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Illusion sand ある未来の物語 31 『なぜこうなった……』 助手席に座る黒髪の女から、不慣れな世間話で情報を得ながら、赤マントの男ヴィンセントは内心で呟く。 ウータイでセフィロスを目撃し、情報を得るために奔走している最中に受けたルーファウスの訃報。 半分情報収集目的で覗いたルーファウスの葬式は特に何も得られず、その後クラウド達の所へ顔を出したら、想像していた通りの老体ぶりを目の当たりにすることになった。 ただ、ルーファウスが数年前から僻地の別荘を処分し、隠居しているにもかかわらずタークスの古参を動かしていたとの情報を得ることはできた。 既に一度セフィロスと遭遇したヴィンセントが、何かが起きている、起きていたと確信するには十分。 もしもの戦いに備えてあちこち飛び回る合間、ようやく武器の整備と弾薬の補充のため馴染みの武器職人の小屋へ来たはずが、まさかまたセフィロスと遭遇するとは。 しかも、やはりまたあの黒髪の女と一緒である。 セフィロスの事と同じく、あの黒髪の女についてもっと調べなければと思いつつ、今やりあっても勝ち目は無いと判断して武器職人の小屋を後にしたのに……。 『なぜ俺はこの車に乗せられた……?』 乗車を勧めたときから黙っているセフィロスが運転する車で、警戒心ゼロな黒髪の女と会話しながら、ヴィンセントは静かに混乱していた。 「私達は、このまま川を渡った街で車を返すのですが、貴方はどちらへ?」 「ヴィンセントだ。私は、コスモキャニオンに用がある。悪いが、橋を渡る前に下ろしてくれ」 「私は。夫の名はセフィロスです。橋の南側は街がありませんが、大丈夫ですか?」 「……問題ない。ゴンガガ行きの車は、乗せてくれる奴が多い」 「わかりました」 隠すこと無くセフィロスの名を告げたに、ヴィンセントは微かに表情を変えて驚いたが、ミラー越しに見たセフィロスに変わった様子が無いのを見て会話を続ける。 知った以上殺される展開を想像してはみたヴィンセントだったが、対する二人は全く気にしている様子がなく、それどころか昼食をどうするかと暢気な話をしている。 女連れならば、即座に荒事には及ばないと考えて、ヴィンセントは少しだけ踏み込んでみる事にした。 「セフィロス……かつての新羅の英雄と呼ばれた男も、同じ名だった。長い銀の髪を持ち、常人には扱えない身の丈を超える刀を使っていたというが……似ているな」 おや、バレてるなー。と暢気に構えるとは対照に、セフィロスはヴィンセントの言葉に内心舌打ちする。 ちらりとの様子を見て、次いでミラー越しにヴィンセントと視線を合わせた彼は、小さくため息をつくとその顔に苦笑いを作った。 「……らしいな。それは、俺の祖父だ」 「セフィロスに家族はいないはずだ」 「知られてないだけだ。祖父が亡くなったのは、祖母と籍を入れた直後だったらしい。当時妊娠中だった祖母はルーファウスに匿われながら親父を産んで、その後俺ができた。公表していないだけで、隠してはいない」 「ルーファウス……」 ミラー越しに見つめてくるヴィンセントの目を見ながら、これは信じていないなとセフィロスは確信しつつ、一応設定に基づいて話をする。 ルーファウスの存在に思考が向いたヴィンセントの様子に、このまま暫く考え込んでくれと思いながら、気持ち程度に車のスピードを上げた。 武器職人の小屋で会ったのが運の尽きか。 他の場所で会ったならまだ、本当に孫ですとしらばっくれられるが、正宗を出して普通に使えると言ってしまっているので本人だと言ったも同然だ。 車から降ろした後、どうやって逃げようかと考えてはみたが、まずは橋までの残り20分ほどの道をやり過ごさなければならない。 もう、バレているとか誤魔化すとか考えず、そういうものだと押し通すしかない気がするが……。 「二人は、どこで出会いを?」 「そう珍しい馴れ初めではありませんから、聞いても面白くはありませんよ?」 