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「まさか、街が見えた途端に砲撃を食らうとは思いませんでした」
「ルーファウス、今の奴らは、魔物とバハムートの区別もつかないのか?」
「……真夜中に飛来するバハムートを迎撃しない軍があるのなら、見てみたいものだ」

「ふふっ。言われてみれば、そうですね。しかし、あの距離でも察知されるとは予想外でした」
「攻撃か威嚇か、どちらにしても、砲撃の精度は微妙だったな。何がしたいのか、一瞬わからなかった」
、セフィロス、お前たちが乗るバハムートの速度に、人間達がついてこれるとは思わない事だ」

口元に苦笑いを作りつつ、呆れの色を隠そうともしないルーファウスに、とセフィロスは顔を見合わせる。
なるほど、確かにそれもそうだと納得したものの、いやしかし、目視より早く察知できたなら敵味方の判別もできるのでは?なんて思ってしまう。
そんな2人に、ルーファウスは小さくため息こそついたものの、いつもの事と割り切ったかそれ以上気にする様子もなく珈琲に手を伸ばした。



Illusion sand ある未来の物語 101




深夜、ミドガルズオルムとチョコボの戦闘から離脱した2人は、山脈と川に沿って大陸から離れると、予定通り海からしてジュノンへと向かった。
が、海の向こうに街の明かりが見えたと思った瞬間、何発もの砲弾が飛んできて、2人が乗るバハムートの数キロ先や数十キロ横の海に落ちていった。
威嚇にしては数が多いし、攻撃にしては外しすぎている。
首をかしげつつ夜食のお握りを食べていた二人は、続く砲撃に上陸は不可能と判断し、一先ずルーファウスがいるミディールへ向かう事にした。

旋回した拍子に、が持っていたお握りのエビ天がバハムートの背中に落ち、あっという間に鱗の上を滑って海に落ちて行ったのが、ちょっとだけショックだった。
慌ただしく飛び立つヘリらしき灯りに、何だか面倒臭そうだと思った2人は、バハムートに追っ手を振り切ってもらった。

念のためいくつかの地域を経由してミディールに着いた二人は、山中に湧いている天然の温泉で沼地の匂いを落とすと、ルーファウスを訪ねた。
突然の訪問にも、ルーファウスは驚かず2人を迎え入れると、皺だらけの手で丁寧に珈琲をいれ、話を聞いて慣れた反応を返したのだ。


「砲撃の精度はこの際良いのですが、バハムート乗りの魔物狩りの存在は、軍関係者ならば知っているでしょう?それで何故今更攻撃されるのか、と思いまして」
「先月もあのエリアの山で魔物を狩ったが、その時は砲撃など受けなかった。ルーファウス、ジュノンで何かあったか、聞いているか?」
「……蘇った古代種。彼らの協力のもと作られた防衛システムが、この春に試験運用されるそうだ。もしかすると、今回の件と関係があるのかもしれない」

「ああ……なるほど。その可能性は大いにありますね」
「俺もも、星からはずいぶんと嫌われているからな。昨夜の討伐でも地味な嫌がらせをされた。あり得る事だ」
「…………」

それでは、このままではこの星に居場所がなくなるのでは……?
そう思ったルーファウスだったが、流石に口を噤む。
ジュノンに移住予定で、既に通う学校や住む場所にも目星をつけている二人の将来設計が、ひっくり返るのはかわいそうだ。
とりあえず、件の防衛システムの2人への反応を調べようと考えていると、手元に残ったタークスの一人ガイがノックをして部屋に入ってきた。

「社長ー、ジュノンのWROから、さんたちについて問い合わせが来てましたよー」
「……そうか。内容は?」

「昨日の夜、バハムートに乗って街に近づいた二人組みを攻撃しちゃったらから、それがうちのさんたちじゃないかっていう確認と、当たりだった場合の補償についてでーす。これ、確認用の写真ですから、2人も確認してくださーい」
「……………」

そう言ってテーブルの上に置かれたタブレットには、バハムートの上に乗って飛んでいた昨夜のとセフィロスが写された画像。
魔物狩りの時の御馴染みとなった顔を隠す黒装束に、防寒用の厚いコートを着た二人は、その手に食べかけのお握りをもっていた。

