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Illusion sand − 〜Epilogue 02 〜



沈みゆく陽が、世界を暖かに照らす。
瞼の裏に見ていた追憶までも染める光に、ルーファウスはゆるりと瞼を上げ、茜と紫が混じり始めた空に目を細めた。

最低限の家具があるだけの部屋は、落日の一時だけ彩られる。
けれど、目に暖かな色を纏ったところで、深い静寂が変わる事は無く、時の経過すら窓から差す光がなければ見失いそうだった。

騒々しさも悪くは無いと考えていたのは、どれほど昔だろうか。
心地よささえ感じていた日から、まだそう経っていないと考えるのは、郷愁などというものに心が惑わされたためか。


久方ぶりに思い出したらこれか。と、ルーファウスは愉快そうに口の端を上げる。
引きずってなどいないが、色々と強烈な女だったせいか、何年経っても喪失感は埋まりきらない。
そう考えたところで、懐古すら楽しんでいる自分に気付き、彼はやれやれと溜息をついて頭を振った。


ゆっくりと背もたれに身を預けると、椅子についた車輪が微かに軋み、彼は億劫そうにブレーキレバーを引く。
姿勢を変えると同時に、包帯に覆われた腕がじくりと痛み、中のガーゼに膿が染み込んでいく感触がした。

じわじわと広がっていく痛みに眉を潜めながら、彼は掌にある銀の重みを確かめる。
蓋にある細工の感触を指でなぞり、その針が動きを止めた日を思い出した瞬間、彼は掌に伝わる秒針の音に気がついた。
同時に、視界の端に見えた人影に気付き、ルーファウスはゆっくりと視線を向ける。


「…………」


最後に会った日から何一つ変わらない姿の彼女は、振り返るでもなく、ただ彼の隣に立って消え行く陽炎を見つめていた。
久方ぶりに感じた、彼女がもたらす心地よい沈黙に、彼は僅かな混乱と夢現のような感覚を許しながら、窓の外へと視線を戻す。


「……久しぶりだな」
『ええ』


返ってきた声は、とても静かだった。
どうやら幻ではないらしいと考えながら、理屈を求める混乱を押しやると、口元が自然と笑みをかたどっていく。

「今になって出てくるとは……それほど私が愛しかったという事か?」
『…………』


今度は声ではなく、少しだけ笑った気配が返ってくる。
何かを求めているわけではないのか、と納得し、ルーファウスは横目で彼女を見る。


「何か用か?」
『…いいえ。何も……』

「ならば、何故今頃、私の前に現れる?」
『さあ……。私にも、わかりません』


微かに首を傾げた彼女は、音も無く机に軽く腰掛ける。


「セフィロスの事は、知っているのだろう」
『…ええ』

「ならば……ザックスの事も……」
『……彼は、たまに化けて出ているのを見ます。殆ど気付かれていませんが……最近は女連れで徘徊してますね』

「……何をやっているのやら……。しかし……そうか。そちらはそちらで、面白そうだ」
『…………あなた方は、大変そうです』


思わぬ情報に声を漏らして笑ったルーファウスは、そっと後ろ髪に触れる彼女の指に自由を許す。
ゆっくりと髪を梳いた彼女は、彼の頭部に巻かれた包帯を撫ぜると、静かにそこへ口付けた。


『…今の私には、これが限界です』
「……かまわん。大分……助かった」


時折激痛へ変わる慢性的な鈍い痛みが消え、ルーファウスは僅かに驚いて顔を離した彼女を見上げる。
自然と腕を彼女へ伸ばそうとしたが、体に広がった病全てを消す事は出来なかったようで、僅かに筋肉が収縮しただけで彼の腕には痛みが走った。
少し困ったように微笑んだ彼女は、一度彼の髪を梳くと、そっと彼から手を離し、再び窓の外の景色へ視線を向ける。


『……大丈夫。貴方達の世界です。貴方達の力で、守れますよ』


暖かな声に、ルーファウスは目を細め、泡沫の穏やかさに心を預ける。
ともすれば、眠りに落ちそうな心地の良さに、自然と理性が目を開き、自制を求めて意識が現実に戻った。



