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爆風で遠くの壁に叩きつけられた兵に、他の兵らは駆け寄り必死に回復魔法をかける。 幸か不幸か即死する者はいなかったが、彼らの服は煤に汚れ、肌はいたる所が赤く爛れていた。 出口の無い場所でまともな治療など出来るはずがない。 今にも消える命の灯火は、仲間の力で僅かに永らえながら、確実に黄泉へと近づいていた。 Illusion sand − 44 「閉じ込められたか・・・」 唯一の非常階段は吹き飛び、エレベーターは今の爆発で完全に停止しただろう。 二重の防弾硝子があった窓ガラスは跡形も無く吹き飛ばされていたが、最上階からロープで下に下りられるはずがない。 出来たとしても、それだけの長さがあるロープなど持っているはずが無かった。 外からの救援を待つしかないと溜息をつき、ツォンは残った兵を眺める。 数は少なく無いが、だからと言って何がどうなるという事も無い。 携帯を取り出し、二度目のコールで出た仲間に、社長らの安否を確認すると、彼はこちらの状況を簡単に説明した。 この爆発に、下も相当騒ぎになっているらしく、電話の向こうでは慌しく兵らの声が聞こえた。 ルーファウスの無事を伝え、電話を切ったツォンは、頬にかかる髪をうざったそうにかき上げる。 掌についた黒い煤を眺めた彼は、廊下に佇み下を見ているルーファウスを見つけた。 床に落ちた誰のものかも分らない腕を眺めている彼は、傍に控えていると呟くような会話をしている。 会話の内容までは聞き取れず、眺めていたツォンの傍に、サングラスが無くなったルードが戻ってくる。 落ちた腕を拾い上げたルーファウスは、一度と視線を合わせると、そのまま倒れた兵の下へ向かった。 仲間に囲まれながら痛みに呻く兵を、ルーファウスはただ見下ろす。 腕の主ではないことを確認し、しかし傍に膝をついた彼に、兵らは驚き場所をあけた。 薄く目をあけた兵は、ルーファウスの姿を見て何事か口にしようとする。 だが、喉から出るのは僅かな呻き声だけで、言葉にならぬそれにルーファウスはただ彼の目を見る。 「生きたいか・・・?」 感情の欠片も無い冷たい声でありながら、慈悲を思わせる言葉に、兵は必死に答えようとする。 かすれた声で肯定の意を表す彼に、ルーファウスは何もいわず、傍らにいるへ振り向いた。 「・・・私は神ではありません」 「」 「残された時を僅かに永らえさせる事しかできません。それでよければ」 言いながら、彼女は静かに兵の傍に膝を付くと、傍にいた兵が持っていた回復マテリアを手に取る。 視線を彷徨わせる兵の傷口に手を翳し、青緑の光りを放ちながら、『ケアルガ』と呟きながらケアルをかけた。 「己を生かすのは己のみ。生きたければ・・・何があっても諦めるな」 目も当てられぬ程だった傷が僅かに薄れ、火傷で赤くなった皮膚が癒えていく。 僅かばかりの、しかし兵らが使っていた回復魔法より遥かに効果を出すそれに、見ていた者達はただ呆然とした。 後は他の者が処置をすれば良いだけの状態になり、立ち上がったルーファウスに続いても立ち上がる。 「生きろ。そしてその命、いずれ私のために使え」 そう言い残すと、ルーファウスは別の負傷者の下へ歩いてゆく。 囲んでいた兵らに、継続して回復魔法をかけられながら、傷を癒された彼はルーファウスの背を眺めていた。 次々と負傷者をに癒させていくルーファウスの姿を眺めながら、ツォンは以前感じていた予感を思い出した。 に初めて会った日、幾分か表情が豊かになったセフィロスを見て、良い風が吹いてきたと。 