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引越しの際、セフィロスはと自分の荷物を一緒にして箱詰めした。
そのため、整理が完全に終るまでは、互いにダンボールの中から着替えを出して使っている。


初出勤から帰ってきた彼女から、学校での話を聞いていると、自分が帰ってきた時間が遅かったため、セフィロスがベッドに入ったのは真夜中だった。
翌日珍しく寝坊した彼は、何故か真っ青になって絶句しているに構う余裕も無く、慌しく家を後にする。

珍しく廊下を走る自分に、振り向く社員が妙に多いが、それに構う余裕など無かった。
が・・・


「セ、セフィロス待ったーー!!」


ソルジャーで混んでいるフロアを、早足で歩いていると、後ろからザックスが悲鳴のような声を上げてとびついてくる。
急いでいるのに何なのだと睨んでやるが、いつもは引くはずのザックスは、有無も言わさず自分をトイレに引っ張り込んだ。


「何だ?」
「セフィロス、そのままの姿で此処まで来たのか!?」
「だからどうした?」

苛ついた声で見下ろせば、ザックスは酷くショックをうけた顔をしながら、彼の背に触れる。
その瞬間、何かが背中から取れるような感覚を覚え、次の瞬間ザックスの手の中にあったものに、セフィロスは凍りついた。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」

「これ・・・の・・・だよな?きっと・・・・」
「・・・・・・・・」

顔を赤くするザックスの手には、間違いなくの物であろう1枚の下着があった。



その後、神羅本社警備室が何者かによって襲撃され、社内にいる大勢の社員がコンフュをかけられるという事件が起きた。
被害は社員が混乱のせいで記憶が多少欠如してしまった事と、監視カメラで撮影されたデータが数日分消去されるというだけに留まったが、犯人が見つかる事は無かったという。





Illusion sand − 53








「実習旅行?」
「ええ」


授業が終わり、フラフラになって演習場を出て行く生徒を見送ったは、教官から新行事の連絡を受けた。
今年から新たに行う事となったらしいそれは、実際の戦場へ出て経験を積ませる為のものらしい。
とはいえ、まさかいきなり反神羅組織と戦わせるのではなく、学生達でも倒せるレベルのモンスターが生息する場所に行くだけとの事。
生徒は実戦の経験を持て、近隣の住民は治安が良くなり、神羅はそれによりイメージアップができる。

良いことだらけのようだが、多少穴が出てくるだろう事は予測済みらしい。
1学年しかない学校のため、各実技教科の教官と講師が引率する事となる。

4泊5日の実習旅行は、ミディール付近の島の一つからスタートするらしい。
大陸に近い島へゴムボートで着岸し、3日間はモンスターを討伐しつつ野宿して進む。
3日目の午後には目的地のミディールへ付き、温泉でゆっくりさせて翌日ミッドガルへ帰るという日程だ。
訓練でもある旅で、最後に遊ばせるのは、モンスターに手こずって遅れた生徒を待つ時間が必要だからだそうだ。


「放課後その会議がありますから」
「はぁ・・・・」

「本当はもっと早く言うべきだったんですけど、ゴタゴタしてしまって。遅くなってすみません」
「いえ、お気になさらず」

「でも、旅行明後日からなんですよ」
「は?」

「ハッハッハ!明後日です。あ・さっ・て」
「・・・・・・・・・・・・・・・急ですね」

「ええ。それがあるから、講師の雇用を急いだんですよ」
「なるほど」


だったら普通は1日目に言うものじゃないのか?



豪快に笑う教官に、はそう思わずにいられなかったが、それを口にしたところでどうとなる訳でもない。
帰ったらセフィロスに言わなければと考えると、ふと今朝家を出る彼の背中を思い出した。

随分遅くまで寝ている彼に、今日は休みなのだろうかと考えていると、乱暴にドアを開けた彼が朝食はいいと洗面所に走った。
その時、彼のコートの背中に引っかかっていた自分の下着に、は言葉を失ったのだ。
様々な経験をしてきただったが、背中にブラジャーを引っ掛けて歩く人間を見たのは、初めてである。

