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Illusion sand ある未来の物語 39


流石はルーファウスが経営しているだけあり、提供される料理は味も見た目も二人を大いに楽しませるものだった。
使われている食材と調味料を舌で覚えようと、ゆっくり食べるセフィロスの隣では、が皿の上の飾り切りを真剣な目で見ている。
予想とは違う食事の楽しみ方をする二人に、ルーファウスはさりげなく口を隠して笑みを押さえながら、何も言わず見守ることにした。
二人がやっている事が、息子や孫の小さい頃の行動と同じだとは、流石に可哀そうで口にできない。

会話を楽しむことなどすっかり忘れて、別の意味で料理に夢中になっていた二人は、本館に別の客が来た気配を感じて我に返る。
向かいで食事しながら、いつになったら気づくだろうかと楽しみにしていたルーファウスと目が合うと、セフィロスは気まずげに視線を逸らし、は一言詫びると気にせず料理を褒めた。


「気にすることはない。それほど楽しんでもらえているのなら、招待した甲斐がある」
「ええ。とても美味しくいただいていますよ。どうもありがとうございますルーファウス」

「気が向いたなら、また利用すると良い。この店は、紹介のない初めての客は入れない。人目を避けたい時には良いだろう」
「やはりそういうお店でしたか。では、今本館に来ている客は、お知り合いでは?挨拶に行かなくてよろしいのですか?」

「心配はない。あれは、私の息子の知人だ。むしろ、私は彼らが帰るまで、この離れに隠れていた方が良さそうだ」
「ふふふ。ご迷惑をおかけしております」

「迷惑?生憎、そんなものをかけられた覚えはない。、私は、今の生活を十分楽しんでいる」
「おや、貴方なら、どんな状況でも楽しんでしまうでしょう?」

「否定はしない。だが、老眼が無くなるだけで、これほど日常生活が楽になるとは思わなかった。その点は、レノも羨ましがっている」
「そうでしたか。それは良かった」


二人の和やかな会話を聞きながら、セフィロスは静かに食事を続ける。
少し身構えて来たものの、ルーファウスの態度や性格は相変わらずで、それに少しだけ安堵と懐かしさを感じた。
ルーファウスの姿が、昔とさほど変わらない若々しいものだから、余計にそう思うのだろう。
ただ、部屋の隅に控えているレノは年齢を重ねているので、夢現の境に迷うことはない。

趣味と言いながら本格的な料亭を経営するあたり、はやりルーファウスもどこかおかしい奴だと思いながら、セフィロスは筍のお吸い物に口をつける。
塩と出汁と筍だけのはずなのに、何故こんなに美味しくなるのか。素人とプロの壁を感じつつ味に集中していた彼は、ふと、とルーファウスの視線が自分に向けられている事に気づいた。


「……何だ?」
「やはり聞いていなかったか。ならばもう一度言おう。セフィロス、お前に、仕事を頼みたい」

「断る」
「……やはりつれないな。だが、話くらい聞いてみてはどうだ?……警戒しなくていい。何も、私の元に来いなどと言うつもりはない」

「…………
「彼女は、お前の判断に任せるそうだ。……昔とは、関係が逆になっているようだな」


小さく笑って言うルーファウスに、セフィロスは一瞬苦い顔をすると、を横目で見る。
特に反論もなく、肩を竦めて笑みを返した彼女に、確かに自分で判断するべきだろうと考えたセフィロスは、一度箸を置くとルーファウスへ向き直った。


「頼みたいのは、強力なモンスターの討伐だ。以前は極秘裏にへ頼んでいたが、今後はその一部をお前に頼みたい」
「WROとかいう機関があるだろう。そいつらは使えないのか」

「勿論、以前はWROが行っていた。だが、世界の再生がなされた今、かの組織には既に過去のような力はない。平均的な戦力の軍は持っているが、突出した戦力は既に引退してしまっている」
「次世代の教育に失敗した尻拭いを、俺にしろという事か」

「耳が痛いな。だが、逆らうことができない世の流れというものを、お前は身をもって知っているはずだ。WROは健在だが、モンスターからの保安という点について、今は人口密集地に集中している。人里離れた土地では、自警団達が頑張っているようだが、一度強力な個体が出現すると大きな被害が出る。私は、彼らを取り零された人間にはしたくない」
「…………」


お前が善行を口にすると、途端に話が胡散臭くなる。
そう言いたくなるのを押さえたために沈黙したセフィロスだったが、それを見透かしたらしいルーファウスはやれやれと首を振った。


「セフィロス、お前が私を信用しきれない事は理解できる。だが、考えてみてくれ。これは、との生活のためでもある」
「…………」

「お前に頼むのは、に頼んでいた仕事の一部だ。彼女の負担を、減らしてやりたいとは思わないか?」
が負担に感じるほどの敵が現れるとは思えん」

「当然だ。だが、問題は強さではない。出現の頻度だ。今は、以前より僻地へのWROの派遣が減っている。そうなれば、当然へモンスターの討伐を頼む事が多くなるだろう。必然的に、家を留守にしなければならなくなる。セフィロス、のために、その仕事を少しでも代わってやりたいとは思わないか?」
「…………」

がお前の復活のために動き出してからなら、もう2年になる。その間、彼女はお前の傍を離れず、討伐の依頼に出られたのは片手で数えるほど。既に各地では強力なモンスターの出現が報告され、人類の対応能力は限界だ。の力ならば、事態はすぐに収まるだろう。だがそのためには、彼女は幾日も家を空けることになる。セフィロス、今のお前に、それが耐えられるかだろうか?彼女が戦っていると知りながら、安穏と待つことが、お前にできるか?」
「……いいだろう」