「間違いなく私達ですね」

だろうな。
この世界では他の誰もこんな事はしない。そんな奴がいてたまるかと思いながら、ルーファウスは溜め息をつく。
クスクス笑うガイは、確認の礼を言うと、適当に対応しておくと言って部屋を出て行った。

「向こうから問題なく飛行できると連絡が来るまで、ジュノン付近では飛ばないようにしますね」
「今後同じように攻撃される可能性がある地区がどこか、分かったら連絡をくれ」
「いいだろう。お前たちには悪いが、安全飛行区域が分かるまで、召喚獣での飛行は控えてくれ。ここからアイシクルエリアまで飛べるかは、追って連絡する。それまで、街でゆっくりしているといい」

「ありがとうございます。では、せっかくこちらまで来ましたし、数日温泉でゆっくりしていますね」
「宿が決まったらお前の部下に連絡しておく。朝早くに邪魔したな」
「かまいはしない。また顔を見せると良い」

年相応に皺が刻まれた顔で目を細めるルーファウスに見送られ、2人は彼の家を後にした。
今のルーファウスは、達への討伐依頼窓口になっている会社以外、なんの事業もしていない。
その業務も、殆ど部下が片手間で済ませられるほど少ないため、習慣のような情報収集以外は暇を持て余しているらしい。
もう実年齢も肉体も80歳を超えているのだから、討伐依頼の窓口も神羅に任せてはどうかという話もあったのだが、それはそれで暇すぎて嫌らしい。
ほんの数年前まで30歳代の体で働いていた弊害だろうか。

とりあえず、今日もルーファウスが元気そうなのを確認できたのは良かったと思うと、はセフィロスと近くの公園に入り、ベンチに腰を下ろす。
予想外の滞在のため、数日の宿を探すセフィロスの横で、は今から朝食がとれる店と、昼食の店を探し始めた。
時間が中途半端だからか、今営業しているのは歩いて1時間ほどの中心街にある喫茶店ばかり。
到着する頃にはランチタイムを始めている店がある時間帯だ。

タクシーを呼んだ方が良いだろうかと考えながら、携帯から顔を上げたは、ふと公園の向こうにある建物に目をとめる。
広い庭に石畳の道が敷かれ、建物のテラスは開かれて出入りしている人達が見えた。
大きな窓から見える室内や、整備された外には老人やエプロンをした若者がゆったりとした動きで歩いている。
保養地や温泉地として有名なミディールだが、近年は温泉付きの老人介護施設が増えて、そちらで有名にもなっている。
公園向こうに見えるのも、その施設なのだろうと何気なく眺めていたは、庭のベンチで寛ぐ見覚えあるスキンヘッドと、白髪に鮮やかな赤が混じる頭を見つけた。

声をかける気など毛頭ない。
それはそうと、本当にルーファウスの家に近い施設に入ったのだな……と、彼らの忠誠心に少しだけ感心した。
ここからルーファウスの家までなら、ヨボヨボ足でも15分かからない。何かがあれば、すぐに行ける距離だ。
まあ、あんなジジイになったレノとルードがかけつけて、何かの役に立つとは思えないが。

ツォンは夫婦で入れる別の施設にいるらしいが、多分その施設もルーファウスの家から近いのだろう。
そういえば、ツォンの姿は10年近く見ていないが……生きているのだろうか?
確か死んだとは聞いていないはずだと思いながら、がタクシーを呼ぶために電話していると、その間にセフィロスが数日の宿を確保し終えてくれた。
今日の宿は街の入り口に近い大きな旅館ホテルで、明日からはもっと奥にある小さな旅館になるらしい。

