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「すみません、今からお昼なので、1時ころに出直してもらえませんか?」
「……え……え?いや、今、ここには危険な魔物が生息している。悪いが、昼食は諦めて避難してくれ」

「……そんなものはおりませんし、いたとしても自分達で対処できるので結構です。お引き取り下さい」
「馬鹿な事を言うな。貴方のようなか弱い女性が魔物の相手などできるはずがないだろう。とにかく、すぐに避難するんだ。魔物は、召喚獣まで使っているらしい。極めて危険だ」

「…………わかりました。では、1時頃、また来てください。では」
「おい!待て!!」

「それと、ヘリの音がうるさいので、早めに撤退させてくださいね」
「待てと言っているだろうがー!」

これは話が通じないか、時間がかかると判断すると、は止めようとする兵士の腕をスルリとかわして家に戻る。
とりあえず、昼食をとってからもう一度話に行ってやろうとリビングへ戻ると、ウッドデッキ側に回り込んだ兵士達に嫌そうな顔を向けるセフィロスがいた。
も同じ顔を兵士に向けた。


Illusion sand ある未来の物語 102


、水をとってくれ」
「はい、どうぞ」
「だから、呑気に昼食をとってる場合じゃないと言っているだろうが!」

「煩い。人の食事中に来て騒ぐな」
「唾が飛ぶので、叫ぶのはやめていただけますか?」
「それは悪かったが、そうじゃない。そうじゃないんだ……」


武器を片手に庭に待機する兵士たちの何とも言えない視線を無視しながら、とセフィロスはガーデンテーブルで昼食をとる。
窓から見られながらの食事が嫌だったから庭で食べる事にしたのだ。
食べながらで良いなら話を聞いてやると言ったら、先ほどと話した兵士が来て、とにかく避難だなんだとやかましい。

命令を聞いてやるのではなく、話を聞いてやると話したはずなのだが……。
しかし、彼らも仕事で来ているので、邪魔されて頭に来ているのだろうと考えながら、はスープのお代わりをとりに席を立った。
兵士の額に青筋が立っていたが、知ったことではない。

引かせろと言ったヘリは、家の上にはいなくなったが、付近の山々の上で、何かを探すように低空飛行している。
軍が慌ててくるような強力個体などいないのに、一体何をしているのだろう。
もしや彼らが言う危険な魔物は自分達の事だろうか。ならば何人で来ても無駄だし、こちらは敵対する気がないので、やはりヘリはさっさと帰って静かにしてほしい。
WROからの強力個体討伐依頼は何度も受けているし、彼らも理解すれば帰ってくれるだろうと考えると、は湯気が立つスープを手に庭に戻った。


「頼むから話を聞いてくれ」
「そのつもりだと最初に言っている。まず一方的に避難を求める理由を言ったらどうだ?お前たちが言う危険な魔物とは具体的に何だ?」
「おや、セフィロス、もう食べ終わってしまったんですね。お茶は、私が食べ終わってからで良いでしょうか?」

「WROの新防衛システムが、ここに脅威となる生物がいると検知したんだ。数日前まで別の土地にいて調査をしていたが、今朝急に移動してこの辺りに来た。我々はそれを追ってきたんだ」
「………………」
「……別の土地とは、ミディールですか?」

「何故それを!?」
「なるほど。システムの誤作動だな」
「ええ、誤作動ですね」

「誤作動?何を言っているんだ?何か知っているのか?」
「神羅とは話がついているはずだろう。俺達は、お前たちがたまに使う、召喚獣に乗った強力個体専門の魔物狩りだ」
「数日前、依頼を受けてジュノン付近を飛んでいたら、新システムの誤作動とかいうもので砲撃を受けたのです。すぐに神羅側に確認の連絡が来たので、そちらとは話がついたと思っていたのですが?」

「神羅側と?……待て、すぐに確認する」
「そうしろ。、お茶は俺がいれる。お前の分もいるか?」
「……ハーブティーをティーセットごと持ってきていただいてよろしいでしょうか?」

