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長い銀の髪を靡かせ、身の丈を越える刀を持った青年は静寂の森に足を踏み入れる。
鳥の声すら聞こえないそこは、訪れ始めた夜を待ちきれないように、僅かに差し込む西日さえ遮っていた。
通り過ぎた雨に草木は濡れ、まだ森の奥を歩く雨に呼応するように、新緑の葉先から雫を落としては受け止めた緑を囁かせた。

日没の強い光からそこへ入り込んだ目は、すぐに闇になれる事が出来ず視界を黒に染める。
微かに目を細めた彼は、雨に濡れた草を踏みしめながら、遠くに感じる幾つもの気配に感覚を澄ませた。
朧に手に取れる感覚の中、敵か味方かわからないその中に、ただ一人の気配を探す。

どれもこれも彼女ではない。
そう考えて溜息をつくと同時に、こんな場所で彼女がわざわざ気配を隠さない訳が無い事に気がついた。

今わかるそれらの気配は、彼女のものでも、ましてひよっ子の生徒達のものでもない。
先は長いらしいと、再び焦り始めた自分に苦笑いしながら、彼は行く手に待つそれらの気配に警戒するまでも事も無く、再び歩き始めた。








Illusion sand − 67










「この先に、3人はいるよ。皆が来るのを待ってる」
「待ち伏せってやつか・・・」

「計画ではね。でも、どうなるかな・・・」


ガイの案内で、3人はロベルト、ジョヴァンニ、アルヴァがいる場所へ向かっていた。
降り注ぐ雨は天を覆う木の葉に遮られ、時折その合間から落ちてくる程だ。
騒音に包まれる静かな森にある音は、踏みしめる度なる草の音と、会話をするガイとアーサーの声だけがあった。
その声も、まるで真夜中であるかのように錯覚させる闇に溶けて消える。

遠くに感じ始めた人の気配に、は目を細めて先頭を行くガイを見た。
半歩先を歩いていた彼は、彼女の視線に気付くと微かに振り向く。


「他の教官はどうしている?」
「別の計画の方に行ってる。そこには、俺と先生で行こう。他の皆じゃ、きっと手に負えないから」

「計画とは?」
「星を護る者・・・とか、マクスウェルは言ってたかな。よくわからないけど、他の人は太古の化け物だって。それを目覚めさせるみたい」

「詳しくは知らされていないのか」
「俺達は駒らしいからね。不必要な事は教えられなかったんだ。って言っても、伊達にテロリストやってないし、身内の情報収集ぐらい楽だったけどね。二日に一日は学校行かずに暇だったし」

「そうか」
「アーサー達には、ロベルト達を任せる事になると思うけど・・・」

「初めからそのつもりだ。それで良いだろう?」


の言葉に、アーサー達は少しだけ驚いた顔をする。
だが、元より自分達で彼らと向き合いたかった3人に異論などなく、静かに頷いて返した。
足を止め、振り向いたガイも、彼らの反応に何処か嬉しそうに目を細める。
そんな彼に、アーサーとアレンも少しだけ頬を緩めたが、カーフェイは少し考えると言いにくそうに口を開いた。


「でもさ・・・なぁ、ガイ、いいのか?」
「何が?」

「ガ・・・じゃない、アルヴァ?お前の従兄弟なんだろ?だったら、お前が出て行った方がいいんじゃないのか?」
「・・・・・・そうだね。きっと彼もそれを望んでるだろうけど・・・今回ばっかりは、俺じゃダメなんだよね」

「何で?」
「アルヴァは・・・そろそろ親離れしないと」

「は?」
「多分、カーフェイが相手する事になると思うよ。アレンはジョヴァンニと相手したいでしょ?
 アーサーは・・・ロベルトになると思うよ。元々、彼は君を殺す役目を与えられたから。
 だから、アルヴァはカーフェイが相手になると思う。凶暴になってるかもしれないけど、頑張ってね」

