次話 ・ 前話 ・ 小説目次 | ||
変えて欲しい運命があるの 貴方を救った彼と 貴方が出会う多くの人と この星の運命を 初めから、全部決まってるみたいに言うなよ 先の事なんて幾らでも変わっていく 現実だっていくらでも捻じ曲げられる 私達はそう言いながら戦ってきただろう? 運命なんてその時の選択で出来上がった過去の軌跡の呼び名でしかないんだ なあ、レナ・・・・ ん? レナ!? Illusion sand − 32 体の内側まで染めていくような光の中、会話していた相手に気付いたは、白に溶けかけた意識を引き戻した。 飛び起きるように形作られた精神体は、見開かれた目に、顔を覗き込んだ少女の姿を映す。 「久しぶり・・・に、なるのかしら?」 「・・・レ・・・ナ・・・・?」 柔らかく微笑むレナに、は幾度か瞬きを繰り返しながら、彼女の名を呟く。 驚き目を丸くするに、レナはクスリと笑うと、上体を戻した。 いつの間にか横になっていた体を、は静かに起き上がらせると、それまでの白とは真逆に変わった景色を見渡す。 この世界で見た初めての夢のように、天上には眠りを与える夜闇が広がり、少し先には月を映す水面が広がっていた。 囲む樹木が落とす雫に、水は絶えず緩やかな波紋を作る。 淡い光を投げかける月の下、露に濡れた芝の上を歩くレナは、立ち尽くす彼女を振り返った。 「もう新しい世界に慣れた?知らないものばかりで、大変でしょ?」 「ああ、まぁな。少々不便はあるが、それなりに・・・・ってそうじゃないだろ。何故お前が此処にいるんだ?置いていかれたのか?」 いつかの旅の日々のように話しかけるレナに、つい世間話を始めそうになった自分をは止める。 それを可笑しそうに見つめるレナは、口元を押さえながら懐かしむように目を細めた。 「ふふっ。相変わらずね。でも私、置きざりにされたんじゃないわ。ちょっと用があって呼ばれたの」 「この世界にか?」 「世界って言うより、この星に・・ね」 「星・・・」 微かな笑みを残し、星の無い空を見上げたレナに、は足元に視線を向けた。 星に呼ばれた彼女が此処にいるならば、自分を呼んだ者もこの星なのだろう。 「もそうでしょ?」 「・・・・・多分な」 だが、人生最悪の日々を思い出させ、知る由もない光景を見せて、嘗ての仲間にまで会わせる星の意図など、にはさっぱり解らなかった。 それで自分に何を求めるのかも、それで何が変わるのかも、何の要求も見せない星の意思に察する事など出来るはずは無い。 「お前は解るか?この星の意思」 「うん・・・」 「どうして欲しいんだ?あんな・・・・・・・セフィロスの、あれは何だったんだ?」 「・・え?」 思い起こす光景は、離別の前に広がった黒い感情を蘇らせ、怒りに震える指先をは強く握り締める。 掌の痛みで繋ぎとめようとする冷静さも、この場に姿を見せる事もせず、自らの口で言いもしない星への苛立ちに塗り変えられていった。 理解できていない顔をするレナさえ見れないまま、彼女は胸の内に広がる屈辱に似た痛みに顔を歪ませる。 「・・・星は、彼をどうしたいんだ?救って欲しいなら、何故声が届かなかった?」 「・・、それ・・」 「姿も見えないのに、触れる事も出来なかったのに救えるのか?何も出来なかったじゃないか!」 「待って!、そんなの私・・・」 「昔の私より余程救いようが無かった!父上の時のように、セフィロスも見殺しろとでも!?」 「!ねえ聞いて!私そんな」 レナに当たるなど、完全な八つ当たりだと自覚しながらも、溢れ出る感情を抑えることも出来ずは声を荒げた。 引きずり出される記憶と、そこから予想出来てしまう未来に、何時に無く冷静さを欠く自分にも気付いている。 だが、押し留めようとする理性より、握り締めた拳から滴る赤い怒りと不安が、今の彼女の身を支配していた。 「壊れていく様を見せるのが星の目的なのか!?指をくわえてただ見ていろと? ハッ!大した屈辱だ。最高だな!それとも何だ?!狂った彼を私に殺せと言うのか!!?」 「!!」 「落ち着け」 「っ!?」 