくる。
当然のように無傷で戻った一人と1匹だが、その一匹の爪に引っかけられている2匹の魔物は瀕死でもがき、『とらえる』を成功させているようには見えなかった。
右足にダークドラゴン。左足にキングベヒーモス。
わざわざ2匹捕まえてきた理由がわからず、は少しだけ首を傾げると、魔物をバハムートごと氷の部屋に閉じ込めた。

「セフィロス、お帰りなさい。『とらえる』は成功しなかったのですか?」
「いや、ダークドラゴンの捕獲は成功している。だが、何故かバハムートがあのキングベヒーモスを離そうとしない。仕方ないから、そのまま連れてきたが……バハムートに掴まれながら2匹が喧嘩をして、あの通りだ」

「あいつめ……。わかりました。では、ダークドラゴンは回復しておきましょう。ベヒーモスは……」
「……食ってるな」

雪山の上で大人しくするダークドラゴンの横で、バハムートはあろうことか勝手に連れてきたキングベヒーモスを頭から食べ始めた。
人の家の横を汚して捕食するバハムートに、セフィロスは不快感で顔を顰め、も命令違反に眉を顰める。
だが、ここで止めると食べかけを放置して逃げられそうなので、頭の上から氷の塊を落としてやるだけに留めた。

ベヒーモスとの喧嘩とバハムートの爪で傷だらけになったダークドラゴンに、は溜め息をつきながら回復魔法を使い、他におかしな様子がないか確認する。
だが、対するダークドラゴンは傷を癒やしてくれたに対し、怯えて目を見開きながらガタガタ震えて小さくなっていた。長く太い尾は足の間に入ってしまっている。
他の動物と同じ反応をするダークドラゴンに、は威嚇してこないだけマシと思っただけだが、セフィロスはあまりにも動物に好かれなさすぎるに驚く。
犬猫に嫌われたり、怯えられたりする人間は見たことがあるが、ドラゴンにまで怯えられる人間を見るのは初めてだった。召喚獣を見ても敵意を失わないドラゴンが恐れるなど、よっぽどである。

が人間からそんな態度をとられた事を見たことが無いセフィロスは、人間と動物での見え方はどう違っているのだろうと考えてしまう。
人より勘が鋭く本能的な警戒心が強いはずの自分や昔の友人達も、に会った時は普通だった。
だが、思い返せば、と街を歩いていて、野良の動物に出くわしたことは無いし、畑は不思議なほど害獣被害が無い。
けれど、害虫の被害はあるし、山を下りれば普通にモンスターに遭遇するので、生物全般に嫌われているわけではなさそうだ。

もしかして、可愛げがある生き物に嫌われているのか……?

しかしダークドラゴンは……いや、爬虫類好きにはたまらないし、多分慣れれば愛着は湧くから、可愛い部類に入るのかもしれない。
昔見たチョコボに頭を齧られていた姿を思い出してしまい、セフィロスはさりげなくから視線を外す。
バハムートは早くも食事を終えたようで、いつかオーディンのスレイプニルがしていたように、尻尾をガムのようにクチャクチャ噛んでいた。


「あちらは準備ができたようです。セフィロス、あなたの方は大丈夫ですか?」
「ああ。もう一度上から壁を越えて、少し降りたところでダークドラゴンにバーサクをかけて放つ。俺はすぐに戻ってくるつもりだが、殲滅した後のドラゴンはどうする?放っておくと、近くの家や別荘に被害が出るが」

「終わったら、バハムートに任せます。腹が減っていれば食べるでしょうし、そうでなければ大空洞に戻してくるでしょう」
「そうか。なら、行ってくる」

「ええ。お気をつけて。そうだ、念のため、顔や髪はかくしておいてください。帽子をしているので、大丈夫だとは思いますが……」
「わかった。前に預かった防具に目元以外を隠せるものがあった。それを使う」

の言葉に頷いたセフィロスは、再び羽を地面に付けたバハムートに乗り、ダークドラゴンを連れて空へ向かった。
それを見送ったは、氷の壁を消し、キングベヒーモスの血で赤く染まった雪山を敷地内の雪で覆い隠すと、寒さに身震いしながら家へ走る。
ウッドデッキにある小さな靴箱に履いていた長靴を仕舞うと、素早く扉を開けて家に入り、そのまま暖炉の前を陣取った。
すると、中で様子を見ていたルーファウスがすぐに温かい紅茶を差し出してくれる。
セフィロスが入れたものと違い、色も香りも味もちゃんとした紅茶だった。