「社長、件の書類ですよ、と。それと、クラウドはまだ連絡がとれません。代わりに、ティファに連絡を頼んでます。ツォンさん達の方も、あの糞餓鬼が電話に出るばっかりで、サッパリですよ、と」

扉をノックするのも早々に、書類を手にしたレノが、ルーファウスの返事を待たず部屋へ入ってくる。
やや早口で報告する彼は、余程忙しく走り回っているらしく、スーツは土埃で汚れたままだった。

相変わらず派手な髪だと呟いたに、ルーファウスは小さく笑みを零し、視線だけ動かしてレノの反応をみる。
が、彼は笑顔で出迎えたルーファウスを妙な顔で見るだけで、傍らにいるに驚いた様子はなかった。
否、それどころか、目に入ってすらいないようだ。


「……レノ、お前は幽霊というものを信じるか?」


何処か機嫌が良さそうなルーファウスが、突然出してきた謎の質問に、レノは書類を差し出した姿勢のまま固まった。
比喩か何かと思考を巡らせるも、やはり質問の真意がわからず、答えを探してレノはルーファウスの視線をたどる。

山々の合間に沈む太陽が、木々や岩肌を赤く染め、空には巣に帰る鳥達が飛び交っている。
岸壁の上に伸びる砂利道の上を、ロッジへ戻ってくるルードの車が通り過ぎ、僅かな砂煙が上がっていた。
そこにある景色のどれを見ても、ルーファウスの質問に通じる鍵は無い。
適当な返事が浮かばず、黙ってしまったレノに対し、ルーファウスは気分を害した様子もなく振り返ると、自分のすぐ隣へ目をやる。


「今……いや、先ほどまで、ここにがいた。……その様子では、お前は会っていないようだな」


星痕症候群がついに脳まで……。

社長の御乱心に、レノは表面上は平然と、しかし心の中では大慌てで、医師の電話番号を思い出す。
弱って死ぬとは聞いていたが、頭がイカレるだなんて聞いた事も無い。
子供より抵抗力がある分、死ぬ前に多くの症状が現れるという事だろうか。
ジェノバ災害を何とか切り抜け、細々とでも会社を再興できるかと思っていたが、これは大変な事になった。
とりあえず、医師に連絡して、ルードが戻って来次第病院へ向かわなくては。

ただでさえ、大空洞の調査で悶着が起こり、ツォンとイリーナが行方不明だというのに、社長の頭までおかしくなるなんて何の罰ゲームだ。
医者がいる街は車で2時間かけなければ行けないし、謎の糞餓鬼には調査を邪魔されるし、クラウドは何処をほっつき歩いているのか連絡がとれないし、踏んだり蹴ったりだった。


「心配するな。頭がどうかしたわけではない」


いえ、どうかしてます。
いなくなってすぐや、セフィロスが死んだ直後なら、が化けて出てきても納得できる。
しかし、死んでから7年も経った人間が、今更化けて出たなんて言われても納得するには無理がある。
いくらが化け物染みた変人でも、流石にコレはないだろう。
大体、リアリストのルーファウスが、幽霊だ亡霊だなんて言葉を言う事自体が信じられない。脳みそに星痕が出て螺子が弾け飛んだと言われたほうがまだ納得できる。


「我々の力で、切り抜けられ……そうだな、まぁいい。どうやら、助けるために出てきたわけではないらしい」
「……あー……はぁ……」


の幽霊とやらと、未だ会話している素振りをチラつかせながら、ルーファウスは生返事をするレノに苦笑いを向ける。
末期症状なのだろうかと、不穏な事を考えて口を閉ざしていると、ルーファウスはさっさとレノを部屋から追い出してしまった。

大層混乱しているらしいレノの様子に、ルーファウスはドアが閉まると同時に小さく声を出して笑う。
傍らに感じた溜息に、口元を押さえたまま顔を上げると、レノには見えなかったらしいが呆れた顔で見下ろしていた。


