次話 ・ 前話 ・ 小説目次 | ||
「、着港後についての打ち合わせがある。そろそろ出て来い」 呆れ声でセフィロスに呼ばれ、1日ぶりに部屋の外に顔を見せた彼女は、普段と変わらぬ様子で彼の隣を歩き出した。 気にしていないわけではないだろうが、どうにか持ち直した彼女に、セフィロスは小さく安堵する。 が、それもすぐに、ルーファウスと共にいたレノの姿を見た彼女の、満面の笑みによって、大きな焦りへと変わった。 「よぉ。1日ぶ「オラァァァアア!!!」 ゴッ バキッ レノの姿を確認するや否や、叫んで走り出した彼女は、彼の数歩前で飛び上がり、その額に見事な頭突きを喰らわせた。 彼の額にのせていたサングラスが大きな音と共に砕け、その破壊力を物語る。 突然の攻撃に、目を回しながら額を押さえたレノの隣には、呆れ顔のルーファウス。 その視線の先には、サングラスという思わぬ凶器のカウンターに、額を押さえるの姿があった。 Illusion sand − 24 「じゃ、着港後はそのままホテルへ直行。 夕方5時同ホテルで社長・副社長・ハイデッカーと会食。ツォンさんと俺、それとセフィロスが警護。 翌日は副社長とジュノン観光。こっちも俺とセフィロスが警護。夜に4人で裏会議。 その次の日に、4人ともヘリでミッドガルへ行ってホテルへ直行、と。 それからについては、ヘリの中で説明だ。OKですか?」 「ああ。ご苦労」 二人がダメージから回復し、打ち合わせを始めてから30分。 滞りなく進んだ話し合いの最後、内容をまとめたレノは、ルーファウスの返事に手帳を仕舞った。 それが合図であるかのように、会談の場は神羅としてではなく、個人同士としてのものへ変わる。 つまり、ルーファウスとレノがの事について突っ込みに突っ込んで質問をしてくるのである。 隣に座るは、また説明しなければならないのかと、まとう空気が僅かに面倒くささを香らせていた。 どうやらレノへの怒りは、先程の頭突きで解消されたらしい。 自分が口を出す所ではないと、セフィロスは頬杖をつきながら足を組みなおした。 対面する形で腰を下ろしているルーファウスは、面白そうに口の端を微かに上げ、目でレノに着席を促す。 上司の前とはいえ、公から私へ戻ったレノは、空いている椅子に静かに腰を下ろした。 「さて・・・、セフィロスから話しは聞いているか?」 「ご助力いただける・・との件ですね?」 「そうだ。悪い話ではないと思うが?」 「確かに・・・その通りですね。私にも・・・・・貴方にも」 指を組んで薄笑みを浮かべたに、ルーファウスは口の端を上げながら目を細めた。 この世界を統べる神羅。 そのNo2に名を覚えられ、深くはないとは言え、は興味をそそるには十分な交流を持ってしまった。 その上、世の民の注意を引いてしまっている現状。 晒すべきを晒し、隠すべきを隠したとて、この世界を知らない彼女にとって、後の道は針の道も同じ。 彼の・・・神羅カンパニー副社長であるルーファウスの力添えは必須だろう。 彼の言葉も、そう考えた上・・・。 じゃれ合いに似た会話になると思いきや、見詰め合う二人の間には張り詰めた空気が漂う。 気だるげな体勢を崩さないセフィロスと、完全に聞き手に回ったレノは、二人の会話を聞きながら、気の向くままに視線を漂わせた。 「心配せずとも、お前を利用しようというつもりはない。私はただ・・・お前と友人になりたいのだ」 「それは・・・嬉しい事を言ってくださる。暇つぶしですか?」 「悪く言えばそうなるな。お前がいてくれるなら、私も退屈せずに済みそうだ」 「なるほど・・・」 彼の地位を考えてみれば、女としての自分の価値など無いに等しい。 見られるのは人としての価値、興味ぐらいであり、彼が自分を気にかけるのもそれが理由だろう。 例え元が興味本位だとしても、その興味こそが人間という生き物の本質であり、絶対の欲。 故に、信用するに足るのだ。 その信用が信頼に成り得るかは、ルーファウスの人間次第だが。 