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近づいてくる数人の声に、カーフェイは顔を上げて立ち上がる。 ガサガサと草を掻き分ける音に混じる声は、互いに戦う為に行った二人の物で、割と元気そうである事に安堵した。 だが、その二人とは別の、覚えはあるがこの場へ現れる事を予想していなかった人物の声に、カーフェイは出迎えようとした足を止める。 何故彼が?と、理由は理解できるにしても、合流の経緯を知らない彼は、姿が見える場所まで来た3人を見た。 「ただいま」 「悪ぃな、待たせちまったか?」 「いや、そんなには・・・」 痣だらけで戻ってきた二人にはさほど驚かなかったかーフェイだが、歯切れ悪く答える彼の視線は、二人の傍にいるザックスへ向けられている。 考えるまでもなく、その意味理解したザックスは、偶然会ったのだと答え、気絶したままのアルヴァの傍へ行った。 少し構えたカーフェイだったが、それはジョヴァンニに止められる。 戻ってくるまで、ザックスにはこれまでの経緯を説明したらしく、上着に袖を通すアレンが大丈夫だと言った。 倒れているアルヴァの具合を見たザックスは、頭に出来た大きなコブに少し首をかしげる。 が、どういう戦い方であったとしても、双方命があるのならそれが最良だろう。 「アーサー達はまだなんだ」 「あいつらは長引いても仕方ねぇさ」 そこにいる面子を見回したアレンは、小さく呟くと二人が行ってしまった方向を見る。 口を閉ざせば静寂に帰る森は、今は耳を澄ましても剣がぶつかり合う音すら無い。 嫌な静けさに引き摺られ、想像したくない結果が脳裏に浮かぶが、すぐにそれらを振り払った。 とガイの事も少しだけ心に引っかかったが、あちらは心配するまでもないだろう。 気になるのは仕方ないとはいえ、此処で考えていても仕方が無い。 今はただ待てば良い。 そうすれば、最悪でも必ずどちらかが帰ってくると考えると、アレンはジョヴァンニが差し出したポーションを飲み干した。 Illusion sand − 70 「喧嘩・・・こんな事態にか」 「こんな事態だからです」 「何処まで知っているかは知らんが、今はそんな事をしている場合ではない。ついて来い。喧嘩は帰ってからだ」 「お断りします」 アーサーの言葉に一瞬面食らったセフィロスは、まっすぐ見つめてくる彼に溜息を飲み込みながら歩き出そうとする。 妙なオマケを拾ってしまったと考えるのも束の間、きっぱりと拒否した少年の言葉に、セフィロスはつい眉間に皺を寄せた。 そこで漸くまともにアーサーを見た彼は、少年がそう子供でも無い事に気付く。 はっきり自分に逆らう意見を言う者は珍しいと思うが、我侭を聞いてやれる事態でもない。 「・・・・・・・・・・」 「此処だけは譲れません」 つまり男の戦いという事か。 まっすぐ見つめる瞳に、内容はどうあれ譲れない事だけは理解し、セフィロスは膝をついたままの少年を横目で見る。 こちらも、思ったより幼くない事に気付き、ならば見逃してやらない事も無いかと思った。 子供の喧嘩で此処まで互いに痛めつけあう程、彼らが賢くないようには思えない。 二人が戦う理由など、セフィロスには興味が無いが、誰にだって、譲れない時ぐらいはあるものだ。 それがこの二人には今なのだろう。 「5分やろう。その間に終らせろ」 それが待って限界の時間だと考えると、セフィロスは二人の元から離れる。 この森へ入るまでは、随分焦っていたというのに、歩く内に落ち着いたのだろうか。 無意識に触れた胸から、時計の鎖が小さく音を鳴らし、規則的な秒針の音が届いた。 いつの間にか薄れた歪みに、少しだけ悠長になった理由に納得する。 仔犬の吼え合いをわざわざ聞いてやる気になるはずもなく、5分後に戻って来れば良いと考えると、彼はそのまま森の奥深くへ消えて行った。 「何で行かせたの?」 「このまま終るのは、お互い気持ち悪いだろ」 「僕を捕まえる事も、殺す事も出来たじゃないか」 「お前、死にたかったのか?」 