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「何だこの小船は・・・?」
「え・・・普通のゴムボートだと思いますけど」
先生、知らないんですか?」

「ああ。初めて見る。しかし・・・これで本当に島に着けるのか?」
「大丈夫ですよ。波も穏やかですし」
「先生が操縦方法知らないなら、俺が操縦しますね」

「ああ。だがこれは・・・剣の先でちょっと突付いたらすぐに空気が抜けそうじゃないか?」
「ちょっとちょっとちょっと!何本当に剣向けてるんですか!?沈みますよ!?」
「始まる前から終るじゃないですか!」
「とにかくさんは剣しまいなよ。もう他の班行っちゃってるし」
「エンジンかけるぞー。皆捕まっとけよー」





「・・・な、なななななな何だこの速さは!?どうなっている?!どんな仕組みだ!?」
先生落ち着いてください!エンジンかけただけじゃないですか!」
「石みたいに固まらないで下さいよ!ってか、顔真っ青ですよ!?」

「しかしこの速さ・・・・まさか、シルドラ?シルドラがいるのか!?」
「わーー!先生、身乗り出したら危ないですって!」
「何もいませんから!水面覗かないで下さい!」
「バランス崩して落ちちゃいますから!先生戻ってください!」

「なに、落ちれば泳げばよいだけだ。シルドラー!いるのかーー!!?」
「泳ぐって、島まで何キロあると思ってんですか!」
「やべぇ!先生、完全に混乱してっぞ!皆抑えろ!」
「おい、誰か舵掴んでろよ。船が変な方向向かってるぞ」

「シルドラー!シルドラー!!・・・って、どうしたお前達?甘えたい年頃か?」
「何言ってんですか、早く座ってくださいよ!」
「そこの奴、舵戻せ舵ー!船が逆走しちまってるぞー!」
「わかってっけど、戻したら先生が落ちるんだよ!!」
さん、とにかく早く座ってこっち来なよ」





神羅士官学校実習旅行第1日目。
が担当する第8班は、島に上陸する前から大変な事になっていた。
生徒が。









Illusion sand − 57








「すまない。文明の利器には少々疎くてな・・・」

他の班から遅れる事30分。
何とか着岸地点へ付いたボートから降りると、は先程の行動が嘘のような冷静さを持ちながら生徒に謝る。
早くも疲れが見え始めている生徒は、他の生徒が使っていたボートが置き去りになっている海岸を見渡し、苦笑いを浮かべて頭を垂れた。

が受け持つ事になった生徒は6人。
他の教官達より若干少ない人数だが、それもがまだ就任して間もないためという配慮だった。
言い出したのはマクスウェル教官なので、それが配慮という名の思惑である事は容易に察しがつく。

彼女が体術の講師であるため、通常の教科とは別の、選択教科で体術を受けている者達だ。
と言っても、それは得意だから受けている者と、苦手だから選んだ者の二通りいる。
班員はその二種類が半々で、後者の者はそれぞれ自分が得意な武器を持参していた。
そんな理由で、が今日剣を持ってきても、感心こそすれ驚く者は少なかった。
一昨日行ったアベル教官との勝負を、早速忘れてしまう者もいない。



『綺麗な剣ですね・・・汚れついて汚いですけど』
そう言ったのは、初めての授業で実力が抜きん出ていると見た、大小コンビの小さいほうだ。
と目線が同じか少し高いくらいで、髪の色も同じ黒。
女のような顔立ちをしているが、本人はそれを相当気にしているらしく、禁句だと他の生徒に教えてもらった。
発言に一言多いのが特徴だが、どうやら構って欲しいだけのようだ。
班員では最年少の15歳。名はアレンといい、アベル教官の甥らしい。


先生、俺もお気に入り武器持ってきたんすよ。見てください、このキラーナックル!!』
無数の刃先がついた物騒な事この上ないナックルを、得意気に見せたのは、大小コンビの大きいほう。
ザックスと同じくらいの身長と、人型の時のイフリートのような筋肉質な体をしている。
アレンとは親友らしく、授業以外でもよく一緒にいるところを見かけた。
大雑把な性格で、細かい事は気にしないらしい。
その証拠に、昨日まではボサボサだった金髪は、見かねたアレンによって出発前に切りそろえられていた。
ジョヴァンニという名だ。


