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「そう怯えるな。知っている事を全て吐けば楽にしてやると言ってるだろう」 「ひぃっ!・・・もうひゃめへふれ!おねがいらはらゆるひへふれぇ・・!」 「耳がイカレたか?それとも脳か?私は吐けと言っているんだ。謝れとも許しを請えとも言っていない」 「ら、らひゅげ・・・いららぁぁあああ!いらい!いらい!いらぃいいいいいいい!うっ・・・うぇっ・・ぇぇええ・・・」 ボコボコに顔を腫らせ、血塗れで前歯が折れた男の髪を掴み上げているは、助けを求める声を遮って男の首の皮を強く抓る。 ねちっこいが、かなり痛い弄りに、それまでの暴行に耐えていた男はとうとう泣き出した。 それを見守っていた生徒は震え上がっているが、彼女は気にせず男を地面に投げ捨てる。 「がばぁっ!うっ・・・もうひゃめへくらはい・・おれらいひまふ・・・おれらい・・・」 「大の男がこの程度で泣くものではない」 言って、男の傍にしゃがみ込んだは、呆れたように吐き捨てながら、自分が痛めつけて作った傷をそっと撫でてやる。 鞭の後の飴か、その手つきは先程までの暴行が嘘のように労わりに満ちていたが、傷口を爪で薄くひっかきながらのそれは、男にとっては恐怖を煽るだけでしかない。 「もういやらぁぁ・・・はふへへ!ひゃふへへふへぇええぇぇぇぇぇ」 敵ながら哀れに思えるほどボロボロにされ、地に這い蹲る男は、遂に生徒にまで助けを求め始めた。 一体何本歯を折られたのか。 彼が声を上げる度に、真っ赤になった口の中から溢れた血が飛び、白目をむいて倒れる彼の仲間達の服に染みを作った。 お願いだから、もう止めてあげて。 その一言を言う勇気が出せない生徒達は、肩を寄せ合いながら、を止める役を押し付けあう。 ジョヴァンニは一番体重があるため、ただ足に力を入れて立っているだけだが、他の班員は静かに必死だ。 一番体格が小さいアレンは、ジョヴァンの背中でベルトに捕まって踏ん張りながら、寄って来る班員を蹴って遠ざける。 その蹴りを最も食らっているガイは、何故かロベルトの右足にしがみ付きながら、足を伸ばして班員の膝裏をつついていた。 ガイという重心を得るロベルトは、アーサーに班長だろうと小声で言いながら前に出そうとするが、時折ガイの巻き添えで食らうアレンの足に注意が逸れがちだ。 アーサーはカーフェイに先生と話す機会だと言って押し出そうとするが、カーフェイは女の扱いはアーサーが一番だと言って譲らない。 子ども達がそんな争いをしているのを横目に、は男の襟首を掴み上げると、怯える彼の瞳に自分を映す。 「此度のお前達の動向に関わる一切・・・・吐いてくれるな?」 「は、はいいぃぃ!」 血と涙と腫れと傷と。 元の顔が分らない程痛めつけられた反神羅組織の男の返事に、は見惚れるような笑みを浮かべた。 Illusion sand − 59 「貴様に・・・此処に存在する資格は無いな」 「ぐ・・る・・・じ・・・」 数奇な事に、がアバランチを締め上げている頃、神羅本社にあるソルジャーの司令室では、セフィロスが一人の男を締め上げていた。 「セフィロス、やめろ!」 低い声を更に低くし、片手で男の首を掴み上げているセフィロスの顔は、怒りの余り血の気が無くなっていた。 セフィロスと同じく、今日は本社待機になっていたアンジールが、帰る前に何気なく司令室のドアを向けて飛び込んできた光景がこれである。 一瞬何が起きているのか理解出来なかった彼だが、青くなっていく男の顔色に、彼は何をいうよりまずセフィロスを止めにかかった。 そこはソルジャーの統括であるラザードの席。 だが、彼は先週から会議の為、任務があるジェネシス共にジュノンへ出張していた。 今セフィロスが締め上げているのは、ラザードの代理。つまり、そこそこの重役である。 その重役を今にも殺しかねないセフィロスの剣幕に、アンジールは何とか彼を引き剥がそうとする。 セフィロスの力ならば、掴み上げている首の骨を折ることなど造作も無いが、それをしないという事はまだ理性は残っているのだろう。 が、アンジールの行いも空しく、代理は口から泡を吹くと白目を剥いて意識を失った。 「セフィロス!!」 「チッ!」 説明も何も出来なくなった代理を、セフィロスは大きく舌打ちしながら椅子の上に戻す。 グッタリとする代理に、アンジールは慌てて脈を確認し、浅くはあるが呼吸をしている事に安堵した。 その間に、セフィロスは立ち上げたままのパソコンを操作し、数日間のソルジャー配置スケジュールを開く。 あっという間に全てのソルジャーのそれに目を通した彼は、そのままキーボードを打ち始めた。 「セフィロス、何してるんだ!?何があった!?」 「その馬鹿に聞け」 「聞・・・今お前が失神させただろうが・・・」 「・・・この男、Aランクの任務にザックスを一人で向かわせた」 「ザックスってーと・・・この間の3rdか?!」 