「・・・そうかもね」 「・・・・・・」 微かに笑みを浮かべながら、ロベルトはゆっくりと立ち上がる。 二人とも、武器は何処かへ飛んでしまって今は丸腰状態。 青春らしく、殴り合いするしか戦いの手段など残っていなかったが、それでも十分人の命を奪う事が出来る。 「死んで、その後どうする?」 「・・・?」 「お前がいなくなって、俺と、他の奴らはどうするんだ」 「元通りになればいいじゃないか。きっと皆、君達の所へ行く。いつも通りの日常に帰るだけだよ。ただ、もう裏切る事は無いだけだ」 「お前が居なくなっても元通りなると思ってんのか?そこまで俺達は図太くねえ」 「・・・嫌になるな、本当。言っただろ?友情ゴッコだって」 「悪くなかったんだろ?・・・だったら、この先も続ければいいじゃねえか」 「甘すぎなんだよ君は。・・・僕も、何処までも中途半端だけど・・・だから、僕は君が嫌いだ!」 ロベルトが叫び、動いたと思った瞬間、アーサーの体は左からの衝撃を受ける。 顔に受けた傷から引き攣るような痛みを感じ、塞がりかけた傷口から熱と温みが広がっていった。 他の教科はともなく、ロベルトは体術だけは不得手ではなかっただろうか。 時には女子にも負けていた彼と、今攻撃をしかけた彼の動きは全く別人で、アーサーは僅かに混乱しながら次の攻撃を防ぐ。 間合いを取る時間も、体勢を立て直す間すら与えないロベルトは、腕に痺れを残すアーサーの脇腹を蹴り上げた。 咄嗟に攻撃を受けた方へ飛び、辛うじて衝撃を和らげたアーサーだったが、重い一撃に少し咳き込む。 「お前・・・体術ダメだって、嘘かよ」 「そうだよ」 幾度か攻撃を受けた事で、顔に負った傷の痛みがぶり返す。 奥歯を噛み締めながら言うアーサーに、ロベルトは抑揚の無い声で答えると、眩暈を堪えるように目を細めた。 「本当は、一番得意なんだ」 「っ!」 再び顔面の傷を狙う攻撃を出され、アーサーは寸での所でかわす。 舌打ちしながらロベルトの腕を捕らえたアーサーは、二の腕を下から殴り上げると、そのまま彼の額に自分の額をぶつけた。 眩暈に追い討ちをかけるような衝撃に、ロベルトの体から一瞬だけ力が抜ける。 無防備になったその一瞬に、アーサーは彼の鳩尾へ拳を叩きつけると、ロベルトは草の上に転がって胸を押さえた。 咳き込んで立ち上がれない彼を、アーサーは攻撃する事無くただ見下ろす。 「お前・・・・最初から、本気で俺を殺そうなんて考えてなかっただろ」 呼吸がままならず、咳をしては浅い息をするロベルトは、苦しさに顔を顰めながらアーサーを見る。 そこで今更、彼がマクスウェル教官を倒した事があるほど、体術に長けていた事を思い出した。 思い出などいらないと、心の隅から追い出していたせいで、そんな大事な事まで思い出そうとしなかった。 情けなさに口を歪めたロベルトは、そうする間にも脳裏に蘇る日々の記憶に、強く拳を握り締める。 「もう無理するのやめろよ」 「・・・・・・・・・・」 「そんな場所にしがみ付かなくても、お前がいる場所ぐらいある」 「・・・・・・・・」 「帰ってこい。俺達はお前らを迎えに来た」 捨てようと決めておきながら、結局自分はそうする事が出来ず、蓋をして仕舞いこむ事すら出来なかったらしい。 中途半端すぎる覚悟だったと漸く気付き、全てを捨てて逃げる勇気さえ持てなかった事に納得がいった。 だから自分は、『いつでも帰って来なさい』というの言葉に、心の奥底が揺らいだのだ。 時にその選択が裏切りとなる事を知りながら、立場より心を優先しろと教え、それを目の前で見せた姿に、別の道を夢見たくなった。 全てを見透かしておきながら、惑う事も去る事も許す彼女に、アーサーを殺す為に決めた継接ぎの覚悟すら捨ててしまった。 それなのに、組織を完全に裏切る事は、ガイ達までも裏切る事だと、結局この場所に戻ってきている。 終れるのだろうかという、僅かな期待さえしても、辿り着いたアーサー達は裏切り者と罵るどころか迎えに来たと言った。 