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「引越しするぞ」

タクシーに乗り込んで数分。
家とは逆方向に向かっていく車に首を傾げていたに、セフィロスは唐突に告げた。

「あそこは狭い。お前の部屋もあった方が良いだろう」
「いつまでも貴方をソファで寝かせる訳にもいきませんしね」

寝心地は悪く無いが、毎日となれば如何せん体にも堪えるのだろう。
よもやいい大人の二人が、一緒に寝るなどという選択肢を出すはずもない。
その事を、この数日考えていたはすぐに了承の意を返した。

そのまま物件の下見に向かった二人は、7番街にある新築のマンションに新居を決めた。
一般人や神羅の社宅が多いそこは、本社は勿論士官学校への交通の便も良い。

の初出勤が来週明けだという連絡を受けると、二人は自宅へ戻る。
非番で暇だと電話してきたザックスをで釣って呼び寄せると、3人はセフィロス宅で引越しの準備を始めるのだった。





Illusion sand − 50






「予想通りっつーか・・・セフィロスの家ってあんまり物無いな」
「そうですか?」

「うん。だって俺の家すげぇ物ばっかりでさ。結構ゴチャゴチャしてるもん」

棚の中の皿を紙に包みながら、ザックスは家の中を見回して呟く。
その隣で台所を高速で掃除するは、それは単に整理整頓していないだけではないかと思いながら、シンクに水をかけた。

はこの世界の一般的な一人暮らしに、どれだけ物が必要なのかはわからない。
だが、彼の家の物の数は、次元の狭間にあった蜃気楼の町にある一般家庭とさして変わらないように思えた。
こうして荷造りをしていても、手が足りないと思ってしまうのだから、少ない部類には入らない気もする。
当の家主に聞こうにも、彼は今寝室の荷物を片付けている最中だった。


「ってか、俺、思うんだけど、たった3人だけで荷物整理すんのって、無理ないか?」
「急でしたからね。足りなければまだ誰か呼ぶと、セフィロスは言っていましたよ」

「呼ぶつったって、もうすぐ夕方・・・って、動き早くね?!」
「急ぐに越した事はありません。今日中に全て終らせるわけでもありませんがね」

「そうだけどさ、手ブレて見えるの気のせい?」
「動体視力が上がればちゃんと見えるようになりますよ」

「それ掃除する早さじゃないよ!?ノコギリで丸太切る速さだよ?!ステンレスに穴開くよ!?大家さんビックリだよ!」
「失礼ですね。力加減ぐらいしてますよ」


苦笑いしながら、シンクを磨き終わったはザックスの隣に腰を下ろす。
またも高速で皿を紙に包み出した彼女に、彼はプロかと思いながら、手の中の皿を箱の中に入れた。

ヘイストでもかけているのかと思うが、きっとこれはノーマルな状態で出す早さだろう。
ならば寝室にいるセフィロスも、今頃高速の動きで荷造りをしているのではと、彼の中に妙な興味が湧いた。

「手が止ってますよ」
「・・・・・・・・・」

喋る速さは普通なのに、手だけが高速で動く
そんなセフィロスをどうしても見てみたいと思ったザックスは、意を決して立ち上がった。


「俺、セフィロスに人増やしてくれるように言ってくるよ。このままじゃ流石に無理が出てくるだろ?」
「・・・わかりました。では、お願いします」


ニッコリ笑って答えた彼女に、ついヘニャリとした笑みを返すと、彼はセフィロスの寝室に向かった。


廊下へ出たザックスは、薄く開いた扉をそっと開き、目当ての人物を見つけた。
が、そこにいた彼は、高速の動きをするでも、荷造りをするでもなく、ベッドに腰掛けて分厚い本を眺めている。
書棚の本が数冊抜かれ、床の上に積み上げられていたが、その傍ある箱には半分程までしか本が入っていない。


