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「セフィロス、もう少し重りを増やしていただけますか?」 「いや、脚はまだこのままでいい」 「……最近そう言うことが増えましたが、理由を伺っても?私はもう少し筋肉をつけた方が剣を振りやすいのですが……」 「お前がやりたいようにさせておくと、ゴリ……どんどん体が筋肉だらけになりそうだ」 「鍛えているのですから、筋肉がつくのは当たり前では?」 「限度がある。いや、俺の好みの問題だ。トレーニングはそのまま続けて構わないが、暫く脂肪を増やす事を考えて欲しい」 ぽろりと零れる本音を誤魔化したセフィロスだが、のお腹と胸に向いた視線で別の本音を漏らしてしまう。 最近うっすら腹筋が浮き始めた腹部と、体重が増えても儚げなままの胸を自覚しているは、怒るよりも仕方ない人だと思って、彼の提案を受け入れた。 脂肪を増やすと言われても、暇を持て余すとつい剣を振ろうとしてしまうには、少し難しい。 元々太り難くも痩せ難くもない体質なので、間食と食事量を増やせば良いだろうかと考えたは、自分のトレーニングの負荷はガンガン上げていくセフィロスを眺めた。 Illusion sand ある未来の物語 26 ウータイから帰ってから1週間ほど。 梅雨が明けた途端眩しくなった太陽に照らされながら、とセフィロスは今日も畑の手入れに勤しんでいた。 毎日焼いても翌日には芽を出してくる雑草に追われるものの、作業に余裕が出てくるに従って空いている畑に植える作物が増えていく。 本格的な夏が来る頃には、広い畑全てに作物が植えられているかもしれない。 夏の野菜は十分な量を植えているので、そろそろ秋に収穫する野菜を準備して良さそうだと考えると、は畑の端で支柱用の網を広げているセフィロスの元へ行った。 「、丁度良いところに来た。後で少し手を貸してくれ」 「っぁイ!何をすすすれば良いですか?」 「落ち着け。胡瓜が少し伸びてきた。そろそろ網を立てたい」 「……わかりました。ついでに豆の方にも立ててしまいましょうか」 「そうだな。今、そっちの棒に網をくくりつける。話は作業しながらでかまわないか?」 「ええ、勿論です。今日か明日で良いのですが……」 地面に置いた支柱に網を結びつけながら、はセフィロスに外出できるか確認する。 二人の毎日は午前中が主に家事と農作業。 時間があればその後に手合わせとトレーニングをして、午後からはその続きか、読書や山歩きなどをして過ごしていた。 山歩きといっても、行くのはだけで、セフィロスは家で本を読んでいることが多い。 目的が散策ではなく、山菜や茸の採取なので、一人で行く方が効率が良かった。 野生の茸でも、は見知ったものしか採らないし、ライブラ・みやぶるで詳細を確認した後で毒味してから食卓に出している。 そこまでされれば大丈夫だろうと、セフィロスも出された料理を気にせず食べていたが、腹の調子を崩したことは今のところない。 長雨で籠もりがちだったが、食卓は充実していたので、ここ数週間はウータイ以外には行っていない。 秋採れの野菜の苗を買うため、今日か明日の午後に街へ出たいというに、セフィロスは二つ返事で了承した。 明日の夜から雷雨の予報が入っているので、今日のうちに行った方が良いと話し合うと、二人は手早く支柱と網を立てる。 地面の上を這うナメクジに容赦なくデスをかけるに、セフィロスは過剰攻撃だろうと呆れたが、足下で野菜の芽を食い荒らしているナメクジを目にすると、ゴム手袋で掴んでに処分させた。 軽く汗を流し、ゆっくりと昼食をとった二人は、とタイタンが広げた山道を車で降りる。 以前より広く固くなった道に、セフィロスは機嫌良くハンドルを握っていたが、脱輪の心配が無いことで油断したのか、カーブの水たまりで後輪をスリップさせたら喋らなくなった。 街に着くなり休憩を求めたセフィロスに、は苦笑いして以前行ったカフェへ入る。 いつも使う窓際の席に腰を下ろすと、セフィロスは珈琲を。はオレンジジュースを頼んだ。 「そう落ち込まないでくださいな。ちょっと滑っただけでしょう?」 「場所が問題だろう。崖の傍で車の尻を振るのは、普通に心臓に悪い」 「私が落ちないようにしますから、大丈夫ですよ。今日はいつもと道路状況が違ったせいです。もう注意する場所は分かっているのですから、大丈夫でしょう?」 「……そうだな。だが、とりあえず、もう少し休む。かまわないか?」 「ええ。まだ時間はありますからね。市場の他にも苗を取り扱っている店はありますから、ゆっくりしてください」 「ああ」 最近の生活で昔の生死の感覚が蘇っているセフィロスと、不死身歴が長いの感覚には、最近ズレが出始めていた。 リユニオンリユニオンと言って2度も自力で蘇っておきながら、今になって死ぬかもしれなかったと顔色を悪くしているセフィロスに、は微笑ましく思いながら笑みを抑えた。 