後ろから頭をぐしゃりと撫でた手と、聞こえた溜息交じりの声に、はピクリと肩を震わせる。 口から出かけた言葉も止まり、途端冷静さの戻った彼女は、小さくなっていく怒りの残骸を吐き出すように、小さく息を吐いた。 制止をかけた人物に、レナは安堵の表情を浮かべ、は幾分不機嫌さを引き摺りながらも、ゆっくり振り向く。 「よぉ」 「・・・ファリス」 「お前がそこまで怒るのなんて、珍しいな?」 「・・・・・」 「理由なんてどうでもいいけど、レナに当たっても仕方ないだろ?」 「わかってる・・・・・・すまない、レナ。感情的になった」 「ううん。気にしないで」 笑みの混じる呆れ顔で見下ろすファリスに、は胸の内にある靄を残しながら、常の冷静さを取り戻した。 あの光景を理解できない苛立ちは残るが、思慮の欠けた自分の行動に、はレナに謝罪の言葉を口にする。 小さく微笑み、すぐさま気持ちを切り替えるレナは、相変わらずだと思った。 「炎の国の騎士は、相変わらず熱いものを抱えとるのお」 「そのクセ冷めやすいけどな」 「って、そういう怒り方もするんだね」 「ガラフ・・・バッツと・・・クルル・・・」 暢気に話しながら、ファリスの後ろから現れた3人に、は軽く目を見開く。 レナがいただけでも十分な驚きだが、まさか全員集められるとは、も思っていなかった。 そんな彼女に5人は小さく笑みを零すと、ぞろぞろと水辺へと歩いた。 話だけなら、わざわざ全員集めなくても良い気がしたが、追い返すという選択肢があるはずもない。 このメンバーで話し合いとなると、自分がまとめ役にならなければならない気がするのは気のせいだろうか。 嫌ではないのだが、場が混乱するのが目に見えるようで、は額を押さえながら彼らの元に歩いた。 「・・・で、この世界・・・いや、星か。星は私に何を言いたいんだ?」 「あのね、確定ってわけじゃないんだけど、この星がこの先大変な事になるんだって」 「でも、それはの行動次第・・・かしら」 「こういう予定じゃなかったんだけどな・・・いや、本当はもっと前から・・こう、俺の人生設計とか・・・」 「過ぎた事を言うても仕方なかろう。諦めの悪い男じゃな・・・」 「そうだ!、お前シルドラが美味そうとか言ったって本当か!?」 早速会議は崩壊した。 案の定脱線を始めた仲間達に、は引き攣る顔を直す事もせず、目つきを鋭くしていく。 「お前ら・・・」 「この星の力とかはもう知ってるんだよね。それで、昔そらからモンスターが落ちてきたんだって」 「メテオみたいにね。あ、この世界って、メテオとホーリーが特別らしいわよ」 「メテオはホーリーで相殺できると思うんだけどさ、威力が違うんだよ」 「月が落ちてくるようなもんじゃと言っておったの」 「いいか!昔も言ったが、シルドラは食用じゃないぞ!」 思い思いに言葉を続けていく彼らは、数日前の再会を繰り返すようだ。 とはいえ、情報を伝えようという意思が無い訳ではない事は理解できる。 呆れの表情を浮かべる自分の顔を直すと、は一度大きな溜息をつき、5人の会話を止めた。 全員が自分の方を向いている事を確認すると、彼女は至極真面目な表情となり、もう一度彼らを見渡す。 「言いたい事は理解できるが、すまないが順を追って話せないか?」 「だからね、この星をジェ・・ジェ・・・ジェシカ?ジェシカから救ってほしいんだってさ」 「なら、きっとできると思うわ。私、信じてる」 「まぁ・・あの・・・セ何とかって男が・・・あ、そういえばアイツお前に変な事しただろ!!」 「そうじゃそうじゃ!!聞いとるゾイ?一線を越えかけたそうじゃのお」 「、お前暫く会わない間に大胆になったな」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「そうだったー!ねぇ、どうなの?いい感じ?」 「私も気になるわ。ってば、そういう事無関心だったから、何だか新鮮」 「ってか、レノとかいう男ともキスしそうになったってホントか!?」 「最近の若い者は恐ろしいのう。