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「厄介だな・・・」


頬を伝った汗を拭ったは、青緑の光の中で眠る巨大な生物を見下ろし呟く。
暗闇の洞窟を進んだ先には、いつか精神体で見た星の光が溢れ、寝息とも地鳴りとも言えない音が響いていた。

予想通り、進むごとに削られていく魔力に、彼女は気休めの防衛線を張る。
ドレインをかけられたとき、多くの力を奪われないように気を引き締めるという、ずっと昔に覚えた技を魔力で行ったのだ。
僅かばかりでも、奪われる魔力を妨げられればと思い、半ば手探りで行った防御だったが、効果はあるらしい。
しかし、それでも魔力を吸い取られている事に変わりは無く、気を抜けば眩暈を起す。

反神羅組織はもはや殲滅したも同然。
もはや召喚獣の手を借りている必要は無く、彼女は遠くで歩き回っているイフリートを戻した。
これまで自分から奪った魔力を蓄えているだろう目の前の怪物に、彼女は嫌な敵に当たったものだと自嘲交じりの笑みを零した。

辿り着いた洞窟の奥には、青緑の光が溢れる深い大穴が開いており、その中にマクスウェルが言っていたと思しき巨大な生き物がいた。
白く、僅かに虹色の光沢を見せるその表面は、甲冑のような殻で覆われ、地底から溢れる青緑の光に照らされていた。

一歩踏み出した彼女は、転がる石に足を取られて傾いた体に、慌てて壁に手をついた。
グニャリと視界が歪み、しかし意識を手放す程ではないそれに、は首を数度横に振る。
剣のみで戦うとしても、魔力が尽きた状態の眩暈というオマケは勘弁願いたい。
道具袋からエリクサーを取り出し、残っていた二本を飲み干すと剣を抜いた。


いつか仲間と倒した、無を求めた者の成れの果てと、どちらが大きいだろうか。
一人で倒すには、少々大きすぎるだろうと苦笑いを零すが、今は共に戦えるだけの腕を持つ者などいない。


帰らない気も、死ぬ気も更々ありはしないのに、何故か、遠い仲間との別れの時を思い出した。






Illusion sand − 68







「遅せぇぞアレン!」
「・・・開口一番にソレ・・・?」


ようやく目の前まで来たアーサー達を、ジョヴァンニはニコニコ笑いながら出迎える。
これから悶着を起そうという時に、まったくその気が無さそうな彼に、アレンは呆れて言葉を返した。

ジョヴァンニが変わらない態度で出迎えるだろう事は、アレンも予想していたが、まさかここまで明るく出迎えるとは・・・。
嫌ではないのだが、少しばかり親友の思考回路が心配になりなる。
無表情で見つめるロベルトと、膝を抱えて座り込んでいるアルヴァをちらりと見ると、アレンはアーサーに視線を向けた。


「で、お前らはどうするんだ?」
「・・・・どうすると思う?」


少し疲れが見える顔で、薄く笑ったロベルトに、アーサーは微かに眉を潜める。
苦笑いするジョヴァンニは、思考を中断される上に気が削がれるので、視界に入れない事にした。
ぐしぐしと鼻をすする音に、二人の足元を見れば、アルヴァは顔を伏せたままベソベソ泣いている。
やはり、この状況で真面目に話し合えるのはロベルトだけだ。
だが、アーサーが見る限り、彼は穏便に解決するような雰囲気では無いだろう。


「このまま寝返ろ・・・って言っても、お前は聞かないんだろうな」
「よく分ってるね・・・。当たり前すぎて、考えるまでもない・・・か・・・」


言いながら剣を抜いたアーサーに、ロベルトも自分の腰に下げていた細剣を抜いた。
ズビー!!と、盛大に鼻をすするアルヴァが、意図せずその場の緊張感を削いでくれるが、二人はその音を聞こえなかった事にする。
先に踏み出したロベルトの剣が、アーサーの胸元目掛けて突き出されると、彼は難なくそれを避ける。
傍にいたアレンとカーフェイも、アーサーと同じタイミングでロベルトと間合いを取った。

