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刃から飛び散った赤が、雨で冷えた頬の上を伝う。
感覚が消えていた体に、一滴の温みは妙に暖かく感じ、手を止めたロベルトは袖でそれを拭った。

額の左側から瞼を通り、頬の下まで。
アーサーの顔に出来た1本の赤い線は、じわりとその幅を広げ、まだ雨で湿る白い肌に混じる。


「潰れてはないでしょ?」
「ギリギリな」

「そう。でも・・・どっちにしろ血で見えないだろ」
「その前に、瞼が痛くて開けらんねぇよ」

「好都合だよ」
「そりゃ良かった」

痛みに微かに顔を顰めるアーサーを、ロベルトは無表情で見つめながら剣を構えなおす。
減らず口を吐いたアーサーも、傷の痛みを意識外へ追いやると、片目を瞑りながら表情を正した。





Illusion sand − 69





不自由になった左側から攻めるロベルトに、アーサーはその刃を何度も交わす。
戦い始めてから随分経つが、彼らの動きは衰えない。
互いに本気で刃を交えるものの、唯一傷が出来たのはアーサーの左半面のみ。
互角。又は、ロベルトが多少勝っているかのような戦況だが、実際は致命傷に至る攻撃に手加減するアーサーの方が上だろう。

他の班員と別れた場所から、二人は大分離れた場所まで来ていた。
密集して生えていた木は、段々とその間隔を広げ、幹の合間からは森の終わりが見える。

残った4人がどう動いているのか、恐らく選ぶだろう闘いはどうなっているのか。
耳を済ませて音を聞くのも難がある距離。
だが、この戦いに全神経を集中させる二人には、それらの事は思考として脳裏に過ぎる事も無かった。

木の葉から零れ落ちた雫が、空を切る刃に煽られて飛ぶ。
胸元を横切った銀の筋を屈んで避けたアーサーは、草の上に付いた手を僅かに滑らせ、ロベルトの足を払った。
咄嗟に飛んで避けたものの、遅れた片足を取られてロベルトは体勢を崩す。
着地と同時に体勢を整えた彼だったが、先に体を起したアーサーに手首を蹴られ、持っていた剣を飛ばした。

運悪く枝を広げた木の上に入り込んでしまった剣に、ロベルトはナイフを出そうとするが、それより先に喉元に冷たいものが触れる。


「俺の勝ちだ」


頬から伝った赤の雫を顎から落としながら、アーサーは冷たい声で言い放つ。
それでも彼に殺気は無く、ロベルトは彼から首に添えられる刃へと視線を落とした。

囲む緑と鈍色の空を僅かに映すそれは、それなりに使い込んでいるようだが、血を吸った跡はない。
それは綺麗な場所で生きていた彼そのもののようで、ロベルトの中には苛立ちともどかしさが生まれた。
そんな時に限って、いつか、自分達を必要だと言い、頼りにしていると微かに笑った目の前の彼を思い出し、余計に感情が暴れ始める。

それは羨望と嫉妬だと、囁いた自分の声を振り払うように、彼はグローブもはめない手で刃を掴む。
強く握った手に感じた痛みは指の間を赤く流れるが、その痛みよりも、胸の内から消えてくれない感情にロベルトは顔を歪めた。

ロベルトの行動と、刃に肉が食い込んでいく感触に驚くアーサーだったが、下手に剣を引けばロベルトの指が飛ぶ。
彼の動きを封じたロベルトの手は、血の温みとは別の熱を刃に伝え、すぐにそれは炎となって現れた。


「嫌いだよ・・・」
「ロベルト!」

「僕は君が嫌いだ」
「やめろ、お前の腕が・・・!」

「ファイラ」


アーサーの言葉を遮って発動された魔法が、目の前を赤く染める。
中級のそれは初期魔法より格段に威力があり、炎は爆風を伴ってアーサーの体を吹き飛ばした。

体が宙に浮く感覚の中、熱さを感じないことを不思議に思いながら、掻き消えていく炎を眺める。
獣のようにこの身に牙を立てるはずの炎は、柳のような一度の揺らめきを残すと、流れ行く水の底を覗くように歪んだ空気に吸い込まれていく。

妙に長く感じる一瞬の中、漂う空間に目を奪われたアーサーは、背中から地面に落ちた衝撃に意識を失いかける。
背中に感じる鈍い痛みに、ようやく我に返った彼は、痛みを堪えながら顔を上げた。