ただ今は、諸刃の剣である信用に指先を傷つけないように注意するだけで十分だった。 例え内面や素性が変わっているといっても、何処の馬の骨とも知らない自分に、興味をそそられるのだからルーファウスも随分変わっている。 傍目に満たされていると思える地位や環境など、慣れてしまえば面白くなどない。 彼は今の人生というものに、今の自分というものに退屈しているらしい。 借りだけが増えるのは、自身良い気はしないものだった。 彼の暇つぶしに付き合う事が、その借りに相当するかと考えると疑問は大きいが、吊り合わせるのは自分の技量次第だろう。 「どうだ?」 「まぁ・・・悪くありませんね」 「それはよかった」 「こちらこそ」 嬉しそうに微笑んだルーファウスに、も目を細めて組んでいた指を解く。 ようやく緩んだ空気に、傍聴していた二人はようやく視線を二人に向けた。 この会談は、話し合いではなく既に取引。 互いに内容も利益も不明なそれは、傍から見れば成立しえないものかもしれない。 だが、詳細が曖昧である故に、今の二人には都合が良かった。 今後の運命を否が応でも左右してしまう事は、出来るなら制約が少ない方が良い。 どれ程暢気な取引だったとしても、後に自分の首を絞める結果になってはならないのだ。 その雰囲気の何処に友情があるのだろうと、レノは呆れそうになるが、何故かそれが二人らしいと思えてしまうのが不思議だった。 ただ、自分だったらこんな雰囲気作ってくれる友人は欲しくない。 薄笑みを浮かべるからは感情が読めず、喜んでいるのかどうかわからなかった。 だが、対するルーファウスは何処と無く顔が緩み、余程嬉しいのだとわかる。 そんな副社長に感心するべきか、それとも化けの皮をはがし始めたに驚いていいのか。 レノが接したは、当たり障りのない態度と、油断ならない思考と、勘違いしやすい天然さを持つ女性であって、こんなどす黒い薄笑みを浮かべる人間ではなかったはずだ。 ある程度予想はしていたのだが、そうなると彼女の本当の顔はどんなものなのかと、少しだけ恐ろしくなった。 生ぬるい空気が流れる二人を、レノは口を挟む気にもなれず傍観する。 笑みを浮かべるルーファウスに、珍しいと思いながら、ふとその瞳の奥に何か黒いものが蠢いた気がした。 「ところで、いつの間にか口調が敬語に戻っているようだが?」 「・・・そうですね。まぁいいでしょう」 「寂しいな。折角友人になれたのだから、対等な立場として話をしないか?」 「・・・わかった。気をつける」 「楽しみだ。これからはお前と友として語り合う事ができるとは。 時には二人だけの秘密や会話も出きるのだろうな・・・私と・・・お前だけの」 「・・・・・・・・そうだな」 そうやって近づく魂胆だったのかこの野郎!! 今までの会話はその為の手段だったのか。 それともついでに友人になってオイシイ所をいただくつもりなのか。 思わぬ所から妙な事を口走ったルーファウスに、レノはあんぐりと口を開けて彼を凝視した。 薄笑みから呆れ顔へと変わったと、無関心を装いながら微妙に眉間に皺が寄り始めたセフィロス。 そんな3人を見て、益々笑みを深くしたルーファウスは、仕切りなおすように紅茶を1口飲んだ。 「さて・・・そうと決まれば、今後の為に我々はお前の情報を知っておかなければならない」 「でしょうね・・・・」 ウワッホ〜イ!来たよ一番面倒臭い話が。 明らかに面倒くさいと言いたげな表情へ変わったは、足を組んでソファにもたれかかる。 レノとルーファウスに、どれだけ勘付いているか確認すると、彼女はセフィロスとザックスに説明した事を二人に言って聞かせた。 だがそれも、大幅に端折った説明だけとなり、彼女が城に仕えていた事や、仲間と悪の親玉を倒した事は出されない。 本当に、自分の世界がどういうものかや、次元の狭間に閉じ込められた事ぐらいである。 表情には出さないものの、驚きと納得を繰り返した彼らは、彼女の言葉が終わると思案するように黙り始める。 