「セフィロスは無事行ったようだな」
「ええ。ちょっとバハムートが食事をして待たされましたが、ダークドラゴンは無事捕まえて……」

外の敵に放つ予定です。
そう言おうとしたタイミングで、風雪と氷の二重壁を超えたドラゴンの咆哮が轟く。
目を丸くして肩を竦める仕草をしたレノは、実際にはさほど驚いていないようで、暖炉の前に座るにクッションとブランケットを差し出してくれた。
クッションを尻の下に敷いていると、手が空いているルーファウスがブランケットを肩にかけてくれる。
ありがたく甘えて紅茶に口をつけるだったが、外からは先ほどより小さいものの、バーサクで興奮したドラゴンの叫び声がひっきりなしに届いていた。

「セフィロスは、ダークドラゴンを放ったらすぐに戻ってくるそうです。ドラゴンの始末は、バハムートに任せていますから、外の集団が敗走か殲滅できれば静かになるでしょう」
「そうか。ならば、今日の夕食は静かにとれそうだ。あちらがこれに懲りてくれれば良いが……」

「その時は、また適当に相手をして、WROに何とかしてもらいます」
「それが良いだろう。どうやら、セフィロスが、帰ってきたようだ」

再び陰る陽に、バハムートの背から地面に降りるセフィロスの姿を確認したルーファウスは、彼の分の紅茶を用意しに台所へ行く。
タークス達は自分の仕事に戻って良いと指示されたが、レノは外がうるさくて集中できないと言って、シャワーを浴びに行ってしまった。

大成功しているらしい騒乱に、セフィロスも少し顔を顰めながら家に入ってくると、軽くリビングに顔を出す。
自分でソファからクッションを持ってきたセフィロスは、薪を足していたのクッションの隣に腰を下ろした。
冷えた指先を暖炉に当てて温めていると、ルーファウスが紅茶を差し出す。
ありがたくそれを受け取り、カップで手を温めたセフィロスは、ほうと大きく一息つくと、静かに紅茶に口をつけた。


「ルーファウスの紅茶は、お前が入れた紅茶に似ているな……」
「……セフィロス、普通はそういう味になるんですよ」

「………………」
「時間通りに蒸らしたら、こんな風になりますからね。今度暇な時、一緒にやってみましょう」

疑いの目を向けるセフィロスに、は苦笑いを返すと自分の紅茶を飲む。
暫く暖炉の火を眺めながら温まっていると、騒音は徐々に収まり、氷の壁のおかげかたまに大きな物音が聞こえるだけになった。


「セフィロス、眠いなら、寝室に行きましょう」
「……いや、その前に、埃を落としたい」

「わかりました。じゃあ、行きましょう。浴室を温めますから」
「頼む」


コクリ、コクリと船を漕ぎだしたセフィロスに、は小さく笑うと手を貸して立ち上がらせる。
寒い中で働き、家に帰って温まっていたせいで、身も心も緩んでしまったのだろう。
脱衣所と風呂場の温度を上げ、浴槽に半分ほど湯を張ると、はセフィロスの着替えを手伝って風呂に送り出す。
下着とバスローブだけを準備し、寝室と布団の中を温めると、彼女はリビングへ戻った。
魔法の教本づくりを続けるか迷ったが、ルーファウスが一人で窓の外を眺めている姿に、出しっぱなしにしていたノートやペンを片付ける。
暖炉前に置き去りにしていたクッションを戻し、ブランケットをソファの背もたれにかけなおすと、は空になったカップを片付けてルーファウスの傍に行った。


か。セフィロスは入浴を?」
「ええ。多分、出たらそのまま昼寝してしまうと思います」

「そうか。セフィロス……本当に変わったのだな。いや、本来の姿に戻ったというべきか」
「さあ……私には、彼はずっと変わっていないように見えていますから、どうでしょうか」

ぽつり、ぽつりとルーファウスが語るのは、先ほどのセフィロスの様子があったからだろう。
昔を知る者にとって、セフィロスは持て余す憎悪に捕らわれていた姿が印象強く、それ以前の姿は忘れられがちだった。
時が流れた今、ルーファウスの記憶力をもってしても、それは遠い夢を思い起こそうとするような感覚だった。