教えなければと思う間もなく、彼は玄関を開け外に飛び出していく。
慌てて玄関を開けてセフィロスを呼んだが、既に彼の乗ったエレベーターは閉まっていた。

走るうちに取れるだろう。
そうであってくれと考えると、彼女は不安をおぼえつつも、自分の仕度を始めた。


そう思い返している今、セフィロスとザックスが本社の警備室を襲撃している真っ最中である事など、彼女は知る由も無い。


次の時間体術が入っているクラスが無いため、は教官室で実技旅行の説明を受ける事となった。
前の講師が使っていた書類のファイルを渡され、補足の説明を聞きながら自分が担当する班員の名をチェックする。

生徒は7〜8名ずつに分けられ、だいたい10組の班になっているが、講師や教官の数に不足はなかった。
それもそのはず。
神羅直営のこの学校には、剣術と体術だけでなく、魔法や射撃、特殊武器など様々な実技教科がある。
しかも、それらはその特性上、前二つの教科に比べると教官や講師の人数が倍以上。
生徒らに知らせる事は無いが、現地には神羅の兵が数名配置されているらしい。
生徒が手に負えない魔物は、事前に彼らが駆除しておくという寸法だ。
万が一の時は応援も要請できる。




その後、細々とした注意や説明を受けると、残る実技の授業をこなし、放課後の会議となった。
殆ど最終確認しかしない会議は小一時間もせずに終わる。
教官と違い、定時までの拘束時間が無い各教科の講師は、ぞろぞろと帰り支度を始めた。
もまた、夕飯の献立を考えながら、分厚いファイルを片手に会議室を出ようとする。

剣術の教官が、妙に敵意のこもった目で見ていたが、彼に初日から向けられているそれを、彼女は逐一気に留める事は無い。
何が気に食わないのか、彼は初対面からこうである。
勿論面倒が目に見えているのに会話などするはずがなく、廊下ですれ違う時に挨拶こそしても、返事が帰って来た記憶は無かった。
と同じ体術の教官とは殊更仲が悪いらしく、目も合わせなければ名を口にする事も無い間柄だ。
に対する態度も、半分はそのとばっちりなのだろう。
迷惑な事である。


「待て」


いきなり肩を掴まれ、足を止めたは、その手の主である剣術の教官に振り向いた。
先に声をかけてから手を出せば良いものを、随分粗暴な男だと思いながら、彼女は頭一つ分上にある彼を見る。
見るからに敵意が込められた瞳に、何か気に触るようなことでもしただろうかと考えるが、それ以前に交流が無いのだから心当たりもなにもあるはずがない。

周りにいた教官らも、突然の事に驚き、また相手が剣術の教官である事にその中の数名が慌てて駆け寄ってくる。


「何か?」
「俺はお前を認めん」

「・・・・・それで、何です?」
「・・・・戦場は遊び場ではない」

「・・・馬鹿馬鹿しい」
「何!?」


何が言いたいのか、全く要領を得ないまま言葉を連ねようとする男に、は呆れながら溜息を吐いた。
まるで子供のわがままだ。

剣術が優れていれば体術など不要。最も重要なのは武器を扱う技能だと、彼は自負しているらしい。
故に、数ある教科の中でも己が身一つで戦う体術が特に気に食わないらしく、その教官や講師を目の敵にしていると聞いた。
自分にこうして言葉をかけるのも、敵意の篭った視線を送るのも、そのせいだろう。

また、彼は己の技術に相当のプライドを持っているらしく、人の助言を聞くことも無い。
そのため雇った講師とは悉く衝突し、結果すぐにやめてしまうのだという。

拘りがあるのは良いことだが、度を越すそれはただの我がままだ。とは、と組になっているマクスウェル教官の言葉だ。
しかし、実際この剣術の教官は、そのプライドに見合うだけの技術を持ち、その能力の高さ故に解雇する事も出来ないとか。


「貴方は何が言いたい?」
「英雄セフィロスの七光りで入っただけの者が、偉そうに生徒に指導をするのが許せん」

「ならば、試験官だったソルジャーに抗議でもしてはどうだ?で、貴方はどうしたい?」
「お前の実力を試させてもらおう。・・・来い」


こちらの都合など全く無視で歩き始めた剣術の教官に、はまた面倒事かと思いながら後を追う。
そのまま帰ってもよかったのだが、それではあちらも納得しない上に、逃げただ何だと言いだすだろう。