「セフィロス・・・・何してんの?」
「・・・・・・・・」


ザックスの声に、ハッと顔を上げたセフィロスは、暫し彼の顔を見ると無言で本を閉じる。
何事も無かったかのように箱に本を入れた彼に、ザックスは室内へ足を踏み入れた。


「どうした?」
「どうしたじゃないよ!何じっくり読んじゃってんの!?」

「ゼクス・マーキス著、完全勝利の為の戦略・下巻だ」
「タイトル聞いてるんじゃなくて・・・・って、それもう下巻出てたのか?」

「先月出た。お前も読んでいたのか」
「そりゃぁまぁ、分りやすいしな」

「上巻に比べれば内容は薄いが、悪くは無い」
「へー」


仕舞われた本を羨ましそうに見るザックスに、セフィロスはもう一度本を取り出すとパラパラとページを捲る。
目当ての頁を見つけたセフィロスは、此処は覚えた方が良いと指で指しながら、本をザックスに手渡した。
元からの興味と、英雄からの指南に、ザックスはすぐさまそこを読み始める。
セフィロスはそれを横目に作業を再開するが、すぐにまた気になった本を見つけて頁を開いた。











完全に本の虫と化していたセフィロスは、暗くなってきた部屋に窓の外を見る。
先程までページを照らしていた茜は沈み、青が混じった名残が外の景色を変えていた。
床に座っていたザックスも、顔を上げたセフィロスに本から顔を上げ、日没を過ぎた窓の外を見た。

暗いままでは文字が見えないと、セフィロスは部屋の入り口にある電気のスイッチを見る。
が、そのすぐ傍。部屋の入り口に持たれかかりながら、腕を組んで薄笑みを浮かべる女性に、彼は本来の目的を思い出し固まった。

「セフィロス、どうし・・・・」

彼の視線を追ったザックスも、そこにいた彼女に言葉を途切れさせて固まる。
開いたままだった本が、彼の手からゆっくり滑り落ち、ゴトリと床に落ちた音が、静まり返った部屋に響いた。


「・・・
「ごきげんよう」


顔を引き攣らせるザックスに、はにっこりと微笑み返す。
見惚れるようなその笑顔と穏やかな口調は、彼女の出自に嘘偽り無いと知らしめるかのような品格を匂わせる。
だが、今は場合が場合だけに、彼女の怒り具合を教える良い材料になっていた。


「・・・すまない」
「ごめんなさい」
「・・・・・・・・・・・」


素直に侘びを言う二人だが、の笑みは消えない。
重い沈黙が圧し掛かり、どうしようかと目で相談したいザックスだったが、今彼女から視線を逸らしては危険だと本能が言っていた。

静まり返る事数十秒。
の顔からは段々と笑みが消えてゆき、それに従い、その様を見せ付けられる二人の背筋に嫌な冷たさが広がっていく。


「お二人とも、勉強熱心な事で・・・」


彼女の、いつもより僅かに低い声が、静寂に包まれた室内に響く。
蛇に睨まれた蛙の如く動けない二人は、今や声を出す事も出来ず、暗闇に佇むを見つめていた。


「もう6時半ですか・・・早いものですね」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

「・・・・ね?」
「あ、ああ」
「その通りでございます・・・」


ようやく口を開いた二人に、は満足したように微笑み、部屋の電気をつける。
明るくなった事で鮮明に見える彼女の微笑み。
だが、それすら地獄の門番が扉を開ける喜びの様に見えてしまう二人は、戦々恐々としながら彼女を見守る。


「セフィロスが呼んでくださったお手伝いの方、遅いですね」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」


の言葉に、ザックスは此処に来た目的を思い出し、驚きに表情を変える。
そんな連絡を受けていないセフィロスは、まさかとザックスを見、彼の顔に納得しながら内心参ったと頭を垂れた。


「まったく・・・」


目を伏せて大きく溜息を吐いた彼女に、二人はその後落とされるだろう天雷に身を硬くする。
再び瞼を上げた彼女の目は、完全に据わっており、その瞬間二人は落雷のカウントダウンを始めた。


「二人で作業しているのかと来てみれば・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

「大の大人が二人も揃って・・・何やってるんですか!!」
「っ!」
「ぴっ!」

怒鳴られると同時に、二人はビクリと肩を震わせ、顔を俯かせる。
身を硬くしてつむじを見せる二人を暫く見下ろしていたは、恐る恐る顔を上げたザックスと目が合うと、その目をギッと睨みつけた。