セフィロスが入れた薄っすい紅茶を飲みたくなかったは、多少重くなるのを分かりつつお茶の準備を頼む。
あっさりと了承してくれた彼は、笑顔で食事を再開すると、慌ただしく部下に指示する兵士を置いて家の中に入っていった。


「ご婦人、ご主人が召喚獣に乗った魔物狩りというのは、本当ですか?」
「ええ。ただし、彼が、ではなく、私たちが、です。2人でやっていますから」

「貴方も!?いや、失礼、そのようには見えなかったもので」
「たまに言われます」

今のとセフィロスは、達人レベルが相手でなければ正体を勘づかせないくらいには、魔力も覇気も抑えている。
家にいて寛いでいる雰囲気ならば尚更、を見て戦いを生業にするとは思わないだろう。

それにしても、こちらはまだ食事中なので、あまり話しかけないでほしいのだが……。
しかし、その辺の気遣いができるなら、昼食中の一般人の前に立って喚かないだろう。
とっとと帰ってくれないだろうか。その後ゆっくり昼寝がしたいと考えながら冷たくなりかけたパスタを食べていると、ティーセットを手にしたセフィロスが戻ってきた。
同時に兵士の部下が慌てた顔で戻ってきて、何やら内緒話を始めた。

セフィロスがテーブルに置いたお盆には、ティーカップが二つ。
彼も兵にはさっさとお帰りいただくつもりらしいと理解して、は食事を中断するとお茶の準備をした。


「失礼した。ジュノン基地との確認がとれた。そちらが言う通り、システムの誤作動だった」
「今更の連絡か。初代局長が死んでから、内部でのゴタつきが目立つようになったとは思っていたが、まだ続いているようだな」
「蘇った古代種に、天然のソルジャーもどき。昔と勝手が違う事が多い分、関係が複雑になるのでしょう。一時はこちらへの支払い処理すら滞っていましたしね」

「それは、今回共々、とんだご迷惑をおかけした。今回の事は、また改めて詫びに伺おう」
「忙しいだろう。書面でかまわん。神羅に頼むか、集会場の駐屯兵経由で送ってくれれば十分だ」
「どうぞ、お気をつけて」

召喚獣乗りの魔物狩りには直接の接触は禁止だと神羅から言われているだろうに、どこでどれだけ情報をゆがめられて此処へ来たのやら。
人が多くなるほど、権力が強くなるほど派閥や抗争があるのは分かるが、巻き込まれる外部はいい迷惑である。
そんな内部状態でこいつら本当に大丈夫かという内心を口に出さないまま、2人は慌ただしく去っていく兵士達やヘリを見送った。

今回来た兵士たちは普通の人間ばかりだったが、今のWROの主力は変種騒ぎから急速に増えた天然のソルジャーもどきだ。
その次に力があるのが、同時期に古代種の力に目覚め成長した若者達だが、彼らは防衛にこそ力を注ぐが、争いごとは避けたがる傾向があるらしい。

主力の第1と第2が、星から大きな影響を受けている者達なので、達はルーファウスが引退しても間に神羅を挟んでやり取りしていた。
その上、チョコボの群れを使って星から嫌がらせされた後でコレだ。
単なる権力争いのとばっちりと分かっていても、WROの背後に見える星の意思に、とセフィロスは苦い顔をしながらカップに口をつけた。

「ただの内部の連絡ミスで終われば良いのですがねぇ……」
「終わらないなら、あちらからの仕事を切るだけだ。神羅からは何か言われるだろうが、あそこもルーファウスの息子から孫に代替わりが始まっている。縁を切ってもルーファウスは気にしないだろう」

「そうですね。ルーファウスも、私たちが大人しくしているのは、自分が生きている間だけだと考えているようですし」
「ああ、確かに、そんな感じだな」


念のため、ルーファウスが亡くなった後も、未来の脅威の程度が分かるまではこの世界にいて、嫌がらせついでに様子を見ておこうと思っていただったが、急速にその気が無くなってくる。
星も、とっとと去ってほしがっているようだし、やはり心残りが無くなったらさっさと去るべきだろうか。
それは、セフィロスに生まれた世界を捨てさせる事でもあるのだが、彼のこの世界への愛着の度合いは、かなり微妙だ。
蘇ってから過ごした時間で多少絆されている部分はあるが、それでもこの生まれ育った世界より、手塩にかけて育てた糠床への愛着の方が大きそうである。