気持ちを切り替えようと深く息を吐いたセフィロスは、頬にかかった髪をかきあげようとする。 だが、先日ウータイで買ってきた髪飾りで髪をまとめていたのを忘れていたらしく、せっかく綺麗にまとめた髪に指を引っかけて乱してしまった。 そんな彼に、は小さく笑みを零して腕を伸ばすと、彼の髪をといて軽くまとめなおす。 それを大人しく受け入れたセフィロスは、彼女の首の横で輝く色違いの髪飾りを眺め、赤い唇へ視線を移した。 「……化粧品も買いに行くか」 「今は特に足りないものはありませんよ?」 「あって困るものでもないだろう?」 「それはそうですが……」 なぜ急にそんな事を言い出したのか不思議に思いながら、は自分が使える化粧品を取り扱っている店の場所を思い出す。 確か、街の東にある観光客向けの店が多い区画にあったはずだが、欲しいと思うものがあるかはわからない。 気に入るものがなければ、材料を買って自分で作れば良いかと考えると、はジュースに口付けて、窓の外へ視線を向けた。 「……ん?珍しく大きいのが飛んでますね」 「何?……飛空挺か」 新羅やWROのヘリとは明らかに違う飛行物体を、は珍しげに眺める。 白く見慣れない形の機体は、南の方から高速で飛んできたが、街の上で速度を緩め、東にある飛行場へ向かったようだ。 シーズンオフでもあんなのに乗った客は来るのかと感心しながら、は室内に視線を戻した。 店を出るときに帰りの珈琲を買っておこうかとメニューに手を伸ばした彼女だったが、眉間に皺を寄せて空を見るセフィロスに手を止める。 「どうかしましたか?」 「今の飛空挺に見覚えがある気がする」 「ルーファウスのものではなさそうですが、新羅以外で心当たりがあるのですか?」 「……確か……クラウド達が乗っていたのが、あんな感じだった」 少し顔色悪く言うセフィロスに、はコップを置いて考える。 「…………クラ……?」 「忘れるな。俺を毎回倒してた金髪の男だ」 「ああ……あの貴方を3回も殺した餓鬼ですか」 「が……」 奴だとか小僧だとかを飛び越えて餓鬼呼ばわりしたに、セフィロスは一瞬言葉を失う。 昔の事は、起きた事は仕方ないという態度をしていただが、どうやらセフィロスが何度も殺されている点に関しては普通に怒っていたらしい。 最初はクラウドに興味が無くて忘れていたのかと思ったが、もしかして名前を記憶するのが嫌とか、その程度の労力も費やしたくないのだろうか。 いや、言って思い出せるのだから、完全に忘れているわけではなさそうだ。 ただ、他人に言われない限り自分の記憶に留めたくないというパターンなのかもしれない。 下手をすると……というか、多分彼女の中で、クラウドは「あれ」とか「例のやつ」という扱いなのだと思う。 「ですが、アレらはもう老人でしょう?身内が船を使っているだけという可能性は?」 「そうだと良いが……ウータイでの事もある。大丈夫だとは思うが、少し、気にかかる」 「…………」 「…………」 「始末してきますか?」 「やめろ」 本当に『アレ』扱いだったのかと驚くのもつかの間。 サラリと殺ってくるか問うに、セフィロスは彼女の内なる怒りを垣間見て少し慌てた。 本当に身内の子供や孫が飛空挺を借りてきただけだった場合、更なる因縁を生むことになってしまう。 というか、自分から本人でなく身内の可能性を指摘したのに、それでも始末しようか提案するのはどうなのか。 しかし、彼女は昔ファリスの初恋について語ったとき、父親の仇討ちのため復讐に身を費やしていた時期があると言っていた。 あまり詳しくは聞かなかったが、見せしめは苛烈でなければ意味が無いと言っていた事があるので、相当に手荒いことをしたのだと思う。 そんな人間が、敵と判断した相手に半端な情けをかけるわけがないと気づいて、セフィロスは内心で頭を抱えた。 この二人、どちらかがマトモなんてことはない。 セフィロスはあらゆる手を使いながら、全てを巻き込んで破滅に向かうタイプ。 は、必要範囲内を徹底的に焦土にして、周りを畏怖させることで後の安定を図るタイプだった。 どちらも怒り狂った時のパターンは厄介極まりないと言う点でだけは、似たもの同士と言えなくもない。 「貴方が止めるなら、やめておきます」 「ああ。だが……そうだな、暫く家の周りに霧を多めで頼む。今日は早めに苗を買って帰ろう」 「わかりました。ですが、苗はまだ植え付けに余裕がありますから、後日でも大丈夫ですよ?化粧品も、また今度にしましょう?店が東の空港近くですから」 「……そうか。なら、悪いが、今日はもう帰ろう」 「ええ。どうか、お気になさらないでくださいね。また一緒に出かける理由ができたのだと、思っていますから」 「理由が無くても、一緒には出かけるだろう。……だが、そう言ってもらえると助かる。帰るぞ」 カップの中を飲み干して席を立ったセフィロスに続き、も店を出る。 帰り際、顔なじみになり始めた店員から、お揃いの髪飾りを褒められて笑顔を返した二人は、路肩に止めた車に乗り込むと家路を急いだ。 