先手必勝とばかりに、二人の飲み物を凍らせたは、マテリアを持っていない事を誇示するように、ポケットの中をひっくりかえした。 「わかりましたか?」 「ああ」 「ホントにマテリア無しで使えるんだな・・・と」 大幅に省かれた説明と、乱雑な彼女の態度に、セフィロスは余程面倒くさいのだろうと考えながらそれを眺めていた。 確かに自分も、あんな長い説明を2度も3度もするのは面倒だと思う。 そんな事を思いつつ、完全に傍観に徹している為、彼の瞼は段々と重くなり始めた。 こんな所で無防備に寝る事はないが、早く終わってくれないだろうかと、ぼんやり考える。 「なるほど・・・突飛な話だな。にわかには信じ難い」 「ええ。それが普通です」 「オイオイ・・・アンタ信じて欲しいんじゃないのか?と」 「信じたくなければ信じなくてもかまいませんよ? そもそも信じろと言う方が無理でしょう。 私でも、証拠に成り得るものを見ない限り信じない。 信じたからと言って何か変わるわけでもないのです。 私が何者であるかも、私の過去も、この現状から考えるとそれ程重要な事ではありませんよ」 現状とは、今が『記憶喪失』という理由で保護されている事だ。 仮にが反神羅組織ならば、神羅として問題が生じてくる。 だが、もしそうだとしても、彼女はこれまで顔を合わせた上層部の人間を殺す機会がありながらそうしなかった。 社長の愛人を断り近づくチャンスを潰した事も、ルーファウスやレノと二人きりになりながら手を出さなかったのだから、その可能性は薄い。 それにより信頼関係を作り、埋伏の毒となる計画だったとしても、信じられない事を『自分の過去』と言い出しはしないだろう。 それは誰が言ったとしても、たとえでなくとも正気を疑われるだけで終わるのだ。 斬新すぎて絶対に無理な計画を強行するほど、アバランチは馬鹿ではないだろう。 それぐらいなら、彼女を戦場の前線に送った方がまだ利口である。 実際、信じられないとは言っているが、レノとルーファウスは彼女の言葉を半分程は信じ始めていた。 彼女と自分達の知る普通の人間との違いを、既にルーファウス達は勘付いていたし、今回の話しもそれがあったから行われたのだ。 例としてマテリア無しでの魔法発動を目の前でやってのけた。 その他の要素についても、きっと彼女はすぐに証拠になるものを目の前に現すに違いない。 特殊な人間であるという点では、何かしらの影響は出てくるかもしれないが、それはその「特殊」に当たる事が露見した場合のみ。 そうでない場合は、神羅に害がない以上問題は無く、異世界から来ようがこの世界の一般人だろうが、対応は変わらない。 文化や生活習慣の違いは大きいが、それこそ『記憶喪失』という嘘が大きく役に立つ。 そう言い始めたセフィロスには、他にも彼女を信用するに足る証拠を得ているのだろうが、どうやら彼は今の時点で口を開く気が無いらしい。 ある程度の考えを纏めると、ルーファウスは小さく息を吐く。 「・・・すぐに全てを信じる事は出来んな。少々質問しても良いか?」 「・・・どうぞ」 聞かれる事など、大体予想がついているが、一応心の準備をすると、は静かに頷いた。 「お前の居た世界・・・いや、生まれた世界か。そこの通貨は何だ?」 「ギルだ」 「・・・・ギル?こちらと同じだな」 「そうらしいが・・・向こうは全て硬貨だった。こちらのように紙ではないな」 「材質は?」 「1ギルと10ギルは鉄。100ギルは銅。 1,000ギルが銀。10,000ギルが金だ」 「実物は無いのか?」 「荷物の中に」 「そうか・・・荷物を見せてもらっても良いか?」 「構わん」 言って、はすぐに席を立とうとした。 が、それは今まで黙っていたセフィロスに手で制され、3人の目は彼に向く。 「俺が行く。質問を続けていろ」 眠気覚ましに・・・という事なのだろうか。 立ち上がったセフィロスは、重そうな瞼のまま彼女に手を差し出し、部屋の鍵を要求する。 