「きょ・・・凶暴って?」
「俺を取られた・・・とか、考えたりしてね。彼、俺にベッタリだから。だから親離れが必要なんだよ」

「・・・じゃぁ更にお前が行けよ・・・」
「俺が行ったらアルヴァは何にも考えずに俺についてくる。でも、自分で決めなきゃダメなんだ」

「・・・でも凶暴って・・・凶暴って・・・」
「大丈夫だよ。アルヴァは俺と違って結構弱いから。頑張ってね、特待生」


ニッコリ笑って押し付けるガイに、カーフェイは深い溜息をつくと渋々頷く。
彼の口ぶりから、やはり戦闘は避けられないのかと考えるアーサー達は、木々の向こうに見えた薄灰色の制服に足を止めた。
まだ随分距離はあるが、ジョヴァンニとロベルトは背が大きいので、遠目でもわかりやすい。


「じゃ、俺は先生と他の連中を始末してくるから」
「こちらが終ったら、すぐに戻って来よう。だが、もし時間が経っても戻ってこない時は、目印にサンダーを一発落としなさい」
「流石さん。負ける気皆無の指示だな」
「いいんじゃない?僕は嫌いじゃないよ」
「ミディールを目指せって言われるより、よっぽど気持ち良い指示だしな」

「取りこぼしの連中が集まるんじゃないかと思うけど・・・ま、いいか」
「もしソルジャーがいるようなら、彼らについていってもかまわない。もしザックスがロベルト達の事を報告していたら・・・適当に誤魔化せ」
「すんげぇアバウト・・・」
「頑張ってね、班長」
「世の中嘘も方便だぞ〜」


他人事みたいに言うなとボヤくアーサーに、カーフェイ達はゲラゲラと笑う。
ガイは3人に回復アイテムを手渡すと、と共にその場を離れた。


「で、どうする?ガイが言うとおりに相手してくか?」
「話し合えるなら、そっちの方がいいけどな・・・」
「まず無理だろうね」


揃って溜息混じりに言ったアーサーとカーフェイを横目に、アレンはきっぱり言い放つと腕につけていたリストバンドを外す。
ただのリストバンドにしては、重量のある音を立てて草の上に落ちたそれに、二人は呆けた顔でアレンを見た。
そんな二人の視線など気にせず、アレンはしゃがみ込むと足首につけていた錘を外し、また草の上に捨てる。
普通こんな所にまでつけてくるかと呆れる二人だったが、立ち上がって靴の裏から更に錘を外したアレンに目を丸くした。
今度はベルトを外したかと思うと、バックルの裏からまた鉛の板を捨て、彼はその場でニ〜三度跳ねる。
いつもより2割増しに跳ぶ彼は、呆然とする二人を見上げてニヤリと笑った。


「アレン、お前どれだけ錘付けてんだ・・・?」
「2、4、6・・・8個ぐらい?」
「最初のゴムボート沈んでたらアレンも浮かんでこなくなってたな・・・あ、だから慌ててたのか」


そんなものを付けて余裕でいるから、アルヴァに思いっきり撃たれるんじゃ・・・。

喉元まで出かけた言葉を飲み込んだアーサーは、とりあえずアレンの錘は気にしない事に決め、ロベルト達の方を見た。
向こうも既にこちらに気付いているようで、ジョヴァンニらしき姿が、暢気にこちらへ手を振っている。
傍にいるロベルトが項垂れているのは、きっと気のせいではないだろう。
どういう空気だと思いながら、準備が整ったアレンとカーフェイに、アーサーはゆっくりと歩き始めた。











「この先にある洞窟の奥にね、マクスウェルが目覚めさせようとしてる化け物が眠ってる」
「洞窟・・・か。ありがちだな」

「地面に首出してグーグー寝てる奴なんかいないでしょ?」
「確かにな」


それはそれで見てみたい気もすると思いながら、はガイに連れられるまま森の中を歩く。
どうやったらそんな発想になるのかと言う人間は、残念ながらこの場にはいなかった。

雨雲は遠くへ去ったのか、木々の上から落ちる雫も減り、騒音も無い。
歩く度に嫌でも音を立てる草に、気配を消す事を諦めた二人は、堂々と反神羅組織の連中だろう人の気配に近づいていた。
大分近くなった頃、ようやくこちらの気配に気付いた彼らは、慌てたように気配を消し始める。

が、その程度の事をしても、にとっては目に見えるかのように彼らの位置がわかっていた。
隣を歩くガイもそれは同じらしく、目が合うと苦笑いを浮かべて肩を竦める。
授業で見る彼の技術より、明らかに上のそれを成すガイに、思ったより力はあるようだと感心した。