そんな言葉で、彼らは自分の中から組織という居場所を削ぎ落としていくのだ。 今も、今までも、これからも。 「・・・だから、僕は君が嫌いなんだよ・・・」 勝手に人の場所を作るなと、心の中で呟きながら、それを求めてしまっている自分にロベルトは大きく息を吐く。 表情を作る気力も起きず、自然と笑みを浮かべる顔が、妙に熱くなって瞼を押さえた。 睫毛に滲んだ雫が掌の傷に染みる痛みすら、心地良くさえ思える自分に、とっくの昔に答えを知っていたのだと漸く気付く。 完全に敵意が消えたロベルトを、アーサーは黙ったまま見下ろす。 袖で目を拭う彼に近づき、その腕を掴んで振り払われなかった事で、アーサーは漸く事が収まったと安堵した。 「帰るぞ」 「・・・大ッ嫌いだよ、君なんか」 「減らず口叩いてると置いてくぞ?」 「やだね。責任とってくれるんだろ?・・・嫌だって言っても、ついていくよ」 「変わり身早えー・・・」 「誰のせいだよ」 からかうアーサーに、ロベルトは少し頬を染めながら口を尖らせる。 闇に落ち始めた森で、辺りに落ちていたそれぞれの武器を見つけると、二人は少し離れた場所に見えたセフィロスの元へ走った。 「行くぞ」 言っていた5分より、大分早くやってきた二人に木に、セフィロスはポーションを二つ渡すと歩き始めた。 すぐにそれを飲み干した二人は、足早に行ってしまうセフィロスを慌てて追う。 「お前達、第8班だな。他の班員は何処にいる?」 「はい。班員はこのまま真っ直ぐ行けばいます」 「ですが、引率の先生と、班員が一人、反神羅組織の元に」 アーサーに次いで、ロベルトが現状の説明をする。 の名に、セフィロスは微かに反応したが、彼女の事について聞く事は無く、すぐに視線を前に戻した。 その反応に、二人はちらりと視線を合わせ、お互い考えている事が一緒だと、小さく頷きあう。 それに気付いているのか気付いていないのか、セフィロスは班員との合流を最優先にすると言うと走り出した。 自分達の速さに合わせて走る背中を、二人が可能な限りの速さで追うと、その意を理解したセフィロスもそれに合わせて速さを上げる。 普通の兵より随分早く移動できる彼らと、先程見た戦いを思い出し、この二人なら、いずれソルジャーになれるかもしれないと考えた。 といっても、それはこの先ある多くの戦いを生き抜けた上で、彼らにその気があったらの話でしかないが。 森の中を数分走り続けると、前方に士官学校の制服を着た数人が見える。 思ったより離れた場所で戦っていたのかと、後ろの二人を軽く振り返ると、彼らは班員をじっと見て微かに笑みを浮かべていた。 何が嬉しいのか、セフィロスには見当もつかなかったが、きっと仲間に合流できた安心感だろう。 再び視線を戻した先に、哀れにも上司の判断ミスによりたった一人で救援に行かされたザックスの姿が見えた。 探す手間が省けたと思いつつ、手を振るザックスを無視して、セフィロスは彼らの元へ着くと足を止める。 「・・・まだは戻っていないのか」 「え?セフィロス、挨拶も無しにそれなの・・・?」 セフィロスが開口一番に言った台詞に、ザックスは少し落胆しながら言葉を返す。 だが、セフィロスは何の意識もなく出した言葉の意味に気付き、少しハッとした。 ザックスにとっては、自分の事はどうでも良いのかという意味の言葉だったのだが、セフィロスにしてみれば彼の無事など今目の前にいるのだから見ればわかる。 しかし、彼らと合流しても、まず始めに彼女の事が口から出た事に、セフィロスは驚いたのだ。 反神羅組織といっても、所詮人間。 自分にも、彼女にとっても、さして恐れる対象にはならない。 それが分っているはずなのに、状況の確認を忘れ、彼女の安否を考えた事。それが、いつの間にか薄れていたはずの不安を蘇らせた。 「セフィロス、どうしたんだ?」 「・・・・・・・・」 黙ってしまったセフィロスに、ザックスは首を傾げた。 考え込んでる様子の彼に、どうしたのかと聞こうとしたが、今するべき事を考えて一先ずそっとしておく事にすると、班員達に向き合った。 「まずは状況の確認だな。