多勢でかかってくるかと、少しだけ注意を向けたロベルトだったが、アレン達に動く様子はない。
視界の端に入り込んだ銀色に、上体を仰け反らせて避けたロベルトは、同時に剣を振り上げてアーサーの剣を弾いた。
刃がぶつかる直前に、腕を振り上げる事で衝撃を和らげたアーサーだったが、微かに痺れた右手にロベルトと間合いを取る。

アレン達が邪魔する気が無い事を理解したロベルトは、彼らに背を向けてアーサーと向き合うと、再び彼に向かって攻撃を始めた。
突き、払う刃を、アーサーは剣を左手に持ち替えながら受け止める。
数歩下がり、狭い間隔で生えた木の間を通ると、彼の狙い通りロベルトの太刀筋は突きばかりになった。

首を狙ってきた剣を木の陰に隠れるように避けたアーサーは、自分の剣を宙に放り投げる。
その行動に、ロベルトは一瞬腕を引くのが遅れ、その隙にアーサーは彼の腕を捕らえた。
無理な体勢は承知でロベルトを背負い投げ、彼の身体が地面に付くより先に、落ちてきた剣を手に取る。
濡れた草の上を滑るように転がったロベルトの身体は、太い木の根に背中を打ちつけて止まった。
痛みに気をとられる間もなく顔を上げた彼は、刃を振り下ろすアーサーに、転がるようにそこから離れた。


「転んでも倒れても剣を離すな。・・・アベルさんの教えに忠実だな、ロベルト」
「誰の教えだろうと、それぐらい基本だろう」

「最初の授業で俺に剣飛ばされたのは誰だよ?」
「悪いけど、僕は君と何があったかなんて覚えてない」

「あれだけ悔しそうな顔してか?」
「忘れたよ」

「お前はどんな嘘でも下手糞だ」
「知ったような口きかないで」


鋭く睨みつけて剣を構えなおしたロベルトを前にしながら、アーサーはその口元に微かな笑みを浮かべる。
目ざとくそれを見つけ、表情を険しくしたロベルトは、再び口を開ことした彼の言葉を遮るように刃を振り上げた。
刃は刃で受け止められ、一度耳に刺さるような音を鳴らすと、互いの力で競り合う。


「お前が・・・誰にでも良くするくせに、中に踏み込ませないのは何でか・・・」


標準の太さの剣に、細い剣で競り合えば、余程の力の差が無い限り細剣が悲鳴を上げる。
握り締めた柄からそれを感じたロベルトが、僅かに力を緩めたのを感じると、アーサーは彼諸共剣を弾き飛ばした。


「此処に来て、漸く分かった気がする」
「っ・・・君に・・・何がわかるんだ!」


叫ぶと同時に向かってきたロベルトは、一気に間合いを詰めると剣を振り下ろした。
それまでより格段に早くなった攻撃に、アーサーは剣を盾にしながら後ろへ引くが、それを見越したロベルトは更に間合いを詰める。
眼前に迫った刃は、アーサーの剣が弾き返すより先に、彼の皮膚から鉄臭い赤を飛ばした。










「行っちまったなぁ」
「・・・・」

剣がぶつかる音は段々と遠ざかり、残された4人はそれぞれの状態のまま、そこから動かずにいた。
二人がいなくなった方角を眺めたジョヴァンニは、アレンに一度目を合わせると、蹲ったままのアルヴァを見下ろした。
先程よりましになったとはいえ、まだ完全に泣き止んでいない彼は、時折鼻をすすらせている。

普段騒ぐ人間が静かな時は、その後に来るのが嵐か春風かどちらかだ。
出来れば後者であれば良いと思いながら、拭えない不安に、ジョヴァンニはアルヴァと同じく黙ったままのカーフェイを見る。

木に背を預け、腕を組んでいるカーフェイもまた、何時もの明るさを仕舞いこんで口を閉ざしていた。
感情を押さえ込んでいる風には見えず、しかし不安も怒りも何も見えない。
何も言わず視線を返す彼に、ジョヴァンニは一度アルヴァの頭を撫ぜると、ずっと自分を待っているアレンへと視線を向けた。