ルーファウスと会ったことで、後の神羅にとっても良い風になるのだろうと考え、そしてそれは当たった。 今のルーファウスの行いは、恐怖政治を胸の内に潜める者のそれではなく、歴史に名を残した明王らの相。 だがそれは、彼女に会う前の彼の態度とは対極であり、社長らに知れれば危惧をあたえるに十分だろう。 与えられた変化は急速すぎ、強すぎる。 この変化が、神羅の底面、中腹から与えられてゆくならば、きっと何の危惧もなかったのだろう。 だが、実際は神羅の上層、未来を左右するルーファウスと、最も影響力のあるセフィロスから変化が始まった。 の身が、身までゆかずとも立場が危ぶまれる危険は十分考えられるだろう。 ルーファウスやセフィロス庇えば庇うほど、社長には焦燥となる。 早々に彼女を、せめてルーファウスとだけでも距離を与えなければ、神羅の闇によって人知れず葬られるかもしれない。 それでも生き抜くのだろうと思えるほど、ツォンは彼女を知らなかった。 そよ風どころか突風だと言ったレノの言葉を、今更ながらにツォンは思い知った気がした。 「レノの勘はやはり当たるな」 その相棒に振り向いて言えば、ルードも同じ事を考えていたようで、小さく頷く。 暫くルーファウス達の姿を眺めていたツォンは、ルードに二人を無傷の部屋で待たせるよう言うと、数人の兵を連れて最初に爆破した部屋を調べに向かった。 宿泊予定のフロア爆破の報告に、社長を初めとする上層部の面々は、急遽本社ビルへと移動する事となった。 事前にチェックされていない別のホテルをとるよりも、万全の安全が保障される場所を選択されたのだ。 ルーファウスが上階にいると聞き、本社行きを渋っていた社長も、彼の安全を聞くなりすぐさま移動を始めた。 周りにいた者達は、やはり彼も人の親だったのだと思ったものの、次の瞬間それまで口説いていた女を連れてゆこうとした社長にガックリと項垂れる。 彼らの護衛にと、持ち場から呼び出されたセフィロスだけは、普段専属で護衛させられる事もあって慣れているのか、何の反応も返さなかった。 急遽通行止めにされたホテル前の道路に、タークスが操縦するヘリが降り、重役とセフィロスの他数名の1stソルジャーが乗り込む。 元々ビルに戻って研究の続きをするつもりだったと、思わぬ送迎に上機嫌の宝条の隣に座らされ、セフィロスは無表情のまま目を閉じた。 ヘリが地面から離れ、ビルの屋上にあるヘリポートへ付くまでの僅かな時間だったが、彼は拷問でも受けた気分になる。 に会ったという言葉から始まり、あれやこれやと二人の仲を聞いてくる宝条に、セフィロスの額には青筋が浮かんだ。 そっぽを向こうにも、その隣には会場から持ち出したらしいドンペリで、別の護衛と無理矢理乾杯しているスカーレットがいる。 後ろからは酔ったハイデッカーのガハガハ言う声と、パルマーの眠気まじりの相槌が聞こえ、目の前では社長が女の肩に手を回して美辞麗句を並べていた。 何なんだ此処は・・・ 他の護衛らも同じ事を考えているらしく、目が合うだけで意思疎通が出来た。 この4人の他に乗り込んだ市長やリーブ達が、申し訳なさそうな目をしているのが、せめてもの救いだろう。 苦痛の時はすぐに終わり、ヘリは神羅ビルのヘリポートへと付く。 だが、あの騒動の後すぐに自由があるわけも無く、彼らは小会議という名目で社長室に留まる事となった。 社長が連れてきた女は、一応部外者という事で、話がまとまるまで秘書らがいる下のフロアに待たせる事になる。 てっきり社長はぐずるかと思ったが、案外それほど酔っているわけでもないようで、呆気なく女を手放した。 式典直後の騒動が、気に障ったというのもあるのだろう。 真面目に会議を始めた面々を、護衛らは壁の傍に立ちながら眺めていた。 