『この石、もしかしてルビー・・・あの、何か、飾りに血の・・・あ、いえ、何でもないっス』
剣の装飾についた血の粉に引け腰になったのは、大小コンビと同じクラスで、最初の質問タイムに胸のカップを聞いてきた子だ。
出発前の荷物チェックで、何故か春本(エロ本の事)を持ってきたのをアベル教官に見つかり、皆の前で説教をされていた。
それが無いと生きていけないと本気で言い張り、そこにいた生徒教官全員を引かせたツワモノである。
結局没収され『ならば先生の班にしろ』と、本気で駄々を捏ねた彼の名はカーフェイという。
どうやら春本ではなく、女性の存在無くして生きていけないらしい。
彼が入った事で、一人いた女子生徒が別班に避難させられた。
艶やかな栗色の髪に深いグレーの瞳。
綺麗な顔立ちにスラリとした長身を持ち、黙っていればモテそうなのだが、発言のせいで全て台無しである。


『マテリアを入れる穴は無いけど、かなり使い込んでますね・・・凄いなぁ』
目を輝かせて剣に見入ったのは、就任初日の二時間目でキングベヒーモス100匹を素手で云々と質問してきた子。
好奇心旺盛で何にでも興味を示す純粋さを持っているが、カーフェイが語る女体の神秘にまで興味を示すのはどうか。
人懐っこい笑みが特徴で、肩ほどまでの金髪を一つに結び、青い瞳に黒ブチの眼鏡をかけていた。
が、誰に何を吹き込まれたのか、今日登校してきた彼の髪は綺麗な丸坊主になっていた上に、眼鏡はブルーグレーが入ったサングラスになっていた。
黒だったらルードJr.と呼んでいたかも知れない。
そんな彼の名はガイ。学校一の不思議君である。


さん、せっかく色気あるんだから、もっと肌出したら?』
剣など眼中にいれず、を上から下まで舐めるように見てそう発言したのは、初回の授業でスリーサイズを聞いてきた生徒。
この中では一番年長で21歳。アーサーという名だ。
校長の息子で、それ故か、の事は決して先生と呼ばず、敬語も使わない。
銀に近い金髪にダークブルーの瞳で、普段は無口な一匹狼タイプらしいが、よく休み時間中女子生徒に囲まれている。
どうやら不埒な発言は相手の注意を引く彼流の手法らしいと、モテる彼を日々研究しているらしいカーフェイが言っていた。
成績は3本の指に入る程で、体術だけが若干苦手なため、選択教科で受けているらしいが、それでもその力は大小コンビと良い勝負だ。
因みに、この班の班長である。


『変わった作りですね。アンティークみたいだ。宝石にも、何か模様が入ってるし・・・あれ?先生・・・でしたっけ?体術の講師なんですよね・・・?』
首を傾げながら見下ろしてきたのは、ジョヴァンニに負けず劣らず長身のロベルトという生徒。
見覚えが無いと思っていたら、先々週から昨日まで、風邪で入院していたらしい。
薄茶の髪に同じ薄茶の瞳で、精悍な顔つきをしており、見るからに優等生タイプだ。
他の教科は常に最高点をとっているが、体術だけは全く駄目らしく、常に赤点だという。
アーサーと似たり寄ったりな成績だが、彼の教員に対する態度や授業に手を抜く点が気に入らず、ライバル心もあって仲は悪いらしい。
面倒見が良く、人当たりも良いので人望も人気もあるというのはアレンからの情報。
アレンはアレンで、良い人すぎる彼を胡散臭く思っているそうだが、本当の理由は、ロベルトが会話の時膝を曲げて視線を合わせるから嫌いなのだと、ジョヴァンニが言っていた。




背が低くて女顔。いつも一言余計な黒髪黒目で、アベル教官の甥アレン。
大柄で大雑把。金髪でアレンの親友ジョヴァンニ。
茶髪にグレーの瞳の男前だが、オープンにエロすぎるカーフェイ。
好奇心旺盛で元金髪・現坊主頭のサングラス。不思議君のガイ。
金髪ダークブルーの瞳。飄々としながら問題発言をする伊達男。校長の息子で班長のアーサー。
優等生だが、アーサーとは折り合いが悪い、薄茶の髪と瞳をもつロベルト。



そんな6人を任されただったが、成績優秀者が集まったこの班が、実は問題児を突っ込んだ班だという事を、彼女は知らない。
因みに、冒頭のゴムボート移動で主にを制止していたのは、カーフェイ、ガイ、ロベルトである。