「なぁ・・・」
「何?」

「・・・アレンは・・・どうしてぇ?」
「・・・・・・君は?」

「質問してんのは俺だっつの」
「迷ってるんだろ、君は」

「・・・・」
「けど、考えても答えに自信が持てない。だから僕や皆の答え・・・願い叶えようと思う。でしょ?」


アレンの言葉に、ジョヴァンニは暫く黙り、やがて頷いた。
それに盛大な溜息をついたアレンは、上着のチャックを一気に下ろすと、カーフェイの足元に脱ぎ捨てる。
シャツ1枚になった彼は、道具袋から出したグローブをはめると、濡れて額に貼り付いた前髪をかきあげた。


「ジョヴァンニはさ、もっと自分の事優先しなよ。それは我侭じゃないよ」
「・・・・・・・・」

「自分の気持ちぐらいわかってるんだろ?」
「・・・・・・・」

「つきあってあげるよ」


構えを取り、戦闘体制に入ったアレンに、ジョヴァンニは少しだけ考えると上着を脱ぐ。
細身で小柄のアレンと、見て分かるほどに筋肉がつく大柄なジョヴァンニは、まるで大人と子供のようだった。
実習旅行に出る時自慢していた武器を片手に嵌めたジョヴァンニは、もう一度アルヴァを見下ろす。
何の反応も無い彼に、その場を離れる事への迷いが生まれたが、後に引く気も起きなかった。


「場所変えるか。此処じゃ・・・な」
「いいよ。じゃぁ、カーフェイ、行ってくるね」
「・・・ああ」


言葉少なく送り出すカーフェイに、アレンは少しだけ彼を見つめるが、すぐにジョヴァンニの方へ足を向けた。
アーサー達が行った方角とは逆へ歩き出した彼に、アレンは後を追いながら、一度だけ残る二人を振り返る。
妙にざわつく胸は、この状況への不安でも、ジョヴァンニと戦う事への緊張でもない。
早めに終らせて戻ってくるべきだろうと考えながら、それが出来るだろうかと先を行く大きな背中を見た。

彼がいれば負けるはずが無いと、何の不安もなくいられた時が妙に昔の事のように思える。
それでも、戻らないのだと悲観する事が無いのは、友の思いを分っているからか、それとも彼が変わらずにいてくれるからか。
場合によっては、どちらかが帰れないかもしれないのは、今更の考えだとアレンは自分に言い聞かせる。

互いに本気でやりあうなら、血を見るのは明らか。
ならば彼が望むように、自分が望むように、悔いを残さない戦いをするしかないだろう。
その思いもまた今更。

迷っているのは自分じゃないかと自嘲しながら、腰下げている滅多に使わない剣の柄を指先で撫でた。










ロベルトがいなくなっても、ジョヴァンニがいなくなっても顔を上げないアルヴァを、カーフェイは一言も発する事無く見下ろしていた。
数時間前、彼に切られた首元を指先でなぞってみるが、そこはまるで、あれが夢だったかのように、何の跡も残っていない。
それでも、傷口を必死に押さえてくれたアーサーの手の感触は鮮明に思い出され、同時にカーフェイを現実に引き戻す。

膝を抱えたままのアルヴァは、彼の目から見てもただの子供で、未だに反神羅組織の人間だと思いきれずにいた。
そう思う気が無いのかもしれない。ならば彼を敵として見れない事も納得出来る。
アーサーやアレンがそう思うように、カーフェイにとっても彼らは彼らで、友人で、『反神羅組織の人間』には成り得なかった。


「アルヴァ」
「・・・・・・」

「・・・泣いてても何も解決しないぞ」
「・・・・うるさい」

「ロベルトも、ジョヴァンニも、ガイも、自分で選んで戦ってる。お前、いつまでそうしてるんだ?」
「うるさいよ馬鹿!ヘッポコ!変態!」

「・・・・・・・・」
「せっかく殺したと思ったのに・・・何で生きてるんだよぉ・・・。アレンも・・・アーサーも・・・カーフェイも・・・」


幼稚すぎる罵声に呆れながら、カーフェイは変態の言葉に、一瞬反論の言葉が見つからなかった。
興味津々な年頃なだけだと返そうとしたが、その前に言葉を出したアルヴァは、またベソベソ泣き始める。

この遣り取りは進展してるのかそうでないのか。
既に闘い始めているアーサー達を思うと、否応無しに焦りが生まれ、自体を膠着させるアルヴァに対する苛立ちが募った。
それでも、今の彼には感情的になっても、状況は好転しないと自分に言い聞かせ、カーフェイは表面的な冷静を取り繕う。


