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家の周りを覆う天上まで聳える土煙の壁に、ルーファウス達は呆れながらリヴァイアサンの背に乗る。 巨体が動き、上空へと一気に登るが、視界が遮られているおかげで辺りの山や畑の影から銃弾が飛んでくるようなことはなかった。 宝石のように輝く尾や鰭を優雅に風に泳がせて、自称大海の覇者は遠浅の海に似た空へ舞うように駆け上がる。 後を追うフェニックスの背には、とセフィロスがいるが、二人の顔は余裕どころか、今まさにリヴァイアサンから振り落とされそうなレノ達を見て蒼白だ。 慌ててバハムートに乗り換えさせようと呼び出したが、血気盛んなバハムートは、何故か攻撃のために呼ばれたと勘違いして山々に隠れる襲撃者達へ向かっていく。 余計に騒ぎを大きくした大型羽付きトカゲを忌ま忌まし気に見捨てると、はシヴァとオーディンを呼び出す。 状況を見た2体はが説明するまでもなくルーファウス達を保護し、たちの元へ、あるいはシヴァが作った氷の馬車に乗せてくれた。 そんな騒ぎを尻目に、悠々と去っていこうとするリヴァイアサンを、が放ったエアロガが二つに裂くと、巨体は悲鳴を上げて霧のように消えていった。 問題児の召喚獣に引っ掻き回された状況が落ち着き、一同はホッと息を吐く。 だが、フェニックスの上で何気なく辺りに目をやったレノは、ハッとしてそこにいる面子を確認すると、焦った顔でバハムートの戦闘が行われている地上を見た。 「やべ!ルード忘れた!」 「オーディン、頼む」 脱出するとき全員乗ったと言っただろうがと、小声でレノを咎めると、はオーディンに回収を頼む。 オーディンは小さく頷くと、すぐさまスレイプニルの腹を蹴り、降下しながら土煙の壁を突き破っていった。 Illusion sand ある未来の物語 46 ミディールから脱出した達は、地上からは見えない高度を飛びながらアイシクルエリアを目指す。 情報収集がしたいと言うツォンの頼みに、は彼とその後輩のタークス2人を連れて、ジュノンを目指し北へ進路をとった。 残るセフィロス、ルーファウス、レノ、5分くらい前にオーディンによって回収されて合流したルードは、南から北の大空洞を突っ切る進路で帰路に就く。 ついでに、電気屋と寝具屋での買い物を頼まれた北組は、夕方到着を目標にジュノン海上を目指した。 海の上でシルドラを召喚し、フェニックスに礼を言って乗り換える。 初めて見る海竜に驚くツォン達は、白く美しい竜の背に乗ることを期待していたが、当たり前のようにシルドラの口を開け、中に入るの姿に表情が死んだ。 暖かく湿った海竜の口の中で海を越えた4人は、ジュノン近くの浜辺で地上に降り立ち、集合時間を決めて解散する。 ジュノンのWROや神羅支社で情報収集と共に家族の安否を確認する予定のツォン。 友人関係を使って情報を集めるという若いタークス達。 電気屋と寝具屋で買い物する。 ジュノンも襲撃を受けているのだから、店は開いていないのではないかというタークス達の言葉に少し考えただったが、とりあえず行ってみて、駄目なら郊外の店を探してみることにして解散した。 道路標識の案内の通り、ジュノンの真正面から向かったに対し、タークス達は別の入り口を知っているのか姿を消してしまった。 大きな町は、こんなご時世でも交通量が多く、更にエレベーター前は治安維持のために封鎖措置がされているようだ。 どうやったら上に行けるか聞いておこうと足を進めたは、しかし封鎖戦前にいた集団に止められてしまった。 「待て。何処へ行く?ここから先は立ち入り禁止だ」 「買い物をしに上へ行きたいのですが、他の入り口はご存じありませんか?」 「あるなら俺たちも聞きたいくらいだな。だが、もしあっても、俺たちが使う。あんたは家に帰って、大人しくしとけ。戦場は危ないぜ?」 「そうですか。では、この辺りで蛍光灯と寝具を買える場所をご存じありませんか?」 「あんた、ニュースを見てないのか?いまここは戦場なんだ。この辺りの店なんか全部閉まってる。でもまあ、俺たちが上を制圧できたら、あんたには特別に早く店を使わせてやっても……って、おい!聞いてんのか?!」 必要なものが調達できないと知ると、は礼もそこそこに封鎖線から離れた。 エレベーターが使えないなら仕方ない。 手っ取り早く気配を消して、レビテトとエアロで飛ぶ事に決めると、は人ごみに紛れ、建物の陰を縫い、海岸へ向かう。 先ほど店の情報を聞いた男と同じ、武装して腕に紫色の布をネクタイのように巻いた人達が歩き回っていたが、あの布は最近の流行りだろうか。 センスがユニークと言われる自分から見てもおかしいので、あの布の巻き方はこの世界でもダサいんだろうなと、は自分よりセンスがやばそうな集団にちょっとだけ親近感が湧いた。 