ワシの若い頃なんぞ・・・」 「ガラフの昔話は後にしろよ。で、、どこまで進んだ?どっちが好みなんだ?」 静めた傍から壊れた会話に、はこめかみが引き攣るのを感じた。 その上、今最も関係無いと思われる事柄を、好奇心いっぱいで引き出されたのだ。 瞬間、彼女の目は、仲間の輝くそれとは対照に鋭さを増した。 「・・・・・・・・・・・・・お前ら」 「それって二ま・・・・?何か目が・・・」 「座ってる・・・?」 「・・・・俺、帰ろっかな・・・」 「まず手紙には相手の好きそうな花を添えるんじゃ。そして・・・」 「お、おい・・・・・・?」 「思い出したか?・・・私はそれ程優しくない・・・」 「そ・・・そうでしたね」 「ごめんなさい・・・」 「悪い。はしゃぎすぎた・・・」 「返事が返って来・・・ん?どうしたんじゃ?」 「・・・・・・・さぁ!会議再開だ!まず・・・何だったっけ?」 無表情で静かに怒りを訴えるに、4人は途端顔を青くした。 約1名、状況が解らず首を傾げる老人がいるが、誰一人フォローに回らないのは恒例である。 慌てて話を本題に戻そうとするファリスに、は大きく溜息をつくと、険しかった表情を戻した。 「星が、私に何を求めているのか・・・だろう?」 「あ、そうだね。えっと・・・まず、この星にきたモンスターから?」 「そうね。昔、この星にはモンスターがいなかったの。 でもある時、1匹のモンスターが空から降ってきたのよ」 「宇宙から来たって、星は言ってる。 で、ソイツはエクスデスみたいにこの星を我が物にしようとした」 「しかしそ奴は、その時この星におった者達に倒された。 ん?封印されたんじゃったっけ?」 「でもまぁ、とりあえずその・・・ジェシカ?ジェンカ? とにかくそのジェ何とかは完全に死んではいなかった」 「名前ぐらい覚えておいてほしいんだが・・・」 「だって星の声、聞きづらかったんだもん。 確実に聞き取れたのは『ジェ』だけだったの」 「この星のモンスターも、ジェ・・シカ?かのせいで現れたらしいわ。 それで、そのジェシカとかは近い未来またこの星を滅ぼすために動き始めるらしいの」 「方法は、先の事だから、詳しくは解らないみたいだけどな・・・。 けど、ジェンカは前に倒された時から、この星の力の流れの中にも侵食してたらしいんだ」 「今も、ジェスカはこの星を狙っておる。 星は出来ればジェスカを完全に倒してしまいたかったらしいがの・・・」 「だが、それを出来る者がいなかった。 けど、お前がこの世界に来た。このタイミングで・・・な」 「倒せ・・・という事か」 疲れの見える声で呟くに、5人は静かに頷いた。 言葉にされる度に、相手の名前は『ジェシカ』から『ジェンカ』になり、今や『ジェスカ』である。 ジェ何とかが過去何を仕出かしたかなど、には関係無いが、少しだけ哀れに思えてきた。 戦う相手の情報をいただけるのは助かるのだが、名前が『ジェ』しか解らないのでは、この世界での情報収集は困難になるだろう。 だが、仲間の話を聞いていると、その『ジェ』すら合っているのかどうか怪しい。 その上、下手をすれば、これまでの説明も信憑性がかなり疑えるものだった。 事を起すといいつつ、実際何処からどう動くかもわからないのでは、事前対策もできないだろう。 ハッキリ言って、彼らがくれる情報は役に立ちそうな気がしない。 「外見的特長、レベル、属性、弱点はわかるか?それと、そのジェーの居場所」 「さあ。それについては何も・・・」 「あ、そうだわ。メテオとホーリーについても教えておくわね」 「さっきも言ったけど、この星のメテオは桁違いの大きさらしい。 それこそ、星を滅ぼすぐらいに」 「魔法に使う・・・マホイアとかいう石も特殊らしいのう」 「だから、そのマホイアもある場所に隠されてる」 「マホイアじゃなくてマテリアだ。何だよマホイアって・・・」 「だからぁ!聞き取りづらかったの!!」 「ホーリーのマテリアも特殊らしいわ」 「何処にあるのか、星にもわからないらしい」 「まぁ、お前さんはそんな石コロ使わんでも、ホーリーもメテオも使えるじゃろ?」 