「・・・死んだ方がよかったか?」
「・・・・・・・」

「今も俺を殺したいか?アルヴァ」
「・・・・カーフェイは・・・何も知らないんだ」

「・・・・・・・・・」
「ガイの事もロベルトの事もジョヴァンニの事も僕の事だって・・・カーフェイは何にも知らないんだ!」


鼻声で叫んだアルヴァの言葉に、カーフェイは怒鳴りたくなるのをグッと抑える。
静かに息を吸い込み、大きく吐き出して自身を落ち着けた彼だったが、残念ながら怒りは収まってくれない。
アーサーならば、こんな事をせずとも冷静でいられるのにと頭の片隅で考えながら、彼はゆっくりアルヴァへと歩み寄った。

漸く顔を上げたアルヴァは、目も鼻も真っ赤にしながら、不満そうに口を尖らせてカーフェイを睨む。
意地になった子供そのものの彼を、カーフェイは暫く見つめると、その襟首を掴んで一気に自分の頭上まで持ち上げた。


「俺が何も知らないって?」
「・・・ぐっ・・・」


片手でアルヴァの身体を持ち上げるカーフェイは、静かな声色で問う。
宙吊り状態のアルヴァは、彼の手に爪を立てながら、苦しさに小さく呻き声を上げた。


「知るわきゃねぇだろうが!
 俺はなぁ、アーサー達とは違って何も知らねぇで此処に来てんだよ!
 いきなりアバランチだとか言われるわ、お前らは居なくなるわ、殺されかけるわ!
 必死になって考えて来てみれば、テメェは何だ!?ガキみてぇにベソベソしやがって!!
 ロベルトもジョヴァンニもガイも、自分で考えて答え出してんだ!今も戦ってんだよ!
 お前だけいつまでもグダグダ甘ったれてんじゃねぇ!泣いても何も解決しねぇだろうが!!」


泣き続けるアルヴァに、カーフェイの堪忍袋の緒が見事に切れた。

怒鳴り終えたカーフェイは、乱暴にアルヴァを手放し、解放された彼は地面に座りこんで咳き込む。
下を向く彼に、カーフェイは剣を抜くと、顔のすぐ傍に剣を突き刺した。
顔を上げたアルヴァを、険しい顔で見下ろすカーフェイは、彼の服を掴み無理矢理立ち上がらせる。

漸く敵意を取り戻したアルヴァは、カーフェイを睨みつけるとその襟首を掴み返す。
10cm近い身長差を無理矢理縮めた彼は、カーフェイの顔を引き寄せた勢いのまま、その額に自分の額を思いっきりぶつけた。


「って・・・」
「勝手な事言うなって言ってるだろ!やっぱり全然知らないじゃないか!全然わかってないじゃないか!」


アルヴァの頭突きをマトモに食らい、カーフェイは数歩後ずさると頭を振る。
頬の内側に小さな痛みを感じて舐めると、口の中に鉄の味が広がって、彼は血が混じった唾を吐き捨てた。
叫んだアルヴァは、カーフェイが手放してしまった剣を握る。
武器を無くしたカーフェイは、標準より重い剣にアルヴァが戸惑った隙に、道具袋から炎属性のロッドを取り出した。


「何が知らねぇか分ってねぇか言わなきゃ誰だったわかんねぇんだよ!俺はエスパーか!?」
「ロベルトはアーサーを殺さなきゃならなかったんだ!
 ジョヴァンニだってアレンを殺さなきゃならなかったんだよ!
 僕もガイも一人づつ殺さなきゃならかった!でもカーフェイが入ったせいでその子達が居なくなっちゃったんだ!」

「俺だって出来れば女子はいたままでほしかったよ!」
「なのに二人は全然そんな事しないし、ロベルトなんかそのままいなくなっちゃうし!・・・誰かが殺さなきゃならなかったんだ!」


泣きながら叫んだアルヴァは、両手で剣を持つと振り上げる体制のまま走り出す。
太刀筋が分かりきったその攻撃を、カーフェイは難なく避けるとロッドのスイッチを入れる。
赤く光るロッドの先は、暗い森の中では目印になってしまうが、丁度良いハンデだと思う余裕があった。