しかし、彼らは酔っ払い。 会議がそう長引くはずもなければ、集中力だってすぐに切れる。 社長は女が気になってそわそわし始め、スカーレットは酒をガブガブ飲みだす。 ハイデッカーとパルマーは夢の国への船を漕ぎ始め、宝条は何か思いついたのかブツブツ独り言を言い始めていた。 市長、都市開発統括、その他数名の重役しか真面目に議論していないが、普段の会議に比べ結論が出るのは早い。 何かを決める時のみ社長に可否を問い、その他3人の事は完全に無視していた。 平常心でそんな事ができるはずもなく、彼らが少なからず酔っているのは明白だが、こちらの酔い方の方が何倍もありがたい。 話がまとまったのか、市長が傍にいたタークスを呼び、内容を教える。 頷いた彼は携帯を取り出し、恐らくツォンあたりだと思うが、連絡をしていた。 暫く電話を続けていた彼は、何かあったのか一瞬だけ表情を陰らせる。 だが、すぐさまそれを正すと、再び2〜3会話をし、電話を切った。 「爆破による死傷者が出ました。兵5名が負傷、うち3名が重傷。 死者が2名、うち1人は、臨時で警備を頼んだ士官学校の講師だそうですが」 「では替えの講師を用意しておきたまえ。向こうにも説明しておけ!」 「・・・・それと、ルーファウス様を初めとする兵らがフロアに閉じ込められているそうです。 現在下の階から床に穴を空ける作業をしておりますが、時間はかかるかと」 「フン!出られない訳ではないだろう!もういいかね?!」 「重要事項は決定いたしましたので。護衛をつけていただけましたら、あの女性をお呼びしてもよろしいかと」 苛立ちを隠すような温和な声で言うリーブの言葉に、社長は喜び混じりの返事をすると立ち上がる。 死者が出たという言葉に幾分かでも同様しているのは、護衛にいる者達と、まともに会議していた重役らだけだった。 控えている護衛達が、動揺しながら冷静さを失くさないのは、戦いの中で生きているせいだろう。 セフィロスであっても、どれだけ戦場を渡ったところで、同胞の死に慣れてしまう事は無い。 きっと麻痺してしまったのだろう、そうであれば良いという思いは、人を斬る職にある彼らの言葉にしない本音だった。 よほど気に入ったのか、女を迎えに行こうとする社長に呼ばれ、セフィロスは護衛として連れてゆかれる。 それぞれ護衛を宛がわれてゆく声を聞きながら、彼は階段を降りた。 下に着くと、社長の姿を見つけた女が応接用のソファから立ち上がり近づいてくる。 控えているセフィロスの姿に一瞬だけ目を留めるが、彼女はそのまま社長の腕に絡みついた。 どういう好みをしているのか、純粋に社長の愛人の座を狙っているのか。 分りかねると思いながら女の護衛をしていた同僚を見れば、呆れたような顔で女を見ていた。 降りてきた方とは逆の階段から、社長室にいた面子が下りてくるのが見える。 これから一晩、この女と社長がイチャつく声を聞かなければならないのかと思うと、何度か記憶にある任務ながら彼は溜息をつきたくなった。 秘書らがいるフロアにある、社長専用の仮眠室に二人は入って行く。 まだフロアにいた同僚に正宗を持ってきてくれるよう頼むと、セフィロスは懐に入れている小型の銃を取り出す。 警備という裏方の仕事とはいえ、万一来客に見られたら不安を煽る結果になるため、今日はいつも使う武器とは違うものを持たされていた。 正宗が駄目なら、標準的な長さの剣でも良かったのだが、それでも見つかれば十分影響がある。 銃というものを使えないわけではないが、専門に長けている者ではないのだから素早く懐から出すには腕が足りない。 