「・・・ロベルト」




自然のままに伸びた草に邪魔され、姿が見えない彼の名を呼ぶが、帰ってくる言葉は無い。

空砲のような魔法では、大した怪我などしないだろう。
現に自分は吹き飛ばされはしたが、外傷など無かった。
では何故彼は返事を返すことも、再び攻撃をしかける事もしないのか。
もし、今の魔法が、自分に何の傷も与えられなかった魔法が、自分ではなく彼自身に向けたものであったなら。

呆然とする頭の片隅に、そんな考えが過ぎった瞬間、アーサーは体中の血が一気に引いていくのを感じた。
考えるより先に体が動き、彼は転げるように起き上がる。
走り出そうとした足は、方膝を付き、血塗れの手で頭を押さえるロベルトの姿に一瞬止まった。


「・・・何・・・これは・・・」
「どうした?」


ゆっくりと歩み寄るアーサーに、ロベルトは肩で息をしながら蒼白の顔を上げる。
眩暈を起しているのか、微かに焦点が揺らぐ彼にアーサーは目を見開くが、彼が声をかけるより先にロベルトが立ち上がった。


「何でもないよ」
「そう言う顔じゃないだろ」

「そう・・・」
「もうやめとけ」

「嫌だ」
「つまんねぇ意地張るな。お前の負けだ」

「・・・つまらない・・・か」


フラつく体で、表情だけは平然を装うロベルトだが、青ざめた顔まで誤魔化せるはずがない。
それでも尚戦うことをやめようとしない彼に、アーサーは顔を顰めながら負けを言い放つ。
だが、ロベルトは彼の言葉に微かに笑みを浮かべると、すぐにその表情を歪めて構えをとる。


「君にとってはつまらなくても、僕にはそうでもないんだよ」
「お前が負けて、俺が勝った。もう終わりだ」

「その先は?」
「あ?」

「その後、僕らはどうするんだろうね・・・。アーサー、君には帰る場所がある。待ってくれる人がいる。でも僕はそうじゃない」
「・・・・・・・」

「・・・僕は君と違う。・・・僕はね、アーサー。ずっと、この組織で育った。戦い方も、生き方も、全部此処で知って、与えられた」
「ロベルト、それは・・・」

「他には・・・帰る場所も、居場所も無いんだよ」


語る言葉とは不釣合いな、穏やかにさえ見える笑みを浮かべると、ロベルトはアーサーとの間合いを一気に詰める。
まだフラつく体で出された攻撃を、アーサーは僅かに体をずらしただけで避けるが、反撃や防御はしない。


「勝って、負けて、終わりなんじゃない。殺して、殺されて、それで終わりなんだよ」
「・・・フザケんな」

「駒は駒らしく・・・最後までその役目を果たすんだ。それしか残されて無いんだよ!」
「ロベルト!!」

ロベルトが投げたナイフをかわし、続いて出された蹴りを避ける。
叫ぶ彼に、アーサーもまた声を荒げ、傍にあった木の幹を蹴った。

その行動に微かに眉を潜めたロベルトだったが、落ちてきた自分の剣を取ったアーサーに、慌てて距離を取る。
体勢を整える前にと投げたナイフさえ、アーサーは身を翻して避け、すぐに構えを取る。

ああ、これは絶対に彼に勝てない。と、頭の隅で考えた瞬間、ロベルトは一気に肩が軽くなった気がした。
足元にぶつかった何かに視線を落とせば、先程の魔法で少し煤け、自分の血がついたアーサーの剣がある。
まだ終りそうに無いらしいと目を細め、剣を蹴り上げたロベルトは、器用にそれを手に取った。


「意外と重いね、コレ」
「お前の剣より軽く出来てる」

「・・・・・・」
「戦う奴が武器を重いと思ったら終わりだ。もうやめろロベルト」


アーサーの言葉に何故か、少しだけ嬉しくなりながら、ロベルトは互いに互いの武器を構える図に奇妙な心地を覚える。
もし彼が自分に生まれていたなら、どんな選択をし、自分はどんな言葉をかけるのだろうと。
一瞬の夢を見て、それでも『今』は変わらないのだと、目の前の現実を見る。


「どう足掻いても変わらない。言っただろ?僕には他に帰る場所が無い」
「ロベルト!」

「・・・・・・学生ゴッコ・・・悪く無かったよ」


重くなった剣に腕をとられながら、ロベルトは尚もアーサーへと向かっていく。
血塗れの手で握る剣は、柄の先から彼の雫を落とし、刃がぶつかればその手はズルリと滑った。
ロクな力など込められない剣は、弾き飛ばすことも、奪う事も容易い。
刃が重なった瞬間鳴ったのは、高らかな音ではなく、金属が擦れる耳障りな音。
悲鳴のようなそれは、アーサーがロベルトの剣を弾く事で止んだが、その剣はアーサーの予想より呆気なくロベルトの手を離れた。