「しかも、大きな町1つなら余裕で消せるぐらいのな。だから星はに力を貸して欲しいんだ」 「なるほど・・・」 メテオもホーリーも、星にしてみれば自爆技のようなものなのだろう。 呟くように言葉を返しながら、まるで童話の中の勇者様のようだと、は小さく息を吐いた。 ある所に、悪者に悩まされた村がある。 非力な村人は悪者に立ち向かう事も出来ず、彼らの悪行を震えて耐えるしかない。 ある日、村に一人の旅人が通りがかると、藁にも縋る思いの村人は彼を勇者と祭り上げ、悪者に立ち向かわせる。 旅をするとなれば、護身の武術はある程度必要となる。 故に、旅人は多少苦戦したとしても、小さな村を襲うしか出来ない賊に負ける事は無いのだ。 何て安易な展開か。 だが多くの命を抱える星にしてみれば、そんなものに構ってはいられないだろう。 「あ、でもね、何かこの世界のホーリーは、私たちが使ってたのと大分違うみたい」 「この世界のホーリーは、星の力を使って発動するらしいわ」 「しかも、古代種だか絶滅種だかじゃなきゃ出せないような事言ってたな」 「名前は同じじゃが、別物と考えた方が良いじゃろう。うむ・・・ワシらが教えられるのは、このぐらいかのぉ」 「そうだな・・・で、。あのセ何とかって男と、レノとかいう奴、どっちが好みだ?」 「・・・・・・・・・・」 またその質問に戻るのか。 ファリスからの質問に、はげんなりした顔になる。 好みも何も、そんな目で彼らを見ていないのに、どう答えろと言うのか。 だがそんなの気持ちなど知らない5人は、途端に目を輝かせ、興味津々で身を乗り出した。 「昔も言ったが、わた・・」 「そうそう!それが一番聞きたいの!」 「ねえ、私達なら誰かにバラすなんて事無いわよ」 「別にあの二人じゃなくたって他に・・・って、そういえばあの金髪男も何か怪しくないか!?」 「おぉ〜!!そうじゃそうじゃ!あの金髪坊主もおったのぉ!」 「3人か・・・いや、あの黒髪のミックスって奴もいるな!」 「ザックスだザックス!勝手に混ぜるな!」 「きゃ〜!ムキになっちゃって・・・もしかして、そのザックスって人が・・・」 「、ダメよその人。何だか顔に不幸の気配があるわ。きっと短命よ?」 「忘れてたけど、俺この前セ何とかって奴、と間違えて助けたんだよなぁ・・・」 「ワシはあの金髪の小僧もクセ者で面白そうだと思うゾイ?」 「でも、今一番可能性があるのはセ何とかって奴だよな・・・」 「・・・・・・・・・」 「その人、今上司に離されちゃってるんでしょ?切ないよね〜!!」 「織姫と彦星・・・ううん、ロミオとジュリエットね!素敵!!」 「まさか、もしかしてもうあの男の事・・・ぅあ〜!!助けるんじゃなかった!」 「ええのぉ!えぇのぉ!!若いの〜!!!」 「障害が多いほど燃え上がるってか?」 皆・・・早く成仏してくれないかな・・・。 当事者を蚊帳の外にし、完全に盛り上がる5人に、はひっそりそう思いながら輪から離れた。 今の彼らに何を言っても無駄だろう。 弁解するのもまた別の方向へ話を持っていかれそうで、彼女は闇の中穏やかに揺らめく水面へ向う。 後ろでは5人がギャァギャァ言い合っているが、既に構う気力すらない。 星が倒して欲しいらしいジェ何とかの情報も、これ以上得られそうにないのなら、わざわざ止める必要も無いと判断した。 静かに闇を映す水面に、天上にない月が映る。 思えば、この世界で初めて彼らと会ったのも、この場所だった。 あの時は、揃って葬式のような顔をしていたが、今日会った彼らを見る限り心配は必要ないらしい。 既に話題は自分の事から、ロミオとジュリエットの話に変わっているようだが、敵対しているわけでもない自分とセフィロスを差し、何故その物語が出てくるのか。 乙女の思考とは理解できないものだと、は大きく溜息をつきながら、透き通る水に手を伸ばした。 触れた感触は水そのものだが、冷たさを感じないのは精神体故だろう。 奇妙なものだと思いながら指先で水を遊び、出来た波紋の遠ざかる様を見届ける。 