「朝食も、中心街に空いている店を見つけましたから、丁度良いですね」
「なんの店だ?」

「普通の喫茶店ですよ。他の飲食店だと、この時間はやっていませんから」
「そうか。今日の宿は少し狭いが、明日からの宿は部屋風呂つきだ。期待しておけ」

「おや、では少々お値段がはるのでは?」
「他は埋まっていた。何か大きな団体が来ているらしい」

なるほど、それなら多少高くても静かな宿の方が良い。
もしかしたら、街中も人が多くて、食事に時間がかかるかもしれないと考えていると、公園の入り口にタクシーが到着した。
道すがら運転手に聞けば、数日前から複数の学者の集まりが重なっていて、宿がとりにくくなっているらしかった。
集会自体は今日で最後の団体が終わるので、この混雑も数日で収まるらしい。

街の中心に着き、目的の店の前でタクシーを降りた2人は、思ったより混雑している店内に顔を見合わせる。
カウンター席が空いているのが見えたのでドアをあけると、あちらこちらで聞いたこともない専門用語らしきものが飛び交っていた。
下町風の喫茶店でこの空気は初めてだな……と思いながら軽食を注文した2人は、カウンター奥の天井付近につけられたテレビを何気なく見る。

既に終わった今日のニュースの見出しに、『ジュノン軍港で深夜に砲撃・新システムの誤作動か』という文字があったが、気にしないことにした。
すぐに出てきたコーヒーで一息つき、ベーコンエッグトーストが調理されているのを眺めていると、画面が速報に切り替わる。
『星を救った英雄 また一人去る シド=ハイウィンド 享年96』という文字と共に、旧ロケット村の風景を背景に、煙草をくわえた中年男が映る。
誰だかわからんが、アナウンサーの話ではどうやらクラウド一味の一人らしい。
クラウドの顔すら既にあやふやなの隣では、セフィロスがこんな奴いただろうかという顔で首を傾げていた。

それまで何やら議論していた他の客は、気づけば一部が口を閉ざして画面を見つめている。
だが、それより、出来上がりつつある朝食の方が気になるは、また一口珈琲を飲むと、漂ってくるベーコンの焼ける香りに頬を緩めた。

軽く腹を満たして店を出れば、何やら慌ただしく街を後にする団体がいる。
どうやら、慰安旅行中だった航空技術の技術者と、宇宙技術開発の学者達だそうで、葬儀に出席するために慌てて帰っているらしい。
もう少し後で宿を探せば、キャンセルが出た分、選択の幅が広がっただろうにと、少しだけ残念な気持ちになった。

急な来訪なため予定が無かった二人は、とりあえず人で溢れる目抜き通りを1本外れ、程々の賑わいの道を歩く。
自然と向かう足で、ミディールに来た時に、セフィロスが必ず行く天然成分のみの香水店に行くと、顔を覚えている店員が笑顔で出迎えた。
早速季節限定の香りをチェックしに行く彼とは対照に、は店員に案内されて椅子に腰かけると、出されたハーブティーをゆっくり楽しんだ。
この店に来た時は、いつもそんな感じで過ごしている。
2杯目のハーブティーが半分になった頃、買い物を終えたセフィロスに呼ばれて顔を上げると、何やら彼は大きな紙袋を手にしていた。

「随分買い込みましたね」
「香水と同じ匂いの、室内芳香剤を買った。新商品らしい」
「御主人一人で選んでしまいましたけど、奥さん、相談されなくてもいいんですか?」

「彼が好きな香りなら、良いですよ」
「心配するな。お前の好みの香りを選んだ」
「ああ、なるほど。仲が良くていいですね」

「……ええ」

好みの香りと言われて思い浮かんだのが、醤油が炭で焼ける匂いとは言えず、はセフィロスと店主に笑顔を向ける。
余程おかしな匂いでなければ、セフィロスがつける香水にはどれも良い匂いだと答えているので、正直彼がどんな香水や芳香剤を選んだか見当がつかない。
しかし、セフィロスの事なので、奇抜な香りは選ばないだろう。
数年前、彼は一時的にジュノンで買った少し特徴がある香水を使っていたが、糠床に匂いが移って駄目にしてから、が好むのと同じ自然な香りを選ぶようになった。
せっかく手間暇かけて育てた糠床を、再び駄目にするような危険は冒さないはずだ。