全員此処に居るって事は・・・皆こっち側って事でいいんだろ?」 黙って頷く班員に、ザックスは笑みを浮かべた。 セフィロス達が着くまでに目が覚めたアルヴァは、ずっとヘソを曲げていじけているが、学校に在籍し続けるかは別としても、組織から離れる事に変わりは無いと言っていた。 後はガイとが戻ってくるのを待つだけ。 いつもの彼女ならば、とうの昔に戻ってきているはずだが、まだ此処にその姿は無い。 その事に、ザックスも疑問を持っていた。 だが、ジョヴァンニが教えてくれた二人が向かった方向からは、戦いの音が聞こえなかった。 がいるならば大丈夫だと思うが、向こうの状況が分からない事に変わり無い。 それに、今最も考えるべきは、この状況をどうセフィロスに説明するかだ。 はアーサーに、適当に誤魔化せと言ったらしいが、セフィロスに適当な嘘など通じない。 かと言って、本当の事を言ったとしても、見逃してくれるかどうかははなはだ疑問だ。 の名を出せば何とかなるという事はない。 ソルジャー1stが、公私混同する事などあってはならないし、セフィロスは安易にそんな事をする性格ではないのだ。 さて、この状況をどうすればよいだろうか。 「セフィロス、救援に向かうか?それとも、まずこれまでの事を説明した方がいいか?」 話しかけられて顔を上げたセフィロスは、ザックスの言葉に少し考えると班員達を見る。 重傷ではないにしろ、誰もかれもが傷を負い、少しだが疲労の色が見て取れた。 残るアバランチがどれ程の数か知らないセフィロスは、生徒を置いて向かうにも危険が伴うと考える。 が向かったのは、恐らく彼が最初に見つけた二人の生徒、アーサーとロベルトが喧嘩を始める前だろう。 どれだけ喧嘩していたのかは知らないが、移動した距離や二人の傷に、短い時間で無い事はわかった。 にも関わらず、彼女が未だ戻ってきていないというのは、やはりおかしい。 安全圏かもわからない場所に生徒を待たせ、遠くに行くはずもないだろう。 「残る反神羅組織の者がどれ程の数か、わかるか?」 「多くても10人ぐらいだって話だ。でも、それより厄介な奴がいるらしいんだ」 「厄介?」 「どんな奴かは知らないけどさ、奴ら、眠ってたモンスターを目覚めさせようとしてるらしいんだ。もしかしたらは・・・」 「・・・それを相手にしている・・・か。それにしては静かすぎるな」 「うん」 ザックスもまた不安なのだろう。 小さな声で言う彼に、セフィロスは耳を澄ませ、遠くの音を探る。 不気味なほど静まり返る森は、虫の鳴く声すら聞こえず、ただ風に揺れる木の葉の音だけを鼓膜に届けた。 その中に、微かではあったが銃声のような音を捉え、彼は顔を上げる。 たった一発だけだったが、それでもあちらの現状を知る為の、立派な情報だ。 「向こうはまだ交戦中のようだな。もしかすると、今ので終ったのかもしれないが」 「マジでか!?じゃ、迎えに行こう!戦ってたら、救援になるしさ!」 今にも飛び出しそうな勢いで言うザックスに、セフィロスは相変わらずだと思いながら、生徒達を見る。 本来であれば、彼らは連れて行くべきではない。 ザックスに引率を任せ、先にミディールに行かせるのが、正しい判断だろう。 が、の元には彼らの仲間が一人いる。 それにザックスも、この様子では素直に言う事を聞くとは思えない。 本来ならば、上官命令だと言って無理矢理にでも行かせるべきなのかもしれない。 だが何故か、考える脳とは別のところが、彼らを連れて行けと言うのだ。 まるで胸の内にある不安が囁くように、妙な勘が働く時のように、彼らを連れて行こうという考えばかり浮かぶ。 「・・・・・・」 「・・・セフィロス?」 「俺が先に行く。ザックス、お前は生徒達を連れて来い」 言い終えると同時に、セフィロスはザックスの返事も聞かず走り出す。 後ろから「ズルイ」という叫び声が聞こえるが、彼は無視して銃声が聞こえた方角へ向かった。 外に出たら、ガイと共に一旦他の班員と合流し、召喚獣を使って遠くへ避難させる。 