咄嗟の時、いつもの癖で剣を構えるように動くなんて失態を避けるなら、最初から手に銃を持っていたほうが良い。 見た目は物騒だが、場所は神羅ビル内なのだから、それ程気にする者もいないだろう。 程なく頼んでいた同僚がセフィロスの刀を持ってやってきた。 丁寧に飲み物も持ってきてれた彼は、頑張れという言葉を残すと、ソルジャーの緊急会議があると行ってしまう。 持っていた銃を懐に仕舞い、同時にの懐中時計を開くと、時計の針はもうすぐ日付を変えようとしていた。 ルーファウスと共にいるだろう彼女は、今頃どうしているか。 大方彼の話し相手にでもなっているのだろうと考え、ふと爆発による死傷者の事を思い出した。 彼女の回復魔法を使っても、助からない命がある事を今更のように知った気がする。 重傷の者がいるという自然な事が、彼女の存在の有無次第で、どうして不自然に思えてしまうのか。 を取り巻く状況を考えれば、その力を見せる事など出来ないと、最も知っているのは自分だろうに。 そして、それを省みず力を振るった時、最も立場を危ぶまれるのがセフィロスであると、彼女も知っている。 生活一般の準備をしているのがレノであっても、彼女の保護者は今だセフィロスだ。 例え彼女が全力を持って兵らの傷を癒したところで、魔法の力にも限界はある。 運と運命が味方しない限り、繋がらない命がある事はセフィロスも身を持って知っている。 血の臭いがする硝煙の中、至らない僅かな力に無力さを思い知った事だって数え切れはしないだろう。 だがそれは、その時の己の全力を持った結果であり、向上によって後悔は薄れていった。 望まれる僅かな力を出せず、傷を癒しながら死を拭う事が出来ないの心の慟哭はいかばかりか。 どうせ次に顔を合わせても、その他大勢と同じように彼らの死を悼むようにしか見せないのだろう。 否、彼女はただ一言謝罪し、それ以上の何も外に表しはしないかもしれない。 呆れるほど割り切るのが上手く、腹の内で全てを片付ける女だ。 自分のせいだと弱音を吐くことは、間違ってもしないだろう。 そんな下らない事を考える前に、原因が犯人らだという事を理解し、感情を自分の中で処理するはずだ。 それでも身動きが取れない自分へ悔しさを感じても、きっとすぐに割り切る。 それが強さであり弱さであると、自覚しているから本当に性質が悪い。 出会ってすぐに起きたアバランチとの戦闘。 襲撃を受け、已む無く戦ったは、彼らを昏倒こそさせたが命を奪いはしなかった。 ルーファウスと誘拐された時も、モンスターは大量に殺したが、犯人らに手を下す真似は一度も無かった。 ルーファウスに知られず、命を奪う事など造作もなかっただろうに、はあえてそうしなかった。 どちらも、命を奪ったところで正当防衛になるのに、彼女は決してそうしない。 彼女が以前言っていた、命は尊く何者に奪われてもならないものだからだろうか。 しかし現に向こうはこうして兵の命を奪い、無関係のはずの彼女も巻き込んでいる。 元軍人であるならば、大なり小なり戦にも死にも直面する事はあっただろう。 手にかける事だって、否応無しにあるはずだ。 的確な判断を捨ててまで、その意思を通す理由は何か、単なる彼女個人の基準か。 中途半端な正義を掲げているつもりではないだろうが、彼女の基準は常識とは違うところにあるらしい。 それとも、我が身を守る為や仕事だという理由の上で、人を斬っている自分達の基準がおかしいのか。 もし彼女が、人を斬るしか逃げ道も無い状況となったなら・・・・ 『斬るしかないならそうしますよ』 至極普通にそう答えるだろう彼女が想像出来て、セフィロスは一人だという事も忘れてつい笑みを零した。 思わず廊下を見回し、誰も居ないことを確認すると、口元を掌でぬぐって表情を直す。 