親近感が湧いても、街に行くために邪魔なことは変わらないので、は彼らをサクッとトードでカエルにして、ジュノンの街へ向かう。 WROの軍が警戒し、住民の姿はあまり見られないが、いくつか営業している店を見つけては安堵した。 極限まで気配を消して道の端に降り、そのまま営業中の店を覗いて歩く。 営業しているのは主に武器や回復薬、マテリアを取り扱う店だったが、そこで情報を聞けば、何とか目当てのものを手に入れられた。 街の時計は14時を指しているが、北へ南へとめまぐるしく移動しているせいで、の時間の感覚とはズレがある。 軽い空腹を感じて、空腹状態で来てしまったツォン達は大丈夫だろうかと考えながら、は駄目元で営業している飲食店を探した。 開いていなければ、適当な路地裏か海岸に戻ってアイテムとして持っている肉を焼くしかないと考えて居ると、灯りがついた小さなカフェを見つける。 だが、入り口には『休憩中』の札がかけられており、残念だが利用する事はできなかった。 やはり何処かで肉を焼こうと思いながら、何気なく店の中を覗いてみると、先ほど別れたタークスの若い2人が凄まじい勢いで食事をとっている。 ちらりと見えた店員の姿に覚えがあり、おやと思って店の看板を見れば、以前セフィロスが勘違いして焼きもちを焼いた時の、クッキーのカフェだった。 食事の合間に忙しなく語り合う様子に、顔を出すのは無粋と判断して、は静かにジュノンの下へ戻る。 先ほどトードでカエルにした人達の仲間が増えて、海岸はずいぶん賑やかになっていたが、は気にせず少し離れた砂浜に移動し、肉を焼き始めた。 こちらは順調だが、セフィロスはどうしているだろうと携帯を見れば、数件のメッセージが届いている。 内容は、家への到着連絡に、風呂とシャワーを使わせる事、食事に作り置きの料理を出す事と、食事の後で3人が眠ってしまったという事だった。 ルーファウスは物置になりかけな客間で。レノとルードはソファで眠っているらしい。 返信で、こちらの買い物は順調で、こちらにいるタークスはそれぞれ食事をとっているので、その準備は不要だと伝える。 自分は営業中の飲食店が見つけられず、浜辺で肉を焼いている事を加え、焼けた肉の写真をつけておいた。 すぐにセフィロスから、スープとサラダを用意しておくと返信があって、はふにゃりと顔を緩める。 目の前にある海に、せっかくだから彼が欲しがっていたパエリアの材料を獲っていこうかと考えたが、海の上で漁をする船をみつけ、この海域では無理そうだと諦めた。 それに、セフィロスからは行動する前に一度聞けと、先日言われたばかりだ。 漁をしても付近の住民に迷惑がかからない場所と考えると、ゴブリンアイランド辺りだろうか。 砂浜があるし、逃亡用の隠れ家も作ってあるので、夏になったら遊びに行くのも良いかもしれない。 春になったらセフィロスに聞いてみようと考えながら、携帯で野営……今の時代はキャンプというらしいが、それで作れる食事を調べる。 そうして暇をつぶしている間に、情報収集と安否確認をしたツォン達が戻ってきて、4人はまたシルドラの口に入り、沖でフェニックスに乗り換えた。 一気に上空へ飛び、一直線にアイシクルエリアを目指していると、太陽が空と海を染めながら沈んでいくのが見える。 燃え盛る不死鳥の背で、更に赤く見える世界を横目に眺めるとは対照に、ツォン達は言葉を失ってその光景に見入っていた。 あまりに黙っているので、は何度も振り返って、彼らが落ちていないか確認するはめになった。 星々を飲み込む夜の空が東から押し寄せてくる。 途切れ途切れの厚く重い雪雲を見下ろすフェニックスは、時折流れる星に紛れながら、白く覆われた山脈を一気に飛び越えた。 一際高い山を越え、北の大空洞が遠くに見えてくる頃、山の中にぽつりと、空まで伸びる白く細い柱のようなものが見えた。 地上近くを見下ろせば、柱を囲うように飛ぶヘリが米粒ほどの大きさで見える。 中にあるのはお宝ではなく普通の民家だというのに、ご苦労な事だと思いながら、はフェニックスへ更に上昇し上から入るよう頼む。 漂う雲を超え、風の音すら遠くなった頃、フェニックスは柱の頂上を超える。 ぽかりと開いた壁の上から、難なく内側に入ったフェニックスは、ゆっくりと降下して玄関前に降り立った。 「もう日が完全に暮れてしまいましたね。体に負担がかからないよう、ゆっくり来たんですが、3人とも、大丈夫ですか?」 「ああ……気遣い、感謝する……」 フラフラになっているツォン達に手を貸してフェニックスから下ろしただが、あまりにも足元が覚束ない彼らに少し心配になる。 初めて召喚獣に乗ったうえで長時間の飛行は、元々疲労していた彼らには辛かったのだろう。 特に老年のツォンは表情にも疲労が見え、少しやつれたようにも見える。 