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先生、地図はありませんけど、どう進むんですか?」
「・・・・・・ロベルト・・・聞く相手を間違っていないか?」


屍の所持品を散々荒したものの、役に立ちそうな物は何も残っていなかった。
結局地図を手に入れられなかった事に、ロベルトは不安気な顔で講師を見る。
が、質問されたは暫し彼を見つめ返し、素っ気無い言葉を返すと班長のアーサーに視線を向けた。

引率と言えど、の仕事は生徒の補佐程度のもので、間違った判断を出した時に口を出し、不測の事態に手を貸すだけだ。
この実習旅行は授業の一環。卒業後の実戦に備えたものなのだから当然だろう。実際の戦場に手取り足取り助けてくれる先生がいるわけがないのだから。
班への指示、行動の決定も全て生徒が考え、担当教員はそれについていくだけだった。

この場合、班員への指示を出すのは班長であるアーサーの仕事。
地図が無いのは、教員が手を出すに十分な事態かもしれないが、実戦の為の訓練なのだとはそれを行わなかった。

未だに死体を見つめたままだったアーサーは、その視線に数秒遅れて気付くと、睨んでくるロベルトに微かに顔を顰める。
冷静沈着な班長殿は、この状況における大きな違和感に気付いているだろうか。
とはいえ、これで勘付く事も出来なければ、全滅する可能性もあるのだが。
ぶつかった視線は、静かだが僅かに戸惑いを映し、確信まで行かずとも、この状況で十分な不信は見えていた。


「ジョヴァンニとアレンは、そのまま付近を警戒しながら聞け」


先程からずっと辺りを警戒している大小コンビは、アーサーの言葉に小さく頷く。
この中で最も普通に動揺しているガイとカーフェイは、初めて見たのだろうか、暫く眺めていた死体から、アーサーへと視線を移した。

「じゃ、説明してよさん」









Illusion sand − 58








「・・・とまぁ、そんな訳で今このエリアにはアバランチがウヨウヨしているわけだ。わかったか?」


聞くに連れ顔色が悪くなっていく生徒に、は事の次第を説明した。
教員や生徒の中にまでアバランチの息がかかっている事までは教えていないが、彼らにとっては十分非常事態だろう。
事前に身内からその事を聞いていたらしいアーサーとアレン以外、緊張で肩が強張っているのがわかった。


「質問していい?」
「ああ」

さんさ、なんでコイツがアバランチだってわかったわけ?」


死体を見やりながらも、アーサーは全く動じる事無くに問いかける。
肝が据わっているというより、慣れた節が見える彼に少し引っかかりを覚えながら、は混乱の渦中にある生徒らに目を向けた。
注目する彼らの中、ずっと傍観しているカーフェイとガイに目を止めると、彼女はカーフェイと視線を合わせる。


「カーフェイ、どうしてだと思う?」

「どうしてって・・・・勘?」
「違うな」


この子には、自分は勘で敵味方を判断するように見えているのだろうか。
超直感がある訳でもあるまいし、もし勘がはずれたら最悪じゃないかと考えながら、は死体の傍に足を進めた。
赤黒く変色してしまった死体の胸倉を掴み、驚く彼らも気にせず引き摺ると、彼女はそのまま死体をカーフェイの前に置く。
足元に持ってこられた死体に、ガイは小さく悲鳴を上げ、カーフェイは僅かに顔を顰めながら死体を見る。


「これだけの火傷、並の銃火器や魔法では作れん。
 となれば、それ以上の炎の力を持つ者。炎系召喚獣のイフリートと考えるのが妥当だろう」
「え、でも・・・」

「今回、アバランチに備えて、エリア内に数匹の召喚獣を徘徊させている。
 不審な行動をする者がいれば、捕縛するよう命令を出した。
 話が通じなければ攻撃する許可は出したが、これ程の攻撃を与えるならば、確信を持った上。
 そこの奴も、大方神羅兵を殺し制服を奪った所を見つかりでもしたのだろう」
「あの、先生、その前に・・・・誰が召喚してるんスか?ってか、召喚獣に攻撃以外の命令とか出せるんですか?」

「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・先生?」


やっべ・・・

そういえばこの子達は、セフィロスやレノ達のように、の力を知りはしなかった。
傍にいる者が、自分の力を知っている事に慣れてしまっていたのか。
喋りすぎたと思ったところで、既に後の祭りだが、かといって諦めるにはまだまだ早い。