そもそも、自分の授業を見に来もしない人間にそう言われたところで、因縁をつけているようにしか聞こえ無い事に彼は気付いていないのだろうか。
とはいえ、そこで相手の技量を知ろうと腰を上げるなら、へその曲がり具合は手遅れではないのだろう。

心配そうに二人の遣り取りを眺めていた他の教員は、何人かが人を呼びに走り、他の者は二人の後ろをついてくる。
途中で止めようとしなかった事を考えると、これは初めての事ではないのだろう。
何処へ行っても、人間関係には幾許かの面倒が付き物という事か。

廊下を歩く剣術の教官と体術の新講師。それに続く教員らに、校舎に残っていた生徒達は目を向け、またかと囁き始める。
早く帰るようにと声をかける教官達に、彼らは一応頷きながらも、影からこっそりつけてくる気配がした。

次第に大勢になった生徒達は、隠れるのは無駄と開き直ったか、堂々教員らの後ろをついて歩き始めた。
ザワザワとする彼らの言葉には、前の講師はどうだったやら、今回はどうなるかという言葉が飛び交っていた。


「なぁ、どう思う?先生と、アベル先生」
「またアベルの勝ちだろ?いっつもじゃん」
「でも先生だぞ?わっかんねぇじゃん」
「だよな。だって先生って、ズー捕まえて乗り回してたんだろ?」
「そうそう。それに、召喚獣と戦って勝ったって言ってたよな」
「ベヒーモス100匹素手で殺したってのも聞いたぜ?」
「いや、それ違うらしいぞ。でもトンベリを血祭りに上げたって噂は聞いた」
「アバランチ火祭りにしたんじゃなくて?」
「え?それニブルドラゴン火ダルマにしたって話だろ?」
「違うって、ドラゴンは爆発させたんだよ」
「おいおい・・・アベル先生灰にされるんじゃねぇの?」
「燃えカスすら残らないかもな」
「待ってくれよ〜。俺実技旅行の引率アベル先生なんだぞ?いなくなられたら困るって」
「馬ー鹿。いくら先生が鬼でも、殺したりなんかしないって」
「そうそう。だってアベル先生のレベルって50ぐらいだろ?大丈夫なんじゃないか?」
「だよなぁ。先生もタークスとも殴り合いの乱闘騒ぎ起こすぐらいだし」



次々と出てくる聞き捨てなら無い噂に、それらを初めて耳にした教員達の顔がどんどん強張っていく。
冗談だろうと聞き流せるような内容だが、火の無い場所に煙は立たないのだから、それ相応の真実がある事は間違いないだろう。
目の前を凛として歩く女性に、思い浮かぶ噂は浮ついたものだろうと予想できるが、生徒らの声を聞く限りその外見を上回る何かを潜めているに違いない。

しかも、この馬鹿馬鹿しいと流せてしまう噂を、生徒たちがさも本当の事であるかのように話すとはどういう事か。
幼心ばかりではなくある程精神的な成長をしている彼らが、その噂を信じているのは、妙な信憑性を感じさせた。

半分・・・否、殆どの事が本当であるため、はそれらを否定しようとは思わない。
多少言葉が過ぎている気もするが、下手に否定しては逆に怪しまれる可能性もあるので、聞こえないフリをしていた方が無難だろう。
しかし、後ろから感じる教員らの視線が、それまでの心配や同情から明らかに変わっている事を、彼女は感じ取った。
幸か不幸か前を行く剣術の教官アベルには聞こえていないようだが、しかし仮に聞こえていたとしても所詮噂と聞く耳持たないだろう。

剣術の演習場前で立ち止まったアベル教官は、一度後ろを振り向くと、集まった生徒らに一瞬眉を寄せる。
だが、すぐに無表情に戻った彼は、重い扉を開けると達を中に促した。



訓練用に刃が潰された剣を二つ持ち出した彼は、片方をの足元に投げる。
鉄製の床とぶつかり、大きな音を立てて転がった剣を見下ろすと、彼女は数歩離れて対峙する彼を見た。


「使うなら使え。得意の体術で来るというならば、それでもかまわん」
「・・・・」


選択肢を与えてるかに聞こえるが、どちらを選んだところで不利が出てくると、は暫し考えた。

対等の勝負として剣に手を伸ばせば、体術を教える者として、剣にそれが通用しないと判断したようなものだ。
しかし、あえて体術で勝負すれば、対等ではないと考えられる上、剣では勝てないため得意分野で勝負した思われる可能性もある。