「下世話だが、聞いてみたい」 「この北にある砂漠で、何日も道に迷っていた私を、たまたま通りかかった彼が拾ってくださったんです」 「それは遭難と言う。よく生きていたものだ」 「悪運は強いので。それで、そのまま彼の所へ居候して、今に至ります。特に面白くは無いでしょう?」 遭難して保護されるのは十分珍しい馴れ初めだと言いたいのを堪えてヴィンセントがセフィロスを見ると、彼も少し呆れた目でを見ていた。 もしやこの女、これまで何度も遭難して保護されてきたのだろうかと考えたヴィンセントだったが、今気にするべきはそこではないと考えて次の言葉を考える。 「ヴィンセント、貴方の方は、ご結婚は?」 「さて……興味はない」 「おや、そうでしたか。そういえば、随分と彼の祖父に詳しいようでしたね?」 「……かつて世界を滅ぼそうとした男がどんな存在か、気になって調べた事がある」 「なるほど。では、その存在を倒した人々についてもお調べになったのですか?」 「……世間一般的な情報しか知らん」 「おや、そうなのですか?失礼、学者肌というか、研究気質な雰囲気を感じたので、何か面白い話が聞けるかと、勝手に期待してしまいまして」 「……クラウド達が気になるのか」 「うーん……面白い逸話があれば聞いてみたいとは思いますが、気になると言うほどではありませんね。元々、夫以外の人間には、あまり興味がありませんので」 「…………」 会話の内容から予想していたが、暗に今会話しているヴィンセントにも興味が無いと断言してきたに、ヴィンセントは一瞬言葉を失う。 わざとなのか天然なのかとの顔を見たが、全く変化しないその笑顔に、判断はつかないもののあまり近づいてはいけない事はわかった。 「では、彼のお爺さまの事で、何か面白いお話はありませんか?」 「、妙なことを聞くな」 「……悪いが、女性が聞いて楽しい話はないだろう」 「待ってください。いえ、それは、それこそ気になりますね。ぜひ教えていただきたい」 「!妙な所に興味を持つな。おい、橋に着いた。に捕まる前に早く逃げろ」 「……世話になった」 女性が聞いても楽しくないと言っているのに、なぜか目を輝かせて後部座席へ体ごと振り向いたに、ヴィンセントは思わず身をのけぞらせる。 焦った顔で彼女を抑えるセフィロスに、ヴィンセントは軽く目を見開き、促されるまま止められた車から降りた。 「何故止めるんですか。せっかく面白い話が……」 「何を想像しているかは知らんが、そんな昔話を聞いてどうする」 「血湧き肉躍るお話かもしれないじゃないですか!」 「……そうきたか……。ヴィンセント……だったか?妻が騒がしくしてすまなかった。じゃあな」 二人の会話を半ば呆れた顔で聞いていたヴィンセントに軽く手を上げると、セフィロスは再び車を走らせて橋を越える。 それを見送ったヴィンセントが、軽く頭を振ってから背を向けるのをミラー越しに確認すると、セフィロスは隣で残念そうに頬杖をついているを見た。 「俺の戦いの話など、聞いたところで面白くはないだろう?」 「そう思っているのは本人だけですよ。ですが、貴方が嫌がるなら、もう他人に聞こうとはしません」 「昔の話だ。どうせ、嘘と本当が混ざって信用できない。ところで、さっきの男だが……」 「ええ。途中、貴方は随分焦っていましたが、どこかで見覚えがあったんですか?」 「……クラウドの仲間だ」 「…………ああ、あの。……ん?乗せたのは貴方ですよね?気づかず乗せたんですか?」 「……ああ。クラウド以外は、あまり覚えていなかったからな」 「…………そうですか。だから、最初から貴方のことを警戒していたんですね。……探し当ててくるでしょうか?」 「先にルーファウスを探ってくるだろうな。念のため、連絡しておいてくれ」 「わかりました。彼なら上手くやってくれるでしょうけれど……最悪、ルーファウスも連れて逃げますよ?よろしいですね?」 「……できれば、奴にはもう少し時間をおいてから会いたいが、巻き込んだ以上は仕方がない」 「レノも一緒ですから、多分大丈夫ですよ。