『あまり部下を苛めるものではありませんよ。レノが可愛そうでしょう』
「それを私に言うのか?一番哀れなのは、私だと思っていたが……」


部下に変な目で見られたのだ、と、自分からそう仕向けた口でルーファウスは軽い同情を求める。
何年経っても変らないその態度に、は懐かしいやら情けないやらで、半笑いを浮かべて脱力した。


『面白がっている人のどこが哀れですか』
「酷いな。私は、深く傷ついているというのに」

『それに甘んじる性格ではないでしょう?』
「お前は本当に……冗談を逐一真面目に返してくる」

『それはどうも』


言葉を伝えれば伝えるほど、からかいたがってくるルーファウスに、は匙を投げたように視線を窓の外へやった。
陽光を透かせるその横顔に、彼は僅かに目を伏せ、夜闇に変り始めた景色へ視線を向ける。



『……………』

「お前もまた……セフィロスのように、蘇る事ができるのか?」
『まさか。…そんな都合の良い現実は、何処にもありませんよ』

「……それは、残念だ」
『彼と私は、まるで違う存在です。星に存在を許されなかった事は同じでも、彼はこの世界の人間であり、私は違う。私が星に帰る事は無い』

「永久に彷徨い続ける者……随分損な役回りになったものだ」
『……分かっていた事ではありますが……ね。シヴァに、言われていましたから……』


知っていたなら、覚悟もしていたのだろう。
本当に腹を括り過ぎる女だと思いながら、しかしその覚悟も7年も昔の事。その頃の事を思い出せば、彼女がその選択したのも納得できる。
けれど、それによる結末を納得できるかと言えば、話は別だ。恨み言は、山というほどにある。


「セフィロスを、止めはしないのか?」
『無駄……でしたね。彼には……私が見えていない。……きっと、見たくないのでしょう』

「……自虐的だな。もしや、私に慰めてほしくて出てきたのか?」
『貴方の慰めを求めるほど耄碌してはいませんよ。安心して下さい』

「酷い言われようだ……」
『自覚が無いとでも?』


小さく笑って視線をよこしたに、ルーファウスは頬を緩め、横目で視線を返す。
数秒見つめあい、ふと笑みを消した彼女は、彼の額に巻かれた包帯に手を伸ばした。
白い包帯に残った黒い膿の染みは、乾いて繊維が硬くなっているだろうに、触れても何の感触もなく、ともすれば指が彼の体をすり抜けてしまう。
静かに振り返った青の瞳は、彼女の姿を見つめながら、その向こうにある景色を映していた。


『……逃げて……何処までも逃げて、走り続ける人が、受けた傷を見たがると思いますか?』
、私を……神羅を、責めたいか?」


だからセフィロスはが見えない、見ない。そう教える彼女に、その責を背負ったルーファウスは自嘲の笑みを浮かべて返す。
引く気など露ほども無く、何であろうと受けて立つと言うその瞳に、は一瞬目を丸くして、おかしそうに笑い返した。


『貴方は、少し背負いすぎでは?』
「たとえ没落していようとも、それが上に立つ者の務め。放棄などするわけがない」

『…………貴方のそういう所……私は好きですよ』
「光栄だな。しかし、お前は私のそれ以外の部分を、好いてはくれないのか?」

『……残念ながら何の事を仰っているか、理解しかねますね』
「私の男心は、弄ばれっぱなしか……」

『それは失礼。出来ますれば、どうかその御寛大なお心で、御慈悲を賜りたく存じます』
「心にもない事を」


胸に手を当て、仰々しく腰を折った彼女に、ルーファウスは肩を竦めて鼻で笑う。
あんまりにも素っ気無い返答に、は困ったように笑い、また窓の外へ視線を戻した。

短い沈黙の中、ルーファウスが吐いた小さな息に、空気が再び静まる。
玄関先にいるレノ立ちの声さえ聞き取れる静寂の中、車椅子の小さな軋みの音が響いた。


「北の大空洞で、ジェノバの首を手に入れた。お前が現れたのは、そのためか?」
『……まぁ……そうですね』

「なるほど。セフィロス再び……というわけか」
『あくまで、可能性です。阻止する術を貴方は知っているはずでしょう?』

「箍を外すかもしれないと思って来た……と?」
『いいえ。貴方は、それが何を引き起こすか、既に理解している。そんな失礼な心配、していませんよ』

「……奴を蘇らせたいとは、思わないのだな」
『見くびらないで下さいな。人は…いずれ死ぬ。死者が蘇る事などありはしない。それは、変り様の無い事実です。それに……そんな事をして、何が変るのですか?』