断る理由も無く、時間が省けるのだからと、彼女はすぐに彼にカードキーを渡し、部屋を出る背中を見送った。 何となく、セフィロスがそのまま寝て帰ってこなくなる気がしてしまうが、とりあえず信じる事にしては腰を下ろした。 と、目を向けてみると、ルーファウスもレノも、何故か肩から力を抜き何処か嬉々とした表情で自分を見ている。 何だ・・・・? 「次の質も「の年はいくつだ?」 言葉に覆いかぶさるように出された質問に、は面食らったようにルーファウスを見た。 妙に声が生き生きしているような気がして首を傾げると、彼と同じような顔をしているレノが目に入る。 ここにザックスが居れば、それはそれは眩しい世界になったに違いないのだが、その変わりように何処か違和感があるような気がした。 「・・・・途中で数えられなくなったからな・・・何とも言えん」 「大体でかまわないぞ、と」 「100・・・いや150歳・・・ぐらいか?下手をすればもっと生きてるかもしれん」 「「・・・・・・・・」」 若くても20歳前後。 年をとっていても30前ぐらいだろうと思っていた二人は、ヨボヨボどころか白骨レベルの数字に固まった。 予想の5倍近い数に思考がついていかず、黙ったままの二人には説明を続ける。 「生まれた世界では1000年経ったらしいが、次元の狭間ではそこまで経っていなかったな」 「・・・・・・・・・数え間違いじゃないのか?と」 「の世界では何日で1歳と考える?」 「確証は無いが大体は合っているはずだ。日にちは数えていた。 1歳は生後365日。1年の暦も同じだが・・」 「此処と同じか・・・と」 「・・・・・・・・の世界では、平均寿命はいくつだ?皆そんなに長寿なのか?」 「さぁ・・・私がいた頃の生まれた国だと・・・せいぜい60か70ぐらいだったと思う」 「不老不死か?」 「・・・現状から言うと、そうなるな。気付いたらこうだった。次元の狭間に長く居すぎて、どうかしたんだろう」 「「・・・・・・・・」」 「狭間に行く前は、普通の人間と同じように年をとっていたぞ」 「じゃ、その狭間に行った時幾つだったんだ?と」 「狭間を抜けたという事は、これから年をとる可能性はあるんだな」 「いや、恐らくこのまま生き続けるだろう。 と言っても・・・夢枕に仲間が立って言われただけだから、実際時間が流れてからではければわからんが。 年は・・・・正確には覚えてない。20代だった事は覚えてるが・・・外見はあの頃と変わっていないな。 髪は伸びていたから、肉体の時間が止まった訳ではなさそうだ。老いない体になったらしい」 「「・・・・・・・・」」 自分達の予想と常識からどんどん離れていくに、二人はどう言う事も出来ず、ついに言葉を失った。 確かに、時折年長者のような物の見方や雰囲気が見えていた事はあったが、全て性格的なものだと思っていたのだから無理もない。 同時に、これは本気で他言できない事だと、脳裏に過ぎる科学者Hの顔を思い出しながら思った。 「、年下は範囲内か?と」 「は・・・?攻撃のか?」 「断じて違う」 何で攻撃範囲に年齢が関係あるんだ。 言葉が足りなかったレノも悪いが、どうしてそっちに考えてしまうのだろう。 「まぁ・・・敵となれば年など・・・」 「だから違うと言っているだろう。恋愛対象の範囲内かという意味だ」 「長生きはしているみたいだけど、精神的にはまだまだイけると見たぞ、と」 この小僧共は何を考えているんだろう。 イけるとは、一体どういう意味なのだろうか。 どういうも何も、そういう意味なのだろうが・・・・・・・若いな。 それなりに場数は踏んでいるのだと解るような、それ専用の微笑みで見つめる二人に、は真顔のまま内心思いっきり呆れ果てた。 表情に出さないのは彼女なりの気遣いなのだが、どうも彼らの行動に裏があるように思えてならない。 あからさま過ぎる態度は、それを肯定してしまうのに十分だ。 気を良くさせたところで口を滑らせるのを待っているのだろうか。 