相手がルーファウスであれば、これまでの遣り取りから拾えるだけの情報を拾い、を崖っぷちに立たせてくれただろう。
だが、此処にいる彼らは自分に疑いの目を向けていない上、ルーファウス程意地悪くはない。
とはいえ、ルーファウス程意地が悪い人間がもし他にいるのなら、1度遠目に見てみたいものだが・・・ただし、間違っても会話はしたくない。


「・・・・・・・・・神羅の技術を結集した」
「け、結集ですか」

「そうだ」


神羅の技術が如何程のものか、には知った事ではないが、会社の名を出せば何とかなるだろう。
随分研究熱心な人間が多いらしく、それに比例して得体の知れない開発をしているらしいのは、も聞いたことがある。
ならば、その得体の知れない部分に理由をもっていけば、彼らも漠然とは納得してくれるはずだ。
あれだけ大きな街を作るのだから、召喚獣野放し兵器ぐらい作る気になれば作れるだろう。
幸いこの士官学校は神羅直営だ。


「でも・・・何でまた・・・その、学校行事なんかに、そんなスゴイものを?」
「さて・・・私は神羅の社員ではないからどうとも言えないな」


召喚獣どころか、もっとスゴイ人物を送り込まれ、それが目の前にいるのだが。
そんな事など知りもしないカーフェイは、首を傾げて質問を重ねたが、は適当にあしらった。
ボロが出ても困る上、神羅の細かな部分まで詳しく話しすぎても逆に怪しいだろう。
それに面倒くさい。



「召喚獣はこの旅行が終るまでエリア内をウロついている。対反神羅組織対策としてな。
 心配しなくても、お前達生徒には手を出さない。つまり・・・」
「アバランチは召喚獣が始末する。俺達はあくまでモンスターを相手にしてればいい・・・って事?」


事を把握するのが早いらしいアーサーが、の言葉を遮り答えを出す。
彼がいるなら殆ど手放しでも大丈夫かもしれないと考えながら、彼女はゆっくり頷いた。


「そうだ。我々の目的はあくまで実習。アバランチ討伐ではない。
 万が一道中アバランチに遭遇する事があっても、私が相手をしよう」
「ふーん・・・。お前ら分ったか?」


ざっと見回すアーサーに、班員はただ頷く。
混乱して声を上げないのは、落ち着きながら順を追って言葉を求める班長のお陰だろう。
とはいえ、これで全ての説明が終ったわけではないのだが、アーサーは一先ず彼らを落ち着かせる事を選んだらしく、それ以上質問を出す事はなかった。


「とりあえず、先に進むか。いいよね、さん」
「ああ。何か気になる事があれば、その都度聞くがいい」


もう少し時間が経って落ち着けば、聞きたい事はどんどん増えてゆくだろう。
出来れば実習に集中させたいものだが、状況がこれでは仕方が無い。


「ま、面倒なモンスターは先に行った班が倒してるだろうし、気楽に行くぞ」
「アーサー、そんな適当に言うなよ。地図だって無いのに、どう進むっていうんだ?」


緊張を解すように言って歩き出したアーサーに、ロベルトが不満そうな声をかける。
進もうとしていた班員も、二人の間にある剣呑な雰囲気に足を止めた。
最後尾にいたアレンが盛大な溜息をつき、ジョヴァンニも苦笑いをしている。
が、当のロベルトはアーサーしか目に入っていないらしく、当然彼の協調性にマイナス1とメモしているにも気付いていなかった。

まるで子守じゃないかと考えるは、所々問題がある彼らにどんな人選だと考える。
考えても仕方が無い事だとは分っているが、かといって放置できないのが現実だ。


「ロベルト、お前がそう言う気持ちは分らなくも無い。
 だが、此処で考えていても何か解決しないだろう?」
「でも・・・俺達ただでさえ出遅れてるんですよ?」

「それはアーサーも分っているさ。だが、彼も考えも無く言葉を出している訳ではないはずだ。そうだろう?」


言われて目を合わせたアーサーは、面倒臭そうにロベルトを見ると、他の班員を見回す。
ロベルトと同じく、彼の意図が分らないらしいガイとカーフェイ。
アーサーの考えなど興味が無いらしく、単に班長の指示したがうつもりなだけだろうアレン。
持ち前の楽観的考えで、特に何も考えていなさそうなジョヴァンニ。
素晴らしいメンバーに溜息すら出ない彼は、敵意剥き出しのロベルトを一瞥し、助け舟を出す気が更々無い講師を見た。