捨てるとは言っても、これだけ長く過ごした世界だ。
達が数多の世界の中で見失う事があったとしても、召喚獣に協力してもらえばすぐに戻って来られる。
ただの無力な人間一人としてではなく、召喚獣という特殊な存在としてこの世界に認識をさせたなら、たとえ道を閉ざされても次元をこじ開けて再び足を踏み入れられるだろう。
そんな事をすれば、その時こそ星から本当に脅威として認識されそうなので、必要に迫られなければする気はないが……。


「これ以上内部抗争に利用されそうなら、魔物討伐からも足を洗うという方向でいきましょうか」
「ああ。タークスにも、その方向で連絡しておく」


軍が退散し、ようやく静かになった山々を眺めて、は小さく息を吐きながら空になったカップにお代わりのお茶を注ぐ。
セフィロスは、2杯目は珈琲が良かったようで、カップを持って家の中に入っていってしまった。
ルーファウスが生きている間までと考えるなら、移住は早めにした方が良いと考えると、は暑さで渇いた喉にぬるいお茶を一気に流し込んだ。



その後、WRO内部でどのような動きがあったのか、達が知る由はない。
ただ、その年の冬には、依頼される強力個体の討伐は半分に減り、代わりにソルジャーもどきの活躍が聞かれるようになった。
同時に、主要都市部での、古代種による防衛システムの運用も公表され、地方から都会への移住が加速する。
あの騒ぎの後で貰った召喚獣での飛行可能ルートも、徐々に範囲が狭くなり、結局飛べるのは人が寄り付かない僻地や秘境だけとなった。
もはや召喚獣での移動を禁止されたも同然だ。

それでも、高高度を飛べばご自慢の防衛システムは全く働かないし、普通の高度でもちょっと魔力を調整すれば大都市の目と鼻の先を飛ぶことも可能なので、2人には意味はなかった。

わざわざ挑発してやろうとは思わないし、古代種の力があるとはいえ人間としては頑張っていると思うので、システムの粗を指摘してやるようなお節介はしない。
たまに突然変異の魔物や変種の生き残りが発生し、抑えきれず街が襲撃されて惨劇が起きているが、それも彼らの成長に必要な糧として生暖かく見守っている。
もセフィロスも、降りかかっていない火の粉を払って回るような親切心は、チョコボの群れに撥ねられた時に何処かにいってしまったのだ。
きっと沼地の泥といっしょに、広大なグラスランドエリアの平原のどこかに落ちているのだろう。



多少の騒動はあれど、数年ほど平穏に過ごしていた二人は、ルーファウスから新たな身分証が出来たという知らせを受けてジュノン近くの町へ移り住んだ。
名は変わらないが、出自は今ルーファウスのそばにいるタークスの縁者になっており、新たな年齢は外見より少しだけ若い。
神羅と取り引きしていた召喚獣乗りの魔物狩り夫婦は、討伐の際に怪我をして引退。その後、召喚獣に乗って外出した後、行方不明になり翌年北の大空洞で遺品が発見された事で死亡が確認される……という事になった。
アイシクルエリアの家は、遺言により縁者であるタークスの所有となる。

そんな事が、ジュノンでの新居を決めた後でルーファウスから告げられ、2人はすんなりとそれを受け入れた。
最初は、セフィロスの心の病が癒えたので、住みやすい都会に移り住むという設定で集落から出る気だったのだが、それより死んで新たな人間になってくれた方がルーファウスは都合が良いらしい。

アイシクルエリアの家の鍵は、達が持ったままだ。
だが、出入りは可能だが、決して人目につかないよう注意され、同時に畑についても諦めるよう言われてしまった。

2〜30年して、集落の人間が達の事を良く似た他人と思う頃なら、アイシクルエリアの家に戻っても大丈夫と言われた。
だが、その頃には多分ルーファウスは天寿を全うしているし、そうなれば達もこの世界を去る気になっているかもしれない。
名残惜しくはあるが、いつか手放すものの一つ。人目さえ避ければ立ち入って良いので、別宅の一つとして考える事にした。