思ったより長居してしまったと考えながら、だが仲間とまた離れるのも惜しく、何を語る訳でもないが、はそこから離れずにいた。 背に聞こえる歓談は懐かしく、忘却に消えた記憶が蘇るようでさえある。 だが、脳裏に過ぎる情景は空白へ変わり、それを埋めるようにこの世界で出会った彼らの姿が浮かんだ。 過ごした日々が消えてしまったわけではないだろう。 消し忘れてしまった訳でもない。 ただ、新たに手にした記憶と思い出が、閉ざす世界にあった自分には眩しく、鮮明であり暖かいのだ。 穏やかに変化する日々は、共に戦った仲間との日々と等しく重い。 5人と共に歩んだ日々も、忘れえぬ日々である事に変わりは無い。 だがこの世界で手にした、まだ僅かな思い出もまた、幾百の月日の後に懐かしみ、その光を損なう事無く胸の内に眠ってくれているのだろう。 その時には、今日の事も、知らぬ明日も、穏やかで温かなものだったと思えればいい。 あの薄汚れた地下で、この名を呼んだ彼の手をとれるよう、その心が砕けてしまわぬように、守り抜く事が出来たと思い出せればいい。 共に生きたいという願いを叶えても、生きる時の違う自分が、彼の願い全てを叶える事は出来ないだろう。 未だ死に見放されたままの自分は、共に老いる事すら出来ない。 だが、いずれ訪れる彼の闇を拭う事が出来れば、また新たな夢を見せる事も出来る。 そこに、愛や恋が無くとも、足元に口を開ける闇を払う事が出来るなら、それで良かった。 「」 不意に耳に届いた声と共に、吹いた風が頬を撫ぜる。 顔を上げたの前には、変わらぬ水面と穏やかな闇が広がり、見渡す景色の中にも、その声の主の姿は無かった。 「・・・セフィロス?」 胸に痛みを与えた縋る声でもなく、落ちた闇に染まる色も無い。 数日前までのようにこの名を呼んだセフィロスの声に、は立ち上がり、もう一度辺りを見回した。 茂る木の陰にも、澄ませる感覚の中にも彼はなく、だが思えば精神体で星の意思の元に居るのだから、彼が此処にいるはずもないだろう。 未だ話し続ける仲間にも、彼の声は聞こえていないらしく、は考えすぎかと苦笑いを零した。 視線を戻した泉の上には、木々の葉から落ちる雫が、絶えず小さな波紋を作っては消えていく。 以前来た時は、この上を歩いたと考えた所で、はその時に見た男の事を思い出した。 赤い服と、赤い瞳をした黒髪の男。 レナ達と、何か関係があるのだろうかとも思ったが、彼女達が口に出さない所を考えると、そうでもないのだろうか。 考えながら足を踏み出すと、水は小さな波紋を作りながら、その上に乗る彼女を許す。 水の上をあるくなど、肉体では出来ない事だと考えながら、は映る月の元まで歩いた。 深い澄んだ水の中には、朧な月に照らされた泉の底が広がっている。 静謐の中にちりばめられた小さな光に目を細め、は5人の居る方を見た。 「・・・・・・バッツ?」 呼んでも返ってくる声は無く、目の前には闇に浮かぶ木々が広がっていた。 音も無く居なくなった5人に、は半ば呆然としながら辺りを見回すが、彼らの姿は何処にも無い。 「レナ、ガラフ、ファリス、クルルも・・・・・・・・・・・皆、帰ったのか?」 水面に落ちた雫の音だけが、闇に包まれた景色に響く。 来るのが突然なら、帰るのも突然かと、は胸を掠める寂しさを誤魔化すように溜息を吐いた。 「挨拶ぐらいしろ・・・礼儀だろう」 呟いた言葉は静寂の中に響き、だが穏やかになっていく胸の内に、は笑みを浮かべた。 用も済んだなら、自分も帰ろうかと、岸へ足を進める。 が、その瞬間感じた、辺りを包んでいた闇がざわめく気配に、は足を止めた。 悪意があるわけでもないそれに、彼女は内心首を傾げながら、止めた足を再び動かすと、踏み出した瞬間景色は突然変る。 黒と白が混ざる視界に、また何かあるのかと考える間もなく、空気はあの薄暗い地下に似たものへ変わった。 |
||
5キャラ喋りすぎ(汗)長くなったので、途中で切りました。次回は・・・棺桶 2006.11.19 Rika |
||
次話 ・ 前話 ・ 小説目次 |