アレンは完全に冷めた目で物事を見ているので、の行動はあまり気にしていない。
ジョヴァンニは、焦りはしたものの賑やかで面白いと、先の騒動を笑って済ませていた。
アーサーは、多少のアクシデントがあった方が面白いと思っているので、もっと何か起きないかと期待している。

そんな3人に、他3人は呆れるやら感心するやら、三者三様の反応だったが、ロベルトだけはアーサーの態度に不満を抱いたらしい。
あと4〜5つ程気に入らない事があれば、彼がアーサーに突っかかるのは皆空気で察していた。
アーサー自身それは感じているらしく、内輪もめという面倒は避けたいようで、ロベルトの様子を見つつ大人しくしていた。





海岸に着いた班は、待っている係の者に進行ルートが書かれた地図を貰う手筈になっている。
大陸との連絡係も兼ねているため、二日目までは此処に留まっているはずなのだが、見渡す砂浜にそれらしい人影は見られなかった。
湿り気を帯びた潮風が頬の上を滑り、海の香りと共に僅かな焦げ臭さを運ぶ。
異質なそれに、微かに目を細めたは、風上の防風林へ目を凝らした。


先生、ここで地図もらうんですよね?」
「その予定だ」
「でも、誰もいないっすよ?」
「・・・着いて来なさい」


身を潜める人の気配に、生徒達に知られないようプロテスをかけ、は砂の上を歩き出す。
実習旅行のしおりを手に首を傾げたロベルトと、キョロキョロ辺りを見ていたカーフェイとガイは慌てて彼女の後を追った。
小さく溜息をつくアレンの肩をジョヴァンニが叩き、二人がゆっくり歩き始めると、アーサーは胸元の銃をそっと取り出して最後尾を歩く。

砂利混じりの砂に足を取られながら、漣の中に時折他の生徒らしき銃声が風に乗って届いた。
そわそわし始めた前列3人は、そこで漸く自分の武器に手を伸ばし始める。
進むにつれ濃くなる火薬の匂いに、そろそろ気付く頃かとはちらりと後ろを振り返った。

緊張した面持ちで辺りに視線を彷徨わせるロベルトと、首を傾げながら鼻をヒクヒクさせるガイとカーフェイ。
それでも、いつでも武器を取り出せるように手が動いている事を安心しながら、は既に戦闘態勢に入れる後列3人を見た。
何かあったのだろうと言いたげな3人は、この状況にうろたえる素振りは無い。
神羅派の血縁者がいるのだから、そのうち2人はこの実習旅行で何が起きるか知っているのかもしれない。

誰にでも分るほど濃くなった血と硝煙の匂いに、は耳を澄ませて茂みの中へ足を踏み入れる。
折れた木の枝を踏みつけ、近くなっていく荒い呼吸を探せば、木に背を預けた血塗れの神羅兵がいた。


「なっ・・・大丈夫ですか!?」


真っ先に駆け出したロベルトが、兵の傍に膝をついて回復マテリアを探し始める。
焼け爛れた顔は赤黒く変色し、ヘルメットも半分溶けかかった状態の兵に、ガイとカーフェイは口元を押さえた。
ロベルトに続き、兵の傍に寄ったアーサーもまた道具袋を取り出し、中を漁りながら大小コンビに辺りの警戒を呼びかける。
それを横目に、戦闘の跡が残るそこを見回していたは、ゆっくり兵に近づくとその姿をまじまじと見下ろした。

呼吸に合わせて動く胸元は、服が焼け焦げており、火傷を負った半身は腕が肘の先から無くなっている。
出血が無い傷口は溶けたように肉が削げ、肉が焦げた匂いを辺りに充満させていた。
どう足掻いた所で、この怪我では助かる見込みは無いだろう。
ボロ布と言って良いほどの状態になった兵は、生徒達にさえ怯えた様子で、しきりに辺りに視線を彷徨わせている。


先生、何見てるんですか!?手当てしないと・・・」
「その必要は無い」
「アンタ・・・見殺しにする気か?」


信じられない物を見るように顔を上げた二人は、その瞳ににわかに怒りを映し出す。
真っ直な子だ、と暢気な事を考えながら、は剣を抜くと兵の首に宛がった。


「先生!?」
「・・・・・・」

驚愕に目を見開くロベルトと、強くを睨むアーサー。
その光景を呆然と見詰めるガイとカーフェイは、声を出す勇気すら出ずにその場に立ち尽くしていた。
アベルとジョヴァンニは、こちらにチラチラと視線を向けはするものの、辺りの警戒を重視しているようだ。