渋々承諾の返事をしたセフィロスに、ルーファウスは安堵の笑みを作り、レノは同情の眼差しを向け、はまんまと引っ掛かってしまったと遠い目になった。
途中、ルーファウスの話を胡散臭いと思う瞬間があったはずなのに、何故そこで踏みとどまらず話を聞き続けてしまったのか。
自分のため、大事な人のためなんて言葉は、詐欺の常套句だ。
モンスターの対応に人類が苦慮していようと、それもまたこの世界の人々の営みの一部でしかない。歴史の中で何度も繰り返されてきたことだ。

がモンスター討伐を引き受けているのは、善意ではなく現金収入目当てでしかない。
酒代程度の小遣い稼ぎだと、昨日言ったばかりではないか。
その現金収入だって、無くなったところでどうとでも生きていける力を二人は持っているのだ。

なのに何故、セフィロスは引き受ける方向に考えてしまったのか。
いくら久しぶりといっても、ルーファウスの性格を忘れすぎだろう。
今日は助けないと言っただったが、ルーファウスの掌で転がされるどころか高速回転しそうなセフィロスに、心配で表情が引きつってきた。


「色好い返事で安心した。だが、無理をすることは無い。気が変わったなら、いつでも言ってくれ。詳細は後からレノに連絡させよう」
「わかった」

「セフィロス、私の心がこれほど浮き立つのは久しぶりだ。もしかすると、老いて腰を痛ているたクラウドに依頼しなければならないかと、いらぬ心配をしていた」
「……それはそれで、少し見たい気もする」

「酷い事を言う。嘗ては救世の勇士だった彼らも、既に老いた身だ。養護施設で穏やかにしている者もいる」
「お前と違って……か」

「ルーファウス神羅は春先に死んだ。私は、ルーファウスJr.だ」
「そこはどうでもいい」


人の名前を興味がないとバッサリ捨てたセフィロスに、ルーファウスは声を上げて笑う。
緩んだ空気を眺めるレノの瞳は無になり、はこれから巻き込まれるだろう面倒事を思って目を閉じながら、それらも暇つぶしにはなると考えて飲みこんだ。
クーリングオフを受け付けると教えてくれただけ、親切だと思う事にする。

引き込む方法は詐欺まがいだが、この話もルーファウスが今後の二人を考えた上で提案してくれているのだとは、も分かる。
とりあえず、セフィロスが引っかけられたと気づいた時、荒れないようにフォローは忘れずしなければならない。
安全圏と危険地帯の境界を楽しむルーファウスに、相当暇をしていたのだと察するが、同情心など欠片も湧かなかった。


「二人とも、話が纏まったのなら、そろそろお土産を渡させてくださいな。ルーファウス、頼まれていた瓶詰は、先ほど料理人の方に直接渡しておきましたよ」
「そうか。、お前が獲る肉は、評判が良い。冷凍技術が優れているおかげで、長期間保存しても品質が落ちないそうだ」

「ブリザドのほかに、ストップも使っていますから、そうでしょうね。こちらが頬肉で、こちらが尻尾です。自宅用かと思って、料理人には渡しませんでしたが……」
「それで良い。こちらは私が個人的に欲しかったものだ。ありがたくもらっておこう」

「ええ。それと、セフィロスも用意してくださっていますよ」
「セフィロスが私に土産を?それは光栄だ」

冷凍肉が入った紙袋をレノに渡すに続き、セフィロスも自分の土産が入っている袋をレノへ差し出す。
予想以上の重さに少し姿勢を崩したレノだったが、中を確認すると納得した顔で、それをルーファウスの傍に置いた。


「これは、アイシクルエリア産の生ハムとワインか。有り難い。この辺りでは、北の物は手に入りにくい。そろそろ、あちらの物が恋しくなってきたところだった」
「……そうか。へ山菜の塩漬けを頼んだもの、そのためか」

「珍しいものを求める人間は、どの場所にもいる。ましてここは保養地だ。北から療養のために来ている者も、少なくない」
「求めたところで、紹介がなければ入れない店にあるなら、得られないも同然だと思うが」

「その通りだ。だが、どこにでも抜け道というものはある。そして、欲深く顧みない人間ほど、その道を見つけるのが上手い。……そんな顔をするな、セフィロス。心配はいらない。心から郷愁から求める者には、こちらも誠意をもって対応するつもりだ」
「…………そうか。勝手にするといい」

誠意という言葉に胡散臭そうな顔をしたセフィロスだったが、が売った物に自分が口を出すのもおかしな話なので、それ以上言うのはやめた。

意外とルーファウスの会話を楽しんでいるセフィロスは、やはり他人との会話に飢えていたのだろう。
その相手がルーファウスなのはどうだろうと思っただったが、人の事を言える立場ではないので口を噤む。
未だルーファウスに遊ばれていることに気づいていないセフィロスに、はこれも勉強の内と考えて見守る姿勢をとる事にした。

元々、セフィロスとルーファウスは、それほど相性が悪くないので、過去の神羅の所業を引っ張り出してこない限りは良好な関係を築けるだろう。
そうでなかったとしても、二人より遥かに精神年齢が高く、内面的に成熟したルーファウスが、色々と譲歩してくれるはずだ。多分。

色々と思うところはあっても、セフィロスが楽しく会話できる相手を確保できただけで、今回の旅行は十分な価値があった。
そう前向きに考えることに決めたは、その後も会話を続ける男二人を横目に、静かに食事に集中していた。






2023.04.21 Rika
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