の見た目年齢と同じくらいの少女なら、それをしても仕方ないが、生憎は彼らの顔ではなくその意図に意識が集中していた。 「色恋沙汰には興味が無い」 「・・・・・・・・・随分・・はっきり言ってくれるな・・・」 「でも、これからの事は解らないんじゃないか、と」 「・・・・・そうかもな」 無意味だとしか思えなかった。 年をとり、そのまま死ぬなら、彼らの言う言葉にも前向きに考えられるかもしれないが、そうでなければ覚える命日が増えるだけにしか考えられない。 確かに誰かと時を共にする事が出来れば、幸せだと思えるかもしれないが、相手が死んでからはどうなるというのか。 100年後には、今目の前に居る彼らも土の中で骨になってるが、彼女は青空の下でピンピンしてるかもしれない。 しれないというより、そうなる事は確定しているに等しい。 夢と片付けられない夢で、レナ達はが死ぬ事は無いと、このまま生き続けるとはっきり言っていたのだ。 自分にとっては長い一生の中の一瞬でしかないが、相手にとっては限られた時の中の貴重な時間だ。 こんな得体の知れない人間・・・人であるかも未だに怪しい者を好く人間などいるとは思えない。 そもそも、レノ達に言ったように、は今も昔も色恋沙汰に興味が無いのだ。 自分の恋人は剣だ。永遠の恋人だと、我ながら相当イタイと思える事を迷わず思ってしまうのだから仕方が無い。 「ふーん。じゃ、オレは暫く様子を見させてもらうぞ、と」 「お好きなように」 「では質問を変えよう。の好みの男はどんなタイプだ?」 興味が無いのに好みも何もあるわけがないだろう。 いい加減そんな話題は時間の無駄だろうと考えながら、は大きく溜息をつき二人を見た。 先程より、また磨きをかけた女ウケの良さそうな顔に、セフィロス帰還を心から望んでしまう。 「やはりセフィロスか?悪くは無いが奴の浮いた噂は聞かんな」 「そういやぁ、一緒に保護した兵士、ザックスって言ったか? 報告書で見たが、随分仲がよかったらしいな、と。そいつか?」 「お前ら・・・・」 「、友と言ったばかりだが・・・私では不満か?」 不満だ。 条件反射で言ってしまいそうになるのを押さえ、は眉間を押さえて俯いた。 恐らく言っている本人も相当辛いのだろう。 微笑みの中、イタイ一言を言ってしまったとその瞳が語っている。 そんな中、ルーファウスの目の前だというのに、レノが彼女に身を寄せてきた。 幾らなんでも上司の前で・・・否、上司と共に口説き落としに似た事をする部下がいるだろうか。 そんな部下に対し、咎めるどころかじっと自分の目を見たままのルーファウスに、何となく彼らの意図がわかった気がした。 「この間の倉庫で・・・結構本気だったんだけどな・・・と」 彼女にしか聞き取れない声で話しかけてくる声は、普通の女だったなら赤面してたに違いない。 だが、がその行動の裏に気付いていると解っていないのか、決定的な動きをしてしまったのだから、完全な失敗だった。 否、それをに対してするのだから、これは最初から失策だったのだ。 このまま彼らがどこまでやってくれるのか、見てみるのも愉快なのだが、それはそれで可愛そうな気がする。 現時点でもの目は哀れみに満ちており、本音ではないにしろ気色悪いと思った。 「そんな事をしても、私は調子付いてボロを出すマネはしない。諦めろ」 「・・・私は本気だが?」 「俺も本気だぞ、と」 「あからさますぎて引っかかる気も起きん。行動言動に矛盾が多すぎだ。辛いのなら無理をするな」 「・・・・ふっ・・・見破ってしまったか」 「あらら・・・手強いな、と」 「引っかかる方がどうかしている」 「・・・・そうか・・・」 「ははは・・・」 それを試した俺達は一体何なんでしょうか・・・。 そしてそれを思いついた張本人であるルーファウスの立場は・・・。 少しだけ声の落ちた社長息子に生やさしい視線を送りながら、レノは元座っていた位置に戻った。 その後、少々では済まされない量の質問を繰り返した二人は、7割程彼女の話を信じた所でその話を終わらせた。 