「ザックス!」
「は、はい!」

「貴方何のために此処にいるんですか!伝える事も伝えないで!!随分遅いからセフィロスを手伝っているかと思ったら、こんな・・・・。ミイラ取りがミイラになってどうするんです!?」
「ご、ごめんなさい!」


「セフィロス!」
「うっ・・・はい・・・」

「貴方も、一体何の為に此処にいるんですか!しかも、この部屋!!いつから本を読んでいたんですか?!」
「・・・・・始めてから・・・10分ぐらい・・・」

「・・・・・・・ザックスが来た時点で、本に熱中していた事に気がついたでしょう?」
「・・・・ああ」

「なのに何故一緒に読書してるんですか!!多少であれば仕方がありませんが、もう6時ですよ!?始めてから2時間以上経ってるんですよ!?普通途中で気付くでしょう!」
「すまない・・・・・俺が悪かった」


縮こまる二人に、は大きく息を吐くと室内を見回す。
本棚の本が1段なくなっている以外、今朝と全く変わらない風景は、手付かずと言ってもいいだろう。
ザックスが此処に来てから1時間弱、自分は集中して台所を片付け、リビングの荷造りまで始めていたというのに。
その間に何冊読んだのか。それぞれの足元に積み上げられている本を見れば一目瞭然だった。


「私はリビングの片づけの続きをしますから。ザックスは風呂場。セフィロスは此処を片付けて下さい。いいですね?」
「はい」
「わかった」


素直に頷く大きな子供達を一瞥すると、はそのままリビングへ戻って行った。
遠ざかる静かな足音を目で追う二人は、リビングの扉が閉じられる音と共に大きな安堵の息を吐く。


「母さんみてぇ・・・」
「・・・・・・・」


母さんって、どんな感じだ?

呟いたザックスを、セフィロスは黙ったまま見つめる。
肉親を知らぬ彼にとって、その言葉は存在しながら未知である存在を漠然と形作らせた。
これまでその存在を思い浮かべた事ぐらいはあった。
だがそれは、誰かのそれを見て知る姿や、物語の中に出てくる心優しい、それこそ出来た母親像ばかり。
所詮想像上でしか知れない自分の母と、本物の母を持つ彼の言葉では、現実味が全く違って見えた。
が・・・・



母親って・・・・あんなのなのか?


「俺さ、今の見て・・・・昔悪戯して、お仕置きに木に括りつけられた事思い出したよ」
「・・・・・・・・そうか」


母親というものが凄いのか・・・・ザックスの母親が凄いのか・・・・。


「尻叩かれるんじゃないかって思った」
「・・・・・・・・・・」


子供じゃあるまいし、しないだろう。


「でもさ、ちょっと親父っぽくもあるんだよな、って」
「それは女に対する言葉ではないだろう」


確かには多少男らしいところがあるが、親父くさくはない。


「なんつーか・・・その・・・男らしくなる瞬間があるっつーか・・・・雷親父みたいな感じ?」
「・・・・・・・・」


確かに・・・あ、いや、そんな事は無い。多分。


「まぁいいや。俺、風呂場やってくるな」
「ああ」


立ち上がり部屋を出て行ったザックスを見送り、セフィロスもまた作業を再開する。
一度叱られた彼は、本棚の前に立っても本に気を惹かれる事無く、それらを箱に詰めていった。
集中した彼の作業速度は素晴らしく、書棚はあっという間に空になる。

ベッドは今日も使う為そのままにしておく事を決めると、セフィロスはクローゼットを開いた。
以前であれば自分の服がまばらにかかっているだけだったそこも、今は半分がの場所として使われている。
改めて、一緒に住んでいるという事を思い出したようだと、つい没頭しそうになる思考を振り払うと、彼はかけてある衣服をダンボールの中に突っ込んだ。

どうせ明日明後日にはすぐに出すのだから、丁寧に畳む気も起きない。
皺にったところで、かけているうちに綺麗になるだろうと、クローゼットを空にした彼は引き出しを空けた。
空ける度に、いつでも中が綺麗に整理整頓されているのはの仕業だろう。