「しかも、試験に受かったばかりのな。そこにある緊急の要請書を見ろ」 喋る間もキーを叩く手を止めないセフィロスに、アンジールは机の上にある書類から赤い判が押されたものを取る。 それには緊急と重要の赤い文字が太字で並び、依頼部署に総務部調査課と書かれていた。 その4つの事項だけでも、穏やかな任務ではなさそうなのだが、書類の一番上にはAとC。二つのランクの判が押されている。 眉を潜めたアンジールが内容に目を通すと、敵は危険度Cの反神羅組織。 場所はミディール付近の島。 広さを考えると、いくらソルジャーでも一人は流石に辛い範囲だ。 しかし、これならまだBかCランクの任務だろうと考えていた彼は、詳細欄に書かれた『該当エリアで士官学校の生徒が実習中』文字に我が目を疑った。 続き、敵の目標は生徒と推測されるという文。 敵の数は不明という文。 教員の半数が反神羅組織の関係者であるという文。 残る教員の半数は完全に神羅派であり、元ソルジャー3rdが一名いるという文には多少安心したが、直後には手書きで『未確認。生徒の中にアバランチが潜んでいる可能性有り』という殴り書きの文字。 その筆跡の主のサインはレノとなっているが、レノは確かタークスのエース。 十分Aランク。 下手をすればSに片足を突っ込みそうな任務に、アンジールは一瞬頭が真っ白になった。 現実逃避する間も無くセフィロスを見れば、彼は既に誰かに電話している。 先程の怒りは大分収まっているようだが、こめかみがピクピクいっているのは名残だろうか。 「何やってんだか・・・」 「ランクAに上げられたのは今朝だ。俺やお前もラザードについていったと思い、出勤したザックスに向かわせたらしい」 「ラザードに相談もせず、クラスも確認せず・・・か。よっぽど混乱してたんだな。しかし何でまた・・・」 「ザックスは俺やお前の傍にいる事が多い。だから1stだと思っていたそうだ」 「データ出したら気付くだろ・・・」 「その書類にザックスのデータがついているように見えるか?」 「あー・・・・。ま、今のうち気付いてよかったな」 「ザックスは恐らくもう該当エリアに着いている」 「電話は・・・ああ、此処じゃ電波は無いな。通信機は?」 「途中までは行動を追跡できたが・・・塩水でも被ったのだろう。海の上で途切れている」 「面白いぐらい最悪の状況だな」 「ああ」 もしセフィロスが気付かなければ派遣されたザックスは勿論、実習中の生徒の命も無かったかもしれない。 とはいえ、まだ後詰のソルジャーが向かっていない今は、現場の状況が最悪である事に変わり無かった。 その上、例えこれからソルジャーが向かい、犠牲者ゼロという最良の結果となったとしても、事が公になれば、軍から独立しているソルジャーの部署の存続は危ぶまれる。 何しろ軍部にとってソルジャー部隊は目の上の瘤。どうにか潰せないか、もしくは取り込めないかと、常に粗を探している。 もしこれが軍部の耳に入ったなら、ソルジャー統括であり、今日の代理を選んだラザードを失脚させようと考える事も安易に想像がつく。 そうなれば、きっと自分達の直接の上司はあのガハハ・・・・ああ・・・悪夢だ。 さて、これは自分も出ないわけにはいかないと考えていた彼は、電話しながらディスプレイを指差したセフィロスにパソコンを見る。 既に任務が入っているソルジャーに変動は無いが、待機になっていたソルジャー達は夜からミディール行きに書き換えられていた。 午後5時を回ろうとしている今の時刻を考えれば、かなり急がされる事になるが、事態を考えれば妥当と言えるだろう。 任務毎のソルジャー配置へ画面を切り替えれば、勿論そこにはアンジールとセフィロスの名がある。 同じく回されたソルジャーにも、30分以内に此処へ来るよう携帯へメールが送信されていた。 流石仕事が速いと感心してセフィロスを見ると、彼はデスクの電話を片手に内線一覧を指でなぞっている。 「セフィロス・・・」 「5分後にラザードから連絡がある。それまでに、該当エリアの地図と敵の情報を出してくれ」 「ああ。お前は?」 「今ヘリと備品の手配をしている」 「そっか」 早口で言うセフィロスに、アンジールはラザードのパソコンを操作し始めた。 壁にある大きなモニターの半分にミディール近辺の地図が出され、数秒送れてもう半分に任務の内容と敵組織の情報が出る。 本来これだけの人数を使う大掛かりな任務は、別フロアにある会議室で作戦会議を行うのだが、他の部署も使うそこでは人目につきすぎるのだ。 セフィロスがわざわざ全員一斉に司令室に集めるのは、此処で会議をするつもりだからだろう。 他の部署に漏れては困る事なのだから、ソルジャー以外出入りが限られる此処で作戦会議するのが最良だ。 さて、それ以外今するべき事は何かとアンジールが考えていると、社内にいた待機中のソルジャーがバラバラと司令室に入ってきた。 皆入ってくるなり、デスクに向かっている1st二人組と、椅子でグッタリしている代理に驚いているようだ。 