談笑を始めて30分後、いつまでも戻ってこないセフィロスにようやく気付いた頃には、彼が部屋を出てから1時間半程経っている。 気付くのが遅すぎである。 「セフィロス・・・遅すぎますね」 「寝ちまったのかもしれないぞ、と」 「いや、それなら1度こちらに戻ってきてからにするだろう」 確かに、セフィロスならばルーファウスの言う通り、一度彼女の所持金を持ってきてから寝るはずだ。 人を待たせておいて勝手に寝るなど、性格以前に常識的に考えてするはずがない。 不審に思ったは、セフィロスを迎えに行くと言い、ソファから立ち上がった。 だが、レノとルーファウスもそろそろ休もうと思っていたらしく、と共に部屋を出る。 執務をする部屋はあるものの、ルーファウスもレノも寝室は達の部屋と近い場所にあるのだ。 途中セフィロスに会えたならそこでギルを見せてもらい、仮にセフィロスが自室に帰ってしまったとしても、彼女の部屋で見せてもらえば良い。 夜も更けた廊下は流石に人気も無く、先日のように視線を集める事無く3人は歩いていた。 が同行しない事と、時間帯。 それに、眠たそうだったセフィロスの様子を考えても、彼が回り道をするはずがない。 まっすぐにの部屋を目指し、部屋の前まで来た3人は、ドアの隙間から漏れる明かりに顔を見合わせた。 静かにドアノブを回せば、鍵のかかっていない扉はすんなり開き、薄暗い廊下を室内の明かりが照らした。 だが、間違いなくセフィロスが居る証があるにもかかわらず、中からは物音一つしない。 首を傾げたを背に庇うように、レノとルーファウスは前に出ると、そっと室内に足を踏み入れた。 何かあった時、一番対処できる最強の人物が最後尾となってしまったのだが、そこは男の甲斐性だろうと、は何も言わず彼らに従う。 「セフィロス・・・居ないのか?と」 室内の様子を見ながら、レノは床に散らばっている見知らぬ物を避け、ゆっくり進んでいく。 万が一に備え、懐の拳銃に手を伸ばしながらセフィロスの名を呼んでみるが、先程同様反応はまったく無かった。 もう此処には居ないのだろうか。 そう思いかけた瞬間、部屋の中央に転がる白黒の物体が目に入った。 何だこれはと思うのもつかの間。 それがうつ伏せの状態で倒れているセフィロスなのだと気付くと、レノは慌てて彼に駆け寄った。 「セフィロス!!」 の荷物袋を片手に、グッタリしている彼を抱き起こすが、その顔は真っ青になって生気が無い。 一応呼吸はしているものの、ステータスは真っ赤になり戦闘不能状態だった。 「これは・・・・」 「レノ、見せろ」 英雄の思わぬ姿に、ルーファウスは目を見開いて言葉を失う。 その脇から素早く出てきたは、床に膝をつき、レノに抱えられたままのセフィロスを見た。 意識の無い彼の顔を覗き込むと、微かに顔を顰めるも、何処か安堵の色が混じる目で、彼の額に触れた。 瞬間、温かな赤と淡い緑色の光が、オーロラのようにセフィロスの体を包み、すぐに彼の顔色が戻っていく。 余程強い衝撃を受けたのか、目を覚ますには至らないが、後は意識を取り戻すだけなので、心配は無さそうだった。 と、ふとレノの顔を見ると、何故か彼は驚いたような顔で自分を見てくる。 視線を移せばルーファウスも同じような顔をしているが、マテリア無しや呼称破棄で魔法が使える事は解っているはずだと、は首を傾げた。 「どうした?」 「アンタ連続で魔法つかえるんだな、と」 「特殊能力ではないのか?」 「は?連続などしていない。今のはただのレイズだ。 ・・・・もしかして・・・この世界には、戦闘不能解除の魔法が無いのか?」 「いや、あるけど・・・レイズだけでHP全回復は無いぞ、と」 「HPの大幅な回復はアレイズでなければならない。 ・・・が、それだけ魔力が強いという事・・か・・・・」 「そういう事だ。だが今はそんな事より、セフィロスがこうなった原因だ」 彼女の力も気になるが、確かにまず考えるべきは彼を戦闘不能に陥らせた原因である。 