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Illusion sand ある未来の物語 48 お説教(?)が終わってリビングに戻ったは、セフィロスに見張られながら、目を覚ましたツォンに頭を下げる。 ツォンは苦笑いして許してくれたが、ホッとしたにはまだセフィロスからのお小言が残っていて、二人は暖炉の始末をタークス達に任せると早々に寝室に戻った。 タークス達はこの後も情報収集や打ち合わせをするらしく、リビングの方からは彼らの気配がする。 けれど、時刻はもうすぐ達の普段の就寝時間だったので、二人は再びのお説教タイムの後、寝支度を整えるとベッドに入った。 「、念のため確認しておくが、もし俺がルーファウス達を連れ帰ることに反対した場合、どうするつもりだった?」 「貴方と使う予定だった逃亡先のいくつかを提供するつもりでしたよ?ここより狭くて、本当に二人なら生活できるという程度の家ですが……」 「奴の他のアジトも全て潰されていただろう。お前が用意している場所が無事とは限らないとは思わないか?」 「どこも、この家と同じかそれより僻地にありますから、無事だとは思うのですが……もし駄目だった時は、情勢が落ち着くまで次元の狭間に隠れてもらっていたかもしれませんね。あそこには、もう魔物も何もいませんから」 「……、何があっても、それだけはやめてやれ」 「ええ、もちろん、これは最後の手段ですよ」 「違う。そもそも手段として念頭におくのをやめてやれ。あの空間は、お前が思っている以上に辛い場所だ」 「そう……ですか?わかりました。覚えておきます」 やっぱりこの女、次元の狭間への避難を考えていたのかと思って、セフィロスはルーファウス達を連れ帰る決断をした自分を心の中で褒めた。 長い間そこにいたせいでは麻痺しているようだが、時空が歪んでいる場所なんて普通に恐怖だ。 セフィロスは精神力や諦めで色々振り切れているから割とケロリとしていたが、ルーファウス達にはせいぜい1日が限界だろう。 彼女は閉じ込められる前でも、強大な敵を倒すため、仲間と共にかなりの期間をあそこにいたと言っていたが、そういう目標がない限りは長く滞在はできないと思う。 のこの『無理そうだけど仕方ない』思考も、そのうち直さなければ……直るのだろうか? そんな事をぼんやり考えながら、セフィロスは眠気に身を任せてゆっくりと目を閉じた。 翌日、朝食を終えたタイミングで、とセフィロスはルーファウス達に呼ばれてソファに腰掛ける。 食事の片付けはレノが請け負い、若いタークス二人は風で曲がっていたらしいテレビのアンテナを直しに外へ行っているため、座る場所には困らない。 ソファには、、セフィロスに対面するように、ルーファウス、ツォン、ルードの順で座っていた。 老体組には、立ちっぱなしの仕事はあまりさせていないらしい。 軽い情報共有と今後の打ち合わせだろうと予想していた二人は、ツォンが差し出したタブレットに表示された、襲撃を受けた場所の地図にちらりと目をやった。 場所はミッドガル付近が一番酷く、次にジュノン、そしてニブルヘイムだ。 どう見ても神羅と深く関わった土地ばかりだが、ただの限界集落と化したニブルヘイムまで襲う理由は不明だった。 まだ何か隠しているのかとルーファウスへ目をやったセフィロスだったが、対するルーファウスの表情は変わらない。 ならば、は何か知っているのかと視線をやるが、彼女は彼女で、すごくどうでも良さそうな顔をしてツォンへと視線を向けていた。 そんな顔になる気持ちを少しだけ理解しながら、セフィロスもツォンに視線を向けて説明を求める。 昨夜、タークス達はかなり遅くまでリビングで情報を集めていたようだが、老体組は早く休まされたらしく、その顔に疲れは見えなかった。 地図から動画へ画面を変えたツォンに、促されるまま画面を見れば、謎の化け物を従えた男たちが何やら演説をしている。 それが、先日家づくり番組を妨害した映像だと気づいただったが、彼らが話す言葉はモソモソしている上に音割れしていて、まったく理解できなかった。 ただ、やたらと腕にネクタイ巻きした紫色の布を強調し、目を輝かせて楽しそうなので……演説しながらオシャレ自慢だろうか? 