「セフィロスが、我々にあれほど無防備な姿を見せてくれるとは思わなかった」
「同じ家の下で過ごしていて、何を言っているんですか。今更、ですよ」

「そうだな。お前が言う通りだ。だが、、かつてセフィロスを狂わせたのは我々神羅だ。そして、それによって変わり果てた世界への責任も、我々にある。我々は長い間その借りを返し、これからも返し続けなけれならない。だが……身勝手な事だが、セフィロスが我々の前に無防備な姿を見せた時、少しだけ許されたような気になってしまった。……、私を哀れと思うか?」
「いいえ。ただ、相変わらず背負いすぎだとは思いますね。もう隠居をなさっているのですから、その荷物も御子息に預けて、もっと身軽になって良いと思います」

、私はお前が思っているより子煩悩だ。可愛い息子に、私の負債を背負わせたいとは思わない」
「ご自分のようにですか……。ですが、貴方の御子息は、性格はさておき、本質は貴方にそっくりだと思いますよ。信頼しているなら尚の事、少しくらい、預けてみてもよろしいのでは?」

「そうだな。だが……妻に似たあの顔を見ると、つい甘やかしてしまいたくなる」
「そんなに奥方へ未練があるなら、今からでも口説きなおしてはどうですか?」

「別れた夫が死んだと思ったら若返って会いに来る……何処かの映画のようだな。それに、彼女はもう他の男と一緒に静かに暮らしている。私の出る幕ではない」
「ああ、とうとうそうなりましたか。もしかして、貴方がつけたあの男ですか?」

「その通り。私の葬式の暫く後、籍を入れたらしい」
「そうですか。貴方の願った通りになりましたね」

「ああ。やっと肩の荷が一つ降りた気分だ」
「……お疲れ様です」

別れた妻に陰から援助するのは理解できるが、精神的に支えるための男まで用意し、思った通りの結末を手に入れたルーファウスに、は呆れきった目を向ける。
愛情どころか執着、もはや妄執ではないかと思ったが、一応誰も被害は受けていないので、強く苦言を言いにくい。
何や誰が悪いという事ではなく、単にルーファウスが選んだ女性が、普通のか弱い女性だったために、神羅という重荷に潰れかけただけだ。
離婚して解放してやったと言いながら、住む場所、仕事、こっそりとつけた護衛、果てはその後の恋人と結婚相手まで手配しているのだから、この男もかなり異常だとは思う。

は一度だけルーファウスの元妻を見たことがあったが、確かにそれぐらいしなければ生きて行けなさそうな、か弱さと儚さが服を着て歩いているような女性だった。
むしろ最初から妻にしてやるなよと思っただったが、結婚して暫くするまでは、健やかで茶目っ気がある女性だったらしい。
それを聞いて、ルーファウスが凄く酷い男に思えたのだが、彼だって意図した事ではなかったので、は何も言わなかった。
慰めに、何処かにルーファウスの眼鏡に適う美人で、メンタル爆強の女はいないだろうかと探したりしたが、神羅の存在が重すぎてシヴァくらいしか見つからなかった。
流石に紹介はしなかった。


、ここに来て、私は久しぶりにセフィロスが羨ましくなった。私にも、お前のような強い女性が隣にいてくれたなら……すまない。、いまのは忘れてくれ」
「……まあ、許してあげましょう」

願望を漏らしてしまったというより、このレベルの図太さは嫌だといった顔で否定したルーファウスに、は思うところがありつつ許してやる事にした。
だって、ルーファウスのような意地悪くて愛情が屈折どころか湾曲してトグロを巻いている男は御免である。
昔はなんだかんだで懐が深い男だと思っていたし、それは一応今も変わらないのだが、元妻の件で、まかり間違ってこの男に惚れるような事にならなくて良かったと心底思った。
最初からを離さないでいてくれていたセフィロスへの愛情が増した。

夕食まで時間があるからと、ルーファウスは映画を見始め、は魔法の教本作りを再開する。
暫くすると、入浴で眠気が覚めたセフィロスがリビングに戻ってきて、に髪を乾かしてもらいながらルーファウスと映画を見始めた。
タークス達ものんびりとではあるが仕事を再開し、ルードは早くも地下室から夕飯の食材を運び始めていた。

外のダークドラゴンは移動したのか、悲鳴や雄叫びが上がる場所が南から西へ変わっている。
多少の騒音はあれど、大人数でゆっくり過ごせるのも今日が最後だ。
明日は朝から弁当を作り、その後ルーファウス達を送り届けなければならない。

せっかくだから、帰りは何処かに立ち寄って小旅行しようとセフィロスと話したのは昨夜の就寝前。
だが、当然今はどこも平和とはいいがたく、結局が春か夏に、と希望していたゴブリンアイランドの砂浜で、数日楽しむ事にした。
神羅が武装集団をどうにかしない限り、この家はまたすぐに包囲され、騒音被害に悩まされることになる。
遠出のついでに旅行するぐらいは許されるはずだ。