一度受け止め、僅かに競り合った途端抜けたロベルトの力に、歯止めを失った刃は彼の首へと向かっていく。
最初から受け止める気などなかったのだと、気付いた時には既に遅く、その太刀を止める事は出来なかった。






飛び散る赤か、終焉の白か。

刹那の後に見えるだろう光景を前に、彼らは互いの姿を目に焼き付けるかのように、その瞳を見合う。
だが、次に訪れた色は、彼らの脳裏に浮かんだどちらの色でもない、漆黒に流れる銀の艶めきだった。

鼓膜に突き刺さるような音が響き、アーサーの腕が弾かれる。
片手で受けた事などない衝撃に、握っていた剣は弾かれ、宙を舞いながらその刀身を二つに分けた。

衝撃に耐え切れず体勢を崩したアーサーは、背中から地面に倒れこむ。
何が起きたのか理解できず、一瞬呆然とした彼は、ロベルトの前に立つ男に目を見開く。
同じく目を丸くするロベルトも、目の前に居る男の存在が信じられず、呆けた顔でその顔を見つめていた。



「何故生徒同士が戦っている?」



その前に、何でアンタがここにいるんだ?

初めて聞くその声は、低く感情のないもので、偽りを許さないような力を持っていた。
未だ呆けるロベルトは、言葉の意味以前に、目の前の存在がまだ信じられないような顔をしている。
だが、一方のアーサーが、そこで少々場違いな疑問を持ってしまうのは、一体誰の影響か。

自分を背に隠し、魔物を従わせたの言葉の方が、余程相手を服従させる力を持っていたからだろうか。
特に意図せず言った目の前の男と、従わせる為の言葉を言ったの声の重みが違うのは当然だが、その時それを考える余裕がアーサーにあるわけが無い。


「聞こえなかったか?」


少年達の間に入り、その返答を待っていたセフィロスは、半ば心此処にあらずの彼らに、少し苛立ちを含んだ声を出す。
すぐ傍にいる茶髪の少年は呆けたままで、何時もの事だと思いつつも、彼は内心溜息をついた。
ではこちらの少年に聞くしかないだろうと、セフィロスは割と冷静そうな金髪の少年に目を向ける。
が、痺れた腕を振るいながら立ち上がった彼から出た言葉は


「ただの喧嘩です」


という、信じるには微妙すぎる大嘘だった。
















遠くで響いた爆音に、ようやく森へ辿り着いたザックスは走っていた。
雨上がりの地面は、泥濘の上に濡れた草が茂り、気を抜けば足を取られそうになる。
思うように走れない事に少し苛立ちながら進んでいると、近い場所から木が倒れる音が聞こえた。

先に聞いた音より随分離れているが、今彼が居る場所には近い。
目的地をすぐに変えた彼は、剣を抜いて今しがた聞こえた音の方へ走った。

進んで1分もしないうちに、今倒れたらしい、朽ちた大木が横たわっているのが見える。
やっと活躍の場に来れた事に、小さな喜びと安堵を感じつつ、ザックスは肌に感じた殺気のぶつかりあいに口の端を上げた。

だが、いざ参戦しようと踏み出した彼は、そこにいた二人に足を止める。
昼間別れた8班のアレンと、彼らを裏切った反神羅組織のジョヴァンニ。
今感じるこの殺気は、間違いなくこの二人の物。
殺気と言うからには勿論互いに命を奪う気であり、繰り出す攻撃も全て急所狙いだ。

互いに己の身体一つで戦う彼らは、どちらの身体も痣だらけで、所々に血が滲んでいた。
力を生かした攻撃をしながら、その体格に似つかわしくない素早さを持つジョヴァンニ。
その攻撃を、体の小ささと素早さ、そして小さな身体でありながら力を使った攻撃をするアレン。

双方が見た目とは違うスタイルで戦っている事に、ザックスは一瞬面白いものを見たと笑みを浮かべたが、すぐに我に返った。
神羅の士官学校の生徒と、反神羅組織の者が戦う。
それだけでも、制止するには十分だが、それに加えてこの戦いは男対女。
しかも彼氏と彼女となれば、止めない訳にはいかないではないか。

使命感に燃えるザックスは、剣を抜くとすぐさま二人の前へ走り出た。


「そこまでだ!」
「「邪魔するな!」」

「え・・・」


驚いて戦いを止めるかと思いきや、アレンとジョヴァンニは制止の声をかけるザックスへ、声を揃えて怒鳴り返す。
その怒りに満ちた形相と、予想外の反応に、不覚にもザックスは目を丸くして呆けた。
一方の二人は、そんな彼の存在などすぐに念頭から消え去ったようで、何事も無かったかのように戦いを再開する。