部屋の中や、セフィロスの状態を見る限り、争った形跡などは無い。 騒ぎが起きなかったという事は、そんな間もなくセフィロスは倒れたという事だろう。 最強のソルジャーセフィロスを相手に手際よく倒す事が出来る者など簡単にいるはずがない。 約一名、それが出来る人物がここにいるが、ずっとレノ達と共に居たのだから不可能だった。 流石のも、魔法の呼称破棄や形状変化は出来ても、遠隔操作までは出来はしない。 一体何処の誰がこんな真似をしたのかと、こんなことが出来るのかという恐れ。 その者がまだ船内に潜んでいる事、潜入に気付かず数日も逃げ場の無い海の上で過ごしてしまったという焦り。 対峙したとしても、犠牲者を増やすだけかもしれないが、まずは警備を強めなければと、レノは大きく舌打ちする。 本来セフィロスの役目ではあるが、彼がやられた以上レノが兵達に指示しなければならない。 といっても、犯人が何処にいるかわからない以上、安易にルーファウスを移動させるわけにもいかず、警備室に居る兵を通して指示するのが精一杯だろう。 計画性の匂う現状に、既にそこにも敵の手が回っている気がしないでもないが、何もしないわけにはいかない。 室内の電話から内線で警備室に連絡。 線が切られていなければいいがと思いながら、レノはベッドの傍にある電話へ足を向けた。 と、丁度受話器を取ったその時、靴の裏に何かを踏みつけた感触がして慌てて足を上げる。 白く大きな牙のようなそれに、床の上を見渡せば、セフィロスが倒れていた付近にそれと同じようなものが散らばっている。 牙のほかには、細工も様々だが透明の液体や黒い液体が入った小瓶がいくつもある。 「、コレ何なんだ?と」 「私の所持品だ。今レノが踏んだのは『竜の牙』。調合※1の材料になる」 「調合?その瓶も材料か?と」 「ああ。黒いのは『ダークマター』。 透明なのはただの『毒消し』だ。 だが、その『毒消し』と『竜の牙』を調・・・・・・・・・・・・・・まさか」 言いかけて、一気に顔色を変えたに、レノ達はどうしたと首をかしげる。 だが、そんな彼らには目もくれず、彼女は床に落ちているアイテムを拾い上げると、セフィロスが持っていた荷物袋を開いた。 中から同じ物を選び出し、慌しく他の中身も出して確認している間に、その顔は無表情だが色はどんどん悪くなっていく。 「・・・・・・・ない」 「は?何がないんだ?と」 「シャドーフレア※2用のセットと、ポイズンブレス※3用のセットが無い」 「「・・・・・・・・・」」 「すぐに使えるように・・・あらかじめ調合しておいたものが無くなっている・・・」 「「・・・・・・・」」 「容器に衝撃を与えれば発動するように細工していたのものが・・・」 「「・・・・・・・」」 何とも言えない空気が3人の上にのしかかる。 並べられた小瓶を仕舞う 無言のまま受話器を戻すレノ 窓の外に視線を向けるルーファウス 気絶しているセフィロス 先程の焦りや緊張が、切なさよりも遠くへ消える。 この面子では初めての気まずい雰囲気に、誰も会話を持ち出すことが出来ず、結局誰も一言も話さぬまま3人は部屋を後にした。 こうして、突如3人を戦慄させた英雄昏倒事件は、英雄自爆事件と発覚し、真実が有耶無耶のまま終わりを告げたのである。 濃紺の海と空。 青い月が照らされた静かな波間。 数日に及ぶ船旅の最後の夜は、ゆっくりと更けていくのであった。 |
||
いつの間にかセフィロスがお笑い担当になっている(汗) 次はようやく上陸です。ジュノン到着です。 2006.08.25 Rika ***注釈*** ※1 調合 ジョブ薬師のLv2アビリティ アイテムの調合が出来ます。 ※2 シャドーフレア 調合の材料 → ダークマター + ダークマター 効果 → 暗黒のフレア ※3 ポイズンブレス 調合の材料 → 竜の牙 + 毒消し 効果 → 毒属性のブレス |
||
次話 ・ 前話 ・ 小説目次 |