何だかんだ考えてしまったが、そういえば彼女はそれ程女々しい性格ではなかった事を思い出した。 「英雄さん」 嬉々とした女の声に思考を遮られ振り向くと、社長が連れ込んだ女がドアから顔を出していた。 よもや雑用でも言い出すのではないかと思いながら、自然と眉を寄せてしまった彼を、女は気分を害した様子も無く見上げる。 大きな瞳に媚びを貼り付け、小首を傾げる女は20代前半だろう。 社長がデレデレするだけあり、可愛らしい顔をしているが、セフィロスはだからどうという事も無く、無表情で彼女を見下ろす。 「何か?」 「フフッ。ちょっとお話したくて」 「任務中ですので。部屋にお戻り下さい」 「固い事言わないでよ。今社長さんシャワー中だもの。ちょっとぐらいバレないわ」 戻れ。そしてバレて追い出されてしまえ。 などと、一応社長の客である女に言う事も出来ず、セフィロスは無言で女から視線を外す。 社長が連れ込んだ女に声をかけられるのは、別に初めてではない。 この手の人間は話せば話すほど面倒になる事を知っている彼は、女を無視する事に決めた。 「冷たいなあ。じゃぁ今だけ任務無しで。ダメ?」 「・・・・・・・・」 「もしかして、女嫌いとか?」 「・・・・・・・」 「・・・テレビで見るより、ずっとカッコイイんだね」 「・・・・っ」 手を伸ばし頬に触れてきた女に、セフィロスは顔を顰めて睨み下ろす。 目が合った女は、怯えるどころか嬉しそうに笑い、バスタオル1枚という姿でありながら廊下に出てきた。 流石のそれに、セフィロスも女を殴り倒したくなる衝動にかられるが、ふと彼女の指の感覚に違和感を覚えた。 だが、女は触れる手に目をやった彼に気を良くしたらしく、さらに笑みを深くすると1歩彼に近づく。 「社長、まだ出てこないよ?」 「相手をしろと?」 「嫌?」 ドアから出てきた時のように、可愛らしく小首を傾げた女に、セフィロスは彼女の手首を掴む。 相変わらず冷たい瞳で、だが口の端を上げたセフィロスに、女は少女のようだった笑みを妖艶なそれに変えた。 「任務だ。拒否権は無い」 「っ!?」 言うと同時に、セフィロスは女の腕を捻り上げた。 逃れる隙などない速さで捕らえられた女は、それを理解する間も無いままうつ伏せで床に押し付けられた。 大きな音と共に、女は息が止まり目を丸くする。 両腕を背中で掴まれ、その指から指輪を抜き取ったセフィロスに、女は慌てて振り向いた。 「何すんのよ!」 「見覚えがあるな。確か・・・強く握れば中から針が出て毒を与えられる指輪だったか」 「な!?そんな訳ないじゃない!離しなさいよ!」 「ならば試してみるか?違うなら、この非礼は詫びよう」 「やめっ・・変な疑いかけないでよ!アタシは社長の客よ!?」 「残念ながら、こんな物騒な物を持つ女を客とは言えんな。それに・・・」 騒ぐ女を押さえつけながら、セフィロスは彼女のバスタオルを下から捲り上げる。 尻の上まで露にされ、普通の女ならば悲鳴を上げるものだが、彼女は身を硬くしてセフィロスを見た。 腿の上に止めていた皮のベルトに鋭利な光りを見つけたかれは、暴れ始めた女の足を膝で押さえ、それを奪う。 「腿にナイフを仕込んで相手をすると?とんだ性癖だな」 「っクッソ!!!」 「セフィロス、何が・・・・」 騒ぎを聞きつけ、慌ててバスルームから出てきた社長が、バスローブ1枚で廊下に出てくる。 湯気をホカホカさせながら目を丸くした社長は、二人の状態に驚くかと思いきや、残念そうに肩を落とした。 「何だ、もう捕まえてしまったのか」 意外な言葉を吐いた社長は、手に持っていた銃を腰紐の間に挟んだ。 