「見ての通りだ。二人は、これをどう思う?」 「正直、あの紫の布は私でもダサいと思います」 「お前に言われるなら相当だな……」 「……同意するが、私が言っているのは、奴らが言っていた内容についてだ」 「そこは聞き取れなかったので、説明していただいてよろしいですか?」 「音割れしていた上に、強いコスタ訛りだ。俺もほとんどわからん」 「……そうか、では、説明しよう」 地方の中でも特に癖がある方言だったので仕方がないと言うと、ツォンは動画の内容をかいつまんで説明する。 当初の予想通り、この一連の騒ぎは動画の新興勢力が起こしたもので、世界中を一斉攻撃したらしい。 ディープグラウンドソルジャーの騒ぎを思い出させたが、今回の件と決定的に違うのは、彼らの目的が殺戮ではなく全人類の進化だという点だ。 彼らの目的は、今の人類をより進化し完璧な人類にする事。 未だ荒廃する世界を、失われた英知によって進化した人類の力を結集し、より豊かなものにする。 その思想の元、全人類をソルジャーのような優れた人類に進化させ、やがては英雄セフィロスのような完璧な存在になるつもりらしい。 まるで過去の神羅をなぞるように、人体を使った様々な実験を繰り返し、それによって生まれた兵士を使って今回の騒ぎを起こしたようだ。 中には、人とモンスターを掛け合わせたような姿をした者さえいて、今見た映像の中にもいた。ちなみに一般人からの受けは当然最悪らしい。 彼らの目的は旧神羅の技術遺産であり、少しでも知識がある可能性があれば手に入れようとしている。 演説は、そのような知識の情報があれば提供してほしい旨と、旧神羅の技術を秘匿し独占し続けるWROと神羅への宣戦布告。 ルーファウスへの襲撃は秘匿技術の手がかりを求めて。 セフィロス達への襲撃は、英雄の孫が持つセフィロスの遺伝子情報と、当時の研究に関する資料を求めての襲撃だろうと、ルーファウス達は結論づけた。 この手の輩は消えないのだろうかと、呆れて溜め息をつくセフィロスの横で、は天井を見上げて少しだけ思案する。 一瞬ルーファウスに視線を向けた彼女は、すぐにセフィロスに視線を移し、そのまま暫く考えたかと思うと、何やらうんうん頷き始めた。 「で、いつ消しに行くんですか?」 「落ち着け。今はまだ家を囲まれているだけだ」 「貴方の身を狙っているのです。十分に不愉快です」 「そうだな。だが、下手をすると俺たちがWROに目をつけられる。こういう時は頭が良い奴に任せておけ」 予想通りの発言をするを適当に諫めて、セフィロスはルーファウスへ目をやる。 何故か微笑まし気な顔で見ていたルーファウスは、ツォンに視線で先を促し、一人だけ優雅に珈琲を飲み始めた。 件の組織には、当然WROが対応している。 現在は多少押されているものの、既に体制は立て直しつつあり、近々反撃を開始する準備をしているらしい。 ルーファウスの息子とは昨日の昼のうちに連絡をとり、無事を確認しているそうだ。 あちらも手酷く襲われたらしいが、ようやく持ち返して、これからWROを全力で援護するらしい。 ルーファウス達の行動は、意外のようで予想通りな『静観』だった。 確かに狙われて嫌な目にはあったが、今の問題は今の世代に対処させるという方針は変わらないらしい。 もし、それで力及ばず、再び世界が災厄にみまわれるなら腰を上げるが、それまではまた何処かへ隠れ静かに見守るというのが、ルーファウスの望みだった。 ならばこちらも、既にいなくなった英雄の陰として、ルーファウスが動くまで静かに様子をみるべきだろう。 そう思ったのはセフィロスだけで、向こうが彼を狙っていると知ったは完全に殺る気な目をしている。 家を囲んで不自由を強いている一団くらいなら、好きにさせて気を晴らさせても良いだろうか……。 そんな事を考えていたセフィロスだったが、急にの魔力が大きく揺れ動くのを感じて、驚き振り返る。 まさか始末しに行くのかと一瞬考えたが、彼女はソファに腰掛けて腕を組んだままで、自身の魔力の揺れをおやおやと言った顔で眺めている。 魔力の揺れは少しすると静かに収まったが、一同は固唾をのんでを注視していた。 