どこか、静かな場所へお願いします」 小さな街の中にあるモーテルへを下ろしたセフィロスは、部屋をとっておくよう頼むと、向かいにあるレンタカー屋へ車の返却に行く。 数件の宿泊施設が固まるそこは、旅行者の休憩所にもなっているらしく、広い駐車場の中にはカフェテーブルを出すキッチンカーもあった。 昼食はそこで済ませようと考えて、は一番近くにある小さな宿に部屋をとる。 長距離運転手向けの格安部屋や、家族向けの広い部屋など、宿によって様々なようだったが、が行ったのは少人数の旅行者向けの宿だった。 ホテルの前には、砂漠へ向かう人向けに、砂除けのスカーフを売っている露天もある。 少しだけ興味があったが、日頃から一人で衣類を買うなとセフィロスに言われているのもあって、は視線を向けるだけに留めた。 夜に砂漠を越える人向けという、夕方までの休憩で一部屋とると、は昼食を買うべく駐車場へ戻る。 ずっと山に籠もっていたせいか、数週間前にウータイへ行った事がまだ記憶に新しく感じてしまい、頻繁に旅行に行っている感覚がした。 駐車場にはキッチンカー以外にも食事を提供している者がいて、串焼きやガレットのような料理だけでなく、川にちなんだ麺類や、甘味類を売っていた。 選択肢がありすぎる上に、匂いで空腹感が薄れてきたは、少し考えると飲み物だけ買ってホテルの部屋に戻る。 セフィロスに昼食を買ってきて欲しいとメッセージと共に、ホテルの名前と部屋番号が書かれた鍵を写真にとって送ると、返信を待たずルーファウスに電話をかけた。 『久しぶりだな、と』 「今日はレノ。ルーファウスはお忙しいのですか?」 『今入浴中だ。伝言があるなら聞くぞ、と』 「ありがとうございます。悪い報せと相談があるのですよ」 『おおっと……でも、そんな気がしてたぞ、と。詳しく教えてくれ』 ルーファウスが完全に隠居して仕事が減ったからか、レノの態度には以前より余裕がある。 多少は若返らせたとは言え、老体に鞭打たせてしまって申し訳ないと思いながら、は今日あった事を話した。 どうやらルーファウス側も、いつかヴィンセントとセフィロスが関わるかもしれないとは思っていたらしいが、それにしても接触が早すぎると愚痴られてしまう。 どこで情報を得たのか、ヴィンセントはルーファウスの偽葬儀の前辺りから探りを入れていたらしく、危うくルーファウスの死を偽造しているところまで知られそうになっていたらしい。 「思ったより有能なんですねぇ、あの赤マント」 『一応、元タークスだからな。ま、こっちも有能なのが揃ってる。簡単に負けたりしないぞ、と』 「言いますね。先輩なのでは?」 『あいつがタークスだったのは、セフィロスが生まれる前だ。俺から見れば、先輩じゃ無くて、クラウドの仲間だな』 「なるほど。しかし、ただのお馬鹿さんではないとなると、面倒そうですねぇ」 『始末すんじゃないぞ、と?ひとまず、こっちで対処してやる。貸し一つだぞ、と』 「流石、頼りになりますね。こちらは、新しい武器が出来るまでは、また北に籠もることにします。その後は、状況をみて、雲隠れも視野にいれておきましょう」 『はいよ、と。ま、こういう事は、なるようにしかならないぞ、と。セフィロスにも、気にしすぎないように言っておいてくれ』 「ありがとうございます。では、また連絡しますね」 『そのうち、遊びに来いよ、と』 頼りになる返事をくれたレノに笑みを零して、は通話を終えた。 近いうちにまた武器職人の元を訪れる必要があるが、出来るだけ最低限にしようと考えていると、部屋のインターホンが鳴る。 ドアスコープを覗くと、荷物と食べ物で手が塞がったセフィロスが見えて、はすぐにドアを開けて彼を室内に入れた。 |
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ヴィンセントは女の趣味以外は優秀 2022.12.07 Rika |
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