とはいえ、大きな地下食糧庫は、相変わらず酒や発酵食品がいっぱいだし、衣類や古い写真も置いたままだ。
衣替えの時期になったら、夜中に行って荷物を出し入れすれば良いし、セフィロスの大事な糠床は持ち運びできるのでなんの問題もない。
自分達で好きな野菜を作れないのが不満といえば不満だが、ジュノン郊外にも大きな農耕地帯があるので、新鮮な野菜はそちらで手に入った。


ジュノンの市街地は神羅時代のような軍事要塞都市に戻っているが、一度外へ足を伸ばせば昔のアイシクルロッジ同様に大きな産直市場がある。
アイシクルロッジと違うのは、海が近い土地柄、肉製品よりも魚介が多いという事だ。
農作物も、土地が違えば作物も違うので、行けば行くだけ目新しい物に出会える。

かつてセフィロスがアイシクルロッジの市場でやってしまった、加工肉の大量購入。
当時を思い出し、『なるほど、当時のもこんな気持ちだったのか』と、セフィロスは床に正座すると、その横で買い物袋いっぱいに詰め込まれた魚介を見下ろした。


「俺が言いたいことが分かるな?」
「はい。貴方に散々文句を言いながら、同じことをしました。申し訳ありません」

「お前は、今まで地方で買い物をしても、そこまで魚介に反応はしなかっただろう?どうして今回だけこうなった?」
「祖国で食べた魚介によく似たものが多くて、つい……。この地方の一部の人間しか食べないものらしく、他の地方では売っていなかったんです」

「……そうか。それは、仕方ないな」
「はい。あの……早めに調理しなければならない魚があるので、お話は作業しながら聞いてもいいでしょうか?」

「……好きにしろ」
「ありがとうございます」

故郷の味かもしれないと言われては、それ以上説教をする気になれず、セフィロスは肩を落としてため息をつく。
彼の了承を得たは、それまでのションボリとしていた姿が嘘のようにすくっと立ち上がると、手早くエプロンをつけて袋の中の魚からこげ茶色の魚を出す。
の肘から指先ほどの長さの魚は、その半分が大きな頭で、ギョロリと大きな目と大きな口、太く鋭い棘のような骨を持つ鰭が目を引く。

確かにこの見た目で傷みが早いなら、地元の人間以外は好んで食べないだろう。
そう思いながらセフィロスが見ていると、はシンクの中に置いたまな板の上に魚を置き、上下3列ずつ並ぶ鋭い歯の奥に箸を突っ込むと、その後歯列の隙間にあった黒い袋状の臓器を引っ張り出した。


、何だそれは?」
「この魚の毒袋です」

「普通の魚を捌くように、頭を落とすのでは駄目なのか?」
「毒袋の一部が喉より奥まであるので、頭を落とすと毒袋まで切れてしまうんですよ。こうやって歯列の間の毒袋を、奥歯がわから順に剥ぎ取っていくと、綺麗にとれるんです。活きが下がると、この毒袋が取れにくくなって、最後は袋が毒で溶けて魚全体が駄目になります」

「……面倒な魚だな」
「ええ。毒袋を取っても、時間が経つと身に臭みがでます。水揚げされた日の夕方までに調理しなければらない魚です。ですが、その手間をかけるだけの味はしますよ。……多分」

「多分なのか?」
「昔食べていた魚と同じであれば……ですね。取り扱っていた魚屋から聞いた処理方法は同じなので、大丈夫だと思います。もし違う味でしたら、それも一つの経験という事で……」

「……そうか。とりあえず、俺はその魚だけは絶対に調理しない。次に手に入っても、お前に任せるぞ」
「ええ。もちろん、それでいいですよ」


話しながら、は時折箸先を迷わせつつ綺麗に魚の口から毒袋を取り外していく。
最後に魚のエラに指を入れながら、喉の奥へ箸を入れて毒袋を取ると、頭や鋭い骨があるヒレ、分厚い皮を削ぎ落として切り身にした。
魚の大きさに対して、加食部分は驚くほど少ない。
それも市場に出回らない理由の一つだろうと思いながら見ている間に、は切り身を酒で洗い、塩で下味をつけ終わった。