「今、誰かが私を召喚しようとしたのですが……ルーファウス、私のマテリアは、今どこへ?」 「伝えるのが遅くなったな。あれは、後継問題で揉めた後、お前に言っていた通り私の棺桶に入れておいた。だが……どうやら、それを暴いた人間がいるらしい」 「埋葬から1年も経たない墓を暴くなんて、よっぽどですね。今の召喚は、ゴールドソーサーでされたようですが、貴方のお墓はそちらに?」 「まさか。私は、あのような騒がしい場所で眠る気はない。ゴールドソーサーはまだ営業停止中だ。、お前が加わった摘発で経営者が逮捕され、売りに出されていたが買い手がつかないままだった。封鎖が長すぎて、どうやら鼠の巣になったようだな」 「私のマテリアはあとで回収して、また隠しなおしてくださいね。良い場所がないなら、鉛で固めて海の底へ沈めておいてください」 「悪かった。後で息子に伝えておこう」 墓を暴かれたという事は、ルーファウスの死が偽りであることもバレたという事だ。 そこはどうするのだろうと思って聞くと、遺言により遺体は火葬して灰を海に撒いたため棺桶には遺品を入れた設定らしい。 それなら棺桶を開けるハードルは下がるし、偽装した死もバレないと納得したは、再び話を始める雰囲気になったツォンに視線を移す。 「、君に伝えることがまだいくつかある」 「……心当たりはないのですが……気づかないうちに、何かしてしまいましたか?」 神妙な顔をするツォンに、は昨夜のセフィロスの説教再びかと、表情を硬くする。 隣から向けられるセフィロスの視線が痛く、変な汗をかいていると、気づいたツォンが和ませるように微かに表情を緩めた。 「君が、セフィロスを蘇らせようと決意したきっかけの物を覚えているだろうか。何者かが作っていた、ジェノバ細胞と君の砂を合わせて作り上げた魔力増幅アイテムだ」 「もちろん覚えていますよ。セフィロス、去年お話していたのですが、覚えていますか?」 「ああ」 「そのアイテムを作っていた者達は、この襲撃犯と同じ組織だ。ソルジャーが持つジェノバ細胞を研究する過程で、たまたま手に入れた君の砂によって出来た副産物が、あの魔力増幅アイテム。そして、それは今も使われている」 「そうでしたか……。砂が残っているのは分かっていましたが、髪の毛数本程度と思って気にしませんでした。ご迷惑をおかけしてすみません」 「ソルジャーの細胞はどう手に入れていた?まさか、そちらの墓荒らしまでしていたのか?」 「そのまさかだ。暴かれたのは2nd以上のソルジャーの墓と、ディープグラウンドソルジャー達の合同墓地。それに、今生き残っている彼らの何人かが、協力しているという情報もある」 「進化を謳っているくせに、やる事が墓荒らしなんて、ちょっと卑しいですねぇ……」 「それらの墓は土葬だろう?よくやるものだ……」 「彼らにとっては宝の山だ。かの組織は既に、死体と生体から採取し培養したジェノバ因子を持った細胞を持っている。再びソルジャーが作り出されるのも、時間の問題だろう」 「そうですか。私は動こうとしてもセフィロスに止められそうですから、ここは若い世代には頑張ってほしいですね」 「理解ある妻で安心した。珈琲を入れてくる。他に飲みたい奴はいるか?」 大変そうだな〜と、完全に他人事な顔になったに、ツォンとルードの肩から若干力が抜ける。 セフィロスはそれを見ても全く気にしない顔で、自分とのカップを持つと、ルーファウスが差し出したカップを受け取って台所へ向かった。 シンクを磨いていたレノが、セフィロスに味も香りもない紅茶を求めて、軽く足を蹴られている。 それを小さく笑って見ていたは、まだ何か言いたそうなツォンと数秒見つめあうと、観念して先を促した。 「君の砂を集めた事で、あちらの情報を事前に得られた。WROと神羅が崩壊せずこの短期間で立て直せたのは、その情報が要素の一つだったことは間違いない」 「たまたまでしたが、お役に立てたのなら何よりです」 「事態の収拾は、当然今の世代の仕事だ。だが、彼らはセフィロスを狙っている。追いつめられれば、手段は選ばないだろう」 「では、まだ暫く防御を固めておきましょう。しつこいようなら、適当なところに逃げますから、ご心配なく」 「君なら、それくらいで良いのだろうな。