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「お手柔らかに」
「それでは試験になりませんが?」

「それもそうだ」

対峙した青年、ジェネシスはの返答にクスリと笑う。
軽い握手を交わし、二人が間合いを取ると、試験官は第3試合開始の声を上げた。





Illusion sand − 49







「・・・・始まっているよ?」
「そうですね」

「そうですねって・・・変わった子だな」
「そう思われますか?」

淡々としたの返答に、ジェネシスは困ったような笑みを浮かべる。
号令と共に構えをとった彼は、いつでも攻撃に移れる準備をしているが、対するはただそこに立っているだけで全く動きはしない。
それでいて隙が無く、かといって殺気を出しているわけでもない。
ましてや微々たる挑発にも見えない立ち姿は、自然体としか言いようがなかった。
だからこそ、彼はそれが不気味に思え、攻めあぐねいてしまう。


「構えなければやりにくいですか?」
「さあ・・・君はどうだい?」

「・・・攻めたければどうぞ」
「大した自信だ」


言うと同時に笑みを消したジェネシスは、彼女との間合いを一気に詰める。
拳を突き出すには中途半端な距離に、は後方へ飛び、直後彼女がいた場所を彼の足が横切った。

随分長い足だと、が暢気な事を考えている間に、彼の軸足だった足が振り上げられる。
それを一歩下がって避けた彼女は、突き出された彼の拳を片手で受け止めた。

パシッという音と共に捉えられた拳に、ジェネシスは一瞬目を丸くし、開いた片腕を彼女の横面目掛けて振り下ろす。
先の攻撃より速度を増した拳も、は難なく開いた手で受け止め、彼の両手を封じた。
2撃目まで捉えられ、彼が驚いている間に、は地を蹴り捕らえた腕をそのまま軸にして宙を1度回った。

背後を取られた彼が息を呑む間も無く、いつの間にかその手首を掴んでいたは、回転した勢いを相乗しながら彼の体を前方に投げ飛ばす。
一瞬宙を舞ったジェネシスは、空中で体を捻ると、手を付き足を広げた状態で着地したが、勢いのまま僅かに地の上を滑った。

顔を上げた彼は、視界の横から飛んでくる彼女の足に、そのまま空中に飛び上がる。
そのまま腕を振り上げ、重力に従い下にいるに攻撃をしかけようとした彼だったが、その目に彼女の姿は無かった。


「貴方、何者です?」


背後から聞こえた声に振り向くと同時に、ジェネシスの背中に鈍い衝撃が走る。
両手で地面に付き、そのまま器用に宙返りした彼は、地の上に戻ったと再び向き合った。
背中に残る痛みに、どんな脚力と馬鹿力だと悪態をつきたくなりながら、怪訝な顔をする彼女に再び構えをとる。


「何者・・・か。それはこちらの台詞かな」
「答えたくない・・・か」


質問に質問で返してくる者は大概そうだ。
その考えはハズレではなかったらしく、彼は微かに笑うと再び彼女に向かった。
徐々に速度を上げていく彼の攻撃も、は難なく避ける。
こちらの反応を見ながら加減を少なくしていく彼に、彼女は随分余裕をもった戦いをしてくると感じた。

これは試験であり、受験する者は皆採用される為に全力で挑むもの。
多少加減するとはいえ、落とされたく無いと思うものなのだから、普通はこんなに悠長に段階など踏まないだろう。
それは彼女自身同じ事なのだが、この疑問を放置するのはどうも引っかかった。

試すというよりも探るに近い彼の戦いは、の中に嫌〜な予感を与える。
他の受験者とは桁違いと言える力の差、戦いに慣れ過ぎた節が見える攻撃。
それに加え、質問に明確な答えを出さず、有耶無耶に流す態度。
面倒な事にならなければ良いが、何だか手遅れになってしまった気がしないでもなかった。


「・・た・・フィ・・スに・・迷・・・・るじゃ・・い・・すか・・・」
「?」


蹴りを避けながら、溜息混じりに呟いたに、ジェネシスは眉を潜める。
聞き取れなかった言葉の中に、良く知る人物の名が聞こえた気がしたが、それを確かめる前に不快そうな顔をしたと視線がぶつかった。