ジュノンを出るときは、妻と子供達夫婦の安全が確認できたとホッとした顔をしていたのに、今や見る影もない。 後輩2人に手を借りて歩くツォンに気を使いながらが玄関を開けると、丁度セフィロスが出迎えに出ようとしたところだった。 フェニックスの上も暖かかったが、ふわりと流れてきた暖かな空気と家の匂いに、は頬を緩めるとセフィロスに身を寄せる。 「ただいま帰りました」 「ああ。お帰り。お前たちも早く入れ。家の中が寒くなる」 挨拶しながらを抱きとめこめかみに口づけるセフィロスに、ツォンは疲労が残る顔で驚いている。 それを支える後輩二人は、あまり気にせず言われた通り玄関に入ると、さっさと靴を脱いでツォンの靴を脱がせにかかった。 「街の……排気の匂いが移ってるな。それと、海の匂いもする」 「ジュノンに行ってきましたからね。先にお風呂に入ってきます。買ってきたものは、何処に出せば良いですか?」 「寝室にまとめて出してくれ。レノ達に運ばせる。ツォン、ルーファウスはリビングだ。先に行っていろ」 の上着を受け取ってコート掛けに片付けたり、脱いだ靴を揃えて寄せたりと、甲斐甲斐しく世話をするセフィロスは、自分を凝視するツォンに廊下の先を顎で示す。 もの言いたげにしながら、頷いてルーファウスの元に向かったツォンを見送ると、セフィロスはが先に入っている寝室へ向かった。 着替えを探していたは、彼の姿に笑顔を見せると、手にしていた着替え一式を見せる。 「セフィロス、良い所に。着替えを見てください。一応来客中ですから、私が決めるのは……」 「そうだな。とりあえず、このワンピースにそのベルトはやめておけ。俺が選びなおす間、ベッドの向こうに荷物を出しておいてもらえるか?」 「はい。彼らの部屋は2階にするんですね?」 「そうだ。お前たちが帰ってくるまでの間に、客間とトレーニングルームを片付けた。地下にも少し荷物を置いてあるから、行くときは気をつけろ」 フワフワとした羊毛のワンピースの上に乗ったクラシカルでゴツいベルトを見て、セフィロスはそっとそれを受け取ると、を箪笥の前から離す。 ワンピースとベルトの色が同色なのは、一応彼女なりに何とか合わせようとした努力の跡だろう。 服の下にあった赤い下着に、手を出せないときにこんな色の下着を着るなと少し苛ついたが、そのさらに下にあった赤いタイツと赤紫色の靴下に気づくと、彼女の報われない努力を思って悲しい気分になった。 下着とワンピース以外を選びなおしてベッドの上に置くと、が部屋のドアを開けている。 寝具で場所が無くなったベッドの向こうになるほどと考えている間に、彼女は残る寝具を廊下へ出して戻ってきた。 「すみません、ちょっと廊下が通りにくくなりました」 「かまわん。着替えはこれだ」 「ありがとうございます。ところで、2階のトイレに押し込んでいた消耗品も移動を?」 「地下と、外の物置にも少し移動した。それから、2階の廊下にあったプランターは、いくつかリビングと土間に移動してある」 「ああ、トレーニングルームだけでは、男性5人には狭いでしょうからね。わかりました。セフィロス、お疲れになったでしょう?」 「レノとルードがよく働いた。ルーファウスも、奴なりに手伝っていたから、そうでもない」 「おや、意外ですね。ルーファウスもですか?」 「軽い片付けと掃除くらいだがな。それと、奴は意外と珈琲の入れ方が上手い」 「そうでしたか。貴方が楽しかったのなら、良かった」 「……楽しい?」 「ええ。今、楽しそうな顔をしていましたよ?」 「…………そうか」 言われて、初めて気づいた様子のセフィロスに、は柔く目を細める。 少し考えこみ始めた彼に、おやおやと苦笑いして歩み寄った彼女は、彼が後ろ向きに考え始める前に袖を引っ張り、身をかがめた彼の唇に軽く口づけた。 目を丸くした彼の鼻先にまた口づけ、皺が寄り始めていた眉間を指先でそっと突くと、彼女が言わんとする事に気づいたセフィロスが苦笑いと共に肩の力を抜く。 「楽しいときは、楽しくて良いんですよ?難しく考えなくても大丈夫です」 「……そうだな」 「では、私はお風呂に入ってきますね」 「ああ。俺は奴らに荷物を運ばせる。ゆっくりしてこい」 そうは言われても、少しだけお腹が空いているは、はやく風呂を終えて食事にしたい。 笑顔でセフィロスに頷き返しながら、いつもと同じくらいの入浴時間にしようと考えたは、下着とワンピース以外取り換えられた着替えに考えることをやめて浴室へ向かった。 |
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2023.05.10. Rika |
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