そう言葉を連ねて、生ある者の前に現れた死者は微笑んでみせる。
警告のようでいて安穏とした言葉を与え、戒めを求めるようで自由を許す。
さて、長々と続く久方ぶりの会話を前座に、彼女は何を伝えたいのかと、ルーファウスは口を閉ざして待った。

やがて彼女は、僅かに彼へと視線をやって、許されていることを確認すると口を開く。

『ルーファウス』
「何だ」

『…………あの人は……セフィロスは、きっと、もう立ち止まらないでしょう』
「……ああ」

『だから……彼はきっと、また帰ってくる。いつかはわからない。でも、何度でも……何度でも、彼は……終わる事は、選ばない……』
「奴が何度現れようと、我々は止めるだけだ」

迷う事無く答えるルーファウスに、は口を閉ざし、彼の顔を横目で伺う。
その気配を感じながら、しかし振り向く事無く前を見続けるルーファウスに、彼女は視線を落とし、観念したように口を開いた。


『私は……、私……』
「…………」

『ルーファウス、私……セフィロスに、行ってほしいって言ったんだ。最後に……彼が離れたがらないのを分かっていて、それを口に出来ないのを分かっていて、分かっているのに、彼に、立ち止まるなって、走らせたんだ』
「…………」

『逃げたのは……私だったんだと思う。最後の最後で、間違っているのを分かってて、他にどうしたら良いのかわからなかったけど、どんな顔をして終われば良いのか、彼にどんな顔をさせて終われば良いのか分からなかった。立ち止まらせたら、彼は動けなくなると思った。そのまま壊れてしまうと思ったんだ。でも、彼を逃がす事で、私も逃げたのかもしれない』
「…………」

『きっと大丈夫だと、思ってたんだ。彼は一人じゃないから、支えてくれる人がいるから、大丈夫だと思ってた。誰もいなくなって、彼だけが残るなんて、考えてもみなかった。時間も沢山あると思ってた。あんなに全部一気に来るなんて思わなかった。あんな事が起こるなんて思わなかった。私が走れと言ったんだ。彼は走り続けて、だから…………』
「…………」

『……だから、こんな風になったんじゃないかって…………時々、思うんだ』
「…………」

『後悔してはならないと……分かっていても、時々、そう思うんだ』
「…………」


濃紺に変り始めた空に、残照が揺れる。
朧な星の下に広がる雲は、ほのかな茜を映し、遠い冬の夜を思わせた。
月はない。天上から見下ろす銀は、地平線の影から僅かに顔を覗かせているだろうに、この部屋の窓からそれを見ることは叶わなかった。

森の上を滑る風は、天空を自由に走りぬけ、赤く漂う雲を何処かへと連れ去っていく。
早くも輝く星の群れは、大禍時の闇にくすみ、僅かに残る空の赤を炎のように浮かび上がらせた。

灯りのない室内は、色濃い闇に包まれ始め、ゆるりと向けたルーファウスの視線の先では、立ち尽くす彼女の姿が白く浮き立つ。
視線に気付き、顔を上げた彼女の目は、疲労の色こそ見せてはいるが、昔と変らずそこにあるものを真っ直ぐに映している。
後悔と迷いを抱え、過去に足を引かれても尚、その瞳に心を蝕む闇の気配は無かった。

どうあっても、彼女の目は光を手放そうとしない。初めて会った日から、最後に会った日も、そして今も、それだけは決して変らなかった。
それが、彼女とセフィロスの決定的な違いであり、彼女の望みが違えてしまった理由なのだろう。