「貴様も共に謝るのだぞ」
「・・え?」


喉元から声が出た瞬間、ジェネシスは横腹に衝撃を受けそのまま吹き飛ばされた。
受身を取りながら地面を転がった彼は、慌てて起き上がるが、眼前には拳を振り上げたの姿が映る。
先程とは格段に違う素早さに、彼は慌てて後方に飛び上がったが、は地に拳が着く瞬間掌を広げ、宙を回った。
顔面目掛けて落ちてくる彼女の踵を、ジェネシスは両腕でガードするが、耐え切れなかった威力に彼は膝を付く。
もう片方の足で彼の腕を蹴ると、はその力で1度中を回り、十分な間合いをとった場所に着地した。

腕の痺れに顔を顰めたジェネシスは、悠然と見下ろす彼女を見る。
立ち上がるのを待つに、とんでもない女だと考え、彼は痺れた腕を振りながら立ち上がった。


ただの試験官では面白くない。
そんな本音を隠し、直接実力を確かめた方が良いと、学校側を言いくるめて参加した暇つぶしが、よもやこんな事になるとは。

セフィロスの女が出るという噂に、面白い事になりそうだと思ったものの、実際は面白すぎて笑い声さえ出ない状況だった。
こんな所で料理の本を広げるなど、変わった女だとは思ったが、どれだけ変わっているんだか分ったものではない。
多少加減をしていたとはいえ、ソルジャー1stの速度についてくるどころか、それを追い越し、膝を付かせるなど。
まだ2ndクラスの力しか見せてはいないが、一般人の女がそんな事をするなど、常識では考えられない。


「こんな時に考え事か?」
「!?」


の姿が、突然目の前から掻き消えたと思った瞬間、背中から聞こえた声に彼は振り返る。
トンッと背中を叩かれる感触に目を丸くすれば、そこにいた彼女は後ろに飛んで距離を取る。


「実戦なら死んでるな」
「・・っ」


冷や汗を浮かべた彼に、ようやく構えをとったは、本当に面倒な事になったと内心溜息をつく。
ただの腕利きが相手であれば、適当に攻撃を受けながら勝つ事も出来たというのに、こんな強者がいるとは予想外だ。
今回ばかりはわざと負けるわけにもいかず、かといってわざと負けてくれる相手でもない。
何処かで花売りでもしていた方が楽なのではないかと考えながら、は再び向かってきたジェネシスの攻撃を防いだ。

完全に笑みが消えたジェネシスは、手加減無用の攻撃をしてくる。
ようやく本気になったらしい彼に、はどうすれば合格できるかと考えながら、その攻撃を受け流した。

どうも仕組まれているような気配は、この対戦での勝利に不穏なものを臭わせる。
この期に及んで棄権など出来ず、する気も無いが、勝利への1撃を与える事に躊躇いがあるのは事実だ。

何度も彼の背後をとっては、手加減だらけの一撃を与え、無言で敗北を認めさせる。
さっさと負けを宣言すればよいものを、ジェネシスは諦める事を知らないように、何度も彼女に向かってきた。


「そろそろ諦めてくれませんか?」
「君と戦っていると、まだ強くなれる気がして・・・ね!」




面倒クサ・・・



嫌悪感に満ちた顔をしながら、は彼の腕を捻り上げる。
体を捻り、器用にそれを外した彼は、逆の拳を突き出した。


「勝敗など見えてるでしょう?」


一歩体を横にずらし、それをかわしたは、彼の腕と襟首を掴むと、いつかレノにそうしたようにジェネシスを背負い投げる。
だが、今度はレノのように手加減せず、それを理解する間も与えない。
勢いのまま背中から地面に叩きつけられたジェネシスは、衝撃に一瞬息が止まり、開いた目から何かが零れ落ちた。
一瞬で反転した世界には彼女の足だけが見え、それを知った瞬間何かが鼻先で止る。
残った風で髪がふわりと揺れ、彼は見開いた目に眼前で止められた拳を映したまま息を呑んだ。