頭の固さでは自分と同種だろう彼が、終ってから不公平を訴えるようには見えない。
だが、彼との会話は先程のが初めてであるは、彼がどういう人間なのかまだわからないので、安易に判断する気にはなれなかった。


「2本勝負で如何です?私は1度目は体術、二度目は剣を使います」
「・・・・3本勝負とは言わんのだな」

「引き分ける事はありませんので」
「大した自信だ」

「それはどうも」


言うと同時に、は足元の剣を人がいない遠くへ投げる。
大きな音を立てて転がる剣に、ひそひそと話していた観客は静まり、合図をかけるために出てきたマクスウェル教官が片手を上げた。

静かに剣を構えたアベル教官に、は自分と同じ系統の剣術使いなのかと考えながら、形ばかりの構えを取る。
烈火の如く殺気を放つのではなく、静かで冷たい水面のような雰囲気のまま、寒気にも似た殺気と威圧を与える剣。
彼が剣を振るう瞬間、その静謐に似た殺気は業火のように爆発されるのだろう。

とはいえ、それでも彼女にとってはさして恐れる対象ではないのだが、何事も油断は禁物である。
どれ程の技量をもっていても、調子付いて驕る者程足元を掬われ易いのだ。
見える結果がどうあれ、力の程を知らない敵を相手にする時は、慎重すぎるぐらいが丁度良い。


考えている横で、マクスウェル教官が開始の言葉と共に、掲げていた腕を振り下ろした。
だが、動く気配の無いアベル教官に、は考えている事は同じかと、微動だにしないまま様子を伺う。

彼から放たれる威圧は、一般人にすれば相当なものだろう。
だが、はそれら全てを、風が肌の上を滑るように流す。

しかし、それでいて彼の注意が、僅かばかり自分とは別の場所にあるのをは感じていた。
集中力が無いわけではない。むしろ彼の今の集中力は、常人のそれより遥かに高い。
その状態で、その状態だからこそか、別の方向へ注意を向ける彼の真意がわからなかった。

様子を伺っている事に変わりは無いが、それは自分と、またその別の方向へ向けられている。
険悪な関係にある教官らがいるとはいえ、この場に於いて横槍が入ると思っているのか。
それがある無しに関わらず、諸刃の刀を抱える彼に、妄想や憶測では無いのだろうと漠然と考えた。
ただの教官、そして校内での対決にしては、彼の行動は奇妙すぎる。

否、そもそもこんな個人的ないざこざを、わざわざ他の教官らの目にとまる場所で行う必要があったのか。
自分を晒し者にしたいという理由があるにしても、その注意力が別方向へ向けられていると悟った今、それが表向きでしかない事は明らか。
対峙した相手がそれに気付いている事に、彼が気付いているかどうかはわからない。
だが、ただ一つ言えるのは、その一連の行動に裏の意味があるという事だった。

頭は相当固そうだが、この男、馬鹿では無さそうだ。

勝手に駒にされるのは気に食わないが、これからの職場の人間関係を考えると、その理由を知って損はない。
それに加え、の勘がその正体は穏便なものではなさそうだと言っていた。

あえて策に乗り、借りを作るのも悪くない。
力をぶつけ合い、仮にその真意が見えきらなくとも、当てこする借りで白状させれば良いだろう。

もし何も出てこなければ・・・・・この演習場が空いている時、自分の修練の為に場所を提供させようか。
セフィロスに剣を返してもらったとはいえ、使える場所が無くて困っていたところだ。

アベル教官への処遇を大凡頭の中でまとめると、は結果の見える一騎打ちに初めの一手を打った。







セフィロスをギャグキャラにしてしまった・・・いや、今更か。
何か、教官Sはオリキャラになるから、名前を出す気無かったんですが、出さなきゃならなくなったorz
面倒だったんで、スミスとかロバートとか当たり障り無い名にしようという事でアベルになりました。ま、今後もそんなに出て来はしませんので、忘れちゃっても大丈夫です。
こんだけ出しといて言うのアレですが、個人的にオリキャラってあんまり出したくないんですよねぇ・・・。名を考えるのが面倒で(爆)
ええ。夢ヒロインとかもそうですが、私は名前を考えるのが苦手です。
2007.07.05 Rika
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