「一つ聞いてもいいか?」
「何?」


物陰に隠れてこちらを伺う気配の真ん中を、二人は身構える事も無く堂々歩く。
逃げ腰の殺気を隠す彼らに、は銃を取り出したガイを横目で見、剣に手を伸ばしながら話しかけた。


「お前らの組織の中で、最も腕が立つ者は?」
「・・・今の時点では、マクスウェルかな」

「なるほど」


では、「今」でない時は別の人間だったという事か。
潜む者達の気配に納得したは、小さく笑いを漏らすと白銀の刃を抜いた。


「選ぶがいい。降伏するなら命は取らん。逃げるなら好きにしろ。それを拒否する者には、死を与える以外出来ない」
「俺も先生と同意権。悪いけど、隠れても無駄だよ」


二人の声に、潜んでいた者達の気配が微かに動揺する。
数秒待って様子を伺った達だが、残念ながら彼らの心は変わらないようだった。
かと思っていると、それまで隠れていた者達が一斉に姿を現し、二人に襲い掛かる。
だが、それらは二人に攻撃をしかけるより先に、一閃の残像と1発の発砲音に倒れた。


「凄いね。俺が1発撃ってるうちに、5人も倒せるんだ」
「・・・行くぞ」


数歩離れた場所で倒れる、5人の元味方。元教官に、ガイは感心してを見た。
潜り込んでいた反神羅組織の教員は6人。
動かなくなった彼らの容姿をざっとみると、残るは一番厄介なマクスウェルだけだ。

一瞬で縮めるにはかなりの素早さを必要とする場所でありながら、彼女は一瞬前にいた場所に変わらず立っている。
揺れる黒髪だけが、彼女が動いた事を語っていたが、その手にあった剣も既に鞘に収められていた。

呟いた彼に答えを返すでもなく、は先を歩き始める。
素っ気無さに肩を竦めたガイだったが、そこに長居する理由も無く、すぐに彼女の後を追った。


「人を殺す事には慣れているようだな」
「まぁね。そういうのは、俺の仕事だったから」

「ロベルト達は、そうでもないようだが」
「うん。俺だけ。皆は、学校とかあるしね。それに、まだ子供だから」

「お前も子供だろう」
「ハハッ!そうなんだけどね」

苦笑いの混じる笑顔のガイに、はちらりと視線を向ける。
自分が生まれた世界では、彼の年で殺生をする者など珍しくはなかったが、それは魔物が相手での事。
人を相手にする子供など、何処の世界でも珍しいのだ。
なのに、慣れる程その仕事を与えるとは・・・・いや、それよりも・・・


「背負い込んだのか」
「・・・他の皆には、させられないでしょ」

「だからと言って一人で抱えるものではない」
「言ったら皆・・・自分もやるって言いだすよ」

「・・・・・・・・誰の指示だ」
「組織の。それしか無いでしょ?」

「よくそれでお前らが真っ直ぐ育ったものだ」
「それはよく思う。まぁ、あそこで育てられたのはロベルトとアルヴァだけみたいなものだけどね」

「頭は誰だ」
「昨日先生が倒した中にいたよ」
「そう。ですから、今指示を出しているのは私です」


ガイの言葉に、見る間に機嫌を悪くしていくは、睨むようにガイを見る。
ロベルト達のように長い間柄では無いにも拘らず、自分達の状態を聞くほど腹を立てる彼女に、彼は妙に嬉しくなった。
だがそれも、二人の会話に入り込み、目の前に現れたマクスウェルによって、消える。


「思ったより早い到着でしたね。ちょっと驚きました」


足を止めた二人に、マクスウェルはいつも通りの態度で言葉をかける。
その後ろに見える岩山と、ぽっかり口を開けた洞窟に、も予想より早い到着だと思った。
身構えるでもなく、暢気に歩み寄るマクスウェルは、二人の傍まで来るとガイの方を優しく叩く。
怪訝な顔をするガイに、彼はニコリと笑うと、空いた手で取り出した銃をに向けて撃った。

不意の攻撃に、彼女は身を翻し、的を失った弾は乾いた銃声を残して森の闇に消える。
当たらなかった事と、の顔に焦も驚きも無い事に、マクスウェルは関心した顔をするが、すぐにガイに笑みを向けた。