「そ、そこまで!!」


試験官をしている士官学校の職員から、試合終了の声が上がる。
静かに拳を戻す彼女を眺め、五月蝿いほどに脈打つ心臓の音を感じた瞬間、ようやく彼は己の敗北を理解した。


「立てますか?」


差し出された彼女の手に、彼はまだ自分が寝転がったままだった事を思い出す。
包み込んでしまえるほど小さな手を取り、ゆっくり起き上がった彼は、信じられないような顔でを見下ろした。


「やはり・・・仕組んでましたか」
「?」


不機嫌そうに目を細める彼女は、ジェネシスの目をじっと見つめてそう零す。
それがどうも見つめているとは言いがたく、首をかしげかけたところで、彼はハッとして違和感の消えた片目を抑えた。


「もう手遅れですよ。セフィロスと同じ・・・ソルジャーですか」
「は・・・ははっ。バレちゃったか」


青緑と茶色の瞳で、目を細めたジェネシスは参ったと言う様に笑う。
その態度に大きく溜息をついたは、試合中の疑問が解決するのを感じながら、もっとボコボコにしてやればよかったと小さく後悔した。

「・・・・・・・・・・・・・・チッ・・・・小童め。してやられたわ・・・・」
「ん?」

「何です?」
「いや、何でもないよ。気のせいかな」


勝敗は見ての通りだったが、二人は一応受付へ向かって歩く。
会場となった演習場を端から端まで使った攻防を済ませた二人は、受付から少々離れた場所で勝敗を決したのだ。


「何をお考えで参加なさったかは推測出来ますが、面倒事にはなさらないようお願いします」
「そう?俺は君をソルジャーに推薦したいと思ったんだけど・・・勿論、1stでね」

「遠慮させていただきます。その気であったなら、とっくに貴方と顔を合わせているでしょう」
「それもそうだ。でも、勿体無いな」

「私は講師になるために来たのであって、ソルジャーになるために来たのではありませんので」
「頑な。君なら、セフィロスとも互角に戦えるよ」

「それはどうも。彼とは顔見知りですか?」
「ああ、同僚だ」

「そうですか。では、セフィロスには貴方から弁明して下さいね」
「弁明?」

「私の保護者は彼です。私が騒動を起せばあの方に迷惑がかかる。
 今後の生活にも支障をきたしかねません。
 此度の事は貴方の独断であるとお察しします。
 責任は、キッチリとって下さいね、ソルジャー1stのジェネシス様?」
「・・・・つまり、頭を下げろって?」

「場合によってはそうなりますね」
「ははっ・・・ま、仕方ないか」

「約束ですよ?」
「ああ」


よぉーし、これで責任はジェネシスのものだ。事後は託した。全ての収集はお前が付けろ。

彼女の言わんとする事を理解したジェネシスは、苦笑いを浮かべながら携帯を取り出す。
受付に名を言うの横で、彼は敗者として名乗り、電話をかけながら試験官の席に腰を下ろした。

片目に残ったカラーコンタクトを外しながら、彼は電話を耳元につけ、受付で係りと会話するを眺める。



「やぁ、セフィロス・・・ん?
 ・・・・随分機嫌が悪いな・・・。
 大丈夫、君の大事なお姫様は・・・え?あ・・・そうなのか?
 ふーん・・・。
 いや、何でも無い。
 とりあえず、君のさんは決勝まで行ったよ。シードでね。
 今俺に勝った所だ。
 ああ。完敗だよ。女の子だと思って手加減したら、このザマだ。
 3rdになら、すぐになれるだろうな。
 スカウトしてみたけど、断られたよ。
 ・・・ああ。・・・・ああ、もう終るよ。・・・・うん・・・そうか。
 なら、丁度良いかもしれないな・・・ああ・・・」


ご丁寧に、ジェネシスは重要な言葉を並べつつ、試験官らに聞こえるように会話してくれる。
先程の試合で、皆化け物でも見るような目でを見ていたが、彼の「3rd」という言葉に、彼らの目は平常に戻った。