山々の間に漂う霞を眺めるは、その色を徐々に濃く、広く広げていく。 少し風があるせいで、自然に霧を深めるのは骨が折れるが、不自然に霧を広げて違和感を与えるよりはマシだった。 飛空挺くらいであれば、バハムートを文字通り鞭打って飛ばせば簡単に撒ける。 畑を捨てる事になるが、セフィロスの負担が酷いようなら、別の場所に拠点を移す事を考えて、は持っていく荷物を頭の中で整理した。 曲がりくねった山道を行き、その跡を霧で隠して、二人は家へたどり着く。 幸い、留守中に誰かが訪れた形跡はなく、何者かが潜んでいる気配もない。 街で見た飛空挺も、自分達とは無関係であればいいと思いながら、二人は家に入るとリビングのソファに倒れ込む。 最近平和だったせいか、それとも視界を悪くした山道のせいか、はたまた過去が追いかけてくる感覚のせいか。 予想以上に気疲れしている事に気づいた二人は、どちらともなく起き上がると、並んでソファに腰掛けなおす。 深呼吸しようとした彼に、はその頭を引き寄せて抱き込むと、彼を腕に囲ったままソファに横になった。 甘えることを許してくれる彼女に、セフィロスは頬に口付けて礼をすると、力を抜いて彼女に身を預ける。 そのまま首筋に顔を埋めて目を閉じた彼に、はのし掛かられた重さを気にする素振りも見せず、幼子にするようにその頭を撫でた。 広がる霧が、窓の外を白く変えていく。 満ちる水の気が呼び水になり、いつからか外は霧雨へと様子を変えていった。 聞き逃すほど静かな雨音に耳を傾けると、時計の針の音が随分と耳につく。 僅かな肌寒さに部屋の中を温めようとしただったが、セフィロスの肌の温かさに気がつくと、もう少しと温もりを求めて彼の額に頬を寄せた。 「……すまない」 彼の香りを感じながら、仄かに微睡みを感じていた意識に、心地良い声が波紋を作る。 いつの間にか閉じかけていた瞼を開け、数秒後れて言葉の意味を理解しただったが、首元に顔を埋めたままの彼の表情は上手く見えなかった。 少し待ってみたが、それ以上言葉を続けないセフィロスに、は起きていると教える意味も込めてその額に口付ける。 「何を謝るのです?」 「……お前を巻き込むかもしれない」 「先に巻き込んだのは私ですよ?ならば原因は私です。貴方は何も気に病まなくて良い」 「俺が始めた事だ。少なくとも、クラウド達の事は……お前は関係ない」 「違いますよ。始めたのは新羅です。貴方ではない」 「だが……結局、選んだのは俺だ」 頑なになり始めたセフィロスに、は苦笑いを零しながら、内心、せっかく復活しかけた精神状態を引き戻したクラウドへ苛立ちを感じる。 こんな事なら、彼を蘇らせる前にもっと下調べして、あの飛空挺を壊しておくんだった。 どうせあの一味は近いうちに全員老衰か何かで天寿を全うするので、不必要に手を出そうとは思っていない。 だが、物が残ること、それを受け継いで使う人間がいる事を覚えてはいても、こんなに早く目の前に現れるとは思っていなかった。 せっかく人気が少ない田舎に住んでいるのに、なぜわざわざ存命中にその影を目の前に見せつけてくるのか。 こちらはルーファウスとの接触ですら、一応気を遣っているというのに……。 弱気なセフィロスも可愛らしいという、今は余計な思考を頭の隅に追いやって、は彼を包む腕に力を込める。 胸元を擽った彼の髪がくすぐったくて、つい出そうになった声を抑えると、彼女は彼の髪に口付けた。 「一人で背負いたがらないでくださいな。私は、全て分かっていて貴方を蘇らせたんです。貴方の荷物は、私の荷物でもあるんですよ?」 「お前は、俺に逃げ道ばかり見せる」 「それはそうです。私は貴方の味方ですから」 「……そうか。そうだな。今は、前がいる」 「貴方が進むというなら、気が済むまでお付き合いしましょう。ですが、立ち向かうばかりが、道ではありません。争いを避けることは悪ではないでしょう?」 「逃げたくなったら、連れ出してくれるか?」 「勿論です。地の果てでも、その先でも。貴方が行くと言うなら、違う世界でも、連れ去ってさしあげます」 「……やっぱりお前は、俺をダメにする」 「貴方が頑張りすぎるからですよ。セフィロス、貴方はもっと、甘えも良いんです」 「お前に誘われると、そのまま堕落したくなるから困る」 小さく笑みを零したセフィロスは、微睡みに誘われるまま瞼を伏せる。 自分より小さな腕に包まれながら感じる安心感と、彼女の程よい体温に誘われて、彼の呼吸はいつの間にか寝息へと変わっていった。 |
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下ネタぶっ込むつもりで書き始めたのに何で普通にイチャイチャしとるんじゃ……? ……あれぇ? 2022.11.15 Rika |
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