「ご苦労様でしたガイ」
「それはどうも」

「ええ。裏切りのフリは疲れたでしょう?ありがとう。君のお陰で、大分状況が有利になりました」
「・・・・・・・ゆ・・」

先生、貴方は我々が予想していたよりずっと手強くて・・・思いもよらない行動ばかりしてくれる。
 お陰で私達の組織は、たった2日で私とロベルト君達の、4人になってしまいました。
 数の上で違いなど無くとも、貴方がいると、カーフェイ君とアレン君が死んでくれないんです。
 しかしガイが、他の生徒達と貴方を別れさせてくれた。
 敵戦力の分散は、戦術の基礎。良かれと思ってガイに従ったのかもしれませんが・・・残念でしたね」
「・・・何・・・」

「やはり、敵の腹に潜り込ませる役は、ガイ以上の働きを出来る者はいませんね。
 今までも、君のお陰でどれだけ我々の不穏分子を消せたか・・・それだけの意思を持つ君を疑う真似など、私達がするはずないでしょう?
 人を騙す才に長けた、君らしい戦法ですね。」
「ち・・・・違う!俺は・・・」
「下らん。猿芝居はいい」


深い溜息をついた彼女の言葉に、ガイは戸惑いの表情で振り向く。
が、目を向けた先に彼女はおらず、目の前からドスッという鈍い音と、マクスウェルの「ぐぇ」という声が聞こえた。
片足を上げたまま、ガイのすぐ傍に立つは、蹴り飛ばしたマクスウェルを興味無さ気に見下ろす。
呆然とするガイに目を向けた彼女は、少し潤んでいる彼の目に少しだけ驚いた顔をすると、彼の頭を軽く小突いた。


「締まりの無い顔をするな」
「あ・・・」
「・・・先生、貴方は自分を騙す人間を信じるんですか?」

「馬鹿か貴様は。
 私は彼に騙された覚えなど一度も無い。
 ガイ本来の性格も、アルヴァと入れ替わっていた事も、私が気付かなかっただけの事だ。
 それに、お前の方が余程信用出来ん、マクスウェル。
 30を過ぎたいい大人が子供を苛めとは、大人気ないにも程がある。恥という言葉をご存知か?」


ゆっくり起き上がるマクスウェルの手には、まだ銃が握られていた。
だが、それに全く臆する様子も無く、は呆れた顔で彼を見下ろして言葉を続ける。


「ガイに裏仕事を任せていたそうだな。なるほど、確かに今のお前の芝居を見る限り、彼の方が余程上手く立ち回れるだろう。
 お前には、ある程度他人を欺く才はあっても、混乱させるだけの能力は無さそうだ」
「ハハハッ!やっぱりそう思います?私もねぇ・・・常々そう思ってたんですよ」

「出来ん事でも挑戦する心意気だけは買ってやろう。だが、もう終わりだ。降伏か死か、選ぶが良い」
「終わりは貴方ですよ。私達の最後の望みは、もうすぐ目覚める」

「話に聞いた、化け物か」


しかしまだそれは眠りの中にあるのだろう。
巣穴から這い出てくる様子も、気配を伺わせる様子も無いそれに、彼女は洞窟を一瞥する。
ただ立っているだけで削られていく魔力に、事の元凶はこれだったのかと納得した。
早々に始末したい所だが、無闇に近づいて全ての魔力を奪われては本末転倒。
焦る気持ちが無いと言えば嘘になるが、今は目の前の男の処分が先と、マクスウェルへ視線を戻した。


「予想外にね・・・恐ろしい化け物だったようです。眠っているからと近づいたら、MPを大幅に吸い取られてしまいました」
「正体は知っているのか?」

「星が作り上げた生ける兵器・・・最後の希望の一つですよ」
「星・・・・」


ならば何故一応味方である自分の魔力を削ってくれるのだろうか。
敵味方の区別ぐらいつけてくれなければ、困るのはお互い様だというのに、約束を破棄されてもいいのかと、は内心悪態をついた。
小さく舌打ちし、じわりと滲んだ汗に額を拭う。
後々の事を考えても、これは早々にその化け物とやらの息の根を止めるべきなのだろう。
下手に深い眠りを与えた所で、暫くして目覚めるようではまた此処に来なければならなくなる。


「止める方法はあるのか?」
「あったとして、教えると思いますか?」

「手段を選ばなければ、吐かせる事など容易だ。が、今は時間が無い。マクスウェル、降伏か、死か、選ぶがいい」
「偉そうに言いますねぇ。ですが、この期に及んで、そんなケチ臭い二択選びたくなんかありません・・・よ!」