「そのまま焼いて塩を振っても食べられますが、先に塩をすると余計な水分が抜けてうまみが凝縮するんです。身は更に半分になりますがね」
「これの半分か?1匹で一人分にしかならないな」

「毒袋を取る技術や、鮮度が重要な魚ですから、国では高級食扱いでしたね」
「……お前は、どこでその調理方法を覚えた?」

元は男の野戦料理みたいなものしか作れなかったくせに、どうしてこの魚は綺麗に処理出来たのか。
もしや、上手に処理しているように見せて、かなり適当なのか?
そんな疑念を視線に込めるセフィロスだったが、はそれをちらりと横目に見ると、表情を変える事無くシンクの掃除を始める。

「何度も調理を練習していたんですよ。どうしてだったかは覚えてませんが、他に食べるものがない状況を想定……あ、違いますね。確か、家の者が趣味で釣ってきていたので、手伝わされていたんです。それで覚えさせられました」
「貴族の跡取りだったのに、使用人の手伝いをしていたのか?」

「使用人は全員、前の世代に当主候補として育てられた者です。その後は、使用人と次代の師匠を兼ねます。それと、同世代の当主の予備でもありますね。ですから、まあ、立場は使用人でも、師匠達には逆らえませんでしたよ」
「……俺が知る貴族のイメージと違うな。戦闘集団ということぐらいしか、理解できん」

「ああ、それで正解です。家は、カルナック随一の脳筋一族。剣の腕と忠誠心さえあれば、あとは力圧しで何とかする家なんです」
「なるほど、まさにお前だ。ところで、当主候補という事は、お前の他にも何人か候補がいたのか?」

「いいえ、私の代では一人ですよ。父が当主になった後、法が変わってしまって、貴族は簡単に養子を得られなくなったんです。……先々代までが、当主候補兼予備と称して多くの養子をとり、結果、忠誠心以外の首輪がない脳筋の戦闘集団を作ってしまったせいですけれど……」
「それは法改正されて当然だな」

忠誠の騎士団ではなく、狂犬の群れを用意された当時の君主たちの心境はいかばかりか。
血のつながりが無いのに、先祖の代から通じる何かをに感じるのは、彼らの教えがしっかりとに受け継がれているからなのだろう。

前々から、特殊な家系とはいえ、どうやったら女の身でこんな不可解な朴念仁に育つのかと思い、やはり本人の資質だろうかと思っていたセフィロスだったが、なるほど、環境と資質両方が成せる業だったらしい。
が、この容姿で、性格もちょっとアレなところはあるが悪くはなく、良家の出な上、男所帯だろう騎士という仕事をしながら、恋愛経験がほぼ皆無なのを不思議に思っていた。
誘惑もあっただろうに清らかな身を保っていたとは、それこそ奇跡ではないかとすらセフィロスは思っていたのだが、背後に脳筋戦闘集団が控えているとなれば納得である。
本人の隠しきれない朴念仁感もあって、そもそもの誘惑がなかったのかもしれない。
年頃に育った彼女が、初心な乙女ではなく朴念仁になってしまったのも、彼女の師匠である脳筋集団の教育の賜物に違いない。
咄嗟に出る悲鳴が『ぬわぁあ!』だったり、喜びが溢れると雄叫びを上げるわけである。


「セフィロス、どうしたんですか?少し疲れた顔になっていますが……?」
「気にするな。色々と腑に落ちただけだ」

「はぁ、そうですか…………?」


首を傾げながら、余計な水分が抜けて締まった魚の身を焼き始めたに、セフィロスは頭を振ってそれ以上の思考を振り払う。
懐かしい味を期待してか、頬を緩める彼女の横顔を数秒見つめて気持ちを落ち着けると、彼は棚から皿を出して彼女に手渡した。









2023.03.30 Rika

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