たたまれているそれらを崩さないように掴んだ彼は、再びそれを箱の中に入れる作業を繰り返す。
ソルジャー1stの素早さをもって作業する彼は、中を殆ど見ずに衣類を箱詰めしていた。
の下着類まで自分の衣類と一緒に入れている事に気付かず、セフィロスは引き出しを空にすると箱に蓋をし、別の場所を荷造りしはじめる。

その小さな確認を怠った事が、後に自分を辱める結果になる事を、彼はまだ知らない。





セフィロスとザックスが、に叱られてから2時間後。

ソルジャーと、それ以上の素早さを駆使して荷造りをした3人は、粗方の作業を終了した。
他人から見れば戦場かと思わざるを得ない光景も、実際作業をする本人らには”急ぐ”程度でしかない。
解体が必要な家具は明日に持ち越す事に決め、空腹を訴えたザックスの提案により3人は外へ食事に出かけた。


マンションを出たところで、丁度停まっていたタクシーに乗った3人は、揃って後部座席に座る。

何故誰も前に行こうとしないのか。

デカイ図体をした男二人に挟まれ、身を縮じ込ませるの考えなど、ご機嫌なザックスも既に窓の外を見るセフィロスも気付かない。
繁華街へ着くと、ザックスはウータイ料理が食べたいと言い出し、特に希望も無かった二人は彼が指差した店に入った。


神羅の者にとって、かの地域での治安は決して良いとは言えず、兵が向かえば必ずいざこざが起きる状況にあった。
だが、商いをする者にとっては、戦争は早くも過去のもののようで、需要あらば供給と言うようにミッドガルに店を構えるものも少なくない。
とはいえ、現地から仕入れねばならない食材も少なくないため、他の店に比べれば少々高く見ねばならなかった。
ザックスが真っ先にウータイ料理と言ったのも、今日がセフィロスの驕りだからだろう。
勿論それは、引越し作業を手伝ってくれた礼だ。


時間帯のせいか、酔った客で賑わう店内に入ると、ウータイ独特の衣装を着たウェイトレスが席へ案内する。
道を歩けば目を引く英雄の姿も、それぞれの輪の中で楽しむ今の彼らにとっては、大きく興味をひかれるものでもないらしい。
濃い色合いの床板の上に、赤く塗られた柱が立ち、座敷の上にはミッドガルでは殆ど見られない畳が敷かれていた。

それを物珍し気に見るのはだけではなく、ザックスは目をキョロキョロと動かして、セフィロスは無関心のフリをしながら辺りをしきりに観察している。
周りの客に習って靴を脱いだ3人は、四角いテーブルを囲み、ウータイ語で書かれたメニューを覗き込む。


「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」


メニューは全て、見事な達筆のウータイ語で書かれていた。


「セフィロス・・・読める?」
「・・・・・・・わからん」
「字が汚いからではありませんか?」

「え?いや、多分こういう字体なんじゃないか?」
「字が綺麗だろうと、読めん事には変わりない」
「もしかして、暗号なんじゃないですか?」

「「そんなわけないだろ」」
「・・・うっ!記憶喪失です。今言った事が思い出せない!」

「いや、しっかり記憶あるじゃん」
「俺達にそれを言うのか?」
「なに、年寄りの痴呆ですよ」


メニューを覗き込みながら、ヒソヒソと話し合うウータイ語が読めない3人組。
結局裏面の写真と値段を見て適当に決めると、彼らは再び他愛ない話を始めた。

以前はレノ達やセフィロスの部隊の兵らがいたが、3人で食事するのは初めてだった。
人参事件や運転手撃退事件、ジュノンのバーでの出来事等、僅かな時間にあった騒動・・・もとい、思い出に花が咲く。
この世界に来てから、まだ半年程しか経っていない事に今更ながら驚き、随分濃い時間だと笑いあった。
濃いにも程があるのではないかという疑問は、あえて誰も口にしなかった。

食前酒が運ばれ、ミッドガルでは珍しい無色透明な酒で乾杯をする。
辛いと呻いたザックスと、少し臭みがあると言うセフィロスの言葉を聞きながら、は喉元を通っていった味に杯の中を見つめていた。
口に含んだ瞬間広がる、他の酒には無い独特の香りと、セフィロスとザックスが言う辛味と臭み。