立ち上がりながら銃の引き金を引いたマクスウェルに、は抜いた刃で弾を弾く。
銃口をずらした彼に、ガイが横に飛び退くと、彼がいた足元に3発の銃弾が打ち込まれた。

さっさと終らせるに限ると、踏み込んだだったが、それは遠くから聞こえた爆音により止る。
再び飛んできた銃弾を、余所見をしながら剣で弾く彼女は、アーサー達がいる方を眺めていた。

微かに感じた魔力の揺れは、きっと彼らの誰かが魔法を使った為なのだろう。
音と同時に、口を開けた洞窟の中に吸い込まれていった魔力は、彼らが持つ力の全てに等しい。
恐らく、今魔法を使用した者の魔力は、全て中の化け物に奪われたのだろう。

やはり戦う事になったかと、予想していた事とはいえ少し落胆しながら、彼女はご丁寧に待ってくれているマクスウェルを見た。
このまま一瞬で終らせれば楽なのだが・・・・・・


「ガイ、どうしたい?」
「・・・・・・」

「お前自身で決着をつけるか?」
「・・・・・・・・」


人を殺すか否か。
子供に対し、とんでもない事を聞いているのは、だって百も承知だった。
だが、心はどうあれ、寄り所にしていた巣から離れ、それを裏切るのだ。
友がまだその仲間であるのなら尚の事。彼にも相応の覚悟があったのだろう。

血に染まった己の過去との決別を、自身の手で成す気があるかどうか。
離反の先にある己の行いも、裏切りの覚悟の中にあるだろう。
彼の答えを予想しながら、は武器に手を伸ばしたガイを見る。

腰に差した小太刀を抜いた彼が、その切っ先をマクスウェルに向けると同時に、遠くで木が倒れる音がした。
剣を鞘に仕舞ったに、ガイは一歩前に出て、マクスウェルと正面から向き合う。


「・・・予想外ですね、ガイ。貴方は本当に・・・いつもいつも、私の予想を裏切ってくれる」
「アンタの予想はアテにならない」

「今此処で私を倒せたとしても、ロベルト君達を、君は殺せますか?
 嘗ての仲間を、これまで君が殺してきた人たちのように殺せますか?」
「皆が何とかしてくれるよ」

「皆?アレンとカーフェイの事ですか?確かに彼らは優秀ですが・・・どうでしょうね?
 頼みの綱であり、最も恐れていたアーサー君は、昨夜のうちにロベルト君が始末してくれました。
 友に友を殺された二人の心は、更に不安定なものでしょう。マトモに戦えるわけが・・・」
「アーサーは死んでないよ」

「・・・・・・何?」


困ったように笑いながら喋っていたマクスウェルは、ガイの言葉に驚く。
ニヤリと笑ったガイは、その表情とは裏腹に、雲が晴れたような気分だった。


「聞こえなかった?アーサーは死んでない。
 ロベルトは、殺そうともしなかったよ。誰にも何もしないまま出て行った。
 アルヴァはさておき・・・ジョヴァンニもアレンを殺そうとはしはしなかった」
「何・・・だと・・・?」

「ジョヴァンニがアレンに残した台詞は・・・『死ぬなよ』だったかな?ねぇマクスウェル先生。この意味、わかるよね?」
「・・・・・・・四面楚歌・・・ですか」

「残念だけど、もうこれは神羅と反神羅組織の闘いじゃない。俺達の・・・ケジメの闘いなんだ」
「ハッ・・・」


片手で顔を押さえ、マクスウェルは吐き捨てるように笑い声を漏らす。
胸に立ち込めていた暗雲が晴れたガイは、それすら清清しい顔で見つめ、今頃『喧嘩』している友人達の事を思った。
二人の会話に、大凡を察したもまた、手のかかる子達だと、出そうになる苦笑いを堪える。
こうなってしまえば、後はそれぞれの『男の闘い』というやつだろう。


「ガイ、私は中の奴を始末してくる。後は任せたぞ」
「了ー解」


手を出すような野暮な真似をする気も起きず、彼女は二人に背を向けると、化け物とやらが眠っている洞窟の中へと入っていった。



あれ?セフィロス合流出来てない・・・(汗)
2007.12.17 Rika
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