その時に奪われる魔力によって、眠るモンスターが目覚めるだろう。 目覚めて尚、あれが地の底に潜んでいるとは思えず、恐らく岩を崩して地上へ這い出てくる。 そこからは、暫くぶりに本気を出す苦境の戦が始まるだろう。 大まかな予測と計画を立て、は地上へと洞窟を上がっていく。 本気で戦うガイが、どれ程の腕かは知らないが、組織で最も腕方が立つらしいので、ある程度信用して良いだろう。 長引くようならば手助けする事になるかもしれないと考えながら、は暗闇から外に出た。 その瞬間、パンッという乾いた音が響き、緑の中に小さな赤い雫が飛ぶ。 それが銃声だと理解すると同時に、彼女の視界の中で、薄灰色の服を着た体が、胸と背中から血を流して傾いていった。 ドサリと草の上に落ちる音が二つ聞こえ、目の前にいたもう一人の男が倒れる。 纏っていた衣服を血で赤黒く染めるマクスウェルは、うつ伏せになったまま動かなくなった。 それを視界の端で確認しながら、声をかけるより先に、ガイの元へ行ったは、仰向けになった彼の胸に触れる。 血は制服の胸ポケット辺りから染み出し、じわじわと広がっていった。 予定が大幅に変わるが、そんな事に構っていられる事態ではなく、はすぐに回復魔法をかける。 応急処置的に軽いケアルガを出しながら、早速奪われ始めた魔力に防衛線を張り、本日二度目の魔法詠唱を始めた。 徐々に塞がり始めた傷に、ガイは薄く目を開けた目で、を見る。 何か言おうと口を開こうとした彼だったが、出てきたのは血が混じる咳で、すぐに彼女に片手で制された。 撃ち抜かれたのは、心臓ではなく肺だろう。 不幸中の幸いと言うには、状況はあまり良くないが、一発即死でなかっただけマシだ。 ぼんやりとだが、正気を取り戻し始めたガイを視界の隅で見つつ、は一際大きな光を方手に作る。 まだ完全に詠唱が終わっていない魔法だというのに、それすら奪おうとする背後の気配に、彼女は内心舌打ちをした。 あちらは、どうあっても隙を探して、魔力を根こそぎ奪おうというつもりらしい。 全くもって厄介なものを目覚めさせてくれたものだと思うが、既に目を覚まし始めているものは仕方が無い。 その上、それをやらかしてくれた張本人は、少し離れた場所で死体になって・・・いや、まだ微かだが呼吸はしているらしい。 とはいえ、この状況では助ける事も出来ないだろうが。 「ガイ、傷が塞がったらすぐにアーサー達の元へ行き、出来るだけ遠くに逃げろ」 「・・・え・・・」 「間違っても、助けに来ようなどとは思うな。良いな」 「でも、先生一人じゃ・・・」 まだ少し目がぼんやりしているガイの傷口に、はその言葉を遮るように手にある光を押し込む。 回復魔法の暖かさにしては熱すぎるそれに、ガイは一瞬驚いたが、同時に痛みも苦しさも消えていた。 どれだけ強い魔法を使ったのだと思うのも束の間。 は彼の腕を掴んで無理矢理立ち上がらせると、森の方へと押して背を向ける。 「先生、一人じゃ無理だよ」 「私の話を聞いていなかったのか?早く行け。あれはすぐに地上へ這い出てくる」 「けど・・・」 「心配するな。必ず帰る」 剣を抜き、洞窟を見据える間にも、僅かな振動が大地を揺らす。 それに気付き、自分がいては足手まといだと分かったガイは、振り返らない背中を一度見ると、アーサー達がいる方向へ走り出した。 少しも経たないうちに、前方から誰かが走ってくるのが見える。 8班の誰かかと一瞬思ったガイだったが、その人は黒いコートと長い銀髪、そして身の丈を越える刀を持っていた。 英雄セフィロス。 彼が来たならば、あれを倒せるのかもしれない。 やってきた希望に、ガイは足を止め、セフィロスもまた立ち止まった。 ガイはすぐにの元へ向かって欲しいと、セフィロスは彼女は何処にいるのかと。 互いに口を開き、声を出そうとした瞬間、静謐に沈んでいた森に轟音が響いた。 | ||
2008.01.12 Rika | ||
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