「適当に歩けば、他の班が倒したモンスターの死骸を見つける事だって出来るだろ。
 それを追えば、大まかでもルートに沿う形になるからな。
 って事は、何処かの班を見つけられるかもしれないし、そうなれば合流するなり地図写させてもらうなり出来る」
「という事らしい。わかったか?」
「・・はい・・・」


渋々感が見え隠れするが、ロベルトは何とか納得したらしい。
反論する理由も無いのだから当然だが、それでも素直に頷けないのは、やはり相手がアーサーだからか。
軍に入れば、どんな相手であれ上っ面だけでも従順なフリをしなければならない事が多くなるのだが、若い彼にはまだわからないのかもしれない。


「そう拗ねるな。お前が言いたい事はわかる。
 アーサー、次からはちゃんと説明してから指示を出しなさい。
 でなければ、ロベルトでなくとも班員は混乱する。
 それと、進むなら進むで、何時戦闘に入っても良いように歩く順と、その時の指示を出すように。
 モンスターが出てきてから指示をすれば、その分行動が遅れる」
「すんませんでした。・・・・ロベルトも、悪かったな。次から気をつける」
「あ・・・ああ」


素直に謝るアーサーに、ロベルトは意外だったのか目を丸くした。
それに突っかかる気が失せたのか、彼はそれ以上口を挟む事はなく、班は出発する。

アーサーを先頭に、カーフェイ、ロベルト、アレン、ガイ、ジョヴァンニの順に並び、が背後を守る形になった。
どんな理由でその順にしているのか、には分らないが、仲の良いアレンとジョヴァンニが離れているのは少し意外だった。
引率の教官が最後尾で良いのか。
そうが口にすると、アーサーとアレンが声を揃えて「それ以外は無い」と言ってくる。
ロベルトまで控え目に頷く事を考えると、やはり何か理由があるのかもしれないが、それ以上は突っ込まなかった。
カーフェイだけは何か不都合があったのか、アーサーに悲しげな視線を送っていた。


「アーサー・・・何で俺2番目なの?後ろでもいいじゃん?」
「・・・・」


ボソボソと、傍にいるアーサーにしか聞こえない声で、カーフェイは弱気な抗議をする。
後列にいたい理由に察しが着いているアーサーは、彼の服の裾を引くと、他の班員から少し距離をとった。
そんな二人を冷ややかに眺めていたアレンの口から、呆れたような溜息が吐き出される。
ロベルトとジョヴァンニは苦笑いを浮かべ、ガイは二人に興味などないようで、サングラスを磨いていた。

生徒達には、何か思うところがあるようだが、には何がなんだかサッパリ分らない。
それ以前に、辺りにアバランチが居ないかと、気配を探り続けていたので、カーフェイがアーサーと何を話していたかも聞き取れなかった。

班員から離れたアーサーは、ちらりとこちらを見ると、カーフェイの耳に顔を近づける。


「カーフェイ、戦う男の背中は結構クるって、知ってたか?」
「・・・マジ?」

「ああ。女子が言ってた。それに、後ろにいたら、活躍も出来ないだろ」
「おお・・・・」

「でもな、前にいれば戦う回数は多くなるけど、その分真っ先に目が行く。特にさんは成績つけるんだしな」
「・・・・なるほど」

「だから、前にいた方が断然良い。特に前から2番目は俺の指示の後、真っ先に攻撃に移れる。だからお前のポジションは、活躍出来て、さんに見てもらえて、何より・・・・」
「何より?」

「他の奴よりカッコいい姿を見せれる」
「!?」


アーサーの言葉に、カーフェイはハッとしたように顔を上げる。
危うく互いの唇がぶつかりそうになり、アーサーは慌てて顔を背けたが、そんな事はお構い無しにカーフェイは目を輝かせて彼を見た。