は水着などもっていないので、途中コスタに立ち寄ってセフィロスが選んでくれる話になっているが、それから彼は色々な水着を検索して悩んでいる。
調べたところで、現地で売っていなければ意味がないのだが、形だとか素材が色々あるらしい。
繊維によって肌荒れを起こし、ゴムだけでも痒くなるの水着探しは大変で、急な思い付きの旅行を了承したことを、は少しだけ申し訳なく思った。

「セフィロス、条件に合う水着がないのでしたら、無理なさらなくて良いんですよ?」
「だが、お前は楽しみにしているだろう?」

「そうですが……水着を着なくても泳ぐ事はできるでしょう?2人だけなのですから、誰かに咎められる事もありませんし」
「……は!?」

「ああ、勿論、この冬物で泳いだりはしませんよ?夏用の半袖シャツと短いズボンがありますから、濃い色を着れば透けませんし、大丈夫だと思います」
「………………ああ、そうだな」

水着を着ないと言われ、思い浮かんだ光景に目を見開いて驚いたセフィロスは、続く彼女の言葉に遠い目になると小さく呟いて水着探しを再開する。
向かいのソファで話を聞いていたルーファウスは顔を背けて肩を震わせ、ダイニングで仕事をしていたレノからはセフィロスへ励ましの言葉が飛んできた。
もしや、この世界では着衣遊泳は駄目なのだろうかと、は首を傾げながら皆の反応を見る。

素直にセフィロスに、おかしな事を言ったか聞こうと思ったが、彼は急に疲れた顔になってしまっていて、話しかけられる雰囲気じゃない。
なら別の人に聞こうかと周りを見るが、ルーファウスは笑っているし、レノは仕事を再開し、台所のツォンとルードはあからさまに顔を背ける。
では残る二人に、と振り返ると、階段に座ってパソコンを操作していたタークスの若い二人は、観念した顔で手招きしてきた。

「すまない、私は何か失言したのだろうか?水着以外の着衣水泳は、もしかしておかしいのか?」
「いえ、Tシャツ短パンで泳ぐのは普通にありますよ。でも、その前の発言が問題ですね」
さん、自分が言ったこと、思い返せる?あれだと、水着を着ない=全裸で泳ぐ、だって2人きりだから誰にも怒られないしOK、って受け取れちゃよ」

「……全…………は?」
「まあ、さんの性格なら、誤解ってわかりますけど、可愛い奥さんに言われるんだから、男なら一瞬そう思っちゃいますよ」
「そこは素直に謝った方がいいと思うよ。まあ、本当に裸で泳ぐのも人によってはアリだけど、そこはちゃんと2人で話し合って決めなよ」


携帯電話の操作方法を教わった時と同じ顔で、ゆっくりと指摘してくれる若い二人の言葉に、は驚愕して目を限界まで見開く。
震える声で二人に礼を言い、ゆっくりと振り返って見れば、疲れた顔のセフィロスが緩慢な動きで携帯を操作していた。
ニヤケ顔のルーファウスが様子を見ているが、あいにく今のの視界には入っていない。

誤解を解いて謝らなければ。
それだけを考えるは、フラフラとした足取りでセフィロスの傍へくると、絨毯の上にぺしゃりと腰を落とし、手を止めたセフィロスのズボンを掴む。

「セフィロス、聞いてください。先ほどは誤解を与える言い方をしてしまいました。すみません」
「わかっている。わざとじゃないのは分かっている」

「水着が無くてもシャツや短パンで泳ぎます。全裸で泳ぐという意味で言ったじゃないんです。2人だけでも、外で全裸にはなりません!私は痴女じゃないんですー!」
「そうだな。それも良くわかっている。大丈夫だ」

膝に縋り付いて叫ぶに、セフィロスは疲れた顔のままその肩をポンポン叩き、ルーファウスは変な声を上げて笑う。
何でも我慢して着るから、おかしな女だと思わないでほしい。
そう言って膝に顔を埋めてきたに、セフィロスは携帯をテーブルに置くと、とりあえず飲みかけの珈琲で口の中を潤した。
未だ笑っているルーファウスは、セフィロスの膝でまだ何か呻いているを、面白くて仕方ないという顔で見て、セフィロスに視線を移しまた愉快そうに目を細める。


「セフィロス、無理を承知で、一つ言わせてくれ」
「ろくでもない事か」

「もう少し滞在して、お前たちのやり取りをみていたい」
「帰れ」








2023.05.18. Rika
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