今飲み込んだそれの方が、いくらも洗練された味になっているが、その味は長く過ごした場所を思い起こさせる。
いつの間にか己の中で『昔』となり、まるで夢であったかとさえ思えてしまうほど遠くなった過去。
その日々で、幾度も足を運んだ蜃気楼の町、そこで時折調達して口にした酒と、今この手の杯にある酒は良く似ていた。


、どうした?」
「口に合わないか?」
「・・・いえ、覚えがある味だったので、驚いただけです」


首を傾げた二人に微笑み返し、はまた酒を口に運ぶ。
故郷の酒だとでも思ったのだろう。
それ以上詮索しなくなった二人は、運ばれてきた料理に手をつけた。

中に入っている人参を丁寧に避けるザックスに、とセフィロスから注意が飛ぶ。
眉をハの字にした彼も、強くなるにはバランスの良い食事も大事という言葉に、意を決したようにそれを口に含んだ。
食わず嫌いだったのか、一度口にすると何でもないというようにそれを食べ始めるザックスは、まるで子供のようだ。
その様子に笑みを零したは、同じくザックスを見て目を細めるセフィロスを見た。

その薄緑色の瞳を見る度に、初めて会った時の事を思い出す。
以前は黒曜のようだったザックスの瞳も、ソルジャーとなった今は彼と同じ色をしていたが、それでも彼女にとってセフィロスの瞳は別のものだった。

長すぎた狭間での日々が夢だったのか、この穏やかな日々が夢なのか。
夢と現に惑う心に、真実を教えるのはいつもこの瞳だ。

闇の中に光を求める心理。しかしそれだけでは無い事は分っている。
いつの間にか依存している事を知りながら、しかしそれでも良いかと思えてしまうのは何故なのか。

ジュノンのホテルで、早朝にやってきた彼に触れた時に感じた、あの胸の妙なむず痒さ。
それから数ヶ月、彼に触れる度に同じ感覚が胸の内に現れ、僅かだった感覚はざわつきとなって、彼の傍らにある事の心地良さを教える。
そして、あの異質な空間へ踏み込んだ瞬間のような感覚もまた、それと変わらず存在し、一瞬で掻き消えるために正体が知れない。
今でこそ、鳥肌が立つような事は無いが、それは単なる慣れなのだろう。

異世界の力を宿した肉体故、異なる世界の生命に、他には無い反応をしてしまうのか。
しかし、ルーファウスと誘拐された折、彼に触れた時には何も感じはしなかった。

レノとはまた別の、武技としての神経技でも使っているのかと思った事もあったが、その気配は全く無い。
考える度に、長く生きていればそんな事もあるだろうと結論付け、今回も彼女はそう考えて思考を止めた。

どんな結果であれ、自分が彼の傍に居たいと思っていることに間違いは無い。
忠誠という形でしか表現できなかった感覚が、その実全く違う事である事に気付かないほど、彼女は鈍感ではなかった。

ただ、それが何と言う名の感情かが分らない。
それだけの事だった。




「で、はどうなんだ?」
「?あ・・・すみません、聞いていませんでした」

「ちょ、俺結構赤裸々に言ったんだぞ!?」
「え?何がです?」
「お前の初恋を知りたいそうだ」


は・・・・

初恋、と言われ、は見事に固まった。
その反応に、セフィロスはじっと彼女を見つめ、ザックスは興味心身で身を乗り出す。

初恋。
しなかった事も無いが、それはにとっても、彼らにとってもかなり大昔の話である。
にも拘らず、その時の記憶は後の衝撃と相手との間柄故、彼女の中に鮮明に蘇ってくる。

それに従い、彼女の眉間には皺が寄っていき、一気に穏やかさが無くなってゆく空気にザックスとセフィロスは顔を見合わせた。






ゼクス・マーキス懐かしいな。W知ってるかスパロボやってれば分るかも。
因みに、一番好きだったのは五飛でした。
2007.06.17 Rika
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