唖然とする二人に向かい、社長は大きな欠伸を一つすると、廊下の先から来る警備の者達に目をやる。 「たまにはカッコイイ事をしようと思ったんだがね。先を越されてしまったか」 「そんな・・・」 「・・・ご存知だったんですか」 「これ位わからんと神羅の社長など出来んわ。どうせ今日の騒動を起した奴らの一味だろう」 「畜生・・・この豚親父!クソ野郎!」 「・・・」 「その豚親父にまんまとハメられたのは誰かね?君達、後は頼んだぞ。 ああ、そうだ。君、せめてナイフは足の内側につけておきたまえ。 くっついた時すぐに感触でわかったわ」 今日は疲れたとボヤきながら、社長は室内へと戻っていった。 社長自ら囮になるような真似は珍しいが、それだけ今日の騒動が頭にきたという事だろう。 そういえばルーファウスの親父だったと思い出し、ならばコレだけやっても不思議はないかと、セフィロスは妙な納得をした。 その後女は兵に手錠をかけられ、尋問室へと連れて行かれる。 最後の最後まで暴言を叫び悪態をついていた女は、角を曲がる時には唾まで吐き捨てた。 バスタオル1枚では哀れと、タークスの女が仮眠室から女の衣服を持っていくと、廊下は再び静けさを取り戻した。 女が居ないからといって、社長の警護な不要になる事などない。 嬌声が聞こえないだけマシだと考えると、彼は再び門番に徹した。 時折同僚が様子を見に来ては、コーヒーや軽食を差し入れしてくれる。 集められたソルジャーは殆ど本社待機だと言う彼らに、時折代わってもらい小休憩を挟みながら番をしていると、時間はあっという間に過ぎていった。 夜が明ける頃、時計を眺めていたセフィロスは、こちらに歩いてくる数名の同僚に目を留めた。 もう食事も休憩も不要だと言おうとしたセフィロスだったが、彼らは何も持っておらず、どこか急いでこちらにやってくる。 「副社長達がホテルから出たって。もうヘリでこっちに向かってるらしい」 「そうか・・・」 「おう。でよ、何か副社長の同伴してた子が具合悪いらしいせ。 セフィロス迎えにやれって言われて」 「が?」 「そうそう、昨日ツォンと取っ組み合いの喧嘩した子。 セフィロスが保護した子だろ?警備は俺らが代るからさ」 「・・・・わかった」 喧嘩では無かったのだが、それを言うのも話が長引きそうで、セフィロスはそのまま屋上のヘリポートへ向かった。 が体調を崩したなど、一体何があったのか。 焦燥する胸の内に押されるように、階上へ向かう彼の足は自然と速くなった。 ヘリポートへ着くと、丁度ツォンらを乗せたヘリが下りてきた所だった。 夜明けを知らせる太陽に目を細め、ヘリが起す風に髪を弄ばれながら、セフィロスはの姿を探す。 ドアが開けられ、最初に降りてきたツォンは、歩いてくるセフィロスに目を留めながら、中に声をかけた。 ルーファウスとルードに支えられ、誰かがグッタリとした状態でヘリから下ろされる。 ドレスを煤で汚し、結い上げた髪も乱れたその人物がだと理解するのに、セフィロスは数秒を要した。 それ程に、今の彼女からは普段の強さが無く、顔も全く血の気が無い。 薄く残った口紅が、まるで死に化粧のようで、セフィロスは血の気が引いていくのを感じた。 奪い取るようにルーファウス達からを受け取ったセフィロスは、顔を上げる力も無い彼女に上を向かせる。 薄く目を開け、彼の姿を確認しただったが、言葉を返す体力もないようで、微かに唇を動かすだけだった。 「?!」 「っ・・・」 「心配するなセフィロス。MPがカラになっただけだ」 呼びかける声に、彼女は微かに顔を顰めるが、それ以上は何も出来ないようで、ただセフィロスに身を預けた。 その瞬間、微かに感じた酒の匂いに、セフィロスは眉を寄せる。 