「ちょ、待てって!いいからお前ら・・・!」
「「引っ込んでろ!」」

「・・・・・・・・」





拝啓、母上様。

ゴンガガは平和ですか?
俺は今、ソルジャーになって初めての任務に来ています。
ミディールエリアで、生徒を守ってアバランチを倒す任務です。
ですが今、俺はその生徒とアバランチに、邪魔だから引っ込んでいろと怒鳴られました。
しかも相手は子供です。
俺の話を聞いてくれる気配は全くありません。
俺は、こんなに邪険にされたのは、生まれて初めてかもしれません。





「・・・って、旅立ってる場合じゃないっての!」


ショックの余り軽く現実逃避してしまったザックスは、ハッと我に返るとまた少年達に目を向ける。
もはや彼の存在など無いかのように、アレンとジョヴァンニは少し離れた所で互いの拳をぶつけ合っていた。

ちょっと泣きたい気持ちになりながら、ザックスは果敢に二人の間に入り込む。
腕が立つといっても、未熟な生徒達だ。
難なく二人の腕を掴み、無理矢理戦いを止めたザックスは、これ見よがしに大きく溜息をついて二人の顔を見た。


「邪魔するなって言っただろう?」
「止めねぇでくれねぇか?」
「ハイそうですか、ってんなら、こんな真似しないだろ?」

「・・・・・・・邪魔」
「俺もアレンと同意見だ」
「・・・お前らな・・・ックソ。いいか?そんだけの気迫で戦うってんなら、それなりの理由がある事ぐらい俺でもわかる。
 でもな、女の子に本気で殴りかかる男が何処にいるんだよ!」

「・・・・・・・・・」
「アレン、落ち着け」
「おい、ジョヴァンニだったよな?お前アレンちゃんの彼氏なんだろ?彼氏が彼女に本気で戦うのかよ」

「アンタ、血祭りにしてやるよ」
「アレン!アレン、落ち着け!な!?」
「・・・・・・・・なんで俺が睨まれルぶぉ!」


ただでさえ頭に血が上っているアレンに、禁句に禁句を重ねてしまったザックスは、首を傾げた瞬間殴り飛ばされた。
剣を抜こうとするアレンが、本気でザックスを敵と判断している事を察したジョヴァンニは、慌ててアレンを宥め始める。
不意の攻撃にかるくヨロけたザックスは、何故自分が殴られるのか全く見当がつかないようで、頬を押さえて目をパチクリさせていた。


「アレン、こいつは一応ソルジャーだ!だからダメだ!な!?」
「一応って何だよ!俺はちゃんとソルジャーの3rdだ!」
「アンタが何者だろうとどうだっていいんだよ。ジョヴァンニは黙ってて」

「アーレーンー!こいつは誤解してるだけなんだって!言えば分るから!な!?あのなぁアンタ、アレンをよーく見てみろ。アレンの胸!これが女の胸か!?」
「胸・・・・・・・お前、そういう可哀想な事言うなよ!そりゃちょっと物足りないけど、女は胸じゃないだろ!?」
「やっぱコイツぶっ潰す!」


男同士の闘いを妨げたばかりか、故意と思えるぐらい惚けるザックスに、アレンは殴りかかろうとする。
その体を慌てて抑えたジョヴァンニは、もはや戦意を完全に削がれ、今はただ親友を抑えることしか頭に無くなっていた。
絶壁という言葉そのもののアレンの胸に、ザックスは女の子苛めだとジョヴァンニに怒るが、擁護の言葉はアレンの怒りを増幅させるだけ。
物足りないという言葉はいけなかったかと、違う所で自分のウッカリに気付いたザックスは、これから大きくなると言いそうになるが、それでは今胸が無い事を肯定してしまう。


「邪魔しないでよジョヴァンニ!」
「アレン!お前の気持ちはわかるから、だから落ち着けっての!!」
「あー・・・アレンちゃん、ごめんな?あの、悪い意味じゃないんだけど、女の子は体じゃないからさ・・・それでもホラ、アレンちゃんにはジョヴァンニっていう彼氏がいてくれるんだし、そう過敏にならなくても・・・」