「あの、さん」
「はい」

「決勝の第4試合なんですが・・・」
「ええ」

「無くなりました」
「・・・・と、申しますと?」


首を傾げたに、困ったように笑った受付は、試合の無い者が座るための椅子を見る。
同じように目を向けた彼女の目には、第3試合開始まで座っていた人物はおらず、誰も座っていない椅子があるだけだった。
本来、第4試合でと戦うはずだった者が座っているべき場所が空席。という事は・・・


「棄権なさったのですか?」
「ええ。ですので・・・他に残っている方もいらっしゃいませんし、さんを採用という事で・・・」

「どうもありがとうございます」
「では、詳しい事はまた、明日連絡いたしますので、今日はこのままお帰りになってくださって結構ですよ」

「承知いたしました」


帰ってかまわないと言われても、セフィロスが迎えに来なければ、は帰り道が分らない。
とりあえず受け付けに礼を言い、荷物を手に取った彼女は、電話を続けているジェネシスの元へ向かった。


「ご歓談中失礼します」
「ああ、セフィロスちょっと待ってくれ」

「すみません。ジェネシス、まだセフィロスとお話を?」
「ああ。何か・・・もしかして、もう終ったのか?」

「相手が棄権なさったそうです」
「はは。無理も無いな。セフィロスに、早く迎えに来るよう言っておくよ」

「ありがとうございます。門の前で待っているとお伝え下さい」
「ああ。気をつけて」

「失礼します」


頭を下げると、はジェネシスが電話口に用件を言う声を聞きながら会場を後にした。
セフィロスの家から此処まで来た時間を考えれば、10分もせず彼は到着するだろう。

今回ばかりは面倒事も無く、事がすんなり運んだと安堵しながら、彼女は建物の外へ出た。
校舎への僅かな道の先には、神羅直営らしく大きな門があり、開かれたそこからは道行く人々が見える。
車通りも多くは無く、これなら彼が乗ったタクシーもすぐに着くだろう。

意図に乗せられて多少苛つきはしたものの、ジェネシスは悪い人物には思えない。
電話口の様子では、どうやらセフィロスとは同僚というより少し進んで親しいようだ。



ボコボコにしなくてよかった。



背中に足型はついたかもしれないが、試合なのだから仕方が無い。
ソルジャーならば傷は絶えないものだろうと、よく訓練で擦り傷を作ってきたザックスを思い出し、は微かに笑みを零した。


「うわっ!」
「ぬ?」

考えながら校門から出た彼女は、そこにいた人物とぶつかった。
声変わりしたばかりのような、少しかすれた声で悲鳴を上げた少年は、そのまま後ろにひっくり返りそうになる。
咄嗟にその腰を掴んだは、門に手を付き、その体を引き寄せた。

「え?」
「すまない。平気か?」

「・・ぅえ?あ、え、あ、はい!あの、え、いや、あれ?・・・えぇ!?あ、あの、その、え、あの・・・」

体勢を立て直した彼は、何が起きたか分っていないように目を丸くし、目の前にあるの顔に一気に顔を紅潮させる。
かと思えば慌てふためき、一歩引こうとするが、腰を掴んだままの手に、更に慌て始めた。


「ああ、すまない」


賑やかな子だと思いながら、彼の腰を離したは、同じくらいの背丈の彼を見る。
寝癖なのか地毛なのか、金の髪はチョコボのように逆立ってボサボサだった。

汚れた剣と服装に、旅人かと思いながら、今だ赤い顔をする彼には半歩下がって距離を置いてやる。
まさに少年と言うに相応しい彼の顔は、まだ赤みを引かず、ともすれば女の子のようにも見えた。
青く綺麗な瞳がしきりに泳ぎながら彼女を見るが、落ち着く気配は見えず、正直かなり逃げ腰だ。

「どうかしたのかな?」
「あ・・・・・・・・あの!この学校の人ですか!?」

意を決したように、大きな声で聞く彼に、はもちろん、通行人まで目を丸くして振り向いた。
その事にハッと気付いた彼は、今度は耳まで赤くなり、小さく謝ると身を縮こませる。