「アーサーが死ななきゃロベルトが裏切り者になるんだ!裏切り者は組織の中で殺されるんだよ!ジョヴァンニだってそうだ!
 二人がやらなきゃ、ガイがアーサーとアレンを殺さなきゃならなかったんだ!ガイがやらなきゃ、僕が皆を殺さなくちゃならなくて、僕がしなかったら皆裏切り者になって殺される!」
「・・・んだよソレ・・・」

「だから僕がアーサー達を殺そうとしたのに!せっかく・・・皆に嫌われると思って、それでも頑張って殺そうとしたのに!!」
「・・・・・」


剣の重さに翻弄されるアルヴァの攻撃は、カーフェイにとって子供の遊びだった。
一般人相手ならば、十分強い部類に入るものだが、特待生の名は伊達ではない。
その気になれば何時でもアルヴァを拘束出来るカーフェイだったが、吐き出しきっていないアルヴァに、それをする事は無かった。


「なのに・・・何なんだよあの先生!好き勝手な事言って、せっかく決めた気持ち揺らして!踏ん張って、頑張って殺したのに全部・・・全部水の泡にして!」
「・・・・・・・」

「もう何も無いって思ったのに!これで最後だと思ったから撃ったのに!斬ったのに!皆生きてて、ガイは僕から離れていった!!」
「アルヴァ、ガイはお前の・・・」

「ロベルトも、ジョヴァンニもいなくなる!他の皆も死んだ!誰も残ってないんだ!僕は一人になった!!」
「アルヴァ!お前は一人じゃ・・・」

「考えるとか選ぶとか、そんなのカーフェイ達の勝手じゃないか!僕はずっとガイ達が殺されない方法を選ぶしかなかった!他に道なんか無かったんだ!」
「アルヴァ!!それは今から・・・」

「カーフェイには分からないよ!いきなり誰もいなくなって、先の事全部わからなくなる気持ちなんか!カーフェイにはレナード先生もアーサー達もいたけど、僕にはもうガイも誰もいないんだ!!」
「聞けよ!!」


ゴッ


当たらない攻撃を我武者羅に繰り返していたアルヴァは、散々言葉を遮られて苛立ったカーフェイの拳を脳天に受けた。
つい手加減を忘れてしまった拳骨は、かなり大きな音を立て、その攻撃力を物語るように、アルヴァはドシャッと地面に倒れる。


「げ・・・・」


しまったと思ったところで、既に後の祭り。
うつ伏せに倒れて静かになったアルヴァに、カーフェイはやりすぎたと思いながら、恐る恐るその身体をひっくり返す。
涙でぐしゃぐしゃだった顔は、泥でぐしゃぐしゃになり、一応息はしているようだが、白目を剥いて完全に意識を失っていた。

情け程度に顔の泥をハンカチで拭ったカーフェイは、アルヴァの身体を木の下まで引き摺る。
目覚める頃には、他の二組の戦いも終わっているだろうと考えながら、ロッドを仕舞うと、草の上に落ちている剣を拾い上げた。


ガイが言っていた通り、アルヴァの戦闘能力は優れてるとは言い難い物だった。
それでも、中の中ぐらいの成績だが、同じ年の自分に軽くあしらわれるようではまだまだ。
鞘に戻した剣も、自分には丁度良い重さだが、射撃の成績で点数を稼いでいる彼にとっては、振り回すだけで相当体力を削られるものだっただろう。

目覚めた彼に何と言うか、言葉は思い浮かばないが、あれだけ泣いて暴れたのだから、アルヴァの気も随分晴れているはずだ。
その後は、戦う事を止めて、普通の生活していく方が、彼の為だろう。
正直、カーフェイには、技術的にも精神的にも、アルヴァが戦場で生き残れるとは思えない。

きっと彼も、平凡な生活という道を選ぶだろう。
そうであればいいと思いながら、カーフェイは近くの木に寄り、背を預けて腕を組む。
それ程長けてはいない感覚を澄ませ、まだ戦っている二組の殺気を僅かに感じると、灰色の雲に滲んだ茜を見上げた。







雨雲はやがて過ぎ去る。





これは何夢だ?というか、何小説だ?(汗)
2007.12.20 Rika
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