何故と問おうとした彼だったが、それを遮るように、ルーファウスが言葉を並べた。 「負傷した兵らにケアルガをかけ続けていた。高等魔法だ。そう何度も使えるわけではない」 「・・・・・」 「限界を超えても使い続けた結果だ。休ませてやれ」 彼女のMPが尽きるなど、何十人負傷したのか。 セフィロスは思わずそう言いそうになったが、ルーファウスはそれ以上の会話を避けるように、さっさと室内に入ってしまった。 残されたセフィロスは、一人で立っている事も出来ないを抱き抱えたままそれを見送る。 確かに彼女からするアルコールの匂いに、どうも符に落ちないと思い、彼は青白い彼女の顔に自分の顔を近づけた。 「・・・・・・・・」 やはり酒臭い。 「セフィロス・・・すまないが、そういう事は別の場所でしてくれないか」 「?」 気まずそうに言うツォンに、セフィロスは疑問符を浮かべて顔を上げる。 が、すぐ傍にあったの顔に、ハッと気がつくと、慌てて彼女の顔と距離を作った。 さりげなく顔を背けるルードや兵の視線に、とんだ失態だと思いながら、彼は慎重にを抱き上げる。 小さく呻き、力なく口元を押さえた彼女に、頼むから胸の上で吐かないでくれと願いながら、セフィロスはヘリポートを後にした。 詳細は体調が回復してから聞くしか無いと考えながら、時折切羽詰った呻き声を上げる彼女にヒヤヒヤしつつ、セフィロスはビルを降りる。 途中見つけた同僚に心配されたものの、うち1名をバケツ持ちとして連れ出すことに成功した。 青い顔で必死に耐えるには申し訳ないと思いながら、セフィロスはエレベーターに乗り込む。 感覚の変化に黙ったは、結局エレベーターを降りた直後、バケツの中に胃液と元シャンパンらしきシュワシュワした液体を吐き出した。 受付で水を貰い、口の端から零しながらコップ半分の水を飲んだ彼女は、バケツ持ちをしていた同僚に力なく詫びる。 戻した事で、幾分か楽になったようだが顔色は優れず、その様子に受付嬢まで心配していた。 「ルー・・ファウスの・・せい・・・だ」 「そうか・・・」 やはりあの社長息子が1枚噛んでいるのか。 とルーファウスが揃うと、何かしら騒動がある気がすると思いながら、セフィロスはビルを出る。 通りかかったタクシーを拾い、慎重に彼女を乗せると、彼女の顔の青さに運転手まで驚いていた。 「お客さん、大丈夫ですか?」 「ああ。疲れているだけだ」 「そうですか?慎重に運転しますね。行き先は?」 「・・・・・・・」 そういえば、何処だろう。 が泊まっているホテルは、昨夜のホテルに泊まる手筈になっていたため、部屋をとっていない。 しかも、ついでにホテルをワンランク安い場所にすると言っていたので、行っても無駄。 新しいホテルも、チェックインは10時からなので、明け方に行けるはずがない。 荷物はレノが預かっているというので本社内にあるのだが、場所は彼しかわからないだろう。 よもや社内にある兵らの仮眠室に連れて行くなんて事できるはずもない。 宝条と接触したというなら尚の事、ビルの中にはいさせたくない。 「お客さん?」 黙ったセフィロスに、運転手は首を傾げて振り向く。 数秒悩んだ彼は、他に行き場所は無いと腹を決め、運転手に自宅の住所を伝えた。 |
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セフィロス、さんをオモチカエリー!!(笑) ってか、バケツ持ちとか・・・吐かせてすみません 2007.05.21 Rika |
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