「・・ふっ・・・・ふふっ・・・アハハ・・・アッハッハッハッハ!」
「アレーン!!帰って来ーい!!」
「・・・え?あれ?」


怒りを通り越した感情が、遂に何処かへ飛んでしまったのか。


「アンタなんか大っ嫌いだーー!!」


目に涙を浮かべながらジョヴァンニの腕を振り払ったアレンは、まっすぐザックスへ飛び掛る。
意味がわからず攻撃を避けるザックスと、完全に本気になって攻撃を出すアレン。
段々遠ざかっていく二人を眺め、ジョヴァンニはやれやれと溜息をつくと、知らず浮かんでいた笑みに口元を押さえた。

それこそが自分の答えなのだと気付き、同時に晴れた胸の内に、今度は隠す事無く笑みを浮かべる。
未だ立場は敵であるというのに、ザックスを追いかけるアレンを止めに行きたくなる自分がいた。
それは、この状況では考えるはずのない事で、敵ならば、自分に背中を見せる隙だらけのアレンを狙おうと考えるだろう。
なのに、今自分がしようとしている事、そう考える気持ちは、昨日一昨日までの日常と同じだった。

手にかけなければならない、自分は反神羅組織である。
そんな事を忘れて過ごしていた時の、何の柵も無くいられた時に帰る心は、そうさせてくれたのが誰なのかも知っている。

戦って、互いの体を痛めつけあっても、ただ「分かるかもしれない」という可能性に縋っていた事に比べれば、これは何倍も明瞭な答えだった。


「僕だって、好きで小さいんじゃない!!」
「いや、女の子は小さくても可愛いし大丈夫だって!」

「可愛くなっても意味なんかないんだよ!」
「いや、そんな・・・い、今は可愛くてもさ、女の子なんだし、大人に・・・」

「僕は男だーーー!!」
「・・・・・・・・・・・・・ぅぇえええええ!!?」



大分離れてしまった場所から、アレンの怒鳴り声とザックスの叫び声が聞こえる。
そろそろ眺めていなで、アレンの元に行ってやらねばと考えると、ジョヴァンニは苦笑いをしながら彼らの元に走った。











星を巡る命の光の中、目覚めの時を迎え始めた存在は、目覚めの為の力を持ち現れた存在を感じながら、残り僅かなまどろみを漂う。
奪い得た膨大な力故か、目覚めに必要な魔力故か。はたまた元よりその姿であったのか。
その頭部だけで、人の身の丈を優に超える巨大なそれは、鎧に似た殻を纏う。
星の意思に作り上げられながら、人の意思で目覚めを与えられ、意思を持たないまま目的という本能だけを持つ。

力を奪い去る根源を見下ろし、その巨大さに微かに目を細めた彼女は、溢れる光の底へ視線を下ろした。
淡い青緑は深くなるにつれ白へ変わり、戸惑いが混じるような耳鳴りを微かに届ける。
気を引き締め、壁を作り上げる事で力を奪われる事を妨げるが、それでも魔力が僅かに削られていくのを感じた。

短気決戦が理想だが、その大きさと足場の悪さに、は辺りを見回す。
岩を掘ったような洞窟の奥は、目の前で眠る存在の為にあるかのように、大きな空洞を作り上げていた。
魔光溢れる大穴の外側は、所々岩が突き出ている場所こそあるものの、足場に出来るようなものはない。
魔法を使えるのならば、氷系魔法でそれらを作れるが、そんな事をしようものなら魔力を根こそぎ奪われかねない。

接近戦を強いられるにも関わらず、地の利が無いというのは、彼女でなくとも戦いにならなかった。
誰か一人、共闘できる者がいれば、この後の自体はある程度有利に運ぶだろうが、8班の生徒は当然の事ながら役不足だろう。
例えザックスがいたとしても、彼は技量が一歩足りず、何より経験が少なすぎる。
だが、仕方が無いとはいえ、一人で戦うには、この状況は難がありすぎた。


問題は足場。
それさえ何とかなれば、倒せない事は無いと考えると、は壁を軽く叩く。
土交じりの岩は、それだけで崩れる事は無いが、戦いが始まれば間違いなく崩壊するだろう。

この洞窟の中が不利ならば、外へ引き摺りだせば良いだけの事。
その前に、まずは付近にいる班員を離れさせなければならない。
目覚めるにはまだ僅かばかりだが時間があり、その餌となる魔力ものものだ。
彼らを退避させると同時に、戦いの幕が上がる。

グローブ越しに岩肌を撫で、バラバラと落ちる土を指先で潰すと、彼女は元来た道を戻り始めた。





やっとセフィロスを表立って出せる状況になりました。
やっと7夢らしくなってきました。いや、まだ何か7夢っぽくないけど、割とって意味ね。
アーサーとロベルトのドンパチはまだ続きますけどね。うん。
2008.01.05 Rika
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