「そうと言えばそうだが・・・入学希望か?」
「はい!俺、ソルジャーになりたいんです!!」

「そう・・・か。だが、悪いが私はまだ・・・先程この学校の人間になったばかりでな」
「へ?」

「たった今採用試験に受かったばかりなんだ。
 それと・・・確かここは新入生は年度毎に受け付けていたはずだ。
 今行っても、入れるのは半年後だろう」
「あ・・・そう・・・なん・・・ですか」


教えられた現実に、見る間に肩を落とす少年を、はどうしたものかと見つめる。
全ての兵が士官学校を経て入隊するわけでは無いが、彼の体格を見る限りいきなり入隊してもやっていけるのかというのが正直な感想だ。

腰に差した彼の剣もボロボロで、相当に扱いが酷く、また腕がなっていない事が伺える。
独学で剣を扱う者特有の状態とも言えるが、何処から旅をしてきたのやら。
こんな状態の剣で戦っていたなら、それはそれで賞賛ものだ。

「旅人か?」
「はい、まぁ。・・・ニブルヘイムから、出てきたんです」

「そうか。随分遠い所から来たな・・・」
「はい・・・」


ニビュリュ何とかって何処だ?

一応知ったような口はきいてみたが、実際はニブルヘイムの場所どころか名前すら分かっていなかった。
とりあえず遠い場所のようだと考え、では安易にまた来いとも言えないなと、言葉を選ぶ。
だが、どう考えた所でには彼を入学させる事も出来なければ、その気分を浮上させる事も出来ないだろう。


「人の一生など短いものだ。その中の半年など、あっという間に過ぎてしまう」
「・・・・」

「時間は有効に使いなさい。半年遅かったと考えるのではなく、半年早く来れたと考えるんだ」
「え・・・っと・・・・?」

「ミッドガルの外のモンスターとは戦ったね?」
「はい。結構強くて・・・でも、ニブルヘイムのあたりにいるモンスターよりは強くなかったです」

「そうか。では、入学までの半年間、それらを相手に腕を磨いてみてはどうか。ソルジャーになるのなら、強くなって損はないだろう」
「・・・・そう・・・ですね。ありがとうございます」

「いや、礼を言われる事はしていない」


何とか元気を出し始めた少年に、は一先ず安心かと思いながら、再び彼の剣に目を落とす。
やはりどう考えても、この剣では無理だろうと考え、笑みを浮かべた彼を見た。

「それと、その剣だが、もう限界だ。修理するか、新しいのに買い換えるかした方が良い」
「あ、はい。あの・・・剣術の先生ですか?」

「いや、体術の講師だ。が、いつもは剣を扱っている」
「そうなんですか」

「・・・そろそろ迎えが来るな」
「あ、はい。すみません、こんな相談乗ってもらって」

「気にするな」
「でも、ありがとうございます」




ボコに似てるな。


髪型のせいか、どうもチョコボに見えてしまう少年に、はその髪をぐしゃぐしゃにして頭を撫ぜる。
年頃の少年には失礼だと分っているが、この毛の逆立ち方を見て手を伸ばすなというのが無理な話だった。

後ろで車のドアが開く音がし、目を丸くした彼に振り向くと、丁度タクシーから降りたセフィロスがこちらを向く。
知らない少年の頭に手を載せているに、首を傾げた彼は、そのまま視線を少年に向けた。
再び少年に目を戻した彼女は、セフィロスの登場に驚いているのか、口どころか目まで開けられるだけ開けていている少年に、思わず笑みを零す。


「半年後、まだ私が雇われていたら、また会おう」


驚き放心状態の彼にそう言い残し、はセフィロスの元へ歩いた。
互いに名乗らなかった事を思い出すが、また会える保障も無いのだと思うと、そのままタクシーに乗り込む。



暫しその場に放心していた少年が、憧れの英雄セフィロスと去った女性がだと知るのは、まだ少し先の事だった。






ジェネシスが出たりチョコボ頭が出たり、忙しいな(笑)
2007.06.12 Rika
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