離れていた場所から見ていた班員とは、突然アーサーの唇を奪おうとした(ように見えた)カーフェイに呆然とする。
そんな趣味もあるだろうと、一瞬で納得してしまったとは対照に、カーフェイの女好きを知る生徒は我が目を疑った。
心なしか頬を染め、瞳を輝かせるカーフェイと、微かに笑みを浮かべるアーサーは、只ならぬ空気を漂わせているように見えた。
二人の顔が整っているせいで、余計にそう見えてしまうのかもしれないが、同じ学び舎で過ごす班員達にとっては一大事である。
本人達の意思はどうあれ、目の前で男同士そんな空気を出されるのは、彼らの友人達に十分すぎる衝撃だったのだろう。
しかも片方は校内一の女好き。もう片方は校内一女子に人気がある男だ。

しかし、そんな班員達の気持ちなど知らないカーフェイは、満面の笑みを浮かべるとアーサーに抱きついいて頬を摺り寄せた。


「アーサー!俺頑張るよ!すっげぇ頑張る!そんでもって、そんでもって・・・ムフフフフフ!!」
「だ、離せ!気色悪い笑い方すんな!!」


妄想の世界に片足を突っ込み、抱きしめる手つきがイヤらしくなっているカーフェイ。
その腕に鳥肌を立てるアーサーは、必死に振り解こうとしているが、腰を引き寄せるカーフェイの力は緩んでくれない。
じゃれあう子供達を、青春だな・・・と眺めると、完全に引いている他の班員を横目に、ガイだけは相変わらずサングラスを磨いていた。


さん、助けて!」
先生〜俺頑張る〜!!」
「・・・うむ。頑張れ」


よく分らないが、喧嘩(?)するほど仲が良い。仲が良いのは良い事だと考えながら、は平和な光景を眺めていた。
が、そんな二人の抱擁は、額に青筋を立てて顰めるだけ顔を顰めたアレンによって止められる。


「最悪!いつまで馬鹿やってんのさ。早く指示だしてよね班長。それとも、カーフェイと抱き合うのがそんなに楽しいの?そういうのは二人っきりの時にしてよね。君たちがどんな関係になろうと僕の知った事じゃないけど、目の前で見せられる方の身にもなってよ。わかった?ならはやく指示だしてよ。じゃなきゃ勝手に行くよ!?」


怒り心頭で本来の目的に空気を戻すアレンに、二人は勿論他の班員も慌てて出発の準備をする。
元々準備らしい準備など必要無かったので、班はすぐに整列すると森を進み始めた。
妙に機嫌が悪いアレンに、少し空気がピリピリしているが、は友達同士のヤキモチだろうと考えた。
先程までの緩んだ空気を引き摺らないのなら、どんな空気だろうが問題ないというのもある。

だが、実際アレンの機嫌が悪い理由は、そんなホノボノとしたものではない。
アレンの怒りの理由が、よく男に告白されるせいである事を、親友のジョヴァンニは勿論、他の班員も知っている。
入学当初は女だと思って言い寄ってくる男が。
男だと周知されてからは、それでも良いという男が。
男同志と知りながら実力行使をしようとして、病院送りにされた者がいるというのは、生徒の間では有名な話だった。

元が純粋な少年の心は傷つきやすく、お陰でその趣味の人達に対して彼はかなり敏感になってしまった。
アレンだって、他人の趣味に口出しする気は無いが、ノーマルの人間がわざわざそんな事をしていれば苛立ちもする。
アーサーとカーフェイの遣り取りは、彼の気を逆撫でるに十分だったらしい。
アレンの前で、男同士の恋愛は、身長や女顔の話以上にタブーだった。






生い茂っていた木々が薄くなり、踏みしめる草が砂利へ変わる。
空を覆っていた木の葉は薄雲へ変わり、薄く草が生えるだけの大地に吹く風は埃にまみれていた。
点々と見えるモンスターの死骸と、大小さまざまな岩が転がる起伏の激しい地形。
地図も無いまま、既に影も見えない他の班の後を追うのは、死骸を辿ったとしても骨が折れる作業だろう。
ようやくスタートラインに立った第8班は、目の前に広がる荒野に少しだけ気が遠くなりながら、一番近い死骸に向かって歩き出した。








・・・・あれ?何か・・・あれ?明らかにおかしな方向へ話が・・・・(汗)
・・・・これFF7夢じゃねぇな(爆)次回はザックスだらけにしときます。
2007.09.10 Rika
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