だが、セフィロスの傍にいる君も、確実に目を付けられるだろう。もしかすると、すでに目をつけられているかもしれない。逃亡する場所には注意をした方がいい」 「ありがとうございます。覚えておきましょう」 「それと、逃亡先は、社長と連絡をとれる場所にしてもらいたい。知っていると思うが、こう見えて……」 「お話好きの寂しがりですからねぇ……」 「セフィロス、聞いていたか?私は、この通り良き理解者に恵まれている。自慢させてくれ」 「そうか。よかったな」 照れるどころか堂々と認めてみせたルーファウスに、とツォンは小さく苦笑いして顔を見合わせる。 全く相手にせずに珈琲を渡したセフィロスに、ルーファウスは残念そうな顔で肩を竦めて見せると、呑気に茶菓子にまで手を伸ばしていた。 台所の掃除を終えたレノと、屋根のアンテナを直し終えた若いタークスが戻ってくると、ツォンの口からルーファウスの移動先について伝えられる。 どうやら昨日息子と連絡を取った際に、ジュノンにある息子の別宅を貸してくれる話になったらしい。 新婚の友人の家に世話になっていると言ったら、すぐに動いてくれたとルーファウスは笑っていた。 ただ、向こうもルーファウスを迎える準備には数日かかるため、3日後にミッドガル近くの山まで迎えに来てもらうそうだ。 「、手間を取らせてすまないが、あちらから連絡が来たら、私たちを送り届けてくれないだろうか。できるなら、シヴァが持つ馬車へ同乗させてもらいたい」 「もちろんいいですよ。それに、今回の件で、シヴァの馬車が一番安全で安心だと分かりましたからね……」 幌はないが、風避けの魔法はつけてくれるし、凍えないよう座席の冷気も感じないようにさせてくれる。 クッションは持ち込んだ方が良いが氷の座席は安定していて、ソリのように振動がないから長時間乗っていても体に普段がかからない。 何より、リヴァイアサンのように背に乗っている人間を無視して急加速しない。 バハムートのように気になったものに突っ込んでいかない。 オーディンとフェニックスも乗せてもらって安心はできるのだが、彼らの背や馬の上は狭くて大人数では乗れなかった。 シヴァの馬車も広くはないのだが、魔力の提供量次第で台数を増やしてくれるので、大人数での移動には適していた。 そもそも召喚獣は移動手段ではないが……。 大方の方針を決めると、各々自分たちが好きなことをするために動き出した。 ツォンはパソコンを手に、レノはから借りた携帯とタブレットを持って、ダイニングのテーブルで仕事を始める。 ルードは少し休むと言って2階に向かい、は若いタークスから洗濯機の使用を求められ、彼らを洗面所に連れていくことにした。 戻ってくると、セフィロスとルーファウスはソファに留まり、テーブルの下に仕舞っていたチェス盤を出して勝負を始めている。 使われているダイニングテーブルと、まだ9時を過ぎたばかりの時計を見たは、少し外で体を動かそうと決めて剣を手に家を出た。 家の横にある雪山の上に氷の部屋を作り、剣を構えて精神を整えると、無心で剣を振るいだす。 暫くそうして剣を振っていたが、物足りなさにオーディンでも呼ぼうかと思い始めた頃、東側の氷の壁が大きな音を立てて破壊された。 「……おや?セフィロス、どうしました?」 「昼食の時間だ」 「もうそんな時間でしたか。すぐに行きます。もしかして、貴方お一人に準備をさせてしまいましたか?」 「いや、レノとルードがオムライスを作った」 「ほう……では、軽く汗を流してからいただきます」 「そうしろ。先に戻っているぞ」 政宗を手に腕時計を見せたセフィロスに、は自分の剣を仕舞う。 蘇りの準備中に料理を教えてくれた先生達が作ってくれたという料理に、は素早く氷の部屋を消すと、セフィロスの後を追って家へ走った。 |
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br> タークスって全員料理できるイメージが勝手にある。 2023.05.17 Rika |
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