「アバランチだな?」


静かだが良く通る声で紡がれた言葉に、血塗れの兵がゆっくり視線を上げる。
もはや顔を上げるだけの力も残されていないだろう彼の傍で、処置の手を止めた生徒二人が困惑しているようだが、はそれに構う事無く兵の前に膝をつく。
それに従い首から下りた剣の切っ先は彼の胸元で止り、煤で黒くなった胸当ての表面を擦った。


「私のイフリートは強かっただろう?」
「・・・っ・・」


僅かに笑みを浮かべるの口から出た言葉に、死にかけのアバランチは虚ろに声の主を見る。
何かを言おうと息を吸い込むものの、焼けた唇から声が出る事は無く、ヒュッという呼吸の音が出るだけだった。
これでは、向こうの情報を吐く事も出来ないだろう。


「・・・眠れ」


囁く言葉と同時に、男の瞼がゆっくりと下がり、体がズルリと傾いた。
微かに息をするその体に、ロベルトが支えようと腕を伸ばす。
だが、何かが男の体に引っかかり、彼は目を丸くした。

視線の先には、男の心臓に深く差し込まれた刃が見え、驚いた顔の自分が映っている。
これがどういう意味なのか、理解する間もなく引き抜かれた刃には、赤い体液がこびりついていた。
剣が抜かれた場所からは見る間に赤が広がり、男の呼吸はラジオのボリュームを下げるように消えていく。
呆然としていた彼は、傍で聞こえたヒュンッという風を切る音と、次いで聞こえた草に水滴が落ちたような音に、ハッと我に返った。

止めを刺したは、呆けるロベルトなど気にせず、剣に付いた血を払うと刃の先端を見る。
刃が欠けていないことをざっと確認すると、そのまま剣を鞘に収め、今だ男を支えたままのロベルトを見た。


「いつまで死体を抱いているつもりだ?」
「え・・・うぁ!!」


ほんの数秒前まで生きていた死体に、彼は慌てて飛び上がった。
支えを失った死体は、尻餅をついた彼の足元に転がり、反対に膝を付いていたアーサーがゆっくり腰を上げる。


「アンタ、結構残酷だな」
「知っている」


特に感情が込められている訳ではないが、間違いなく褒め言葉ではないアーサーの台詞に、は微かに笑みを浮かべる。
その笑みがどういう意味なのか、理解出来ない彼らを捨て置いたまま、はメモ帳を取り出すとペンを動かし始めた。
書き込んでいるのは、もちろんこの状況での彼らの成績である。


「聞きたい事山ほどあるけど、後にするわ」
「そうしておけ班長」

「ああ。信用してるよ、先生」

口の端を上げ、わざとらしく先生を付けたアーサーは、ロベルトの傍に転がっている死体に手を伸ばす。
ポケットや胸当ての内側を漁ってみるものの、ようやく見つけたルート地図は、殆ど燃えて海の部分しか残っていなかった。










「お〜おわ〜れらが神羅〜♪メタボリック〜社長〜♪」


五月蝿いエンジン音も何のその。
暢気に大声で歌いながら、ザックスは一人ゴムボートで海を渡っていた。
段々と近くなっていく島から、時折炎の柱が上がったり、大きな雷が落ちたりしているが、彼は臆するどころか楽しそうにそれを見眺める。


「賑やかにやってんな〜。ま、ヒーローは遅れて登場するもんだし・・・待ってろよ!!」


人間一人でいると、寂しさを紛らわせるか、自然と独り言が多くなる。
例に漏れず、一人意気揚々と声を上げるザックスは、再び神羅賛歌を口ずさみ始めた。







オリキャラ大量投入ですよ。
生徒が出ると、どうしてもこうなる。オリキャラ嫌な方、すみません。
濃すぎない程度の特徴付けたんですが、書いてる私ですら混同しそうorz
因みに、それぞれのイメージは生徒背景verをご参照願います
それぞれの特徴を出したつもりなんスけど・・・どうでしょう?余計混乱するかなぁ・・・(汗)
そんなこんなで、このままじゃ7キャラいねぇ!ってなったんで、ザックスが後詰として参加です。
島は広いので、合流できるかどうかは運次第ですが。(爆)
あー。セフィロス出したい・・・。
2007.08.19 Rika
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