その後、宿のチェックインまでの時間を、適当に買い食いしたり、街中の足湯で寛いだりしたが、やはり2人は暇を持て余してしまった。
宿に着くと、急遽大量のキャンセルが出たからと、部屋と料理がグレードアップされたのは幸運だったが、それでも温泉に浸かる以外にやる事がない。
冬の特に寒さが厳しい時期や、夏の忙しい頃ならのんびり羽を伸ばしただろうけれど、今の二人は新たな生活に気が逸っていて、不意の休息に退屈を感じてしまった。

昼間から温泉に入り浸る生活を3日も過ごすと、2人はどちらから言うでもなく、ミディール周辺の魔物を狩りに出かける。
ルーファウスの家がある方面の魔物を狩り、更に多くの獲物を求めて山へ入るか相談していると、ルーファウスから2日後には南方からアイシクルエリアへ飛べるようになると連絡が来た。

老体で見送りに来ようとするルーファウスを止め、山の中から指定されたルートをバハムートで飛ぶと、なんの騒ぎに巻き込まれる事もなく家に到着する。
他の街への飛行可能ルートは追って連絡が来る事になっていて、暫く遠出は控える事になりそうだが、生活に困るほどではなさそうだった。




数日留守にしている間に、夏の畑は雑草が伸び放題で、2人はやれやれと溜め息をつくと荷物の片付けもそこそこに畑仕事に追われた。
山々を縫って吹き抜けていった風が、木に張ったハンモックをくるくると回転させ、屋根の上では冬になるたび不具合を起こすアンテナがギシギシと音を立てる。
このアンテナ、いつか壊れて落ちてくるかもしれない。
そう思い始めてから3年経つが、単純な作りをしているせいか、そのアンテナは意外とふんばっていた。

家に続く道を進む車の音が聞こえるが、集落の人間が山菜を採りに来ることもあるので、2人は気にせず雑草の始末をする。
昼時も近く、そろそろ一段落つけようかと顔を上げたは、山々の間を飛んでくる数台のヘリの音に気が付いた。
集落へ来るWROのヘリは南の集落側から来るので、東西の山の方からくるのは珍しい。
最近北の大空洞から魔物が南下してくる事が増えたので、その調査だろうかと思いながら、2人は体についた土を払い落とすと家の中に入る。

いつもより強い日差しのせいか、やけに室内が暗く感じる。
この天気なら、今からシーツを洗っても大丈夫そうだと話して、はセフィロスに寝室へ向かってもらった。
昼食は軽くパスタで良いだろうと考えると、はエプロンを首にひっかけて料理を始める。
湯を沸かしながら冷凍していたエピオルニスの出汁を鍋に入れてスープの準備をしていると、山の上にいたヘリが接近する音で外がうるさくなってきた。
ルーファウスからの物資運搬は数年前からやめているし、住宅設備の整備点検もとなりの集落から呼べるようになった。
家にヘリが来る理由がわからず首を傾げて火を止めると、同じタイミングで怪訝な顔をしたセフィロスがリビングに戻ってくる。

、上にヘリが何機かいる。ルーファウスから、何か聞いているか?」
「いいえ、私はなにも。……おや、車も来ましたね」

「…………何か、身に覚えはあるか?」
「ありませんねぇ。貴方もないのでしょう?家を間違えてるのではないでしょうか?」

「……楽観的だな」
「深刻な問題は起きないと思いますから。……あ、昼食はパスタと卵スープでよろしいですか?」

「ああ。だが、茹でている間に来そうだな」
「昼食時に来る方が悪いのですから、食べ終わるまで待ってもらいましょう。私が少し話をしてきますから、鍋をおねがいします」

「……わかった1時くらいにまた来てもらえ」
「はい。伝えておきます」

まだ沸騰もしていない鍋をセフィロスに任せて、はエプロンをしたまま玄関に向かう。
軍に大勢で訪ねられるような事をした覚えはないはずだが、一体何の用だろうか。
ジュノンの防衛システムはルーファウスと神羅から話をつけているだろうし、そもそも人間達に敵対するような事をした覚えがない。
首を傾げながら玄関を開けたは、次々とトラックから降りている最中の軍人たちのギョッとした目を無視して、とりあえず一番偉そうな雰囲気の男に声をかけた。








2024.03.18 Rika

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