が、二人に彼らへ声をかける余裕はなく、アンジールはモニターに『ミッションレベル=A』の字を出す。 「セフィロス、どうだ?」 「備品は問題ないが、ヘリの数が心配だ」 「今はジュノンの警備に集中してるからな・・・」 「それに、いきなり何機も出せば嫌でも目立つ。第一陣は空から。第二陣は海・・・いや、陸路で時間がかかるか・・・」 「正式に出るメンバーも含めて、ラザードの指示を待とう」 「誰か、倉庫まで備品を取りに行ってくれ」 口調こそ荒くないものの、表情が乏しいセフィロスには珍しく、誰にも分る苛立ちが見える。 ただ事ではないその場の雰囲気に、到着したばかりのソルジャーは言われるまま、足早に司令室を出て行った。 位置的には、ミッドガルよりジュノンに駐留しているソルジャーを出した方が早く着く。 だが、ハイレベルな人材を要するソルジャーは、常に人材不足と言っても過言ではない。 故に、使える人員は常に限られ、急な任務となれば余計人数が減ることになる。 幸い1stである3人が今何の任務も無いのは救いだったが、ジェネシスとセフィロスはこの後数日間任務が控えている。 もしかしたら自分は外されるかもしれないと思いながら、セフィロスは要請書の出元であるタークスに内線をかける。 レノが出たら文句の一つでも言ってやろうと思っていたが、生憎出たのは覚えの無い声の男だった。 少々残念な気持ちがしたが、そんな事にかまけている時間は無いので、彼は早急に任務の資料を送るよう言う。 機嫌の悪さをかくせず、脅すような声になってしまったのは、電話に出た奴には悪いが仕方が無いという事にした。 それを横目に見ていたアンジールは、再び集まり始めたソルジャーに任務の準備をするよう言う。 具体的な事を言えないのは申し訳無いが、何をするにも共通の準備というものがあるので、理解してくれるだろう。 そろそろラザードから電話が来ると考えれば、丁度デスクの電話が電子音を上げた。 タークスから送られた資料をモニターに出しているセフィロスに代わり、アンジールが受話器を取る。 「ラブレス読むか?セフィロス」 「・・・・は?」 「ん?アンジール?」 「お前・・・」 受話器から聞こえたジェネシスの意味不明な言葉に、アンジールは事態も忘れて固まる。 ラブレスとは、ジェネシスが愛読している詩集だ。 読むも何も何時も朗読しているじゃないかという突っ込みは置いておいて、何故そんな事を楽しそうに言うのかとアンジールは首をかしげた。 いや、考える事はそれじゃない。何故ラザードではなく彼が電話してくるかという事だ。 「ジェネシス、ラザードはどうした?」 「今セフィロスが送ってきた資料を見てるよ。で、セフィロスはどんな感じだ?」 「ああ、相当ご立腹だ。代理を締め上げちまいやがった」 「愛と怒りは相反しながら、互いに炎に例えられる。似ているんだ。心を奪う甘美さも、激しく燃え狂うところもね」 「・・・・・お前・・・頭打ったか?」 「セフィロスの愛が燃えてるって事だ」 「切っていいか?」 「セフィロスの恋・・・いや、まだ思い人か。士官学校の講師になったって話しただろ?」 「あー・・・いや、だがコイツは冷静だ。分別はついてるぞ」 「代理締め上げておいて?でも残念だな。せっかく何か進展するかと思ったのに」 「やっぱ切る」 「ああ。今そっちのコンピューターと通信が繋がった。モニターを切り替えてくれ」 噛み合わない会話で、言いたい事だけを好きなだけ並べたジェネシスはさっさと電話を切ってしまった。 不本意だが暢気な会話してしまったせいで、セフィロスの雰囲気が少し重くなった気がする。 吐きたくなる溜息を飲み込み、モニターを切り替えれば、ジュノンの司令室にいるラザードとジェネシスが映った。 『状況はわかった。こんな時留守ですまないな』 「構わん。指示を出してくれ」 「いつでも行ける準備できてるぞ」 30分後、慌しく、しかし密やかに準備を始めたソルジャー第1陣はミッドガルを発った。 水平線に名残を残した黄昏に代わり、天上を覆うはずの宵闇は、地の底から引きずり出された光に染められている。 深海にも似た青緑の空の下、今宵生まれたばかりの月光すら濁らせる不夜城を望みながら、刃を携える彼らは僅かな安息を得る。 幾度と無く血で汚した手に、幾多の思いを断った刃を握りながら、地を駆け命を屠る前に与えられる祈りの時。 これから奪う命へ僅かな懺悔を。 そして共に仲間の無事と勝利の為に、天の闇が濃くなるほど鮮明になる月に、静かに勝利の誓いを立てた。 | ||
最後こそ、久々に綺麗に締めてみたが・・・・ジェネシスが変な人になった(爆) CCやってないんで性格しらないんです。 ウチのジェネシスはマトモに見えて変態臭い人という事にしましょう。 次回のジェネシスは更に変です(爆) 2007.09.16 Rika | ||
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