「ソルジャー1stジェネシス、アンジール、セフィロス、そして………ザックス」
『…………』

「彼らを失い、神羅は揺れた。だが、所詮は我々神羅の自業自得。起こるべくして起こった事だ。あれほど早急に全てが変るなどと、誰も思いはしない」
『……わかってる』

、お前は、よくやった。お前がその時最善と思った道を選んだのなら、後悔などする必要は無い」
『…………』

「他の選択肢など、いくらでも存在した。選んだのは、他の誰でもない、セフィロス自身。奴が望んだ結末だ」
『…………』

……お前が泣くことはない」


遠く、景色を染めていく夜闇を眺める彼女頬に、僅かな雫が伝い落ち、象牙色の砂粒に変る。
音もなく床の上に落ちた砂は、染みを作る前に空気に溶け、何の跡も残しはしなかった。


『私は……泣いてない』
「…………」

『泣いてるのはあの人だ』
「…………」


闇に溶け始めた彼女の、何処か彼方を見つめる瞳が、力なく伏せられる。
ゆっくりと降りていく睫の影を見つめ、久しく覚えた淡く小さな憧憬に、ルーファウスは何も言わず彼女の横顔を見つめていた。


『ずっと泣いてるんだ。幼子のように……泣いて、暴れて、壊そうとして……自分が本当になにをしたいのか、わからない』
「…………」

『ルーファウス…………あの人は、ただの子供なんだ』
「…………」


それはまた、随分大規模ではた迷惑な癇癪小僧だと、ルーファウスは微かに口の端を上げる。
だが、彼女の言葉に納得できるのも事実であり、では次は逃げ出すのだろうかと考えた。
もし、そうなるとするなら、何処へ逃げるのか、逃げた後でどうするのかまで、セフィロスは考えないだろう。

一通り好きにさせておけば、気が済むだろう事は予想できるが、全世界が迷惑を被るとなれば黙って見ているわけにはいかない。
セフィロスの逃げ場所に成り得た彼女は、もはやその役目を果たせず、濃紺の上に姿を見せた銀の灯りの元、朧な影へと姿を変えている。


『……すまない』
「お前が謝る事はない」

『ありがとう……』
「礼には及ばん。我々の事は、我々が解決する。お前は……それを見届けろ」


微かに笑う気配を残して、の姿は薄白の靄に帰った。
揺らめき、仄かな月明りを反射して輝いたそれは、彼女が落とした涙のように砂に変り、窓の硝子をすり抜けて夜空へと霧散していく。


星に帰れないのなら、もう逢うことはないのだろう。
だが、もしかすると、再び騒乱の香りが漂ってきた時、彼女は姿を現すのかもしれない。
そんな事を考えて、ルーファウスは小さく笑みを零す。
掌にあった銀の時計は、再びその針を止め、沈黙に還っていた。


この7年、ずっと姿を見せていない彼女が現れたとなると、ここ最近起きた事件は大きな混乱の種なのだろう。
切欠がジェノバの首を手に入れた事を思えば、セフィロスの存在が関わってくるのは間違いない。

叩き潰す事に変りはなくとも、少し気を引き締め直すべきか……。
死者にまで心配されてしまうのは、流石に少し情けない。
それに加えて、滅多に泣かないに涙を零させるセフィロスは更に情けない男だ。
そう考えると、ルーファウスの顔には少しの呆れが混じった意地の悪い笑みが浮かんでいた。


「……再び現れると言うのなら、やってみるがいい」


孤をかくように吊り上げた唇で、ルーファウスは囁く。
遥か天上で悠然と見下ろす月を見据え、もたらされる白銀の光に、彼の目は愉快そうに細められた。


「我々は、何度でも阻止してみせよう……」


長い長い根競べだ、と。心の中で呟いて、ルーファウスは掌の時計に唇を落とす。
形あるもの、形のないもの。その両方を、自分より多く残されていながら、哀れに道を誤った男には、くれてやる手向けの言葉も見つからない。
愚か者は愚か者らしく、弱者は弱者らしく、諦めて楽になれと胸の内で言葉を送り、彼は銀の時計を胸に仕舞う。

医者が、時間が、クラウドが、と、ドアの向こうで騒がしく相談するレノ達に、ルーファウスは冷めた視線を向けて小さく溜息をついた。


















Illusion sand − 〜Epilogue 02 〜 End



2012.02.28 Rika
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